新光暦238年4月28日午前11時15分
先日の惑星リリーパでゲッテムハルトに襲われたナベリウスの英雄一行ではあったが
若い生命力はメディカルセンター職員も驚くほどの回復を見せ
即日修理を終えたギリアムとフーリエ、そしてストレス性の
ショックで寝込んでいたスゥとルピカも数日で回復し最も重症であった
アッシュも政府からの計らいも手伝い集中治療によって10日ほどの入院を経て
退院の運びとなった、それは当然ここ最近オラクル市民の期待と注目を集め始めている
彼らがアークス同士の内輪もめで大けがを負い長期入院となれば
色々と都合の悪い事柄が生じるためである、
英雄は常に良好なコンディションが保たれていなければならないのである、
しかしアッシュたちは傷の様子を見ながらゆっくりと体を慣らすと言う訳にはいかなかった
それはかれこれ一週間ほど前の事であった、
新光暦238年4月21日午後4時32分
オラクルシップ277番艦に突如現れたダーカーの群れの撃退指令が下り肩慣らしとばかりに
鎮圧しフェオに戻った後彼らは遅い昼食をいつものさびれた展望スペースでとるために
各々が食事を手に下げベンチに腰かけテーブルに並べて食事を始めた、
アッシュはいつもの通りフライドチキンとイチゴのショートケーキを
ぼんやりとした顔でもそもそと食べルピカが差し出すサンドイッチに目が行って
いないようであった、
その様をなにやら複雑な表情で見つめるスゥ、黙々とハンバーガーに食らいつくギリアム
1つ1メセタパンで済ますスゥに近頃アッシュと行動を共にするフーリエは無邪気に
ソースを口に付けながらパスタをずるずるとすすっていた、
人目につきにくいこのさびれた展望台は心を落ち着けて過ごすことができる
数少ない場所であり一行にとってはもう一つの家のような感覚が芽生え始めていた、
しかしそんな平和なひと時に新たな邪魔が入りだす、
しかし邪魔をするのはフーリエではないその男は一行を見るとあーあーと妙な声を
あげながら走り寄って来る、
年の頃は30代半ばと言った所だろうか黒っぽいスラックスによれたシャンブレーシャツ
その上から薄汚れた白衣を被り見るからに学者か研究者のような身なりである、
背は高いが痩せた体型で長い黒髪を総髪にして後ろに腰までだらしなく下げている
「さぁ~行きましょうかぁ~」
スゥは嫌な予感がするのかもう面倒事に疲れたのかそそくさと席を立って逃げようとするが
その男はそれを認めるとスライディングしながらテーブルに掴まり
何やら情けない声で叫ぶように話し始めた、
「ナベリウスの英雄の皆さんですよね!助けてくださいっ!助けてくださいっ!」
最初は無頼の輩にでも絡まれたのかと一行は思ったがそのような輩の姿は見受けられない
差し迫った何かのようではないようだ、
フーリエは自分が買ってきたジュースの余りをその男に差しだしギリアムは
その男に空いてる席をすすめて座らせて事情を話すように促した、
「大変なんですよ!博士が!博士が戻られないんですっ!」
「は?いきなりそんな事言われたって訳わかんないわよ!落ち着いてよおじさん!」
ルピカは少しイライラしたようなそぶりを見せる
その男は深呼吸をして息を整えると先の非礼を詫びて早口で話し始めた
「失礼しました、僕はモノノベ研究所の助手でライトと言います、実は所長のアキ博士が
もう3日も戻ってこないんです!通信も途絶したままでもう心配で心配で!」
「なら探しに行けばいいじゃない、おじさんもアークスみたいだし」
ルピカはライトのアークスカードをサーチして言い放つ、もううんざりしたので
休みたいと言う疲労からくる苛立ちまじりに言い放つ、
「じょっ冗談じゃないですよっ!あんな恐ろしい所に一人でなんて!」
「臆病なのね、結構ハンサムなのに残念な人~」
スゥもルピカと共に追い打ちをかける、
「そのアキ博士を探せばいいんですね?」
チキンとケーキを口の中でもごもごとしながらアッシュは言った
フーリエの時と同じで困った人は見捨てられないのであろう
