新光暦238年4月5日午前8時00分 オラクルシップ第447番艦ジャン・レオン・ジェローム
軍議の間
軍議に参加する全ての者は席について開始を待っていた、
フロリヌスは時間が来た事を時計で確認すると二日目の軍議を始めると宣言した、
まずはカドゥケウスの医師団長が発言を求め認められるとモモラーノの
経過報告がなされる、
「モモラーノさんのキャスト転換手術は無事成功しました、身体的には明日にでも
動く事は可能であるが本人の精神ダメージがどれほど残っているかは不明です
今の時点ではそちらが問題ですね・・・意識が戻られるまでどの程度の
精神ダメージがあるかは何とも言えません、」
「そうですか・・・どうであろうと私たちがこれからは守って行きます
ご苦労様でした」
身体部分の巨大なロックベアの体は全体保存するにはあまりにも大きすぎるため
やむおえず焼却処分にした事を報告した、
皆はそれを聞いてひとまずは安心し、ヴォイドの悪事の生き証人であるモモラーノが
オラクルに戻ると再びヴォイドや政府に狙われるのは必定であるため
迂闊に手出しが出来ないスパルタクス党の本拠地であるジェロームにて市民権と住居、
生活の保障をする事が決まり全力を尽くした医師団とフロリヌスの寛容さに惜しみない
拍手が送られた、
フロリヌスが統治するスパルタクス党の勢力化である400番代のアークスシップは
形式上はオラクル政府の一翼を担っているが
実際の所は既に政府の力と干渉が及びにくい治外法権エリアに近く
オラクルに頼らずとも自活が可能な上アークスと軍部に劣らぬほどの軍事力を
蓄えつつあり、リスクを恐れる政府とヴォイドが迂闊に手出しできないほどに
勢力を伸ばしつつあった、だからこそモモラーノやオラクルから追放され
冤罪を着せられた人々を受け入れる事が可能なのである、
次にフロリヌスから皆への報告として発言を求め認められると
昨日の課題に関する報告が始まった、
「解析班から解析結果が送られてきましたのでご覧下さい」
それぞれのモニターにクーナのライブで歌う姿が映し出される
彼女のたった2曲しかない貴重な持ち歌の一つ「Our Fighting!」である、
歌が始まると同時にその下に解析結果を伝える画像が添付され
皆が分かりやすいように配慮がなされている、
そり解析結果を見て皆が昨日持つに至った疑問が氷解するのを感じた
画像の所々に一瞬別の画像が割り込みメッセージが飛び込んでくる
「考えるな彼女に従え」「彼女の言葉は絶対だ」
「逆らう事は許されない」「逆らう者には死を!」
そして音声の中にも人の耳で認識しづらい波長で同様のメッセージが混ぜ込まれ
明らかに洗脳を意図した物が伺えた、
「ステファニーさんとスゥリンさんの仰られたとおりですね」
フロリヌスはそう言うと不快な表情を浮かべて映像を止めた、
「こりゃ露骨だねぇ~サブリミナルと脳波に働きかける洗脳電波の二重洗脳かぁ~」
機械工学に詳しいテツは真っ先にクーナの歌に込められた仕込を見破り言った、
「解析班の言うにはまだ試運転のような物で今後はヴォイドや政府、アークス上層部の
都合の良いプロパガンダを聴衆に流し込みシビリアンコントロールを
していくだろうとの事です、早めに気付いて良かったと言えるでしょう」
フロリヌスは安堵も交えて報告の締めとした、
「言う事を聞かない悪い子が増えたからやつらも必死なんだろうさ」
シンジュクがおどけて言うと周囲からどっと笑いが起こった、
「気付く引き金になってくれたモモラーノさんには感謝だね・・・
そうでなければ見逃すところだったからね」
ラヴェールは自分の諜報活動が不完全であった事を皆に詫びたが
周囲は気にせぬようにと気遣いを見せた、
