新光暦238年3月15日 午前10時22分分 アークスシップアムドゥスキア
火山地帯自由探索エリア
自由探索エリアの探索を始める、その探索は気味の悪いくらい静まり返っている
火山ガスや溶岩の噴出す音がそれ故によりはっきりと聞き取る事が出来る、
ゴポゴボとなにかが吹き零れる音とブシャーっと吹き上がる蒸気に
湿気と硫黄のにおい、まだ慣れるには時間がかかりそうな不快な場所である、
途中で石の壁が閉まり守備をしている竜族に襲われこそしたが
対処法を学んだ3人は楽ではないが撃退し竜族を退かせる事がが出来た、
「この先だね・・・・」
イフェメラは遠くに視線を向ける、
設置されたテレポーターとリカバリーポットがこの先に油断できない危険を物語る、
オペレーターのブリギッタもこの先にヴォルドラゴンがおり初戦である事も考慮に入れて
慎重に対処するように注意を促すがここまでさしたる障害もなくアムドゥスキア火山地帯では
想定外の順調さを見せていたためこころなしか顔に余裕が見られる、
「いくのじゃっ!」
「いくのじゃー」
「・・・うん・・・行こう・・・気をつけて・・・」
3人は迷う事無くテレポーターに乗り転送されていった、
目の前に資料動画に出でいた巨大な竜が開けた空間の手前にたたずんでいる
映像のような限られた視界でなく目で追える範囲に収まりきれない・・・
映像では自分の身が安全なため感じる緊張感や恐怖感は知れている
しかし実際に見るのと安全への垣根がない状況だと不安や恐怖感も
入り混じり映像ほど冷静ではいられないものだ、
しかしねねとスゥリンは両手を振ってヴォルドラゴンに挨拶をした
ヒ・レナの時の様に話せば分かると思い込んでいるようだ、
しかし様子がおかしい・・・返事どころかあからさまに臨戦態勢を取っており
口からわずかに炎が噴出し今にも炎を吐きそうだ、イフェメラはスキャンデータをみて叫ぶ、
「二人とも下がって!侵食されてる!」
「え?」
その声に二人は振り返りその瞬間ヴォルドラゴンは3人の頭の中に声が響く
「[これで][終わりだぁぁぁぁぁ!]」
ヴォルドラゴンは腕を振り上げ3人の頭の中に殺意に満ちた叫び声を響かせた
あまりにも大きいその声と巨体に釘付けになりすくみ上がった次の瞬間
足元から勢いの強い帆柱が上がり共に噴出した火山ガスの圧力で
宙へと吹き飛ばされ地面に叩きつけられた、
自分の置かれた状況が理解できない、相手に手を振ったと思えば地面から吹き上げられて
叩き付けられる、なぜレナの時の様に行かないのか?
そして次に何をすればいいかどう対処したら良いかが頭に浮かんでこない
浮かばないだけでなく足腰が立たず体はなすがまま、頭の中は混乱と恐怖で
一杯になっている、3人はすでに手詰まりとなっていた
ヴォルドラゴンは目を血走らせてこちらにゆっくりと向かってくる勝利を確信しているようだ、
そして3人が動けない事を確認すると体を少し縮め一気に伸ばすと同時に
口から巨大な火の玉を勢い良く吐き出す、
3人はもう避けようにも足腰も立たずどうする事も出来ない、
まるでけもののような悲鳴を上げるがそれが何の足しにもならないことは明白だった
恐怖で全てが引きつり心臓だけが激しく動悸して恐怖感をさらに煽り立てる、
灼熱の火の玉が体に容赦なくぶつかり目の前が炎の色で赤黄一色になった所で3人の記憶は途切れた、
「皆さん大丈夫ですか!応答して下さい!ねねさん!スゥリンさん!イフェメラさん!」
異常を検知したブリギッタは必死な声で3人に無事かと通信をするが反応はない
意識を失っているのは明白であった幾分か焦りを交えながら数度呼ぶが反応がない
「緊急事態発生!アムドゥスキア火山地帯77エリア探索中隊員が戦闘不能
至急救援の要請を行います!」
熟練のオペレーターとしての冷静さと対処能力を発揮して急ぎ近くのエリアにいるアークスを
