聖なる焔と赤毛の子供(TOA+ネギま!)   作:月影57令

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前書き
 今回の話はティアに厳しい内容が含まれます。きついアンチではないと個人的には思いますが、「これどういうことだよ!」と疑問を呈すと自然とティアを詰問する風になってしまうのです。ティアが好きな人は要注意です。





12 魔界

 気がついたらそこにいた。僕達は……確か強烈な浮遊感――まるで魔法で空を飛んでいた時のような――を感じたんだ。そして気を失ってしまったのか。

 

「こ……ここは……」

 

「ご主人様! 良かったですの!」

 

 ミュウの甲高い声。それでぼやけていた意識がはっきりする。すると周囲が見えてきた。紫色の世界。障気が蔓延している、どころじゃない。空から地面から海から、何から何まで紫色だ。……って海? なんで?

 

「ティアがユリアの譜歌を詠ってくれなければ、死んでいましたね……」

 

 ジェイドさんの呟きが聞こえた。するとガイさんも言葉を紡ぐ。

 

「俺達……アクゼリュスの崩壊に巻き込まれちまったのか? ここ……もしかして、地下なのか?」

 

「っ! そうだ、ルークさん!」

 

 僕は立ち上がってルークさんに駆け寄る。

 

「大丈夫ですか? さっきのは一体……」

 

「わっかんねぇ。船の上ん時みたいに声が聞こえたと思ったら、体が勝手に動いたんだ……………………これ、俺の、せい、なのか?」

 

「!! ルーク様! 詳しい経緯や事情はわかりませんが、私達はどうやらヴァン・グランツに担がれたようです。障気が中和できるというのは嘘だった。貴方様とあの男――神託の盾(オラクル)六神将鮮血のアッシュから発生した力が、あそこにあった音機関を破壊したようですが、今わかっているのはそれだけです。音機関とあの場所の、というよりアクゼリュス全体でしょうか? の崩壊は因果関係があるかどうかもわかりません。……とにかく、事情がわかっていない状態なのに憶測でものを考えるのは危険です。あの場にいた全員、状況がわかっていないのです…………彼女を除いてね」

 

 セリスさんが慌てて早口でルークさんに言葉をかける。向ける視線の先にはティアさんがいた。あの時の言葉から、ティアさんが何かを知っているのは確実だ。聞かなくてはならない。

 

 ――と。

 

「ぅ……ぅ」

 

 うめき声。苦しんでいるそれを聞いてはっとした。

 

「あの子!!」

 

 叫ぶティアさん。その言葉で皆の視線が向く。そこには、僕達が立っている崩壊した後の大地の欠片、その先にある紫色した海にその子供はいた。僕より少しばかり幼いその姿。あれは……。

 

「確か、パイロープさんの子供のジョン君!?」

 

 ジョン君は海の上で、パイロープさんと思しき人に抱きかかえられていた。だが、その二人の身は浮島のような岩の上にある。僕達がいる場所からは30mは離れている。

 

「いかん! 助けなければ!!」

 

 グレン将軍が叫んで走り出そうとする、のをティアさんが急いで捕まえた。

 

「いけません! この泥の海は障気を含んでいます。それに底なしの海なのです。入るのは死にに行くようなものです!」

 

 やっぱりティアさんは何かを知っているようだ。けどそんなことよりあの子だ。僕なら虚空瞬動で空を飛べる!! 僕は両足に気をこめてジョン君の場所まで跳んだ。

 

「ネ、ネギ!?」

 

 わずかな浮島の上にいるジョン君を担ぎ上げる。パイロープさんは……だめ、だ。医療知識のない僕でも、もう助からないのが見て取れる。あのアーティファクトがあれば……。くそぅ。僕は再度瞬動術を使って元の場所に戻った。そしてジョン君を介抱する。

 

「ジョン君! しっかり!」

 

「ネギ! こちらにあるタルタロスへ運んで下さい!」

 

 そのジェイドさんの言葉に、初めてタルタロスが傍にあることに気づいた。非常昇降口(ハッチ)が降りて乗れるようになっている。六神将達に拿捕されたというこれが、何故ここにあるかは気になったが、今はジョン君を助けることが先だ!

