傍らからの始まり
新光暦238年2月20日 午後2時30分
アークスシップ第一番艦フェオ、ショップエリア南 大型モニター前
ショップエリアの南に配置された大型のモニターを眺める大勢の人々、
その表情は様々で人の数だけ思いが交錯する、
人々が見つめるモニターに映し出されているのはアークスが運営するテレビ放送局、
通称ACTによるアークス候補生の訓練の仕上げとして行われる
惑星ナベリウスに於ける実戦訓練の中継である、
実戦訓練とは各シップごとに行われ2年の訓練機関を終えた先遣調査隊研修生が
フォトンフェンス内に放たれたエネミーの殲滅任務を遂行する、
その任務が達成されるとナベリウス訓練エリアから
所属するアークスシップの凱旋広場に移動し宣誓を行い
その後凱旋パレードを行った後に晴れてアークス先遣調査隊の仲間入りを
果たす事ができる、
シップ内のACT放送局のクルーは作戦より帰還して宣誓と凱旋パレードを中継する為、
市民は新しく生まれる隊員を歓呼の声で迎える為にモニターでその勇姿を見届け
訓練生が帰還してくるのを待ち構えていたのだ、
・・・しかし訓練が終わる予定時間は正午の予定ですでに経過している
番組内では訓練生のドキュメントや場持たせ感を感じさせる内容が放送され
現地の中継が映し出されていない、
「なんで訓練生の姿が映らないんだ?」
「今までこんな番組編成なかったよな・・・」
「おい!どうなってんだよ!うちの息子は無事なのか!?」
シップにて訓練生の帰りを待つ家族や市民から不安の声が聞こえ始め
そのそばにいるアークスの職員は不安で平成を失いつつある家族をなだめ
平静を装いつつも現地との連絡や新しい情報を得ようと動き始めていた、
・・・そして悪い予感は的中する、
モニター前にアークスの職員が急ぎ駆け寄り群集に拡声器を使い叫ぶように呼びかけた、
「現地で緊急事態発生!凱旋パレードは中止になりました!訓練生のご家族の方は
こちらへお集まり下さい!繰り返します!訓練生のご家族の方は・・・」
訓練生の家族たちは我先に何が起こったのか訪ねるために職員に殺到した、
職員たちは殺到する人々に説明は後ほど行うと拡声器で話し
アークス職員の移動用バスが訓練生の家族を搬送するために臨時転用され
モニター前に滑り込んで次々と訓練生の家族を乗せいずこかへと走り去って行った、
午後3時47分
アークス放送局、民放の番組が一斉に中止され臨時ニュースが放送される
各局のキャスターが画面に映し出され同様の内容を読み上げる、
「今入った速報です!惑星ナベリウスにて行われていた先見調査隊訓練生の訓練エリアに
ダーカーが襲来!現在訓練生と宇宙軍アリエテス師団が応戦中!現在の被害状況は不明
新しい情報が入り次第お伝えいたします」
ニュースを聞いた市民の反応は様々だが自分の子弟を訓練に送り出している
家族は絶望の表情を浮かべ気を失う者叫び声をあげる者もいる、
本来ならすでに帰還した訓練生を迎える歓呼の凱旋パレードは中止、
その頃襲撃の舞台となった惑星ナベリウスでは訓練生のサポートをするため
現地に展開していた軍部と緊急指令で召集された先遣調査隊の隊員たちによる
訓練生の救助と侵入したダーカーの殲滅作戦が開始されていた、
そしてテレビでは新たな続報が放送されていた
「新たな情報が入りました、迎撃の指揮をホアン・ロドリゲス元帥が取り、
先見調査隊より六芒均衡の1レギアス、5三代目クラリスクレイス、6ヒューイ、の3名が