検索してオペレート通信に割り込み3人がヴォルドラゴンに倒され生死不明であるが至急救援に
向って欲しいと救援要請を通達するが
火山エリアにたまたま来ているようなアークスというのはそう多くはない、
食料に乏しい火山地帯では3人が食料にされるのも時間の問題であろうし負傷がひどければ死の危険も伴う
状況から考えてアークスシップから救援を出している余裕があるとは考えにくかった、
ブリギッタは焦りの色を濃くして必死に救援に向ってくれるアークスを探した
検索の結果近くにいるアークスは2名、もはや時間の余裕がなく
ブリギッタはその二人のアークスに緊急の救助要請を入電した、
その通信が届く頃、二人のアークスはなにやらフィールドで口げんかの真っ最中だ
赤毛のシャギーが入った髪と顔の中心に左下に切り下げられた傷を持つ青年と
金髪をやや幼稚臭く左右に短いツインに結い上げたこれも若いニューマンの女性が
任務と依頼を効率よく達成する手筈の事でもめている最中のようだ、
「だからゼノ!なんでそんなに効率の悪い事するのよ!」
「うるせーなぁ目の前にあるヤツかたづけりゃいいだろうが順番なんてどうでもいいだろ」
男は場当たりに片付ければよいと譲らず女は早く帰りたいのか効率よくと譲らず
不毛で終わりがない口論が見込まれるであろうが
青年の方がいち早く女性に注意を促すハンドサインを交え緊急の通信が着たと注意を促す、
女性もアークスであるためその辺りの分別は出来ているようで口角泡飛ばす
勢いであったが電源を切ったかのように口を閉じて通信内容を確認する、
「ゼノさんエコーさん聞こえていますか?77エリアで新人がヴォルドラゴンと交戦中
戦闘不能の状態です!お二人が一番近くにいらっしゃるんで救援を要請します!」
ブリギッタはいちるの望みを二人にかけ3人がヴォルドラゴンとの交戦で
敗北した模様なので至急救援に向って欲しいと有無を言わせぬ勢いで二人に説明した
「依頼と任務は後回しだな、こっちが優先だ行くぞエコー」
赤毛の青年はエコーと呼ばれた金髪の女性に呼びかけると
「行こうゼノ、急がないとあぶないもんね」
と返事を返し救援に迎うと伝え遭難ポイントを指定してくれと言い終わらぬうちに
ブリギッタは司令部からテレポーターをゼノたちの目の前に転送して
これで指定ポイントまで向って下さいと指示を出した、
二人はテレポーターに乗り救うべき者たちの元へ駆けて行った。
新光暦238年3月17日 午前9時時2分 アークスシップ1番艦フェオ
メディカルセンター内
閉じたまぶたが外の光を感じている、これは炎の明るさなのか?いやいつもの見慣れた
照明の光だ、嗅覚が戻り始める火山ガスと硫黄のにおいがしない清浄な空気が
鼻の中を通り過ぎていく、体は・・・動かない、やけどを負ったからだろうか
所々がひりひりした感触が徐々に伝わってくる、死んでしまったのだろうか
ぼんやりと頭にそれがよぎるが目を開けられそうだ、
ねねは目をゆっくりと開けていった
ぼんやりとした景色は程なく焦点が合いここがメディカルセンターの病室だと分かる
そしてベッドの横には懐かしい顔、生まれてからずっと共に歩んできた顔がある
「お嬢様!お気づきになられましたか!パイオニア一号はそれはも~ぅ心配で心配で・・・」
小心なパイオニア一号がねねに声をかける、ねねは体に巻かれたフォトンコーティングされた包帯で
身動きが取りづらくまだあれこれしゃべり続けているパイオニア一号の後ろからフィリアがカルテを片手に
ねねに近づいてくるのが見える、
「気が付きました?危ないところだったみたいですね」
フィリアは端末でねねをスキャンしてフィジカルチェックを行いながら言葉を続ける、
「ヴォルドラゴンに負けたんです、幸い近くにいたアークスが救援に向ってくれたから
良かったものの無茶はしないで下さいね」
