31.沈痛の晩餐
一同は玄関からキッチンへ移動しチヒロが作りパイオニア一号が盛りつけた夕食を食べ始める
メインがビーフシチューに十分にローストされた肉料理、そして青々としたいかにも健康に
よさそうなサラダと果物、研究所の食事はメインディッシュ以外は各自の好みの物を取って食べる
バイキング形式で出される事が多く空腹であるならばすぐにでも食べたくなる一品揃いである、
「・・・・・」
しかしなぜかギリアムは無言で出されたビーフシチューを眺めるだけで口にしようとしない
「あの・・・お口に合いませんでしたか?」
チヒロは申し訳なさそうにギリアムに話しかける
「食べもしてないのに口に合う合わないはないよ」
シンジュクは突っ込みながらも食事を続けその様子を見て食事の手をとめた垣屋は
ギリアムを見てあきれ顔で言う、
「大丈夫じゃよ、人肉なんて入ってねえからビーフだビーフそんくらい食えるじゃろが」
(ギクリ!)
ギリアムは心臓に何かが突き刺さるかのようにドキリとした、完全に読まれている
しかしここで怪しい動きをして何かあれば手練れの彼を以てしても
無事では済まないであろう、ここは悪の巣窟なのだから、
「そっそうですよね!いっいただきます!」
普段は冷静である彼であるがなぜかここにいると気持ちがかき乱され自分のペースが
崩れていく焦りが焦りを生む、いつも自分がリードするアッシュとスゥとルビかとは勝手が違う
いつもの4人ならばほとんどのイニシアチブを取るのは自分だ
アッシュは大事になった時の最終決定くらいしか声を上げはしないし
さして小事には興味がないためそこを埋め合わせるのが自分の役目である
しかしここの連中は危険人物のレッテルを貼られたやばい連中ばかりである
致し方ないとはいえその巣窟に半ば単身放り込まれるように飛び込んだ事を
ギリアムは後悔していた、生身の体だったなら冷や汗と脂汗が入り交って見苦しい
事になってなっていただろう、機械の体である事に今は感謝するしかなかった、
「アークスネットのくっだらねー書き込み見たんじゃろ?食えるモンがあるのに
なして人肉なんか食わなならんのじゃ」
垣屋は再びシチューを口に運び具を噛み締めながらながら言った、
「そ・・・そうですよねそんなはずないですよねっ!」
ギリアムは急いでシチューをかきこむが当然味など感じる余裕がない、
「源さんあの書き込み書いた奴だれか特定できてるよ」
シンジュクが言うとすぐさま返事が返ってくる
「ほう・そうか、ヴォイドのスガッキーノかそんあたりじゃろ、ガキが何のうらみがあって
そんな事するんかのぉ」
「あたり、スパイク付きロードローラーで追っかけまわしたりフリー〇〇で砂漠で放り出したり
手首と大事なところをライフルで撃ち抜いただけでそこまで恨むとは肝っ玉が小さいねぇ」
「ただあのはんずかしい動画を流したのはワシらじゃないぞ」
「まぁいいじゃんおもしれーから、あたしだったら絶対自殺してるね、あいつはすげーよ
そんなハヅカシイ目に遭って強く生きてるんだからさ」
「違いねえの」
垣屋とシンジュクは大笑いギリアムは視線をずらすとチヒロは目をつぶり耳をふさぎ
「聞いてません聞こえませんん~」
と言いながらテーブルに顔を押し当てパイオニア一号は目をそらして素知らぬ顔だ、
これが研究所にいる「まともな」人たちの生きるための処世術の一種であると
瞬時に理解するに至った、
フーリエはと言うとシチューを食べる事に集中して聞いていない様子である、
何事にも一本気な彼女らしいと言えばそれまでである、
「フーリエそう言えばさっきチヒロさんを姉さんと呼んでいたが・・・」
ギリアムは間が開いたのでフーリエにたずねた、
言葉を詰まらせ言いたくなさげなそぶりを見せていたがチヒロが良いという素振りを見せたので
フーリエは口を開いた、
「ええ・・・私とチヒロ姉さんは元々はスレイブだったんです・・・
そして解放されて身寄りがなかった私たちはフロリヌス頭領が兄になってくれて兄妹に
なったんです」
スレイブとはヴォイドの勢力下で奴隷として扱われ強制労働や人体実験などで消耗される
