聖なる焔と赤毛の子供(TOA+ネギま!)   作:月影57令

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09 バチカル

 ようやく、キムラスカの首都バチカルに到着した。

 

「やれやれ、やーっと帰って来たぜ」

 

 ルークさんが息を吐きながら、とん、とんとタラップを降りる。もちろん前後にしっかりと兵士さんが護衛について、だ。

 

 降り立った僕達の前に二人の人物が待っていた。一人は頭の頭頂を禿げ上がらせ、両耳の脇に横に伸びる髪の毛をした初老の男性。背は高く体格がいい。ラルゴをほんの少し小さくしたくらいだ。となりには金髪を結い上げた女性。温和な雰囲気のセリスさんとは違って、キリッとした感じでいかにも女性軍人という言葉が似合う。二人とも赤と黒色の軍服を身に纏っているので多分お迎えの軍人さんだろう。船上でセリスさんが言っていたっけ。カイツール軍港から先触れの手紙を送ったって。良かった。キムラスカに受け入れる体勢ができて。

 

「お初にお目にかかります」

 

 二人はルークさんと導師様を見据えて挨拶をした。男性の方が軍第一師団長のゴールドバーグ将軍。女性は少将のジョゼット・セシルさん。セシル? 確かガイさんのファミリーネームもセシルじゃなかったっけ? そう思っていたらガイさんが落ち着かない雰囲気でジョゼットさんを見た。その挙動を見咎めたジョゼットさんがどうしたのかと問う。

 

「お、いえ、私はルーク様の使用人で護衛剣士のガイといいます」

 

 ガイさんが最初に名乗っちゃった。いいのかなぁ。しかしやはりジョゼットさんとガイさんは何かあるらしい。もしかして遠い親戚とかかな? その後ルークさん達は皆名乗った。ついでに僕も。

 

「貴公があのジェイド・カーティスか!」

 

 やっぱりジェイドさんは有名らしい。

 

「マルクト帝国皇帝の懐刀と名高い貴方が来られるとは、マルクトも本気、という訳ですかな……これはこちらも相応の対応をせねばならないようですな」

 

 その後の会話を聞くと、戦場で矛を交えたことがあるらしい。特にジョゼットさんは自分の軍を壊滅させられたとのこと。……たらり、と汗が落ちる。こんな危険な関係の軍人さんを和平の使者にするなんて、マルクトの皇帝や上層部は何を考えているのだろう。軍人じゃない外交担当の大臣とか政治家じゃ駄目だったのかな?

 

「ではルーク様、お屋敷まで送りましょう」

 

「待った! 俺はイオンから伯父上への取次ぎを頼まれてんだ。マルクトからキムラスカに戻るまでジェイドには守ってもらったしな。俺が王城に連れてくよ」

 

「ありがとうルーク。心強いです」

 

 ルークさんのご自宅、公爵様へはジョゼットさんが使いに行ってくれるらしい。

 

 それと犯罪者であるティアさんとアリエッタも捕縛された状態でゴールドバーグさんに引き渡された。

 

「あ、あのよ。そいつ、ティアはマルクトで俺を助けてくれてたんだ。なるべく……えーっと、その」

 

「温情をかけてやって下さい、とルーク様は言いたいのですよ。頼みましたよゴールドバーグ将軍」

 

「アーウェルンクス殿……わかりました。部下にはくれぐれも気をつけるように伝えます」

 

 連行されていく二人。導師様は心配そうに見ていた。と、今まで黙っていたヴァンさんが申し出て、二人についていく。どうやら上司として弁明するらしい。

 

 とにかく、僕達はバチカルに足を踏み入れたのだった。

 

 

     §

 

 

「ここがバチカルかぁ。くそっ、ちっとも帰ってきたーって実感がねぇや」

 

「記憶を失ってから屋敷の外に出てなかったからなぁ」

 

 ルークさんのぼやきにガイさんが頷く。一つの家から七年間もでられないとはどういう気持ちなんだろいう。十歳の僕にとっては人生の大半にあたるその時間。……僕の村が壊滅して父さんと会ったのが三歳だから、それから今までの間ずっと同じ家に……辛すぎる。