「なるほど洗脳されたファンを増やして最終的にはオラクル全体を思い通りに
コントロールしようと言うわけか・・・・・
しかし洗脳された市民やアークスが増えるとなかなかに厄介だな」
ジャンの言葉にフロリヌスが答えた
「いずれは攻撃目標など具体的な洗脳が入るでしょう、市民には手出しがしづらいですし
アークスを敵に回るとやりづらくなります、また勢力下にある市民の皆様が洗脳されると内部から
突き崩される可能性も否定できません、
実力行使では向こうも無事では済みませんから裏で手を回して私共を
自滅させオラクルの独裁を取り戻そうとしているのでしょう、小賢しいやり方です」
そして次にユノーが口を開く
「多くの方々が視聴できるわけですからこのまま放置するとダーカー因子を
植えつけられたエネミーのように増えて面倒ですね・・・
早急な対策が必要でしょう、さりとて見るなと言っても皆が聞くかどうか・・・」
「ひとまずこの洗脳が拡大しないようにしないとだね、だからと言って今表立って
公表するには早いと思うから機会が来るまで何らかの妨害と無効化をしなきゃいけないね
洗脳をフィルターでシャットアウトするなりジャミングして効きを悪くするとか
方法は色々あるよ!」
テツはクーナの洗脳をユノー共々食い止める事が大切と主張した
フロリヌスをはじめ一同は同意し洗脳電波の防御と妨害工作はテツも加わることで
「クーナ洗脳作戦対策本部」を創設する事が決まり
ここに新光歴の歴史で語られる事がほとんどないヴォイドと政府に対する
反体制連合との市民洗脳作戦を通す側と遮る側の戦いが始まる、
「テツさんが加わると頼もしいですね、軍部にいた頃を思い出します」
フロリヌスはテツの事を以前から知っているようだった、共に軍部に属していた事が
あったのだろう、しかしテツはそれにあまり触れたくないらしく
フロリヌスの懐かしむ言葉にあえて返事を返さなかった、
アークスとしてまた諜報員としてオラクルに潜入している諜報員にクーナの動向と
解析を綿密にし連絡を密に取り合う事として決議した、
そしてそれに付随してフロリヌスは今後ヴォイドや政府から何らかの離反工作や
社会的な制限による個々の弱体化を計る事が考えられるため
何かがあればすぐに連絡を取り合う事、そして資産を凍結させれられる可能性を示唆し
少しづつ資産を安全な場所へ移す様に提案した、
モモラーノの経過とヴォイドと政府による洗脳攻撃の防御に続いて
垣屋が発言を求め認められるとクーナとドラゴンモドキについて引き続き解析した
結果が報告される、
垣屋が視察に行ってている間に垣屋から結構なお小遣いをもらったティアが
「進んで」解析の手助けを申し出た
複数に分けたそれぞれの細胞に特定の刺激を与えて細胞やゲノムに変化が出るかを
実験した結果がそれぞれのモニターに映し出されていた、
その結果アドレナリンによる刺激とフォトンによる刺激で
細胞が極端な変化を見せ、急激に膨張増殖を繰り返し筋肉量の増加や骨組織の変化
遺伝子情報の急激な配列移動が見られ
自分の意思あるいは何らかの操作により戦闘力の増強やマインドコントロールで
ヴォイドらの都合の良い生体兵器として破戒活動を行う可能性がある事を示唆した、
映像で暴れるかのように急激に変化する細胞とその横にこれも急なゲノム配列の
変化を示すデータを見せられ、それを理解できないねね、パティ、スゥリン以外は
その不気味さに閉口した、
既にオラクル内に人間の姿でもぐりこんでいる同種がいることが考えられ
またヴォイドを経由して生産、あるいは生産された者の子として第二世代の
市民生活を送るデューマンにも念の為注意を払うよう促した、
