スゥリン涙するの事
新光暦238年4月7日午前10時47分 アークスシップ1番艦フェオ
「新ツシマ丸抜錨!全速前進!」
精神的ショックから回復したヴァラーキン館長の号令の下
新ツシマは試運転も兼ねて全速前進、研究所の面々をフェオへと送り届けた、
「さすがに新型の高速艦は早いねぇ~うちにも一隻欲しいくらいだよ」
テツは窓から宇宙空間を眺めながら船足の速さに満悦の様子だった
一連の騒動は表立つとヴォイドと中央政府の立場を悪くする為
高速艦が4隻も鹵獲された恥辱やヴォイド兵が殺害された事、
拉致され生物兵器とされたモモラーノの事も含め全てが黙殺され
スパルタクス党ヘスティア慈善事業団連合との間ではいつもと変わらぬ
平静が装われている、
むろんヴォイドの船であった新ツシマがオラクル内を航行する事に文句を挟む者も
おらず、新しくカラーリングされ一見ではヴォイドの船とは分からないであろう、
「お疲れ様でした皆さん、またの乗船お待ちしております」
ヴァラーキン艦長以下クルーたちの温かい言葉に送られて一行はタラップを降り
振り返り手を振ると新ツシマはジェロームへと帰還していった、
「やれやれいろいろありすぎて大変だったねぇ、とは行ってもジェロームで休んだから
研究所でゴロゴロって気分でもないね」
シンジュクは新しく入れ替えたボディーの具合を確かめながら言った
新しく換えたとは言えどことなく威圧感を感じる事には変わりない、
ジャンはユノーに招かれてヘスティア慈善事業団に先立って発っていたため別行動
一行は研究所に戻る事とした、
パティ、ねね、スゥリンが先立って幾度も歩いた研究所への道を辿っていく
そして発った数日開けただけにも関わらず5階建ての研究所が見えると
懐かしく思うのであった、
玄関に入ると戻るとの知らせを受けていたため留守居のチヒロとパイオニア一号
そしてベッコが待ち受け一同にお帰りなさいと迎える、
その顔すら懐かしく感じこの数日が如何に濃密であったかを感じさせる、
「お帰りなさいませお嬢様!パイオニア一号はもぉ~う心配で心配で
胸が張り裂けんばかりに!」
パイオニア一号は命より大事と思っているねねの無事に感激し大仰なしぐさで
ねねの帰りを喜ぶ、
「ただいまなのじゃ!母様たちもいたから心配なかったのじゃ!」
ねねはパイオニア一号に感謝を述べる、
そして垣屋は足元に何かがぶつかる衝撃を感じ視線を落とす
一行を心配していたベッコがしがみついていたのである、
「キュゥゥゥゥゥゥウ・キュゥゥゥゥゥゥウ!」
ベッコは目を潤ませ言葉こそないが心から戻ってきた事を喜んでいた
研究所で卵から孵化してから垣屋を親と刷り込まれているためその喜びようと
今までの不安から解放された事で感極まっていたのである、
「おお・よしよしベッコや、帰ったのぉ~良い子にしとったか?ほれお土産じゃ」
垣屋はアイテムパックから帰還する前に自身が指導して養殖されたニジマスを取り出し
ベッコの開いた口に滑り込ませると彼女は満足げに丸呑みにしてリビングへと走って行った、
「ラピ子は・・・・そうかまたすねてるのか、しょうがないのぉ、ところで
何か留守の間に変わった事はなかったかね」
垣屋はパイオニア一号とベッコに遠慮して待っていたチヒロに訪ねる
「はいいくつかあります、まずは獣でポン探検隊の収録が明日あるので来て欲しいそうです」
「ケッ!クソ番組!まだつぶれてなかったのか!クソ番組!」
「次にこんなメールが・・・」
チヒロはだまって垣屋のアイディスプレイにメール内容を送信した
その内容はチヒロが機転を利かすのに充分な物であった、
以前にリリーパ族の集落で悪逆の限りを尽くしたスガッキーノ隊へのお仕置きの一部始終が
何者かによって動画としてアークス専用のネットに流出しており
研究所の面々の顔にモザイクこそ入っているが誰であるかは明白で
おそらくはオペレーター部門の誰かの仕業であろう、
