PSO2水滸伝傍ら(かたわら)の群星   作:垣屋越前守

38 / 39
新たな戦いへの火種

シンジュクはニヤニヤと笑いながら正座しながらおびえる二人を

見下ろしていた、その横にはすでにこと切れ血を流している司令官と

その側近の死体が転がっている、大量の血液特有の咽るようなにおいが

指令室には漂っていた、

 

かたかたと震える二人にシンジュクは幾分か気が晴れたため落ち着いた声で話しかける

 

「お前たち助かりたいか?」

 

その問いに二人はおじけづきながらも首を縦に振る、まだ二人には自分たち(だけが)助かるかも

知れないという一縷の望みが心のどこかにあったのである、

二人の遠い記憶から慈しんでくれた両親の優しい言葉が思い起こされる

愛しい子よお前は私たちにとって特別な存在だと、

特別であるからヴォイドのエリート部隊であるデス・アダ―軍に配属され

突発的な危機の中ただ二人命を永らえているそれは何よりも自分たちが

特別な存在という自負、いや確信といってよい者であった目の前の鬼女のご機嫌さえ取れば

命が助かる明日という希望があるのだと、

 

「助けて頂けるならなんだって・・・するわ・・・」

 

「ぼくも・・・」

 

二人の返事を満足げに聞くとシンジュクは研究所でいつも過ごしている時のような

くつろいだ表情に戻りゆっくりと首を縦に振り理解したようなそぶりをして見せた

二人はしてやったと心の中で思いシンジュクを内心で見くびり始めていた、

 

シンジュクは間をおいてもう一度訪ねる

 

「何でもするんだね分かった、じゃあ私の質問に答えて、言う事聞いて満足させたら

あたしの権限で命は助けてやるよ、いいね?」

 

ただ虐殺をしたくて押しかた迷惑な客人の彼女がスパルタクス党でどんな権限が

あると言うのかはなはだ疑問であるが二人は知る由もない、

 

「おい・マイク」

 

「はっはいっ!」

 

「マイク・・・この女の事どう思う?」

 

「えっどっどうって・・・」

 

マイクは突然こんな事を尋ねられ多感なるお年頃でもあり気が動転していた

自分の命の危険とこの年頃の少年が一番聞かれて困る質問を同時にされたのである

しかしシンジュクはお構いなしに続ける、

 

「好きか?」

 

「いっいえっべっべつに・・・」

 

うめくような声で必死に答えるマイクにシンジュクは銃を突きつける

よく見ると今まで穏やかだった顔がみるみるうちに鬼女の顔に逆戻り

瞳孔のない白い眼から殺意のこもった視線と口が裂けているのではないかと思うほど

広がった口を力強く噛み締めたその顔は気の弱い子供や老人なら

精神の均衡を保つことは困難であろう

男マイク・デービスここは好きだと答えなくてはならない

一世一代男商売ここに極まれりである、

 

「はいっ!好きです!」

 

マイクの元気の良い返事にシンジュクは満足を示したそしてこう言い放つ

 

「じゃあ・・・交尾してみろ!」

 

「えっ?うええっ?!」

 

マイクはあまりの唐突さに驚き正座を崩した

 

「正座せぇ正座ァ!」

 

シンジュクの怒号にマイクは再び正しい正座で答える

一方モニターの向こうスパルタクス党の指令室は爆笑で湧き帰っていた

 

「ぎゃははははいいぞやれやれぇぇぇぇ!」

 

「交尾だってよ交尾!」

 

兵士たちの歓声とあきれ顔のラヴェール、そして興に乗り踊り出したヒツジと

混沌の様相を見せている、普段生真面目に過ぎて肩が凝るフロリヌスは

解放されたスレイブたちの慰撫に呼び出されしばらく戻っては来ないだろう

党の住人は何かしら中央政府やヴォイドに遺恨を持つものばかりだ

なんの躊躇があるだろう、後は野となれ山となれ事実を知ったフロリヌスが

怒って冗長な説教しようがお構いなどないのであった、

 

カメラというのは残酷で見られたくないこの羞恥を敵味方問わずありのままに

映し出し多くの目に晒すのだから、

しかしマイクは男の子であった今まで想像の世界でしかなかった女性に対する

興味と欲望が周囲の景色をそして羞恥をかき消していく

今マイクは解放された心の中でまだ見ぬ景色をもっともっと追いかけているのであった、

 

