PSO2水滸伝傍ら(かたわら)の群星   作:垣屋越前守

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小さな旅立ちの始まり

新光暦新光暦238年2月25日 午前6時00分 アークス隊員宿舎の一室

 

ねねは朝の光を目に感じて目を覚ました、昨日の楽しい宴の余韻がまだ残っている

 

ねねは服を着た後空腹を覚え周囲を見回すが食べられる物はなく朝食を取ろうと思い立ち

カフェに向って歩き出した、

 

「どれもおいしそうなのじゃ!」

 

まだ時間が早い事もあって人影はまばらでねねは何を食べようかと思案に暮れたが

昨日ゼノが向かった店で何か食べると決めた、

 

「いらっしゃいませご注文はお決まりですか?」

 

「一番おいしいのが食べたいのじゃ!」

 

店員は少々困惑したが初めての客だと納得した

 

「おすすめはカレー牛丼ですこちらはいかがでしょう?」

 

「良いのじゃ良いのじゃ」

 

「ではお代金は15メセタになります」

 

ねねは店員の顔を笑顔で見つめている、

 

「あのお代は・・・」

 

「お代ってなんなのじゃ?」

 

「冗談は困りますよお金を払って下さい」

 

ねねは何の事か本当に理解していないようだった、その時通信機から着信音が鳴り

通信機をとり応答を始めた、

 

「お嬢様!ああ・ようやく通じました!昨日からずっと通じないんで心配しましたよ!」

 

通信機の向こうからすこし甲高い神経質そうな声が聞こえてくる、細面の顔に

神経質さを伺えるロイドメガネに古風な巻き毛が浮世離れを感じさせる

ねねの近親者のようだった、

 

「パイオニア一号かや?ちょうどいい教えるのじゃ!わらわはご飯を食べようとしたのじゃ

しかし店の人がご飯をくれないのじゃ!」

 

「あ・お嬢様何か召し上がられるのですね?店の方に代わってください」

 

ねねは通信機のモニターを店員に向け店員とパイオニア一号と呼ばれた人物との話が始まる

 

「申し訳ございませんお嬢様はお金を存じ上げません、今お金をお振込み致します

今後はお嬢様が注文した折にはアルニム家にご請求下さいませ」

 

パイオニア一号は店にねねの食事代を振り込むと店員はねねに注文された

食事を差し出し

 

「ありがとうございました」

 

と笑顔でねねを見送った、

ねねは適度なテーブルに落ち着くと山盛りのカレー牛丼を脇目も振らずに口に運ぶ

フードコートの入り口からその姿を見つけた人影がねねにむかって駆け寄ってくる、

 

「お嬢様!こちらでしたか!パイオニア一号はもう心配で心配で!」

 

先ほど通信をした相手パイオニア一号その人であった、寸分狂いもなく執事服を着こなし

見るからに出自卑しからぬ出で立ちであった、

 

「ふぁいふぉにあひひごうふまいのじゃ」

 

ねねは食事に夢中で心配する彼にさして興味を持っていないようであった

 

「申し忘れてました、市街地のお店では何かを手に入れたり食べる時はお金を

支払わなければならないのです」

 

「ふぉうなのふぁや?」

 

「はい、お嬢様にお金をお渡しするのを忘れていましたので振り込んでおきます

これからは必要になったらウォレットからお金を払って下さいませ」

 

「分かったのじゃ!」

 

ねねはパイオニア一号の見守られながら食事を終え外へ向かって歩き出す、

 

「どちらへ?」

 

「アザナミちゃんと待ち合わせなのじゃ!パイオニア一号は来なくていいのじゃ」

 

「そうですか・・・ではお嬢様の宿舎でお帰りをお待ちしておりますお気をつけて・・・」

 

恭しく頭を下げるパイオニア一号をその場においてねねは前へと進んでいく

宴の折にアザナミたちからアークスロビーにある施設を把握するするように

言われていたため向うことにした、

 

朝も早いアークスロビーにアークスの陰はまばらであるねねはどこから回ればよいか

思案に暮れていた

 

「こんにちは、何かお困りですか?」

 

ねねが困っていると察したのか真紅のアークス職員の制服を着たキャストの女性が

ねねに声をかけた、

 

「こんにちはなのじゃ!」

 

ねねはそのキャストの女性に挨拶を返すとキャストの女性は

 

「私はアークスロード担当官アスタルテと申します、着任して間もない先遣調査隊の

皆様へのサポートも行っております」

 