出撃の模様」
群集から歓声が湧き上がる、軍部の精神的支柱たるロドリゲス元帥そして先遣調査隊最強と
謳われるレギアス自らの出撃、これ以上にない組み合わせが発表されたのである、
おおよそ3日ほどかけて全てのダーカーを撃退する事には成功したものの
結果として研修生500人のうち生存者43名、
出撃したアークス先遣調査隊の死傷者1150名 軍部は3割が戦闘不能
とても市民に報告できない被害がアークス司令部に報告されていた、
新光暦238年2月21日朝
翌日、事態の説明をする特別番組が各局で急遽組まれるがその番組は不自然であった、
全ての局が輪切りのように内容が同じで
現地にいた証言者の証言もなく全て図説による説明に終始し、
政府とアークス上層部の話し合いにより少なく見積もられた被害状況を羅列するだけで
視聴者に釈然としない印象と動揺を与えるのみであった、
「一体どうなってんだよ・・・無事なのかどうなのか早く教えてくれ!」
「うちの子は大丈夫なの?なんでもいいから早く教えてよ!」
昨日から軍部の指定した待機場所で家族の安否を待ちわびていた家族のストレスは
極限に達しようとしていた対応をする軍部の兵士たちに掴み掛かかる者もあり
疲労からその場にへたり込む者もいる、常日頃から死と隣り合わせの軍部と先見調査隊の
隊員たちが失いつつある人としての感覚である、
政府とアークス情報部は市民の動揺に神経質である、これらが起こす集団ヒステリーや
パニック状態がどのような悪影響を及ぼすか、長いオラクルの歴史で積み上げられた経験が
嫌と言うほど示している、
それを防ぐために自らが情報をコントロールする事に余念が無い、
生存者に緘口令が引かれ、報道陣には了承したところ以外の取材を禁止する
正確な情報はアークス司令部のみが知る所で
10年前の大規模なダーカーの襲撃事件の時のような混乱を防ごうという
思惑のためである、
オラクルの各放送局のニュースでは場の取り繕いにあの手この手の工夫を凝らし
政府とアークスがそれらを助けるために提供した情報も埋め合わせに活用した、
そこで政府とアークスが考え付いたその場しのぎの方法
それは新たな英雄がこの状況を打開したのは新たな英雄・・・
すべての機関がこの茶番に飛びついた現地の被害や求められる情報を無視して・・・
「現地から映像が入りました、六芒均衡のレギアス率いる地上部隊に新たな英雄現る!
その名はアッシュ!スゥ!ルピカ!ギリアム!ダーカーを次々と殲滅し
敵を押し返しています!」
合成映像で仕上げられたダーカーを殲滅しつつ走り抜ける4人の姿が映し出される
現地でこの4人が奮戦しているのは事実であるが画面からは真実は語られていない、
そしてなぜこの4人が英雄に祭り上げられたのか現時点で知る者はいない、
そして後に新光暦238年の災厄と呼ばれるオラクルの存亡に関わる危機が
忍び寄っていたのである、
新光暦238年2月23日 午前8時30分 アークス養成訓練基地宿舎前
訓練生が20数名程整列し指導教官からの訓示を直立不動で聞いていた
4日前にダーカーの襲撃を受けた訓練生の中で重症者や精神的外傷が酷い者は
メディカルセンターへ搬送されて治療を受けており
死亡した訓練生は冷蔵保存され順次家族の下へ無言の帰宅の順番を待っていた、
今宿舎前で訓示を受けているのは軽症だった者、
自力で立っていられる訓練生全てである、
「諸君らはこの訓練を生き抜いた、想定を上回る苦難を乗り越えた!
