アビスのSSは好きですが、ルークがローレライと常時交信したりユリアの譜歌を詠ったり、ローレライパワァーでなんやかんややったりする全能ものは苦手です。きっついアンチはしたくないし、悲惨な事件も描きたくないけど、そんな都合のいい救済も肌に合わないのです。……結果、私のSSは毒にも薬にもならない平坦なものになる訳です。
再び船上だ。……昨日もバチカルに到着するまで船に乗っていたのになぁ。ホントにとんぼ返りだよ。だけど今回の航路は昨日までと違う。バチカルからアクゼリュスに行く最短ルートは昨日までの航路、バチカルから南西方向に移動してカイツール軍港へ行くことだ。しかし、残念ながらアクゼリュスは現在マルクトの領土(過去はキムラスカの領土だったらしい。だからキムラスカ側からも街道が繋がっているんだとか)。故に、アクゼリュスに入る前に出国手続きとマルクトへの入国手続きが必要になる。その為、僕らはバチカルを出発して北東の方角にあるケセドニアに向かっていた。
ケセドニアには両国の領事館があり、港も東西でそれぞれマルクト側港とキムラスカ側港が存在するそうなので、まずは西の港に入る。その後両国の領事館でそれぞれ手続きをして、東の港から出航してカイツール軍港を目指す。
またしばらくは船の上での生活だ。僕はルークさんの小姓になったので常に寄り添っている。頑張ろう。
§
私は船上で暇を持て余しているルーク様に、親善大使としてやるべき仕事をご教授していた。
「…………ホントにそれだけでいいのか?」
「はい、障気に当てられた者の救助は、私が兵士に指示して行わせます。ルーク様は搬送された軽症者や、避難した健康な者などの慰問を行って頂ければそれで構いません。重症者への慰問はしなくて結構です。訪問を受けられるほど、彼らの方に余裕がないでしょうから。下手な訪問はかえって相手を辛くさせるだけになってしまうでしょう」
ルーク様に与えられた役割が、「救援隊の総責任者」ならば指示出しも彼の仕事になる。しかし実際に与えられた役職は「親善大使」だ。であるならば、病状にある者を見舞うことが主な仕事になると考えていいはずだ。陛下達からは具体的な指示がないのだ。私の裁量でそうしてしまっても構わないだろう。何より公務の経験が無いルーク様にいきなりの指示出しは無理だ。今回はマルクトとの和平を行う象徴として、アクゼリュスの住民に「キムラスカ王族に良くしてもらった」というイメージを抱いてもらおう。それは将来のルーク様にも和平を結んだ両国にも、良き糧となるはずだ。
「ガイ、ネギ、貴方達はルーク様の護衛です。出発前に言っていたような被災者の搬送などは手伝わなくて構いません。というかしないでちょうだいね。あくまでルーク様の護衛に徹すること。被災者を助けたい気持ちはあるでしょうけれど、ぐっとこらえてルーク様の御身を守ることだけに集中なさい」
私がそう言うと、二人は不満を顔に表した。しかし引いたりはしない。
「マルクトを移動中、陸上装甲艦に
そう、言い聞かせた。おっと、そうだった。
「グランツ
これでよし。さて、次はカーティス大佐に確認しないと。私はルーク様の護衛を二人と白光騎士団の者達に任せると、カーティス大佐に与えられた船室を訪れた。
「カーティス大佐、少し確認したいことが」
「セリス将軍、何か?」
「先遣隊という名目になってしまったが為に即日出航してしまいました。本来出立前に渡すべき通行許可証の発行が間に合わなくなってしまったこと、申し訳なく思います」
「通行許可証……ですか」
疑問を抱いたような表情………………………………まさか、気づいていないのでしょうか?