初心者が理解を深めるための景品付きチュートリアルシートである

アークスロードの管理官である事、

その仕事だけでは手持ち無沙汰なので新人アークスの案内やサポート

チュートリアルのサポートをしているのだとねねに告げた、

 

アスタルテはねねの端末にアークスロードのチェックシートを転送し

 

「まずはクエストカウンター、クラス(職)カウンター、称号カウンター、

デイリークエストカウンターを訪ねビジフォンと倉庫の使い方をおさらいするように

してはいかがでしょうか」

 

とアドバイスをした、

 

ねねはアスタルテに礼を言うとそれぞれの施設を訪ね職員から

満足のいく説明を受けて理解していった、

 

「おはようねねちゃん、早いんだねぇ~」

 

アザナミがねねを追いかけてロビーに来たようだ

 

「悪いんだけどさあたしの都合がつかなくなっちゃって、明日やる予定の

初任務今からでも大丈夫かな?」

 

ねねは予定外の事で少し当惑したがアザナミの提案を受ける事にした、

 

クエストカウンターへ二人は向う受付に着くと係員が会釈し

 

「クエストカウンターへようこそ、どのクエストにしますか?」

 

と尋ねてきた、そのメガネをかけた金髪碧眼の女性係員が遂行可能な

任務のメニューを提示するが新人のねねが選べるものはザウーダンの討伐のみで

選択の余地はない、

 

新人アークスはレベルや活動に応じてアークス司令部が判断をして

選択できる任務や活動できる惑星が増えていく仕組みになっている、

 

クエストカウンターの係員であるアンネリーゼはクエストを受けるに当たる

注意事項をねねに簡潔に説明してねねの疑問に満足のうる対応をした

そうやって多くの新人アークスを送って行ったのであろう、

 

クエストを指定するとアンネリーゼはクエスト地点へねねたちを運ぶキャンプシップに

アクセスして移動準備を完了させる、

 

「よろしくお願いします」

 

アンネリーゼは丁重に頭を下げねねとアザナミを送り出した、

 

テレパイプでキャンプシップ内部に転送された二人はシートに腰を下ろし

出発まで同じルートに出撃する隊員と相乗りのためしばし待機する事になった、

 

アザナミはねねの顔を覗き込んだが緊張で硬くなっている

普段は元気そうに振舞っているがやはり数日前の事が思い出されているのだろう

トラウマが解けるまでは一人にしてはいけないなと心の中で判断していた、

 

キャンプシップはアークスが任務に向うに当たり、アークスシップから

各惑星の任務地へ隊員を運ぶ簡易設備を整えた輸送船である

物資の簡単な売り買いや応急処置、倉庫へのアクセスも可能で

場所により現地へ着陸し隊員を下ろしたり、テレパイプで現地への降下を

サポートする、

キャンプシップは成層圏で滞空してねねたちはテレパイプでナベリウスに降り立った

 

 

惑星ナベリウス

 

テラの約2倍ほどの大きさの星でその大半が深い森林と青い海に覆われた緑かな惑星

一部に誰が作ったのか分からない遺跡が点在しかつては文明があった事を物語っている、

高山地帯を境に北部には万年雪を頂く凍土が広がる

その豊かな自然に支えられ多くの原生生物が生息し鉱物資源の少なさから

オラクルによる開発を免れ新入りアークスの訓練にも利用されている、

 

温かい風がふたりの顔をなで木々の葉が風にざわめく

オラクルよりも緑が多く酸素濃度が高いため吸い込む空気が心地よく

遠くからは様々な原生生物の声がジャングルから聞こえてくる、

 

「ねねちゃん任務の内容はわかってるね?、最近凶暴化がひどいザウーダンの群れ倒す!

危なくなったらサポートするから、まずはやってみ?」

 

「わかったのじゃ!」

 

ねねは新緑のジャングルに目を奪われつつ前に向って歩き出した

先の訓練では緊張と団体行動であったため皆の動きに合わせる事に重きを置いていたため

それらに目を向ける余裕はなかった、景色を見回すねねのインカムに通信が入る、

 

「ねね・ゾフィー・アルニムさん、初めまして司令部オペレーターのブリギッタです、

これより司令部より担当オペレターがサポートします、今後ともよろしくお願いいたします」

 

「よろしくなのじゃ!」

 

ねねはブリギッタへの応答を済ますと樹木が生い茂った小道に向って進む

木々からの小鳥のさえずり小型の原生生物が今日を精一杯生きるため

日々の営みを繰り返している

これがこの惑星に生命が誕生してから変わりなく続く日常、

そしてその日常は徐々にダーカーに侵食される事で終わりに向かって進み始めている、

 