「探していただけるんですか!ありがとうございます!」
「じゃあ詳しい話を・・・聞かせてくれますか?」
アッシュは口の中で混ざり合ったチキンとケーキを飲み込むとライトから
消息が分からなくなったアムドゥスキアの座標を聞くとテーブルに広がった
自分の出したゴミを袋に詰めるとすでに満杯に近いゴミ箱に押し込み
キャンプシップの発着場所へ向かって歩き始めた、
「ちょっとアッシュ!」
ルピカはアッシュを呼び止めようとするが振り返りもせず
「疲れたなら帰っていいよ」
そう言うとギリアムがそしてフーリエがアッシュに続きスゥとルピカも
渋々ながらライト一人を残して席をたちアキ博士の捜索へと向って行った、
指定された惑星アムドゥスキアの指定された地点に着地した
相も変わらず火山の熱気やガスと蒸気が入り混じった不快な場所で
あーくすの隊員たちには近くにヴォルドラゴンが好んで生息する広い空間がある事で
知られている、
一行は取り合えず周囲の状況を調査する、レーダーで周囲にアキ博士がいないかの調査・・・
周囲を見回すと地面には大量のゴミ、これは竜族の営みから生じた物ではない
全てアークスが捨てて行った物だ、補給物資かの残りから
ラーメンだの弁当の容器だのそして焚火の後までもさながらマナーの悪い客に
蹂躙されたキャンプ場のようですらあった、
そして岩場の窪みに一人用のテントと何かの機材が乱雑に積んである、
「これってもしかして・・・」
スゥは機材とテントを調べテントと機材の所有者登録を確認する
「物部亜紀・・・アキ博士の事・・・よね」
「はい!そうです!博士の機材です!もう少しよく探してみてください!」
スゥはライトに通信を飛ばし映像を見せてアキ博士の持ち物である事を確認し
情報の共有をするために皆に伝える、
うんざりした顔で生返事をするルピカと生真面目に返事をするギリアムとフーリエ
そしてアッシュは返事はしたものの足先に何かの感触を感じて視線を落とす、
それはマヌケな顔をした猫の顔の形をした小さなポーチであった、
拾い上げると裏側に名前が書かれている、ねね・ゾフィー・アルニム
「・・・・・」
アッシュは何も言わずそのポーチをそっとアイテムパックにそれをしまって
いつものようにぼんやりとあたりを見回していた、
ギリアムは全員に集合をかけ現在の状況を全員に話しこれよりさらに奥へ
探索の範囲を広げる旨を皆に伝えようとした瞬間
「お前たち!そこで何をしている!」
鋭くそして声量も大きい女性の声が洞窟内に響き一行はその声の方向に向き直る
そこには一人の女性がライフルを構えていた
軽量のタイガーピアスと呼ばれる戦闘服を身にまとい赤いフレームの眼鏡をかけ
ミディアムレイヤーと呼ばれるバッサリと刈り込んだ藍色がかった黒髪
そして鋭い眼光と気難し気なへの字口でこちらをにらみつけている、
その様はまるで追ってきた敵と対峙したかのような緊張感が伝わってくる、
何をそこまでとやや過剰な反応にアッシュとギリアムは互いに目でいぶかしみを伝えあう、
しかし一行はキャンプシップで移動中にアキ博士の人相や大まかな経歴を
把握していたので武器を構えず交戦意思がない事を示しアッシュは
落ち着いて話しかける、
「初めまして、物部亜紀博士ですね?」
「そうだが何か用か!」
「博士の助手さんから捜索依頼を受けて探しに来ました、」
「・・・ライト君か・・・たかだか2、3日開けたくらいで・・・
君たちには世話をかけたね、でもまぁ集めたデータの解析もある
今日の所は君たちに免じて引き揚げてあげるかな」
「通信に出られないのでライトさんも心配したようですよ」
「あれこれうるさいからね通信は切っておいたんだ、いつもの事なのに」
アキは明らかに不機嫌そうな顔である、それはさながら夢中になってる所を
邪魔されて機嫌を損ねた子供のような幼稚さに似た何かを感じさせた、
ギリアムは帰還を促すとアキは一行をじろりと見ると
「じゃあ君はそこの機材を!そこの二人はテントを畳んでくれたまえ!