シンジュクはマイクとアンの襟首をつかみ引きずり倒すとやわな制服は見るも無残に

破れ丸裸に剥かれ画すべき場所を手で覆う二人にシンジュクは銃を向け

さっさとやれと怒鳴りつける

 

四つん這いを強要されたアンにマイクはおずおずと後ろからシンジュクの銃口に怯え

今までのイメージの世界での知識を元にリクエストに応えスパルタクス党とヴォイドの

衆目の面前で野外まな板ショーを始めるのであった、

最初はおずおずとではあったがやはりマイクは男の子徐々に腰使いにも慣れが来て

前後運動は加速していく命が助かるかの瀬戸際であるのに己の欲望が

まわりの景色を霞ませていく今までにない感覚であった、

 

「交尾!交尾!」

 

一方スパルタクス党の指令室では兵士たちは手をたたき音頭を取って大笑い、

ラヴェールは顔に手を当てて首を振っていたがハッと気付いて指令室外の部下たちに

通達を行った、

 

「すぐに司令部以外のモニターの電源を落として!こんなの頭領が見たら大変な事になるよ!」

 

通信の向こうから部下たちの笑い声と了解という声が聞こえる、遠隔操作で

全てのモニターの電源を落とすつもりらしい、

 

ちょうどその頃フロリヌスはスレイブから解放された人々を慰撫するために仮設の

収容施設へ部下と共に指令室から外へと歩いていた、前線から戻った部下から

報告を聞きながら周囲をそれとなく見ながら歩いていた、

ふと空いたドアからほのかな光がもれ無人の部屋にモニターがつけっぱなしである事を

見止めた

 

「やれやれドアが開けっ放し・・・モニターは付けっぱなしですか・・・まるで子供ですね

あれほど無駄なエネルギーを使うなと言っているのに・・・」

 

そうつぶやくと電源を落とそうと部屋に向き直った途端モニターの電源はぶつりと消え

部屋は光を失い暗闇に帰した、

ラヴェールの機転によりギリギリセーフかくして厳格な正義の裁きは中断される事なく

続けられるよう人智を越えた力により取りはからわれたのである、

 

一方マイクとアンは恥を耐え不本意なまな板ショーの続行を命じられていた

しかし男マイクはそろそろ限界のようであった何度も出るだのなんだのと弱音を吐く

 

「中にだせ責任はあたしが持つ!」

 

シンジュクは当てにならぬ約束でマイクを勇気づけた、マイクはそれで結構だが

アンはそれではたまらない

 

「クソガキ出すな!出したら殺すぞ!」必死にマイクをどなりつけるが後の祭り

マイクはけもののような喘ぎ声の後力なく果てた、

 

「バカ野郎・・・出しやがった・・・このクソガキ・・・」

 

狼狽するアンに絶頂で刹那の極楽を感じるマイク折り重なった二人をあざ笑うシンジュク

そして映し出されたモニターの先ではスパルタクス党はもちろんヴォイド側でも

多くの人間がこれを見ているのだろう、恥はかいたが命が助かる安堵感でいっぱいだった、

 

荒い息を整えながらマイクはおずおずとシンジュクにたずねた

 

「あ・・・あのこれで僕たち助けてくれるん・・・ですよね?」

 

「誰が動いていいって言った?こっちを向くなそのままでいろ・・・」

 

「はっはい・・・言う事聞いたから助け・・・」

 

マイクは早く助かりたい一心で結果を聞こうとしていたがその瞬間にシンジュクは

折り重なった二人の脇腹に素早くそして重い蹴りを叩き込んでいた

 

「る分けねぇだろ鬼畜共が!」

 

その蹴りの威力はすさまじく二人はつながり折り重なったまま指令室の窓を突き破り

はるか下の地表へとその身を躍らせ割れたガラスが光を浴びてきらきらと二人の鬼畜を

包み込み程なく鈍い激突音が聞こえ辺りは静寂に包まれた、

 

そしてシンジュクはヴォイド側につながっているモニターに鬼女の顔のまま向き直り

大声で怒鳴り上げる、

 

「おい!ルーサー!デス・アダ―!その他大勢のクソ蟲ども!見てるか!