さらに奥に歩み進めると梢に止まっていた名も知らぬ色鮮やかな小鳥が何かに驚き飛び立った

オラクル内部では特定のエリア以外でペット以外の動物を見かけることは稀で

野生動物が自然の姿で見られるのは新鮮な感覚だ、

穏やかな雰囲気が茂みが激しく揺れ動き金切り声に近い吼え声が

響いた事でかき消された、

 

茂みの中からいつからか樹上にぶら下がっていた大型の類人猿がねねの目の前に

飛び出し歯を剥いて威嚇している、

 

「ウーダン・・・・」

 

ねねは目前に表示されたディスプレイの情報を左目で追う

アイディスプレイは必要な情報が入った時にのみ周囲のフォトン粒子を

収束しディスプレイに置き換える便利な機能であり

長きに渡りアークスに欠かせない装備として定着している、

ウーダン2匹 全ての個体に潜在ダーカー侵食核あり、

 

ウーダンは訓練のシュミレーターでデータ生成された仮想個体とは

戦った事はあるが生きた個体とあいまみえるのは初めてであった、

本来ならば数日前に戦った経験を積んでいたはずの相手である、

ねねは真正面からウーダンに向って突進する、

 

本来ナベリウスの原生生物は温厚で侵食されるか縄張り争いで凶暴化していない限り

自分から襲って来ることはない、それは生きる糧となる食料が豊富で

意外なまでに生存競争が激しくない牧歌的とも言える環境のなせる業で

それでもなお襲ってくると言う事はその戦いを避ける事が出来ないという事だ、

 

アザナミはその様子を周囲を警戒しつつじっと見守っている

 

「あれで行くんだねぇ~」

 

彼女はねねの手の内を瞬時に読み取ったようだ、

戦い方や考え方をこの戦いでうかがい知ろうとしているのだ、

 

ねねは一瞬ひるんだが真ん中のウーダンに一気に距離を詰めてウーダンに連続で斬り付ける

四肢と胴を深く切りつけられウーダンはこらえ切れず地面に崩れ落ちる、

 

倒したとは思った次の瞬間左横のウーダンが前転で勢いをつけて

に飛び掛りねねよけ切れずに体当たりを受けた、体に鈍い痛みを

感じながらもすばやく体勢を立て直し、着地したウーダンに袈裟懸けに切りつけ

ウーダンは崩れ落ちた、

まだ小刻みに痙攣しているウーダンにまだ襲ってくるのではないかと言う恐怖感と同時に

哀れみを感じつつねねは刀に付いたウーダンの血を払った、

 

訓練の時は多くの仲間が一緒に戦っていたが今は一人で全てに注意を

払わねばならない、それが出来なければ負傷か死は免れない

体の側面の痛みがそれを物語っていた、

 

「いいよいいよその調子」

 

アザナミはうなずきながらねねのコンディションを目視で確認する

 

「(アサギリレンダンで一気に間合いを詰めてエネミーを押し切るかぁ~

思い切りはいいけど回りが見えてないから危なっかしいねぇ・・・)」

 

アザナミは心の中で本音をもらしていた、

 

ウーダンの亡骸を尻目に二人は奥に進んでいく、

その死骸はやがて他の原生生物たちの糧となり大地へ帰っていく野生での死とはそう言う物だ、

両端はいつしかせり上がった崖になり道は眼前で行き止まりになっていた

左には水溜りがあり所々に樹木がそびえ立っている、

 

 

「!!」

 

陰の上から木陰からザウーダンがわらわらと出てくる

ねねたちがこの行き止まりに来るのを待ち構えていたようだ

ねねは四方を見回すがすでに囲まれたようだ、

 

ブリギッタから入電が入る

 

「緊急指令討、伐対象のザウーダンの出現を確認、全ての敵を殲滅して下さい」

 

ねねは判断に迷う、囲まれた時にはどう対処するべきかと

ザウーダンは各々歯をむき出したり胸を叩いて威嚇するものもあれば

今にも飛び掛らんとする者、左右にステップを踏み機会をうかがう者もあり

ねねは一瞬どうするべきか悩んだが目前のザウーダンに狙いを定めて

ウーダンの時と同じくラッシュをかける、

 

アサギリレンダンを受けたザウーダンは一度では死にきらず、ねねは

動転したがさらに二太刀斬り付けてザウーダンを仕留めた

しかしそれは技や技術に裏打ちされたものではなく

がむしゃらに振り下ろしたに過ぎず相手が原生生物でもなければ

通じなかったであろう、

 