そう言うとフィリアは予想より回復が早い事をチェックで確認すると
2時間半後に食事の時間だと言うと病室を出て行った、
「ありがとうございます、お嬢様に何かがあったらこのパイオニア一号生きておれません!」
感極まったパイオニア一号はフィリアにひざを折ってすがりつくパイオニア一号の悪意の無い
腕がフィリアの腰にまとわり付き
「ちょっ!やめて下さい!」
顔面に横からカルテを挟んだファイルが叩き付けられ惨めな敗北を喫したパイオニア一号を尻目に
フィリアは次の病室に向かうため部屋を出て行った、
「パイオニア一号わらわたちはここに来るまでどうなっていたのかや?」
ねねはパイオニア一号に自分たちが負けた後どうなったかを訪ねた
パイオニア一号は訪ねられた事を聞いた話と自分が知っている話を交えてねねに聞かせた、
「お嬢様たちはヴォルドラゴンの火球で3人は倒されたのでございます
ヴォルドラゴンが吐く威力の高い火球を背中から受けたのでございます
後、ブリギッタさんが手配して下さり、近くにいたゼノさんエコーさんに救出され
メディカルセンターに搬送されて丸2日眠り続けていたのでございますよ
もぅパイオニア一号は心配で心配で・・・」
「そうだったのかや・・・」
ねねはゼノという名前に記憶があった本当に困った時に助けてくれた事に心の中で感謝した
「スゥリンちゃんとイフェメラちゃんは大丈夫かや?」
「イフェメラさんは特別な治療が必要との事で別のメディカルセンターへ行きました
場所は存じません、スゥリンお嬢様はこちらに・・・」
パイオニア一号の指差す先にスゥリンが寝ていた炎の熱か衝撃か両腕が吹っ飛び
髪は熱でチリチリになりすすだらけで汚い有様で
生身の部分である脳と内臓に問題が無いか検査のために入院していた
「ねねちゃぁぁぁん無事でよかったのじゃー」
まるで芋虫のような哀れな様であったが比較的元気そうであった、
「スゥリンちゃんっ!よかったのじゃよかったのじゃ!」
「スゥリンお嬢様、午後には新しいアームが届くそうです、今しばらくご辛抱を」
「くるしぅないのじゃー、パイオニア一号ープリン、プリンなのじゃー」
「はい今お持ちしますね」
まるで自分の使用人のようにパイオニア一号を酷使するスゥリンであったが
ねねに友達が出来た事を喜ぶ彼はすぐに回線を通してプリンの手配に取り掛り
程なく送られて来た高級ブランドナウラコンフェクショナリーのプリンを
スプーンですくうとスゥリンの口にやさしく運んだ、
「うまいのじゃーもっともっとなのじゃー」
「はい、しっかり食べて下さいねそのほうが傷の治りも早うございますから」
体が機械で構成されているスゥリンに食べて傷が治るというものではないが
やさしい笑顔のパイオニア一号はお構いなしだ、
「うう・・・スゥリンちゃんかわいいのじゃ、わらわもあ~んしてあげたいのじゃ」
ねねはパイオニア一号を少し恨めしそうに見ているとパイオニア一号は
その視線を感じて振り返ると言い忘れていた事を話し出す、
「そうでした、お嬢様がお目覚めの前に奥様とナターシャさんとステファニーさんも
お見舞いに来られましたよ、お嬢様の病室周りへのご挨拶も万全です」
どうやらねねの母が御付のメイドとともに見舞いに来たらしい
周辺の病室にはこれでもかと言わんばかりの挨拶の贈答品が山積みにされている
事だろう、自分が思った事を遂げるためならば周囲にお構いなしになる
性質は親から子へ連綿と受け継がれているのは確かであった、
「そう言えばアザナミさんがそう・・・予定通りでしたらそろそろお見舞いに
来られるそうですよ」
予定よりすこし遅れて病室のスライドドアが開く、甲高いヒールの音
見覚えのあるボサボサの爆発ポニーヘアとその姿、アザナミである、
パイオニア一号は丁重に頭を下げアザナミは困った顔でそれに応える、
「(その上流階級の社交辞令ってやついい加減やめてくれないかなぁ・・・)」
