聖なる焔と赤毛の子供(TOA+ネギま!)   作:月影57令

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25 エピローグ

「ふん……これが、貴様が行ってきたという異世界についての報告か」

 

「僕一人だけの主観で書いたので、ものの見方が一方的になっていることは承知していますけどね」

 

「まあ信じられんというあいつらの言葉もわかるさ……貴様が姿を消していたのは一週間だけだったのだからな。とはいえ急にいなくなって、急に出現したのは確か……か」

 

「僕としては別に信じてくれなくても構わないんですけどね……報告書を出せと言われたから書いただけで。後、時間の流れについては考えるのをやめました。そもそもあちらの世界は公転周期が765日で、一ヶ月が約58日もありましたからね。とはいえその日数で数ヶ月間過ごしたのにこちらでは一週間しか経っていないことには驚きましたけど」

 

「まあいい……こんな文面だけの報告など意味はない。師として尋ねる。貴様はあちらの世界で何を学び、何を得てきたのだ?」

 

「それはですね――――」

 

 

 

 聖なる焔と赤毛の子供   エピローグ

 

 

 

 あの子供が姿を消してから、数ヶ月の時が流れていた。あの子が元の世界に帰れたのかはわからない。私達には彼が生まれ育ったという、その異世界を観測することができないからだ。……そういえば、あの方は熱心にあの子の世界について聞いていたな。

 

 あれから、起こったことをここに記す。私達旅の仲間は、旅の途中はそれなりに上手くやれていたと思う。個々の問題はあったが。だがあの子が去ったのを契機にして、櫛の歯が落ちるように、私達は崩壊していった。

 

 まず、ルーク様。彼は正式にファブレ家の嫡子として認められた。王位継承権も第三位のものが与えられることになり、当然のように軟禁は解かれ、社交界に華々しくデビューした。何しろ世界を救った英雄だ。彼に近づこうという人間は多かった。引く手あまた、というのはああいうことを言うのだろうな。アクゼリュスを崩壊させたことについては、ローレライに操られたことだとピオニー陛下からお許しがあった。他にも色々あるが、後述する。

 

 次にルーク様の使用人で護衛剣士、かつ親友だったあの男だ。彼はファブレ公爵から暇を出されることになった。理由は簡単だ。彼は元々マルクト帝国ホド伯爵領の人間だったのだ。ファブレ家に使用人としてもぐりこんでいたのは、復讐を行う為であるのは誰の目にも明らかだった。何せ崩落前に戦争でホドを攻めたのはファブレ公爵だったからだ。ルーク様は、

 

「そんな……嘘だろ、ガイ……?」

 

 と、信じられないといった表情をされていたが、ファブレ公爵が尋問した結果、彼はホド伯爵領ガルディオス家の嫡男であったことを告白した。当然のようにキムラスカを追われた彼は、マルクト帝国でも受け入れられることはなかった。彼を庇護すれば、和平を結んだ両国を再び嵐が襲うだろうことは想像に難くない。マルクトはガルディオス家の遺児を認めなかった。彼がどこに向かったかは定かではない。そういえば、彼は女性恐怖症でありましたね。ガルディオスの血はどことも知れない場所で絶えることとなるでしょう。

 

 ナタリア姫。彼女については議会でも意見が割れることとなった。最終的に陛下は、上手い落としどころを見つけられた。まず彼女にあった第一王位継承権が破棄された。名も、見つかった遺骨が葬られた墓石にだが返されることとなり、彼女は乳母が覚えていた本来の名前に戻ることになる。そして第二王位継承権を持つファブレ公爵夫人――シュザンヌ様――も継承者となることを辞退なされたので、自然、第三王位継承者であるルーク様が次代の王として認められることとなった。その後、ルーク様と姫――メリル・オークランドの婚約が発表された。つまり王となるのはあくまでルーク様であり、姫はその妻ということにしたのだ。それまでであれば、第一王位継承者の姫が王女から女王になるという形で、ルーク様はその婿という立場だったが、それを逆転させたのだ。貴色を持つ世界を救った英雄が王となり、彼女は王妃となる。それが、最終的なお二人の関係となった。

 

 私? 私についてなどどうでもいいでしょう。これまでと同じくキムラスカの軍人として務めるだけです。

 

 キムラスカについてはこのような形です。あと記すべきことがあるとすれば、導師のことだろうか。彼がレプリカであることは周知の事実となった。知らぬものには導師本人が告白なされた。だが、教団が未だ根強く信奉する預言(スコア)に次の導師は詠まれていない。しばらくは彼が導師として活動することになるのでしょうね。

 

 大詠師モース。彼はその職を追われた。理由はキムラスカへの内政干渉。アクゼリュス崩落を知っていたことについては罪に問われなかった。それを問うのであれば、他にも罪を科される人物が出てくるでしょうからね。だがマルクト国内における陸上装甲艦タルタロスへの襲撃について、指示を出したのが彼と判明した為、その罪についてもダアトで裁かれた。十数年の刑期を終えるまで出てこられないだろう。

 

 それではいよいよ捕らえられた世界の敵、ヴァン一味について語ることとしよう。ヴァン・グランツ、奴は本来のルーク・フォン・ファブレを誘拐していたこと、彼の生物レプリカを作成したこと、タルタロス襲撃の指示、アクゼリュス崩落の引き金を引き、二つのセフィロトツリーを停止した罪により、ダアトで裁かれることとなった。誘拐事件やレプリカ作成はキムラスカ国内、セフィロトに関することはマルクトやケセドニア、とにかく各所で罪を犯していたので、一つの国で裁くのではなく、ダアトで全ての罪を裁くことになった。当然死刑だ。

