新光暦238年4月8日午前11時48分 アークスシップ1番艦フェオ 原生生物研究所
お子様たちがつまらぬ過失で坑道に閉じ込められクロトと出会い
出されたコーヒーをすすっている頃、原生生物研究室から端末のキーを叩く音が響く、
お子様たちはリリーパへ探索へ向いテツはそろそろジェロームに到着する頃だろう、
気楽なラピ子とベッコは庭も兼ねる森へと遊びに出かけシンジュクはリビングで
なにやら読み物をしている、
垣屋とチヒロ、そして新たに臨時雇いとなったティアがドラゴンモドキの生体データを
事細かくチェック、このいびつな生物の特性を詳らかにするために多くの収集データの
処理を行っている、
ハドレットと呼ばれたドラゴンモドキのデータがおおよそ解明でき垣屋はその
つなぎ合わせたデータをしげしげと眺め老眼鏡を指で吊り上げながら言う、
「う~む・・・おかしいのぉこれは・・・」
「博士どうかしたんですか?」
その不快さを滲ませた声にティアは何故かとたずねると垣屋は答えた
「ベースは竜族を使っているのは分るんじゃがなぁ体組成にダーカーの因子が
入り込んでるんじゃょ、ほれそこの筋組織とか内臓など消化器官が全くなくて
相手のエネルギーをダイレクト吸収するところとか・・・」
「は・・・はい・・・」
垣屋の説明の半分程度しかティアは理解できなかったがこの生物がいかに歪でおかしいか
そこが要点であると理解し納得した、
「いくらクソウンコ野郎のヴォイドでもダーカー・・・ダークファルスと手を組んでは
いないはず、しかし侵蝕でもダーカーの乗っ取りでもなく自然に体組織に
ダーカーの特性が組み込まれてるとはどう言う事じゃ?
・・・これはかんなりきな臭い事になるかもしれんのぉ・・・・」
垣屋は白くなって久しいあごひげを擦り厳しい目をモニターに向け
さらに話を続ける、
ダーカーの研究はそれ相応に進められていてその組成を利用した研究もないわけではない
武器やユニットの開発の過程で例えばダカンスラッシュ、ダガッシュタリス、
ゼッシュウ等が好例であるが、これらは素材とするダーカーを完全に
締めて利用するため今回のように生物として機能している事とは
まったく事情が違ったのである、
「皆さん~お昼ごはんですよぉ~」
いつの間にかチヒロは研究室を抜け出していたらしく室外から呼び声が聞こえる
昼食の時間であった、
いつもながら丹精こもったチヒロの昼食を垣屋とシンジュク、チヒロ、ティア
パイオニア一号で囲む、騒がしいお子様がいない食卓は静かで落ち着きのあるものであった
その静寂を垣屋が破り3人に言った、
「どうもこれと似たようなのの出現報告が各惑星で聞かれてるらしいんじゃ
こいつはワシの勘ではあれだけじゃなくて他にも複数個体がいるとみとる
メシ食ったら目撃したヤツに聞き取りに行くぞ」
そしてやおら端末を開くと誰かに向かって通信を始める
「おじさんどうかしましたか?」
聞こえる声から垣屋の姉の孫であるジラードだと周囲は理解した
「おう・昨日送ったデータ、見たかの?」
「いえ・まだですおじさん」
「さっさと見ろ!」
垣屋は怒鳴るとディスプレイに驚くジラードの姿が映し出される
「希少生物の研究してるならこいつに触れた事があるんじゃないか?そっちの持ってる
情報とかあったらこっちに回してくれんかの?
そいと午後から聞き取り調査すっからおまえも来て手伝え、小遣いやっからのぉ」
「小遣い!行きます行きますよおじさん、フフフフフ・・・」
ジラードは小遣いと聞いて目に不気味な輝きをたたえ気味の悪い笑い声を上げると
すぐ研究所に向うと言って通信を切った、
彼の所属する研究所は研究が世に認められているとはいいがたくスポンサーがおらず
常に資金不足に悩まされているのであった、
「やれやれあいつはこう言う所がとろいのぉ、我が又甥ながら優秀なのに勿体無いの」
垣屋はぶつくさと文句をいいながら端末を閉じると昼食を掻き込むと
まだ食事中の住人を他所に記録用の媒体の支度を初めた、
研究所からショップエリアへ垣屋、シンジュク、ティア、パイオニア一号は足を運ぶ
垣屋の手にはチヒロから買ってきて欲しい食材のメモが渡されそれを握り締めている、
「博士お買い物は私にお任せ下さい」
「お・そうかい?すまんなパイオニア一号」
「いえいえとんでもございません、ではお気を付けて行ってらっしゃいませ」
気を利かせたパイオニア一号が私が賜りますと丁重に申し出たので頼む事にした、
垣屋は自分の行う事を邪魔されると不機嫌になるので彼はそれを察したのである、
ティアはショップエリアに向う道で尋ねた、
「どうしてそれならアークスのデータベースとか上層部に情報提供を求めないんですか?」
垣屋が答える前にシンジュクが言う
「情報屋ならアークスが政府やヴォイドと癒着してるくらい知ってるだろ?