アザナミはねねとスゥリンが意識を取り戻したのを見て取ると
やさしく微笑んで見せて手に提げている袋に入ったお土産をテーブルに置きねねに向き直る、
アザナミが話しかけようとした時と同時にねねは口を開きアザナミは
自分の言葉を押し留めた
「・・・ごめんなさいなのじゃ・・・・」
ねねの体が興奮で震え目は今にも涙を流しそうだ、心配をかけた事への申し訳なさと
アザナミの顔を見て安堵したのだろう、
アザナミはねねの頭にそっと手を置きやさしく語りかけた、
「気にしちゃダメだよ生きて帰っただけでも儲けものなんだからスゥリンちゃんもね」
アザナミは責めようとはしなかった、本来なら自分に時間さえあれば
そばにいてもっと面倒が見られた筈で自分の監督不行き届きも原因にあると
思っていたため心の中で悪いなぁと思っていたのだ、
「スゥリンちゃんは今日にでも元に戻るからよかったよ、さっすがキャストだねぇ」
「ギニャ~・・・ギニャ~・・・パイオニア一号プリンプリンなのじゃー」
「おっと忘れていました、はいお口を空けてください、はい・あ~ん・・・」
もうすぐ昼食にもかかわらずプリンを食べて満悦の様子である、
「ねねさんスゥリンさん昼食ですよ」
「やぁフィリアひさしぶりだねぇ~元気そうで何よりだよ」
「アザナミも無茶しちゃダメよあなた昔からそう言う所あるから」
「今は責任ある立場だからしたくてもできないさ、じゃ二人を頼んだよ」
良い区切りと判断しアザナミは他の用を片付けるため暇を乞う事にした、
フィリアと知り合いだったらしく親しげにいくらか言葉を交わした後
アザナミは笑顔で手を振って病室を後にした、
「これだけかや?」
ねねは食事をテーブルに置くフィリアに訪ねた、
「育ち盛りですもんね、食べたくなったら食べに行ってもいいわよ食事制限が必要な
入院じゃないから、もちろんスゥリンさんも食べたくなったら介添えをしますから
ナースコールして下さい、もっともあと2時間ほどで新しいアームの取り付け
できますけどね」
「それはたすかるのじゃー」
「基本好きにしていいんですがメディカルセンターからの外出は許可できません、
それと就寝時間は9時なので厳守するようにしてください約束の時間に寝ないと怖いわよぉ~」
フィリアはねねとスゥリンの気持ちをやわらげようと飛び掛るようなポーズをして
おどけてみせた、
「そう言えばさっき廊下で患者さんがフィリア様の事を鬼ババアとかい・・・」
フィリアはパイオニア一号を笑顔で見つめるがその全身から湧き上がる殺気に
小心者の彼は震え上がり
「いいえそんな滅相もございませんとんでもない患者様ですよねっ・・・」
言い逃れに必死であった、
フィリアは介添えをパイオニア一号がする事と確認するとカートを押して病室を出て行った、
ねねは運ばれた食事を口に運ぶ、スゥリンはパイオニア一号の介添えで食事を口に運ぶ
「お味は如何ですか?」
パイオニア一号は余計な事を尋ねる、うまい訳が無い栄養重視で味は二の次三の次
味が薄くて瑞々しさにかけた少ない食事でねねとスゥリンは不満げな表情を
浮かべるが何も言わず全てを食べると身を起こした、
「お嬢様どちらへ?」
パイオニア一号はたずねるとねねは不満げな顔を浮かべ
「何か食べ物を買うのじゃ運動するのじゃ!」
「ねねちゃあ~ん、わらわにもなにか食べ物かってきてたもれなのじゃー」
スゥリンの悲痛な叫びにねねはうなづくとパイオニア一号が差し出したスリッパを履いて
病室を割合元気な足取りで歩き出した、
ねねは体を動かしたかったのだ、昔からじっとしているのが苦手だった
最近は昔ほどではないが急に動き出したがる衝動を抑えるのが苦手で
思うと無意識に飛び出し家族を心配させたものだ、
ねねはパジャマ姿でスリッパをパタパタとさせながら病室を出た
アークスシップのメディカルセンターのため患者は大人ばかりだ
