あの後、とりあえずシュレーの丘に調査隊を派遣することと、万が一に備えてセントビナーの住人を避難させることが急遽決定した。実際にはすぐに召集された議会で決定したのだが、ピオニー皇帝は実行する腹積もりで議会に望んだのだ。そして……。
「……まさか私がマルクトで活動することになるとは、思ってもみませんでしたよ」
セリスさんがぼやく。
僕達、具体的にはルークさん、ガイさん、僕、護衛の白光騎士団、セリスさん、ジェイドさん、導師様、ティアさんでパーティーを組み、シュレーの丘調査隊となった。何故かというと、ルークさんは自分の超振動が原因である為、かなり強めに皇帝に願い出たのだ。セントビナーを救う為に活動させてくれと。僕ら護衛や部下の人間はそれについて行く形だ。マルクト側代表かつ研究者としてジェイドさんが。シュレーの丘への案内かつ封咒を解いた償いとして導師様、護衛のティアさんということだ。グレン将軍はセントビナーに戻り避難の総指揮をとる。
そう、僕達はマルクトの為に動く。全員で話し合って決めたことだ。キムラスカに、ダアト、ローレライ教団(ユリアシティ含む)に見捨てられ、死ぬ為に派遣されたルークさんだ。生き延びるにはマルクトに助けを求めるしかなく、その為マルクトのお役に立つというのは対価でもあった。けど、
「何故、敵国の王族であるお前さんがそれほど必死になる?」
一番はこの会話と、その後にルークさんが放った言葉だったろう。
「おれ……俺は、マルクトにとって大罪人です。俺の、せいです。それに王族じゃありません。レプリカです。だけど、こんな半端な俺でも、誰かを、助けたい。皆を助けたいんです!」
やはりルークさんはアクゼリュス崩落とレプリカであることを気にしているようだ。だけど僕達の中にそれでルークさんに隔意を抱くような者はいなかった。それにしてもルークさんは随分変わったと思う。以前ならこんな風に真面目に「誰かを助けたい」などとは口にしなかっただろう。
僕らとグレン将軍は、取るものも取らずグランコクマから出発した。移動にはタルタロスの同型艦を使わせてもらった。ちなみにタルタロスをローテルロー橋に接岸したのは、水陸両用艦なのに大地を移動しなかったのには訳がある。タルタロスの陸上走行機能が
セントビナーに到着した。調査隊の皆はここで降りて、馬車でシュレーの丘まで向かう。艦はセントビナーの住民を収容する。艦だけでは全ての住民を収容できないので(収容人数は定員三百名。無理をすればもっと乗れるけど)、馬車や徒歩でも避難してもらう。自力で避難できない人を優先して収容するのだ。
シュレーの丘はセントビナーの真東にあったが、その間には高い山々があるので南から迂回しなきゃならなかった。空を飛べたらなあ。そんなことを馬車の中で言ったら、
「空を飛べたら……か。そういや、キムラスカの職人の街、シェリダンで飛行実験が開始されたって話だぜ」
「飛行実験? なんだそれ?」
頭にハテナマークを浮かべ、ルークさん。
「ローレライ教団が発掘したっていう昔も昔、大昔の浮力機関らしいぜ。二千年前はそれを乗り物に取り付けて空を飛んでいたんだとさ。音機関好きな奴らの間では話題になってたんだよ」
さすが音機関好きのガイさん。詳しいな。それにしても浮力機関か。なら飛行機が空を飛ぶのも遠い未来の話ではないのか。
「確かに。キムラスカと発掘元であるダアトで技術協力するという話になり、書類に了承印を押しました。実験は始まっている頃でしょうね」
導師様が話を添える。今更だが世界のトップが集結しているので、いくつもの話を聞ける。してみると、僕はラッキーな立場なのかな。…………初志とは遠く離れてしまったけど。ルークさん達と一緒に世界間移動について研究してもらえるのはいつになることやら。
シュレーの丘に到着。けれど、セフィロトとかパッセージリングはどこだろう。
「入り口があるのですが、開くには
「みゅ! 火ならお任せですのー」
ミュウが張り切ったので、点在していた三つの譜石にミュウファイアを当てた。すると壁の一部が動いて隠されていた入り口が開いた。
「奥へ進んでみましょう」
ジェイドさんが先頭に立って中に入る。少し進んだら広間に出た。
「パッセージリングだ!」
僕の言葉通り、リングである音機関がそこにあった。
「で、どうすんだ?」
「普通の音機関じゃないぜ。俺でもさっぱりだよ」
ルークさんとガイさんの会話。誰も触れたことのないローレライ教団の機密なのだ。知らなくて当然だよね。
「おかしいですねぇ。これは……ユリア式封咒が解呪されていないようです」
「どういうことでしょう。兄がこれを操作したのでは……?」
「何か方法があるはずです。諦めずに探してみましょう」
セリスさんの言葉で前を向く。とにかく探索してみよう。
§
つ、疲れた。半日近くさまよったよ。どうやらヴァンは三つの譜陣でユリア式封咒を更に封印していたらしい。封咒を封印て。で、それを解除する為、各所にあった色々な
「はぁ……はぁ……ふぅ。これでも、駄目なのかしら……」
ティアさんが肩で息をしながら歩く、と。
「!?」
「ティ、ティア! 今!」
リングの前をティアさんが歩いた時、正面に設置されている譜石が光りながら開いたのだ。本のような形にパカーンと開いた。
シュオオオオッ!!