そして残りはそこの荷物だ!さあ!早くしたまえよ!」
鋭い指示が飛ぶ、なぜか逆らえない雰囲気に全員が指示に従いそれぞれに割り当てられた
荷物を担ぎキャンプシップに歩いていく、
「そこ!つべこべ言わずにさっさと運べ!」
「もぉ~何なのよぉ!荷物重いし!」
アキに怒鳴られただでさえ疲労困憊のルピカは半泣きのように顔になって荷物を運ぶ
甘やかされて育ったわがままな彼女には殊更堪えているようであった、
・・・それから何処でどうなったのかアッシュたちはアキに気に入られたのか
彼女の研究の助手として荷物運びや迫りくる浸食された竜族への対処等
世に言うこき使われる運びとなったのである、
アキは生物学の世界では若いながらも実践に重きを置いた新進気鋭の研究者として
学会やその美貌から市民等からも注目と人気を集めている学者であった、
それからと言うもののアッシュたちはアキに目を突けられ竜族の研究の護衛やら
雑用やらでこき使われる羽目になる
あきれるほどのアキ博士の研究に対する情熱と相手への微塵の思いやりのない酷使は
日に日に一行への精神疲労といら立ちを募らせるのであった、
新光暦238年5月4日午前8時18分
「今日は火山地帯の赤い竜族の生態をより深く探るためにより奥へと踏み込もうと思う」
アキは自分の意に従う事が当然のように一行に言い放った
「奥地の何に用があるんですか?」
フーリエはいつもの屈託のない態度でアキにたずねた、幼少期から過酷な環境に耐え
自由を得、そして疲労を知らぬキャストの彼女はすでに疲労困憊のスゥやルピカとは違い
心身共にまだまだ余裕があった、
「火山エリアに生息する赤い竜族の聖域そこの調査、そしてその竜族の長である
ヒ・ロガの制圧とゲノムと必要な体組織のサンプル採取が目的だな
諸君らは歯向かう竜族を撃退するなり殺すなり方法は任せるから
私とライト君に近づけないようにしてくれればいい」
「ちょっと殺すって・・・」
スゥはアキの穏やかでない発言に過敏に反応した、初めてあった時からの違和感
そして何にもまして極度に高圧的な態度を問いただす意図もにじませていた、
「そうだ、今まで頑なにアークスを拒んできた赤い竜族が最近どういう風の吹きまわしか
やっと態度を軟化しつつある時に刺激するのは良くないと思うが」
ギリアムのスゥの意見に賛同してアキに意見をする、彼女はいつもの不機嫌な表情を
一切変える事なく当然のように言い放つ、
「オラクルと竜族の友好?くだらない奴らの感情など知った事ではないね、
我々人類こそが至上の生き物であり他の生物なんてものは下等な生き物だ、
研究材料にされようが殺されようが
それは私たちの気分次第で何をやっても何ら咎める事はない
君らはそんな事すら分からないのか?」
「ちょっちょっと博士ダメですよそんな事言っちゃっ!」
慌ててライトがアキの発言を遮ろうとするがそれに構わずアキは続ける
「我々人類は栄光あるフォトナーの時代より著しく退化してしまった、幸い竜族には
我々の欠点である肉体の脆弱さをカバーする生命力とかく傷の再生能力ががあるんだ
私の研究では竜族のゲノムに取り込む事でより完全な生命体に進化する事が可能なのだよ
その研究に身をささげられるのだから下等生物は感謝して当然と思うがね」
この一言にアッシュたちの表情は曇った、竜族と何かの交流があるわけじゃない
親近感を持ち合わせている訳でもない、
ただ心の中に今まで生きて形成されてきた善意に対する強い抵抗感
そして本人たちがうまく言い表せない憤りがやるかたなくその心を
かき乱すのだ、
アッシュのアイディスプレイにスゥ、ギリアム、ルピカからの秘匿された
チャットメッセージが映し出されるその意見はいずれもアキに対する否定的な意見で
早めにこの案件から手を引くべきだという意見に統一されていた、
アッシュは皆に理解を示し適度な時期に彼女らと手を切るよう話をする旨を
3人とフーリエに伝え今は状況の把握に努めようとなだめて納得させた、
不快な硫黄を含むガスと蒸気、所々から惜しげもなく流れるマグマ、ひどい足場
全くを持って人に快適さを感じさせぬ場所である
度々頭や胸に浸食核を付けたサディニアンやそのペット的なディッグや