ただこから先は無理強いはしない諸君らは一生分に値する苦痛を受けたのだ
ここから先歩む道は自分自身で決めてほしい!」
教官は慙愧の念を隠す事無く最後の訓示を行っている、いつもなら厳しい訓練を課した
憎まれ役の教官にやさしい笑顔で送られ
今までのわだかまりや厄妄想を教官の想像を超えるやさしい笑顔で振り払い
握手し抱き合いながら訓練生が制帽を中に放り投げにこやかに巣立っていくものだが
今回の多大な犠牲と、自らも救援に向かい負傷し多くの命を救えなかったその無念が
教官を涙ながらに訴えかけさせている、
教官は今回の件を上層部とも協議した結果生き残った訓練生たちに
自身の身の振りを遠慮する事無く自由に決めて良い事と決まった旨も伝えた、
とかく精神的ショックを受けた新規隊員を前線に送り込めば無理が生じる
その為にやる気を失った候補生をふるいにかけるという思惑もあった、
このまま先遣調査隊隊員として活動するもよし、辞退し市民に戻るのも自由と
言う事である、
最後に教官は戦闘で失った義手の間に合わなかった右腕にかわり左腕で敬礼をし
「これにて解散!諸君ご苦労だった!」
もういちど敬礼し訓練生に解散を命じる、この状況で帽子を投げるものもなく
生き残った訓練生たちは力なくそれぞれの行き先へと散っ行く、
やはりショックが大きかったのか通称 臆病者の門と呼ばれる
先遣調査隊になる事を辞退する者が通る門を過半数の訓練生がくぐり
それぞれの家へと帰って行く、
そしてその場に自らの身の振りが決められないものたちが立ち尽くす、
その中の数人がアークスロビーへの転送装置のあるエリアへと進んでいく、
その足取りは重く物理的な怪我ではなく心の怪我と言うべきものが
そうさせるのである、
その訓練生の中にいた小柄な黒人の少年が暗い雰囲気に嫌気がさしたのか
首を軽く振った後にテンション上げて言った、
「あ~これで養成所ともおさらばだぜ!あんな堅苦しいところマジ勘弁だわ、なぁ!」
「ハンス、おまえほんっとに気楽でいいなぁ・・・俺この先やっていけるか
不安だよ・・・この先もこんな事ばっかり続くんだろうなぁ・・・」
金髪の中性的な容貌のニューマンの少年は肩を落とし悲観を込めたため息混じりで
返す、
「ならやめればいいじゃん、辞退しても誰も文句いわねぇぜ?」
ハンスと呼ばれた少年は金髪の少年に親切心で返した、
「それじゃ俺のしなきゃならない事ができないからやるしかないんだよ!
臆病者の門をくぐって帰れる奴がうらやましいよ」
再びため息が漏れる、金髪の少年の退けない理由は分からない、
嫌だが退く事が出来ないジレンマを抱える者のため息がまたひとつ漏れる、
その少し先を元気な足取りで歩く銀髪の少女なのか大人なのか判断に困る
女性が金髪の少年の下へ戻り肩を叩く
「アフィンちゃんそんなこと言わずにがんばるのじゃ!」
「いてぇって!まだ治ってないんだからよ!」
叩かれた肩をアフィンはかばいつつ裏声混じりに叫び、重い足取りの訓練生たちは
テレパイプ乗り場で行き先を指定しテレポーターの上に乗るとアークスロビーへ
その身を転送させた、
オラクル船団、アークスシップ一番艦フェオ、アークスロビー
オラクルの防衛と惑星での先遣調査を担当する隊員たちと軍部の軍人が任務の受注や
各種手続き、出撃準備を整える施設でアークス以外の市民は原則立ち入る事が出来ない、
ロビーにはすでに前線にて活動するアークスたちが多く行き交っている
皆すでに前線に出て久しいのであろう、訓練生の制服を着ているものは誰もおらず
彼らだけが周囲から浮いてしまっていた、
ハンスはすでに目的地が決まっているらしく大きく息を吸うと皆に向き直り
「んじゃ、またな!また何かあったら呼んでくれ!」
