「助けて下さり、本当にありがとうございます」
「怪我、ないか?」
ルーク様がお声をかける。
「話は後にしましょう。ネギが……」
「一人で巨大な恐竜型の魔物を引きつけているんだ。早く助けに行ってやりたい」
あの子は、頼むとは言ったけれどそんな無茶をして!
「わかりました。浮遊機関は回収したので、急ぎましょう」
パイロット、ギンジという青年はそう答えた。
§
「い、いやー。大変でしたねぇ」
僕は突き刺さる複数の視線に耐えかねて明るく言ってみる。じろりっ! ねめつけられた。ひぃっ!
「今回はギンジの命が危険だったからやったけど、次はねーからな! ネギ!」
「全くです。誰がそこまで無茶をなさいと言いましたか!」
「ホントだぜ、全く!」
「いやぁ。皆さんお怒りですねぇ」
「大佐! 茶化さないで下さい!」
う、うぅ。僕としては自分のできる範囲でやったつもりだったんだけど。皆には認められなかったようだ。
「……反省しています。うぅ。ですからこの扱いは……」
「何か言ったか?」
「俺には何も聞こえなかったぜ、ルーク」
僕はルークさんとガイさんに二の腕を掴まれてぷらんぷらんと浮かんでいた。まるでどこぞの宇宙人のようだ。
そのままシェリダンの街中でも運ばれた。うぅ~~! 恥ずかしいよぅ。
「おぉ! 帰ってきおったか! 突風にも耐えられる真・アルビオール二号機は完成したぞい! 先に帰ってきたギンジから受け取った浮遊機関は、今アストンの奴が取り付けてるぞ」
職人のイエモンさんが胸を張ってそう言う。
「大量の部品が取られたので、タルタロスは航行不能だと言う話ですわ……ところでネギはどうなさったの?」
ナ、ナタリア姫……たすけて……。
「お待ちしておりました」
乗り込んだアルビオール二号機には、作業着姿の金髪の女性がいた。ゴーグルを額につけている。
「あんたは?」
「二号機専属操縦士、ノエルと申します。ギンジの妹です。事情は全てお聞きしました」
「わかった。よろしく頼むぜ!」
「はい、さあ行きましょう!」
そしてアルビオール二号機は空を駆けた。一路ケセドニアへ――――!
§
タルタロスでの航海と違って、真っ直ぐ直線距離を移動できるアルビオールは早かった。僕らはケセドニアに着くと、まずマルクト領事館に立ち寄った。今回の旅の前に、自治区を認めているマルクト帝国の皇帝ピオニー様に、これから行うことの許可を願い出る手紙を出していたのだ。その返答が返ってきているはずだ。
「どうだ? ジェイド」
「ええ。無事、許可が下りました。議会の承認も下りています」
キムラスカの許可は取れていないが(というか無理!)、これで少なくともケセドニアの民を納得させることはできるだろう。
「よし、それじゃザオ遺跡に行こう」
僕らにとって初の砂漠越えとなる。アルビオールは砂漠には着陸できないからだ。しかし気を利かせたアスターさんにより、馬車が用意されていた。これで素早く移動できる。僕達はとりあえずケセドニアから真南に位置する砂漠のオアシスを目指した。休憩したり食料や水の補給が必要だからだ。それにザオ遺跡はオアシスの東にあるというので、目印のない砂漠で目的地に移動する為、その経路をとることになった。
「ふぅ……ふぅ。やっとオアシスに着きましたね」
汗をたらたらと流しながら言う。
「はああ、これからまた同じくらいの距離を移動するんだろ?」
「導師イオンにつけてもらった印では、そうなりますね」
セリスさんはこんな時でも涼しげだ。それはそうと、導師様がザオ遺跡の場所を地図に書いてくれていて助かった。といってもまだ同じくらいの距離を移動するんだけどね……。
とりあえず枯渇した水を補給しようと、オアシスで水を購入する、と。なんと、全く思いがけない再会が僕らを待っていた。
「アッシュ……っ!!」
「レプリカ!」
一触即発な空気。一応アクゼリュスの崩落を防ぐように動いていた彼だけど、和平を妨害する為、タルタロスの乗員を殺したことは記憶に新しい。ジェイドさんは絶対に彼と和解できないだろう。そしてキムラスカ側の人間としても、カイツール軍港襲撃の指示を出した者として指名手配されている。この人は敵だ。
「アクゼリュスでは世話になりましたね。あの時はグランツ響長を連れて来てくれてありがとうございます」