「キムラスカの街道を使って救助する。それが和平の要件でもありますが、何もキムラスカの兵士だけで救助に当たる必要はありません。というかマルクトのことなのですから、マルクトからも救助の人員や物資を出すべきです」
「ああ……しかし、タルタロスに乗っていた人員は神託の盾の襲撃により皆殺しにされ、物資もタルタロスを置いてきてしまいましたのでありません………………っ!」
何を言っているのかこの男は、と思ったがすぐに気が付いたようだ。
「……インゴベルト陛下のお名前で、マルクトの兵士達を集団で越境させる通行許可証を発行して頂きます。残念ながら出航時には間に合いませんでしたが、担当部署に話を通してありますので、発行でき次第ケセドニアに鳩で送ってくれる手はずになっています。多分、先にケセドニアへ届くでしょうから、ケセドニアに到着したらキムラスカ領事館で私が受け取ります。そうしたらすぐに貴方へお渡ししますので、ケセドニアでピオニー九世陛下へ報告する文書と共にグランコクマへ送って下さい。グランコクマか、もしくはセントビナーから百名単位の救援隊が組織され、国境のあるカイツールを許可証で通り、アクゼリュスに向かってくれるでしょう」
マルクトから救助したいが、アクゼリュスに繋がる街道が障気で通れない。だからキムラスカ側の街道を使用して救援する、というのが今回の話だ。マルクトの兵士をアクゼリュスに送りたいなら、インゴベルト陛下に通行を許可してもらう必要がある。その為の許可証だ。一人ひとりに交付する旅券ではなく、団体の通行を認める許可証で救援に来てもらうのだ。…………まさかとは思うが、この男、バチカルを出る前にグランコクマへ報告書を送っていないのではないでしょうね? 普通、条件付きとはいえ和平が結ばれたのです、マルクトの皇帝陛下へ報告書を送るのは当然でしょう。けど、まさか、ねえ。
「……わかりました。ケセドニアに着いたらよろしくお願いします………………」
……まあ、いいだろう。この男が抜けていたとしても今の会話で気づいたはずだ。これでアクゼリュスにマルクトからも救援隊が出されることになった。アクゼリュスの人口は約一万人ですからね。百名単位の人員がいないと対応しきれませんよ。
§
ケセドニアに到着した。キムラスカ領事館で出国手続きをし、通行許可証を受け取ってカーティス大佐に渡した。次に三十名以上の人員を引き連れてマルクト領事館で入国手続きと、カイツール軍港行きの船に乗り込むと同時に救援物資を積み込む。人員は乗り込むだけでいいが、物資は数回に分けて運び入れた。一万人に対する物資だ。例え先遣隊であろうとその量は尋常ではない。……救援隊の本隊、早く来て欲しいものですね。
そして出発。カイツール軍港へ向けてまた船旅です。そこで、ガイを一人だけ呼び出して話をする。ネギにも話す約束はしたが、あの子にはまだそこまでの信頼は抱けない。ルーク様に悪い感情などは持っていないようだが、それでも全てを話すのは躊躇せざるを得ない。
「セリス将軍、話って何を……」
「ルーク様の護衛兼使用人、かつ友人でもある貴方にだけ打ち明けることがあります。六神将鮮血のアッシュのことです」
「……! アッシュ……ですか」
直接は見ていないが、タルタロスで対峙したルーク様、ネギ、カーティス大佐、グランツ響長の証言がある。アッシュと呼ばれた男は、ルーク様と同じ顔、同じ目と髪の色をしていたと。そして……。
「これを御覧なさい」
コーラル城で烈風のシンクから奪取した
「…………………………っ。こ、これ、は…………」
そこに記載されていたのは、フォミクリーという技術に関することだった。
「その書類には、アッシュとルーク様が、フォミクリーでレプリカを作った際に偶然できた完全同位体だと書かれています。音素振動素までまったく同じ同位体だと」
「……そ、んな……」
「ルーク様が十歳の時に起きた誘拐事件。記憶喪失になったルーク様。発見されたのはコーラル城。コーラル城には六神将が設置したと思われる謎の音機関があったこと。顔、髪と目の色が全く同じルーク様とアッシュ……証拠は全てそろっています」
「………………」
ガイは顔を青ざめさせた。証拠が指し示すもの……それは。
「……ルーク様、現在私達と共にいるあの御方は、フォミクリーで作られたレプリカです。そして現在ローレライ教団神託の盾騎士団に所属する特務師団長、アッシュこそが、十歳までバチカルで育ったルーク・フォン・ファブレです」
――残酷な事実を、告げた。
§