おめぇの所の兵隊は弱すぎて話にならねぇな!しかも場所もわきまえず中出し交尾と

来たもんだ!」

 

怒鳴りながら傍でこと切れていた司令官の首をギリギリと引っ張り引きちぎると

脊椎の付いたままの首をぶら下げさらに続ける

 

「次はてめえらの番だ!度胸があるなら隠れてないでとっとと出て来い!」

 

そして手にぶら下げた司令官の首を投げつけモニターをたたき割って

口裂け女もおびえて逃げるような恐ろしい顔で大笑いしていた、

先ほどまでスパルタクス党の兵士は大笑いしていたがかつてないほどの

恐ろしい様に蒼白し言葉を失っていた

あまりのひどい中継にラヴェールはもうどうにでもなれという思いが

心を支配するのを感じていた、そして呆れ返りながらこぼす

 

「テツさん・・・シンジュクっていつもあんなのかい?ってあれ・・・・?」

 

横にいるテツに話しかけているつもりであったが返事がない顔に押し当てていた

手をのけて彼女はテツがいる場所へ目を向けるとそこにテツの姿はなかった

指令室にはいないようであり小型のボディで動くにあたりほとんど音を立てないため

いつどこかへ行ってしまったのか彼女でも気づいていなかったのであった、

歴戦の戦士ラヴェールであるその鋭い感覚をかいくぐる動きに彼女は何か

背筋に冷たい物すら感じ取りながら次に自分が何をすべきかを考えるのであった、

 

 

一方テツは恥知らずのヴォイド兵の乱交ショーが始まる頃にはすでに指令室を出て

自分のすべき仕事にとりかかっていた、

空いた広場にフォークリフトで貨物用コンテナを使い少し広めの囲いを作り

幾重にも周りにコンテナ重ねて高さも十分に取った後

その作業をいぶかしみながら見ていた兵士たちの元へ行き敬礼する兵士に言った、

 

「降伏してきた捕虜はどこだい?」

 

「武装解除して拘束した所です後は頭領からの指示待ちですね」

 

テツは兵士にたずねると兵士はいつも通りの順序で進める腹積もりで答えた

しかしそうなると慈悲深くクソ真面目なフロリヌスの事

条約に基づいた人道的な処置がなされるのは必定であった、

テツは自分の仕事のためその先手を打たなくてはならなかった、

 

「俺さフロリヌスから捕虜の処理の指示受けてるんだ」

 

ウソである

 

「そうでしたかそれでは指示に従います、ご命令ください」

 

テツは垣屋の食客であり技術面や戦闘行動でも卓越した腕で幾度もスパルタクス党を

助けてきており党の内部ではそれなりの信用があった、兵士たちは

フロリヌスの指示を受けてきたのだと疑いもなく信用していたのである、

 

テツは捕虜全員を自分が積み上げた貨物コンテナの囲いの中に落とすように指示をした

兵士たちは通信で通達し全ての捕虜がコンテナの囲いに向けて連行され

階段状に積まれたコンテナを上らされた後囲いの底へ突き落されてた

その数400人は充分いるであろうかこの植民惑星の戦闘で降伏した輩である

その様をテツは緩やかな視線で見つめていたそしてやおら囲いの上から

もがいて悪態をつく捕虜を眺めながら言った、

 

「ほんと恥も外聞もないね!」

 

捕虜の一人が口角泡を飛ばし叫ぶ

 

「おい!何しようってんだよ!俺たちには人権ってモンがあるんだ人権がよぉ!

おかしな真似してみろどうなるか分かってんのか!」

 

一人が口を開くとほかの兵士も次々とテツに悪態をつき始める、醜悪な心と容貌

紫のモヒカンヘアーがひしめいて紫色の草原のようで風にたなびくその様は

嗜虐心を大いにそそる、

善意のかけらも残っておらず命の価値がハチドリよりも軽いつまらない連中である、

 

「分かってるよ!」

 

そう言うとアイテムパックからラベンダーパープルと白にカラーリングされたランチャーを

取り出して構える、ライフルはシンジュクに渡したので同じレイシステムのランチャーで

試射を行うつもりのようだ、バイザーの奥から普段は黄色い目が明らかな殺意を込めた

赤い色に変化して強い光を放っている、テツはで全く容赦する気がないのは

誰の目にも明らかであった、

 

「でへへちょっと待ってくださいよ旦那・・・」

 

「話し合いましょう心を開いて話し合えば分かり合えますって」

 

見苦しい言い訳や命乞いが始まるがテツは聞く耳を持たなかった

 

「もし俺の攻撃から逃げられてたら助けてあげるよ!心配しなくていいよ!