セリスさんがルークさんとの視線を遮るように前に出る。
「ですが、カイツール軍港の破壊と軍人の殺害を謀った貴方はキムラスカ国内では指名手配されています。まあ今の私達はマルクトでご厄介になっている身でもありますし、先を急ぐので、貴方を捕まえることはできませんがね」
捕まえたいけれど、一人の人間を捕縛して移動するとなると、拘束したり移動させたりで人手が必要になってしまう。今の僕達にそんな余裕はない。
「……俺は……いや、言い訳なんぞしても無意味か。エンゲーブが崩落を始めた以上、戦場の崩落もそろそろだろうな」
どうやら彼にもパッセージリングやセフィロトツリーの知識はあるようだ。当然か、元々ヴァンの部下だったんだもんね。
「このままでは、戦場にいる両軍が死んでしまうという訳ですわね」
ナタリア姫が歩み出る。するとアッシュの態度が目に見えて変化した。
「ば、馬鹿野郎! ここにいたら、お前まで巻き込まれちまうぞ!」
「そんなことわかっていますわ。ですがわたくし達は……」
姫がこれからの作業について説明する。と、
「そんなことが可能なら、同じ方法で戦場も……」
「シュレーの丘にはこれからザオ遺跡の後、すぐに行く予定だぜ」
「間に合うかどうかは微妙なところですがね」
「それならば、間に合うだろう。セフィロトは星の内部で繋がっているんだ。リングは通常、動作していない。だが、起動さえしているなら、ザオ遺跡からでもシュレーの丘のリングを操作できるだろう」
えっ! そうなの!?
「これは、貴重な情報をありがとうございます」
ジェイドさんがにこやかな笑みを浮かべながら、慇懃無礼にそう言う。
それで会話は終わったが、最後にナタリア姫が進み出る。
「あ……アッシュ、……その、一つだけ、お聞きしたいことがありますわ」
「……………………何だ?」
そっか、本来はこの二人が婚約者なのか。ナタリア姫の目にはすがるような色が見えた。
「……貴方は……貴方はアクゼリュスの崩落を知っていたのですか? こちらの……ルーク、の死を知っていたのですか?」
「…………………………」
アッシュはしばらくの間、沈黙していた。だけど、
「ああ、知っていた。そこのレプリカが死ぬことはな」
「そんな!?」
決定。アッシュもユリアシティやキムラスカの上層部、そしてモースと同じ穴のむじなだ。
「用はそれだけか? なら俺は行かせてもらう……お前らもグズグズするなよ」
どこか傲岸に、アッシュはそう言い捨てた。ナタリア姫は、信じられないものを見たように、体をすくませていた……。
§
馬車が走る。ザオ遺跡に向けてひたすら。その馬車の中では暗い雰囲気が漂っていた。沈んでいるのはルークさんとナタリア姫だ。セリスさんも少し態度がおかしい。それを振り払うように言葉を発した。
「だ、だけど貴重な情報を得られましたね。リングの性質について。これで戦争を止められるかも知れません」
「そうですね」
眼鏡をくいっと押し上げながら、ジェイドさん。
「あいつ……ヴァン
「それはわかりません。ですが簡単に和解はできない相手ですね」
落ち着いたけど、表情は優れないままセリスさんが口にする。
複雑な気持ちのまま、ザオ遺跡に着いた。
「導師様のお言葉では、リングはかなり降りた先になるようです。頑張って行きましょう」
場を明るくするように言ってみる。
そうして長い螺旋状の通路を降りた先だった。
「んん? なんだこりゃあ?」
黄色い光の結晶のようなものが。
「
「どうして音素が目視できるの?」
「それだけ濃度が高いということでしょう。ここはフォンスロットになるのでしょうね」
ジェイドさんが教えてくれ、ティアさんも続く。
「こんな風に、目に見えるほど一つの音素だけが結合しているのは、珍しいですね」
「ミュウ、お前は何をしてんだ?」
「ソーサラーリングに音素を染み込ませていますですの! 族長が言ってたですの。音素を染み込ませるとリングがパワァーアップするですの!」
へえ。それは一体どういうものなんだろう。しばらく音素に触れていたミュウが、右後方にあった岩のほうへ移動する。
「みゅみゅみゅみゅぅう! 力が……み・な・ぎ・る・で・す・のぉー!」
バカンッ! と大きな音を立てて岩場が崩れた。ミュウが体当たりをして破壊したのだ。