子供や老人は見受けられない、負傷者の数は多いほとんどが探索中の負傷した者たちばかりで
暇を持て余している患者たちは雑談やトランプに興じるもの
据付モニターで番組を見るものと傷病者である事も手伝い
わずかな血と薬品の匂いや停滞した空気が漂う、
そこにかぐわしいにおいを感じ振り向くと病床兵がフライドチキンにかぶりついていた
「おいしそうなのじゃ!どこにあるかや?」
「ああ・これか?1階の売店で売ってるぜ」
「ありがとなのじゃっ!これじゃこれなのじゃ!わらわとスゥリンちゃんが求めているものは!」
売店で買えると聞きスリッパを鳴らしながら教えられた売店へと向っていく、
はからずも味の薄く寂しい食事がねねに生きる気力を呼び起こしていた、
患者や見舞い客で売店は賑わっていた、ねねは揚げたてのチキンを
一箱注文すると手頃なテーブルに座りチキンに勢い良くかぶりつく
そして食べ終えるとスゥリンの顔が頭に浮かび再び店に取って返すともう2箱注文し
病室に向かって歩き出した、
ねねは病室へ戻る途中にスライドドアが開いている病室がありそこから鼻歌がかすかに
聞こえてくる、
静かに歌声の聞こえる病室を覗き込んだ
「♪花びらひらひ~ら~ど~こまで飛んでいくの~♪」
歌声の主は銀髪を独得の形に結い上げた少女で小さなプランターに植えられた花に
水を与えていた、そのとても楽しそうな様子に
ねねは目を細めながらその様子を見守ると病室にと戻って行った。
「ギニャァ~・・・ギニャァ~・・・ねねちゃ~ん・・・ねねちゃぁ~ん・・・」
病室の外からかすかに声が聞こえてくる、スゥリンがお腹をすかせてチキンの匂いをかぎつけて
チキンを求め泣いている、ねねは使命感から病室への歩みを早めた、
新光暦新光暦238年3月13日 午前11時13分 アークスシップ一番艦フェオ
メディカルセンター
メディカルセンター宛に一通の書留と小包がが送られてきた、あて先は受け取り代理人フィリアと
なっており差出人はオラクル政府の戸籍管理課からであった、
「垣屋博士から・・・か・・・」
フィリアはそれを受け取ると他の職員に見られないようさっと隠し自分のデスクで開封して中身を確かめた
中にはマトイの市民IDカードと携帯端末の再発行で本人が入院中で受取不可能なため
フィリア宛に届けられた物であった、
マトイの名(偽名)は 「大前田 米子(おおまえだ よねこ)」と書かれていた
「・・・・なにこのダサい名前・・・」
フィリアはその田舎臭い名前に絶句したが背に腹は変えられない
「そうそうどんな人なのか把握しておかないと」
経歴を確認してみる
大前田 米子 オラクルシップ第210番艦 ガリツィエン出身
新光歴220年9月18日生まれ 18歳
10年前に両親と親族をダーカーの襲撃で失い孤児院の収容を経て後にアークスの
先遣調査隊の隊員になるも新光歴238年1月10日惑星ナベリウスへ向う途中に
キャンプシップごと同行していたメンバーと共に消息不明
「時折キャンプシップが謎の失踪をする事故があるけどそれかしら・・・」
そしてゲノム情報の簡易チェックをしてみると垣屋が細工をしたらしくマトイのゲノム情報を
大前田 米子本人の遺伝情報にすりかえられていた、
戸籍やアークスの個人情報からなら今できうる限りの興味を引きにくいように操作された
上々の裏工作である、
虚空機関に反感を持つ者や裏工作で鼻を明かしてやろうとする人々が少なからずいると
いうことの結晶とも言えるだろう、これなら目立たないよう大人しくしていれば当面は
虚空機関の目をごまかすことが出来る
フィリアは姿の見えない人々の力でマトイが救われている事を感じ感謝した、
よくもここまで都合の良い人物が見つかったものだと感心しつつフィリアは
ここ数日の心配事から来る重圧を和らげることが出来た。