俺さ射撃へたくそなんだ、だから訓練に付き合ってほしかっただけなんだよ!」

 

またしてもウソである

小柄なボディーに性格と裏腹なほんわかとした声に

性根のねじ曲がったヴォイド兵たちは侮った態度を見せた

しかしテツはその腐った性根をお見通しでランチャーの引き金を引く

 

「ちょっと待って!やめろ!やめろって!」

 

コンテナの下のモヒカン共がざわめきそして悲鳴をあげる容赦なく撃ちこまれる

拘束されながらもランチャーの弾をよけようと必死である、

 

「ほらほら~避けないと死ぬよ!この囲いを越えられたら助けてやるよ!」

 

その声を聴きモヒカン共は生き残る希望を見出した仲間を踏みつけ団子になりながら

必死に囲いを越えようと醜態をさらしている

皆助かりたい生きて明日を迎えたいその思いが地獄絵図に血の花を添えているのであった

ランチャー弾を受けて体の四散する者返り血を全身に浴びて精神が錯乱するもの

恐怖におびえ今更ながらに命乞いをする者

囲いを登り切りテツに足蹴にされ地獄へ逆戻りする者すべて自業自得なのである、

 

 

しばらくしてランチャーの掃射が終わりほとんどの兵士は無残な肉塊となり果てていたが

まだ何人かは虫の息ながら生き延びているようだった

血みどろで地面をはいずりうめき声を上げ生きようとしてもがく

 

「たすけて・・・たすけ・・・」

 

「痛い・・・ママ・・・いたいよ・・・」

 

そのうめき声をテツは冷たい視線を投げかけながら凝視していた

 

「今までそうやって罪のない人を何人殺してきたんだろうね!自分だけが

助かるとでも思ったのかい?甘えんな!」

 

足元に這いよってきた虫の息の兵士の頭を蹴り飛ばしランチャーにナパーム弾と書かれた

カートリッヂを装填すると何の躊躇もなく虫の息の捕虜に向かって

火炎放射をお見舞いする、虫の息と思われた捕虜たちは何処からそんなと言いたいくらいに

激しくもがき叫び声をあげる、

そして囲まれたコンテナの中に死体が焦げる匂いと静寂が訪れた

テツの足を焼けただれた捕虜の手が掴んでいたがそれを足で払い

司令部へ向けて歩き出した、

 

「我ながら出来は上々!あとはコストダウンすればどこに出しても恥ずかしくないね!

ん?うわ~クズどもの返り血付いてんじゃん汚いなぁもう!」

 

コンテナの囲いから少し離れた所で様子を見ていたスパルタクス党の兵士たちは

中からの爆発音や捕虜の悲鳴から何が起こっているのか一抹の不安を感じていた

 

「ああそれね俺の指示があるまでしばらくほっといてね!」

 

そういうとテツは前線司令部に向け去って行った

 

その後始末を頼まれた兵士たちは屑肉処理場を何倍もひどくしたような有様に嘔吐と

悪夢にうなされる事となるのを今はまだ知らなかった、

 

テツは司令部に向かって歩き出すと後ろから聞きなれた足音が聞こえ振り返ると

満足げな表情でご機嫌なシンジュクが手を振っていた

 

「よぉテツちゃん終わったのか?」

 

「ああ結果は上々だったよランチャーの性能は問題ないね!予想以上で大満足!

これで残ったライフルとランチャーの試験は終わり!全種類合格って所だね!

ところでライフルの使い勝手はどうだった?」

 

「ああ、あのライフルなぁ~・・・」

 

「不具合?気に入らなかった?」

 

「いや作動と言い取り回しと言い威力と言い申し分なかったよただ・・・」

 

「ただ?」

 

テツはいぶかしみながらシンジュクの次の言葉を待った

 

「優等生すぎてつまんねぇんだよな癖ってもんがまるでない銃を撃ってるって気が

しねえんだよ、ただ万人向けのいい銃だよさすがテツちゃってとこだな」

 

「まぁそれならそのライフルはあげるから予備に持っとくといいよ!」

 

テツは半ば納得したような不満をにじませた複雑な表情でライフルをシンジュクに

贈った、シンジュクは満足感も手伝い人間らしい笑顔で答えライフルを

アイテムバックに詰めるとテツの肩を叩いた、

 

前線司令部に戻り中へ入るとラヴェールが二人を待っていた、当然ねぎらいの言葉が

かけられるものと思われたが彼女はため息をつきながら二人に向かっていて口を開く

 

「シンジュクあんた・・・何やってるの・・・」

 

「面白かっただろ?特にクズどもが全裸で窓突き破ってダイブした所とかさ」

 

ゲラゲラ笑うシンジュクにラヴェールのため息がもう一つ

 

「それとテツさん・・・捕虜を勝手に殺すなんて・・・頭領にばれたら

どうする気なんだい・・・」

 

「それを何とかするのが副頭領の仕事だろ?後の始末は頼んだよ!

