PSO2水滸伝傍ら(かたわら)の群星   作:垣屋越前守

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27.洗脳電波ジャミング作戦開始

時間はお子様たちが地下坑道へ旅立つ少し前にさかのぼり、

 

新光暦238年4月8日午前10時52分 ジャン・レオン・ジェロームに向かう客船船内

 

何の変哲も無いアークスシップフェオとジャン・レオン・ジェロームとその勢力化にある

400番台のオラクルシップとを結ぶ航路を航行する小さな移動バスシップ、

その古く粗末な船に客はまばらである、

平素普通に生活するアークスシップの住人の中でスパルタクス党勢力化のシップ群に

用向きのある者は少ない、従って航行する船も小さく粗末なものがあてがわれる、

 

話し声もまばらなその船がにわかに騒がしい、

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁもうっ!」「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁもうっ!」

 

わめき声になにやらやわらかい物とさくさくした物を租借する音

そしてその音がする後部の席からなにやら銀色の塊が吹き上がっている、

席に目を凝らすと原生生物研究所を恐れる人々が見たくない

緑色の小さな塊がわめきながらチョコバーを貪り食っているのであった、

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛なんか俺また貧乏くじ引かされてる気がするね!

たまにはゆっくり寝させろよ!」

 

いつもごろごろしてくせにテツは不平不満からか好物のチョコバーを貪り食い

非常識にも包み紙を周囲に撒き散らしわめいているのであった、

 

「はいはいボク・食べ散らかしたらだめでちゅよぉ~」

 

水商売から転職したてなのだろうか定期客船に不釣合いな色気が横溢する添乗員が

漢であるなら耐え難きなまめかしい腰や尻を無防備にちらかされた銀紙を

拾い集める、ジェロームの住人や軍部の軍人なら知らぬものはいない彼を知らないようだ、

 

「うるせーよ!俺子供じゃないし!」

 

テツは不機嫌やるかたなしで子供呼ばわりに抗議した、そしてお色気添乗員は

 

「ぼく食べ散らかしちゃ だ・め・よ」

 

と鉄の頭をなでると腰を振りながら控え室へと戻っていく、

そして誰もいなくなったかと思いやけ食いを続けようと隣の席の脇息を畳み

寝転がろうとすると目前に顔が見えるまた添乗員が文句を言いに来たのだろう

視線を向けるとそこには小さな女の子がテツを覗き込んでいる

 

「ねえ・なんでおこってるの?おこるとだめってママがいってたよ」

 

そう言うと小さなポシェットからキャンデーを取り出してテツに差し出した

テツの気持ちをやわらげようとやさしさのこもった小さな贈り物をあげようとしているのだろう

 

テツは心の中で

 

「(脳天ぶち抜くぞクソガキ!)」

 

と思ったが口に出さず強く勧められたキャンデーを受け取ると

そばに置いてあるチョコバーのカートンからチョコバーを一掴みとりだし女の子に差し出した

 

「わーいありがとこうかんこうかん♪」

 

女の子はうれしそうにチョコを受け取ると近くに座っていた母親の元へ走っていった

 

「あの・・・お菓子ありがとうございました・・・」

 

「いやぁいいよいいよ俺ももらったし・・・ってなんか顔色悪いけど大丈夫?」

 

程なくしてそれを聞いた若い母親はテツの元へきてチョコバーのお礼を述べた

テツは2つの座席に寝そべりながらそれを聞いていたが若い母親の暗い顔が気になり

具合が悪いのかと問うた、

 

その若い母親はテツに語る

 

「夫はアークスの先遣調査隊の隊員でした、先月戦死しまして正式な手続きを

踏んだにもかかわらず見舞金と遺族年金や生活保護の申請が却下され

住んでいたアークス隊員の宿舎からも追い出されてしまいました、

もう食べる物も住む所もありません、

スパルタクス党のフロリヌスさんはテレビではひどく言われていますが

優しい方だと伺っています、ですから助けてもらえないかとお願いに行く途中なんです・・・

そこで助けてもらえなければどうしたら・・・」

 

若い母親は悲嘆にくれ頬からは涙がこぼれている

 

