話は少し遡りねねたち訓練生が襲撃されたその日
新光暦238年2月20日 午前8時時18分 惑星ナベリウス西部訓練エリア
この日は惑星ナベリウス訓練エリアにて新たな先遣調査隊に着任予定の
訓練生最後の試練、実戦訓練が行われていた、
エリア内の敵を一掃、相手は訓練生に合わせ捕獲された敵と原生生物、
そして訓練エリアの外周は軍部の兵士が守っているので不測の事態が起これば
すぐに殲滅作戦を開始できるように広く展開している、
何の罪もない捕獲された原生生物にはどの道生きる事は許されないのだ、
この作戦で訓練生に自信を付けさせ最前線へ着任させる
それがアークス上層部の方針である、不安を抱え覚悟の出来ていない
隊員を前線に送るという事は本人が死んだり負傷するだけで済む事ではない、
未熟で臆病な隊員は時として仲間をも死へと巻き込む死神にもなるのだ
そして今回も無事に全てが終わるはずだった・・・
しかし今までに起こった事がない事態で全ての歯車は狂いだす、
フォトンフェンス内にダーカーの大群が突如として出現、訓練生500人が展開する
中央部から湧き出し次々と訓練生に襲い掛かった、その数は千、いや数千単位であったろう
特定のエリアがダーカーたちの黒一色の体色で染まったのだから、
訓練生は聞かされていない事態に一部がパニックを起こしそのパニックが
全域に伝播した事で総崩れになった、勇敢な者がダーカーにソードで斬りかかる
しかしまるで蜂のような姿のダーカーがその手でソードの刃を受け止める、
「えっ!なんだよこいつ・・・・なんで訓練なのにこいつらこんな」
次の瞬間蜂のようなダーカーの爪が驚きでソードを手放せなくなった訓練生に
爪を突き立て横に払う、今までソードを振るっていた訓練生は上下二つに
ちぎれて地面に落ちた、
「うっうっうっ・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「逃げろっにげろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
仲間の死を残酷な形でみせつけられたり訓練生たちは無防備に背中を見せ
逃げ出すがダーカーは容赦なく若い命を刈り取っていく、それはまさに阿鼻叫喚の
地獄の様相を呈した、
その事態を定点カメラと通信で把握した司令部は訓練エリアの周辺を警護していた
第19師団アリエテスにただちにダーカーの殲滅作戦と平行して訓練生の回収を命じた、
アリエテス師団はダーカーの発生した訓練エリアを包囲し訓練生が逃げ切った後で
ダーカーを包囲し各方向からの一斉攻撃でダーカーを一網打尽にする作戦で
事態の収拾を図ろうとした、
現地にて作戦を開始した軍部のアリエテス師団は指令を実行に移そうとして
訓練生たちに指示ポイントまで撤退するように通信を入れるも
現地はパニック状態であり、訓練生の各小隊は前から、背後から
四方から襲いかかってくるダーカー相手に精一杯で
軍部の指令を足並みを揃え実行する事など到底不可能であった、
訓練生が包囲しているエリアを脱出しきれず軍部も仲間撃ちしてしまう危惧のため
思うように包囲網を縮めることは出来ない、
そして混戦状態では敵の出足をくじく野砲での攻撃は人道という
枷のため行う事は叶わない、
後に分かった事だが軍部の兵士の誤射により犠牲になった訓練生もすでに出ていた、
事態発生の報を受け軍の総司令部に現在分かる限りの状況を報告し
新たな指令がないか確認するとともに更なる増援の要請を打診した、
「アリエテス師団だけでは足りんか・・・」
「しかしわが師団の位置からだと・・・」
「先見調査隊で賄えんのかね・・・」
総司令部では今までになかった事態に各師団の司令官と参謀が集まり対応策を練る
しかし今までにない事態からか対処の意見が分かれ無駄な時間が費やされる
雰囲気が漂う、
テーブルの一番奥の元帥席に座っていた将軍が静かに手を上げる、
片目を負傷したのか飾りなのか黒い眼帯をつけ濃いヒゲが顔を覆う