そして次々と1匹づつ確実に仕留めてザウーダンの数を減らしていく

しかし最後の二匹は左右に別れやおら近くの岩をねねに投げつけた

ねねは咄嗟に右から飛んできた岩をよけたが背を向けていた

左側のザウーダンが投げた岩が背中を直撃し勢い良く地面にうつぶせに倒れた

 

 

「(こりゃまずいかな・・・)」

 

アザナミは刀を鞘から抜いて援護に迎えるよう身構えた

 

岩をぶつけられたショックでねねは意識を失っていた

2匹のザウーダンはねねを殺したものと思い込み近づいて止めを刺そうと

新たな岩を持ち上げた

 

「危ない!」

 

アザナミが叫びザウーダンに突進しようとした次の瞬間

ねねは意識を取り戻し体勢を立て直してザウーダンに×の字にすばやく斬り付け

2匹まとめて切り伏せた、

 

それと同時にブリギッタから入電

 

「目標達成、お疲れ様でした!、このまま帰還して下さい」

 

と通信が入りテレポーターが目の前に出現する

 

「おつかれ、がんばったねぇ、」

 

アザナミはねねに手を差し伸べて肩を貸しテレポーターに乗り

キャンプシップに戻った、

ねねは無言で体が少し震えている訓練は積んで来たとは言え

生まれて初めて生物の命を奪った事に心の整理がついていないのだろう

新人のアークスによくある事である、

アザナミは今自分にできる事、ねねを落ち着かせるためにやさしく肩に手を置いた、

 

キャンプシップ内でねねの受けた打撲は速やかに処置され少し当たった感触が

鈍く残るものの怪我と言える症状になるのは避けられた、

 

大事を取りねねとアザナミはアークスシップへと帰還する事とした

ねねは初めて自分の力で任務を達成したのだ。 

 

 

新光暦新光暦238年2月27日 午後8時54分 

アークスシップ一番艦フェオ アークスカフェ アザナミの定席

 

アークスカフェの一番奥まった場所にあるブレイバーたちの定席でアザナミは端末に

必要書類の入力をしていた、

ブレイバーの創始者であり総責任者でもある彼女はクラスの存在意義を確立し存続させるため

まだまだデータや統計を定期的に提出せねばならず、

常にクラスの有用性をアークス上層部にアピールし発展増大につなげなくてはならない、

 

ブレイバーは元々ハンターの武器カテゴリーであるカタナを専門に分離したクラスで

その経緯からハンターの中でも不要論と反感の目も向けられている、

自分たちの領域を勝手に切り取って売名のために勝手にクラスを作られたと言う見方や

アザナミ自身にもハンターの一部から裏切り者という目を向けられている

そして彼女の支援者にもそのような目を向けられ決して平穏といえない状況だからである、

そしてアークス上層部より認可を受けたクラスだが有用性を示せなければ

承認が取り消されブレイバーそのものが消滅する事もありうるのだ、

 

そして他のクラスの上層部との折衝、とかくハンターの上層部との折衝には

気を使わなくてはならなず、今でも双方の構成員同士の小規模な

衝突の解決に向けても奔走する最中なのだ、

 

ブレイバーというクラスを確立させるためには一も二にも人材で

いかに人材を増やし定着を図るか、その為に自分が出来るのはいかに仲間の支えになれるかに

かかっている、

できるだけ居心地の良い環境を整える、それが彼女の導き出した答えでありそれを実践するため

まず自分から動く事を自らに課しているのであった、

 

人はそれぞれの時間で動いている、仲間たちや経験の浅い後輩がいつ相談に来るか、

用向きの客人がいつ来訪するか予想は困難であるためアザナミは可能な限りこの定席にいるよう

心がけていた、

 

片付けても片付けてもまるで下から湧いてくるような電子書類の海に

一区切りを付けアザナミは腕を上げて体を伸ばした、

 

くたびれた・・・ヒューマンのアザナミは疲労そのものを感じることがなく

睡眠の必要がない機械で構成されているキャストのようには行かない、

 

端に寄せていた食べかけの冷えたカレーを口に運びながらアザナミはふと

ねねの事を思い出した

2日前の見極めの時に自分が下した判断と司令部から先の襲撃の生き残りの隊員

特に何かあると面倒事に発展しそうなねねにはメンタル面も含めて

独り立ちできるようになるまでは念入りなサポートを受けられるように

充分配慮する事、

 