テツはすぐに原因が分かった、アークス職員と政府の役人が横領したのだ

腐敗した政府とアークスの職員がよくやる手口で要領の悪そうな若い母親は

賄賂を渡さなかったため差し止められたのだろう、

当然役人たちは正式に支給されているとウソの報告を続けていることは間違いが無い

正義に対して厳格な鬼悪魔の集団、原生生物研究所最強のアークスであるテツにしては珍しく

菩提心が沸き起こる

 

「大丈夫!これも何かの縁だし俺さフロリヌスとは知り合いだから何とかしてあげるよ!」

 

「本当ですか!お願いします助けて下さい」

 

その声を聞いて若い母親は涙を流しながらも幾分か表情を和らげた、

むろん若い母親が軍人時代にテツとフロリヌスが知己であった事を知る由は無い、

 

その時船内アナウンスが響く

 

「まもなくジャン・レオン・ジェロームに到着いたします、お忘れ物の無いように・・・」

 

客船は船底に示されたガイドラインに沿ってジェロームの受け入れハッチへ

ゆっくりと吸い込まれるように進入していった、

 

タラップが差し出されテツと親子はジェロームへのだい一歩を踏み出した

そして下へ降りるとテツが来るのを今か今かと待ち迎えに来た面々が手を振る、

 

テツを迎えにフロリヌス、ラヴェール、ユキノ、ヒツジ、羊子

そして暇があるフロリヌスの周りで働く職員の面々が出迎えに来たのである、

 

「やぁお迎えありがとね!」

 

「テツさんわざわざお呼び立てして申し訳ありません、テツさんお一人ですか?」

 

くすんだ白銀のドレークボディを光らせながらフロリヌスはテツをねぎらう

 

「源さんは分析、シンジュクちゃんは待機、ねねちゃんたちはリリーパの地下坑道へ

修行に行ったよ、ところでフロリヌス俺が頼んだのはいくつできてる?」

 

「この人がフロリヌスさん!」

 

娘の手を引いていた若い母親はフロリヌスと名前を聞くとまるで電気でも走ったかの如く

フロリヌスに駆け寄り目の前で地にひざを折り土下座をすると感極まったのか

涙を流しフロリヌスを見上げ声を振り絞って哀訴しはじめた、

 

「どうされました?テツさんこれはどういう事ですか?」

 

「私はどうなってもいいですから!せめて娘だけでも助けてください!お願いします!」

 

絶叫し何度も頭を下げる、涙と鼻水が地面にいくつも流れ落ち必死の程が伝わってくる、

何も知らない幼い娘も不安に駆られ泣きそうになっている、

フロリヌスはうなづくと若い母親を助け起こしやさしく声をかける

機械たるキャストのため表情こそ変わらないがその声には慈悲の心が溢れていた、

 

「お立ちください、お話を伺いましょう」

 

迎えに来た面々も面食らいながらも寄る辺なき親子の手を引き軍議を始める予定を

繰り下げて事情を聞く事とした、

 

軍議の間に着くと補佐官のミツヨシが待ち構えていた

 

「お待ちしてましたよテツさんご足労をおかけします」

 

「ミツヨシさん軍議は後です」

 

フロリヌスは軍議は後とミツヨシに告げると彼はそれを了承し皆に席を勧めた、

 

母親が少し落ち着いた所でテツに話した事と同じ内容をそしてここに来るために

善意で恵んでもらった全てのお金を使い果たし今晩から娘に食べさせる物すらなく

困窮している事、家にあった財産まで不当に差し押さえられ困窮している事を訴えた、

 

本来悩みというものは冷静に聞かなくてはならないが、部屋にいる面々全てが

顔を紅潮させ激怒を持って話を聞いた、

 

「血も涙も無い許せませんの!」

 

とかく激怒したユキノはテーブルを叩き羊子も同じく怒りをあらわにする

 

「泣かないでほら♪ほら♪楽しく踊ればいやな事もふっとぶわよ♪」

 

兄の羊は愛らしい女の子に野趣溢れるふんどしダンスで場を和まそうとするが

妹の視線と電気首輪のスイッチが入らないかと心中戦々恐々である、

 

「お名前を教えてくれるかしら、ちょっと調べてみるから」

 