他の軍部の将軍の制服と違い古風な詰襟の制服を着ている、
フィールドグレーのドスキン生地の制服や古式張った制帽の正面には
鉤十字のあしらわれた花輪を掴みワシの刺繍と襟元の金色の刺繍がシックな制服と対照的で
左手に持っている短い棒のような杖をテーブルに置くと静かにそして威厳をもって号令する、
「諸君!事態は刻一国を争うぞ!軍人たるもの尻込みをしてなんとする、
ならば私が出て指揮を取ろう、諸君らはそれぞれに持ち場を守ってくれ給え!」
「ロドリゲス元帥自らがですか?」
「そうだ、久しぶりに元帥としての仕事もしておかねばな・・・・そして敵はあの虫けらどもだ
人と違って遠慮は要らんからな」
ロドリゲスはにやりと笑い席を立つ
「諸君!作戦会議終了!各々の成すべきを成せ!出撃!」
作戦会議室全員が敬礼をし小走りでそれぞれの持ち場に駆けていく
そしてロドリゲスはそばに控えていた参謀たちに指令を下す、
「先見調査隊に六芒均衡から誰か出せないか打診せよ、勝利は確実を狙ってこそ得られるものだ」
「了解いたしました」
参謀の一人が連絡将校へ指示を伝えロドリゲスの指示が先見調査隊へ伝えられる
着実に未来有望な若い命が救われつつあった、
廊下に革のブーツの乾いた音が響く
「全く良い時代に復活できたものだ・・・この疲れも知らず屈強なる機械の体といい
今までに我々が渇望した兵器が潤沢に使えもする・・・
やれ条約だ人道だボヘミアの伍長殿の命令だなど面倒な事もすべて飛ばして戦えるのだからな・・・
南極でこのまま氷漬けで終わりかと思っていたが・・・ククク・・・」
小声でブツブツとつぶやきながら軍部の元帥が搭乗するお召し艦へと歩いていく
増援部隊が訓練生を救うため出撃を開始した、
午前10時35分
先遣調査隊の隊員たちが次々と輸送シップによって戦線に到着、
前線へと降り立った、アークスの指導者的存在である六芒均衡、
その中の特筆した3人である三英雄筆頭のレギアスが陣頭に立ち
その場にいる全ての隊員にレギアスからの通信が入る
「全将兵に告ぐ、私は六芒均衡の一レギアス、恐れず体勢を立て直せ、
後は我々が引き受ける」
「レギアス!?やったぜ!これで勝てるぜ!」
「うぉぉぉぉ殺ってやるぜ!イェァァァァァァ!」
周囲から歓声が上がる、挫けかけていた士気が戻りつつある瞬間である、
オラクルのそして全てのアークスの精神的支柱と呼ぶに差し支えない
人物は数あれどその中で先遣調査隊最強とうたわれる戦闘力を持つのが
レギアスであり軍部の最高指導者であるであるロドリゲス元帥共々その存在そのものが
大きな心の支えとなっている、
高レベルのダーカーに怖気ついていた先遣調査隊、軍部の兵士もレギアスが前線に来た事で
幾分か奮い立ち士気が挫かれるのを抑える事が出来た、
存在そのものが精神的な安堵感となり徐々にパニックは収拾へと向かい始めていたが
所々で逃げ遅れた者、ダーカーの近距離にいて誤射された者
ダーカーに殺された者、ダーカーに囲まれて洞窟などにこもり応戦する者、
乱戦で時としてダーカーと背中合わせになって乱戦を戦い抜く者依然として事態の収拾は
つかなかった、
午前11時26分
最初に展開していたダーカーはアークスの前に崩れ去るかどこからかの指示だろうか
いずこかへ転送されて消えて行ったが事態の収拾は終わった訳ではない、
まだ増援のダーカーは次々と異空間から送り込まれてくる
アリエテス師団は待避ポイントまで撤退できた訓練生の回収作業に入る
手短な輸送用シップの荷物をすべて訓練エリアに投げ捨て中を空にした
ダーカーや原生生物は肉体的な戦闘力が高いが武器や物資を利用する
知能はないためこのような状況ではその方法で搬送を行うのは良くあることで
シップに負傷者を優先に搬送しアークスシップのメディカルセンターへと搬送していく、
先遣調査隊にも少なからぬ犠牲が出たが生き残った隊員は包囲の維持を軍部に任せ