人の思いや気持ちを人一倍大切に思うアザナミには無視することが出来なかった

なんとしてもその思いに応えたかったのだ、

 

しかしアザナミもひとりの新人に付っきりでいられるほどの余裕はない

ねねの欠点は周囲に満遍なく注意が行き届かない事である、

そしてとっさに融通や応用が利かないことである、

そこでねねの仲間を増やし自分がいない時にも安心して行動できるようにと決めた、

 

アザナミを慕って集まる仲間は少なくない、しかしそれぞれの隊員にも

任務があり相性と言う物もある、

アザナミは着任間もない隊員たちのアークスカードと仲間を募集している

他のクラスの情報を弾き出してねねのサポートに適任な人物を探し始めた、

没頭しているうちに食べかけのカレーはさらに冷えルーの表面が

膜になり水気の飛びはじめたライスは不味さに拍車をかけていく、

 

端末のキーボードを叩き続ける、夢中になるアザナミに近づく影がひとつ

 

「アザナミ」

 

彼女に向って一人のキャストの男性が声をかける、

最新式のサイハジンシリーズで体を構成し全体が丸みを帯びうさぎを思わせる

長いアンテナが耳のように立ったその姿とは裏腹に

冷徹なまでに落ち着き払った声が特徴的である、

 

「サガちょうど良かったよぉ」

 

アザナミはキーボードを叩くのをやめ彼の方を振り向いた

 

サガはブレイバーと時を同じくして新設されたクラスの責任者で

自らが立ち上げたクラスをアークスに浸透させるため

互いに助け合ってきた仲であり相談をするに好適な相手であった、

 

バウンサー、近距離でのテクニックによる支援とテデュアルブレードと

呼ばれる二振りの双剣とジェットブーツと呼ばれる刃の付いた

ブーツを使い分け最前線で戦うクラスである、

 

アザナミはサガに席を勧めると彼は向かいに座り用件を聞いた、

 

「実ははねぇ~・・・」

 

アザナミはねねの事を話しはじめた、先の襲撃の生き残りで

様々な人からねねが独り立ちできるまで助けて欲しいと頼まれている事

そしてパーティー組んでくれる仲間を探している事を、

 

「そうか・・・奇遇だな、私の相談も同じだ」

 

サガは数日前の事をアザナミに話し始めた、アークスの司令部から

とある新人隊員の世話をするよう通達が来た、

サガは何か胸騒ぎを感じたが上層部直々の指令に理由も無く

拒否する事はできない、

 

しかしその任された新人は人付き合いが苦手らしくサガが他の新人と

組ませてみたものの連携が取れず自分からコミュニケーションを取ろうとしない

組む相手がいないかアザナミに相談をしに来たのである、

 

「うんうん人付き合いが苦手な子なんだね、分かるよその気持ち

あたしのとこの子は陽気だから大丈夫だと思うよ」

 

アザナミはサガからその新人のアークスカードのデータを受け取ると

サガにはねねのアークスカードのデータを渡す、そして二人はそれぞれの

受け取ったデータの内容を確認する、

 

「ふむ・・・成績自体は悪くないようだな・・・カトリなら

バウンサーに誘いたがる人材だな・・・アルニム?・・・まさかな・・・・」

 

サガは小さくつぶやくと問題ないと判断しねねのアークスカードを閉じた、

 

アザナミはサガから渡されたアークスカードのデータを見て

いくつか気になる点を見つけた、

 

名前はイフェメラ

 

種族はデューマン

つい最近、研究機関でオラクル防衛の為に遺伝子操作で作られた種族で

その仔細は公表されていないため不明な点が多い、

 

家畜や作物のみならず人類までもがテラにいた頃より遺伝操作が行われ

その事はオラクルの人類にとって驚く事ではない、

しかしデューマンに関してはオラクルの主要研究機関ヴォイドで作られ

18年前から慣らしのため極めて少数がアークスシップにのみ

居住するようになった、

今までにも種族が生まれるたびに差別や迫害、種族間の摩擦をオラクルは経験してきた、

そしてそれは今でも尾を引いている

公表されている部分が少ないためアークスの隊員たちの懸念が

払拭された存在とは言いがたい、

 

「じゃあ明日にでも引き合わせてみよっか」

 

「そうだな、」

 

「出来る事ならあと二人欲しいところだな」

 

サガは可能な限りリスクを減らす事に気持ちを砕いていた

そしてアザナミもそれに同意していた、

 

