新光暦238年4月4日午後12時28分 オラクルシップ第447番艦ジャン・レオン・ジェローム
半開きになったハッチをくぐって一行はジェロームへと上陸する
タラップを降りるとそこには大勢の船の住民とその中心に強い存在感を示す
キャストが佇んでいる、
全身がくすんだ白銀のドレイクパーツで構成され黒いラインが全体を引き締めている
ドレイクパーツ自体も迫力をかもし出すがその内面からも溢れんばかりの白銀色のフォトンが
みなぎり強い存在感をかもし出していた、
「皆さん、ジャン・レオン・ジェロームへようこそ、初めましての皆様
私がスパルタクス党党首フロリヌスです、以降お見知りおきを」
その銀色のキャストは深々と頭を下げ会釈し丁重な会釈をした、
「すまんのぉフロリヌスちゃん、面倒かけちまって」
垣屋はばつが悪そうに頭を下げるがフロリヌスはそれを制した
「今私たちがあるのも博士のご助力あってこそです、それにやつらに苦しめられた人を
救えるのは我らが喜びこちらこそ感謝いたします」
フロリヌスは威厳がある容貌とは裏腹に非常に丁重に受け答えをしている
その対応には温かさが感じられそれが多くの人々に愛され支持されている
源なのだと感じさせた、
タラップを降りて上陸したジャンの顔色が優れない、
「どうしたんだいジャンさん具合でも悪いのかい?」
「ジャンさんだいじょうぶですか?」
ラヴェールとティアはそれを察しジャンを気遣うがジャンはは声を震わせうめくように答えた、
「一つの命を救うためにここまで必死になれる等そう容易くできるものではない
私はこんなにも真心のある良い人々を疑っていた自分が恥ずかしい・・・」
体を震わせ今にも涙を流さんばかりである
フロリヌスはその言葉を耳にすると少し歩調を早めてジャンに近づき
うつむくジャンに優しく声をかけた
「ジャンさん初めましてご高名は聞き及んでおります、どうぞ御気になさらないで下さい」
「悪いのはあいつらだ気にしないでくれ!」
「あんたはいい人だ騙した政府の連中が悪いんだ!」
「疲れたでしょう?何も無い所だけどくつろいで行ってね」
フロリヌスの言葉に続きラヴェールやティア、そして他の面々にジェロームの
住人たちも口々にジャンに気にしないよう声をかける
正直な所アークスシップや平均的な生活水準の市民に比べ身なりも質素で
ややみすぼらしくすら感じるが覇気に満ち活き活きとした市民たちは
何の恥じる事もない高尚さを伺わせるに充分であった、
「みんなすまない・・・私はほんとうに恥ずかしい・・・」
いつしかジャンの頬に涙が伝い住民や仲間たちの暖かさに気持ちが熱くなっていく
もはやジャンの心に一切の迷いはなかった、真実はここにあり多くの嘘が
真心と誠意の前に敗北した瞬間であった、ジャンの思いが揺らぐ事はもうないであろう、
ジェロームの住人はジャンの下へ駆け寄り肩を叩き手を引いてジャンを船内へといざなう、
ジャンは元々善良な人物であり政府とヴォイドのプロパガンダを鵜呑みにしていた
だけの事であったのだ、しかしその誤解は解け仲間としてジェロームへ上陸したのである、
そしてスゥリン、パティ、ティア、ねねがジャンに続き上陸する、
すでに着艦したカドゥケウスからねねの母ユキノとお供のナターシャとステファニーが
降り立って一行を待ち受けていた、
「母しゃまぁ~っ!」
「ねねさんっ!」
ねねは周囲にかまわずユキノの元へ走り寄り抱きついた
「お嬢様がんばられましたね」
「偉いわねね!」
ユキノとステファニーはねねの無事に安堵しねねのがんばりと労をねぎらう
アルニム家の面々は再会を喜び今までの疲れが吹き飛んだかのような喜びようである、
「さぁお嬢さんたちも中で休んでくれ」
「わらわはおなかへったのじゃーなにか食べたいのじゃー」
「あるよあるよ食べたい物言ってみなたらふく食べさせるからよ」
パティとティア、そしてスゥリンは横目で少し羨ましげに喜ぶねねを見守りながら
住民にいざなわれジャンに続いて船内へと歩みを進め