「そして次にジラードさんが本と資料と機材を貸して欲しいといっておられましたので
一存でお貸ししました」
「ああ・ええんよ、あいつは伸びて欲しいから好きなだけ使わせてやれ
銭が足りないならいちいち言わなくてええから無心してやれ
腹が減ってたら好きなだけ食わせてやれの」
垣屋は仲間からよく指摘される身内への甘さを露呈しつつチヒロに指示を出す、
「次は・・・」
「随分用件があるんじゃのぉ、次は何かね」
「次は博士にではありません、スゥリンちゃんを訪ねてお客様が来ていました」
スゥリンはそれを聞くと一体化しているわけでもない猫耳カチューシャをピンピン動かすと
「わらわに?だれなのじゃー?」
「若くて背の高い女性とスゥリンちゃくらいの大きさのかわいらしいお嬢さんでしたよ」
「うっ・・・・ここもバレたのじゃ・・・・」
スウリンはそれを聞いて察しを付けた様だった、そしてチヒロからその客がいつ来るのか
と訪ねると今日戻ると言ったのでそろそろ来る筈と答えた、
スゥリンはそれを聞くと急ぎ足で中へと入り自室へ向って走って行った、
「スゥリンちゃんおめかしさんでもするのかや?」
ねねはスゥリンの背中を見送りながらパイオニア一号に上着を預け中へ入っていく、
スゥリンの部屋からなにやらガサガサする音が聞こえたが誰も気には留めなかった
そしてリビングのテーブルにラピ子がでんと構えてわざと顔を横に向け
足でテーブルに載っているものを蹴散らしていたがシンジュクに
「から揚げか焼き鳥か好きなほうにしてやるぜ、自分で選べクソ鳥!」
と一喝され恐怖に駆られて屋上へと逃げて行ったがこれも日常の風景の一つであった、
「あとのパティ、ティアちゃんおめえらの部屋はここな、好きに使っていいからよ
気に食わなければ宿舎から通ってもええよ」
そして垣屋はパティとティアを下宿用の部屋に案内して必要ならこの部屋を
使うかあてがわれた宿舎から研究所に通うようにと説明した、
と言うもの垣屋はヴォイドの生物兵器のゲノム解析その他の雑務を
いち早く終わらせるためチヒロに加えてティアの手を借りる事として
それが終わるまでティアを研究所に臨時雇用する事にしたのであった
ティアもお小遣い等と言われ1万メセタもの大金を渡され情報屋家業は
相変わらずの閑古鳥で胸以外にさしたるとりえのないバカ姉を食わせなければならず
恩義と好条件にまんざらではなくその申し出をジェロームからの帰途で了承したのであった、
テツは自室に戻ると必要な機材を梱包してジェロームに向けて転送を始めている
彼には水面下で行われているクーナによるオラクルの民の洗脳作戦を
食い止めると言う一番重要な使命があり、そのためにフェオとジェロームを往復する
事が求められる、
これは敵の数を減らすだけではなく後に起こるであろう人と人との争乱による
遺恨を減らす事でありフロリヌスたちが目指す新しい世にとって
足を引く事を防ぐ意味で最も重要であった、
シンジュクは懇意になったラヴェールの諜報活動を手伝う事となり
状況によって姿を変え身分を変えて活動するため届けられた数枚の偽造の市民IDカードと
アークスカード、いくつかの姿に化けるための数種類のマイファッション登録の
確認をリビングで腰掛けながら確認している、
皆がそれぞれの努めに励もうとする中ふいに研究所に来客の報せが入り
チヒロとパイオニア一号が玄関へと向う、
二人にとっては面識のある顔で幾度もスゥリンを尋ねて足を運んでいた顔で
一人は背が高くもう一人は華奢で小柄である、
「何度も申し訳ありませんお嬢様はお帰りですか?」
背の高い執事服を身にまとい緑灰色に赤い眼をし何故か眼帯を着けた女性がチヒロにたずねる
「はい、今お戻りになられました」
「そうかー安心したぞー会わせてほしいぞー」
「どうぞこちらへおあがり下さい」
チヒロは答えると執事服の女性ともう一人の小柄な女性は顔に安堵を浮かべ
会わせて頂けないかと丁重にチヒロに申し出てチヒロも中へ二人を案内した、