人々でありヴォイドの活動を黙認するオラクル中央政府も奪還や抵抗の恐れのない
罪人やその家族、戦災孤児等の市民の捕獲を黙認しておりその暴挙の後には
何かしらのこじつけやつじつま合わせでごまかされ処理される
政府はスレイブなど存在していないとデマを流し市民を騙そうとしているが
知る人は知るしかし自分がそうなりたくないため口をつぐんで
消極的にそれに従っているのである、
政府の腐敗した役人はそれら連行された人々の資産をヴォイドと山分けなので
率先して協力する輩も存在する、
ギリアムはフーリエから話を聞くとチヒロとフーリエのアークスカードを
一言断り見せてもらうと二人の名字がスパルタクス党の党首である
フロリヌスの名字マクシミリアヌスとなっており
フロリヌスの親族だと言っている事が事実であると確認する事ができた、
「ギリアムちゃんよ、セイクリッド社って知ってるじゃろヴォイドお抱えのクソ企業じゃ
チヒロはあいつらに子供の頃収容されて強制労働をさせられてたんじゃよ」
ギリアムは記憶をたどる、ヴォイドお抱えのセイクリッド社という企業が過去に存在し
軍事兵器やその他物資の製造を一手に引き受けていた、
しかし突如として出現した謎武装勢力の襲撃により
セイクリッド社は主要プラントを失い資金繰りが悪、化政府の支援むなしく倒産したと
言う事であった、
「しかし博士セイクリッド社はオラクルに多大な貢献をした優良企業だったはず
存在しないスレイブを使うなんてありえ・・・」
ギリアムが言い終える前にシチューを食べ終わったシンジュクがせせら笑う
「あいつ等が優良?おめでたいにも程があるねぇ、ナベリウスの英雄も政府のデマに
踊らされる言いなり人間ってか?」
「まさかそんな事が・・・にわかには信じられないが・・・」
「そのまさかじゃよ、気になるようなら自分の力で調べてみるんじゃの、そんほうが納得が
いくじゃろて、おめえらが言うほどこのオラクルは正義がまかり通ってる訳じゃあないんよ」
「まぁ最もあまり嗅ぎまわると今度は自分がスレイブにされるか消されるかも知れないけどね」
シンジュクはゲラゲラと笑いギリアムはそう言われると黙り込んでしまった、
しかしフーリエやチヒロが嘘をついているようには見えずギリアムは困惑していた、
後にギリアムは真実を知る事となる、垣屋、シンジュク、テツをはじめとする
研究所の面々や、ヘスティア慈善事業団所属の特殊救護隊カルテット、
上杉組をはじめとする傘下のスペースヤクザや反ヴォイドの心あるアークス等により構成された
少数精鋭の極秘義勇軍により内部制圧されスレイブが解放され
セイクリッド社は近隣の植民惑星の解放も手伝い生産能力が著しく低下
そのセイクリッド社のプラントシップが当時謎の武装勢力と目されていた
極秘義勇軍に解放されたスレイブたちが結党したスパルタクス党の勢力下に置き換わったのである
ヴォイドと結託した政府はプロパガンダに追従しギリアムをはじめとする
市民に事実と異なる嘘を吹き込んでいたのである、
すでに水面下で内戦状態のオラクルである、ただでさえダーカーという交渉の余地もなければ
問答無用で正体もうかがえない敵への対応ですら後手後手に回り
市民の動揺を抑えるのに優しいウソを乱発してごまかすのに必死の状況である、
そこで内戦が中央政府領域にまで拡大しそこが戦場になれば
この第7オラクルは滅亡は間違いのない事であり
ヴォイドも政府も自らだけでそれをカバーしきれぬ状態で互いの勢力を時として
利用しながら一定の戦闘力を確保しなければならないという事情も手伝い
表面上内戦などしていないと平和を取り繕っているのが現状である
オラクル中央政府は双方の板挟みで両陣営の人間もオラクル内中央政府の領域の行き来は
黙認しているのであるがややヴォイド寄りの政府の事もありスパルタクス党の住民たちは
あまり目立たないようにオラクル内で注意を払っているのであった、
「しっかしフーリエちゃんだったか?解放が終わって立て直ししてた時におったかのぉ?