図々しいスゥリンはさっそく昼食の要求をし住人たちは笑顔で応えながら共に
船内へと消えて行った、
その後ろをボロボロになったテツとシンジュクが続き
「テツさんずいぶん派手にやられましたねパーツの入れ替えしなきゃですね」
「うん新しいの頼むよ左腕と外板がもうだめそうだ」
ジェロームの住人にいざなわれそれぞれが休息をするようにすすめられたが
垣屋が動く様子を見せないので後で共に行くと告げその場に留まった、
垣屋は最後に皆が降りた事を確認し自らも降りようとし始めたが
モモラーノの事が気になりツシマ船内で緊急手術を行う医師たちの元へ
足を運ぶ事にしテツとシンジュクも後に続いた、
垣屋の姿を認めると医師団長が垣屋を探していたらしくすぐに呼び止め
現状の説明を始めた
「モモラーノさんの件ですが残念ながら・・・」
「ダメだったのか・・・・?」
垣屋たちの顔が一瞬青ざめた、ここにきてだめだったとしてもおかしくない状態であったからだ
しかし最後まで聞かねばとつとめて冷静になって話の続きに耳を傾ける
「まともに残っている部分は首から上だけです、クローンボディーの生成も可能ですが
全身を初めから培養して作らねばなりませんから出来上がるまでに最低でも2ヶ月はかかりますね」
「この状態じゃそれまで持たんのぉ・・・うん絶対無理じゃな」
「はい、ですのでそれまでは臨時にキャストへの転換手術を行いご本人を交えて今後どうするかを
相談する方が良いかと思います」
垣屋は最もであり一番現在の不味い状況を改善できると踏みその意見に独断で同意した、
「そうじゃな・ボディーの銭はワシが出すから本人の心のダメージが和らぐよう
できるだけ元の体に近いヤツを用意してくれぃ!銭はいくらかかってもかまわん」
「分かりました本部に打診します」
垣屋は早速自費でのボディーの提供を申し出て医師団長はボディーの取り寄せを
ヘスティア慈善事業団の本部に打診し始めるとその横から
ボロボロの鉄の塊のようなテツが割って入り
「じゃ俺の新しいボディーも頼むよ、そうだねえ~グァルディセットがいいね!
金は源さんが払うからいくらかかってもかまわ・・・」
ゴキィィィィン!凄まじい金属を殴りつける音が船内に響き渡り
テツのボロボロになったディスタヘッドが凹字に変形しはがれかけの塗膜が
はがれて宙を舞った、
「厚かましいぞボケェ!いくらするとおもっとるんじゃ!」
「・・・ディスタセットで・・・いいよ!」
テツは不本意そうにうめくように言った、人の不幸への補填に便乗し高級なボディーに
乗せ変えようとする悪の企みは厳格なる正義の元で潰えたのであった、
「垣屋博士、モモラーノさんとテツさんのボディーは当シップで作った物ですが
こちらでご用意いたします、
今からヘスティア様へ注文となると時間がかかりますから少しでも手術が早く終わるよう
是非こちらのパーツをご利用下さい、
先生早速手配いたしますのでこの方の詳細なデータの提供をお願いいたします」
いつのまにか背後にきていたフロリヌスとその副官の声に垣屋たちは驚く
ベテランの上級アークスにすら感じさせないほど気配を消して真後ろに来られる
人物はそういるものではなく驚くのも無理のない事であった、
フロリヌスは医師団長と垣屋から仔細名情報を受け取るとすぐに
副官に伝え彼は言われるまでもなくすぐにボディーの製造班に連絡を取り
同時に手術に必要な機材や医師をすばやく手配して手術が円滑に進むよう最上の対処で
応えた、
そしてテツがほしがっているパーツも垣屋が横から文句をつけないよう端末から
アイディスプレイを使ったチャットで聞き出しこっそりと注文する
心遣いを見せた、もっともグァルディセットだけでなくグルマイカセットまで
要求する図々しさに苦笑したがほとぼりが冷める頃
垣屋の端末にそっと請求書が送られてくるのだがそれは少し後の事である。
「垣屋博士と皆さんもお疲れのはずですからあとは私たちに任せて少し休んで下さい