それに今のデータベースにあれの記載がないからね、意図的に存在を隠してるんじゃないかな
だから自分の足で情報を集めるのさ、目撃したアークスの目星はもうついてるからね」
ティアはあまりの根回しの速さと裏の事情まで把握している垣屋とシンジュクに
驚きを隠せなかった、確かに凍土からジェロームに向う旅でヴォイドの裏の顔を
自らの目と体で体験したのである、それが何よりの説得力を持ってティアに
理解せしめたのであった、
いつもながらのにぎやかなショップエリアに着くとパイオニア一号はチヒロの買い物を済ませ
聞いてもいないのにねねとスゥリンの新しいお召し物を取りにテイラーへ行くと告げて
深く一礼するとショップエリアの喧騒へ消えて行った、
パイオニア一号を見送った3人はジラードの到着を待った、程なくすると3人の上方から
ジラードの声が聞こえエリアの植え込みをかき分けてジラードが姿を見せる
「おーじさーん来ましたよ」
「どっから来てるんだよ・・・」
シンジュクのあきれ返った呟きをよそにジラードは一行に加わり聞き取りの約束を
取り付けてあるアークスたちが待つアークスカフェへと足を運んだ、
カフェはいつもと変わらずしばしの休息を楽しむ者、暇を持て余し者、新たな出会いを
求める者、そして分かれる者、様々な人間模様が交差する、
垣屋は一通り挨拶を済ませ最後にアザナミらブレイバーのたむろする定席に目を向けると
そこには珍しくアザナミの姿があった、声をかけようと思ったがテーブルに
突っ伏して眠っているので邪魔をしては悪いと思いそのままにする事にした、
予約しておいたテーブルには既に3名ほどのアークスが座っており、垣屋を見つけると
挨拶をし垣屋たちもそれを返した、
もう少し遅れて2名のアークスとその時に参加していたメンバーが到着し
垣屋はみなの飲み食いしたい物を聞くとウェイトレスにそれを注文し好きなだけ
飲み食いするようにと勧めた、
「悪いなわざわざ来てもらって」
「いえいいんですよれいのドラゴンの話をすればいいんですよね?」
「差し支えない範囲でいいよ」
集まったアークスたちは別段どこも変わった様子のないごくありふれたアークスたちである
目だって実力が突出しているわけでもなければ特別に知名度が高いわけでもない
なかば惰性的に日銭を任務と戦いで稼いで日々を生きているそんな若者たちであった、
垣屋が一人ひとりから見つけた日時と場所、その時の状況、そしてマグに記憶された
情報と記録映像を受け取りそれわ記録媒体に記録すると同時に研究所で待っている
チヒロに帰るまでに出来る部分まででよいから解析と情報の整理をするように
指示を出す、
ドラゴンモドキの出現場所はまちまちであった、リリーパ・・・ナベリウス遺跡エリア
地下坑道・・・そして提供を受けた映像データからそれぞれの個体は角の形状や
体の色、付いた傷などから別個体である事が確認された
そしてアークスの一人が持ち帰った角の破片の提供を受けこれも解析に回す事となった、
その間にジラードがにわかに騒ぎ出す、各種のドラゴンモドキの中に一匹だけ
黒紫の個体がおりデータのスキャンにより通常の個体とは異なる事を発見したのである、
幼少期に昆虫の希少種を偶然発見して垣屋の手助けを受けて学会に発表
認められた嬉しさから希少種の研究の道へ踏み出したジラードは興奮を抑えられずにいる
「君!これをどこで見たんだい!今すぐ連れて行ってくれ!」
「おいちょっと何するんだよっ!」
データの提供した若いアークスの両肩を掴んでジラードが強く揺さぶるが
シンジュクが引き剥がして言い聞かせる、
「データじゃ1ヶ月前の事だぞ、ずっとその場でバカドラゴンが正座して待ってるとでも
思ってるのか?冷静になれ!」
ジラードは空気を抜かれた風船のようにふらふらとしぼんでいく
「ああ・・・・ボクの希少種・・・絶対に見つけ出すよ・・・ウフフフフ・・・・」
不気味な目つきに笑い声、情報提供者のアークスたちの気味悪がるのをよそに
ジラードがこの件に対する協力姿勢を強めた瞬間であった、
「俺たちが見た時はこんな感じでした、これでいいですか?」
「充分じゃよありがとの、じゃこれは来てくれたお礼じゃよ、また
見たり誰かが見たという話があればワシに連絡をくれんかの