そしてリビングに差し掛かろうとする時、唐草模様の風呂敷に荷物を詰め込み
背中に背負ったスゥリンと鉢合わせになりスゥリンは驚き足を止めた、
その顔には気まずさが浮かびうつむいて視線を二人から反らしている、
「ギニャッ!」
「探しましたよお嬢様」
背の高い執事服の女性はスゥリンに向かって心配から解放された安堵の表情で
スゥリンに語りかけるが彼女はうつむき視線をそらしたままであった。
「クリスティ・・・」
スウリンはつぶやくように言った、クリスティと呼ばれた背の高い女執事は
スゥリンの気持ちを察し優しい微笑を浮かべ見つめている、
事の次第を知悉している様子であった、
その後ろからもう一人の小柄の少女がクリスティを障害物のように避けて
スウリンに近寄る、背丈はスゥリンとほぼ変わらずなぜか彼女も眼帯に
見た目に不相応ないかめしい服装を着ており容貌とのミスマッチに笑いを誘う、
「さがしたんだぞー無事でよかったー」
「ブリュンヒルデ・・・探さなくて良かったのじゃ~・・・」
スゥリンはうつむいた顔を上げる事無く再びつぶやく
「どうしたんでしょうあまり嬉しそうではありませんね・・・」
「パイオニア一号さんなにか訳があるんですよ」
チヒロとパイオニア一号はただ事ではないと感じていたスゥリンは何か事情があって
この二人を避けていたのだと、
すると外から複数の足音が聞こえて誰かが研究所に上がりこんでくる
玄関を越えてリビングに向かって走り寄ってくる
「きゃっ!」「うわっ!」
チヒロとパイオニア一号は再び玄関へ戻ろうとすると黒い塊がぶつかり
チヒロとパイオニア一号は床へ尻餅をつき何が起こったのかと周囲を見回す、
その黒い塊は人であった、一人は男性でがっしりとした体格に太いカイゼルヒゲを蓄え
両サイドの髪が大きく跳ね上がりさながらさながら悪魔を擬人化したような
特長的な髪形をしている、特上のスーツを寸分なく着こなし
威厳を感じさせる佇まいになかなかの大身であると察する事が出来た、
もう一人は女性であった、目鼻立ちは整っているがどことなく地味で華やかさに乏しく
よく見ると召し物はそれらしい高価な物を着ているが
高価な召した服のほうが目立ちまるで本人はブティックのマネキンのようである、
見るからにお人よしそうでどことなく押しが弱そうなこのご婦人
目鼻立ちがスゥリンに似ており親族であろうと容易に察する事ができた、
悪魔のような髪形をしたいかめしい男性はスゥリンを抱くブリュンヒルデを
煩わしい包装紙のように引き剥がすとスゥリンの両肩を持ち目を潤ませている、
「・・・スゥリンちゃん!どこに行ってたの?パパもママも心配してたんだよ!
さぁおうちへ帰ろうね、ほんとに無事でよかった・・・・
ううっううう・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
威厳に満ちたいかめしい外見に似合わず感極まり娘を抱きしめ滂沱の涙と大声て泣き喚く
悪魔ヘアー男はスゥリンの父であり横の花のない地味女はスゥリンの母であった、
チヒロとパイオニア一号はこれで察しが付いた、
スゥリンはなんらかの理由で家を飛び出し家族に自分の居場所が分らないように
して家を飛び出していた事を、
そして家族総出でようやく探し当て父と母だけであるが涙の再会を果たした事を、
ねねの泣き声に勝るとも劣らぬ大泣きが研究所内に響き垣屋とティア、テツとシンジュク
ねねとパティも遅れて玄関へと降りてきた、
「おい!うるせーぞ!、願人坊主かお涙頂戴の乞食でも来たか?さっさと食いモンと
銭くれてやって追い出せ!」
隣で萎縮するティアを他所に垣屋は分析を始めようとしたところに邪魔が入って
不機嫌を隠さなかった、
自分のしようとする事を邪魔されると垣屋は途端に不機嫌になる、
「なんだいこの生き物スゥリンちゃんのペットかい?」
テツも自分の手が止まってやや不機嫌気味に言った