ラヴェールは誰に言われるまでも無く端末を開き彼女の名前を聞くと

独自に集めた情報網からこれら役人たちの横領が事実であることを確認し皆に伝えた、

 

「・・・間違いない、あいつらまた横領してるね・・・どこまで腐ってるんだ」

 

「さすがにゆるせないね!あとで源さんにチクっとくよ!」

 

テツも怒りがわいてきたようである、

 

「分かりましたすぐ生活が困らないよう手配します、よろしいですね頭領」

 

「頼みます、困った人を見捨てる事は我等の恥辱です」

 

そしてミツヨシも言われるまでも無く親子の生活基盤の構築へ各部署に手配を行う

弱者は見捨てない、たった二人のために皆がもてる全力を尽くすスパルタクス党の

面目躍如である、

 

30分ほど時間が経過しミツヨシの端末に通信が入る

 

「安心して下さい大丈夫ですよお母さん、スパルタクス党はお二人を歓迎します

お気に召して頂けるか分かりませんがしばし我等が船でお暮らし下さい」

 

「え・・・あ・・・ありがとうございますありがとうございます!」

 

「よかったねさぁお腹もすいたでしょ何か食べて元気出して」

 

再び泣き崩れる母と母を気遣う娘をラヴェールはやさしく助け起こし

親子とラヴェールは食堂へ向かうため退室する、

 

「じゃ俺も!」

 

テツは食事にありつこうと席を立つがフロリヌスの白銀の手がテツの首根っこを

捕まえる、

 

「今から作戦会議です食事はその後でお願いします!」

 

というと投げ込むかのごとくテツを席に放り投げた、テツは不満をあらわにするが

 

「なんだいこの扱いの差は!おれだってお腹減るんだよ!」

 

「後で好きな料理も一皿添えますから我慢してください」

 

「ほんと?じゃあ白身魚のムニエルとすき焼きとかに味噌どんぶり10杯分!」

 

フロリヌスはだまって首を縦に振り続ける心の中ではあきれているのだろう

なだめられテツはおとなしく席に着くとドアの向こうから声が聞こえる

 

「頭領失礼します」

 

三人だろうか元気な声が聞こえドアがスライドして軍議の間に3つの人影が滑り込んできた。

 

そこには3つの顔があった、寸分の狂いも無く見事に剃りあげられた頭が照明に

まばゆく光り、何かの趣向だろうか3人ともかつてテラにあった日本と言う国で

用いられた着物を着て両手を合わせて頭を下げる、

 

 

【挿絵表示】

 

 

テツには古くから見知った顔であったが面識の無いメンバーの方が多くフロリヌスは

それを察し3人が何者であるか自己紹介を始めた、

 

「彼らがこのスパルタクス党を技術面で支えている優秀なエンジニアチームの責任者たちです

以降お見知り置きをお願いいたします」

 

紹介が終わると3人は再び合掌して頭を下げた、

 

「拙僧らはかつてテラに存在した日本と言う国の仏教に強く感化され

結束を固めるためにエンジニアチーム全員が頭を丸め(させられた者多数)

僧という生き方を可能な限り再現模倣しているのです

これこそが真理なのです!」

 

と一番老齢な最高責任者は誇らしげに語った、

その語り口には他人が口を挟めない確固たる信念とわずかながらの狂気が伺え

もはや軌道修正という言葉が入り込む余地など無かった、

 

「なんでしょう・・・うむ・・・・分かりましたすぐに向かいます」

 

フロリヌスはふと通信を受け応答すると何やら大事な政務があるらしく

席をはずす事を詫び、後ほど決議の報告を頼むと言い部屋を出て行った、

 

部屋に残されたテツとユキノ、羊兄妹、そして愚僧たちが残され自分たちで軍議を進める事と相成る、

 

テツが切り出す

 

「図面送っておいたクーナの洗脳フォトン防止システムの出来具合はどう?」

 

エンジニアチームの3人の仲で一番若い浅黄の着物の愚僧が答える

 

「ひとまず基本は完成していますが発信機はまだ18機程しかできていません」

 

そう言うとソフトボール大の丸い機械をテーブルに置く

 