共にロビーまで来た同期に軽く手を振ると首にかけていたヘッドホンを耳にかけなおし
ショップエリアの方へ向って歩いていった、
「俺は・・・・疲れたから宿舎いくわ・・・じゃな」
アフィンと数人の候補生たちはあてがわれた宿舎へと去っていった、
「・・・・・」
気が付けばロビーのゲートには銀髪の女性隊員だけが取り残されていた
しかし目的地が無く迷っている様子は見られない、
一瞬一人になった寂しさや不安を入り混ぜた表情を浮かべたが
中央より少し外れた円形に並べられたソファーに勢い良く身を沈めた、
どうやら何かを待つようだ、
ぼんやりと何か待つ、強い癖のあるショートの銀髪を指で絡めては解きを繰り返し
ロビーの先輩アークスをぼんやりと眺めていた、
自分もああして戦いに向うのだ、そして自分の夢を叶えるのだと、
通信機からメールの着信音が発せられるが気付いている様子はなかった、
いつしかソファにもたれて居眠りをしていた、
「!」
その肩を揺さぶられ目を覚ます、目を開くと間近に顔があった、
赤くて張りのある強い髪を後ろに束ねその束ねた髪が力があり余ったように爆発したような
房になっている、
首から下にそして全身に視線を移すと中くらいの背にオレンヂ色のジェンダーピラートと
呼ばれる女海賊を模した流行している戦闘服を着て腰には刀を帯びている、
「いたいた~、ねね・ゾフィー・アルニムちゃんだね、あたしがキミの面倒見るアザナミだよ、
よろしくね!」
アザナミ・・・・アークスのクラスのひとつであるブレイバーと言うクラスを
数年前に創設した若き女性アークスである、戦闘力、任務遂行力は熟練の
上級アークスに比べ大きく見劣りするが
オラクルで数十年ぶりに新設された2つのクラスのひとつブレイバー創設の活動で注目される、
プレイバーは本来ハンターの武器のカテゴリーの一つであったカタナという
片刃武器をクラスの専用武器に独立させ消音性に優れたパレットボゥと呼ばれる弓で
中距離に対応した速さと手数で敵に対するクラスでそのスタイルが若いアークス中心に人気を得て
注目される新進気鋭のクラスである、
「妾はねねなのじゃ!よろしくなのじゃ!」
ねねと呼ばれた銀髪のアークスは見た目のイメージに反し無邪気でな声でアザナミに挨拶をした、
ねねは教官から一人前になるまでブレイバーとしての手ほどきと世話を
アザナミから受けるようにと言い付けられて
今日が待ち合わせの日であったため彼女が迎えに来るのを待っていたのである、
「聞いたよ聞いたよぉ~この間の襲撃を無傷で生き残ったんだって?すごいじゃない」
ねねとアザナミは席を立ちあてがわれた宿舎へ向って歩き出す
ねねは複雑な気持ちで思い出していた、その時ねねたちの小隊は後詰として訓練に参加しており
襲撃の折には救援に駆けつけた熟練アークスが露払いをし
敵がいなくなったルートを先導されて通り早い段階でキャンプシップに回収してもらい、
戦闘はせず帰還する事ができた、この状況から考えると幸運と言えた、
しかし道中で何人かの仲間がクモのような姿のダーカーに襲われて倒れたのを見て
定員オーバーでキャンプシップ乗れなかった仲間が死傷したと聞かされた事
それが心の中で引っかかっていたのである、
アザナミはねねの表情から心境を読み取りやさしく声をかけた
「一人前になるまではおねえさんが面倒見たげるから心配しなくていいよ!」
その声は温かみがあり根から善良さが溢れて来るように感じられ
ねねはその声と笑顔で心がほぐれていくのを感じた、
「さぁ、ひとまずねねちゃんが使う部屋を案内するから宿舎へ行こうよ」
アザナミに誘われふたりは宿舎エリアへと足を向けた、
アークスは任命されると宿舎に一室が与えられそこを生活拠点として任務に赴く