「でもそれってデューマンに対する差別ではないの?」
羊子からの問いに垣屋は答えた
「ヴォイドではかねてより戦闘力と生命力に長け人類を凌駕する竜族の
遺伝子を人類に組み込む事を試みられていたんじゃが
竜の血が濃くなると能力が高いが制御しづらい不安定な生物になり
逆に低すぎると制御がしやすいが竜の性能を大きく引き出す事ができない者になり
その後者がデューマンなんじゃよ」
「じゃあデューマンはヴォイドの手の内にあるって事ですか?」
「あたりぃ~しかも鍛錬次第で最初が低性能でもポテンシャルを上げることはできるからの
ヴォイドがつぶれて初めて種族としての歴史が始まるとも言えるの」
「そう・・・なんだかかわいそうといえばかわいそうね」
と説明し、羊子は納得を得るに至った、
これに関しても諜報部の仕事が増えることになるが監視が必要で
いざこれらの竜が突発的に出て来たとしてもすぐに対処をし
被害が広がらないように存在位置の確認と市街地であるなら住人の非難や
救助に向う体勢などを作る必要があり
政府が後手後手の所をスパルタクス党が動けば勢力下外でも支持を広げる
好機になると答え満場の一致でこれらの対策も行われる事に決議した、
そしてフロリヌスは今日の軍議はこれまでと宣言すると
軍議の中身がよく理解できない、ねね、スゥリン、パティの3人のおばかは
会食の時間がやってきたことを喜びはしゃぎ
その期待以上の極上な食事が軍議の間に運び込まれて来た。
新光暦238年4月6日午前8時42分 オラクルシップ第447番艦ジャン・レオン・ジェローム
食堂
朝の食堂に高笑いが響いていた、その声は甲高く寝ぼけ眼の人々を目覚めさせるに
充分なほど食堂に響いていた、
「オォォォォォォォォッホッホッホ!いかがでございますか!私の新しい
お召し物は!」
その声の主はユキノ、言わずと知れたねねの母である、朝から何が騒がしいかと言うと
注文していた新しいお召し物が届きその仕上がりがいたく気に入ったようで
それを着て朝食を取り皆にお披露目をしていたのであった、
その服は羊子の着ていた士官服に触発された旧時代の海軍で着用されるような
制服でユキノの気に入った光沢のある白色に緋色のラインがあしらわれ
アークスでのユキノの軍部における相当階級である中尉の階級章が
肩と襟に光っている、
そして輝くように磨き込まれたタイトブーツの黒色が全体を引き締めていた、
「ご立派でございますよ奥様」
「はいはい立派立派」
ナターシャとステファニーは高笑いを続けるユキノを方や褒めかたや白けた目で
見守っている、
あまり服に興味のなく母とパイオニア一号のお仕着せで満足しているねねは
あまり関心がないらしく、スゥリンとパティ、ヒツジははやし立てて
さらにユキノの気持ちが高揚している、
「新しい服はええがテーブルから降りろバカタレが、皆まだメシ食ってんだぞ」
垣屋はテーブルの上に乗って高笑いするユキノを呆れ顔で嗜めた、
「無駄だよ源さん全然聞いてない」
シンジュクは垣屋にあきらめるように言い
「馬鹿のねねちゃんのお母さんだからねぇ血は争えない言っても無駄だよ」
テツもまた諦めて食事を口に運んでいる、
ユキノはヒツジ兄妹に船の修理代と出資をする事で艦船の扱いと戦い方を
習っている最中で行く行くは自ら艦船を駆り宇宙に漕ぎ出そうと思い
格好もそれらしくしようとひいきのテーラーに即日デザインした服を注文していた
のであった、
「んで格好がいっちょまえになったはいいがお勉強のほうは進んでるんかね?」
垣屋は何故か憔悴気味の羊子に訪ねる、
「・・・ええ進んでるというか進みすぎてるわ・・・ユキノさんって強化手術も
何もしていないヒューマンでしょ?