何かあったらすぐ連絡します」
医師団長は垣屋たちにねぎらいの言葉をかけ、それを察して自分達の用がない事を悟り
フロリヌスに案内され用意された部屋へ向って歩き始めた、
新光暦238年4月4日午後7時31分 オラクルシップ第447番艦ジャン・レオン・ジェローム
耳元でかすかに通信機の音が聞こえる、正直を言うと疲れているので無視したいのが
今の本音である、
しかしそれはアークスの性なのか朦朧とした意識を振り払い目を覚ました、
「はいよ何かね」
垣屋は寝ぼけた声で応答すると通信の主はフロリヌスであった、あいかわらずも威圧的な
見た目とは裏腹な丁寧な対応は変わらない、
「垣屋博士お休みでしたか申し訳ありません、実は御疲れの所大変心苦しいのですが
会食を交え状況の報告と今後の対応について8時より軍議を開きたく思います」
「至極最もじゃよ、こっちも急ぎ情報が欲しいだろうに休む時間をくれてありがたい」
「実は明日までじっくりと休養を取って頂きたかったのですがヘスティア慈善事業団の長
ユノー様からできれば今日中に状況を把握したいので軍議を開いて欲しいと
要請がありまして急ぎこちらへ到着されました、御疲れの所申し訳ありませんが皆様共々
ご参加下さいよろしくお願いいたします」
「へぇ~あの引きこもりが外へ出てくるなんて珍しいのぉ、指定時間にはそちらへ
行くよぉ、こっちも皆に知らせたい事があるからの」
垣屋は了解した旨を伝えると状況の整理を始めた、フロリヌスの案内で個室に通された後
ジャンから借りたゼルシウス製の刃とその内部に付着した血液からのゲノム情報の採取
そしてハドレットと呼ばれたドラゴンモドキのゲノム情報の解析を初め
機械に解析にかけたまま居眠りをしてしまった、と状況を整理して頭をかいた
「やれやれ解析中に居眠りとはワシも学者失格じゃな・・・」
機械を見るとすでに両方の解析は既に終わっており、ゼルシウスの刃を用いていた
暗殺者を気取る少女のゲノム情報に近しいと思われる人物が数名ピックアップされた状態で
ディスクと電子書類に書き込まれて状態で支持待ちをしていた、
垣屋は急ぎ解析データに目を通し群議で発表できるよう簡潔にまとめると
時計を見て軍議まで時間が余りない事を知ると急ぎ部屋を出てフロリヌスたちが待つ
軍儀の間へと足を運んだ、
軍儀の間に向う長い廊下の途中でジャン、パティとティア、スウリンにねね
そしてアルニム家の面々が次々に合流し一行は目的地へと向うが皆疲労の色は隠せない
とかく探索組みは凍土で極度の寒冷に晒された後このような運びになり
より疲労の色がにじみ出ていた、
鉄くずと言う形容がふさわしいテツははげた塗膜をハラハラ落としながら
歩く姿は見ていて痛々しい物があったが当のテツはいつものチョコバーを
ほおばりながら歩いていて悲壮感は感じられない、
もう少しすれば人の金で買った高級なボディーが届くからである、
「テツちゃん今から会食あるんだからチョコバーやめときなよ」
「今回は話が長引きそうだからね、チョコバーは別腹だから大丈夫!」
シンジュクがテツを諭すが、軍議が終わった後だろうからいつになるか分からないと
テツは譲る気はなさそうだ、
「テツちゃんおいしそうなのじゃっ!頂戴頂戴っ!」
「こら勝手に取るなよ俺のだぞ!」
ねねとパティスゥリンがテツの手から勝手にチョコバーを奪い取り
むしゃむしゃと食べはじめる
「まぁいいや・・・(後で源さんのツケで注文しとけばいいや)」
チョコバーを食む音と共に一行はフロリヌスが待つ軍議の間へと進む
目の前に重々しい大きな扉があり入り口を固めているジェロームの兵士たちが
笑顔で歓迎の意を示し中へ入るように促した、一同は礼を言うとテツは兵士に
「会食ってさ北京ダックでる?俺今あれが一番食いた・・・」
「北京ダックですか?食べたいなら料理長に言っときますよ」
そう言った途端ガツンと言う金属を叩く音が響くとテツの頭はさらにへこみまるで
ジャガイモのような様相に成り果てていた、
