翌日、ティアさんの詳しい検査結果が出たが、それは昨日の話を裏付けるものでしかなかった。
そんな絶望の中、ルークさんの話が始まる。
「…………それで、話とは何ですかルーク様」
心なしかセリスさんも元気がないように見える。
「ああ、その……隠し事をするのはいけねーって、皆言うからさ。それに、少しは希望になるかなって思ってさ。………………ネギ、お前の事情、話していーか?」
「!? ……それは……」
「ルーク」
僕の事情を知っているのはルークさんとティアさんだけだ。う、うぅん。どうなんだろう。確かに隠し事をしていて最悪の事態を招くのはいけないけれど、この僕の事情を話しても事態は好転しないと思うんだけど……。
結局、僕は話すことにした、というよりなった。
「異世界……ですか」
「世界転移……」
「魔法?」
ですよねー。まあそういう反応だってわかっていましたよ。そこにティアさんが口を添える。
「私は初めからこのオールドラントが二つの世界から成っていることを知っていましたから、ネギの言う異世界というのも、そこまで抵抗はありませんでした」
「そうは言うけどなぁ……」
渋い顔のガイさん。皆も似たような顔だ。
「俺が言いたかったは、ネギも
それは……どうなんだろう。僕はアッシュが消滅しなかったのは、ルークさんが生まれて彼の預言を肩代わりするような形になったことが大きいと思っているんだけれど。
「つまり、ネギと行動を共にすれば、預言を超えられるかもしれないということですね」
導師様が微笑みながらそう言う。どうなのかなぁ。
そんな話をしていた時だった。ヘンケンさんとキャシーさんが宿屋に訪問してきたのだ。
「いかん!
「このままじゃ危険よ!」
なんと魔弾のリグレットが視察にやってきたのだという。それによって独自の研究を行っていたことが判明したとのこと。彼らと繋がっているスピノザが捕らえられていたことも不審に思われる要因だったらしい。詳しい内容までは漏れていないという話だが、留まるのは危険だ。
僕らは急いで液状化を改善する為の方策、地核の振動を打ち消す装置の開発を行ってもらうべく、職人の街シェリダンへとアルビオールを飛ばすのだった。
§
「……おまえは心が狭い! じゃから学校の単位を~~~~!!」
「何だと、貴様こそ……!!」
ただいまシェリダンの集会所。イエモンさんとアストンさんが、ヘンケンさんと罵声を張り上げて口から唾を飛ばしている。タマラさんとキャシーさん、二人の女性は付き合いきれないとばかりに集会所を出て行った。
「いがみ合うのはやめて下さい!」
「おおネギ。話は全部聞いたぞい。地核の振動に同じ振動を与えて揺れを打ち消すんじゃろう?」
「地核の強力な圧力に負けない、そんな装置を作るとなると、簡単ではないぞ」
「わしらシェリダンめ組に任せておけばいい」
順にイエモンさん、ヘンケンさん、アストンさんだ。理解は早いんだよね。技術への理解は。と、また喧嘩が始まる。
「360度全方位に振動を発生させうる緻密な演算機は、俺達ベルケンドい組にしか作れないと思うがな」
「100勝目を先にとろうって魂胆か! そうはさせん!」
「反目しあっていてどうします! オールドラント全体に危機が迫っているというのに……所属する組なんて関係ありませんわ!」
ルークさん曰く正義魔人のナタリア姫。
「そうですね。対立する貴方達が手を取り合って作業すれば、より完璧になると思いますよ」
導師様がなだめる。そこにアニスさんも怒る。
「おじいちゃん達、もういい歳じゃん。仲良くしなよ」
「………………」
「………………」
どうやら孫より幼いアニスさんの言葉はかなり効いたらしい。
「わしらは揺れを抑える装置の外側を……」
「わかっとる! 演算機は任せておけぃ!」
やれやれ、何とかいがみ合う三人は協力してくれるらしい。それはそうと、以前と違って時間に余裕があるからって発奮しないで下さい、ガイさん。
§
集会所から外に出て、さて地核の振動に関することは、
「なあ……ちょっといいか? ずっと、考えてたんだ。外殻大地の降下のことさ、俺達だけで進めていいのかーって」
「ん、とどういうことですか?」
「世界の仕組みが大きく変わる、大事なことだ。やっぱり伯父上とピオニー皇帝に説明して、協力しあうべきなんじゃないか? キムラスカにも話を通すべきなんじゃないかってな」