なんなのあの異常な記憶力と頭脳回転の早さは・・・質問攻めで私もう死にそう・・・」
羊子が言うにはジェロームに着いてから艦船の講義を始めているのだが
あまりにも覚えるスピードが早すぎ逆質問が相次いで教える本人がパンク寸前になって
憔悴しているとの事であった、
無論兄のヒツジは手伝わない、ふんどし一丁で遊びまわる事に忙しいからである、
その横で座っているパティティアの姉妹にどことなく
似ているようであった、上は無能か奔放が過ぎ下は気苦労が絶えない、
そしてその境遇から羊子とティアの距離が縮まりつつある事も感じられていた、
「まあそらそうだろうなぁ~ユキノちゃんの胸の勲章、あらオペレーター剣付き樫葉
金騎士十字章、高能力のオペレーターにしか授与されんもんよ
ここ40年であれもらってるといえば他にはヒルダちゃんしかおらんからのぉ・・・」
「どうりで・・・納得」
羊子は納得したようだった、
異常なまでの知能と情報処理能力、そしてそれ以外の部分ではとてつもなく非常識な
賢いがバカなご婦人、それこそがユキノ・マルガレーテ・アルニムという人物だと言う事を、
しかし座学はそろそろ終わり、操舵などの実技になれば
船内の仲間に任せる事もできるのであと一息と自らに気合を入れた、
皆がまだテーブル上で高笑いを浮かべる迷惑な生き物に馴れ始めた頃に
フロリヌスとラヴェール、そしてカドゥケウスの医師団長が皆のテーブルに
近づいてくる、そして空いている席に着くと
「モモラーノさん意識が戻ったよ」
「そうか!えがったのぉ」
「やったのじゃー」
ラヴェールからモモラーノが意識を取り戻したと報告があり、皆は命の峠を越した事を
喜び合った、
そして気になる容態であるが医師団長から説明があり精神的なショックは
残るものの精神疾患や強度のストレスによる精神の異常は見られないとの事で
今までの境遇から解放された事で精神状態が上向いているようであった、
一足先に知らせを聞いたフロリヌスとラヴェールがモモラーノを見舞い
ここ2日ほどの出来事を彼女に知らせ、スパルタクス党がかくまい生活の保障をするので
安心するように知らせたのであった、
フロリヌスの話が終わると彼女の精神状態が安定しているようなので
食後に皆で見舞いに行く事と決まり皆残った朝食をかき込んで食器を重ね
返却口に運んで行った、
ようやくテーブルから降りた馬鹿ユキノも連れ立って一同はメディカルセンターに向う
その道中でショップエリアになにやらステージの設置が進められていた、
「おはようなのじゃ!おじさんは何してるのかや?」
ねねは作業をしている男性に声をかけると男性は図面から目を離しねねの方を向くと
「ああ・おはよう、モモラーノさんの意識が戻ったらしいじゃないか、
色々辛かったろう・・・だから俺たちで少しでも元気付けようと思ってね
今夜7時から歓迎のお祭りをやるんだよ、お嬢ちゃんたちも来てくれよな?」
「お祭り楽しそうなのじゃー、でもぐんぎがあるのじゃー・・・」
スゥリンも祭りと聞いて期待感が膨らみ祭りに行く気満々であったが軍議の3日目
に引っかかると思うとどちらを取るかと頭を抱え悩み始めた、
「心配は要りませんよ、昨日でおおよそ議題はまとまりましたし
皆さんの席も用意しますから3日目はここで歓迎の祭りに参加しましょう」
「じゃあ決まりだな!待ってるぜ!」
フロリヌスの言葉にお子様たちは安堵し祭りに絶対行くと男性に約束した、
そしてフロリヌスが男性たちの労をねぎらう、
「ミツヨシさん昨日から張り切っちゃって、今日は盛り上がるでしょうね
こんな事でモモラーノさんの心の傷がいえるとも思えませんが
精一杯お迎えしましょう、私たちの仲間なんですから!」
作業員の男性の顔からは真心が窺い知れその高尚な人柄に一同は好感を持ち
いとまを告げるとメディカルセンターにと向った、
メディカルセンターに到着すると看護師が表で待っておりモモラーノの病室まで
一行を案内する、彼女の病室に見舞うためフロリヌスがドアをノックしようとした時
静かにドアが開き音も立てずにユノーが口に手を当てながら
病室の入り口に立ちふさがり、存在感の薄い二人の侍女が一行に頭を下げる、
ユノーは静かにドアを閉めると
「先ほどから再び眠りに入りました・・・お静かに予想以上に容態は安定しているようです
これなら日常生活にも早く戻れるでしょう」
「そうだな無理をして起こすのもかわいそうだ、無事と分って何よりだな、
そういえば私も若い頃はいくら寝ても寝たりなくてあまりに・・・」
ジャンは再び長丁場の昔語りを始めたがユノーはジャンの口に指を当てて静かにするよう
注意を促し、
「おっと失礼した」
ジャンは迂闊だったと口をつぐむ、
「今日の所は祭りの開始までゆっくりしていて下さい」
フロリヌスの言葉を垣屋とテツが気遣いに感謝しつつ遮る
「ワシはヴォイドの生物兵器の解析を進めるの」
「俺はクーナ洗脳の妨害工作の下ごしらえだね!」
垣屋とテツは既に自らの使命を自覚しそれを果たすために持ち場に戻る事を告げ
「あたしはラヴェールの手伝いでもしようかな」
シンジュクはラヴェールの諜報活動を手伝う旨を皆に告げた、
シンジュクとラヴェールは気が合うようで過去に様々な経験を積んだシンジュクならば
彼女の助けになる事は確実であった、シンジュクはフロリヌスに
「ラヴェールの手伝いをしたいんだけど私の素性を隠すための偽造アークスカードと
偽造市民IDが欲しいんだけど都合がつかないかねぇ?