 

 ジョン君を抱えた僕を筆頭に、皆でタルタロスに乗り込んだ。

 

 

     §

 

 

「……どうですか?」

 

 マクガヴァン将軍の言葉に、静かに首を振ることで答えた。

 

「残念ですが……もう手遅れでした……」

 

「そ、そんな!!」

 

 ネギが叫ぶ。悲壮な顔をして。第七音譜術士(セブンスフォニマー)である私とグランツ響長が治癒術をかけたのだ。だが結果は残酷なものだった。ジョン君は、その短い生涯を終えたのだ。………………。

 

「どうして……」

 

 悄然とする皆。私も民間人の子供が亡くなったことで気落ちしていた。

 

「助けられなかった……」

 

「残念ですが…………僕らは最適な行動をとれたと思います。主にネギがですが。しかし、崩落してしまったその衝撃に、彼は耐えられなかった。ティアがいなければ僕達もそうなっていたでしょう。残念ですが、僕達にはどうしようもなかった」

 

 導師イオンが痛ましげに言葉を紡ぐ。どれくらい落ちたのかはわからないが1kmはあるだろう。その衝撃が全身を強打したのだ。とても助かるものではなかった。

 

「兄さんを止められていたら……」

 

「くそっ! 訳わかんねぇっ! 師匠(せんせい)は障気を消すって言ってたのに!」

 

「ルークさん。ヴァンさんは嘘をついていたんですよ。あの音機関が壊れて大地も崩れた。きっとこれがヴァンさんの狙いだったんじゃないでしょうか?」

 

 ネギがヴァンの目的について話す。……前から思っていたけれど、この子も尋常じゃないわね。これだけのことが起きて冷静でいられるなんて。

 

「……過ぎたことを言っても仕方がないわ……」

 

 その言葉に、ネギがぎょっとした顔をする。私もだ。いくらなんでも切り替えが早すぎるだろう。事情を知っているくせに!

 

「…………ティア・グランツ。貴方の知っていることを話してもらいますよ」

 

 私は彼女に詰め寄った。ふざけるな! 何か知っているくせに、仕方がないだと!? 確かに過ぎたことはどうしようもない。だがだからと言って全てを仕方がないと切り捨てることなんてできないだろう。人はそんな冷徹になどなれはしない。

 

「セ、セリス将軍、落ち着いて」

 

 ガイが止めてくるが知ったことではない。私は彼女の腕を掴み上げると、タルタロスの艦橋(ブリッジ)へ移動する。兵士達もいるそこで、全員に向けて話をしてもらう。この場にいる全員に、話を聞く権利がある。

 

 そして全員のいる状況で説明が始まった。

 

「ここは、地下です。貴方達の住む場所、今までいたキムラスカやマルクトのある世界は、この場所では外殻大地と呼びます。この魔界(クリフォト)からセフィロトツリーという柱が伸びていて、その柱に支えられているんです。空中に浮かんだ大地なんです」

 

「……意味がわからない」

 

 マクガヴァン将軍が呟く。

 

「大昔ですが、外殻大地はこの地下、魔界にありました。二千年前の時代、原因不明の障気が世界を包んだのです。まるでアクゼリュスのように、大地が汚染され始めた。ユリアは預言(スコア)を詠んで、滅亡から逃れる道を示したのです」

 

「ユリアは預言を元に地殻をセフィロトで浮上させたのです」

 

 導師イオンの言葉。導師も知っているのか。セフィロトが吹き上がる力で大地を浮上……とんでもない話ですね。

 

「セフィロトから伸びているからセフィロトツリーか……ってことは、柱は十個あるってことか」

 

 ガイが確認するように頷く。

 

「とても信じられない話ですが……事実なのでしょうね」

 

 艦橋の窓から上空を見上げるカーティス大佐。そこには、多分かつてアクゼリュスがあったと思しき穴が空いている、空があった。グランツ響長の言葉を信じるなら、私達の上空には浮かんでいる大地がある。そしてアクゼリュスは崩落したので、そのところがぽっかり空いているという訳だ。