「それじゃ・・・バランスを取ってレンジャーとフォースか

テクターを探してみようか」

 

アザナミはテクニックが使えるフォースかテクター、そして中距離支援を得意とする

レンジャーが適任と考え伝を頼りに連絡を取り始めた、

 

フォース職のあてはある、それを頼るためにアザナミは通信インカムを

かけて通信を始めた

 

「バルバラ教官、今いいですか?」

 

相手が目上であったらしく、アザナミは通信先のキャストの女性に丁寧に話しかけた

 

「アザナミ何か用かしら?」

 

教官と呼ばれたキャストの女性はアザナミから用件を言うよう促した、

 

バルバラはテクターと呼ばれる最前線で

テクニックというフォトンを攻撃と支援補助へと様々な形に変えて駆使する

魔法とも呼べるものを行使するクラスで彼女はそれらを扱う遠距離攻撃特化のフォース、

テクターの指導教官を勤めている、

現在は机仕事と雑務に多忙のため前線からは退いているものの

氷属性のテクニックを得意としている事から氷の魔女とも呼ばれる

古参のアークスで彼女の指導を受けているアークスから人材を紹介してもらいたいと告げた、

 

バルバラは無表情で事情を聞き終えると

 

「分かったわ、ではこちらで一人選んでおきます、見つかったら連絡するわ」

 

「見つかったら?」

 

「・・・すぐどこかへ行ってしまうのよ、今もね探しているのよ・・・引き合わせは明日?

午前10時ね、指定時間には連れて行くから、それじゃ・・・・」

 

淡々と言い終ると通信を切った、

 

「実はあたしバルバラ教官ちょっと苦手なんだよねぇ~」

 

サガに舌を出しておどけて見せた、

 

「そうか・・・」

 

バルバラと似たり寄ったりの向きのあるサガは短く答えた、

 

アザナミはすでに冷えて乾燥した食べかけのカレーの事はすっかり忘れ

次はレンジャーの手配に着手する事にした、

レンジャーの伝、ベテランであるジャンに通信を入れてみる、

 

・・・・なかなか繋がらない、遠くにいるようだ、不明瞭でノイズ交じりの

通信が入ってくる、

 

「おおアザナミかすまんが後にしてくれないか今敵が・・・」

 

忙しいらしいアザナミは気を使って通信を切った、

二人は通りがかったウェイトレスに飲み物と軽食を注文し互いの近況と苦労話を始めた、

 

 

新光暦新光暦238年2月28日 午前9時27分

アークスシップ1番艦フェオ アークスカフェ内アザナミの定席

 

「さってそろそろみんな来る頃だね、準備準備と」

 

アザナミとによりいつもの定席で皆を待っていた、カフェの一番奥まった席であくせくと

準備に取り掛かる、

この不便な奥の席になったのもハンターの構成員とのトラブルや乱闘が幾度もあったため

こちらに移るように指示されたからである、

ねねとイフェメラバルバラが連れてくるフォースかテクター、まずは3人の引き合わせ

すべては初めての時の第一印象で決まる、

 

アザナミはその前日から自分の部屋に帰らずいつのも定席でそのまま

夜を明かしカフェの横に併設されたサウナで汗を流した後

席に戻り残った仕事を片付けながら待ち合わせの時間まで待った、

 

そして時間の30分前、カフェの入り口にサガの姿が見えたその後ろにおそらくデューマンの

新人なのだろう、

浅葱色のショートカットでどことなく虚ろな切れ長の目華奢な体つきで性別すら容易に

見分けることが出来ない、

 

席に近づいたサガはアザナミに手を振りアザナミもそれを返した

 

「おはよう、あれ?カトリは?」

 

アザナミは来るであろうと思われたもう一人が見当たらない事をサガに尋ねた

 

「用があると言っていた、いつもならバウンサーに引っ張り込もうと来るなと言っても

付いて来るんだがな」

 

「そっかぁ~なら引き合わせは今度だね、君がイフェメラ?私はアザナミよろしくね!」

 

アザナミはつとめて満面の笑顔でイフェメラに手を差し伸べ握手を求めた

イフェメラはまるで他人との接触をした事が無いかのように

おびえ気味に半歩下がったがサガが背中に手を添えて身を引くのを遮る、

 

「心配ない私の仲間だ、これから世話になるのだ挨拶をしておけ」

 

サガに促されアザナミの笑顔に幾分か安心したのか未だ表情は硬いが

手を差し伸べ自己紹介をする、

 

「・・・・イフェメラ・・・・・・です・・・」

 