「それは……ですが、それではバチカルに行かなくては……」
苦痛を耐えるように、ナタリア姫。
「行くべきなんだ」
強く言い切るルークさん。
「ちゃんと伯父上を真正面から説得する。んでもって、うやむやになった和平を結ぼう。そんでさ、キムラスカもマルクトもダアトも手を取り合って、降下作業を行うべきだろ」
「ルーク様……ええ、その通りです」
セリスさんが嬉しそうに賛成する。
「少し、だけ……考えを、まとめさせてください……。それが一番良いことなのはわかります。でも……怖い。ごめんなさい……」
たったっと走り去るナタリア姫。
「パパの子供じゃないって言われたら、きっと、辛いよ。気持ち、わかっちゃうな」
アニスさんの言葉。僕も胸が締め付けられる。もし僕がそんなことを言われたら……。改めてナタリア姫の恐怖を思い知った。
「いずれ準備が完了したら、私から両国へ伝えることを提案しようと思っていました。正直言って驚きましたよ。貴方も成長していたんですね」
「嫌味かよ」
「いえ? 素直な気持ちですよ」
ルークさんとジェイドさんの会話。ルークさんは物知らずだけど考えなしじゃないと思う。それから、僕達はとりあえずシェリダンに一泊することにした。ここならアルビオールも安全だろうから、ノエルさんと白光騎士団の皆さんも休ませてあげられるかな。
キィ……と音が鳴る。ルークさんがベッドから出て外に向かったらしい。どうしたんだろう。
(どこへ行くのかな?)
心配なので追いかける――と。
「ルーク……どうして……」
「いや、心配、だったからな」
ナタリア姫がいた。振り向いた背後には朝焼けの風景が広がっている。もうすぐ朝だな。
「やっぱ、怖いよな」
「わたくしだって、怖いと思うことくらい、ありますわ」
「わりい、そういう意味じゃなくてさ……なあナタリア。俺の話、してもいいか?」
「ルークの……?」
「俺、自分がレプリカだって知った時さ、そんなことなんて知りたくないって、思った。悲しかったよ」
ルークさん……。
「でも、薄々は自分が自分でないことには気づいてた」
「そう……だったのですか」
「そして、同じ頃に聞かされた。伯父上も父上も、大勢の人間が、俺が死ぬことを知ってた。俺を、殺す、死なせるつもりだったってこと」
「ええ……」
「だけど俺……キムラスカを嫌いになれないんだ。一つの屋敷の中だけど、あそこは俺の世界だったから、かな。だから、今ではこう思うんだ。いつか帰って、俺が何とかしたいって」
「ルーク……!」
「もうあの国を、人を見殺しにするような国にしない。俺が、させない。そんな風に切り捨てられる人間を作りたくない。だから」
ルークさんは両手でナタリア姫の両肩を掴んだ。
「一緒に……キムラスカを変えないか? 今はマルクトに守られてる俺だけどさ。セリスはキムラスカに戻るなら、絶対に俺を殺させたりしない、守ってみせるって言ってくれたんだ。だからナタリア、今度は俺が言うよ。ナタリアは俺が守る。一緒に、あの国を変えないか? たとえ伯父上がお前を否定したって、俺はお前の味方だから」
「ルー、ク……」
「へへ、伯父上がお前のことを認めなかったらさ、ぶん殴ってでも言い聞かせてやるんだ。ナタリアはあんたの娘だって」
「……ふふ、そんなこと…………ルーク、ありがとう」
(戻ろう)
これ以上は、というか随分前から、僕が聞いちゃいけない会話だった。そうして宿屋に戻ろうとしたら、階段の上にセリスさん。
「うぇっ!」
「立ち聞きはよくありませんよ。ネギ」
見ると横にはガイさんの姿も。
「き、聞こえちゃったんですよ。それに……二人だって聞いていたじゃないですか」
「俺も心配だったのさ。ナタリア様は俺にとっても幼馴染だからな。というか実は、アッシュ・ルーク・ナタリア様の中で、一番付き合いが長いのがナタリア様なんだよ」
そっか、十歳までいたアッシュと、十歳からいたルークさん。だけどナタリア姫はずっと一緒だったんだ。
「でも……きっと大丈夫だな。俺の出る幕はなかったよ」
「あの方ならば……キムラスカを変えて下さると信じています」
「そうですね。僕も、信じています」
僕らは昇ってきた朝日を見た。その中で重なる二つの影を。
§
「ごめんなさい皆。わたくし、気持ちが弱っていましたわ」