私は源さんの権限で匿われてるお尋ね者だからこのままだとやりにくいんだ」
「そうですね、それではすぐに手配を進めましょう少々お時間を下さい」
と言うとフロリヌスは数時間後には用意する旨を確約しシンジュクが
ついでに頼まれたエステの利用や換装のためのボディーの提供にも快く応じた、
シンジュクはフロリヌスに礼を言うとまずはエステで見た目を変えるために
ショップエリアに、垣屋とテツはそれぞれにあてがわれた部屋へと戻って行った、
ティアは垣屋の解析を手伝う約束をしていたため垣屋についていき
「さぁ羊子さん、講義の続きをお願いいたしますの!」
「ええっ!もう続きやるんですか?もうちょっと休ませ・・・」
ユキノはぐったりとした羊子にせっつき講義の続きをするように頼み
ナターシャとステファニーも羊子の手足をそれぞれに持ち宙ぶらりんのまま
連行するように講義室へ向い、
ねね、スゥリン、パティ、ヒツジ、そしてジャンは時間を潰すためにショップエリアへ
フロリヌスとラヴェール、そしてユノーはスパルタクス党とヘスティア慈善事業団との
同盟強化のための詰めの協議をするために軍議の間へと向っていった、
モモラーノ歓迎の祭りまでそれぞれの一日が始まる、
新光暦238年4月6日午後6時00分 オラクルシップ第447番艦ジャン・レオン・ジェローム
垣屋の部屋
モモラーノの見舞いの後、一同はそれぞれの時間を過ごす、己の勤めを果たそうとする者
遊び歩く者、新たな知識を得ようとする者、
垣屋はヴォイドの生物兵器のゲノム解析とクーナの細胞やゲノム情報から
アムドゥスキアの竜族の遺伝子を組み込んだ新たな生物兵器の全容解明のため
解析と実験を繰り返していた、
平素はチヒロが垣屋の助手として的確な補助をしてくれるが今は研究所で留守を守り
かわりに小遣いをもらったティアが助手を務めてくれている、
経験の差からチヒロには及ばないが頭脳明晰なティアのサポートで実験が滞る事はなく
徐々にその全貌が明らかになっていき、分かれば分るほどにこの生物兵器が
いかにいびつでこの世に存在してはならないものかが否応なしに突きつけられていく、
ふいに部屋のスライドドアが開き垣屋とティアはそちらを振り向く、
扉の向こうにはねね、スゥリン、パティ、ユキノ率いるアルニム家の面々に
そして見慣れない姿のキャストが二人後ろに一人前に一人控えている、
ジャンはどうした事かその場に居合わせなかった、
「だんなしゃま、そろそろお祭りの時間なのじゃ!フロリヌスちゃんが会場に来てと
言ってるのじゃ!」
ねねたちお子様衆はお祭りが楽しみなようで高揚した気分が伺え他の面々も
使命を果たせた安堵感も手伝って穏やかな表情である、
「ジャンはどうした?呼ばないとあとでごちゃごちゃとうるさいぞ
「私をあまり一人にしないほうがいい!」、とかの」
垣屋はジャンの口真似を交えながら忘れられたかと思い面々に注意を促すが
ジャンはユノーに呼ばれて行ったとの返答を受け次の言葉を続ける
「そこの二人は誰だぁ」
「俺だよ俺テツだよぉ~そしてシンジュクちゃん、ボディー入れ替えてきたんだよ」
「なんだそうかよ誰かと思ったわい、ところでテッちゃん人の金で買ったボディーの
調子はどうかね?」
「ギクッ・やだなぁ~これは俺の金で・・・」
「ええよ今回はがんばったから特別に買ってやるよ、ただクーナの洗脳のジャミング
頼んだぞあれ如何で敵の数がかわってくるし後の事も変わってくるからのぉ」