包囲の内側に生存者を探し状況の把握のためレギアスの指揮の下探索を開始した、
まだレーダースキャンにより生存している訓練生が存在しているようだ、
司令部の緊急指令で召集された先遣隊の隊員たちの前に一人の逃げ送れた訓練生が
腰が抜けたのか元からなのかまるで蟲のようなギクシャクした動きで
転びながら走ってくる、どこかで落としたのか捨てたのか既に武器はなく
装着されたユニット(防具)も欠落したり壊れていて機能していない、
その訓練生は細身のニューマンで薄紫のショートリーゼント、藪にらみの目に
顔に全体に広がるあばたと如何様に見ても醜悪で情けない悲鳴は苛立ちや怒りを呼び起こさせる。
「はぁっはぁっ・・・助かった・・・あんたら俺たちを助けてくれるんだよな、な?」
走りすぎて気持ち悪くなったのかその場で嘔吐した
醜悪な訓練生に先遣調査隊の隊員の一人が全身のスキャンを始める
訓練生 レダ 侵食なし ・・・ スキャンした結果が隊員たちのアイディスプレイに
表示される、
「おい!おれはダーカーじゃねえよ!この先にまだ逃げ遅れた女の子がいるんだよ
俺襲ってきたダーカーをバッタバッタと倒したんだけどよ
その子を救うことが出来なかった助けてやってくれよ な?」
戦闘と急かした作戦行動に苛立っていた先遣調査隊の隊員は胃液の匂いを
漂わせた訓練生の襟首を掴んで
「バッタバッタとダーカー倒したなら助けて連れてこられるだろうが!
いい加減な嘘をつくな!」
そう言うとレダを地面に叩きつけた、地面に転がりながら
本当に女の子が取り残されているのだと必死になって話し続けた
「自分の事だけ考えて逃げてきた蛆虫が何言ってやがる!このアークスの面汚しが!」
周りにいる隊員たち加わり幾度も足蹴にされブーツで顔を踏みつけられ
汚れた水溜りに蹴られた腹を押さえてうずくまる
レダはなおも自分の言ってる事は本当で女の子を救ってくれとうめき続ける、
「そのへんでやめてやれよ」
後ろから来た一人の隊員が止めに入る、顔立ちは端整だか特徴の思い浮かばない顔立ち
ショートウルフと呼ばれるシャギーをかけた中くらいの長さの黒髪、
巨大なソードを背負いクォーズクォーターと呼ばれるアークスで一般的な戦闘服を
着たハンター風の若者が割って入った、
「本当なんだよ信じてくれよ・・・」
レダは泥水と鼻血と鼻水と涙にまみれた汚い顔で
止めに入った隊員に哀れな目つきで見つめてきた、
「分かった、大体でいいから場所を言ってみなよ、俺たちが助けてやるから」
黒髪の隊員はレダに言った、そういう事はほうっておけない性分なのだろう、
「ちょっとアッシュ!ほんとうにこんな生き物の言うこと信じるの?」
その後ろにいた背の低いニューマンの少女がアッシュと呼ばれた黒髪の隊員に
疑問を投げつけた、前髪をまっすぐに切り揃えた長い黒髪、幼さの残る顔立ちの
両頬に×印のフェイスペイントが施されている
若年の女性アークスに好まれるウィオラマギカと呼ばれるセーラー服の
流れを組む服を身に着けている、
「あたしもルピカに賛成、こいつ新種のダーカーなんじゃないの?」
褐色の肌にショートの赤い髪、筋肉質な体をネイバークォーツと呼ばれる
露出の強い戦闘服に身を包み、
自在槍と呼ばれる二つの穂先がワイヤーでつながりその名の通り
自在な攻撃を可能とした槍を腰に下げている、みるからに気のきつそうな
雰囲気をたたえている、
「どうせ任務で行くんだしついでに聞いてやってもいいだろ」
アッシュは赤い髪の女性に言い聞かせると二人とも最もと思ったようで
それ以上は何も言わなかった、
「じゃ異論なしって事で助けに行ってやろうぜ、それでいいなギリアム?」
と二人の後ろに立っているキャストに声をかけたディスタシリーズのパーツで構成された
灰色のボディーの男性キャストが手に持ったライフルを構えうなずく
「では行こうか、時間は余りない、そこの醜い生き物は私の演算だとあと455発は
蹴られても死なないとの結果が出ている、大丈夫だろう」