もちろん礼はするからの」
「はい、分かりました任せて下さい」
垣屋は充分な聞き取りを終えて集まったアークスたちに過分な謝礼と食事を振る舞い
今後も情報提供をしてくれるならさらに報酬を払うと告げると
若いアークスたちは嬉々として協力すると申し出るが最後に一言垣屋は付け足した
「アークスの本部や政府、ヴォイドの連中にこの件は絶対に漏らすなよ
じゃないとお前たちの命が危うくなるかもしれんからの・・・・」
「えっ・・・はっはい・・・」
浮かれていた若者たちはその迫真に迫った忠告に身を引き締め静かにうなづいた。
一方お子様たちが閉じ込められた地下坑道、
地下坑道の安全な部屋で休息を取っていたクロトと4人のお子様たち、
眠気覚ましのコーヒーを振舞われていたがいつしか4人は寝息を立てて
眠りについていた、
先ほどまで自らの死を覚悟する程に追い詰められたギルナスとの
戦いからの緊張感が解けたのであろう、
クロトは念のためにそれとなく入り口を見張りながらお子様たちの寝顔を
眺めていた、
金と自らの欲望しかない人と呼ぶのもはばかられる恥知らずな亡者たちと違い、
愚かなまでの素直さが顔にそして振る舞いに現れた4人、
実家の優しい両親と人としての誇りと善意に満ちた使用人たちと同じ顔に
安堵感を感じる、
クロトはここから脱出したら久し振りに実家に戻ってみようかとそんな気持ちに
させられた、
平素飄々として何事にも無責任で投げやりな態度を見せるクロトではあるが
本来は人一倍繊細で精神主義が強く人の真心を強く求め信じている
この瞬間をクロトは悪くないと心の中で感じ入っていた。
不思議と垣屋の元で居候をし巣立って行った者たちはそんな若者たちが多い
クロトはこの世界が不幸に包まれているのはダーカーのせいだけでなく
人間の心がけが第一の悪因だと常日頃から思っていた、
そんな人間たちばかりならこの世界はもっと幸せになるのにと心の中で嘆息していた、
2時間ほどが経過しただろうかお子様たちは散発的に目を覚まし眠い目を
こすりながら身を起こす、
「どうだい調子は?」
クロトは尋ねると若さゆえか作りが単純なのか4人は元気に大丈夫と声を揃えて答えた、
「じゃ・行こうかここは良く来るからもう一つの出口は分ってるからね」
クロトは身を起こすと愛銃のクロトフが坑道の鈍い照明を受けて光る
お子様たちもそれに続き部屋を後にした、
坑道に再び5つの影が伸びクロトの示すもう一つの出口へ向って伸びていく
クロトは道すがらこのエリアの敵の対処方法を4人に言い聞かせる
初めての場所に頼る相手がいないことで4人の頭がおおよそ真っ白になっている
それが先の苦戦に繋がっていると見て取る事ができたからであった、
「ちょうどいいのが来たね君たちだけでやってみなよ」
「分かったのじゃっ!」
道中スパルガンや自爆専門たるスパルザイル等が襲ってはくるものの
クロトは手出しせずお子様たちに任せ様子を見る、
いつもの通りスゥリンのゾンディールで巻き込まれる敵をブリュンヒルデ
パティ、ねねが一気に飛び掛り倒していく、
4人は未熟であるが素直さや余計な事を考えない良い意味での単純さが
迷いのない連携となり実力不足を補っていた
この4人はそこを伸ばし欠点を克服する事が最良だとクロトは思っていた、
滞りなく奥へと進んでいく一行、前方から砂ホコリを含んだ空気が
緩やかに頬をなでてくる、サラサラと天井の穴から砂が流れ落ち
通路に小さな山になって降り積もっている、
流れ落ちた砂が三角の小山のように降り重なり一向はそれを避けて前に進もうとした
次の瞬間小山の中腹が不自然に揺れ動きお子様たちは戦闘による緊張感が
程よく維持されうごめく砂に身構える、
「なにかいるのじゃー」
「エネミーかなぁ・・・・」
目を凝らすとその砂の山からなにやら丸みを帯びた茶色の何かが見え隠れを初め
その茶色い丸い物体は左右に体を振ってそこから抜け出そうとしている
一行は少し思案したがどうやらこれはリリーパ族のお尻であると理解し
ねねとパティがリリーパゾクノ足を持ち渾身の力で引っこ抜くと
まるでサツマイモか何かのようにリリーパ族は砂から抜けて砂地に景気よく落ちた、
そのリリーパ族はまだ子供らしくただでさえ小さい彼らの中でもひときわ小さい