それとレイウェポンシステムの武器は全部テスト終わったからライン生産の

ゴーサイン出しとくから!いいね?」

 

テツはそう言い放つとシンジュクと共に前線司令部を後にしてジェロームへと

帰還して行った、

 

ラヴェールはしばし頭を抱え髪を掻いていたが気を散りなおし部下に二人の

取るに足らないいたずらがフロリヌスに知られないよう早急に処理するよう

部下に指示を出すと弾薬箱の上に座り込みもう一つ大きなため息をついた、

 

 

新光暦238年4月12日午前8時05分

 

翌日ラヴェールとシンジュク、テツの3人の姿は本拠地ジャン・レオン・ジェロームの

庁舎の食堂にあった、

朝から濃厚な肉料理を中心とした洋食のにおいがあたりに漂う3人が如何に壮健であるかの

証であった、

 

3人は今後の事について打ち合わせをしていた、収穫は充分と言えた

新たな植民星を制圧した事で資源の確保、スレイブの人道的な救出とそれによる声望の

高まりと新たな武器の開発の成功。支配地域の拡大ヴォイド側の士気の低下など

満足すべき状況が厳格な正義の元もたらされたのである、

 

「俺たちさ一度研究所に戻ろうと思ってるんだ」

 

「その方がいいかもね」

 

ラヴェールはため息もつき飽きて淡々とテツの話を聞いていた

テツが言うには生産ラインは技術犯のエセ坊主たちにすでに後を託してあり

クーナの洗脳フォトンのジャミングシステムもすでにヴォイドの勢力範囲と

中央政府の勢力圏の半数を除いて散布完了したため後は指示通りに進められるような

状態にあった、

 

「それにそろそろ頃合いだな、なぁテツちゃん」

 

「だね!」

 

二人は顔を見合わせニヤニヤと笑っていた

 

「?」

 

ラヴェールは首をかしげ長い耳が垂れ下がり二人を見つめている

 

「と・言うわけであたしらは帰るぜ、ほとぼりが冷めたらまた来るからよ!」

 

そう言うと二人は席を立って小走りに食堂から出て定期船の波止場へと

小走りに走り出したと同時にラヴェールの通信機が鳴り始める、

フロリヌスからだ

 

「ラヴェール、そっちにテツさんとシンジュクさんは・・・?」

 

「ああそれなら一緒に朝食食べて今別れたけど・・・・」

 

「すぐに捕まえろあの・・・バカどもを!」

 

彼女はすべてを察した二人のやらかした厳格にして独断の裁きを知り身勝手な行動が

フロリヌスにばれたのである、元々は中央政府の軍部の若く優秀な将軍であった彼に

とって稚拙に隠ぺい工作がいつまでも通じる訳がなかったのである、

当然二人を捕まえてどうしようもない位長い説教と叱責をする腹積もりであったのだ、

 

一方シンジュクとテツは二人仲良く並んで足早に定期船に向かって

ゲラゲラ笑いながら走っていく、その様はいたずら大成功でしてやったりと笑う

子供のようであった、

 

その二人の目の前に見覚えのある3人の姿が見える、ねねの母であるユキノと

メイドのナターシャとステファニーの3人と随伴の兵士たちであった

ユキノはメガネをくいと上げ

 

「あ~ら、テツさんシンジュクさんおはようございますの、シンジュクさんねねさんは

元気にやって・・・」

 

ユキノが言い終わる前に二人はユキノたちを飛び越えてゲラゲラ笑いながら波止場へと

走っていく、唖然と見守る一行を気にも留めず

出航のためタラップが折りたたみ始める定期船の乗船口へ飛び込み

その身を滑り込ませる、

定期船のハッチが閉まろうとする時聞きなれた声が聞こえる、フロリヌスである

 

「待てぇぇぇぇぇぇ二人ともぉおぉぉぉぉぉ!戻ってこぉぉぉぉぉぉい!」

 

全力疾走する白銀の体が朝日に輝き怒りで赤く光った眼が銀色と調和し映える

 

