メジオラ高原へはニルニ川という川を河口から遡って行く。アルビオールを海上走行モード(つまり船)にして。
しかし僕の心中は揺れていた。ティアさんの問題があるからだ。彼女の体を蝕む汚染された
「前は怖え魔物がいたっけな」
「ああ、ネギが無茶をやらかしたところだ」
「ちょ! 掘り返さないで下さいよ!」
「ははは」
そんな風に談笑しながら、まずはダアト式封咒を探す――と。
「教官!」
「遅い!」
なんと背後から魔弾のリグレットが忍び寄っていた。どうやら高原のくぼみに身を隠していたらしい。って、
(この人……馬鹿なんだろうか)
僕達は八人もの戦闘メンバーを抱えているのだ。うち二人は王族だけど。一人で出てきてやられないと思っているのだろうか?
「崩拳!」
いつもの瞬動術からの崩拳を見舞う。リグレットには一度見せている手の内、だがティアさんに回し蹴りなぞを繰り出していた彼女は反応が遅れた。
「ぐふぁっ」
みしり、と彼女の体、中心部に拳が埋まる。突きを放つ時は相手の背中、その更に後ろまで突き抜けるイメージで放つ、というのが師の教えだ。僕の右拳は確かに彼女を貫いていた。
「オラァ!」
ルークさんが前に進み出て木刀を振るう。きっとガイさんやセリスさんに任せたら斬り殺されてしまうからそうしたのだろう。優しい人だ。……まあ鉄芯が入った木刀で殴っておいて、「優しい」というのは何か違う気がするが。
ルークさんの木刀でばきぃっと派手な音がするほど頭を殴られたリグレットは、その場に倒れた。
「…………」
「…………」
「…………教官…………」
皆も沈黙している。アレ? なんでこの人単騎で向かって来たの? という顔だ。そんなに自分の実力に自信があったのだろうか? タルタロスではジェイドさんの譜術にやられたくせに。
「と、とりあえず拘束しましょうか」
セリスさんが場をもたせるようにそう言った。
§
ダアト式封咒を発見した。荒涼とした赤土の高原で、この幾何学模様の扉は嫌でも目立つ。ちなみにリグレットはジェイドさんが担ぐことになった。ルークさんは王族なのとリングの前では超振動を扱うから。ガイさんは女性恐怖症で触れない。僕は気で強化すれば大丈夫だが、腕や背丈が短い子供だから(それ以前に大人が何人もいるのに子供に持たせるのか、という気持ちの問題が)。女性達は力的に論外。ということでジェイドさんになったのだが……。
「歳をとったこの身にはきついですねえ……げほげほ」
正直、歳をとっているのできついアピールをするジェイドさんが激しくうっとうしいです。
「あんた軍人だろ」
ルークさん達も呆れ気味だ。
「……では、ダアト式封咒を解きますね」
「イオン様……」
いつものように封咒を解くが、体力を消耗してその場に座り込む導師様。
「すみません……能力は
言い忘れていたけど、アニスさんに自分がレプリカだということは告白済みだ。和平会談前のケセドニアで告白したらしい。だけどアニスさんの態度は変わらなかった。護衛役としてはいかがなものか、というこの子だけど、こういうところは素直に良いところだろう。僕はこの世界に来て、人間としての善性と、能力は別物なんだと思い知った。
「………………」
「気になりますか? カーティス大佐」
「私の研究がもたらしたことですからね……複雑な気分ですよ」
「……アッシュの野郎は怒ってるだろうけど、俺は……感謝してるよ。でなきゃ俺が生まれてねえから。……ホントは生まれてたら駄目なのかもしれないけどさ」
「ルーク!」
「ルーク様、そんな物言いはやめて下さい……仕える身である私も、心が苛まれます」
ティアさんは怒るように、セリスさんは諭すように言葉を重ねる。僕も何か言おうと思ったけれど女性コンビに先を越されて何も言えなくなってしまった。
「卑屈反対だ」
「はんたいですの!」
ガイさんとミュウも追従する。それに対して悪かったよ、とばつが悪そうなルークさん。レプリカとして生まれた苦悩は、ルークさんと導師様にしかわからないことだ。僕も何か言いたいけれど、彼らの苦しみを理解できないのに軽率なことは言えない。