宿舎に居住することにより緊急の召集にも迅速に対応できるからだ、
そして物資の補給や粗末で誰も手を付けたがらない無料の食事も用意され
最低限の生活ができるように取り図られている、
ねねの部屋はアザナミの部屋からさほど遠くなく
この棟にはアークスの先遣調査隊に所属する女性隊員にあてがわれている、
部屋のドアを開けると無い殺風景な部屋が迎えドアを開けたことによる
空気の流れからしばらく人が住んでいなかったのだろうよどんだ空気が
二人の顔をなでる、今までに何人もの隊員が使ったのだろう、
使い込まれた部屋にテーブルやクローゼットなどの最低限の家具だけが置かれている
テーブルに何やらメモが置かれているがそれを手に取ったアザナミは書かれていた
遺書とも取れる不吉な内容をねねに見せまいとさりげなく丸めてダストボックスへと放り投げた、
小汚いカーテンを開けると殺風景な物資の集積場が見えるばかりで
窓際に枯れた観葉植物が一鉢あるばかりである、
「ねねちゃんお腹すいてないかい?もうお昼だしご飯食べに行こうよ」
「お腹すいたのじゃ!行くのじゃいくのじゃっ!」
「実はねねねちゃんがくるのをあたしの仲間にも知らせてるからささやかだけど
歓迎会をするから」
「うれしいのじゃ!新しい友達もできるかや?」
「そりゃもちろんだよぉ、さ・行こう!」
ねねは荷物を放り出しアザナミの後ろについて行った、
アザナミとねねは宿舎エリアを通り過ぎショップエリアへと足を運ぶ、ショップエリアへの
扉が開くとねねの顔が明るくなり感嘆の声を上げる、
「すごいのじゃ!すごいのじゃっ!お店と人がいっぱいなのじゃっ!」
「?・・・・」
アザナミはまるで初めてこの景色を見るようなねねのはしゃぎ様に一瞬
怪訝な顔をしたがすぐに頭の中で状況を整理した、
「(なるほどねぇ・・・)」
アザナミは昨日上層部よりなぜねねが戦死しないよう世話を見るように通達が来たか理解した、
アークスには富裕層の子弟が社会勉強や修行を兼ねて入隊してくる事がある、
遊学とか度胸付けの意味合いが強いものであるが
それはあくまで加減の加えられた所謂修行のように見せかけた何かで
一般市民からの隊員のように命のやり取りに重点を置いた物ではない、
富裕層の師弟を迂闊に死傷させると後々に面倒な事になるので
補助として熟練の隊員を付けたり、死傷する恐れの無い安全な任務を除隊するまで
当てがう事があり、そのお鉢がアザナミに回って来たのであった、
単純に面倒ごとばかりでもなくその坊ちゃん嬢ちゃんの親に気に入られれば
個人的な投資や除隊後の仕事等に便宜を図ってもらえる事もあり
お世話係はそれなりに需要があるお役目である、
アザナミはそれをアークス上層部のさる人物の仲介で引き受ける事になったのである、
市民から見れば何の変哲も無いショップエリアを見てはしゃぐその様を見て
相当世間知らずなのだろう、だから補助する人間が必要なのだろうと推察するに容易であった、
ショップエリアはオラクルの各シップに設けられている商業施設で
アークスも市民も利用できる共用施設である、
生活に必要な物資や飲食そして娯楽、アークスと市民が交流することが出来る
唯一の場所で多くの出会いや別れが交錯し24時間絶え間なく人が往来する
眠る事がない不夜城である、
「さぁてショップエリアの見物は後にしてアークスカフェに行くよ、みんな待ってるからね」
アザナミは今からアークスカフェに行くとねねに告げた
どこかへと走って行きそうなねねの袖をつかんで引きとめながらカフェへと誘う、
ショップエリアのフードコートにアークスカフェはある
他の飲食スペースと違いそこだけが桁違いに広く多くの武装したアークスや
非武装の市民、様々な人々が出入りし中では多くのテーブルが据えられており