ガイさんの様子がおかしい。先ほどセリスさんに呼ばれて行ってからずっとだ。落ち着かない様子できょときょとと挙動不審だ。
「どうかしたんですか? ガイさん」
「落ち着かねーなぁ。なんだよ」
「……い、いや。何でもないんだ。何でも……」
その顔は何でもないって風じゃないですよ。ガイさん。しかし質問しても、返ってくるのは心ここにあらずといった感じの返答ばかり。そのうちルークさんが怒り出してしまい、ガイさんは頭を冷やしてくると言ってまた部屋を出て行った。
そんなことがありながら、カイツール軍港に到着した。軍港では馬車が用意されており、三十人以上の救援隊がそれに物資と共に乗って出発した。目指すは北東にあるデオ峠だ。
峠に到着すると馬車を降りる。この先は山道なので徒歩で行くしかない。王族であるルークさんと賓客であるジェイドさんは馬に乗せようという話が持ち上がったが、自分だけそんな特別扱いなんていーよ、とルークさんが断ったので全員で歩いた。……本当の理由は、馬なんて乗ったことがねーからどうしたらいいかわかんなかったんだ、というルークさんの本音を後で聞かされた。
大人数なのでゆっくりとした速度で行軍する。魔物もでるが、兵士の皆さんがローテーションを組み戦闘を担当した。ルークさんやジェイドさんはもちろんのこと、僕やガイさんすらそれに加わることはなかった。僕達は護衛、ルークさん達は守られるべき人。戦闘なんてもっての他だ。その移動中に聞いたのだが、セリスさんは譜術が使えるらしい。しかも
一日かけてデオ峠を越えた。その先にあったのは大地を大きく円筒状にくりぬいた鉱山都市、アクゼリュスだ。僕達は平らな草原にべこっとへこんだ円筒の穴、その中に足を進めた。護衛の兵士さん以外で先頭に立つのはマルクトの代表であるジェイドさんと、キムラスカの親善大使であるルークさんだ。
「こりゃあ……」
「予想以上ですね……」
うめいた声を上げる二人。街には紫の蒸気、障気が蔓延していた。目に見えるほどの濃度。その中で街にはいたるところに倒れている人達。僕もこんな酷い状況を見るのは初めてだ。少し気分が悪くなる。
「みゅう……酷いですの」
「ルーク様、お気をしっかりお持ち下さい。怯えたり病人を忌避するような態度は厳禁ですよ」
「お、おう」
道を進むと両の足でしっかりと立っている男の人が。頭にヘルメットをかぶっている。
「こりゃあ驚いた! あんたらキムラスカ側から来たのか!?」
どうやらこの男性が代表者らしい。ルークさんとジェイドさん、セリスさんが自己紹介する。男性の名前パイロープさん。村長が倒れてしまったので代理で代表を務めているらしい。パイロープさんには息子さんがいて、彼の周りをうろうろしていた。早く避難させておくれよ、と言っている。
「事前に取り決めていた通り、まずは現状の把握、調査からです」
「そうですね。私が兵士に指示を出して調査させます。ルーク様、医療関係者がいる救護所があるそうですから、そちらへ……」
ルークさんは慰問を行う。僕やガイさんはルークさんにつき従って守るのが仕事だ。倒れている人を助けたいけれど、自分の仕事に集中する。救助は兵士の皆さんの仕事。後から来るという救援隊の本隊が待ち遠しい。
§
数日が経過した。アクゼリュスの住民はその半数が
§
アクゼリュスへ到着して数日。その間にできたのは、本当に重篤な患者だけを搬送することと、それ以上の悪化を防ぐ為にキャンプを張ること。そして街全体の状況を把握することだけだった。……先遣隊である私達にできることなんてこの程度しかない。早く後発の本隊に来てもらいたいところだ。
到着して一週間が過ぎた頃、ようやく、ようやく、マルクト側から救援隊がやってきた。百名を超えるその集団の代表は、セントビナーの責任者でもあるグレン・マクガヴァン将軍だった。どうやらこの救援人員はセントビナーの駐留軍から組織したらしい。まあ当然か、首都グランコクマはルグニカ大陸の北端に位置し、セントビナーは中ごろだ。どちらがカイツール――アクゼリュスに近いかなんて考えずともわかる。一刻も早く到着させたかったのでセントビナーの人員を救助に派遣し、少なくなった人員はグランコクマからセントビナーに送って補充したのだろう。
「よろしくお願いします。マクガヴァン将軍」
「こちらこそ、アーウェルンクス将軍。ご高名はかねがね聞いております」
挨拶もそこそこに救助を行ってもらう。既に街の調査は終わっているので、把握している重症患者から運び出す。キムラスカ先遣隊である私の部下三十名も、私が指示を出して動かす。