ギリアムと呼ばれたキャストはすでに臨戦態勢を整えていた
レダを足蹴にしていた先遣隊の隊員たちに女の子が逃げ遅れているという
ポイントを中心に捜索をする旨を伝え、同様の内容も司令部に伝えると
4人はレダから指定されたおおまかなポイントに向って走り去っていった、
アッシュたちの後ろからその場に残った隊員の
「とっとと起きろ臆病者が!」
と怒鳴り声とレダを蹴る鈍い音が幾度も聞こえてきた。
新光暦238年2月20日 午後12時41分 惑星ナベリウス西部訓練エリア
アッシュたちはレダから聞いた少女が取り残されているとされるポイントへ向って走っていた、
ジャングルには持ち主を失った無数の武器や装備、すでに事切れた訓練生の死体や
訓練の的として捕獲された原生生物の死体が累々と横たわる、
ダーカーは破壊されると霧のように消滅してしまうので相手の死体は残らない
その風景は一方的な虐殺をされた後のように無残さを増して感じさせる、
地獄絵図そう言って差し支えはないであろう、
アッシュは走りながら自分でも確実と言えないようなおぼろげな感覚でか細く
「助けて・・・」
という声が頭の中に響くような感覚を感じていた、風の音を間違えたのではなく耳に
直接聞こえるものではないが確かにか細いながらも聞こえてくる、
そしてその声に抗う気持ちは起こらず誘われるがままに声の元に駆けて行く、
ジャングルや乱雑な岩場と倒木を飛び越えしばらく走るとギリアムは全員に止まる様に
指示を出した、
「ポイントとしてはこの辺りのようだ」
ギリアムは足から噴出す噴射式のホバーを止めて着地しながら皆に伝えた、
走り続けた4人は足を止め息を整えつつ周囲に敵がいないか目視とスキャンで
確認をする、敵の反応は点在しているが数は少ない、目の前は開けた場所で左右と北側に道がある、
どっちの道へ行こうかとルピカが口を開こうとした時アッシュは再び頭の中に
か細い声が聞こえてくるのを感じた、
「助けて・・・」
右だ・・・右から聞こえてくる、アッシュは無言で右の道へと足を向け歩き始めた
スゥがなぜ右に行こうとするのか聞くとアッシュは何か確信したように
「こっちだ、こっちから声が聞こえる」
と言うとソードを背中から引き抜きさらに奥へと進んでいった
「声?あたしには聞こえなかったけど・・・ルピカとギリアムは聞こえた?」
首をかしげながらスゥは二人に聞くがルピカとギリアムは首を横に振る、
とかく異論はないので3人はアッシュの気が向くままについて行く事にした、
少し先で道は東と北に別れていたがアッシュはまるで取り付かれたように
迷いなく北の道に進んでいく、その歩みに全くの迷いがない、
短い洞窟が眼前に見え4人はそれをくぐってさらに奥へと進んでいった、
洞窟を抜けアッシュは相変わらずなにかに手を引かれるように
迷いなくジャングルを進んでいく、スキャンに映ってはいる敵の熱源反応は
なぜかこちらに向かって来ていない、
このまま静かに導かれると思っていたが少しづつ遠巻きに金属がかち合うような
音と雄たけびが聞こえ、進むにつれその音は大きく聞こえてくる、
「誰かが戦ってる?」
生き残った候補生だろうかスキャンデータが正確なら先遣隊もアリエテス師団の兵士も
まだこの地点まで踏み込んでいないはずである、
スゥは腰に帯びた自在槍を取り出しいつでも戦えるよう構えて腰を落とし
進んでいく、ルピカとギリアムもロッド(杖)とアサルトライフルを構え臨戦態勢を取りながら進む、
道は途中で途切れ低い崖を形成していた、その下に目を向けると音の主が
誰であるか理解できた、二人の男が激しく戦っている、助けを呼ぶあの声ではない
一人は2mはあろうという巨漢で荒々しい青灰色の髪を後ろになでつけ
顔に十字の傷があり殺気立った血走った目、
ヘレティックロードと言うオラクルの無法者連中が好んで着るコート状の戦闘服を身にまとっている、
腕には鋼拳と呼ばれる金属製のナックルを装備し
獣の様な雄たけびを上げ全力で相手に拳を叩きつけている