「いきなりの注文だからね!それだけできれば上出来だよって手が届かない・・・」

 

テツはテーブルから発信機を取ろうとするが体が小さく手が届かない、

 

「アハハハハハハハハ」

 

「何?」

 

「いいえいえなんでもっ」

 

羊子はその様を見て笑うがテツがにらみつけるととぼけた表情でその場をごまかした、

彼女は一瞬背筋が凍るような殺気を感じ怯んだのである、

 

テツはアイテムパックから検査機器を取り出すとクーナの歌を流しその発信機の

作動テストをはじめる、

歌を流すと発信機が反応しフォトンを視認できる面々はクーナの洗脳が入った

黒紫のフォトンが中和され清浄な水色のフォトンに変わるのを見た

 

「あいつらの洗脳フォトンより俺の作ったジャミングフォトンの方が強いんだよ」

 

自慢げのドヤ顔で薀蓄をたれ、そして正常に作動する事を確認すると

皆の前に向き直り自分が考えていた作戦内容を全員に通知する、

 

テツの発案はこうだ、クーナの歌に乗せてオラクル全土に流れてくる

サブリミナル及び脳に直接働きかける洗脳フォトン粒子の発信元を駆逐するのは

現時点では騒ぎが大きくなるので難しい、

いくらスパルタクス党がヴォイドやアークス軍部とおおよそ互角に渡り合える戦力を

持っているとしても今は時期尚早である、

そこでこれらをまずはスバルタクス党の勢力圏から防ぎこれ以上の洗脳の拡大を防ぐ、

そのために勢力化にコントロール可能なクーナ洗脳フォトン粒子のジャミングを行う発信機を

宇宙空間に散布し相手に気取られないよう時間をかけてオラクル全土に散布し

これらの攻撃を無効化するという作戦であった、

 

「ところで中佐、発信機はあといくつぐらい生産しましょうか?」

 

エンジニアタームの最高責任者がテツに向かってたずねるがテツは不機嫌を露にした

 

「その中佐って言い方やめてくれる?俺はもうやめたんだから!」

 

「すっ!すいません・・・・テツさん・・・・」

 

その場に居合わせた面々はテツの反応に過剰なものを周囲は感じた

以前に何かがあったのだろう、暗黙のうちにこれに触れないほうが良さそうだと

皆は判断し沈黙を守った、

エンジニアチームの最高責任者は合掌し取り急ぎ謝ると

 

「同じ物をいくつ用意しましょうか?」

 

「そうだね・・・まず俺たちの勢力化に発信機を25000は欲しいね

オラクル全体で100000あればいけると思う、

後はこの発信機を小隕石か何かに偽装して分かりにくくしたいんだよ、

裸だとすぐにばれるからね、」

 

「なるほどそのように指示を出しておきます」

 

愚僧たちはテツの注文を漏らさぬよう端末で記録しながら同時にエンジニアチームへ

指示を送る、

 

「それと一定感覚に網の目状に展開したいから推進力と宇宙空間用アンカーの装備も

忘れないでね、後はうちらの船で航行する時にそれとなーく空間に投下して欲しいんだ」

 

「じゃあがどぴゅっと撒けばいいのね♪」

 

羊が言われるまでもなく散布に協力する姿勢を見せ羊子とユキノもそれを理解しうなづく

 

「一気にじゃなくて間隔をあけてだよ、500mは開けてね、ただファナティックウールとか

高速艦とか目立つ船でやらないでね!」

 

「派手にパーッと・・・」

 

羊がおどけて見せるがテツはかまわずに続ける

 

「それだとばれちゃうから貨物船とか定期航路の船からそっと降ろして欲しいんだよ

あいつら泣き寝入りしてるけど連合艦隊でヴォイドとシンパの船相当沈めてるだろ?

 

それにユキノさん練習のつもりか知らないけどスペースマフィアの船とか

ヴォイドの輸送船団襲いすぎだよ、あれから何隻沈めたんだい?

目立てばいいってモンじゃないしお互いに揉み消しが難しくなるから自重してね!