ティアさんの体に青白い光が吸い込まれた……ような気がした。そうしたらリングの上空に樹形図が現れた。
「ティアに、反応した? これがユリア式封咒でしょうか? 警告……とありますね」
うう、文字は読めないんだよね。どうやら大きな赤い文字で警告と書かれているらしい。
「わかりませんが、とにかく今は解呪されたようです」
原因や結果がどうでもいい、とは言わないけれど、導師様の言う通り今の優先順位は別だ。
「ここに書かれている文字……パッセージリングの説明みたいだぜ」
譜石を見て呟くガイさん。すると上空の図を見ていたジェイドさんが言う。
「やってくれましたねえ、グランツ
「まずいですの?」
「セフィロトツリーが停止……ってことは、このままじゃ周辺の大地が……!」
「ええ、リングを破壊されたアクゼリュスとは違い、ゆっくりとではありますが、崩落していきますね」
ルークさんの焦った言葉に冷静に答えるジェイドさん。また崩落。なんて厄介なことを!
「どうすりゃいいんだよ!」
「暗号によって操作不可となっています。私が
「私も
「…………私にも、わかりません」
第七音譜術士のセリスさんとティアさんにはわからない。唯一わかるジェイドさんは第七音素が扱えない……どうすればいいんだ!
「……俺が、超振動を使って暗号とか弁ってのを消したら? そしたらどうだ。超振動は第七音素なんだろ?」
ルークさんがそう言うけれど……。
「暗号だけを消せるならなんとかなるんじゃないでしょうか?」
「ルーク! 貴方、まだ制御が……」
僕は肯定的に答えるが、セリスさんと一緒にルークさんの音素学を見ているティアさんが制する。まだ制御できる段階ではないのかな? 艦で移動する間、暇があれば訓練していたようだけれど。
「訓練ならずっとやってる! それに、ここで失敗しちまっても、何もしないのと一緒だ!」
「今のルーク様なら、基本的な音素の扱いはマスターしています。それほど分の悪い賭けではないと思いますが……どうしますか? カーティス大佐」
セリスさんがマルクトの責任者であるジェイドさんに聞く。
「…………やって、みましょう。ルーク、第三セフィロトを示す円形の図がありますね? その円周の外側、赤く光っている線を削除してみて下さい」
あれか……確かに、周りが赤くなっている円形の図が五つある。
「よし! やってみるぜ!」
「ルーク、頑張れ!」
ルークさんが両手を空にかざして超振動を発生させる。不可視の力が赤い線をなぞって消してゆく…………!!
「……起動、しました。セフィロトから大地を浮かせる為の
「やった! やったぜセリス、ティア!」
ルークさんが飛び上がらんばかりに喜ぶ。二人の手を順番に取ってぶんぶんと上下に振る。
「ルーク様が訓練に励んだ結果ですよ」
「わ、私は何もしていないわ」
「んなことねーって! 頑張れたのは二人が教えてくれたからだ。それにティアがいなけりゃ起動しなかっただろ。みんなのおかげだよ!」
「へへー。ルークがこんな殊勝なことを言うとはな」
微笑ましそうに、ガイさん。ルークさんは満面の笑みだ。嬉しいんだろうな。ずっとアクゼリュスの崩落を自分のせいだと思ってきたんだから。
「はいはい、ルーク、落ち着いて下さい。私達が今行ったのは、グランツ謡将の妨害を取り除いただけですよ。アクゼリュスがなくなったことによる、セフィロトツリーへの負荷は解決していません。グランツ謡将によって崩落させられることは防ぎましたが、負荷による自然崩落……まあゆっくりと落ちていくことですが……がもし起こるとすれば、それは防ぎようがありません」
「ネギが言ってたことか、アクゼリュスのツリーはなくなっちまった。んでこのシュレーの丘は位置的にアクゼリュスの隣、もしネギの考えが正しければ、ここのセフィロトには負荷がかかるってことだよな」
ですよね。どうしよう…………。………………!!