苦しい砂の中から抜け出て深呼吸の後きょとんとしているが
周囲を見回し自分一人だと分かると目から涙がじわじわと溢れてくる、
「りぃ~りっりっりっ!りぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
一人になった孤独さと帰る事ができない絶望感で一行に目もくれず泣き続ける
砂の山から下りてきたねねとパティも交えてどうしたものかと一行は首を傾げた
どうやら坑道の天井に穴が開き地下へ砂が流れ込んただめに地表では流砂のようになり
それに巻き込まれて地下に落ちてきたようであった、
「かわいそうだから助けてあげるのじゃ!」
「そうだねほっとくと死ぬだろうねぇ、連れて行ってあげるか」
ねねの意見に異論はなかった、クロトもリリーパ族との友好関係のためにも
人道的見地からもこのまま放置すれば死ぬのは確実であったため
共にここを脱出するほうがよかろうと判断していた、
そして通訳機能を使い子供のリリーパ族に家族の元へ連れて行ってあげるから
行こうと持ち掛けるが泣き続けていて聞く耳を持たず
クロトは泣き止むまで待つしかないかと思っていた、
そして空いた穴から通信電波が届かないかと試みるが無駄に終わる、
ねねは泣き続けるリリーパ族を見て自分も涙が出そうになるが
ふいに何かを思いつくとアイテムパックから何かの袋を取り出して封を開けた、
神経質人ならば食傷しかねない甘ったるいにおいが周囲に漂い
「うっこのにおい・・・あのビスケットだなー」
ブリュンヒルデの食傷たる態度をよそにねねはその中から1つビスケットを取り出すと
大口を開けて泣いているチビ助の口にポンと放り込んだ、
最初は口に入ってきた異物感に驚いていたが口の中に広がる甘さに喜びを感じ
あふれる涙は止まり自分の状況を忘れ喜ぶチビ助、
惑星リリーパではめったに甘いものにはありつけないが甘いものが殊の外好きな
かれらにとっては至福そのものなのであった、
小さく跳ねてよろこぶチビ助は今度ばかりは聞く耳を持ち甘いものをくれただけでなく
自分を助けてくれると理解しねねに飛びついて顔をなめ友好の態度を示した、
その温かい情景に一行の気が和むが油断するのは帰路についてからである
ねねはビスケットの入った袋をチビ助に与えると
後生大事にその袋を両手で持って一行の最後尾によちよちと短い足で
後を追った。
クロトは言う
「あの穴の開き方は自然にできたものじゃないね、まだ崩落するほど傷んでもいないし
なにかの衝突痕がまわりにあるね・・・」
スゥリンも壁を指さし
「なにかおっきいひっかき傷があるのじゃー」
と指摘するとクロトはその傷の近くに寄り確かめてみる、すこし外からはうかがえない
アイゴーグル越しに傷跡を見てさすった後お子様たちのほうへ振り返り
「こりゃあいつが巡回してきてるねぇ・・・」
「えっ何?何が?」
パティの問いにクロトは簡潔に答える
「トランマイザー、傷が新しいね・・・近くにいるよこれは・・・」
「ふぇぇっ!」
答えと同時に驚いて体を硬直させる者がいた、プリュンヒルである、
「どうしたのじゃ?ブリー?」
スゥリンが問うと体が小刻みにカタカタしているのが周囲からも伺えた
愛用のタルナーダも主人の震えに呼応し無骨にカタカタ震えだす、
「べべべべべ別にあんなの怖くなんかないぞわわわわわ私はあんなのデコピンで
一発なんだぞぞぞぞぞー・・・」
誰も聞いたことがないのに言葉が乱れ慌てだすプリュンヒルデ
なぜ坑道に行ったと経験があることをアピールする割に内部の事を
話したがらないのか、自らの経験を披露しないのかと言う謎と疑問が
氷解した一瞬であった、
「まぁそれなら克服しようよみんなの力でさ」
クロトは歴戦からくる経験のためか慌てる事無くブリュンヒルデの肩に
手を置きなだめるが自分の体に強い震えが伝播するのを感じていた、
「そうなのじゃ!みんなでがんばるのじゃ!」
「お姉ちゃんもがんばるぞぉ~!」「やっつけるのじゃー!」
「リー!(シャリシャリクッチャクッチャ・・・)」
皆の団結心が試練を超えようと一致して歩調が勇み足にと変わっていくが
ブリュンヒルデの足取りは震えと委縮でポンコツのような歩みに変わり