ノーディランにフォードランとおなじみの竜族たちが時には正面時に側面や
崖の上から襲っては来るがアッシュたちの敵ではなかった
やむなく倒す浸食された竜族に哀れみを感じながらも切り伏せ進む
アキとライトは見慣れない機器で何かを探り何かを入力しながら
上の空のように目的地へと歩みを進めている、護衛と言う部分ではアッシュたちを
信用しているんだろう、
さすがに赤き竜族の長が住まうとされる最深部に行くのは骨の折れる事で
もう何時間が経過したであろう
最も近く設置できるぎりぎりの場所に手レポーターを設置してもらってこれである
そうでもなければこの物騒で不快な場所で数日楽しくないキャンプは確実であっただろう
オラクルのテクノロジーへの感謝を噛み締めつつ決意を固め重い足を前に進める、
「止まれ!」
アキは良く通る大声で一行を制止した
「これだ!赤の竜族が守る遺物だなこれには竜族の謎を解くカギが・・・」
一行が近づこうとしたその時地面が微かに揺れその揺れは徐々に大きくなり地面が隆起しはじめる
「避けろ!下からくるぞ!」
ギリアムの声に皆が即座に反応し隆起した地面から後ろに飛び退きそこから長い何かが飛び出してくる
手慣れた彼らはそれが何であるかは重々承知でそのような事をするのは
キャタドランか最悪でもヴォルドラゴンのどちらかであった、
その巨大な細長い物の姿が粉塵やガスから徐々に姿を現し一行の頭に竜族特有の
脳に直に話しかけてくる声が伝わる、
「アークスよ、この先はわれらの聖域これ以上進む事はまかりならぬ」
脳に響く声色からして女性のキャタドランで彼女は重々しくこれ以上の侵入を遮った
しかしアキはずり落ちたメガネを直しながら言い返す、
「そうは行かないな!このオベリスクの調査のために我々はここに来たのだ
我々の研究に貢献できるんだ感謝の一つくらいしてほしいものだな!下等生物!」
「ちょっちょっと博士なんてこと言うんですかっ!竜さんホントすいませんっ!
今のは聞かなかったことにしてくださいっ!」
無礼なアキを必死にフォローしようとするライトだがアッシュたちは
うろたえるのか無礼を詫びるのかどちらなのかと思案に暮れていた、
「甚だ無礼である、が我々とて無駄に争うつもりはない、去れこれは警告だ」
キャタドランは今までの穏やかな目と違い明らかに怒りをにじませている
誇り高い竜族の最も嫌う言葉を吐いたアキに嫌悪感城を抱き始めたようだ、
「先にわれらに加勢したアークス・・・確かねね、スゥリン、イフェメラと言ってたな
真っ直ぐな良い者であったがこ奴らはずいぶんと違うのだな・・・」
「・・・!ねね?」
いつもよりは若干の緊張感を持っていたがどことなく茫洋としたアッシュは
ねねと言う言葉を聞きハッとした、そのリアクションをキャタドランは感じていたが
反応のそぶりを見せず言葉を伝える、
「アークスよこれが最後の警告だ、去れ我々はお前たちの侵入を寛容に許していたが
許せぬ事もあるのだ、神聖な場所を犯す事はまかりならぬ」
水晶の結晶のような尾を地面にガツガツとリズムを付けて叩き始め
一行のレーダーに所々から熱源のマーカーが灯り始める、多くの小さい物もあれば
彼女のような大型のマーカーもいくつか見受けられる、
「アキ博士ここは引き返しましょう竜族を刺激しすぎている」
アッシュはアキにこの場は退くように進言するがアキはアッシュと無言で同意する
一行ほにらみつけると言い放つ
「こう言う事もあると思って君らを同伴させたんだがね、こんな下等生物に何の
遠慮が必要なんだ?早く奴らを皆殺しにしたまえこれは命令だ!」
「ちょっと!いい加減にしなさいよ!」
スゥはついに我慢しきれなくなってアキに食って掛かろうとしたその刹那
「ならその下等生物は私が始末してやる!殺した後にゆっくり調査させてもらうさ」
アキはライフルをかまえてキャタドランに向かって発砲しその弾は額に命中して
一瞬ひるんだがすぐに体制を整えあからさまな怒りを目にたたえている
彼女は一行を殺す気になったようだった
「博士!やめてくださいっ!ダメですって!調査はまた今度にしましょう!ね?」