そして重症患者は大体が搬送を終えた時だった。爆弾がやってきたのは。
「アーウェルンクス将軍! 報告であります!」
ルーク様の護衛である白光騎士団の一人がアクゼリュスにいる私のところへやってきた。
「どうしました? ルーク様に何か……」
「は、それが……」
最初に聞いた時、そんな馬鹿な。と思った。しかしどうやら事実らしい。であるならば挨拶に行かねばなるまい。私はマルクト兵に指示を出しているカーティス大佐とマクガヴァン将軍に会いにいった。
「……ふむ」
「…………は?」
ジェイド大佐は軽く頷き、マクガヴァン将軍は呆然とした。まあ当然だろう。
「ですので、一時作業を中断しご挨拶に伺うべきでしょう」
「……………………はぁ。わかりました。ご連絡ありがとうございます」
そして街の外にあるキャンプ地へ向かう。
「これは――」
「お久しぶりです導師イオン。バチカル以来ですね」
そう、なんと導師が被災地であるアクゼリュスまでやってきたのだ。彼はルーク様用に作ったテントの中にいた。
「イオン様、バチカルでアニスがさらわれたと言っていましたが……」
カーティス大佐が質問する。そう、どうなっているのでしょう? タトリン奏長が傍にいないので、行方不明の状態から発見されたということでもないようだが?
「あ、はい……。その、僕がバチカルから連れ出されたのは六神将の手による者でした。その後、バチカルから東にあるザオ遺跡という場所に行きまして、教団の機密に当たるので詳しくは話せませんが、ある作業を行ったのです」
「それが何故ここへ?」
苦々しい顔を隠しもせずにマクガヴァン将軍。
「はい、六神将はマルクトから奪ったタルタロスで僕を移動させました。ザオ遺跡の後はセントビナーの近くにあるシュレーの丘という場所で、同様に作業を行いました。その後彼らはアクゼリュスの近くに移動して、僕を護衛しながらここまで歩いて来たのです」
「…………」
ぽややん、とした表情で導師イオンは言った。つまりは六神将に連れられて来たらしい。しかしタルタロス? 報告ではセントビナーに停泊して機構をシャットダウンさせたと聞いていたが?
「…………タルタロスは、あの後再度襲撃してきた神託の盾騎士団に拿捕されたのだ」
セントビナーの責任者であるマクガヴァン将軍がそう言う。……神託の盾はやりたい放題ね。
「……その六神将はどこ行ったんだよ?」
ルーク様の質問に、さらわれていたとはとても言えない態度で答える導師イオン。……というか真実さらわれていた訳ではなかったということなのだろう。機密というのが何を指すかはわからないが、導師としての公務を行っていたという訳だ。
「僕をここに連れて来た後は素早く去って行ってしまいました」
「………………はぁーっ」
ため息をつく。なんとも言えない状況だ。六神将の意図もわからない。だがとにかく、
「導師イオン、現在アクゼリュスは大変危険な状況となっております。このキャンプ地から離れないようにお願いします。キムラスカから三名ほど護衛をつけましょう。
「……マルクトからも護衛の人員をつけましょう。くれぐれもアクゼリュスには立ち入ることのないようにお願い申し上げます」
マルクト軍としては近くに来ているというタルタロスを取り返したいところだろうが、まずはアクゼリュス住民の救助が何よりも優先されるべき事柄だ。忸怩たる思いなのだろうな。
「…………はい、そうですね。ですが僕はピオニー陛下から親書を託されました。ですから陛下には、アクゼリュスの状況についてもお伝えしたいと思います」
「ふむ、それでは全ての救助が終わったら、グランコクマへお連れしましょう。その後ダアトへお送りましますよ」
まったく、ダアトは厄介事しか運んでこないな。……しかし、そういうことなんだろうか? キムラスカが――ルーク様がここにやってきたのはローレライ教団の始祖ユリア・ジュエ、彼女の
§
導師様がやってきて一日が過ぎた。導師様は「作業」とやらがこたえたようで休息を要していたのだ。そして、
「イオン様、ルーク。私についてきなさい」
「ヴァン謡将、何を?」
ガイさんが尋ねる。
「何、危機的状況にあるアクゼリュスを救うのさ」
そう言って二人を連れて行こうとするヴァンさん。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 導師様やルークさんはアクゼリュスの中に入れては――!」
障気にやられちゃったら大変だよ!