「あ、あの……こういうのはどうでしょうか!?」
僕が思いついたことを言う。しかし……。
「それは……」
「……ふむ」
「え? でもそれって……」
皆の顔はかんばしくない。うう、いいアイディアだと思ったんだけど。思いつきでしかなかったか。
「いえ……ちょっと待って下さい」
上空の樹形図、どうやらパッセージリングの操作盤らしい、を見ていたジェイドさんが言葉を発する。
「セフィロトが暴走……?」
「どういうことですか? 大佐」
ティアさんが尋ねる。
「いえ……まだ確証がありませんので……うぅん。できればここ以外のセフィロトも見てみたいですね。複数のパッセージリングで確かめた後なら……あるいは」
ジェイドさんには何か考えがあるらしい。
「どのみち、ネギの案は私達だけで決定していいものではありません。一度ピオニー陛下に報告して許可を頂く必要がある考えです」
「あぅ」
先走りだったか。
「え? ちょ……っと待って下さい。あの、このセフィロトツリーはルグニカ平野のほぼ全域を支えていると書かれています!」
樹形図を見ていた導師様が皆に警告する。
「え……ルグニカ平野って……」
「エンゲーブも含まれるわ……」
「た、大変じゃねーか! 早く行って伝えねーと!」
い、色々問題がありすぎて……どれから手をつければいいか。
「落ち着いて下さい、皆さん。今の状況を整理しましょう。我々はヴァンの企みであるツリーの停止を阻止し、再生させました。しかしアクゼリュス崩落による負荷がもしあるとしたら、それは防げない為、セントビナー周辺の大地は少しずつ崩落していく危険性があります」
そこで軽く言葉を切るセリスさん。
「ですがセントビナーの住民は今マクガヴァン将軍が陸艦で避難させています。そして新たにわかった危機はエンゲーブも崩落するかも知れないということ。セントビナーの住民はマクガヴァン将軍に任せて、私達はエンゲーブに行きましょう。そして馬車や徒歩で住民を避難させる。セントビナーの陸艦による避難が終わったら、陸艦をエンゲーブに回してもらい住民を回収する……これでいかがでしょうか? カーティス大佐」
「…………そうですね。それがいい。付け加えるならエンゲーブに向かう前にセントビナーに立ち寄ってマクガヴァン将軍にこの事実を伝えましょう。そしてセントビナーの避難を急いでもらい、避難先であるグランコクマでの報告もお願いしましょう。そしてその後素早くエンゲーブまで陸艦を回してもらう……といったところでしょうか」
二人の軍人さんによって今後の方策が整えられる。
「よし! ならセントビナーに急ごうぜ。将軍に伝えるんだ!」
ルークさんの言葉に頷き、僕らは入り口めがけて走り始めたのだった。
後書き
庇護してくれるマルクトの為、という名目ですが、これからその範囲を拡大して世界中を助ける旅をするルーク達。理由は「贖罪」です。アクゼリュスを崩落させてしまったから償いたいという気持ち、それがルークの根底にあります。次にそこから、誰かを助けたいという気持ちが育ち始めていきます。原作においても、ルークがパーティーのリーダー足りえたのは、その気持ちがあったからでしょうね。
よく長髪、短髪、と比較されるルーク。人によっては長髪の方が好きだ、という意見もよく聞きます。ですが私は、髪を切る前も後もルークは一続きの人間なのだと思います。一般的に長髪のルークはわがまま、傲慢。短髪のルークは優しい、利他的と評されています。それは違うと思うのが私です。ルークは最初から優しいし、ある意味では最後まで利己的なんだと思います。
ネギの考えである、「アクゼリュスのセフィロトがなくなったから、他のセフィロトに負荷がかかる」というのは原作にはない考えです。独自設定です。でも実際に考えたらそうなんじゃないかなぁと思ったのです。また、ネギやルーク達が先にエンゲーブの住民を避難させておくと、後で起こるイベントで楽になる為、こうしました。