酒をあおる者、食事にかぶりつく者、歓談を楽しむ者、何かの交渉をする者と
混沌にも似た喧騒に包まれている、
ねねは物珍しそうに入り口でたたずみ周りを眺めていると背中に何かが当たりねねは少しよろけた
振り返ると年の頃は20代半ばくらいだろうか、シャギーの入った赤い髪に
顔の中央に右から左下に斬り下げられたような深い傷、しかし威圧的には感じられない
人柄がそうさせるのだろう気さくな雰囲気を感じさせる、アザナミと同じく根が暖かいのだろう
そのアークスにねねに軽く手を上げ
「おっと・わるいわるい大丈夫か?」
とねねに謝った、赤髪の若者はアザナミの姿を見つけるとアザナミに声をかける
「ゼノ、こんな時間に珍しいねぇ今日は休み?エコーはどうしたのさ」
「ああ、先日の襲撃でダーカーの完全殲滅がようやく終わってよ司令部が帰って寝ろとさ
エコーは電池切れで先に帰って寝たよ」
「ご苦労様だねぇ、この子その襲撃の生き残りだよ、何かあったら助けてあげてね」
「へえ~無傷で帰ってきたとはすげえな!俺はゼノってんだ何かあったら
遠慮なく言って来いよ!」
知り合いらしく親しげに軽く小話をした後ねねに自己紹介をした
「わらわはねねなのじゃ!よろしくなのじゃっ!」
ゼノはねねの元気の良い返事に満足すると伸ばしてきた手を握って握手しようとするが
周囲を軽く見回し怪訝な顔をするねねの手を握った
「エコーが見ればやきもち焼くからね」
アザナミはからからと笑いゼノも無言でうなずく、どうやらゼノと共に行動する
エコーという人物は相当に嫉妬心が強いようであった、
「んじゃ俺もメシ食ってから寝るわ、さすがにこの3日ほどろくに寝てねぇから疲れたぜ
また何かあったら来いよ」
そう言うと牛丼カレーと書かれた看板のあるファーストフード店へ向かって
歩いていってしまった、
「ゼノってほんとに頼りになるんだよ、あたしもずいぶん助けられたもんさ」
「すごくやさしそうなのじゃ!」
「まぁ今日はゆっくり寝させてあげよっか、また一緒にご飯にでも誘うよ」
アザナミは立ち話で周囲の邪魔になっていたのを察し奥へとねねを案内していく
すでに空腹なねねは周囲の肉や魚、様々な料理の匂いに刺激され
今にもよだれがこぼれそうなたたずまいである、
「さぁここだよ!みんな新しい子つれてきたよぉ!」
テーブルに6人のアークスが二人が来るのを今かと待ち構えていた
いずれも動きを損なわぬ身軽な装備に身を包みいかにも機敏な佇まいである、
「いらっしゃい!」
「お!すげーかわいいじゃん!ねぇ彼女ぉ~彼氏っている?」
「お前みたいな不細工が身の程知らずすぎんだろ!」
「なにぉこのぉ!」
「はいはい、喧嘩すんじゃないよ、しばらくこのブレイバーズで面倒見る事になった
ねね・ゾフィー・アルニムちゃんだよみんな仲良くしてね!」
「ねねなのじゃ!みんなよろしくなのじゃ!」
アザナミのはテーブルにいるそれぞれのメンバー
アレックス、ステラ、アルブレヒト、ライオネル、ジョアン、ミケーレ
を紹介をしてテーブルについて乾杯をした後ねねに軽く説明を始める、
「ねねちゃんが自分の進路を決めるまであたしたちブレイバーズが面倒を見るから
後の事は自分でゆっくり考えるといいよ」
とねねに改めて自分たちが面倒を見る旨を伝えそしてそれぞれメンバーはねねに色々な質問をした、
年齢やどこのシップの生まれか、体のサイズやなぜアークスになったのか
自主規制や自重を促され答えられなかった質問もあったが
ねねはなぜアークスになったのか?この質問に待ってましたとばかりの顔をして
この質問に答える事とした、
「わらわの母様とわらわが生まれるまえに死んじゃった父様はアークスだったのじゃ!
だからわらわもアークスになるのじゃ!