「では、バチカルへ?」
「ええ、王女……いえ、キムラスカの人間として、陛下に話をします」
導師様の言葉に頷くナタリア姫。その瞳には、弱気の欠片も見えはしない。
「そうおっしゃられると思い、今までの経緯、それと外殻大地降下の問題点をまとめた書状を書いておきました」
降下の問題点……もう解決が見えた液状化ではなく、障気の方だろう。
「ありがとな、セリス」
「いえ、これは世界の全員が立ち向かわなければならないことです。ベルケンド・シェリダン・グランコクマ・ユリアシティ。協力すべき時がきたのでしょう」
「まずはキムラスカとマルクトが手を取り合わないとな」
「ええ。いざ、バチカルへ! ですわ」
アルビオールを海上走行モードにしてバチカル港に入る。さて、ナタリア姫は罪人扱いされるかもしれない。ジェイドさんはマルクトの軍人(当然着替えた)。ルークさんとセリスさんは公式には死亡扱い。色々と問題のあるパーティーだが……。
「僕に考えがあります。正面から参りましょう」
導師様がどん、と胸を叩いて任せて欲しいと言う。その言葉を信じ、正面から王城に入った。兵士達はセリスさんとナタリア姫を見て色めきたっていたが、導師様が強権を発動して中に入った。……「預言を詠まない」と言っただけだというのになぁ。ホント預言に偏重した世界だよ。でも、これから変わるんだ。変えていくんだ。
「伯父上!」
「お父様!」
陛下の私室に入る。執務をしていたのか、内務大臣のアルバインさんも一緒だった。
「ナタリア……」
「へ、兵は何を……」
「ここに兵士はいらない! ナタリアは貴方の娘です!」
「わしとて信じとうはない! だが……乳母が証言したのだ。それに嬰児の遺骨も見つかった」
証拠が出たのか。モースもいい加減なことを言っていた訳ではなかったのだ。
「そうだとしても! ナタリアは知らなかったんだ! 知っていて伯父上を欺いていたんじゃない。ありもしない罪で裁かれるなんておかしい!」
強く気を吐くルークさん。知っていて欺いた訳じゃない……か。彼もそうだ。
「……よいのです。ルーク。お父様、わたくしは例え別人だと言われても、貴方を自分のお父様だと思いますわ。十八年の記憶がそういうのです」
「記憶……か。しかし……」
「陛下、今は陛下と呼ばせて頂きます。わたくしを罪人とするならばそれでも構いません。ですが、どうかマルクトと合い争うことはしないで下さい。わたくしは城を出て世界を見てまいりました。今、世界は危機に瀕しています。その問題を解決する為に、一歩だけ歩み出しては頂けないでしょうか」
「あなた方が一体どのような心算でアクゼリュスへ使者を送ったのかは聞きません。ですが、僕はピオニー九世陛下から親書を託されました。もう一度申し上げます。マルクトと和平を結んで下さい」
「……恐れながら、陛下。ここに、書状をしたためました。今、世界を襲っている危機についてまとめてあります。後日改めて、陛下の意思を伺いとうございます」
セリスさんが書状を陛下に渡す。
「……これを読み、明日謁見の間で改めて話し合おう。それで良いな?」
「伯父上、信じています」
「失礼致します。陛下」
少しばかりの会談はそれで終わった。兵士に引っ立てられないよう急いで王城を出る。
「ルーク。屋敷、寄って行くか?」
「いや、親父は伯父上の味方だからな……今日は街の宿屋に泊まろう」
宿屋へ向かい、歩き出す。
「時間を置いた方が揉めるんじゃあないか? それに兵士を伏せられたら……」
ガイさんが懸念を話す。
「そうしたら、導師イオンが敵に回るだけですよ。陛下には陛下の器量があります。まずは私達が信じてみましょう。大丈夫、本当に敵対されたら、私が命をかけてでも殿下達を逃がしてみせます」
信じる……か。そうだよね。僕達が相手を信じないのに、相手に自分を信じて欲しいと言っても絵空事でしかないよね。
「そうですね。明日にはわかることです。まずは信じてみましょう」
ジェイドさんにしては珍しく楽観的だ。だけどそれもいいのかもしれない。きっと、大丈夫だよね。
§
一夜明けた。謁見の間にはインゴベルト六世陛下、アルバイン大臣の姿に、何故かダアトではなくここにいる大詠師モース。……本当に何故ここにいるんだろう? 不思議だ。