「はぁ~ん。ぉおおおお」
……失礼だと思うけど、気色の悪い声を上げているのはガイさんだ。セフィロトの中に入ったら、音機関があったので発奮しているのだ。僕らはその音機関、自動開閉式の扉をくぐって先に進む。
「やっぱり創世暦時代の音機関はものがいいぜ」
キムラスカで育ったから、譜業に目覚めたのだと言うガイさん。
「譜業使いになればよかったのにね」
呆れ顔でアニスさんが言う。
「おおぅ、すっげー! 譜業人形だぁー!」
譜業人形に耽溺するガイさんを置いて、ぞろぞろと先に行く。昇降機が見つかった。
「パッセージリングはこの下みたいですね……だけど、この昇降機、動きませんよ?」
僕が調べた結果を話す。
「ガイ……こーいう時こそお前の番だ!」
「任せろ!」
主従のやり取り。ガイさんは先ほど通ってきた場所で動いていた譜業人形に目をつけ、人形から動力源を取り出した。それを昇降機に付け替える。
「さすがですわね」
よし、それじゃあ降りてパッセージリングの元へ。
「ティア、これを腕につけておいて下さい」
リングの前に到達したら、ジェイドさんがティアさんに何かを渡す。
「血中音素の計測器ですよ。本当にパッセージリング、ユリア式封咒が原因か調べる必要がありますからね」
「了解です」
「…………」
「……ではルーク、タタル渓谷と同様にお願いします」
「……ああ、わかったよ」
いつものように超振動を照射するルークさん。操作盤にはタタル渓谷と同じ文言が刻まれた。ティアさんの計測も無事行われた。
「ジェイドさん、どうですか結果は」
「ふむ、やはりリングからの流入のようですね。異常な数値の障気が計測されました」
「
「障気は……もしかしたら地核が汚染されていることによって発生しているのかも知れないですね」
「ということは星の中心部が汚染されているということになりませんか? それでは今世界全体で研究している中和も意味をなさないのでは……」
僕とジェイドさんは障気について話し合う。すると、ジェイドさんが何かを思いついたようだ。
「地核が発生源ならば、解決策が見いだせるかも知れません。星の引力を利用して……」
ぶつぶつと理論のようなものを呟く。
「……解決できる可能性があるのですか?」
セリスさんが割り込んでくる。
「ベルケンドでは引力についての研究が盛んです。私の考えを研究者達に伝えられたら……」
「ならベルケンドに戻りましょうよ」
リングの操作も終わったので引き上げる。すると昇降機で上がった後、ガイさんが動力を譜業人形に戻したいと言ってきた。曰く、「せっかくずっと作動していたのに可哀相じゃないか!」とのこと。僕らはそれに呆れつつも、他の人間が間違ってパッセージリングのある場所に入り込まない対応策という意味で、動力を戻してもらった。それじゃあ今度こそ引き上げよう。
§
ベルケンドの研究所を訪れる。とりあえずリグレットをキムラスカ軍に引き渡す。
「キムラスカ国内ではさしたる罪を犯していないので勾留することはできないでしょうが、マルクトではタルタロス襲撃の罪があります。和平がなった両国なら、マルクトへ引き渡してくれるでしょう」
とのこと。そういえばアリエッタはキムラスカ国内で裁判にかけられているらしい。少しずつヴァンの勢力を削いでいっているんだな。エンゲーブで捕らえたディストはマルクト軍に勾留されている。このまま彼らを討伐できればいいけど。
ジェイドさんは物理学者達に障気の中和、正確には隔離と言っていたけど――の案について検討してもらうのだとか。僕らは僕らでユリアシティの人にセフィロトの位置を確認する。
「ダアトの教会付近?」
「ああ、そこがセフィロトの位置だそうだ」
「……教会に、ですか……初めて聞きました」
導師様が感心したように言う。
「あっそこ広いもんなー。とにかく探してみようぜ」
ではダアトへレッツゴー!