「スゥリンちゃんのご家族です、ここではなんですから中でお話でも」
チヒロはテツに返答し獣のように泣くスゥリンの父にやさしく声をかけ、ほんの少し
父より冷静なスゥリンの母は研究所の面々に涙をハンカチでぬぐいながら会釈する、
「なんじゃスゥリンちゃんの家族かなら最初からそう言えよ、つうか人の家に土足で上がり
やがって!動物かてめえらはよぉ!」
「申し訳ございません、ささ旦那様靴を脱ぎましょうね人の家に土足ではいるのは
失礼ですよ・・・」
「うん・分かったよクリスティ」
垣屋が怒鳴るとクリスティはあわててスゥリンの父母の靴を脱がせて玄関へと
運び垣屋に非礼を詫びた、
スウリンをがっしり抱きかかえはがす事が叶わずパイオニア一号とシンジュクが
そのままに抱き合った親子を客室へと案内していく
その後ろにクリスティと壁にたたきつけられたのだろう頭をさするブリュンヒルデが続き
一行は客間へと足を運んだ
「あの・・・うちのスゥリンがお世話になりましてこれほんのつまらない物なんですけ・・・」
スゥリンの母がクリスティに指図し菓子折りをテーブルに差し出そうとするが
テーブルに置く前にテツとパティが手を伸ばして引っ手繰ると包装紙が無残に引き裂かれる
「なんだよぉ~これオラクルデパートの8メセタで売ってるクッキーセットじゃんか
あ~つまんねぇ、スゥリンちゃんの家って貧乏だったのかい?無理しなくて良かったのに!」
テツは菓子折りをまるでゴミでも捨てるようにテーブルに放り投げると
「んじゃ私もーらいっ!うぐうぐおいしいねこれ!ティアちゃんおいしいよ!」
「みっともない真似すんなバカ姉!みなさんすいませんうちのバカ姉が・・・」
パティはさっさと蓋を開けて安物のクッキーを頬張る
洗練された教育を受けたテツとパティだからこそ出来た大人の社交的礼節であった、
当然の如くテツとパティに垣屋からの拳骨が頭上に炸裂するが日常の風景なので
誰も気に留めることはなかった、
ひとまず話をするに当たってスゥリンに抱きついている父親が冷静にならねばならない
その合間にチヒロとパイオニア一号は皆のお茶を用意し先ほどのけちなクッキーを
丁寧に盛り付けできうる限りの華やかな盛り付けにして皆に供した、
スゥリンの父は周囲になだめられてようやくスゥリンから離れ3人とクリスティ、
ブリュンヒルデは5人仲良く長ソファに研究所の面々と向かい合って座る
スゥリンの父は涙をぬぐい、場を取り繕おうと無意味な愛想笑いを浮かべる
けちなクッキーを土産によこすスゥリンの母ちびっこポリスのようなブリュンヒルデにクリスティ
どことなくバランスの悪そうな雰囲気が否応なしに漂ってくる、
垣屋は研究を他の面々もひとまずは自分の責務を置いておき事情を聞くこととした、
回りくどくて娘にようやく再会できた喜びから落ち着きを失った両親の滅裂な話と
それを合いの手を打つように翻訳するクリスティの話を総合すると・・・
「今から7年前のことです幼いお嬢様が家で飼っていた猫が外へと飛び出し旦那様の
車の下に潜り込んだので捕まえようと車の下に潜り込み、それに気付かなかった
旦那様が出かけるために車を発進しまして・・・車の下にいたスゥリンは体が引っかかり
そのまま引きずられ気付くのが遅れたため気付いた時にはもはや体の治療が難しい状態となり
キャストへの転換手術で命が救われました、
お嬢様の姿は当時のままなので今も年に似合わぬ幼い姿なのです」
「頭の中は充分年相応だったよ、違和感0」
シンジュクはからから笑うとスゥリンはにらみ付けて来るがすぐにしゅんとなった、
それからは両親がまるで腫れ物でも扱うかのようにスゥリンを病的にちやほや
するようになりスゥリンはそれが嫌で耐えられずアークスの養成所に入り
それでも頻繁に顔を出す両親に会うのが嫌であてがわれた宿舎の部屋を
使わずにあちこちを放浪していた事、
そして事情を知りスゥリンが選んだテクターという職の指導教官であったバルバラが