 

「……とにかく、私達は崩落したということですね。グランツ響長の譜歌のおかげで、落下の衝撃に耐えられたということでしょう……しかし何故六神将らに拿捕されたタルタロスがここに? それに……ううん。考えることがありすぎますね。グランツ響長、とにかく、私達と別れた後、あのアッシュに連れられて来た経緯について話して下さい」

 

 すると、グランツ響長は話し始めた。テントで待機していた(ヴァンがそうするように指示した)ところに、始祖ユリアの詠んだ譜石が見つかったという名目で、神託の盾(オラクル)騎士団の兵士がやってきた。突然現れた兵士に驚いているところ(当然か、アクゼリュスに神託の盾はヴァンとグランツ響長しかいなかったのだから)、無理やり引っ立てられて近海にあるというタルタロスに収容されるところだった。そこにタルタロスの中からアッシュが出てきて、兵士を斬り殺した。アッシュはヴァンがアクゼリュスを崩落させようとしていると言い、「お前もついて来い!」と言って第14坑道に入り込んだという訳だ。

 

「……………………ティアさん…………アッシュの言うことを信じたんですか?」

 

 ネギは頭が痛いとばかりに顔をしかめて聞く。

 

「? ええ」

 

 この女……六神将は敵だというのにころっとアッシュを信じたのか。なんて節操のなさだ。私とネギ以外にも呆れたような目で見る者達がいる。結果的にアッシュがグランツ響長を連れて来てくれたから私達は助かった。それには感謝しているが、アッシュが信じられるかは別問題だ。

 

「それで……何故こんなことに? 話を聞く限り、アクゼリュスは柱に支えられていたのでは?」

 

「それは……柱が消滅したからでしょう」

 

 カーティス大佐の質問に答える導師イオン。

 

「……………………」

 

 場に沈黙が下りる。何人かの視線はルーク様に向いていた。私とガイ、それにネギは視線を遮るようにルーク様の前に出る。

 

「お、俺は知らないぞ! 体が勝手に動いたんだ! 訳のわからない声が響いて……」

 

「僕も見ていました。ルークさんとアッシュの体が光ったことを。二人に何かが起こった。そして……あれは超振動でしょうか?」

 

 ネギが私とガイの方を向く。そのことは私達三人しか知らないのだ。仕方ないので、ヴァンがルーク様に語ったという内容を私が話す。

 

「超振動を単独で…………それが本当なら何という脅威だ」

 

 戦争に使える兵器としての側面を見てとったマクガヴァン将軍が言う。

 

「ルーク様はバチカルに帰還する船の上でも体を操られて超振動を起こしたということです。恐らく今回も、何者かがルーク様、そしてアッシュをも操って超振動を発生させたのでしょう。そして……超振動は全ての物質を破壊し再構成するという力。それが……」

 

 ルーク・フォン・ファブレが単独で超振動を発生させられるなら、あの時アッシュとルーク様が光ったことに納得がいく。アッシュ、かれもルークなのだから。

 

「柱を制御しているのは、各セフィロトに設置されている音機関、パッセージリングです。ヴァンはルークに、障気を中和するのだと言ってリングの前へ誘った。つまりそういうことでしょう」

 

 ルーク様とアッシュの超振動がリングを壊した。そしてリングが壊れてセフィロトツリーが消滅したという話か。

 

「お、俺が悪いって言うのか!?」

 

「落ち着け、ルーク。誰もそんなこと言っちゃいない」

 

「貴方は兄にだまされたのよ」

 

「………………黙りなさいグランツ響長。ヴァンがだましたというなら貴方はなんです? あの時言っていましたね? 『やっぱり裏切ったのね。外殻大地を存続させるって、そう言ってたじゃない』と」

 

 その言葉でみなが今度はグランツ響長を見る。

 

「やっぱり……ですか。貴方は事前にヴァンの企みを知っていたということですね?」

 

 カーティス大佐の詰問。

 

「ヴァンは外殻大地を存続させると言っていたのですね? そして貴方はそれを信じていた。……なら、だまされた、のは貴方もでしょうに」

 

