キムラスカの音機関都市、ベルケンドにやってきたぞ、と。
「だけどさぁ、街の研究者達って、皆父上の息がかかってるぜ。大丈夫なのかよ」
「……ふむ」
「いや、手はあるぞ。音機関なら俺に任せろ。まずはヘンケンって研究者を探そう」
「探してどうするんですか?」
「そいつは後のお楽しみ」
ガイさんもテンションが高いな。シェリダンほどではないが、この都市も彼にとって憧れの場所なんだろうな。
§
「仕方ないなぁ、それじゃあこの研究は、シェリダンのイエモン達に依頼するか」
「な、なぁにぃ!」
「冗談じゃないわ!」
第一音機関研究所という場所で、僕達はヘンケンさんとキャシーさんという二人の老人を見つけた。彼らは知事に内密で作業を行って欲しいというこちらの要望に、難色を示したのだが……。
「どうして、イエモンさん達に反目しているんですか?」
「俺達『ベルケンドい組』は、イエモン達『シェリダンめ組』に99勝99敗。これ以上負けられんのじゃ!」
どうやら音機関好きの間では有名な対立だったらしい。ガイさんはこれを知っていたという訳だ。そしてその反目する感情を刺激してこちらの要望を聞いてもらう腹積もりだったのか。
「知事の説得は私達に任せなさい。行くわよヘンケン!」
老女のキャシーさんは叫ぶと駆け出して行った。……元気だなぁ。さて、僕らも知事邸に……。
「お前さん、ルークか!?」
「?」
「誰ですか?」
「以前見かけたことがある。確かスピノザって名前の研究者だぜ」
スピノザさん――こちらも二人と同様のご老人だ――はルークさんの存在に目を見張っていた。
「またお前さんと会えるとは。アッシュの奴もこの間ここを訪れていたが……」
「まさか…………貴方が生物レプリカを!?」
セリスさんが珍しく声を荒げる。
「!? 彼が……? ………………フォミクリーを生物に転用することは、法で禁じられたはずですよ」
正確には、そう言っているジェイドさんが禁じるよう皇帝に願い出たんだけどね。
「ど、どういうことだ?」
「ルーク様。つまり、彼こそが貴方を作り出した違法研究者ということですよ」
「こ、こいつが俺を……!」
「研究者なら誰でも一度は試したいと思うはずじゃ!」
「反省の色なし……ですか。いい度胸です」
あれ? おかしいな? セリスさんの背後に般若が見える。
「貴方、先ほどの話も聞いていましたね? ヴァンと繋がっているであろう貴方を野放しにはできません。ちょうどアルビオールがあって捕らえられる環境です。大人しくお縄につきなさい」
セリスさんはボキボキと手指を鳴らしながら近づいていった……。
§
あの後、スピノザさんを引っ立てて知事邸に赴いたところ、都市にふさわしく研究肌な知事は簡単に買収された。禁書の内容に興味津々だったのだ。そして、まずは地核の振動周波数を測定することになった。
「それはどうやって調べるんですの?」
「パッセージリングからセフィロトツリーへ計測装置を入れれば測定できるでしょう。まだ降下していないセフィロトへ行く必要があります」
という話になったのだが、セフィロトの位置は大まかにしかわかっていない。それにダアト式封咒もあるだろうということで、またダアトに行き、なんとか隙をついて導師様を連れ出そうと決めた。ヴァンが度々訪れるというベルケンドだったが、数日後、振動周波数の測定装置は完成した。
それを持ってダアトへ到着。アルビオールがある僕達は簡単に大陸間すら移動できる。手に入れて良かった。ノエルさんにはいつも悪いけれど。
「地核の振動周波数を測定……ですか。僕が知っているセフィロトはアブソーブゲートとラジエイトゲートですね。そこは既にダアト式封咒を解放させられました」
えっ! 解放してあるの!?
「……その二箇所はプラネットストームの発生・収束地点です。計測には適さないでしょうね」
「冷静に言うなよ旦那。しかしそれじゃあどうする?」
「ユリアシティの人達ならセフィロトの場所を知っているんじゃないですか?」
僕の言葉に、しかし導師様は一つだけ心当たりがあった。
「確証はありませんが、リグレットが言っていました。橋が落ちているからタタル渓谷は後回しにしよう……と」
「イスパニア半島にもセフィロトがあることは、軍の入隊時に教えられました」
「それに……擬似超振動で移動した時、フォンスロットに群生しやすいセレニアの花も咲いていました。きっと間違いないでしょう」
導師様の言葉にセリスさんとティアさんが情報を補強してくれる。
タタル渓谷か……全ての始まりの場所。よし、行こう!