「いい加減にしろぃ!宇宙に捨てるぞこのポンコツ!」
「いてぇなぁ~ある物たのんだっていいじゃんよ」
「ちっとは遠慮ってモンを覚えろ連れて歩くのが恥ずかしいわい」
垣屋は拳がヒリヒリするのをひた隠し開かれた軍議の間の扉を超えて一行は中へと進んでいく
余計な装飾を一切廃し質素ではあるが威厳が感じられる内装に長イスが並べられ
年季の入った木製の大型のテーブルが並べられている、
既にほとんどの参加者は集まっており奥まった席にフロリヌスが座り隣の席は空白
そして垣屋たちが座る右奥側の席は一行が座る事で埋まり
左側の数席がいまだ空白になったままだ、まだ後に参加者が来るらしい
「皆さんご足労感謝します、ユノー様と連合艦隊の司令官が見えられれば
全員そろいますので今しばらくお待ち下さい」
フロリヌスは皆が出揃うまでは待つのでゆっくり座って待つようにと促した、
垣屋たちが席に着くいて少し経った頃再び扉が開き入ってきた人物を見て
一同は注目する、
年の頃は見た目に30代前半くらいだろうか光沢が強い絹のようなる金髪を束ねあげ
月桂樹を模した冠をかぶり今から4000年近く前にテラのギリシアと言う国の女性に
愛好されていたドリス式キトンという白い内衣をまとい白金に彩られたロッドを持つその姿は
整った美貌と相成りギリシャ神話の女神を彷彿とさせるが時代遅れを通り越した佇まいであり
その場だけ空間が止まったような雰囲気さえ周囲に与えた、
医師団長と似通った服装をした二人の侍女を引き連れフロリヌスはそれを席から立って迎える、
「ヘスティア慈善事業団長ユノー様この度はご足労を頂き感謝します、私がスパルタクス党
党首のフロリヌスです」
右腕を胸に置き丁重に頭を下げるフロリヌスにユノーも静かに頭を下げて応え
「フロリヌス様お会いできて光栄です、今までに幾度も当事業団を救って頂きながら
長らく正式な感謝を伝えられず申し訳なく思っています」
と互いに挨拶を交わすとユノーはフロリヌスに手を差し伸べ互いに硬く握手をして
席を勧めあい着席した、
ユノーは周りに目を向けるとまずはユキノとねねに声をかけ
「ユキノ、ねね、この度の事よくやってくれました・・・苦しむ人々を一人でも救うのが
私たちの役目、感謝します」
ユキノとねねはなぜかユノーには頭が上がらないらしく頭をかいて謝意を受け入れている
そして次に垣屋の方を向くと
「垣屋博士・・・ご無沙汰しております、以前に会ったのはいつだったでしょうか・・・」
「ユノーちゃん久しいのぉ、確かエルダー戦争の時一緒に六芒のバックサポートパーティーとして
以来・・・いやエルダー戦争戦勝20周年式典の時だからちょうど20年ぶりじゃないかの、
しっかしいつまでたっても浮世離れは変わらんのぉ」
周囲が小さくどよめく、アークスは任命の下限年齢が16歳でエルダー戦争は40年前の
出来事であり若く見てもおおよそ60歳近くキャストでもないにも関わらず
とてもそのような歳に見られなかったからである、
「垣屋博士、積もる話は後に致しましょう軍議に来たのを失念していました」
ユノーは再び静かに端座するその静かな物腰と微動だにしない姿はまるで着色された
石像のようであった、
そして再び扉が開かれ二人の人影が部屋に入ってくる
一人の男性と背の低い女性のようだ、男性は引き締まった細身のシルエットに
太くまとめた長いドレッドヘアーにミラー加工の利いたサングラスをかけ
どのような目かはうかがい知ることは出来ず、
ラークバルバトスと呼ばれる海賊をイメージした服の上着だけをまとっている、
問題とされた箇所は上着の下の出で立ちであった
その下は赤い締め込みの利いた六尺ふんどし一丁で全く無駄がなく引き締まった
ギリシャやローマの彫刻のような完璧な肉体美と無駄がなく均整美に
溢れた体をこれでもかとのぞかせている、
一方の女性は小柄で細身ながらも真紅の海軍士官を思わせる制服をまとい
寸分も狂いのない見事な着こなしである、