安全な位置にいる他人が見れば新種の動物のように見えたであろう、
しかし逃げる訳にはいかない自分の意志が折れそうであったとしても
総意という何かがブリュンヒルデの意志に反して進んでいく
閉じ込められてみたりトランマイザーと出くわす可能性が
確実なまでに上がってみたりと心の中で自分の不運をひたすらに呪い続ける
のであった、
坑道に一行の足音が響く、そして子供のリリーパ族がねねからもらったクッキーを
食む音が響く、
種族を問わず子供というのは現金なもので仲間とはぐれた悲しさはすでに遠く
リリーパ族にとって求めて止まない甘いお菓子を食むのに夢中だ、
ブリュンヒルデは少し昔の事を思い出していた、あれはアークスになってすぐに
知り合った仲の良い仲間たちと地下坑道を訪れた時の事であった、
順調に探索を終えようとした時に奴は来たテレパイプに皆が乗り込み
キャンプシップに転送されようとした時、物陰に隠れて自らを再起動して
一気に突進し忌々しい爪を一向に振り上げ無防備なパーティーに襲い掛かった、
今まで共に笑いあいこれからもそれが続くと思っていた仲間の上半身は
はるか遠くにあり帰還の安堵の顔を浮かべたまま絶命していた、
ブリュンヒルデだけが助かった、彼女は背が低かったため間一髪で
マイザーの爪から逃れる事ができたのだ、ブリュンヒルデはショックで
動転したが渾身の力を込めてタルナーダを振るいトランマイザーの顔に
切り傷を与えるが司令部とキャンプシップのクルーの判断で強制的に
キャンプシップに戻されそのまま帰還して行った、
その日精神的なショックからの疾病のチェックのためメディカルセンターに
搬送された彼女は泣いた、そして異常無しとして戦線に復帰してから恐怖と戦いながら
坑道をさまよっていた、心のどこかでまだ仲間が生きている、探さなければと
絶望的な希望が彼女を動かしていたといっても過言ではない、
しかし平素から小ささゆえにいじられている彼女が弱気を見せては余計にいじられると思い
周囲には何ともないようなそぶりを見せるのであった、
しかしいざマイザーが近くにいるとなるとあのときの記憶が蘇り身も心もすくむ
もしもう一度仲間がやられたら自分の心が耐えられるのか?
ましてや今はより近しいいとこのスゥリンまで混ざっているではないか、
不安とプレッシャーがブリュンヒルでの思考力を奪っていく
一人であればすでに逃げ出していたであろう
頭の中がぐるぐると回るこのまま立っていられるだろうか・・・そう思った矢先
「リ!リリッ!」
「ふぇぇっ!」
真横を歩いていたリリーパ族が驚きの声を上げブリュンヒルでは隙を突かれ
驚きタルナーダを振り上げる、
クロトたちは無鉄砲に振り上げられたタルナーダを事も無げに避け
ブリュンヒルデを簡易チェックで彼女の状態を確かめていた、
ブリュンヒルでは自分を驚かしたリリーパ族をにらみつけるがチビ介は意に介さず
袋から何かを取り出しものめずらしげに眺めていた、
「おまけなのじゃ!」
ねねはリリーパチビにこれが何か教えた、
ねねがチビ介に渡したのはオラクルで販売されている「アークスビスケット」と呼ばれる
お菓子で子供の発育促進の為に滋養に富んではいる物の味のひどさは免れず
これでもかと投入された甘味料とおまけに付いているオラクルのアークスと著名人の
カードが添付された物でまずいにもかかわらずそのコレクション性で
一定の売り上げを上げ続けている菓子であった、
チビ介はそのおまけに興味を示したようで袋が開けられずもがいていたのでねねは袋を受け取り
中のカードを取り出してその中身を確認しため息をつくとチビ介にそれを渡してやった、
カードの中ではずれと言われるオラクル大統領、サルトール・サーカイのカードで
一番多く入っているこのクソカードは金と紫に怪しく光るホログラムを背景に決めポーズを
決める姿と彼の格言「男の子は強い者と戦いたい」と筆書きされた言葉に
無意味に光るおでこというか頭頂部というかが気に障る、
ねねにとっては「いつもの」大外れ、彼女がこのまずいクッキーをパイオニア一号に
反対されながらもおねだりして買ってもらっているのはカードのラインナップにある
垣屋のカードがほしかったからである、
カードが出ればこのまずいクッキーとおさらばできるのだ、