「そなた達の書状、確かに読ませてもらった。譜石に刻まれた預言の内容とは食い違うようだが……」
「預言はもう役に立ちません。俺が生まれたから」
「レプリカ、か」
しかし、ルークさんがレプリカだって、陛下達はいつ知ったんだろう。やっぱりヴァンからのモース経由かな。
「お父様。もはや預言に従っていても、平穏は得られません。今こそ、こんな時だからこそ、国と統治する者の真価が問われるのではないですか? わたくし達王族がいるのは、預言に全てを委ねて安寧を過ごす為ではありません。今こそ、マルクトと平和条約を結び、外殻を魔界へ降下することを許可して頂きたいのです」
その言葉に大臣やモースが反発する。売国奴だとか酷いことも言われる。……うるさいなぁ。
「黙りなさい。今は陛下と話をしているのです」
導師様が珍しく脅すように言う。
「わたくしは、お父様の娘として十八年間育てられました。その歳月、経験こそが我が誇り。そしてその誇りによって宣言いたしますわ。私はこの国とお父様、そして国民のみなを愛するが故に、マルクトとの平和、そして両国共同の大地の降下を望むのです」
静かな沈黙が下りる。そして、しばらくの時間が過ぎた。
「よかろう」
「伯父上!」
「な、なりませんぞ、陛下」
「誇り……そう、私にとってもお前は誇りだ。ナタリア。我が娘の言葉、それこそが私に国を想う気持ちを取り戻させてくれたのだ……ナタリアよ」
陛下が階段を下りる。その先にいるのはナタリア姫だ。姫もだっと駆け寄る。二人はぎゅっと抱きしめ合った。
「お前は私の血を引いてはいないのかも知れぬ。だが……お前と過ごした時間だけは、誰にも否定することのできぬ時間だ……」
「お父様……わたくしは……王女でなかったことより、お父様の娘でないことの方が……悲しかった……」
父と娘。二人はお互いを愛し合っている。それは僕の心を温かく照らしてくれたんだ。
§
さて、アルビオールでグランコクマへ向かう。
「良かったな。ナタリア」
「良かったですの~」
「いやまだまだだろルーク。これからもう一度親娘としてやり直すんだ」
「そうですわ。もう、何も知らなかった頃には戻れませんから」
「十数年も同じ時間を過ごした殿下達です。きっと、もう血の繋がりは関係ないのでしょう」
血の繋がりが関係ない、か。血が繋がっていないけれどずっと一緒にいた二人。血が繋がっているけど一緒に過ごしたことのない僕と父さん。どっちが真の親子かと言われれば……。僕、は。僕には「時間」がない。気持ち、だけなんだ。それはなんだかとっても寂しいことのように思えた。いつか、会えるだろうか? 時間を、重ねていけるだろうか?
「ありがとう、皆。認めてもらうことがこんなに嬉しいことだとは、わたくしも初めて知りましたわ」
認める、か。本当の娘じゃないかも知れないのに、ナタリア姫は認められたんだな。その時、僕はわずかに寂しそうな目をしたルークさんと、彼を気遣うセリスさんが見えた。ルークさんも、七年間の時を過ごしたけれど、本当の子供じゃなかった人だ。きっと自分も認められたいんだろうな。
和気藹々とした雰囲気のまま、僕達はグランコクマ入りを果たした。
「そうか、キムラスカが重い腰を上げてくれたか」
「キムラスカ・ランバルディア王国を代表してお願い申し上げます。我が国の狼藉を……」
「ナ、ナタリア殿下! お待ち下さい!」
? 何だろう?
「はっはっは。ナタリア殿、貴方が頭を下げてはキムラスカ王国が頭を下げたことになる。言動には気をつけた方がよかろう」
あ、そ、そっか。色々と難しいんだな。
「ここはルグニカ平野戦の終戦会議と銘打って会談しよう」
それで会談場所についての話になったので、僭越だとは思ったが口を挟ませて頂いた。
「ユリアシティはどうでしょう? ティアさん」
「え? 魔界よ?」
「むしろ魔界の状況を知ってもらった方がいいんじゃないか? 外殻が降下するのは魔界なんだし」
ルークさんも賛成してくれた。その後、皆さんの賛同も得られたので、僕達はユリアシティでの会談をセッティングすることになったんだ。
後書き
一応言っておきますが、重なる影というのは男女としての接触じゃありませんよ? ただ立ち位置的に影が重なっただけですからね?
しかしガイとアニスの秘密が明かされませんね。さてこの二人はいったいどうなるでしょう?