 

「ルーク、ちょっと街の中を見ていかないか? せっかくなんだし、散策したっていいじゃねーの。あとちょっと楽しもうぜ」

 

「別に、俺は……」

 

 ルークさんが唇を尖らせる。

 

「バチカルが初めての奴も多いだろ? ちらっとだけぶらついてもいいか?」

 

「僕はいいですよ」

 

「まあ、いいんじゃないですか」

 

 賛成する導師様とジェイドさん。

 

「……本当なら和平の使者と仲立ちの導師イオンにはすぐに王城へ行ってもらいたいところですが、お二人が構わないと言うのであれば私も反対はしません。ルーク様の為ですしね。……しかしガイ、公の場では敬語と敬称を忘れてはいけませんよ。減点です」

 

「う、すみません。……ってことで、ルーク様、行きましょう」

 

 セリスさんがガイさんをたしなめる。僕は基本的に身分がないので口を挟まない。

 

「ったくぅ、しょーがねぇなあ!」

 

「探検ですのー」

 

 しょうがないといいながらも、ルークさんは喜色満面だ。自由に動けることと、気遣ってもらったことが嬉しいのだろう。僕達は温かい気持ちになりながら移動を開始した。

 

 それから僕達はバチカルの主だった施設を見て回った。集合商店などを冷やかす。その奥には闘技場があるらしいが、今は閉鎖しているらしい。和平がなれば開かれるかも、とのことだった。

 

「ちくしょー! こんなのがあるならなおさら外に出たかったーってえの!」

 

 剣術が好きなルークさんは悔しがっていた。どうやらガイさんを含め屋敷の皆で隠していたみたい。そして武術の道場もあったので見学させてもらい、戦闘時の工夫などについて教授された。

 

 ある程度街を散策し終えたので王城へ向かう。縦長の街であるバチカルでは、天空客車というロープウェイのようなもので移動する。市民の暮らす市街地や、集合商店のあるところから上がると、軍施設があり、そこから更に上がると王城と軍兵士の詰め所、ルークさんのお屋敷であるファブレ公爵邸があった。さすが王家と姻戚関係にある公爵家。住む場所も王城の近くだ。

 

 王城の中に入るとセリスさんが、

 

「私が謁見の手続きをして参ります」

 

 と言って先に謁見の間がある階上に向かった。僕達は待機できる休憩所で休ませてもらう。その後少ししてルークさん達は謁見の間に入っていった。ミュウと僕はお留守番だ。

 

「みゅう……ご主人様」

 

「ルークさんはちゃんと帰ってくるから、大人しく待とうね、ミュウ」

 

「はい! ありがとうですの。ネギさん」

 

 そうして待っていると、三十分ほどで皆さんは帰ってきた。

 

「お帰りなさい。和平は、どうでしたか?」

 

 話を聞く。すると、どうやらルークさんたちの前にローレライ教団の大詠師、モースさんが謁見していたらしい。だけど、和平の親書は無事インゴベルト六世陛下に渡されたということだった。更にルークさんがエンゲーブやセントビナーは平和で、戦争の準備などをしていないことを話したそうだ。ジェイドさんはルークさんにお礼を言っている。キムラスカの上層部で会議が行われるようだけど、和平に賛同してくれるといいな。

 

 そしてようやくルークさんはお屋敷に帰るらしい。導師様達も、お屋敷を見たいというので訪問されるとのこと。僕もルークさんのお父さんに音機関都市ベルケンドの件でお会いしたかったので、ついて行くことに。

 

「父上! ただいま帰りました」

 

 お屋敷の中に入る。ジョゼットさんが話しておいてくれたからだろう、門番として立っている騎士さん――新しく雇われたのでルークさんの顔を知らない――もスムーズに通してくれた。そして玄関に入ったらルークさんのお父さん、ファブレ公爵と鉢合わせした。

 