「あーばよぉぉぉ楽しかったぜぇぇぇまた来るからなー」

 

シンジュクは閉まった扉のガラス越しからフロリヌスに笑顔で手を振り別れを告げた

 

「コラァァァァァ降りてこぉぉぉぃ!」

 

定期船は離陸しもがくフロリヌスがみるみる小さくなっていく、

そして目を凝らすと乗降口ちかくのコンテナの上でヒツジが腹筋運動にいそしんでいたが

やおら立ち上がり二人を乗せた定期船に向かって手を振る姿が見えた

二人はその絶妙な直感で叱責と説教を被る事を避けたのである、

 

新光暦238年4月12日午前11時48分

 

二人はアークスシップ一番艦フェオの地を踏んだシンジュクにとっては昨日の事

テツにとっては4日前であるがなにやら懐かしさが込み上げてくる

二人は寄り道をせず原生生物研究所への家路を急ぐそれぞれのお気に入りの定位置で

ゆっくりくつろぐ事で頭が一杯だったのである、

 

玄関のフットクリーナーに足を通して中に上がると厨房から良い匂いが漂ってくる

 

「テツさんシンジュクさんお帰りなさいませ」

 

上着を脱ぎシャツの上からエプロン掛けのパイオニア一号が笑顔で迎え

その足元ではベッコにラピ子そして短期間に研究所に馴れたリリンパが

パイオニア一号の足元にまとわりついていた、

 

「わりぃなあたしらが帰ってくるのに合わせて飯作ってくれてさ」

 

シンジュクがねぎらいの言葉をかけようとするとパイオニア一号は言った

 

「あ・・・私はお二人のお帰りは存じていません、もう少しすればお嬢様たちが

お戻りになりますので・・・」

 

「そうか出撃していたんだったね!」

 

「それに新しくお嬢様の用心棒のお二人とシェフのアイーダさんもおられますから

今日からしばらくにぎやかになりますよ」

 

パイオニア一号は心からの笑顔で答え二人にはリビングでくつろぐように勧めた、

二人はリビングへと足を向けると垣屋がソファーに陣取り二人をジロリと見ている

 

「よぉ帰ったか、お前らジェロームで何したんじゃ?さっきからフロリヌスが

訳の分からん事をピーピー言っとるが・・・」

 

テーブルの上に垣屋の端末が置いてありそこからかすかにフロリヌスの声が

微かに漏れ聞こえている、二人の行動を咎める長い説教のようだ

 

「なんだよフロリヌスしつけーなぁ~・・・」

 

シンジュクはバカにしたような顔でへらへらと笑うと垣屋に事の顛末を話して

自分の端末に録画していた内容をモニターに転送して垣屋に見せた

垣屋はフロリヌスの説教に微かに耳を傾けながら記録映像を見て

マイクとアンの恥知らずにしてソドマの罪に匹敵する発情の儀式

そして司令塔の窓を突き破り輝くガラス片と共に地上に落下する二人を見て

腹を抑えて笑い出し、横からかすかに見ていたパイオニア一号は

顔を青くしてカタカタと震えだしている、

 

「なんじゃお前ら独断でやったんかね、テツちゃんもそうみたいじゃな

フロリヌスはクソ真面目だから独断専行に厳しいからのぉ

今日のお説教はワシの予想では4時間くらいかの、ラヴェールはきっと

反省文書かされるじゃろうなぁ」

 

3人はゲラゲラ笑い飛ばしていたがパイオニア一号は慌ててモニターのスイッチを切った

 

「何すんだよパイオニア一号」

 

水を差されたテツは不機嫌そうににらみつける

 

「お二人とも何て事してたんですかっ!こんなのお嬢様たちが見てしまったらどうする

おつもりですかっ!」

 

生真面目でやや小心者の彼は大切なねねを始めとするお嬢ちゃんチームに

このような物を見せれば情操面に深刻な影響が出ると大いに危惧し言葉を荒げたのであった、

 

「やれやれ金持ちの家に生まれるって大変だねぇ~」

 

シンジュクは茶化して笑い飛ばした、そして程無くしてアクシデントに介入する危惧を避けて

お子様チームとバド兄弟が研究所に帰還し食事を交え研究所の面々で

今後についての話し合いが持たれたのである

一人渾身の説教を続けるフロリヌスの声を伝える通信端末はしばし忘れ去られ

むなしく怒りの声を伝えるのみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。