ライトはアキを背後から羽交い絞めにしてこれ以上刺激しないように身をもって
制止しようとしている、
そうこうしているうちに竜の彼女が呼び寄せた増援がわらわらと集まり始める
ディーニアン、サディニアン、フォードランサにノーディラン、そして上空から
何匹ものヴォルドラゴン、そして完全にアッシュたち一行を前後左右から包囲して
逃がす気はないようである、
「竜族たち済まなかったここから出ていくから許してくれないか?」
アッシュは剣を収めて竜族たちに語り掛けるが次の瞬間増援のヴォルドラゴンは
大きく口を開け足を踏ん張る、明らかに火球を吐く姿勢だ完全に
竜族の怒りを買いもはや和解は不可能であると彼は悟り全員に向かって叫ぶ
「一点集中で包囲を突破する遅れるな!」
号令に反応しアッシュの指し示す方向に一行は走り出すがアキは指示に従わず叫ぶ
「逃げるな臆病者!」
その瞬間アキは自分の眼前が真っ赤になるのを目にしたヴォルドラゴンの火球が
直撃しその衝撃で近くの岩に体を打ち付けまとっていたタイガーピアスの所々が
溶解し炎上を始める、その横には同じく炎上し地面に倒れ込むライトの姿もあった
今の彼女は冷静に判断が出来ないが彼が身を挺して庇わなければ
彼女は一瞬で消し炭になっていたであろう
「チッ!」
ギリアムはライフルをしまうとアキとライトを肩に担ぎアッシュの後ろに続こうとする
屈強で人間の数倍以上の腕力と体力がなせる業であるが明らかに動きが遅くなっているのが
感じられた
「ギリアム!その二人はほっときなさい!自業自得なんだから!」
スゥは退路を確保する事を第一としてギリアムとフーリエに負傷したアキとライトの
放棄を促したが政治的な絡みとその他所問題も絡むためそうは行かなか事は分かっていた
竜族の増援たちはなぜかアッシュたちに接近せず口から火球や竜族独自の
火器?らしき武器や法撃弾で執拗に射撃を繰り返し一行は必死になって避け
そしてこの時ばかりは平素疎ましく思っていた隆起の激しい岩場が
遮蔽物となりその身をいくばくか守ってくれている事に心の中で
感謝を感じていた、
しかし竜族たちの攻撃は手が緩まる事もなくなお一層その怒りに相応しく
激しいものとなり周囲はより飛んでくる火球により高温の域に達していて
アッシュたちの肌を強い灼熱感に襲われていた、
「ここは俺が食い止めるからキャンプシップまで急げ!」
アッシュは他のメンバーに真っ直ぐキャンプシップに進むように強く支持をすると
深く息を吸い態勢を整えるとソードを体で覆い隠すように構え
飛んでくる火球や法撃弾を自らが受けて時間を稼ぐ作戦へと切り替えた
「みんな急いでくれよ・・・あまり長くは持たないからな・・・」
すでに視界が真っ赤になるほどの炎の渦の中でアッシュは小さくつぶやいた・・・
アッシュを除く一行は指示に従い二人の迷惑な研究者を背負いキャンプシップへと疾走する
しかし体のあちこちがひどく痛みその苦痛と恐怖に何とか抗うのがやっとであった
後に帰還した時生身の体のメンバーたちは竜族たちの火炎攻撃により所々に
火傷を負っていた事に気付くのであるがそれは少し後出の話である、
彼らは一心にキャンプシップに向かって走るがキャンプシップ側もその以上に
パイロットが気付いていてクルーたちが救援のために一行へ向かって駆けつけていた
キャンプシップから少し離れたくぼ地で倒れ込んでいた一行をクルーたちは見つけ
凹凸の激しい場所でも使用可能な半重力フォトンストレッチへ乗せて
キャンプシップに搬送し急いで離陸体制へと移行した、
スゥやルピカは負傷と恐怖で放心状態、フーリエとギリアムも損傷しているが
まだ意識は保っていた、一方アキとライトは意識を失っており衛生兵が
必至の処置を行っていた、
フーリエは衛生兵にたずねる、
「まだ一人あそこに残ってるんです!離陸は待ってください!」
しかし応急処置を必死で行いながら衛生兵はにべもなくフーリエに答えた
「もうこちら側の生体反応は検知できません、残念ですがあきらめてください・・・」
「そんな・・・」
フーリエは肩を落としうなだれまだ一番損傷の少ないギリアムになだめられるが
折角の仲間がこんな形でいなくなるのを認めたくはなかった、