「それなら後で詳しくね!フォトン粒子にジャミング電波を絡めたのをオラクル全体
いやできるだけ広く撒いてやるんだよ、これはそう簡単には除去できないよ!」
テツの名案に垣屋の顔が明るくなる、洗脳された人間が多ければ多いほど今後の敵が増え
それらを排除すれば遺恨が残り後がやりにくくなる
洗脳をいかに防ぐかは対ヴォイドにとって最も重要と言っても過言ではない
個々の戦闘であればスパルタクス党とその支援者たちでも決してヴォイドとアークスを
相手にしても引けをとるものではないが安直に直接の殺し合いで片を
付ければ良いと言うほど物事は単純には済まないのである、
「よし・ティアちゃんちょいと手を止めるか、全てのサンプルと端末のロック
忘れんようにの」
垣屋の指示にティアは既に反応して全てのロックを終えて席を立った
そして一行は祭りの会場へと足を運ぶ
祭りの会場はショップエリアの中央で既に設営が終わりにぎやかな音楽と市民たちの
高揚した声が聞こえ、一行と同じ方へ祭りに参加する市民たちも
列に加わる、平服のままの人に混じって黒くぴったりとしたスーツに
青い法被をまとい鉢巻を巻いてやる気に満ち溢れている、
しかし礼儀正しい市民たちは高揚こそすれその場を乱す言動や行為が
一切見られない、好ましい雰囲気であった、
一行をミツヨシが見つけ手招きしている、指定の席に案内をしてくれるようで
法被に鉢巻で共に踊るつもりなのだろう
席に通されるとすでに他の面々は席についており祭りの始まりを待っている
ユキノたちアルニム家の一員とユノーとジャンは祭りの始まりを静かに見守っている、
一行を見つけ立ち上がる男性がいるツシマのヴァラーキン艦長である、
「皆さんこんばんは、先日はお見苦しい所をみせまして申し訳ありません
ツシマは祖父の父のそして私の全てでしてつい動転しまして・・・」
その席には一時期ショックで気味の悪い醜態を晒した事が恥ずかしいらしく
頭をかきながら世話をかけたことを皆に詫びた、
「こちらこそ済まなかったよ、こんな事になっちゃって」
シンジュクが艦長に詫び返す、モモラーノを救うために共に戦った戦友の復帰に
皆が喜び合った、
フロリヌスは少し神経質気味に時計を見ると席を立ちその姿を見てユノーも共に立ち
ミツヨシも後ろに続きステージに向かって歩いていく、
ステージに3人が上がると市民たちの割れんばかりの歓声が上がる
既に事情を知っている市民たちの顔には喜びに満ち溢れていた、
フロリヌスが頭を下げると礼儀正しい市民はぴたりと歓声を止め
フロリヌスの発言を待った、
フロリヌスは市民に語りかける
「親愛なる皆さん本日はお集まり頂きありがとうございます、
既にご存知の事と思いますがヴォイドの非道による被害者が勇敢なる人々により
救い出されました」
市民からの歓声が上がりフロリヌスは話を続ける
「救い出されたモモラーノさんです、彼女にはもう帰る所がありません、
彼女が今までの不幸を覆し幸せに生きられるよう皆様の力を貸してください、
皆様のその優しさを分けてあげてください、心よりお願いいたします」
フロリヌスが頭を再び下げると市民から
「俺たちが頭領の頼みを断るわけねぇだろ!」
「言うまでもないぜ!」「任せとけよ頭領!」
歓迎的な声が占め、フロリヌスが合図するとカドゥケウスとジェロームの医師団に
伴われ一人の女性がステージにおずおずと上がってきた