その勢いは周囲を圧倒しスゥとルピカのそばの草木までがその風圧を受けて不自然になびいている
それなりに戦いを経験した二人にはそれがいかに脅威であるか
分からぬはずもなく視線を逸らせず半ば呆然としている、
一方の男は
黒と紫に染め別れた肩までの髪に顔は不気味な金属の仮面をかぶり
開いた目の部分のクリアパーツもミラー加工が施されその顔はうかがえない
こちらも丈の長いコート状の服を着ているが糊の利いたシャツにネクタイを
締めそれなりに身を整えている、鋼拳の男のような粗野な服装ではない、
持っている武器はオラクルではコートエッジDと呼ばれる
フォトンブレードが護拳にまで伸びた上級者が使う特殊なソードだ
不気味で凍りつくような雰囲気で鋼拳を振るう男とは別の意味での
威圧感を漂わせている、
鋼拳の男は拳を仮面の男に叩きつけながら大声で叫ぶ
「たまにぁ任務にも来てみるもんだなぁぁぁぁ!こいつはうまそうだぜ
もっともっと楽しませてみろよぉぉぉぉぉぉぉ!」
物凄いスピードで鋼拳とソードが火花を散らしぶつかり合う
お互いに攻撃を弾きあっていて体に傷を与えることが出来ずにいるのだ、
仮面の男は無言で冷静に鋼拳をソードで弾いている、
まったく息が上がっていない、静と動、豪と柔、対極にあり
ながら技量が対等な者の戦いとはかくあるものだ、
ふいに仮面の男がアッシュたちに気付き顔を向ける、増援が来たと思ったのか
後ろに飛びのき舌打ちするようなそぶりを見せ小さく
「どこにいる・・・・」
とつぶやくとダーカーが退く時のような赤黒い球に包まれて姿を消していった、
相手が姿を消し鋼拳の男はアッシュたちに気付きにらみつける
その目は獲物を横取りしようとする相手に飛び掛ろうとする
肉食獣を思わせ殺気だった声で怒鳴り声を上げた
「おいてめぇ!てめぇだてめぇっ!てめぇのせいでうまそうな獲物が
逃げちまったじゃねぇかよぉぉぉっ!
腹の虫がおさまらねぇ、てめぇらまとめて叩き殺してやる!」
そう叫びながら近くの木や岩を手当たり次第に殴りつけ砕きなぎ倒し
ながらゆっくり歩いて近づいてくる、
標的を仮面の男からアッシュたちに変えた事が血走った目から感じられる、
ルピカは気押しされながらその男をスキャンをすると
ゲッテムハルト アークスシップ1番艦フェオ所属 さらに様々な
問題行動の経歴がディスプレイに映し出されていく、札付きのアークスだったのだ、
よりによって凶暴な性質で各方面で避けられる危険人物とこんな場所で
鉢合わせになるとはついていないと思った、
「うぁぁぁぁ・・・スゥくるよぉくるよぉ・・・」
ルピカはスゥに語りかけるがスゥも完全に気押しされ手に持った自在槍が震えている
けっして弱くもない彼女たちですら萎縮するほどゲッテムハルトの圧迫感は強かった、
ゲッテムハルトは飛び掛ろうとしたが何を思ったのか足を止め構えを解いた
「いや、やめだ、雰囲気はいいがまだまだ弱い、うまくなるまで楽しみに取っておくか」
そうつぶやくように言うと怒鳴り声を上げる
「シーナ!戻るぞ!」
ゲッテムハルトが叫び後ろを振り向くとそこに一人の少女が立っていた、
存在感が希薄なためかゲッテムハルトの殺気が強すぎて気付かなかっただけかもしれない、
何もかもがゲッテムハルトと対照的だった、華奢小柄で消極的
そして虚ろなまるで死んだような目でゲッテムハルトを見つめている、
「はい・・・ゲッテムハルト様・・・」
ゲッテムハルトが乱暴に投げつけたテレパイプ発生装置から出現した
パイプに荒々しく乗り込むといずこかへと消えていく、
シーナと呼ばれた少女はアッシュたちの方へ向き直る、
恐怖感に無意識に怯えが見て取れるルピかとスゥ、そして緊張感で
硬くなったアッシュ、そして唯一冷静に振舞うギリアムへと死んだような視線を流す、
「それでは皆様失礼いたします」
礼儀正しく礼をするものの温かみや相手への敬意は感じられない、しずしずとテレパイプへと
歩いてゆきそしてテレパイプに乗り込むとキャンプシップへと消えていった、