「セシル少将から報告は受けたぞ。無事で何よりだ。使者の方々もご一緒か。さしてもてなしもできませんが、ゆっくりされていかれると良いでしょう。……アーウェルンクス将軍もな」

 

「ありがとうございます」

 

 導師様が僕らを代表してお礼を言う。だけど、ファブレ公爵はセリスさんに厳しい目を向けていた。セリスさんはそれをどこ吹く風で受け流していたけど。何だろう? 仲が良くないのかな。

 

「ところでルーク、ヴァン謡将(ようしょう)は?」

 

「ヴァン師匠(せんせい)なら港で別れたよ。連行されて行ったティアとアリエッタについてった」

 

「ファブレ公爵、私も……」

 

「うむ、ヴァンのことは任せたぞ。私は登城する」

 

 ? こちらも何かあるのだろうか? と、ファブレ公爵とジョゼットさんはすっと通り過ぎて屋敷の外に出て行った。……………………それだけ? 自分の息子が急に敵国に飛ばされて、何ヶ月も帰らなかったのに? 僕はその冷めた親子関係が信じられないでいた……。

 

 

     §

 

 

 それからのことを簡潔に語ろう。応接室に通された僕達だったが、先客がいた。ルークさんのお母さんが、ルークさんを心配するあまり倒れてしまったのだ。それを兄である国王陛下が自分の代わりに、娘で王女のナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアさんを使わしたのだ。彼女は行方不明になっていたルークさんに会えて感激していた。

 

「ルーク! ああ、良かった。貴方がいなくなってからというもの、ずっと、ずっと心配しておりましたのよ……」

 

「あ、ああ。その、心配させちまって悪かったな」

 

 実の父親とは比較にならないほど熱烈にルークさんと再会を分かち合っていた。

 

 その後、ヴァンさんについての話を聞いた。ヴァンさんはルークさんの出奔、超振動での移動について疑われているらしい。何しろ事件を起こしたのが実の妹なのだ、共謀を疑われても仕方がないだろう。導師様は度重なる部下の不祥事に頭を抱えていた。師匠を案ずるルークさんは必死に王女様へ、伯父上へとりなしてくれ! と頼んでいた。

 

 そして王女様が帰った後、僕達は使用人の方々に帰還の挨拶をするルークさんに連れられて屋敷を見学した。最初にルークさんがお母さんに会いに行った時は、導師様だけついて行って、ティアさんの起こした事件に関して謝罪されていた。

 

 そして屋敷を去る時がきたのだが……。

 

「せっかくなんだし泊まっていけよ、ネギ」

 

「え? いいんですか?」

 

 和平の使者一行である導師様、ジェイドさん、アニスさんは王城内に部屋を用意されているので王城へ。セリスさんは下にあるという自分の屋敷に。僕は宿屋に泊まろうと思っていたのだが、ルークさんが勧めてくれたのでお屋敷でご厄介になることにした。ガイさんは使用人なので自分の部屋へ。ミュウはペットなので最初から屋敷で飼われるつもりだった。

 

 そして、夕食にも僕はご一緒させて頂いた。病床にあるお母さんは同席しなかったし、王城での会議に出席しているファブレ公爵もいなかったので少し寂しかった。ファブレ公爵はしばらく忙しいという話なので、僕の研究については日をおいて話すことになるだろう。ルークさんは僕にそれまでゆっくり泊まっていけと言ってくれた。公爵家に居座るのは心苦しいが、手持ちの路銀もすくないことだしご厚意に甘えることにした。ルークさんも今まで同様軟禁されるので、どうせなら話したり稽古したりしよーぜ、とのこと。そんな色んなことが起きた。疲れたので今日は客間のベッドでゆっくりと休もう。

 






後書き
 この辺りの原作の雰囲気が好きです。なのでそれを再現したくて書きました。原作の半分でもあったかい雰囲気を作れていたら嬉しいです。しかし……全編書き上げた後に読むと別の感情が生まれます。この時にはあんなこと(エピローグ)になるなんて思わなかったのです……。
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