「……う、わ、私は……」

 

「ティアさんはヴァンさんを殺そうとしてルークさんの屋敷を襲撃したんですよね? 会った当初から言っていました。話せないとか話しても仕方ないとか、巻き込みたくないとか。……ヴァンさんの企みを知っていて、ずっと黙っていたんでしょう? ティアさん」

 

 複数の厳しい視線がグランツ響長を刺す。

 

「そ、そうだよ! お前が話してくれていりゃあこんなことには……」

 

「ルーク、落ち着いて下さい。皆さんも、ここでティアを責めてもしょうがないでしょう!」

 

 導師イオンが場の空気を払うように声を上げる。

 

「……そうですね。彼女だけを責めるべきではないのでしょう。彼女には命を救ってもらった恩もありますしね」

 

 誰も責めるべき人物がいない。振り上げた拳は、下ろす先を見失っていた。その場には、やるせない感情が漂っていた…………。

 

 

     §

 

 

 艦橋での話から、皆の頭を冷やす為に一時解散した。あのままではティアさんを吊るし上げるような状態になっていただろうから。その後、とりあえずタルタロスを移動させることになった。タルタロスがアクゼリュスの近海にあって良かった。崩落に巻き込まれたタルタロスは「偶然」僕達を保護してくれた大地の欠片、その傍に落ちた。緊急用の浮標が作動して泥の海にも耐えられたタルタロス。これがなかったら、僕らは障気溢れる海を泳ぐしかなく、今頃はあの大地の欠片も底なし海に沈んで死んでいただろう。ただ、タルタロスを拿捕していた、乗っ取っていた神託の盾騎士団の兵士達は、落下の衝撃でみな死亡していた。死体は可哀相だけど浮いていた大地に葬った。腐敗してしまうとあまりに不衛生だから、という理由で。

 

「…………ねえガイさん。ヴァンは一体何を考えていたんでしょうね?」

 

「うん?」

 

「ティアさんに譜歌を詠えと言っていましたけど、確かに譜歌のおかげで落下の衝撃には耐えられました。けれどその後、この魔界に落ちた後は、タルタロスがなければ僕達は死んでいましたよね? タルタロスが傍に落ちたのは偶然でしょう。ヴァンは僕らが助からない状況だって認識できていなかったんですかね?」

 

「……そ、そうだな。確かにそうなるな」

 

 僕らの誰も言葉にしないことがある。アクゼリュスが崩落したということは、近海にあったタルタロスが落ちてきたということは、同じく近くに設置していたキャンプも崩落したということを示す。…………つまり、アクゼリュスから避難させた重症患者や、自力で避難した健常者達、まだ街に残っていた軽症患者、全員が崩落に巻き込まれたということだ。だけど、誰もそれを口にしない。頑張って救助した人も含む全アクゼリュス民が、皆死んでしまったということを。

 

「どうせ何も考えていなかったのでしょう。テロリストのやることなんて支離滅裂なものです。真面目に考えると馬鹿を見ますよ、ネギ」

 

 セリスさんがそう言う。どうやら彼女の中でヴァンの信用は地に落ちたようだ。僕もだけれど。

 

音素(フォニム)反応を感知しました。西の方角ですから、ティアの言ったユリアシティで間違いないでしょう」

 

 ティアさん曰く、魔界には唯一人が住む町があるのだとか。それがユリアシティ。アクゼリュスの崩落跡から西の方角にあるということで、タルタロスはその進路を西にとっていた。

 

「あれは……滝でしょうか?」

 

 ユリアシティの前に大量の水のようなものが見えた。上から降ってきている。

 

「十六年前に、同じように崩落したホド周辺の大地、そこから海水が落ちて大瀑布になっているの」

 

 ホドってところも崩落したのか。……? それは何で?