§
「前に来た時には、セフィロトらしい場所なんて見なかったぜ」
「あの時は夜だったから……見落とした場所があると思うわ」
「なんと! 夜にこんなとこに二人で! あやしい~」
導師様の護衛でアニスさんもついてきた。聞いたところによると、バチカルで六神将にさらわれた後、バチカルからケセドニアまで探したらしい。最終的に連絡を取ったダアトに導師様が戻っていたので、すごすごと帰ってきたとか。
「……んまあ! ルーク! 貴方ティアとそんなことになっていましたの!?」
二人の会話にナタリア姫が目を吊り上げる。
「擬似超振動で飛ばされたらここで、夜中になっていたんですよ。それに僕もいましたから、ナタリア姫が思うようなことはないですよ」
気を吐くナタリア姫をどうどう、と落ち着ける。まったくぅ、ろくなことを言わないなこの護衛役の子は!
ざっざか歩いてセフィロト、ダアト式封咒のある場所を探す。と、
「あ! あれ、『青色ゴルゴンホド揚羽』だよ! 捕まえたら一匹400万ガルド!」
僕達はそんなことを言い出して走り出したアニスさんに呆れた視線を投げる。
「うわぁ!」
かと思ったら地震だ! また!
「きゃぅっ」
あ、アニスさんが崖から落ちる! 僕は揺れる大地の中、瞬動術で崖際に近づくと必死に右手を伸ばした。
「ぐ、ぅ」
ば、バランスが……そこに、ガイさんが素早く駆けつけて、僕の左手を掴んでくれた。
「はぁーっ。あ、危なかったー」
「あ、あのネギ、ガイ。ありがとう」
「お金に目がくらんで危ないところでしたね」
軽く微笑んで謝辞を受ける。
「まったく、ネギがいてくれて助かったぜ。俺じゃアニスに触れなかっただろうからな」
そんなことがありながらも、周囲を探索する。もう崖から落ちたりしないように気をつけて。すると、
「みゅ?」
「何かいるようです、気をつけて!」
なんらかの気配を感じ取った。馬のようないななきが聞こえてくる。
「この鳴き声……ユニセロス、ですか」
聞いたところ、古代イスパニア神話に出てくる魔物らしい。
「なんだか、苦しんでいるみたいですの」
同じ魔物のミュウが反応する。すると、霧で覆われた視界の向こうから突進してきた!
「うわぁっ」
全身が青緑色で構成された、薄紅色の角を持つ魔物だった。
「大人しくて、人を襲ったりしないって話なのに!」
導師様を下がらせて、アニスさんが言う。
「とりあえず気絶させるしかないでしょうね」
こんな時だというのに落ち着いたセリスさんの声で、戦闘が始まった。
「歪められし扉、今開かれん――ネガティブゲイト!!」
しばらく戦闘が続く中、アニスさんの
僕らはアニスさんの譜術を中心に攻撃を集中させる。前衛は僕・ルークさん・ガイさん・セリスさんの四人、後衛はティアさん・ジェイドさん・アニスさん・そして弓矢を使うナタリア姫の四人だ。ランバルディア流弓術のマスターランクだそうなので、強力な弓矢をグランコクマで調達して、後衛として戦えるように準備していたのだ。……姫を戦わせることでまた一悶着あったのだが、最終的に姫が命令することで収まった。弓矢なので、離れて攻撃できることもセリスさんが認めることになった一因だろう。
とにかく、僕らは八人で飽和攻撃を行った。しばらくして、ユニセロスはダウンした。戦いは数が多い方が勝つのだ。慈悲はない。
「目を覚ませばまた襲ってくるでしょう。どうします?」
「とりあえず治癒術をかけてやろうぜ。それとミュウに話をさせれば」
ルークさんの提案で、ライガ・クイーンのように通訳してもらう。もはやそれも懐かしい。
「みゅうみゅみゅみゅう」
会話が続く。
「ユニセロスさんは障気が嫌いらしいですの。障気の塊が近づいてきたからイラついて襲ってしまったそうですの」
障気の塊? 何で?