「安心しなさい。その障気を消し去る為に二人が必要なのだよ」
障気を、消し去る――!? 一体、どういうことなんだろう?
…………………………………………。
僕達は今、アクゼリュスの街中に来ていた。昇降機を使って降りた先には、一つの坑道があった。
「ここは第14坑道ですね。確か調査した際に……」
「この奥にローレライ教団の機密があるのですよ」
「教団の機密? ヴァン、それはもしかして……」
ここにいる面子はルークさん、護衛の僕とガイさんと白光騎士団の皆さん。導師様に、護衛として両国が付けた兵士が合計六名。そしてセリスさんとグレン将軍、ジェイドさん。先頭にはヴァンさんが立つ。この救助の責任者達が勢ぞろいしたことになる。
ちなみに、ティアさんはここにはいない。ヴァンさんが何か別に行うことがあると言って、テントに残したのだ。何かごにょごにょと話していたようだけれど何があるのだろう?
そして坑道の奥に進む。障気が蔓延していて危険なので迅速に行動するのだ。坑道には魔物もいたが、兵士の皆さんやヴァンさんが蹴散らした。そして、
「これは……ダアト式封咒。ではここもセフィロトですね。…………開けたとしても意味がないのでは?」
ダアト式封咒? ってなんだろう。僕らの目の前には、坑道の一番奥にある場所では、おかしな幾何学模様の扉っぽいものがあった。黄土色の岩壁と床の中で、青や水色、緑や黄色が組み合わさったこの変なものは酷く目立つ。言葉だけで考えるならダアトの封印ってことになるけれど……。
それとセフィロト? 確か
「このアクゼリュスを再生させる為に必要な手順なのです。この奥に障気を中和する最適な場所があるのです」
「障気の……中和」
セリスさんはうさんくさそうな顔をしている。というよりほぼ全員がそうだ。怪しい。この街を覆う煙のような障気全てを中和なんてできるのだろうか? でもホントに中和できるのだとしたら、救助が完了する前に行うのは意味がある。現在まだ救助が完了していない、街の中にいる軽症患者さん達が悪化しなくなるだろうから。
「わかりました」
導師様は扉に手をかざす。するとガシャンガシャンと段階的に扉を構成する色が消えて、扉が開いた。中にぞろぞろと入って行く。
「ここは……ザオ遺跡やシュレーの丘と同じ……」
「ルーク、こちらへ……」
やっぱり前二つとこの場所は同じようなところらしい。そしてヴァンさんがルークさんを呼ぶ。
紫色をした、明らかに人が作ったとおぼしき回廊を歩く。ほぼ一本道なので迷ったりはしない。こんな坑道に人の建築物があるなんて……鉱山都市であるアクゼリュスの作業員さん達より前、多分昔だろうけど――に地下を掘って建築したのだろう。しかし、封咒は導師様にしか解けないんだよね? 一体誰が作って封印したんだろう。
広間のようなところに出た。その奥、部屋の中央には巨大な機械がある。
「随分大きな音機関ですね……これが障気を中和するという装置か何かですか?」
ジェイドさんがヴァンさんに尋ねる。
「さあ、ルーク、私の傍へ」
ルークさんが呼ばれる。だが僕とガイさんはぴったりとルークさんについていた。それを煩わしそうに見るヴァンさん。
「ふん……ではルークよ、これよ」
「くそがっ! やめろ!! アクゼリュスを滅ぼすつもりか!!」
ヴァンさんが何事か言いかけた瞬間、後ろから声が……あれは、アッシュ? アクゼリュスを滅ぼすって何さ?