 

「お、おいおい、水圧で潰されたりするんじゃ……」

 

「大丈夫よ。水分は気化しているから、地面に近いところは影響がないはずよ」

 

 疑問が浮かんだが、ティアさんとガイさんの会話を黙って聞く。

 

 そして、僕達は何とかユリアシティに辿り着いたのだ。全員でタルタロスを降りる。と、

 

「大丈夫ですか? ルークさん」

 

「ルーク様、あまりご自分を責めないで下さい」

 

「…………わぁってる、よ…………」

 

 これはかなり重症のようだ。そりゃああれだけの人間が死んだのだ、責任は感じるだろう。自分が殺した、とまで思っているのかも知れない。けど、僕は知っている。ルークさんが優しい人だということを。人殺しを嫌っている人だということを。僕は、ルークさんの味方になろう。責められるはルークさんじゃない。ヴァンだ。

 

 ユリアシティの道を進むと居住区などがある街の中枢に着いた。大勢で押し寄せたので、ぽつぽつといる住人に驚かれている。

 

「…………皆さん、ここの市長を務めるテオドーロは、ローレライ教団の詠師です。…………同時に、私の祖父でもあります」

 

 ティアさんはユリアシティの出身だ。だから魔界と外殻大地のことも知っていた。魔界については、魔界出身の者と、ローレライ教団の詠師職以上の者だけらしい。導師様が知っていたのも道理だ。

 

 僕達は、とにかく疲れ果てていた。アクゼリュスが崩落したところから、ユリアシティに到着するまで数日間かかったからね。今はとにかく休みたい――。ユリアシティでの宿泊許可などはティアさんに任せて、とりあえず休むことになった。

 

 

     §

 

 

 翌日、ベッドから起き上がってまずするのはルークさんの確認だ。本当ならガイさん達と交代で寝ずの番をするところだけど、この町に危険はないだろうからと、ルークさん本人から許しがあって全員眠りについたのだ。

 

「お、起きたかネギ」

 

 ガイさんは先に起きていたようだ。僕も挨拶を返す。さて、とりあえずルークさんを起こして、皆と合流しよう。

 

 ユリアシティの会議室に移動した。兵士さんも含めた全員で入れるほど大きな会議室だ。市長であり詠師でもあるテオドーロさんに主だった者で挨拶する。

 

「あ……あの、アクゼリュスのこと……。それと、こんな人数でおしかけて、すみませんでした」

 

 ルークさんが謝る。随分素直だ。会談に臨む前にセリスさんと話していたから、何か忠告されたのかな? だけどユリアシティに来たことはともかく、アクゼリュスのことまでこの町の人に謝罪するのは何か違うような……。

 

「アクゼリュスのことなら、我らに謝罪は不要ですよ」

 

「え?」

 

「アクゼリュスの崩落はユリアの預言(スコア)に詠まれていました。起きるべくして起きたのです」

 

「!?」

 

「ええ!?」

 

 場が騒然となる。全員がいきり立った。特にティアさんは目を吊り上げていた。

 

「どういうこと!! お祖父様、私そんなこと聞いていないわ!!」

 

「これは秘預言(クローズドスコア)だ。ローレライ教団の詠師職以上の者しか知らない」

 

 秘預言。確か、人の死に関わることや、世界に影響を及ぼすようなことで、秘密にしなきゃいけない預言だったか。ローレライ教団は死の預言を詠まないという話だ。秘密にされるべき預言。

 

『ND2000.ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を聖なる焔の光と称す。彼はキムラスカ・ランバルディアを新たな繁栄に導くだろう。

ND2002。栄光を掴む者、自らの生まれた島を滅ぼす。名をホドと称す。この後、季節が一巡りするまで、キムラスカとマルクトの間に戦乱が続くであろう。

ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ鉱山の街へと向かう。そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって街と共に消滅す。しかる後にルグニカの大地は戦乱に包まれ、マルクトは領土を失うだろう。結果キムラスカ・ランバルディアは栄え、それが未曾有の繁栄の第一歩となる』

 

 詠師でもあるテオドーロさんは預言の内容を読み上げた。

 

「知って、た……? わ、わかってたんならどうして止めなかったんだ!!」

 

 ルークさんが怒る。僕も、ふつふつと湧く怒りに飲み込まれそうだ。一万人が死んだんだよ!! ジョン君が、子供が死んだんだよ!!