キャストへの転換手術を終えたモモラーノであった、
太く張り巡らされた血管に埋め尽くされた顔からすっきりとした人らしい
顔立ちに丁寧なボブカットに髪を整えられ、祭りの衣装である黒いスーツと
法被を着せられてステージ中央へといざなわれる、
少しおびえているように見えるが市民たちの拍手と歓迎の言葉に少し気持ちが
落ち着いたようでフロリヌスからマイクを渡され受け取ると
迷いながらも言葉を搾り出した、
「・・・あの・・・私・・・ごめんなさい・・・私・・・私なんかのせいで
皆さんに迷惑かけちゃって・・・」
頬に大粒の涙が頬を伝いモモラーノは言葉を詰まらせた、彼女が受けた様々に苦難
皆はそれを知っている、
「気にすんなよ!」「来てくれてありがとう!」「ようこそモモラーノさん!」
温かい歓声にモモラーノは耐え切れず泣き崩れる
「馬鹿野郎めでたい席で泣くんじゃねぇよ!」
「これからは俺たちの仲間だぜよろしくなモモラーノさん!」
そう言う市民たちの目にも涙が伝っている、スパルタクス党勢力化の市民たちも
ヴォイドや中央政府に不当に追放され全てを失ってから再び立ち上がった
人々である、安っぽい同情ではなく苦労と苦難を重ね今の生活を築いてきたのである
彼女の気持ちを真心で汲み取る事ができ
これから共に生きる喜びと彼女への労りが涙となって頬を伝うのであった、
「ありがとう・・・みんな・・・わたしこんなに嬉しい事ないよ・・・」
共に涙を流しパティ姉妹、アルニム一族、ラヴェールやユノーも
涙をぬぐい盛大な拍手で全ての人々を祝福した
モモラーノは今、第二の故郷を得て幸せを取り戻す第一歩を踏み出したのである、
そしてヘスティア慈善事業団と正式な同盟の締結が決定した事が報告され
フロリヌスから紹介されたユノーが市民に会釈をすると市民から歓迎の歓声で迎えられた、
そしてステージにジャンとパティ、ティア、スゥリンとねねが呼ばれ
スパルタクス党に力を貸す事が発表されるとこちらも盛大な拍手で迎えられた
5人は既に自らの意思でスパルタクス党に手を貸す事を決めフロリヌスに
その事を伝えていたのであった、
心強い味方と新しい住人が増え会場は喜びの熱気を帯びてきた
フロリヌスは報告すべき事が終わった事を再度確認すると
ミツヨシに目配せをした、後は任せるという意味である、
ややしびりを切らしていたミツヨシは待ってましたとばかりにマイク片手に
大声で全員に呼びかける
「OK!皆集まったな!祭りの始まりだ!」
「今日は皆で盛り上がっていこうぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
まずはこの歌からだ!We're ARKS!」
会場から違われんばかりの歓声が上がる、あらたな仲間モモラーノを迎えスパルタクス党の
市民と勇士たちの名誉と誇り、光りに満ち溢れた祭りが今始まったのである、
We're ARKS!
前を向け! 立ち上がれ! 出発だ!
時空を突き抜けたら 飛び出せ 全力Going
誰も見たことないストーリーが 僕らを待っている
胸が高鳴る方へ 飛び込め 未来へDiving
ゲートに降り立つ時始まる 最高のAdventure
くじけそうなときはどうか思い出して
ほら、頼れる仲間がいる
フォントが沸き立つ
さぁ行くぜっ!
共に駆け抜けろ Ready-Set-Go!
共に掴みとれ Ready-Set-Go!