アザナミは二人に席を勧め、他の面々が来るのを待つ事にした、そして程なく

カフェの入り口にねねの姿が見える、

いつものように元気一杯の歩みにで席に着いた客を避け席にまっすぐ向かって来る、

 

「ねねちゃんこっちだよ」

 

アザナミがねねを呼びねねは勧められた席まで来ると元気に手を上げ挨拶をする、

 

「おはようなのじゃ!」

 

皆が挨拶を返すとねねの後ろにつき従う人影が胸に手を当て恭しく皆に挨拶をしている、

痩せ型の体を執事服に身を包み銀髪のを左右でカールさせた古風の執事のような佇まい

ねねの従者パイオニア一号その人であった、

 

「ねねちゃん後ろの人だれ?」

 

アザナミは見慣れない執事服の青年が誰か尋ねた、

ねねは昨日は一人だったはずだ、新しい仲間を自力で見つけたのかそれならば好都合だが

ねねからの答えを待たず青年は答えた、

 

「皆様始めまして、私ねねお嬢様の従者パイオニア一号でございます以降お見知り置きを」

 

「・・・・・」

 

一同静まり返っていた、この庶民的でいささか荒っぽいアークスカフェに

違和感の横溢する上流階級の空気が割り込んできた、この席に座る面々は

いずれも庶民層の出身で歯が浮くような違和感に耐性のある者などいるはずもなかった、

 

「昨日きたのじゃ、わらわだけで行くと言ったらみんなに挨拶をするから

どうしてもついてくって聞かないのじゃ!」

 

「お嬢様一人でこんな品の無い市街地に行くなど危なっかしくて危なっかしくて

このパイオニア一号見ておれません」

 

パイオニア一号はあきらかにこの荒々しさの漂うこの場所を好ましく思って

いないようだった、どことなくその言葉に臆病さと神経質さが入り混じっている、

 

「わらわは子供じゃないのじゃ!」

 

ねねは精一杯大人ぶるとパイオニア一号は皆の座る席の後ろに恭しく控え、

静かに座っていたイフェメラを見つけるとアザナミがしたように元気に手を

差し伸べ握手を求めた、

 

「妾はねねなのじゃ!よろしくなのじゃ!」

 

「よろしく・・・・」

 

イフェメラは手をおずおずと握り返し少し安心した表情を浮かべた

 

「暖かい手・・・」

 

小さくつぶやく声を聞き皆が馴染み始めた第一段階を感じ始めていた、

 

「後はそろそろバルバラ教官が連れてくるはずなんだけど・・・」

 

アザナミがつぶやいたちょうどその時カフェの入り口がにわかに

騒がしい、

 

「いやなのじゃーいやなのじゃーはなーすーのーじゃー!」

 

周囲の客が声のほうに向き直るとそこには待ちわびていたテクニッククラスの

指導教官バルバラの姿があった、

深紅のラミアシリーズと呼ばれるパーツで構成された体と見るものを凍て付かせるような

冷たさを湛えた青い目、その冷徹な物腰と氷属性のテクニックを得意としその冷酷なまでの

戦いぶりから「氷の魔女」の異名を取るベテランでもある、

 

そしてその手に何かをつかんでいる、よく見ると何か生き物?いや小さな女の子のようだ

黒いドレス風の服に猫の耳が付いたカチューシャをつけている、

 

バルバラはその小さな女の子が騒ぐのもおかまいなしに席に引きずっていく

そして席の上に落とすように座らせると隣に座り逃げないように目を光らせた、

 

「ごめんなさい待たせたわね、この子がお待ちかねのメンバーよほら・・・ちゃんと

挨拶をしなさい」

 

バルバラが女の子の頭を軽く叩くと金属音が響く、見た目で分かりにくいが

どうやらキャストのようであった、よほど念入りに外装が作られたようで

目を凝らさなければ見分けることが出来ないであろう、

 

「スゥリンなのじゃよろしくなのじゃー」

 

皆に手短な挨拶をすると真っ先に興味を示したのはねねであった、スゥリンを見る

その顔がみるみる笑顔に変わっていく、

 

「かわいいのじゃ!妾はねねなのじゃ!よろしくなのじゃ!」

 

ねねは満面の笑顔でまた握手の手を差し伸べる、不機嫌そうなスゥリンであったが

ねねの好意的な態度に表情が和らぎ

 

「よろしくなのじゃー」

 

肉球付きの猫の手グローブのまま手を差し出ししっかりと硬い握手を交わす

これがねねとスゥリンの生涯に渡る友情の始まりであったがその事をまだ誰も知らない、

 