「何よあれ・・・」
「絶対やばかったよ・・・」
ルピカとスゥはため息をつきその場へへたり込んだ、完全にゲッテムハルトに気押しされ
緊張が一気に解けたのだろう、
「スゥ、ルピカ大丈夫か?」
ギリアムは二人に気遣いを見せ立つように促す、アッシュはギリアムに二人を任せ
安心感も手伝ってか相変わらず声の主に手を引かれるように前へ進んでいく
まるで無意識、夢遊病のようにぼうっとした顔だ
二人は置いていかれないよう立ち上がって後を追った、
そこからジャングルの不定形な道を500mは進んだだろうか
道はさらに細くなり小さく開けた広場になってそこで行き止まりになっていた、
地面に目を向けると・・・人・・・それも少女と思しき人が倒れている
背は低く銀髪を独得な形に結い上げているがうつぶせに倒れているので
顔はうかがい知れない、どこかで戦ってきたのか服はぼろぼろで
半裸にちかいが訓練生は識別の為に指定された制服を着ているはずだが
その少女の服はそれではない、考えれば考えるほど不審な点が見受けられる、
それに気付き4人は駆け寄ると落ち着きを取り戻したルピカは再びスキャンをして
人物の特定とフィジカルコンディションの確認を行う、
スゥはアイテムパックから応急処置のキットを取り出しいつでも応急処置が出来るよう
ルピカのスキャン結果を待つ、
ギリアムは周囲を警戒しレーダーで敵の不意打ちに備えた、
アッシュは少女に近づくと今度は頭の中にではなく少女の口から
かすかに助けてと声を聞きルピカにスキャンの仔細を尋ねた
「体は大丈夫みたい、疲労で動けなくなってるだけみたいだよ、でも・・・」
「でもなんだ?」
「この子アークスにも市民にも情報が登録されていないの・・・・だからといって
オラクル追放刑受けた犯罪者にも登録情報なしダーカーでもないみたいだし・・・誰・・・?」
と困惑したようにアッシュに言った
このままほうって置くわけにも行かないとアッシュは通信機で
現在の状況と仔細を簡潔にまとめ司令部の指示を仰ぐことにした、
「それにしても随分変わった服ね・・・」
服飾の流行に敏感なスゥは少女のボロボロになった服を見て言った
戦闘服には変わりないがオラクル内のデータベースに存在しない戦闘服で
見た目に反して相当に念入りに作られている、
普通では起こりえない事態がこれでさらに増え、司令部も迷ったのか
手が回らなかったのかその場に待機し現状維持指示が来るまで待機するように指示を返してきた、
4人は昏倒に近い眠りについた少女を救護用の簡易シートに寝かせ司令部の指示を待った、
自分の任務を忘れるほどにジャングルの中は静かだ、いつもの張り詰めた気持ちが
解きほぐされるような感覚すら感じられ
阿鼻叫喚の地獄と化したこの場所でここだけがいつものナベリウスを取り戻しているかのようだ
木漏れ日が優しく降り注ぎ、風がそよぎ小鳥のさえずりが聞こる、
血なまぐさい匂いもここには漂ってこない、
1時間ほどして司令部より所属不明の少女の救護許可が下りたので収容せよと指示が届き
スゥはテレパイプを投げてアッシュとギリアムは救護シートの両端を持ち
少女を持ち上げてテレパイプでキャンプシップに戻り少女をフェオまで届けるよう
キャンプシップの衛生兵とクルーに伝えると再び戻ってきた、
この場が平和でも訓練エリアにはまだまだ要救護者とダーカー
訓練で連れてこられた混乱と自己防衛で凶暴化している原生生物がまだ残っている、
「戻って最後まで踏み止まるぞ」
アッシュはルピカ、スゥ、ギリアムに言うと3人はうなずき元来た道を戻り任務を遂行する
隊員たちに合流し最後まで踏み止まり全ての生存する訓練生を回収し敵の殲滅が終わるまで
この場に留まって戦った、それがたまたまアークス放送局の中継クルーに取り上げられ、
事態をごまかすための英雄に祭り上げられ大々的に放送されたのである、
新光暦238年2月20日ナベリウスで起こったアッシュたちの物語である、