心配して保護者となり彼女を原生生物研究所に押し付けいや託し
今に至ったのである、
「なるほどねぇ~そりゃ親としては引け目は感じるよねぇ~」
シンジュクはけちなクッキーを口に入れると一口でうんざりしたのかくずかごに
ペッと吐き出しお茶を口に含み口の中に味が残らぬようお茶で口をゆすいだ
きれいに盛られたにもかかわらず誰も手をつけない残ったクソクッキーを
ベッコとラピ子とパティが奪い合っている、
一つの物を平和的に分かち合うと言う発想を持たない卑しく低知能な生物たちの
お口にしか合わない、犠牲になった原料に対する冒涜に満ちた一品であった、
「でもさ・出て行くほど嫌がってるならどうして気持ち切り替えて苦しまないように
してやれないのさ、娘がかわいくないのかい?バカなの?おまえたち」
シンジュクはスゥリンの両親に厳しい言葉をぶつけるがその言葉にはスゥリンの
苦しみを察し問題が解決する事を望む気持ちも含まれていた、
「んでスゥリンちゃんはどうしたいんかの?」
涙をこらえるのがやっとのスゥリンの頭をなで垣屋は見て察し先ほどの
粗暴な振る舞いとは打って変わり垣屋は優しく尋ねた、
しかしスゥリンはついに堪え切れず涙を流しながら訴える
「わらわはパパとママもクリスティもブリュンヒルデも大好きなのじゃ~
わらわは昔の事はなんともおもっていないのじゃーだからはれものみたいに
されるのはつらいのじゃー」
スゥリンは辛い放浪の日々を思い出していた、本当は大好きな家族から逃げたくなく
しかし家族が自分がいるために神経質な気遣いをされる居心地の悪さにも耐えられず
行く当ても日々の寝る場所にすら困るような惨めな日々、
街行く楽しそうな家族の姿を見るのも辛く戻りたくても戻れない
その苦しみから少しでも早く解放されたかった、
事情も聞かずそこに手を差し伸べてくれたのがバルバラであり原生生物研究所の
面々であった、スゥリンはそこにようやく居場所を見つけた気がしていた、
「スゥリンちゃんわらわがいるのじゃ心配しなくていいのじゃ」
ねねはいつの間にかスゥリンに寄り添いハンカチでスゥリンの涙と鼻水を
ぬぐいながらスゥリンを後ろから覆うように抱きしめてスゥリンを落ち着かせようとしている、
醜いクッキーの奪い合いを演じていた卑しいパティとラピ子にベッコもいつの間にか
スゥリンに寄り添い慰めている、心からスゥリンを友と思っているのであった、
「わらわもスゥリンちゃんとはなれるのは嫌なのじゃ、スゥリンちゃんは
わらわの大親友なのじゃ」
「まぁワシとここの連中は子がおらんからあんたらの気持ちは正直分らん
ただいつまでもこんな状態はよくねぇだろ、あんたらもそうだしろくに話し合いもせずに
出て行って心配かけるスゥリンちゃんもよくない、今日で終わりにして
仕切りなおしたらどうかね」
「はい・・・私たちはあの子の事を考えてあげられていませんでした」
「スゥリンちゃんパパとママと仲直りしてくれないか?パパが悪かったよ・・・」
「うん・・・パパ・・・ママ・・・うっうっ・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
垣屋は両方に諭すように言いしばらくするとスゥリンと両親はうなづき
今までの事を過去の事として事故以前の平和な家庭と親子関係を
取り戻す努力をする事を誓い合い感極まりスゥリンと親子は抱き合って泣き
一件落着と相成る、
「めでたしめでたしだね、と言う事で今晩はあれ行こうよ源さん」
「そうじゃなめでたい時はあれじゃよな、って事で問題なければみんな今日は
うちに泊まって行ってくれや」
「それじゃ腕によりをかけてお作りしますね」
「私パイオニア一号もまけてはいませんよ!ささ・ご用意するまで皆様
寛いでお待ち下さい」
テツは研究所の面々に提案すると皆が同意し時間が遅い事もあり垣屋はスゥリン家の
面々には研究所に泊まってもらう事となり原生生物研究所名物、