そしてイフェメラはというと遠慮しているのだろうか二人の握手を無表情で遠くから眺めている、

そのイフェメラの前に2本の手が突き出される、ねねとスゥリンの手であった

イフェメラは戸惑ったどうしていいか分からない様子であった、

 

「握手だ二人の手を握ってやれ」

 

サガに促されイフェメラはおずおずと手を握る、温かい手と硬い手が

イフェメラの手を包み硬い握手を交わすことが出来た、

 

第一印象が好調に終わったことを感じたアザナミ、サガ、バルバラの

3人の保護者はそれぞれの求める飲み物と食事を注文するとバルバラは3人に注目して聞くよう

促すと言った、

 

「これからは3人で探索を始めなさいそして連携を深めて必ず生きて帰りなさいいいわね?」

 

ねねとスゥリンは元気良く、イフェメラは静かに返事を返した、

 

残念ながらこの日はレンジャーの手配がつかなかったが

アザナミは仲が良さそうに見えるこの3人でまずは新しい任務として選べるようになった

「ダカン討伐任務」を遂行させる事に決めた

ダーカーと呼ばれるオラクルに長きに渡って敵対する存在でアークスの任務の大半は

この適正存在からの防衛と討伐が現在の優先事項である、

ダカンはダーカーと呼ばれる中でも蟲型と呼ばれる先兵とでも言うべき

クモのような姿をした数頼みの弱い部類の存在で3人の試験運転には

ちょうど良いと考えたためである、

 

しばらくしてスゥリンは切り出した

 

「わらわ誰かの部屋に泊まるのじゃ~」

 

「スゥリン迷惑をかけてはダメ、私の部屋に帰るのよ」

 

バルバラは自分の部屋でスゥリンを寝起きさせているのだろう

 

「スゥリンちゃんよかったら妾の部屋にくるのじゃ!」

 

「いいのかや?」

 

バルバラの部屋がそんなに嫌なのだろうかスゥリンは期待感をこめてねねに聞く、

 

「いいのじゃいいのじゃっ!パイオニア一号いいかや?」

 

「はい、よろしうございますよお嬢様」

 

ねねは後ろに控えているパイオニア一号に静かに立っていたパイオニア一号は優しい笑顔で

ねねの望みに答えた、

 

「やったのじゃーありがとなのじゃー」

 

「手数をかけるわねお願いできるかしら」

 

スウリンは理由の分からない大喜び、それを尻目にしたバルバラは

ため息を一つつくとパイオニア一号に手間をかけさせる事を詫びた、

 

「とんでもございませんお嬢様にお友達ができてこのパイオニア一号

感激しております」

 

貴族的な雰囲気が漂う礼をされバルバラは困惑気味であるが彼はお構いなしに

感動する、どことなく没入的で妄想が入り混じるタイプなのであろう

その想像の世界の中は一面花畑が広がり妖精さんが飛び交ってるに違いない、

その歓喜の様に一同閉口するが彼は意に介している様子はなかった、

 

しばし歓談と情報交換等を行った後バルバラに呼び出しの通信が入り

それに応答した彼女は皆に暇を告げ

事情を理解しているアザナミとサガは引き止める事はしなかった、

帰るそぶりを見せたバルバラにスゥリンは機嫌よく手を振る

 

「では私は仕事があるからこれで、あとは頼んだわよ」

 

バルバラはそう言い残し皆に手を振られるりを見届け席を立って

一人執務室へと帰っていった、帰り道バルバラは心の中で思っていた

 

「(やっと面倒な子が私の手から離れるわ・・・・)」

 

そしてさらに歓談が進み適度な所で顔合わせはお開きとなりアザナミは

この場に留まりサガとねねとスゥリンの誘いを遠慮したイフェメラは

共にこの場を辞した、

 

ねねとスゥリンは手をつなぎ、ねねの宿舎へ帰っていく、その後ろで

パイオニア一号は笑顔で二人を見守り皆が温かい気持ちで家路へと向かう、

 

すでに食事は済ませていたので二人は風呂で汗を流し後ベッドに並んで横になり

様々な話をした、

そしてねねとスゥリンは話し疲れたのかいつしか眠りについていた

 

静かになったので様子を見に来たパイオニア1号はふたりの無垢な寝姿に

やさしげに微笑み

 

「ずっとお嬢様と仲良くしてあげて下さいね」

 

小声でそう言うとそっと二人に毛布をかけて寝室を後にした。

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