「すごいですの! 何でもかんでも壊せそうですのー♪」
どうやらソーサラーリングが強力になったことで、装備しているミュウが新しい力を得たらしい。
「いやぁ、助かります。これから邪魔な岩場や、破壊する物があったらミュウにやってもらいましょう。いつも私の譜術を使っているので、歳にはこたえるんですよ」
絶対嘘だ。ジェイドさんの譜力なら大した負担でもないはずだよ。まあ、だけどこれからはミュウに頼ることにしよう。ジェイドさんが消耗せずにすむ。
そして道を遮る岩場を「ミュウアタック」(命名ルークさん)で壊していった先。祭壇のようになっている場所に出た。
「今まで見たセフィロトから察するに、どうやらここにダアト式封咒があったようですね。……リングはこの奥でしょう」
セリスさんが言った矢先、地面が揺れた。
「おわっ! 揺れてるぞ」
「……ルークさん。地下全体が揺れているようです」
「この先に譜術を感じます。微弱、ですが」
さすがジェイドさんだ。僕らにはとても感じないそれを感じ取ったらしい。
「これは……来ます!」
先頭を歩いていた僕に、全身を岩で構成した巨大なサソリ型の魔物が! うう。巨大な魔物ということで、この間の恐竜を思い出しちゃったよ。
「行くぜぇっ!」
ルークさんは張り切って突撃する。僕が瞬動術で先手を取ることを見越しているのだろう。このメンバーでの戦闘にも慣れてきたな。さすがに人数が限られているので、セリスさんもルークさんの参戦を認めざるを得ない。
白光騎士団の皆はナタリア姫を守っている。僕、ルークさん、ガイさん、セリスさんの四人で前衛を務める。魔物は狙いを絞り切れずに右往左往する。と、尾を振り回してきた!
「うおっ!」
ルークさんとセリスさんは剣(木刀)で、僕は手甲を装備した腕で、ガイさんはなんとジャンプしてかわした。凄い。
「仇なす者よ、聖なる刻印を刻め――エクレールラルム!!」
ティアさんが最近習得した光の譜術を炸裂させる。ジェイドさんはいつもどおり譜術だけ連発してくれている。だけど、
「あ、れ……なんだろう。体が……」
魔物に攻撃を食らったら、体が思うように動かない。
「ネギ! 穢れを浄化せよ――リカバー!」
後方のナタリア姫から治癒術(後で聞いたが状態異常を回復する譜術だった)をかけてくれた。それで調子が戻る。
「どうやら毒を持っているようです。前衛! 気をつけて!」
ジェイドさんから指示がでるけど、この巨体と広範囲への尾による攻撃はそう簡単に回避できないよ!
「旋律の戒めよ、
――ミスティック・ケージ!!」
ジェイドさんから特大の譜術――秘奥義が炸裂した。音素の檻、球形のそれが魔物を包み込み、圧縮して炸裂した!
「…………ふ、う……どうにか……倒せたな……」
やった……。
「こいつは一体なんだったんだ?」
「創世記の魔物みたい。ユリアシティの図鑑で見たことがあるわ。ただ、こんなに好戦的とは載っていなかったけれど……」
「倒せたのですから、考察はほどほどにして進みましょう。とりあえず前衛の全員に治癒術をかけますわね」
そうしてブラウンを基調とした回廊を下っていく……が。
「パ、パッセージリングはまだかよ。遠いなんてもんじゃねーぞ!」
「もう随分降りましたね。帰りはこれを上っていくとなると、大変です」
「みゅうう、僕は申し訳ないですの」
「おめーは肩に掴まってればいいよ。気にすんな」
アクゼリュスの回廊はせいぜい百メートルくらいで広間に出た。シュレーの丘は入り口から数十メートルでリングまで到達できた。だというのにザオ遺跡はダアト式封咒があったと思しき場所から、もう一時間は歩いている。
…………………………………………………………………………………………。
やっと、やっと! パッセージリングの場所に到着した。
「良かった。私に反応してくれたわ。ここはシュレーの丘と違って兄さんは封印をかけていないようです」
譜石が反応して開かれた本のようになる。
「封咒を封印はしていないようですが、やはりリング自体にはグランツ
「なあ、赤いところを削り取ればいいんだよな?」
「ええ……しかし、セフィロトが暴走、ですか。やはり警告文に間違いはないようですね」
「どういうことですか?」
超振動を照射して赤いラインを削り取るルークさんを見ながら質問する。セフィロトが暴走?