そしてその希望は今回も断たれたのであった、
しかしリリーパ族には珍しいと感じたらしくチビ介はカードをもらって大喜びだ、
「はいあげるのじゃ!」
ねねは切れ長の目でチビ介横目で見ると足を止めアイテムパックからカードの束を
取り出しサーカイのカードを取り出すとチビ介に押し付ける
物を粗末にするなと言われ捨てるに捨てられずに取って置かされた物であった、
いまいましいハゲカードとおさらばでき一気に量が減ったカードの束をしまうと
ねねはブリュンヒルデを慰めようと歩み寄った、
クロトは周囲を警戒していたお子様たちはブリュンヒルデに気を取られているが
そんなに離れていない距離にトランマイザーはすぐ近くにいるのだ
「(なっていない・・・・)」
クロトは心の中でつぶやいていた、
レーダーが役に立たないため敵の熱反応は感じられない自分の五感だけが頼りである
そして目に見えて理由は分からないがブリュンヒルデの動揺が見て取れ
それにお子様たちが気を取られている、こちらが色々と不利だ
しかしメンバーを捨てるわけには行かない、彼の心にも若干の焦りが芽生え始めていた、
それは本来人一倍繊細な彼が相手を思うがゆえに芽生える焦りとも言えた、
その後クロトが次の安全ポイントへと足を進め、ほどなく到着するとお子様たちに告げる
ブリュンヒルではすでに顔が蒼白でなんとか自力で歩いていられるのは
アークスの訓練を超えた賜物だったと言って良いだろう、
「この通路の突き当りを左に行けば安全ポイントだからがんばろうねぇ~」
口では何事もないよう平静を装いクロトは前進を促す
錬度の高いフォトンを視覚で捕らえられるアークスが見ればクロトから発せられる
尖ったフォトンが充分に見て取れるだろう
空中機雷やトラップがないのを確かめ、敵がいないことを確かめるとクロトを先頭に
一行は進んでいくそして突き当たりまで後もう少し、その突き当りの手前にある
安全エリアの入り口のドアの開閉ボタンを押し一行は左に曲がる
そして次の瞬間
目の前が暗くなり何事かと思い今一度前を見る、予想したくない事態が起こった事に
一行はすぐに気が付いた、
狡猾なトランマイザーは侵入者の存在にいち早く気付き安全ポイントの入り口
視界の悪い曲がり角に潜んで一行を始末しようと待ち伏せていたのであった、
トランマイザーがセーブモードにしていた鋼鉄の体を起動させると
体の発光箇所がらんらんと輝き機械のボディーが起動する音が響き渡る
「どっひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
パティは唐突なことに腰を抜かし手にしたダブルセイバーレガシーを取り落とし
慌てて拾おうとする、
ねねはいち早くアルバヴァストールを腰から引き抜き
すでにクロトフをかまえ相手にけん制射撃を行うクロトの横に回りこみ
マイザーの腕に打撃を与えんとステップを利かせ接近していた、
しかしマイザーは自慢の爪を使うかと思いきや大きな顔の両端に装着された
箱状のコンテナを展開する、
「まずい誘導ミサイルだ!よけろ!」
お子様たちに注意を促すと同時に多数の小型誘導ミサイルが発射され一向それぞれを
殲滅せんと狙いを定め飛んでくる、
クロトは自分に飛んできたミサイルをスタイリッシュロールでかわしたものの
今は未熟なお子様たちの事も考えねばならない、
ねねはかろうじてカウンターでミサイルをはじき、パティはミサイルに追い掛け回されている
ブリュンヒルデはとっさに何が起こったか理解できずにいたがスゥリンはすばやく
ブリュンヒルデに近寄りその場から動かそうと彼女を抱きかかえようとする、
トランマイザーは口と思しき箇所をあざ笑うかのように上下に動かし
ミサイルの行方と次の攻撃を何にしようか演算しているようだったが
まるで殺しを楽しむかのような不敵ささえ感じられた、
ブリュンヒルでは突然のマイザーの奇襲に以前の恐怖が蘇り体が思うように動かず
震えながら立ち尽くしていた、そして震える口から悲鳴が上がる
「うっ・・・・ううう・・・あいつだあいつだ・・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ブリュンヒルでは叫び声をあげるがトランマイザーから発せられる小型ミサイルは