焼肉の宴の準備が始まるのであった、
アークスシップで人工的に再現されている昼が終わり夜が訪れる
原生生物研究所の屋上は煌々とライトアップされ肉の焼ける白い煙が
立ち上っている、招かれる顔ぶれが違うだけでそれは研究所でよく見かける光景である、
胸中のつかえが取れたスゥリン一家とスゥリンを大切に思う研究所の面々の
心は晴れやかであった、スゥリンを中心に温かい心が満ち溢れた宴が続く、
「皆さん先ほどは本当に取り乱して申し訳ありませんでした」
スゥリンの父は側面に張り出した角のような髪を器用に避けて頭を掻いた、
落ち着きを取り戻したスゥリンの父は威厳のある見た目とあいまって
威厳を感じさせる紳士へと戻り、スゥリンの母は相変わらず地味でマネキンの
ようではあったものの影から静かに見守る温かい視線に好感が持てた、
「気にしない気にしない自分の子の事だから当然だよぉ~」
テツは温情に溢れた言葉で応えるが手はブリュンヒルデと箸で焼きたての肉を取り合っていた
「うまいなー、スゥは毎日こんなおいしいもの食べてるのかー?」
ブリュンヒルデは焼肉がいたく気に入ったようでタレの入った皿に山盛りの肉を
頬張っている、平素は大人ぶっているがこのような時に子供らしさを見せ
そこが彼女の魅力なのであった、
「よく焼肉をするのじゃー、ブリュンヒルデもここで暮らせばいいのじゃー
毎日ごちそうなのじゃー」
「そうそう!チヒロさんのごはんとってもおいしいんだよぉ~」
「あらあらお世辞がお上手ですね」
パティもスゥリンの意見に同意し後ろで控えめに肉を網に乗せていたチヒロは
照れながら会釈する、温厚で控えめな彼女の美しさが際立つ瞬間である、
「毎日焼肉!」
ブリュンヒルデの目は一瞬強い光りを放ち研究所に寄宿しようか迷う様が見て取れる、
もうまずいアークス専用食堂の食事にはうんざりしており
調理担当のフランカという邪悪な女性の悪意に満ちた笑顔が脳裏に浮かんでいたのであった、
スゥリンは以前のように両親に甘える事ができる喜びからか父母の元に
寄り添い両親からの愛情を感じ取っていた、
「ぱぱぁ~」
スゥリンが甘え父に抱きつくのをねねは少し寂しさを滲ませ羨ましげに見ている
スゥリンとパティ、ティア、ブリュンヒルデはそれを察しどうしたのか訪ねる
「スゥリンちゃんは父様がいて羨ましいのじゃ、妾も一度でいいから父様を
ぎゅ~っとしてみたいのじゃ」
「・・・・・・」
その言葉でお子様たちは察した、そして自らの無神経さを悔いた、
ねねには父がいないのだと、そしてお子様たちには最後には帰る家があり
父と母が待っていてくれている、
確かにねねは話す折に母の話はよくするが父の話は研究所の面々は詮索を避けていた
事もあり聞いた事がなかった、
隠し事が苦手で一本気なねねは自分の心の内を正直に話したのであった、
「さぁおいで!」
スゥリンの父は父がいないねねの気持ちを汲み両手を広げてねねを招く
場所にっては随分と危ない何かを感じさせるが
よどみや欲望のないスゥリンの父の大らかさにねねは自然と引き寄せられる
ねねはスゥリンの父を万感の思いでぎゅっと抱きしめ父もそれに応え
「母さん新しい娘が出来たぞ!かわいい娘だ!」
と声をあげ鳥の巣のようにもしゃもしゃしたねねの頭をなでて屈託なく言った、
「はい、とってもかわいいです」
スゥリンの母も一同も温かいまなざしで癒されていくねねを見守っていた、
「んでよスゥリンちゃんはこれからどうするんだ?家につれて帰るのか?」
垣屋は肉を頬張りながらスゥリンの両親に尋ねる
「スゥリンちゃんはどうしたいの?パパに話してごらん」
先の反省も含めたのだろうスゥリンのパパは彼女の意見を尊重するようだ
「わらわはここにいたいしパパとママともいっしょにいたいのじゃー
まだアークスもやめないのじゃー」
「うんうん分かったよ」
そして話し合いの結果スゥリンは花嫁修業?も兼ねアークスを続ける事となり