だから出てきただけで警戒されるから出しちゃだめ!ハッチから知らないうちに

漏れてたような感じでね!」

 

「あら私そんなに目立ってますの?」

 

ユキノはご機嫌な様子でテツに返した、

テツはあくまでこの作戦は隠密裏であることを皆に周知徹底した、

 

「しかしこんなのでほんとに大丈夫なの?」

 

羊子は発信機のサンプルを胡散臭げに見つめながらテーブルの上で転がし

テツが手に取ろうとすると手元に引っ込め再びテツににらまれて萎縮した、

 

「こいつは俺の自信作だからね!この発信機から出る信号が周囲のフォトン粒子に

発信した情報を焼き付ける、つまりフォトン粒子そのものが洗脳のジャミングを

してくれるしまだ焼き付けが終わっていない粒子と終わった粒子が触れることで

情報が伝染してよりジャミングが強くなるんだよ」

 

「フォトンは無尽蔵ですからヴォイドが気付いても容易に修正はできませんわね」

 

「ご名答!ねねちゃんはバカなのにお母さんは賢いんだね!」

 

「むっ・・・しかし本当におバカなだけに反論の余地がございませんの・・・」

 

ユキノの発言にテツは理解が進んだことを察し満足な表情を浮かべる

ユキノは一瞬不愉快な表情を浮かべるがなにか得心したらしくすぐに元の表情に戻った、

 

「後はフォトン粒子に植え込む情報だね、言われた仕事だけしてるのは芸が無いから

定期的にさまざまな情報をフォトン粒子にのっけて逆洗脳も行うよ!

バカのオラクル住人をこっちがコントロールする番だからね!

後はダーカーの襲撃がより早く分かるようにレーダー機能も入れといてね」

 

エンジニアチームの面々はさらに指示を部署に送りながらテツの話を聞く

 

「発信機から送る情報は俺たちで作って好きな情報を流せばいいよ

そして定期的に情報は更新して出来ればこっちが有利になる情報を

オラクル全域に流れるようにしたいね、だから時間をかけて全域散布は

絶対必要だよ」

 

三人の中で歳が中ほどの墨染めの着物を着た愚僧がテツに問う

 

「どんな情報でも入れて良いんですか?」

 

「俺たちの不利にならないものなら何でも!」

 

「さっき試験で流した映像なんですがこのクーナという小娘・・・なんてけしからん!

なんてけしからん尻をしてるのでしょう!これは仏罰に値します!

もう許しません!発信機でその事実をオラクル全域に広げるべきです!」

 

「いいねいいねネガティブイメージを市民に植え込むのはいい作戦だよ」

 

テツが意見を肯定すると年をとったエンジニアの最高責任者が席を立ち叫ぶ

 

「そうだこいつはヤリマンだ!仏に仇名す仏敵ぞ!」

 

「もう毎日毎日寝ずに朝までヤリマンだ!今度はロックベアとヤリマンだ!」

 

やおらアイテムパックから木製の楽器を取り出しポクポクと音を立て叫ぶ

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!ヤァァァァァリマアァァァァァァン!」

 

「恥をシレェェェェェヤリマァァァァァァン!」

 

ただれに言われるまでも無くテンションを上げクーナに対し非難を行う

 

「・・・・ぷぷっぷふふふ・・・・アハハハハおもしろうございますのっ!」

 

最初はポカンと愚僧たちの豹変を見ていたユキノが突然噴出し笑い転げ始める

 

ただ発信機のプログラムシステムだけは冷静に愚僧たちの言葉を拾い上げ

的確に記憶していった、

 

「ふぅ~ぅほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉう!」

 

愚僧の絶叫念仏にあわせヒツジのふんどし一丁のダンスは過熱を極め

軍議の間は混沌とした状況を呈している、

 

ちょうどその頃軍議の間へ向かう二つの影があった

なにやら小さな車輪がカタカタと動く音、ひとりはカートを押しているようだった

 

目を凝らすと一人はラヴェール、スパルタクス党勢力圏で滋養に富み愛される

グリーンティーと器をのせて運んでいるのであった、

そしてもうひとつの影は先にヴォイドの生体実験の犠牲となりながらも

皆の協力で無事救われキャストの体で生まれ変わったモモラーノであった

二人は雑談をしながら軍議の間へと歩みを進めるがふいに中から声が漏れ聞こえるのを

ラヴェールは大きく長い耳で感じ取った、

 