 

「外殻大地の住人ならわかるでしょう。預言は遵守されるべきもの。預言を守って穏やかに生きることこそが、ローレライ教団の教えです」

 

「そ、そんなの……」

 

 異世界人である僕には認められない。ルークさんやティアさん、セリスさん達も同じ気持ちだったようだ。特にマルクト人のジェイドさんとグレン将軍は睨みつけるように市長を見つめた。

 

 市長は続ける。死の預言を前にすると、人は平静でいられない。それでは困る。ユリアは七つの預言でオールドラントの繁栄を詠んだ。その通りにことを運ばなければ、きたるべき繁栄が失われる。自分達はそれの監視者。教団などその為の道具でしかない、だそうだ。…………ふざけている。その通りに進めなければ外れてしまう未来の知識なんて、最初からあてにするのが間違っているんだ!

 

「…………なるほど、ローレライ教団の詠師職以上が知っている、ね。なら大詠師モースは知っていた。アクゼリュスが崩落すると知っていて、モースとキムラスカの上層部は私達を送り出したってことになりますね」

 

「そんな!?」

 

「陛下達に嫌われている私が補佐役に選ばれた訳がわかりました。私達は初めから死ぬものとして派遣されたのです。……ルーク様、口惜しいことですが、貴方も……そういうことでしょう。自分達が繁栄を手にする為には預言の通りにする必要がある。だから……」

 

 僕はその事実に眩暈がした。自分達の繁栄の為に死ぬとわかっていて送り出す。なんて悪辣なんだ。しかし、詠師職以上、か。なら、導師様も……。

 

「じゃあ……ヴァン師匠(せんせい)はそれを知ってて、預言通りになる為に俺に超振動を使わせようとしたのか!?」

 

「……いえ、兄さんは世界に復讐するつもりなんだわ。言っていたもの、預言に縛られた世界なんて消滅すればいいって。外殻大地を全て崩落させようとすら考えているのかも知れない」

 

「ティア。ヴァンは確かに預言を憎んでいた時期があった。ホドも、預言で滅亡を詠まれていたからな。だが、今は立派に監視者として動いているのだよ」

 

「立派だって!? アクゼリュスを見殺しにしたことがかよ!? おまえらおかしいよ!!」

 

 ルークさんは怒っている。預言の通りにする為に、ここの人たちはアクゼリュスの住民を見捨てた。同時にルークさんがアクゼリュスを崩落させることも見過ごした。自分が一万人殺しを行うことを止めてくれなかったので激怒しているのだろう。

 

 話し合い、という名の会談はそれで終わった。僕達はユリアシティの住人達と決別したんだ。

 

 

     §

 

 

 ティアさんの家に移動した。ここにいるのはティアさんとルークさん、ガイさんにセリスさんだ。

 

「兄さんはずっと、預言を憎んでいた……ホドを見捨てた世界を許さないって」

 

 あの預言ではホドの滅亡も詠まれていた。それが本当なら預言を知っていた人達はホドも見捨てたことになる。けど、

 

「どうしてホドにこだわるんですか?」

 

「十六年前のホド戦争で、マルクト領ホド島は消滅した……そこが、私と兄さんの故郷なの。アクゼリュスと同じように崩落したわ。多分兄さんも譜歌を詠ったのね。私が任官されて外殻大地へ行く前、兄さんが珍しくこの町に帰ってきたわ。そこでリグレット教官との会話を聞いたの」

 

 

 

「アッシュが勘付いているようです」

 

「奴は妙に潔癖だからな。私の計画が外殻の住人を滅すると知れば、反抗する可能性もあるな」

 

「シンク辺りを監視につけますか?」

 

「そうだな」

 

 

 

 僕は頭を抱えたくなった。

 

「どうして……どうしてそれを話してくれなかったんですか」

 

「…………だって…………会ったばかりの貴方達は信頼できなかったし、それに、全く知識のない貴方達に、外殻大地や魔界のことを言っても信じてもらえないと思って……」

 

 そりゃあ、僕達が会った当初なんて、ただの他人でしかない。でも、

 