彼女はこの研究所が気に入ったためここに寝泊りする事は変わらず
週に1.2度は家に帰る事が研究所にいる条件となり、双方納得に至った、
垣屋とスゥリンの父はなにやらビジネスの話を始め他の面々はそれぞれ思い思いに
宴を楽しんでいる、
垣屋は少年期に農学と生物学の博士号を取得してから研究費と所属研究所の資金稼ぎに
手広くビジネスを展開し、金に困らなくなった現在でもそれらを無理のない範囲で
続けている、心底金儲けが好きなのかもしれない、
人の噂によるとスペースヤクザ相手にも臆する事無く取引をするらしく
平素の態度も合わせより人が近づきにくくなっているとも言えた、
先のゼルシウス鉱石やヴォイドのスパイク付きロードローラーの裏ルートでの
横流し等もその一環であり、
実はそこそこの大身であったスゥリンの父ともなにやら合致が行くものがあったらしく
取引の話をしているようだった、
スゥリン、ブリュンヒルデ、パティ、ねねたち同世代はすでに打ち解けていたので
明日にでもどこかへ遊びに行こうかという算段をしている、
テツは自分に割り当てられたヴォイドの洗脳を防ぐための様々な工作を
行うため明日からフロリヌスたちが待つジャン・レオン・ジェロームへ
行く事が決まってた、
シンジュクはラヴェールが到着するのを待って二人で諜報活動をする準備があるが
それほど忙しい物でもない、
ティアはチヒロと共に研究所に残り垣屋の助手としての勤めがあるので遊びの輪には
加わる事はなかった、
お子様たちは何をして遊ぶかに夢中で遊園地で遊ぶ事に決まりかけ
スゥリンの執事のクリスティとねねの執事パイオニア一号がその手配を
しようと動こうとするがふいに垣屋はお子様たちの頭に手を置いて言った、
「おまえたちは自分たちだけでリリーパの地下坑道エリアで修行して来い
目標はボスのビッグヴァーダーの討伐!遊園地はその後じゃ」
4人からブーイングが沸き起こる
「えーゆうえんちがさきなのじゃー」
「やなのじゃやなのじゃやなのじゃっ!遊園地へ遊びに行くのじゃ!」
タダをこねるスゥリンとねねにスゥリンのパパも垣屋と同じく
「スゥリンちゃん坑道に行っておいで、帰ってきたらパパがう~んとお小遣いあげちゃうぞ♪」
スゥリンの父も元々はアークスであったらしく的外れを前提とした発言ではなく
娘を溺愛していながらも娘が鍛えられる事を期待していた、
「では私もお供を」「では私もお供を!」
クリスティとパイオニア一号は声を揃えて申し出るが垣屋とスゥリンの父は同時にそれを遮った
「今までワシらがお守りしとったであればかりでは修行にならんからのぉ
今回はこの4人が自力で修行するべきだと思うのぉ」
「そうですね・・・確かに博士がいると適が敵じゃなくなりますね
テツさんとシンジュクさんは博士よりもっと・・・」
「じゃよテツちゃんとシンジュクちゃんはワシより強いしもう少しまじめに
修行続けたらレギアスと互角までは戦えるじゃろうな」
「ですよね・・・」
パイオニア一号は何か言いたげであったが周りの大人ももっともだと思い同意し
スゥリン、ブリュンヒルデ、ねね、パティの組み合わせで地下坑道へと向う事となった、
スゥリン、パティ、ねねの実力は正直心もとないがそれ故に自発的な注意力や
身の程に合わせた活動が出来るようにする意味合い、
いつも誰かが自分たちを保護してくれる言う「甘え」が当然になるのを
防ぎたいと言う親心でもあった、
また垣屋とシンジュクは彼らにとって実力が未知数であるスゥリンのいとこ
ブリュンヒルデにある種の期待を持っていた、
小柄で華奢なシルエットではあるがハンターを前提とした構成のためか
なかなかに絞まった体つきでタルナーダと呼ばれる古典的製法の大剣を獲物とし
持続性の強さを感じさせる物があったためである、
「わかったのじゃーでも帰って来たらちゃんとごほうびほしいのじゃー」
スゥリンは承知すると垣屋とスゥリンの父は笑顔でうなづいた、