履いている黒いタイトブーツは鏡のように磨き込まれている
制帽を深くかぶっていて顔は窺い知れないが黒い髪がのぞき
清楚な雰囲気も同時に伝わってくる、
ふんどしの男が口を開く
「ごめんなさぁ~い遅れちゃってぇ~ヴォイドの艦船、全部分捕ってきたわよ♪
中がねぇ兵器や物資でもぅぎっしりもちろん全部頂戴しちゃったわ♪」
やや甲高いオカマ口調に再び初見の者たちは小さくどよめく
横にいた士官服の女性が口を開く
「ほらお兄ちゃん馬鹿な事言ってないでさっさと席に着きなさい!」
「んもぉ~う分かったわよツンデレなんだからん」
そう言うと兄と呼ばれたふんどし海賊はテーブル越しにダイブして指定席に
飛び乗って着席した、
オカマで赤ふんの兄を横目に妹の仕官服の女性はフロリヌスに敬礼し
「党首への報告!作戦任務成功!連合艦隊敵艦船4隻全て拿捕し帰還しました!」
フロリヌスは報告を聞くと
「ヒツジさん羊子(ようこ)さんならびに皆さんご苦労様でした、こちらの損害と
後は敵兵はどうしましたか?」
の問いにイスに座り前後にぐらぐら揺らした兄が答える
「こちらの損害は0、ヴォイドの連中は全~部、宇宙空間に捨てたわよ♪」
まるで外にゴミを捨てに行くように事も無げに言ってのけた
「困りますね・・・軍議が終わったらそのゴミを片付けてオラクルの外に
捨ててきてください目障りですからね」
フロリヌスの言葉にはヴォイドの兵士を語る下りに強烈な殺気と侮蔑
尖った感覚のフォトンが一瞬渦巻き周囲が一瞬で引き締まる、
「だそうよ・・・ごめんだけどあのゴミまとめて外宇宙に捨ててきてくれる」
「了解しましたすぐに出撃します」
羊子は断りを入れ部下に連絡し宇宙空間に投げ捨てたヴォイド兵をすべて回収し
オラクル外へ捨ててくるように指示を出した、
「皆様揃われたようですね、でば軍議を始めましょう3日に分けて行いたく思います」
フロリヌスは起立し威厳ある声で軍議の開催を宣言した、
軍議が始まる、先立って各々が誰であるかを明確にする為に名前と所属を
それぞれが紹介し互いの理解を深める事から始まった、
そしてねねの番が回って来て予想通りの波乱が起こる
「妾は垣屋博士の妻ねねなのじゃっ!よろしくなのじゃ!」
元気に自己紹介すると周囲からどよめきが起こる、長年家庭を持たず独り身であった
垣屋がいつの間に、こればかりはフロリヌス、そしてユノーまでが目を見開いている
「奥さん・・・ですか?・・・まだ子供のように見受けられますが・・・
いやいやこれは失礼・・・・博士いつご結婚されたのですか?」
「勝手に妻になるんじゃないの!」
「このバカ!」
垣屋とシンジュクがやおら立ち上がりねねの頭に拳が振り下ろされ
一度に2つの拳骨を振り下ろされたねねは悶絶するのを尻目に妻であることを垣屋は否定した、
こうしてねねのつまらない偽りは正義の元で打ち砕かれたのであった、
「博士も隅に置けませんね老いて尚盛んとはこの事ですね」
「ねねも年頃になったのですね、しかし相手は選ばなくてはなりませんよ」
「まったくもぅ・・・まだ諦めてなかったですのこの子は・・・」
フロリヌスとユノーは苦笑い、ユキノは額をハンカチでぬぐいながら悶絶するねねを
にらみつけている、
そして自己紹介の終わろうと言う時に一人の男性の紹介の番になるが
テーブルに顔を押し当てたまま微動だにしない
制帽が前に転げ落ちはげた頭にどことなく貧相なヒゲ面が哀愁を誘う
フロリヌスは状況を理解して皆に伝える、
「彼の紹介は私が、輸送船ツシマのレオニード・ヴァラーキン艦長、今回の
モモラーノさん救出作戦一の功労者です、どうぞ暖かい拍手を・・・・」
「うへ・・・・うへへへへへへボクのボクちんの船うへへへへ・・・」
フロリヌスは消沈したヴァラーキンを少しでも労わろうとつとめ
一同から惜しみない拍手が送られるがヴァラーキンは気味の悪い笑い声を上げるだけで
テーブルから顔を上げることはなかった、
フロリヌスが言葉を続ける