「アッシュ! 何故ここへ来た! お前はっ……」
「残念だったなぁ! てめえが助けようとした妹も連れて来てやったぜ!!」
アッシュは何やら得意げに叫ぶ。助ける? ティアさんを? 何がなんだかわからないよ。
――――その時だった。いきなりアッシュの体が光りだした!
と、その光で気づきにくかったが、隣にいるルークさんの体も同様に光輝く。
「ルーク!!」
ガイさんがその腕を掴もうとしたら、両手を前に突き出す構えになったルークさんから、全方位に衝撃波が発せられた。傍にいた僕達は一斉に弾き飛ばされ、壁に強く体を打ちつける。
「な、なに……が」
「ルーク様!!」
セリスさんが衝撃から立ち直って叫ぶ。ルークさん!
カアアア、と光る二人から、何か目に見えない力が働いたように感じた。――そして、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
奥にあった音機関がぼろぼろと崩れていく……。これは、船の上で見たルークさんの超振動だろうか? そう思った時だ。部屋、というよりこの近辺一帯だろう、が揺れる。地震!?
「くっ、レプリカが役に立ってくれたはいいが、アッシュまで……」
レプリカ? 疑問に思った時、ヴァンさんが指を口に当てて甲高い音を立てる。すると通ってきた通路から二匹の鳥、魔物が飛んできた。それはヴァンさんとアッシュを口で咥えた。
「ぐぅくっっ! は、なせぇっ! 俺もここで朽ちる!!」
「イオンを連れて行くつもりだったが仕方あるまい。お前を失う訳にはいかんからな」
「兄さん! やっぱり裏切ったのね!! 外殻大地を存続させるって、そう言ってたじゃない!!」
言葉通りならアッシュに連れられて来たのだろう、衝撃波に襲われなかったティアさんが泣いているような声で叫ぶ。やっぱり? 裏切った? 外殻大地????
と、とにかく何が起こっているのかはわからないが、ここは危険だ。この回廊も上の坑道も地震で崩れてしまったら生き埋めになっちゃうよ!
「メシュティアリカ。お前には譜歌がある、それで……」
譜歌? いぶかしげに思いつつもルークさんの傍に寄る。ルークさんはぐたっと体を崩れさせていた。さっきの超振動を使ったからだろうか?
「まずい! 坑道が潰れます!」
ジェイドさんの警告。だけどどうしようもない。くそぅ、魔法が使えたら!
「私の傍に来て下さい! 早く!!」
ティアさんが詠う。それはあのフーブラス川で詠ったものと同じだ。防護壁を築くアレか。なら……。
ルークさんの体を僕とガイさんが支えた。衝撃波で倒れた皆の中心に移動したティアさんの方へ駆け出す。導師様も吹き飛ばされて気を失っているようだ。ジェイドさんが担ぎ上げている。
そして、僕達は落下して行った――――。
後書き
どうでしたでしょうか? 原作ゲームをプレイしている人は、ヴァンが信用ならないことも、何かまずいことが起きるのも大体予想がついていたと思います。ですが、作中の人物、特にティアやアッシュ以外の人物は何が何やら訳わからん状態だったでしょう。それを表現する為、視点をネギに固定しました。これが現場にいた人間の視点です。次回は説明回になりますね。原作を知らない人にもわかるように書いていきたいと思います。
まさかの超振動二人同時発動。どちらもルークなんだから、ローレライに体を操られるならアッシュも操られる可能性あるんじゃね? と思ったのでこうしました。
事前にアクゼリュスで行うことを教えられるルークについて。ルークは決して馬鹿じゃありません。教えられたことはちゃんと覚えられます。……なんで原作のナタリアやガイは教えなかったんですかね? アクゼリュスに着くまで船旅を含めて日数はたっぷりありました。その間に「アクゼリュスに着いたらこれをこうしてあれをああして」と教えてあげれば良かったのに。
原作ジェイドの台詞「仮に障気を中和することが可能だったとしても、住民を避難させてからでよかった筈ですし」…………逆じゃね? と思いました。住民全員が避難した後に中和しても意味あんまなくね? 住民が残っているうちに中和できればそれ以上の悪化を防げるんだから、そっちのが意味あるよね? と。