「この辺に障気なんて出てないぜ」
あたりをきょろきょろ見回すガイさん。
「でも、ティアさんが障気を吸っているって言うですの」
「?」
「?」
僕らは皆で頭をひねった。ティアさんが
最終的にユニセロスは傷を癒してくれたことに感謝して(いや、傷つけたのも僕らなんだけどね)、去って行った。
「グランツ響長、思い当たることは?」
セリスさんがプレッシャーをかける。ティアさんには隠し事をしていた前科があるからね。追及は緩めないようだ。
「……とりあえず、このセフィロトでの作業が終わったらお話します」
やっぱり何かあるのか。……今回は悪い知らせじゃないといいな。
そして、少し先に見つけたダアト式封咒を導師様に解いてもらう。
「イオン様、平気ですか?」
「……え、ええ。心配させてすみませんアニス」
そういえばアニスさんはいなかったから、導師様が体力の劣化したレプリカだと知らないんだ。これはいつか説明するのかな?
セフィロト内部へ進むと、また地震が襲ってきた。
「……頻繁になってきやがったな」
「ツリーの機能不全でしょうか?」
ルークさんの懸念に答える。
「地震があると、ここが空中大地だってことを思い出してしまいますわね」
地震についてはどうしようもない。早く降下作業を行わなきゃ。
水色で構成された内部には、音叉の仕掛けがあった。強い力で音叉を鳴らすと、扉が開いたりするのだ。叩くのはミュウが活躍してくれた。そして仕掛けられたユリア式封咒を解呪した僕達は、いつもの作業を……。
「ああいや、ちょっと待って下さい。ルーク」
「ん?」
「第四セフィロトとここの第六セフィロトを結んで下さい。第五セフィロトはアクゼリュスです。意味をなしませんので迂回して。第三セフィロトと第一セフィロトも線を繋ぐ。そして第六セフィロトの横には『ツリー降下。速度通常。第一セフィロト降下と同時に起動』と書き込んで下さい」
なるほど。
「これってどういう意味なんだ?」
自分の行う作業がわからないルークさんが、疑問の声を上げる。
「第一セフィロト――つまりラジエイトゲートのパッセージリング降下と同時に、ここのリングも起動して降下するように、という意味ですよ」
ですよね? とジェイドさんを振り返る。頷かれる。
「なぁーるほど、今まではそれぞれ各個に行ってきた降下作業だが、今後は全ていっぺんに降下させるってことか」
「ええ。それが大地にとって最も負担の少ないことだと判断しました」
「良いのではないでしょうか」
セリスさんも賛同してくれる。僕も賛成だ。思いつきで言ってしまった降下作業だが、少しずつ問題を解消していく。
「???」
「後で説明してあげますよ、アニス」
話題についてこられないアニスさんがハテナマークを点灯させている。
「納得した。あとは地核の振動周波数を測定するだけだな」
「俺がやる」
ルークさんの言葉にガイさんが進み出る。そんなに音機関が好きですか。周波数の測定装置を、部屋の中央にある巨大な譜石に当てる。ポーンと、軽めの音が鳴った。測定装置に設定された完了の効果音だろう。
「ではベルケンドに戻りましょう」
まとめ役のセリスさんの言葉で、僕らはセフィロトから渓谷の入り口にあるアルビオールまで戻るのだった。
§
ベルケンドに戻ってきた。測定結果をヘンケンさんとキャシーさんに渡し、宿屋で休む。と、セリスさんとルークさんから話があるということだった。
まずはセリスさん。
「さて、それでは障気の塊ということについて、心当たりを話してもらいましょうか」
ティアさんが落ち着かなげに身をよじる。
「はい…………………………実は、ユリア式封咒を解くと、体に負担がかかるようなのです」
「えっ!?」
「体に、負担?」
「聞いてないぞ、ティア!」
ざわめく宿屋の一室。
「……………………何故、今まで黙っていたのですか」
「……すみません」
セリスさんが嘆く。
「ダアト式封咒は導師イオンにしか解けないように、ユリア式封咒は貴方にしか解けません。貴方の身に何かあったら、外殻大地の降下や、ヴァンが行うツリーの停止などに対抗することができなくなるのですよ」
「………………」
唇を噛み締めて、沈黙するティアさん。
「と、とりあえず、お医者様に診てもらってはどうでしょうか? ちょうどここはベルケンドです。精密検査を行ってくれるはずですわ」
険悪な空気になりかけたのを、ナタリア姫の提案で救われる。
「わかりました」
「それでは、ルーク様のお話の後に精密検査を行いましょう」