容赦なく彼女を捉える、パティは自らに飛んでくるミサイルから逃げ回るのに必死で
カウンターでミサイルを弾いたねねは次の行動に移せず、クロトがブリュンヒルデに
向かったミサイルをインフィニティアを持ってして撃ち落して行くが
数が多くてすべてに対処する事はできない、
完全に思考が止まったブリュンヒルでは棒立ちであの時の恐怖に心が支配されている
ようであった、
「あぶないのじゃー」
そばにいたスゥリンが意味があるのかアダマンの杖を振り回し
残ったミサイルに対峙しているがやはり無意味であったようでミサイルの直撃を
受けるに至った、
「ギニャッ!」
声を上げブリュンヒルデの横に吹っ飛ぶが彼女はキャストである
丈夫さから致命傷には至らなかったようで黒くすすけて多少着衣が
痛んでしまったがすぐに立ち上がりフォトンを杖先で練ってレスタを唱え
事後処理を終える、
からくもミサイルを避けきったパティ、そしてねねとクロトもブリュンヒルデに
駆け寄り無事を確認すると4人はブリュンヒルデの前に展開し盾となって
彼女を守る守勢の構えを取った、
「守ってみせるよ!」
「絶対に守るのじゃっ!」
実力に伴わないが威勢よくパティとねねは叫び横目でブリュンヒルデを気遣う
クロトはブリュンヒルデに狙いを定めたトランマイザーから自らに
標的を移そうと左に回りこみ銃撃を加え続けている、
その甲斐もあり敵はクロトを追い左へゆっくりと方向を変えつつあった、
棒立ちになったブリュンヒルでは心の中で思っていた
「(何もできない臆病な自分にいとこのスゥリンはともかくとして赤の他人の
ねね、パティ、クロトまでが自分をかばうために命を張ってくれている
仲間の敵を討つどころかすべてを人任せにしてそれいで満足なのか
このままだといつまでたっても自分は負け犬のままではないか?
しかし怖いあいつが怖い・・・
あの禍々しい起動音、仲間の命を根こそぎ刈り取った赤い爪が怖い
あざ笑うかのように開け閉めする口が憎い
しかしこんなところで棒立ちになっていて恥ずかしくないのか私
今やらなきゃずっと後悔することになるぞ!)」
彼女の心で勇気と恐怖心がまとまらないくらいに交差する
しかし何時しか体の震えは止まっていた、決まったのだ 戦おうと
ブリュンヒルでは取り落とした愛剣タルナーダを拾いいとおしくなでると
心の中で語りかけた
「タルナーダ・・・情けない私だけど力を貸してくれー・・・」
無骨な金属の塊たるタルナーダは語らない、無言ではあるが自らを愛しくれる
主と一心同体である、薄ら明るい坑道の照明に鈍く光って小さな主に答えた、
4人はブリュンヒルデに振り向く暇などない少しでも彼女を守ろうと各々が必死で
敵の注意を引き思考を奪おうと無言で連携を取っていたのである、
トランマイザーはその策に完全に乗ったようで4人をあてどもなく狙い
雑な攻撃は完全に見切られ避け続けられている、
パティのような三流のアークスですら馬鹿にする余裕が生まれつつあった、
そしてトランマイザーは徐々にたて続く起動により内部温度が上昇し始め
表面からわずかな水分に反応して湯気が上がりはじめていた
人工知能から温度の急上昇、要冷却の指令が伝達され恐怖心や後先など
考えない凶悪機械はその場で腰を落とし後頭部に折りたたまれた傘のようなパーツを
展開しその傘の部分が扇風機のように回転し始める、
ブリュンヒルデはその真ん中に見た、青くて丸いコアの姿を
機甲種が弱点とするアークスが大好きな叩きたくてうずうずするあの青いコアを
彼女はタルナーダの柄を強く握り締め敵のコアにめがけて突進する
ありったけの力をそこに集中する、赤の他人の自分のために命を張ってくれる仲間へ
身を挺してかばってくれたいとこのスゥリンへ、そして死んでいった仲間へ
応えるため、そして臆病な自分と決別するために、
トランマイザーは冷却を続けている、クロトはブリュンヒルデから旺盛なフォトンを
感じ視覚に捉えることで彼女が勇気を振り絞っていることを感じ
やさしく微笑むと心の中で思った
「きみならできるよ!思いっ切り叩きのめしてしまえ!」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ブリュンヒルではタルナーダを天に掲げ体のアドレナリンを一気に放出させ