記憶にないんじゃが・・・」
垣屋は首をかしげる
「私はシップじゃなくて鉱石採掘用の植民惑星の採掘プラントにいて皆さんが助けに来て
くれた時は入り口を発破でふさがれて生き埋めになっていたんです、
助けてもらえるまで時間がかかりましたから知らなくても当然です」
「そうじゃったかそれは悪い事をしたのぉ・・・」
「いいえ!皆さんが助けに来てくれたからこそ生きてるんです、お礼が遅れてしまって
ごめんなさいです」
常に前向きで相手の気持ちを労わることを第一とするフーリエの言葉に垣屋は
救われた気がした、
フーリエの話によると採掘作業に割り当てられたスレイブたちは義勇軍による
ヴォイドの防衛隊との衝突の折セイクリッド社の隠ぺい工作の一環として
採掘プラントの隠滅のため発破による爆破で生き埋めにされたとの事であった、
その後解放されたスレイブたちの手によって救出されたとの事であった
その後フロリヌスやミツヨシらを中心としてスパルタクス党がここで決起し
政府やヴォイドに追われ行くあてのない虐げられた人々を受け入れ
急速に発展し今やヴォイドに押されぬ勢力に成長し
政府も手を出せず歯噛みしながらも存在を認知せざる負えない所まで来ているのである、
やや沈痛な夕食が終わるとギリアムとフーリエは垣屋の止まってくつろいで行けと言う
すすめを断り暇を告げてそれぞれの部屋へと戻る事にした、
「おいしかったですねギリアムさん」
帰り道つとめて明るくふるまうフーリエの呼びかけにもギリアムは無言だった
ギリアムは今までの自分の価値観や信じていた正義が崩れていく事に少なからず
ショックを受けていた、それは今までに味わった事のない事であり
戦いの傷よりある意味ショックの強いものであった
すでに今までの自分に戻れない悪党すれすれであるが垣屋やシンジュクの言う事は
嘘と切り捨てる事もできなかった、
知らなかった、いやうすうすとは感じていたがそれに目をつぶって逃げていただけだった、
ギリアムはフーリエと別れると自室に戻り端末を開き垣屋たちが言っていた事が
事実なのかこっそりと調べ始めた、アッシュたちが回復するにはまだ時間がある
見舞いをしながら調べる余裕は充分にあった、
新光暦238年4月10日午前9時08分 アークスシップ1番艦フェオ 原生生物研究所
朝食を終えそれぞれが思い思いの時間を過ごしていた、垣屋はリビングで何かの書類を
読みシンジュクはライフルをセーム革で磨きチヒロはベランダの花の手入れをし
パイオニア一号は読書、ラピ子やベッコたちは庭まで下りて走り回って戯れている、
そこに突如通信が入りリビングのモニターにテツの顔が写し出される、
「やぁおはよう元気でやってるかい?」
「おお、テツちゃんかそっちはどうかね?」
「ジャミングシステムはライン生産に入ったからそんなにしないうちに
洗脳攻撃は無効化されるよ、ジェロームの勢力範囲は2週間もあればいけるね
まぁそれはいいけど早くテレビのニュースつけてよ」
テツに促されて垣屋はテレビの指定されたチャンネルをつけてみる
ニュースでは福利厚生を担当する役人とその家族が何者かによって殺害され
排せつ物の処理をする汚物タンクに浮いていたと報じられていた、
「それがどうかしたんかね?」
「なんだ源さん俺のメール見てなかったの?」
垣屋は急いで確認するとテツのメールがごみ箱フォルダーに移されてるのを見つけて開封する
内容を熟読しテレビで殺害されたと報じる腐敗役人たちへの制裁を依頼する内容であった
リリンパの母の手術で忙しく見ていなかったのだ、
「シンジュクちゃんよくやってくれたね!これでみんなも喜ぶよ!」
「あの世で豚野郎は満足してるだろうさ(笑)自分のやらかしたことで家族やガキも
巻き添えになったんだからな!」
「どんな手を使ったんだい?」
「簡単だよ奴らヴォイド傘下のマフィア、セヴェリー二一家と癒着してたから
あのクソ役人の端末を遠隔操作して内部告発ってメール作って一家の知られたくない
あんな秘密こんな秘密、ボスがパンスケ相手に赤ちゃんプレイしていた動画も添えて
あちこちにばらまいといたのさ、
あいつら瞬間湯沸かし器だからすぐに片付いたねドゥフフフフフフフアハハハハハハ」
「さすがだねぇ!いいアイデアじゃんこれでヴォイドやスペースマフィアにも
打撃になるしホント賢いやり方だね!」
テツは感心しシンジュクへの称賛を惜しまなかったがベランダから一部始終を聞いていた
チヒロはじょうろを床に落として目と耳をふさぎ
「きいてませぇ~んきこえませぇ~ん」
といつもの現実逃避をしているのであった、メールを読んだ後垣屋は軽くため息をついた後、
「なるほどのぉ~シンジュクちゃんよぉ念入りにばれないようにやってるだろうが