「実は残念な事にツシマは損傷が激しくやむなく廃船に決まりまして・・・
あの船は彼のおじいさんが新造してからずっと使い続けていたので
色々な思いが詰まっていたのでしょう、
やはりショックが隠しきれなかったようでこのように・・・
皆様どうかお気を悪くされませぬようお願いいたします」
「すまんのぉ・・・・ワシらのせいじゃ、さすがに型が古すぎるから同じのは無理じゃが
新しい船はワシが手・・・」
垣屋が皆まで言おうとした時イスの背もたれをテーブル側に回してロデオのように激しく
前後にパタパタさせていたヒツジがそれを遮りその場から高くジャンプすると
ヴァラーキンの後ろに着地し背中を前後に揺さぶる、
「ちょっとお兄ちゃん軍議なのよちゃんとしなさい!」
妹がデリカシーのなさを咎めるがその跳躍力は余程のアークスでも弾き出せる物ではなく
熟練のアークスたちは無言であれど目を見張った、
「かわいそうなヴァラーキンちゃん♪元気出しなさいよぉ~、わたしが代わりに
さっき分捕ってきたヴォイドの高速艦一隻あ・げ・る♪」
ヒツジは気前が良いらしく先ほど鹵獲した最新鋭の高速艦を彼に進呈することで
元気付けようとしその鷹揚さと度量の広さに周囲から感嘆の声が上がる、
「フロリヌスちゃん羊子ちゃんいいわね?」
「うんおにいちゃんと頭領がいいなら私はかまわないわ」
「すばらしい配慮ですね私も依存ありません」
ヒツジは二人に同意を求めるとフロリヌスと妹の羊子も迷う事無く同意し
航行しているのが不思議なくらいのオンボロ船から最新鋭の船が贈られても
彼の反応は変わる事はなかった、
人には例え古かろうが効率が悪かろうがいてくれる事こそ最高たる心のより所になる物がある
彼はお金で賄う事ができない物を失ったが、仲間の温かい思いが詰まった新しい船で
やがて再び星々の海を航海するのだろう、
「無理をして出ていただいたのですが・・・これ以上は無理ですね・・・」
フロリヌスの隣に控えていた副官であり政治補佐官でもあるミツヨシは医療班に
連絡を取ると程なくして医療班が会議室に入ってきてまるで死後硬直のように
座った姿のまま動かないヴァラーキンをストレッチャーに載せると軍議の間を出て行った、
「かわいそうねぇ~ん、電気ショックとかしてあげたほうがいいんじゃないかしら」
羊はメディカルセンターにヴァラーキンを運んでいく医療班に声をかけるが
「お兄ちゃん!」
隣にいる羊子は兄を怒鳴りつけ医療班の隊員もものすごい目でにらみつけている
「フゥ~こわいこわい」
ヒツジがおどけて見せると羊子は手に持った黒いリモコンのスイッチを入れると同時に
「ギャッ!」
と声を上げヒツジはギリシャ彫刻のような全身をのけぞらせる、
首に巻かれていたベルト状の物はどうやら電気ショックを首に送るものらしく
兄を制御するために妹が付けている様だった、
「いい加減にしないともっと電圧上げるわよ!」
「はぁ~い分かったわよんもぅっ」
妹に叱られしょぼくれた姿でヒツジは自分の席に戻って行った、
自己紹介が一通り終わると今回の件での事情と状況説明が求められ
垣屋がその説明をする事となったがゼルシウスの刃とドラゴンモドキのゲノム解析に
夢中になり状況説明のために作る予定であったダイジェスト版の映像を
うたた寝したために作るのを忘れたことに気が付いた、
「いっけねぇ状況説明の映像間に合わなかったわい・・・」
それを少し離れていた席から見ていたティアが遠慮気味に手を挙げ、
発言が認められるとティアは起立し、
「実は今まで色々あったので細かい所までレポートがまだできていないんです、
私が作ったので分かりにくいかも知れませんが簡単にまとめてみました」
垣屋の顔が明るくなる
「さっかすがティアちゃんじゃの、せっかくじゃティアちゃん今回の件
皆への解説頼めるかの?」
「えへへ・・・そんな」
ティアはほめられたためか少し顔を赤らめるととなりに座っていたパティは
席を立ち
「さっすがティア!作るのを指示したお姉ちゃんは鼻が高いよぉ!」