しかしこれ以上自分たちでどうする事も出来ない、何分周囲が埋め尽くされるほどの
竜族の大群であり、それほどの竜族が必死に反撃してくるほど
大切にされている遺物をないがしろにしたのは自分たちであり明らかに自らに
非があるのだ、
アッシュがいなくなった一行には高すった安堵感はなくただただ失望感と無力感だけが
心を支配するのであった、
新光暦238年5月11日午前10時27分 原生生物研究所
アッシュが無謀で無礼な振舞によりアムドゥスキアで命を落としてから数日後
原生生物研究所の垣屋宛にアークス司令部から通信が入った
内容はこうである、数日前から惑星アムドゥスキア火山地帯を中心に竜族たちが
急遽凶暴化しアークスたちが無差別に襲われ負傷者が続出しており
それらに関して心当たりがないか、よい対応策があれば聞かせてほしいとの内容であった、
研究課題の分析を邪魔された垣屋は不機嫌になり今にでも怒りだしそうな雰囲気である
「んで竜族が凶暴化とか抜かしとるがダーカー浸食の痕跡はあるのかないのか調べたんかね?」
「それが浸食に関しては反応がありませんでしたしかし原因は・・・」
「じゃあ誰か竜族を刺激したバカがおるんじゃないんかね?その辺りくらい自分で調べ
てから連絡しろや」
「はい、それは今情報部が調査を進めています、今回は現地調査は危険が伴いますので
情報部の責任者カスラさんが直々に進めて下さっています」
「なら後は自分で処理するんじゃな、カスラなら何とでもするじゃろ
ちっとは自分たちで何とかする癖を付けろ!ワシは忙しいんじゃ分かったか!」
垣屋は通信機をテープに放り出すと額に青筋を立てて研究室へと戻って行った
そして2日後今度は司令部ではなくカスラから直接通信が入り食客たちとおやつを
食べていた垣屋はしばらく通信機を放り出していたがあまりしつこいコールに負けて
通信を受けると情報部の長であり六芒均衡の3であるカスラの慇懃で丁寧な挨拶が
送られてくる、
「久しぶりじゃなカスラ相変わらずゲシュタポごっこにご執心かね?」
「博士お忙しい所申し訳ありません、原因が分かりましたのでご報告と思いまして・・・」
「さすが仕事が早いのぉんでどうだったんかね?」
「はい・・・実はその原因を作ったのはナベリウスの英雄ことアッシュさんとそのメンバー
そして・・・」
「歯切れの悪い言い方じゃな怒らんから言ってみ?」
「本当に怒りませんか?」
「大丈夫じゃもう怒ってるからそれ以上怒る事はないわい」
垣屋の言葉にカスラはわずかに笑って安堵し言葉を続ける、
「ヴォイドから此方へ出向してきている生物兵器研究班の物部亜紀博士が原因のようですね」
「・・・物部・・・あのカスの娘か・・・大体分かったぞ研究と称して竜族の調査で
奴さんらの誇りを傷つけて怒らせたんじゃろが」
「はい、その通りですねどうやら竜族の古来からの遺物の調査を強行しようとして
衝突したようですね、現状アムドゥスキア火山地帯は危険な状態ですので私でも容易には」
「じゃろうなぁできる限りアークスは退去して落ち着くまで待った方がよかろうよ」
「現在全アークスにアムドゥスキア火山地帯での探査は控えるように通達を出しましたそれで
対応策として博士には・・・」
いつもは慇懃丁寧ながらあけすけさと嫌味と皮肉が程よく入り混じったカスラの言葉に
垣屋は何かを察したようだ、
「あの手で行くんか、まったく気楽に言ってくれるのぉ、なしてワシがそんなバカの
尻ぬぐい等せなならんのじゃ、こいつは司令部とそのクソガキ共の貸にしとくからな
必要な時にこき使ってやるから覚悟しとけよ」
カスラは当然とうなづくと必要な経費や資材その他はアークス司令部で持つため
遠慮なく言ってほしいと申し出た、垣屋は用意があるから1週間ほど時間をくれと言い
カスラも他に手がないためそれを了承し通信を終えた、
通信を終えるとシンジュクとテツが今の内容を知りたがったため経緯を説明し
つまらない尻ぬぐいと分かると二人は興味を半減させてソファーに身を沈めた
「近いうちに龍祭壇に行くからそんときは護衛頼んだぞ」
そう言うと二人は気のない返事をしてテーブルに乗せられた菓子に手を伸ばした。