それにわらわがアークスになれば大好きな人がわらわをほめて結婚してくれるのじゃ!」
不要に多い身振り手振りでねねは必死に説明をする、大人びた容貌と裏腹に
みょうに子供っぽさが残るその様に違和感が感じられるが本人は必死である、
「なんだよ唾付きかよぉ~」
「残念だったな不細工!」
「だから俺は不細工じゃねぇっていってんだろ!アークス1の美男子になに言いやがる!」
また笑いを誘う小競り合いがはじまるのを皆で笑いつつ
皆がその結婚する相手が誰か?皆の興味がそこに集中した、見た目に反してねねの歳を
聞いてみると16歳だという、いつまで生きていられるかの保証がないこのご時勢で
結婚年齢が早まりつつあるといってもまだ結婚には若すぎる歳である
若いブレイバーたちはその相手が誰か早く知りたくなりねねに話の続きを促した、
「知りたいかや?これを見れば分かるのじゃ!」
ねねは思い出したようにアイテムパックからディスクを一枚取り出した
よく使われる何の変哲もない映像記録のフォトンディスクをアークス用のフォトンディスプレイを
テーブルに出現させディスクを挿入した、
何が映し出されるのだろう・・・ブレイバーズの面々は興味心身に押し合いながら
フォトンディスプレイを覗き込む
ディスクが再生されるとにぎやかなラッピーフィーバーという曲と共にある番組が映し出される、
若いブレイバーズはこの曲が耳に入りだすとここから先に何がでてくるか予想がついたようである、
「けものでポン」
オラクルの第72放送局で放送されている動物番組ですでに30年以上放送され続けている
オラクル内のテラの時代から付き合いのある動物やオラクルが降り立った惑星の原生生物を
紹介する「子供向き」の健全な健全な番組である、
「ずいぶん古いねぇ・・・10年位前のかなぁ・・・」
皆見た記憶があるらしく懐かしそうに画面を覗き込む
ねねは次々に早送りでいくつかのコーナーを飛ばし「けものでポン探検隊」が始まると早送りを止めた、
スタジオに一人の探検服を着た大柄な中年男性がスタジオの上からダイブして着地すると
テレビの向こうの視聴者に呼びかけている、
極端に大柄で筋肉質、長い白髪に濃いヒゲ面となかなかに厳しい容貌で
「やぁ・みんな!元気にしとったかの?そいじゃ今日もはりきって行ってみよう
けだものポン探・検・隊!」
中年男性と同じく探検服を着た子供たちがスタジオの両袖からわらわらと現れて
こぶしを挙げてコーナーの名を叫んでいる、
今回の内容も「ラッピーと友達になろう!」というこの番組がねた切れになれば
乱発する特集でこれが何度目かも分からないうんざりするほど繰り返されている内容だ
中年男性は番組で動物博士と呼ばれ動物の案内とガイドを子供たちにする役割のようだ、
ラッピーとは別の次元からやってくると言われている直立しても1m少々の
二足歩行する鳥で大きな頭に二本の触角が生えている、
性質は温厚、やや臆病であるが人なれしやすく独得の声には
精神を安定させる波長が含まれるため各惑星の原生生物に襲われる事無く
いたるところに生息しており
このオラクルでも人間たちと共生しておりペットとしても人気が高い生物である、
「ここ!ここ!わらわなのじゃ!」
ねねはディスプレイを指差す、探検服の幼いねねは容易に見分けが付いた銀髪と
切れ長の緑色の目、そして癖の強いもしゃもしゃとした髪、
嫌がるラッピーにお構いなしに触角を掴んで左右に振り回し
博士に優しく諭されている場面や頭をなでてもらい肩車をしてもらいはしゃぐ姿が
映し出されていた、
無難で子供の親族でもないかぎりどうでも言いと切り捨てられそうな
つまらないふれあいタイムが野外で続く
この番組は子供向けとあるが実際には視聴率確保のために
品のないあるいは売れないグラビアアイドルやポルノ女優が仕事確保のため
下品なコンテンツが番組を支える柱であり「オラクルメス犬紀行」「エッチで天気予報」など
大きいお友達向けの内容が重視されている健全な子供向け番組なのである、