「ヤリマンヤリマンヤリマンヤリマン!」

 

「仏罰仏罰仏罰仏罰!」

 

「いいぞやれやれー」

 

「ギャハハハハおもしろうございますの!」

 

「ホォ~ウ宇宙全体ヤリマンよぉぉぉぉぉ!ラブ・ファイアーほぉぉぉぉぉぉぉ」

 

「ちょっとお兄ちゃん!やめなさいよ!」

 

そして激しく響く木魚の音と大笑いするにぎやかな声

疲れているだろうからせめてもの慰みにとグリーンティーを運ぶラヴェールは

足を止め少し悲しそうな顔でその場に立ち尽くしていた、

 

その後部屋に入ってきた激怒の表情を浮かべたラヴェールが

 

「まじめにやれ!」

 

とテーブルを叩き皆に怒鳴り散らし全員がしなびた草のように萎れたのは

言うまでもない事であった、

 

後にテツが開発した新しいジャミングフォトン粒子は改良が加えられ

テツの本名 テツ・ノヒトからノヒトシステムと呼ばれ

その技術がもたらす特許料がテツの食い扶持を大きく支えることになるが

それは少し後の事である、

 

軍議の間に重苦しい空気が流れる、ラヴェールは少々荒っぽく注いだグリーンティーを

全員に配ると皆怒られた子供のようにラヴェールをチラチラ見ながら飲む、

 

「で・みんな、話はまとまったのかい?」

 

「ああまとまったよ、あとはここの生産部門に世話かけるけどそこは頼むよ

このジャミングしくじったら洗脳された市民が敵に回る事になるからね

たとえ洗脳市民を押さえつけても後々のしこりになって残るから

事前の予防に失敗したらたとえ戦いに勝っても戦略的に負けだからね!

念入りにしなきゃだめだからしんどい所わるいけど予算もしっかり取ってもらうよ!」

 

「その通りだね、後で頭領には私からも言っておくから遠慮なくやってよ」

 

方やラヴェールはすっきりとした性格もあり雷を落とした後はいつもどおりに戻り

報告を聞くと満足げな顔でうなづいていた、

彼女は軍議がまとまったようなのでそれ以上何かを言うつもりは無いようであった、

 

「テツさん・・・先日はありがとうございました、あの・・・よかったら食べて下さい」

 

横に控えていたモモラーノは手に持った大きなバスケットをテツの前に置く

そこにはテツがここに来る前にやけ食いをしていたのと同じチョコバーが

抜くのも大変なくらいぎっちりと差し込まれている、

 

「・・・・(もういらねーよ!気の利かないやつだなぁもう!)」

 

テツは絶句してチョコバーのかごを見ていたがはたと思い出しらしく

モモラーノに話を切り出した、

 

「そうそうモモラーノさん、源さ・・・いや垣屋博士から伝言があるんだよ

今の体でも差支えが無いんだけど仮のものだから体をどんなふうに再生するか

本人の意思確認をしてきてくれって」

 

モモラーノはテツが話しきるまで聞く姿勢でこちらに耳を傾けている

 

「今迄みたいに生身の体を再構築して脳を入れ替えして生身の体に戻るか

あるいはキャストのままでいるか、すぐじゃなくていいから決まったら知らせてって」

 

モモラーノが迷うことがないよう最後の言葉を付け加えるとすでに決めていたようで

テツにすぐ返事をした、

 

「私・・・・これからはキャストとして生きて行こうって決めたんです

この体はみんなの優しさが詰まった体、とても気に入ってるんです」

 

さして美人でもないが声だけは無意味に愛らしい彼女は答える

しかし心の闇はどこにでも存在するもの

少々肉付きが良すぎた彼女はいくら食べても太らず、見た目も劣化しない

ダイエットの努力不要、基本的に睡眠が不要な体は

深夜番組が大好きな不摂生な彼女にとって大いに有利に働く

「ロックベア」「ぶたの全力疾走」「悪魔のデブデブモンスター」など

公正で忌憚の無い観察眼からつけられた仇名も考慮に入っていた事は

言うまでもない、

心の闇と欲望そしてしたたかな計算高さが彼女をキャストとして生きる道を

選ばせたのであった、

 