時を同じくして アークスシップ1番艦フェオ メディカルセンター受付
メディカルセンターの受付で薬と物資の調達をしている一人のアークスがいる
ナベリウスの英雄に祭り上げられた4人のうちの一人アッシュである、
彼はいつものように探索で消費した回復剤(メイト各種)と応急処置キットの消耗分を補充しに来た、
ちょうど奥からフィリアが受付に出てきた所でフィリアはアッシュに話しかける
先月の20日に救出した少女の事だ、
「アッシュさんが助けてくださった女の子、回復していますよ
名前はマトイさ・・・いやいや大前田米子さんという名前でした」
「そうですか・・・(ダサい名前、プッ)」
アッシュは笑いを心の奥でこらえながらフィリアの経過報告を聞き
気にかけていた心配を払拭しこれで自分の手からこの問題が離れた事を感じた、
いくつか不審な点はあったもののそれも気には留めなかった、
それほどにアークスの遭難やそれに絡む救助は良くある事で
いちいち覚えてなどいられないのだろう、
そして過ぎた事はどうでもいいと言うアッシュの性分もあったに違いない、
アッシュはフィリアからマトイいや大前田 米子が無事回復している事を
満足げに聞き、記憶こそ失ったものの謎のキャンプシップの失踪から
生還して無事であるだけでも運がよかったと言った、
過去にキャンプシップごと消息が不明になったアークスが帰還した例は
ほとんどないに等しかったからだ、
しばし雑談をした後アッシュはメディカルセンターから立ち去ろうと背を向けるが
急に振り返り、フィリアを呼び止めた、
「そうだ米子さんにこれを・・・」
そしてアイテムパックから依頼で収集していた残り物の黄色や桃色の花を取り出し
検疫と消毒済みであることをフィリアに伝えてセンターの受付でもらった紙袋を
筒にして花束を作り米子にとフィリアに託した、
ずっと無機質な病室で静養している米子の気持ちが少しでも和らぐように
小さい花たちにがんばれとの思いを託しその場を後にした、
マトイは病室のベッドに半身を起こしぼんやりと外を眺めていた
暗く広がる宇宙空間にちらばる星たち、時折流星が流れては消える
自分が誰なのか今までどうやって生きてきたか分からない
自分の名前はマトイだと思っていたがフィリアから本当の名前は
大前田 米子 だと聞かされ自分がどこで生まれてどう生きてきたか聞かされたが
実感は湧かず何も記憶に思い当たることはない、
何も思い出せないため思いをめぐらせるのをやめて呆然と宇宙を眺めていた、
ドアがノックされフィリアが病室に入ってきた、検査なのだろうと
マトイは上着を脱ごうとしたがフィリアは検査ではないと言う
怪訝な顔をするマトイにフィリアは後ろ手にして隠していた
小さなプランターをマトイの目の前に差し出す、
アッシュが託していった花は植物サンプルの採集依頼の残り物だったため
根がついておりフィリアはセンターの要所要所に置いてある
観葉植物の無菌土を少しづつ拝借してプランターに花たちを植えて
マトイに持ってきたのだ、
「わあ・・・きれい・・・」
マトイの無表情だった顔がほころぶ、
ナベリウスでは目立たず雑草に近い扱いの花だが無機質の病室では
その可憐な姿は引き立ち映える、
「助けてくれたアッシュさんが持ってきてくれたのよ、かわいくてきれいでしょ?」
「うん・・・わたしこの花とっても好き・・・」
「育ててみない?」
「うん!」
フィリアはマトイを助けてくれたアークスがお見舞いに持って来てくれた事を
告げ、プランターに植えられたマトイの小さな友達を窓辺に置き
植物育成灯をセットした、
マトイは一人じゃない、その身を案じて救おうと奔走するフィリアや
裏工作に手を貸し守ってくれた人々そして小さな花たちが
マトイを見守ってくれている、フィリアとマトイは花を眺めながらそれぞれに人の温かさに
胸が熱くなってくるのを感じていた、