遠い宇宙(うみ)の彼方 目指して
転んで凹んで Fighting Dreamer
それでも行くんだ Sailing Together
何度でも立ち向かう We’re ARKS
「ほれどうしたお前たち、どーんと楽しんで来い!」
垣屋はお子様たちの背中を押し祭りを楽しむように促す
「ホォ~ウ盛り上がっていくわよぉぉぉぉぉぉ!」
いつの間にか背後に近寄っていたヒツジが皆の緊張をほぐし
「ちょっとやめなさいよお兄ちゃん!」
妹の羊子は兄の暴走に歯止めをかけようと必死で以前に何かあったのだと
周囲は察する、
それを見てユキノは笑い紫色の羽扇子を出し
「私も踊りますわよ!ナターシャさん!ステファニーさん!準備はよろしくて!」
メイド服に羽扇子のナターシャとギリギリまで露出した衣装に
赤い羽根扇子のステファニーがステージへの階段に続く、
お子様たちもステージに駆け上がり踊りの輪に加わり踊り始め
テツはすでに屋台の食べ物を山積みにしてほおばり
シンジュクとラヴェールは談笑に花咲き
ジャンとユノーはなかなかに良い感じで話をしている、
そしてフロリヌスも愛する民の歓喜の姿に満足げだ
ミツヨシの歌は続く
いつか流したナミダ 輝け 明日へHurry up
夢と夢をつなぐステージだ 怖いものはない
胸に生まれた願い 煌け 一緒にJump up
心ひとつにして覚醒める 無敵のOur power
見えないゴールに立ちすくむ日も
ほら、荒れ狂う向かい風が 行き先知ってる
さぁ行くぜっ!
共に駆け抜けろ Ready-Set-Go!
共に掴みとれ Ready-Set-Go!
遠い宇宙(うみ)の彼方 目指して
転んで凹んで Fighting Dreamer
それでも行くんだ Sailing Together
何度でも立ち向かう We’re ARKS
共に駆け抜けろ Ready-Set-Go!
共に掴みとれ Ready-Set-Go!
遠い宇宙(うみ)の彼方 目指して
転んで凹んで Fighting Dreamer
それでも行くんだ Sailing Together
何度でも立ち向かう We’re ARKS
「みんな最高だぜサンキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
ミツヨシのテンションが上がりステージはミツヨシに支配され
完全にライブ会場と化している、
一度は政府から追放されて放浪した彼であるがステージの上に立つと
その頃よりも強い輝きを見せここにきて活き活きとしている様が見て取れる、
祭りは夜遅くまで最高潮の盛り上がりを見せ続いた、
皆が一人のため持てる限りの全力を尽くした戦いに勝利し
新たな戦いへの闘志が湧き上がるのであった、
新光暦238年4月7日午前9時11分 オラクルシップ第447番艦ジャン・レオン・ジェローム
「さぁて一度研究所に戻るかね」
「もうかえるのかやー」
「スゥリンちゃんまた遊びに来るのじゃっ!」
「ええいつでも歓迎しますよ是非来て下さい」
昨日の楽しい宴が終わり原生生物研究所の面々は研究所に戻る事にした、
「ねねさん母様たちはしばらくここに留まりますが元気で過ごすのですよ」
「分かったのじゃ!」
ユキノたちアルニム一族は艦船の扱いを覚えるためしばらくはジェロームに
留まる事となった、
「じゃあ私もこっちがおちついたらフェオに向かうよ、シンジュク一緒に
仕事をしようじゃないか」
「楽しみにしてるよ」
ラヴェールも落ち着いたらアークスシップ第一番艦フェオに諜報活動を
行うために戻るとの事であった、
「それでは皆さんお気を付けてお帰り下さい」
そしてカドゥケウスも修理を終えて本拠に帰還する事になり
完全にのどをやられ、のど飴片手のミツヨシの声に送られそれぞれが帰還の船へと乗り込む、
研究所の面々は元気を取り戻したヴァラーキン艦長の「新ツシマ」に乗り込み
互いに手を振りしばしの別れを惜しみジェロームを後にした、
オラクルに浮かぶ水塞ジャン・レオン・ジェロームを拠とした
真の敵との戦いが今始まろうとしていた。