と腰に手を当てふんぞり返る
「何もせずに寝てたくせに偉そうにすんなバカ姉」
と速攻で本音をぶつけられパティは飛びのき周囲から苦笑が漏れだす、
ティアは映像をまとめたディスクの再生の許可をフロリヌスに求め許可されると
マグからケーブルをつないでそれぞれにモニターに自らがまとめた映像を送り
マイクを取ると解説を始めた、
本日新光暦238年4月4日 私たち一行は凍土に新規に参加する隊員への随伴と
地域の調査及び原生生物の調査に向う、途中ダーカーの大群による襲撃を受けるも
これを垣屋博士が以前飼育していた原生生物と共に撃退・・・・
ティアの簡潔で的確な解説と彼女のマグを通し録画された映像を元に巧みに編集された内容で
参加者は容易に状況を理解する事が出来た、そしてスガッキーノらがモモラーノを
自らの拠点から連れてきて強制的に戦わせようとし反抗されたため虐待を加えた旨、
そしてスパルタクス党への救援要請と今に至るのでの経緯が
証拠映像が添えられ、点でしか理解できていなかった人々にも線でつながり理解するに
充分であった、
「・・・どこまで命を侮辱すれば気が済むんだ!ルーサーっ!」
フロリヌスはいつのも紳士的な態度と裏腹にテーブルを拳で叩き体を震わせ怒気をはらんだ声で
叫んだが、一呼吸置いて周囲に詫びるといつもの彼に戻った、
「すいません取り乱しまして」
「フロリヌス産さんルーサーって・・・誰ですか?」
事情が掴めていないティアから逆に質問を受けたフロリヌスは再び口を開く
「そうですかお嬢さん方は知らないのですね、ルーサーというのはヴォイドの
最高責任者で普段は総長と呼ばれています、ルーサーは少なくとも
光歴の始まる頃には生存が確認されヴォイドを巨大組織に成長させ
オラクル中央政府を傀儡として影で支配しているのです、
言わばこのオラクルの全ての元凶といっても差し支えはありませんね
今回のモモラーノさんの件でももちろんルーサーが絡んでいるでしょう
ただ今出すべきでない生物兵器をこのタイミングで出してきたのはヤツの
指示ではないと思われます」
とティアに説明した、
そして非道な人体実験や強制労働、全ての組織への恐怖支配の元凶であるとも、
これは若者達だけでなくオラクルのほとんどの住人が知らぬ事実であった、
「(これは知らなかった、情報屋として頭に叩き込んでおかないとダメだわ
しかしあまりにも危ない情報なのは確かね・・・)」
ティアは殺気と怒気を孕んだフロリヌスやジェロームの住人の動向から
何かしらの因縁があるのだと察したがそれ以上聞く事を自制した、
彼女は情報屋パティエンティアの大黒柱である、だからこそ情報の内容に
注意を払わねばならない事を馬鹿な姉と違って良く認識していた、
情報屋とは何でも情報を仕入れて代価と引き換えに情報を提供する物だが
自分たちが扱うに余る物、身の安全に関わる物に手を付けない事も
求められる、
人類の歴史が始まってこの方それを怠り身の破滅させた情報屋は挙げれば
きりがないのは知っていた、
彼女は命の危険やリスクを犯す綱渡りのような稼業は相方がパティである事からも
初めから無理であるので無難で細く続ける事が最良と判断していた、
ここで取るべき情報か判断もできない時に後戻りも出来ない暗部まで話させてしまうと
馬鹿の姉の耳に入も入る事になる、彼女の事だから余計な所でぺらぺらと
しゃべり拡散されることで身の危険が起こる事も考えられ
最良の方法とは今は相手にそれを話させぬ事であり後に必要になれば
再び聞けば済む事であった、
「ティアちゃんご苦労さんじゃ、たて続けで悪いんじゃがナベリウスから
ここまでの間に襲撃してきたヴォイドの暗殺者の出来損ないとドラゴンモドキについて
ワシから説明させてもらうのぉ」
垣屋はまとめた解析結果を手に取り席を立つと
「フロリヌスちゃんちょいと映像流すから借りるでよ」
そう言うとフロリヌスの返事も待たず端末をケーブルにつなぎ
各自のモニターへ映像を流し始めた。