おめえは保護観察中の身なんじゃからあまりド派手な事はするなよ」
「分かってまちゅってこれでも容赦してやったんでちゅよ」
そう言うと3人は大笑いしチヒロはさらに強く目と耳をふさぐのであった、
「あとねもうちょっでこっちが落ち着くよラインさえ構築しとけばあとは坊主たちに
まかせられるから、戻る時にいいお土産持っていくよ!」
「そりゃ楽しみだねぇ食い物以外で頼むよ」
テツの背後から坊主のひとりの呼ぶ声が聞こえテツは答えると皆に手を振り通信を切った、
「さてと・・・ガキどもも戻ってきたようじゃな」
垣屋はソファーから身を起こすと外からかすかに聞こえる声を感じ取り言った
「平和な日々は続かないねぇうるせーガキ戻ってきたか・・・」
シンジュクは舌打ちし磨きあがったライフルをアイテムパックに押し込んだ、
玄関からドヤドヤとにぎやかな声が聞こえてくる、お子様たちがラッピーランドから
帰ってきたのだ、
「旦那しゃまただいまなのじゃっ!」
抱きつこうとするねねを垣屋はひらりとかわし楽しさから高揚したお子様たちから
帰還のあいさつを受けブリュンヒルデからは修行のため一時離れる旨と
暇を告げられ一同は玄関で見送った、
ブリュンヒルデの姿が見えなくなると垣屋はお子様たちに言った
「どうじゃ楽しかったかの?」
「たのしかったのじゃー」「うんうんとっても!」
ねね、スゥリンとパティの元気が良い返事と恐縮して感謝をのべるティアに垣屋は満足し
口を開く、
「さってとリフレッシュしたら次は・修行じゃな、次はアムドゥスキアの浮遊大陸で
司令部の課題をクリアして来い、」
「つってもこいつらだけで大丈夫かい?」
「大丈夫じゃない!じゃから今回はおまえたちにお守を付ける事にした、今から顔合わせに
行くからついてこい」
垣屋はそう言うとチヒロとパイオニア一号に出かける旨を告げるとシンジュクは
一緒に行かないと告げ3人は研究所に戻って行った、
垣屋とパティとティア、スゥリンとねねは別のシップに移動するために定期船に乗り込む
目指す先はアークスシップ第47番艦ファイアーウッドであった
お世辞にも裕福と言えないダウンタウンシップとも呼ばれる艦で富裕層は倦厭して
寄り付かない程度である、
移動中お子様たちはシップ内ではしゃぎティアにたしなめられるも聞く様子はない
ふと垣屋のアイディスプレイにシンジュクからチャットが入る、
「源さんお守りってやっぱあいつらと戦いたくないって事かい?」
「あたり・カ・ミツに浸食されたヤツを倒す事を気に病む必要はないって言われてものぉ~」
「源さん青い竜族と仲がいいからねぇ、んで・だれをお守りにする気だい?」
「バド兄弟に頼もうかと思っての、」
「ずいぶん強えの雇うんだねぇ、あいつらの修行にならないんじゃないか?」
「まぁそろそろ食費に事欠いてるだろうし仕事を振ってやらんとなぁって訳で
話付けてくるわ」
シンジュクはそれを聞くと通信を切った今回は自分の出番はなさそうであるし
垣屋の顔も「たまには」立ててやらねばならないしばらく余暇を楽しむ事に決めた、
定期船がファイアーウッドに到着すると垣屋はお子様たちを引率しダウンタウンへと
足を運ぶ、整然としたフェオの街並みと違いどこか古き良き時代を感じさせる
街並みはお子様たちには新鮮味を感じるらしくさらにはしゃぐ声が大きくなっていく、
「旦那しゃまどこに行くのじゃ?」
ねねの質問に垣屋は答える
「おめえらの浮遊大陸の修行でお守をしてくれるのと顔合わせじゃよ」
「そうかやそうかや、楽しみなのじゃっ!」
そういって先走るねねたちを見守りながら垣屋は横筋のうらびれた商店街へと進んで行く、
「場所はこの辺のはずなんじゃがのぉ・・・」
垣屋は端末のナビゲートをみてつぶやく、辺りには営業しているのが不思議なくらいの
古びた店舗が立ち並びそのなかの一軒に目を止めた
「ビストロ・アイーダ」とかかれた小汚い看板が斜めにかかっており昼食時にもかかわらず
まったく賑々しさもなければ食べ物のにおいも漂ってこない、垣屋はそれでも
両開きの扉を押し中に入っていく
「じゃまするのぉ~」
店内は所々に痛みがあるものの整然としているが客の姿はなく閑散としている
「だれもいないのじゃー」
「つまんないのー博士いこいこ」
スゥリンはざっと見渡しパティーは別の所を見物したいのか移動を促す、
「いや・奥にだれかいるみたいですよ」
ティアが奥に目をやると女性だろうか奥から足音が聞こえる
その足音は覇気のない店とはちがいきびきびとした鋭さをうかがえ
奥から二十代の半ばくらいであろうかやたらと目つきが鋭く赤毛を背まで流した
若い女性が現れ大きくそしてドスの利いた大声で叫んだ
「おう!らっしゃい!」