大気から取り込んだフォトンとからめ体を刺激し筋肉を一時的に増強していく
興奮と共に今までの迷いはさらに吹き飛ぶ、守りを犠牲にして攻撃に特化する
フューリースタンスという構えを取ったのである、
そして一気にトランマイザーのコアにめがけて剣先を叩き込む
容赦のない連続攻撃イグナイトパリングを浴びせかけたのである
「うぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
彼女の体が赤く熱いフォトンに取り巻き剣先の青白いフォトンと混じりあう
トランマイザーは冷却が終わらず焦っていた、いくら命が惜しくない機械でも
このまま機能停止は避けたいと思っていたようで
「冷却終了まであと14秒・・・」
その表示を苛立たしく見守るしかなかった
当てられた斬撃は容赦なく装甲の薄いコアに叩き込まれ修復が困難な傷が
幾重にも付けられていく、
「冷却まであと6秒・・・」
早く冷却を終わらせコアをたたみ反撃に移らねばならない
ブリュンヒルでは体内に蓄積されたフォトンが枯渇しつつあるのを感じていた
そろそろけりをつけないとまずい、これが最後の一撃になるだろう
これを放てばフォトンを吸収するまで無防備になる、
ブリュンヒルデはなぜかタルナーダを宙に放り出しフォトンの力で水平に保持した、
「行くぞ・・・タルナーダ・・・・」
無論愛する主人の呼びかけに無言でおうと答える
そして水平に保持した剣に横乗りになると体内に残ったフォトンを一気に後ろへ噴射し
敵を貫かんと一点集中でコアに向かって突進して行く
「ははぁ~、ライドスラッシャーか・・・なかなかおしゃれに決めるんだねぇ」
クロトはにやりと笑うと自分も巻き添えをうけないように横に逸れた、
「冷却終了まであと2秒・・・」
敵の冷却が終わりを告げようとする時すでにブリュンヒルデの剣はコアに深々と刺さっていた
さすがに硬質な機甲種のためそこから物理的な抵抗があるが
怒りに燃えた彼女の勢いは止まらず、一瞬突き刺さったままで止まっていたが
再び強烈な前進を持って敵を貫きトランマイザーは爆散した、
ボディーがばらばらになって四散する、その少し先で彼女と剣は着地する
パティの足元に敵の人工知能部分が転がり
「冷却まで・・・冷却まで・・・れいきゃ・・・」
と無意味なアナウンスがアイディスプレイに翻訳され伝わってくる
「ふふん・どんなもんだい!お姉ちゃんがんばったよぉ!
冷え冷えしたいの?すきなだけどうぞ!」
パティはその人工知能だった部品を通路下に湛えられた水の中へと蹴り落とした、
となりにティアがいれば然るべき指摘があったろうがいない今はお構い無しである、
「やったのじゃ!ブリュンちゃんすごかったのじゃ!」
「やったのじゃー」
「愉快だねぇ~いやいやお見事すごかったよぉ~」
ねねとスゥリンとクロトはブリュンヒルデを拍手と笑顔で称えた
しかしブリュンヒルデはうつむいている
仲間の敵を討ちはしたが自分だけの力ではなく仲間はもう帰ってこない
自分が最初からここまでの力が出し切れたら・・・心から喜ぶには程遠かったのである、
そして再びタルナーダを拾い上げすでに残骸になったトランマイザーの頭部に
タルナーダを幾度も幾度も振り下ろす
その一撃一撃には怒りのフォトンがまといフォトンを視覚で捉えられる者には
すぐに察しがついただろう
「・・・返せ・・・私の仲間を返せ!返せ返せ返せかえせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
何度も斬り付けられ金属のぶつ切りになった頭部がそこにあり、皆が駆け寄り彼女の辛さを
感じ取り肩を抱いてなだめる
「返せ・・・返せ・・・ううっうっうっうっ・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ブリュンヒルでは声を上げ泣き叫んだその涙が再び地に落とされたタルナーダに
こぼれ落ち剣に主の涙が伝う、
言葉を発さぬこの剣は共に主人の敵が討てた事への喜びとその悲しみの涙を
その刀身で受ける事によりより絆を深めていくのを感じていた。