そして探検隊コーナーの終わりに若い青年MCが子供たちに感想をたずねていく
画面にねねがアップで映り満面の笑顔で元気の良い声で話し始める
「すっごくたのしかったのじゃっ! きめたのじゃ! わらわははかせのおよめさんに
なってあげるのじゃ!」
はしゃぎながら元気良く言い放ったとたんスタジオの出演者やスタッフたちがどっと笑い出す
MCはねねの頭に少し荒っぽく手を置いて癖の強い髪をガシガシとかき回す、
「夢が大きくていいねぇ~ほんっとクソガキっておめでたいよな~」
といい明らかに馬鹿にしたようなニュアンスを含んだ嘲笑をした
その言葉のニュアンスを感じ観客とスタッフの嘲笑も手伝い幼いねねの顔が曇っていく
「おかしくなんかないのじゃ本当なのじゃ・・・」
とみるみる今にも泣きそうな顔に変わっていく
博士と呼ばれた中年男性はMCの脳天を強く殴り付け殺気混じりに睨み付た、
チャラけた態度のMCが出演者に制裁を受けるのは頻繁であるらしく
いつものウケ狙いと受け取られスタジオからは笑い声が響いていた
今度は地面にのたうちまわり悶絶するMCに博士が腹に蹴りをさりげなく叩き込み
嘔吐するも瞬時にモザイクがかけられその嘔吐物が赤色に変わり
観客やスタッフたちの嘲笑が向けられる、博士はねねの頭に軽く手を置いた
「ありがとのぉ、じゃ・博士はねねちゃんが大きくなるまで待ってるかのぉ~」
そう言うと頭をなでた、ねねは安心しうれしそうに垣屋を見上げて笑顔を見せた、
そしてけものでポン探検隊は差し障りなく終わりねねはプレイヤーを停止させた、
皆ディスクを止めた後呆然と画面を眺め続けていた・・・・
しばらくして・・・・
「あの・・・結婚する人って・・・垣屋(カキヤ)博士・・・・・??」
「そうなのじゃ!約束したのじゃ!」
「マジかよおい・・・危険人物だぞあれ・・・」
「マジヤバイじゃんそれって・・・」
「機嫌を損ねたらオラクルの食糧供給止められるって言うあの垣屋博士かよ・・・」
一同唖然としていた、大人びたその容貌に反した幼稚で浅はかなその発想に・・・
誰しも子供の頃にこのような事はあるものだが大人になれば知恵が付き
冷静に現実を受け入れるものだがその年になって一切のブレを持たないとは
一同あきれるほかは無かった、
「垣屋博士・・・・」
アザナミは次の言葉が見つからず唖然としたままだった、
垣屋源八朗(カキヤ・ゲンパチロウ)博士・・・
SSランクの上級アークスであり農学生物学博士、
40年前のエルダー戦争に六芒均衡のバックサポートチームとして従軍、
戦後はダーカーたちに食糧生産シップが破壊され深刻化した
食料問題の解決に手腕を振るった食糧問題解決進化委員会に
名を連ねた7人の最高責任者の最後の生き残り、
委員会の職を引退した後に60歳を過ぎて再びアークスの活動を再開、
オラクル社会への貢献も多いが様々な問題行動も負けじと多く
堅い人々からは目を付けられ研究所の面々もツワモノ揃いであるが
博士と似たり寄ったりであり
出来る事なら避けて通りたい関わりたくない面倒な人物である、
アザナミはあけたままの口をようやく動かし
「ねねちゃん・・・垣屋博士って今年で確か70歳だよ?・・・本気かい?」
「本気なのじゃ!」
一点の曇りもないその目と返事から本気の程がうかがえる、
それ以上の言葉が挟めないなにかをアザナミたちは感じていた、
一同はそれ以上突っ込んだ話しは出来なかった、するのを避けたと言っていい
自分たちの予想をはるかに超える突飛さと幼稚さに対処する術がなかったためである、
後はなんとか騒いで飲み食いしてその場をやり過ごす、
宴が終わりアザナミとねねは宿舎への戻る事にした、
その帰り道アザナミは心の中で思った
ねねを部屋の入り口まで送ると自室に戻る
上着を椅子の背もたれにかけて束ねた髪を解いてため息をつく
「(なんか大変な子引き受けちゃったねぇ・・・垣屋博士かぁ・・・)」
そしてベッドへ寝転がると疲れも手伝い考えるのは明日にして眠る事にした、