その時階下から足音が聞こえいつの間にかいなくなっていたチヒロに伴われ
バルバラが屋上へと上がってきた、
「ごめんなさい、遅くなってしまって」
氷の魔女バルバラは遅参を詫びると一同は快く迎えた
現在はデスクワークに追われがちのバルバラであるが感覚が鈍るのを嫌い
時として前線に立つことも忘れない、
どうやらどこかへ探索に出ていたらしく所々にわずかな傷やへこみが見受けられる、
「バルバラさんですか?うちの娘が大変お世話になってしまって・・・」
「本当になんてお礼を言えばいいのか・・・」
スゥリンのパパとママはバルバラの元へ歩み寄ると何度もお土産の水飲み鳥のように
頭を下げるがバルバラはそれを制した、
「いいえお気になさらず私は子供がいませんから一緒にいて楽しかったわ」
少し前に面倒なのが手から離れる事を喜んでいた事を隠しつつバルバラは両親に
気遣いを見せた、
既に事情は垣屋から聞いていたらしく、スゥリンの放浪が終わりを告げた事を
能面のような顔とは裏腹にとても喜んでいた、
スゥリンもバルバラに
「バルバラせんせいほんとうにありがとうなのじゃー」
と涙目になりながら礼を言った、彼女の放浪は経済的なものはもちろん、様々な人々の
冷たい仕打ちもあり孤独と辛さに満ち溢れ
夜の街のベンチで一人泣いていた時に救いの手を差し伸べてくれたのが
通りかかったバルバラであった、スゥリンは表にこそ出さないが
その優しさが心に感じ入り自らの師としてバルバラを慕っていたのであった、
そして問題が解決した時に垣屋からバルバラがつねに気にかけ通信でこちらに現状を
聞きに来ていた事を初めて聞かされ愛おしさが増したのであった、
「よかったわねスゥリンほんとうに・・・」
抱きつくスゥリンを鋼鉄の腕で優しく抱きとめ涙するスゥリンをバルバラは
真心で受け止めた、
氷の魔女と呼ばれ氷撃の激しさと冷酷で容赦ない戦いぶりから多くの人々に
倦厭されがちの彼女であるが心は氷と無縁の温かさと厳しさを持ち合わせた女性である、
「そうじゃアザナミちゃんも呼ぶかあれもスゥリンちゃんに目をかけてくれたからの」
垣屋は急ぎアザナミに通信を飛ばすがアザナミ率いるブレイバーズのステラが
応答する、
「最近新しく入ったデューマンの隊員をアザナミさん気にかけてまして
前線で鍛えているためあまりアークスシップに戻っていないんですよ
アザナミさんがいないときは私が用件を伺いますんでよろしくお願いします」
「そうかね、じゃまた何か困った事があれば遠慮なく言って来いと
伝えてのぉ、忙しいのにすまんかったよ」
といい通信を切った、
そしてジャンも戻ってからずっとヘスティア慈善事業団のユノーの元で
拘束されているらしく来られぬとの事であった、
おそらくは部下に仕事を全て取られ暇を持て余しているユノーと話し出したら
いつまででも話し続けるジャンとの間で暇を潰したいとにかく長い説教をしたい
という互いの欲求が合致してヤドカリとイソギンチャクのような
共生関係が築かれているのだろうと予想された、
バルバラは今までの経緯を聞くといつもの指導教官としての職業病が出たのか
説教臭い心得を話し始めた
「地下坑道・・・あそこには様々な仕掛けがあるけどむやみに起動させてはダメよ
時折通信が聞こえにくかったり転送装置が働かない事もあるから注意しなさい・・・」
4人は調子よく分ったと返事をするとバルバラはうなづいて
そろそろ説教臭い指導は無用と思い何も言わない事にした
楽しげな一同をフェイスガードの下に隠れた蛍光色を帯びた目を細めて眺めている、
垣屋からタレの入った皿と箸を渡され肉を食べるようにと進められると
紫色のリップが塗られた唇をゆるませ
「今日はめでたい日だから私たくさん食べるわよ覚悟はいいかしら?」
「おうめでたい時はバンバン食おうぜ遠慮なんかすんなよ」
と普段はなかなかお目にかかれないいたずらっぽい表情で応えた、
宴は続く明日からの戦いに備えた戦士たちを鼓舞するかの如く、