「導師イオンには話せなかったのですか? 貴方の上司、組織の最高責任者でもある導師に。彼は魔界のことも知っていました。ならせめて導師イオンには話せたはずです」

 

「……………………それは」

 

 セリスさんの詰問にしょげたような顔をするティアさん。

 

「巻き込みたくない、と言っていましたよね?」

 

「……浅はかですね。巻き込みたくないという理由で話さずにいたら、アクゼリュスにやってきた導師イオンはまんまと巻き込まれています。また、彼には責任も生じる」

 

「責任?」

 

 不思議そうに聞くルークさん。

 

「今回の事件、ヴァンが主犯のようなものです。ルーク様とアッシュの超振動が発生したのはどうにもできないことですが、パッセージリングの前に行ったのはヴァンが障気の中和ができると言って誘い込んだからです。さらに、導師イオンには別の責任もあります。リングの前に行くには、ダアト式封咒と呼ばれたあの扉を開かなければいけませんが、扉を開けたのは……」

 

「……イオンだ……」

 

 ルークさんがうめいた。

 

「導師様が扉を開かなければリングは破壊されずにすんだ……ということになりますね」

 

 自分の言葉を他人事のように聞く僕。導師様を責めるつもりはないけど、確かに責任は生じるだろう。それに、ヴァンは教団の詠師で神託の盾騎士団の主席総長。どちらの組織にとってもヴァンの上司に当たる導師様には、監督責任というものがある。学校の先生が不祥事を起こしたら、校長先生が頭を下げるように。

 

「…………結局、貴方が秘密にしたことで、導師イオンは巻き込まれました。それだけじゃありません、ルーク様も、私達も、アクゼリュスの民も……です。もちろん、リング破壊を狙ったのはヴァンです。貴方だけが悪いとは言いません。ただ、貴方には貴方の責任があります」

 

「…………すみません」

 

「謝罪はアクゼリュスの民にしなさい。そしてマルクトの代表者二人と……マルクトの皇帝にね」

 

「そ、それより、何を取りに来たんだ?」

 

 話題を変えるガイさん。

 

音素(フォニム)学の本よ。ルークには必要になると思ったから」

 

「俺?」

 

「ああ、超振動のことですね。ルークさんは第七音譜術士(セブンスフォニマー)の素養があるから、それを学習するってことですか」

 

「ルーク様、私が教えます。少しずつ学んでいきましょう」

 

 第七音譜術士のセリスさんがそう言う。

 

「わ、わかった」

 

 そして僕達はマルクト軍の二人と合流した。二人にはタルタロスを外殻に打ち上げる件で市長と話をしてもらっていたのだ。アクゼリュスのセフィロトを利用すれば、再びツリーを伸ばすことができる。一度だけだけど。それを使って外殻大地に戻るのだ。タルタロスに乗って。とりあえずはグランコクマに行こうという話になったからだ。

 

 僕達は、色んな問題を抱えながら、タルタロスで外殻に戻った。上空に向けて噴き出す記憶粒子(セルパーティクル)に押し出される感触は、想像以上に乱暴だった。

 






後書き
 悩みましたが、アクゼリュスの住民と、救助に来た両国の兵士は全滅ということにしました。アクゼリュス周辺の崩落はデオ峠を含みます。つまり助けたいならデオ峠を越えた向こう側に避難させなければならなかったのです。原作知識を持つ転生者でもなければ、そんな未来は見通せません。アクゼリュスの穴、そのすぐ外にキャンプを作ってしまったので、避難させた人間も全員巻き込まれた、という風にしました。

 アッシュが来ません。心配するナタリアがいないこと。自分もアクゼリュス崩落の加害者になったのでばつが悪いこと、ルークを責めたいけど自分も同じですからね。原作のようにルークを責められないのでしょう。というか原作はホント謎。アッシュは何故わざわざユリアシティに来たのでしょうね? その後すぐタルタロス浮上させて外殻大地に戻り、ベルケンドに行っていますけど……最初から魔界に下りないでベルケンド行けばいいじゃないですか。何故一度ユリアシティに来たし。そんなにナタリアが心配だったか。
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