「えっ? お、俺の話は後でいーよ! そこまで急ぐことじゃねーし!」
ですが……と、言いかけたセリスさんを制して、ルークさんは引っ立てるようにティアさんを連れて第一音機関研究所へ向かった。
「行くぞ! ティア」
「あ、ちょ、ちょっと待ってルーク」
僕らは全員で研究所のお医者様、シュウさんを訪れた。しばらく診断に時間がかかった後、全員で医務室に入る。
「まだ、全ての結果が出た訳ではありません。ですが、ティアさんの血中
「血中音素?」
知らない単語だ。
「譜術をたしなむ人は、体内に音素を取り込むのです。しかし彼女の場合、取り込まれた音素が汚染されているようなのです。更にまずいことに、体外に排出することもできていないようです」
「音素が……汚染」
ジェイドさんは厳しい表情になった。普通に聞いても、いい話じゃないことはわかる。
「汚染されているって、どういうことなんでしょう」
「大地から噴出することがある毒素……障気ですね。それと結合しています。蓄積しているのは主に
シュウさんは続ける。問診の結果、パッセージリングという音機関が反応しているということなので、創世暦の音機関であるリングなら、大量の第七音素を含んでいるだろうと。
「………………つまり、降下作業などでユリア式封咒を解くと、グランツ響長の体に汚染された第七音素、障気が流れ込む……と」
「それ以外考えられません。このまま作業を続けるようであれば、命の保証はできません」
「そんな!」
よりによって降下作業を行うとティアさんが危険だなんて!
「どうにか、どうにかできないのかよ! 俺だって降下作業で第七音素を使ってるけど何も問題ないんだぜ!」
「量が桁違いなのですよ。普通の
「ひゃ、百倍……」
絶句する。そうしてお話は終わった。ジェイドさんと導師様がもう少し詳しく聞きたいのと、各種検査結果が出るのが明日になるということで、その場は解散となった。
「ティアさん」
「ティア……」
今、僕とルークさんは、医務室のベッドに腰掛けたティアさんの前にいる。
「お話、聞いた?」
いつもより言葉と口調が柔らかいティアさん。それが、既に覚悟を決めてしまったのだと僕に気づかせた。
「先生の話だと、第七音素が障気に汚染されているということだったわ」
「なんでもない顔で言うなよ!」
「心配、してくれてるの?」
「当ったり前だろ!」
「地核を静止しようとする今の試みが上手く行けば、外殻大地を降ろさなくても……!」
「もう遅いわ、パッセージリングが耐用限界なんだもの。賢い貴方なら気づいているはずよ。ネギ」
うぅ、わかる。わかっている。だけど……!
「…………降下作業を、続けるしかねぇってのか……っ!」
言葉をなくす僕とルークさん。
「ごめん」
ルークさんが謝罪の言葉を口にする……それはつまり……。
「外殻大地を降ろすのをやめようって、そう、言えれば……だけど。俺、すげぇ考えたけれど、大地が落ちたらたくさんの人が死ぬ。アクゼリュスの時みたいに……だから、簡単に……そう、言えねぇ……」
それは。それは、僕も同じだ。外殻大地を降ろさなければたくさんの人が死ぬ。降ろせばティアさんが死ぬ。…………解決する方法が、何か、何かきっとあるはずなのに!
「馬鹿ね。二人共、どうしてそんな顔をするの? それでいいのよ」
ティアさんの言葉はどこまでも優しかった。
「もし貴方達が『やめよう』なんて言っていたら、私、軽蔑するわ。ありがとう。二人共」
…………………………くそぅ。どうして、どうしてそんなに…………。
その夜、僕達は静かに眠りについた。この体にはちきれんばかりの無力感を持て余して。
後書き
ことあるごとに引き合いに出されたTさんの隠し事体質ですが、ここに来て自分から症状を告白してくれました。はい、前フリでした。
原作をプレイして思ったこと。皆(ルーク以外)反省しなさすぎじゃね? 皆に相談しないで障気の中和をしようと思っていたルーク。なのに体調を崩していることを隠だてするティア。ろくに教えずに青年の暴走を招いたジェイド(譜眼イベント)。やっぱり隠し事をしていたガイ、アニス、イオン(切羽詰まった状況になるまで告白しない)。……いい加減にしろっつーの! ルークはもっと皆に対して怒っていいと思う。
原作を知っている人は、ネギ達と同じ無力感を感じてくれるでしょうか? 彼女を助ける為にはアレをするしかありません。ですがアレをやれば○○○が○○。どうしようもないのです。