「今は頭領のそばで船内放送のオペレーターの仕事をもらっているんです」

 

「以前の事があるからもっと療養して欲しかったんだけどね、」

 

ラヴェールの気遣う言葉にモモラーノは感謝しつつ笑顔でたたずむ

彼女も先の親子のようにこの船に腰を据える事に決めたようだ、

 

「ああそうそうユキノさんねねちゃんたちは地下坑道へ修行に行ったよ」

 

そしてテツはユキノにねねの近況を伝える、

 

「あの子達だけで?」

 

「まぁいつまでも子供じゃないし俺たちがいたら修行にならないからね」

 

「確かに・・・お三方は異常ですの、博士はともかくあなたとシンジュクさんは

一体どこでここまて鍛えられたのですの?」

 

「あまり詮索しないほうがいいよ・・・とくにシンジュクちゃんはね

それと俺は詮索されたくない!余計な事はしないでね」

 

「・・・分かりましたの・・・」

 

ユキノはなにか釈然とせずテツの忠告に素直にうなづいた

この時すでにユキノは艦船の操舵と運用を学ぶついでにねねの事が心配で

薄々と研究所の住人の身元の確認をしていたのであった、

やはりあの研究所の住人はそこいらのアークスや市民とは違うのだと、

そしてますますねねが下宿している事に不安を覚えるのであった、

 

新光暦238年4月9日午前8時18分 ジャン・レオン・ジェローム

 

テツはひとり食堂で朝食を食べた、ここでもこれ見よがしに多くの種類の料理を並べ

この小さな体のどこに入るのかというくらい盛大に食べる、

 

「あの・・・・」

 

食べるのに夢中のテツに遠慮がちに呼ぶ声が聞こえる

 

「おかわりならそこにおいといて!もっともっと持ってきてね!」

 

「いえ・・・・あの・・・・」

 

「ん?」

 

テツは食事を手に置くと声のする方を向くと昨日の親子が立っている

 

「おじちゃんおはよう」

 

「ああ・おはよう、しばらくはここにいるといいよ、心配しなくても手はずは

しておいたから、家財も取り戻せるし財産と払われるはずだったお金はそんなにしないうちに

振り込まれるはずだよ」

 

「・・・何から何まで・・・なんてお礼を言えば・・・あの・・・ここの皆さんから

テツさんの話を聞きました・・・」

 

「誰?余計な事を言ったのは?俺の事は詮索されたくないんだけど」

 

「いえ、実はテツさんが優秀な技術者だと伺ったのです」

 

「大したもんじゃないよ多少いじくる程度」

 

「実はテツさんなら亡くなった主人の遺品がお役に立つのではないかと思って

もし良かったらお礼に受け取ってもらえないかと・・・」

 

若い母親はテツにいくつかのディスクと図面を手渡した

 

「何か武器のフォトンジェネレーター関係の図面だねぇ・・・ん・・・?

ふむふむ・・・・!これはなかなかにすごいね!」

 

テツは食事の手を止めさして期待せずに図面に目を通したそして目を鈍く光らせると

 

「ありがとう活用させてもらうよ!」

 

向き直り礼をと言うと親子は笑顔でテツを見つめていた、

しばし親子と話をした後テツは親子の帰った後に通信端末を起動して垣屋へ連絡を取った

 

「・・・今出られないみたいだね・・・いいやメールしとこ」

 

テツは件の親子の件と横領した役人の氏名と住所などの情報を添付し

垣屋とシンジュクにあててきつい制裁を頼むと付け加えたメールを送信した、

これは今自分たちの命運が尽きた事も知らず横領や不正に精を出す

役人たちにチェックメイトが入った瞬間であった、

 

腹がこなれたテツは席を立つと体を伸ばしエンジニアチームが詰めている

開発室へと足を向けた

 

「もう少しここにいて仕事しないとねぇ・・・あとはこの図面・・・これは儲かるよ

これで毎日北京ダックでもOKだね!」

 

含み笑いをするテツの小さな影は廊下の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

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