「まだこれだけでは確証が得られません。リングの文章が誤っているかも知れませんからね。せっかく空を飛べるアルビオールが手に入ったのです、セフィロトについての確認は作業の後、実際に目で見て行いましょう」
ジェイドさんは問題を先送りにする。
「…………よし、赤い部分は削除できたぜ。この後ネギが言ったことをやるんだろ?」
「はい」
いよいよ僕が提案したことが実行される。それは……。
「本当に、大丈夫なのでしょうか? この大地を昇降機のように降下させるなんて……」
ナタリア姫はまだ自身なさげだ。知識はあってもセフィロトや
「しかし外殻大地を降下させるなんて、ネギも凄いことを考えついたもんだよ」
ガイさんの言葉。でも思いついちゃったんだから仕方ないでしょう。
「光の真上に上向きの矢印を掘り込んで下さい。次に命令を記入しましょう。古代イスパニア語は……わかりませんよね?」
「当たりめーだろ!」
僕も古代イスパニア語はわからない。それでもこの世界は標準的な言葉――フォニック言語というそれ――で統一されているので、話し言葉に困ることはない。でもフォニック言語が日本語と同じだなんて、最初にタタル渓谷で話した時は戸惑ったなぁ。当然書き文字は違うけどね!
「今使っているフォニック言語で掘り込みましょう。文法はほぼ同じ。なら動くでしょうね。ツリー上昇、速度三倍、固定。この三つの言葉をお願いします」
「任せろ!」
円形の図、その上に細かい文字がずらずらっと彫り込まれる…………ルークさんて、実は凄い天才かも。ユリアシティで音素学の本を受け取ってから一ヶ月と経っていないよ。それでもう超振動を自由に扱えている。最近では戦闘に使用できないか考案しているらしいし。
「上手くいったみたいだな。やったなルーク」
「でもまだシュレーの丘、エンゲーブが……」
「続いて第四セフィロトから第三セフィロトに線を延ばして下さい」
この作業になると途端に僕らは役立たずになる。活躍するのはルークさんとジェイドさんの二人だ。
「後は第三セフィロトに、先ほどと同じことを書き込めば、今回の作業は終了です」
第三セフィロトはシュレーの丘だ。アッシュの言葉が確かなら、ここからもシュレーの丘周辺の大地も降下させられる。これで、ケセドニアと南の砂漠全て、エンゲーブから南のカイツール軍港の方まで、世界のほぼ十分の三が魔界に降下することになる。
「降下し始めたようです。念の為、降下が終了するまで待機しましょうか」
セリスさんの言葉で、僕らはその場に腰を下ろすのだった。超振動を使ったルークさんは息も絶え絶えという感じだ。水筒を渡そう。
………………………………。
「完全に降下したようです。リングにも異常は見受けられません」
「ようし! やったぜ」
その時だった。ふらり、と立ち上がっていたティアさんが倒れた。
「ティアさん! 大丈夫ですか!?」
「きっと疲れたのですわ。降下に丸一日以上かかっていますもの」
「体調管理もできないなんて、兵士として失格ね」
兵士とかそれ以前に、心配だよ。
僕らはティアさんを気遣いながら遺跡の外へ移動した。うう、倒れたティアさんにこの距離は苦行だよ。早く馬車に乗せてあげたい。
「暗い……紫色の、世界。これが、障気なのですね……魔界、ですか……」
ナタリア姫は初めて見る魔界に呆然としている。さあ、馬車に乗ってケセドニアに向かおう。
後書き
原作における飛晃艇アルビオールですが、初期状態だと砂漠に着陸できません。ある特殊アイテムを入手しないと。最初は砂漠に着陸できる設定にしようかと思いましたが、アッシュと出会って情報を入手することを考えて原作通りにしました。