教会にやってきた。すると大詠師モースがいた。
「導師イオン、お戻りですかな?」
僕らは警戒しながらも、セフィロトを探しに来たことを告げる。
「あの扉の先だそうですよ。まあ侵入者の為に隠し部屋となっているそうです。せいぜい頑張って探すことですな」
そんな嫌味を言ってきた。ナタリア姫はその態度にぷりぷりと怒る。セリスさんが、
「
となだめた。導師様は、セフィロト巡りが終わったら、キムラスカへの内政干渉という理由で更迭するつもりだと言った。それが本当なら、上手くいくといいな、と思った。
モースが指し示した扉の先へ歩む。一本道なので迷うことはなかったが、
「か、隠し部屋ってのはどこだよ……」
隠されているという部屋が見つからなくて難儀した。図書室のような部屋で隠し部屋を探して数時間が経過した。すると疲れたアニスさんが水筒の水を飲みながら床に座っていた。と、ガラララララ、と音を立てて本棚が床の中に沈み、扉が現れた。どうやら寄りかかった時にスイッチか何か押したらしい。
「よ、ようやく見つかりましたね」
「だな」
「そんじゃ行こうぜ」
部屋の中には譜陣が描かれていた。これはもしや……。
「ワープ用の譜陣ですね」
導師様の私室などに行く時にも使われるワープする譜陣だ。
「この先はどこなのでしょう……」
ナタリア姫がこわごわと発言する。毒見役として僕が一番乗りする。
ふっと視界が揺れて、別の場所にワープした。そこには……
「うわぁ」
なんて熱気だ。これはダアトの近くにあったザレッホ火山だろう。僕に続いて皆もワープしてきた。
「ここ……何かの研究でもしていたのか?」
ガイさんが疑問の声を上げる。譜陣がある場所には人が活動していたと思しき痕跡があった。
「調べてみたいところですが、今回はとにかくセフィロトに行きましょう」
と導師様。その通りなので、木でできた橋を渡って通路のある場所へ。山の岩場がそのまま道になっているところを進む。柵や手すりのない場所なので、落っこちたら溶岩に落ちて死んじゃうよこれ。
「ダアト式封咒があるぜ」
ルークさんの言葉通り、いつもの扉が見つかった。既に見慣れたものとなったその場所に近づく。
「……ふぅ。解呪できました」
「いつも倒れちまうんだな。ごめんなイオン」
「いえ、平気です。ありがとうルーク」
導師様の体力が心配だけれど、数は限られている。世界十箇所にあるセフィロト、その内ホドとアクゼリュスは崩落した。シュレーの丘、ザオ遺跡、タタル渓谷、メジオラ高原、これらが作業の終わった場所。そしてリングの操作はまだだけれど、ダアト式封咒の解放は済んでいるここのザレッホ火山、アブソーブゲートとラジエイトゲート。これで九箇所だ。つまり残されたダアト式封咒はロニール雪山のものただ一つとなったのだ。申し訳ないけれど最後の封咒だけ頑張ってもらい、後は休んで頂こう。
セフィロト内部にはまた仕掛けがあった。メジオラ高原は何もなかったのに。ここの仕掛けは燭台に火を灯すと透明な床ができるものだ。ミュウが火を噴いてくれたので、何も問題はなかった。
「みゅううー! ですのー!」
強いて言うならやっぱり手すりとかがないので間違って落ちるのが怖かったくらいかな?
さて、パッセージリングの前についたぞと。
「やーれやれ。終わったぜ」
「お疲れ様ですルークさん」
いつものように作業を終えて、僕らはその熱い場所から逃げるように去ったのだった。
後書き
逆刃刀の持ち主も散々言われていること。鉄の塊で相手を殴っておいて、「切れないから平気でござる!」も何もねーだろ、というアレ。
リグレットはかなり頭が残念な人だと思っています。ゲームだと都合三回戦うのですが、内二回は個人で挑んでくるのです。部下でも同僚でもいいから人数連れてこいよ、アホか。と思いました。ちなみに今回の単騎特攻も原作通りです。原作では何故か皆が逃げるリグレットを追わないので彼女は無事でしたが。……その原作をプレイしている時に思ったものです。何こいつらは馴れ合っているのだろうと。一人できやがったんだから追いかけてぶっ倒せよ、とね。
無意味だったアニスのザレッホ火山周りについては、本気で無意味なので消しました。カットです。