 

 魔弾のリグレット・黒獅子ラルゴ・烈風のシンク。タルタロス襲撃がモースとヴァンの命令による軍事行動だったと判明した為、マルクトでは罪を追及することはできない(シンクは襲撃に参加してすらいない)。よってヴァンに加担していた罪でダアトにおいて禁固刑となった。

 

 妖獣のアリエッタ。カイツール軍港襲撃事件の主犯として逮捕。キムラスカによって裁かれた。情状酌量を求めるダアトだったが、軍人が複数名命を落としているのだ。軍事行動でもない個人としての犯罪と認められた為、死刑となった。

 

 死神ディスト。生物レプリカ作成の罪により、ダアトで裁かれる。ピオニー陛下はダアトへ引き渡すことを渋っていたようだったが、最終的には承諾した。

 

 そして、鮮血のアッシュは、カイツール軍港襲撃の教唆犯としてキムラスカで数年の禁固刑になった。ルーク様や姫は彼を気にかけていて、罪の軽減を申し出た。ヴァンを取り調べたところ、薬物まで使った洗脳を行っていたことがわかり、情状酌量の余地がわずかながら認められた。それでも数年は牢屋の中から出てこられないだろう。彼についてもキムラスカでの扱いが紛糾した。彼をルーク・フォン・ファブレとして認めるか。ダアトで軍人になり軍事行動をとった人物だ。更に上記の罪もある。さすがにキムラスカへの復帰は難しいと議論がなされる中、公爵が絶縁を宣言し、「彼の者はファブレ家と一切関係ない」とした。数年の牢屋暮らしをした後、キムラスカを追放され、国内への立ち入りを禁ずることとなるだろう。多分ダアトへ行くのだろうな。

 

 ――これが、私が知る主要な人物のその後だ。あの子供がいなくなった後、こうなった。まるで、あの子が持つ優しさが、抜け落ちてしまったかのように、優しい世界は崩壊してしまった――。

 

 

     §

 

 

「お久しぶりですね。アニス」

 

「…………」

 

「沈黙ですか……まあいいでしょう」

 

 私は彼女を捕縛、連行するだけだ。

 

「ジェイド……できるならば、酌量の余地を……」

 

「それを決めるのは私ではなく裁判官ですよ。まあ私の部下は? 百四十名が死亡しましたからね? まあまず極刑に近い裁きが下るのではないでしょうか?」

 

「う……」

 

 うめき声を漏らすアニス。だが遠慮してやるつもりなど全くない。

 

「それでは、ローレライ教団神託の盾(オラクル)騎士団導師守護役(フォンマスターガーディアン)所属、アニス・タトリン奏長を連行します。こちらが逮捕状になります」

 

 彼女は、陸上装甲艦タルタロスの位置、予想進路、乗員、状況などの情報を漏らしたスパイ容疑で逮捕することになった。先日更迭された元大詠師モースの証言により、そのスパイ活動が明らかになったのだ。

 

「それではグランコクマまで護送します。ご協力ありがとうございました」

 

 彼女のスパイ活動については、ダアト、ローレライ教団、導師にとって不利益となるものも含まれたので、ダアトで裁くことも進言されたが、最終的に最も重い罪となるタルタロスでのスパイ活動についてマルクトで裁きを受けることとなった。まあどう見積もっても重罪でしょうがね。

 

 さて、それでは行きましょうか。やれやれ、私の軍人生活最後の任務がかつての仲間を捕らえることになるとは。私も皇帝の命令で、帝国に研究者として一生無償奉仕することが決定している。軍人を辞める以上は給金の得られる仕事に就かねばならないが、研究者になることが決まっていて、それが無給だというのだからたまらない。まあ……私の犯した罪に比べれば、この程度の罰ではむしろ軽すぎるくらいでしょうね。これからは、人の役に立つ技術を開発することで、一生を償いに生きることにしましょう。……償い、か。ふと彼のことを思い出す。誰かを助けたいと言っていて、実際に世界を救った彼。少し、感化されたのでしょうかねえ。

 

 

     §

 

 

「イオン様……気を落とされないで下さい……」

 

「ティア……しかし、僕は……」

 

 イオン様が嘆かれるのを、私は黙って見守っていた。

 

「僕は、貴方もアニスも守れず……」

 

「私のことはいいのです……」

 

 あれから、アクゼリュス救援で相殺するはずだった私の罪について、再度問い合わせがあった。ファブレ公爵家の襲撃事件だ。だけど、最終的に私はお目こぼしされることになった。何故か? それはつまり、私の体についてセリス将軍から報告があったからだ。――私の体はもう長くない。それがキムラスカの上層部に伝わった為、私は罪に問われなかったのだ。生々しい事情をいうのなら、囚人を一人囲うだけでも、税金や人員が必要になるのだ。どうせ死ぬ人物にそんな手間やお金をかけてやる必要はない。そう判断されたのだ。お前には、逮捕や裁判を行う価値すらない、そう言われたような気がした。

 

「私が思うことがあるとすれば、先祖代々続いてきたユリアの血脈を途切れさせてしまうことでしょうか」

 

 兄も死刑が決定された。兄妹そろって数年以内に死亡するのだ。これでは先祖に顔向けできない。だが、もう犯してしまった罪はどうしようもない。だけど、

 

「もうローレライ教団はユリアや預言から脱却していくのですよね。ならば私と兄が死んでも、さしたる問題はないでしょう」

 

「ティア……そのようなこと……」

 

 ふと、思う。こんな生臭い事情をあの子に知られなくて良かった。旅が終わってから一ヶ月の間、ベルケンドで研究に参加していたが、裏ではこんなやりとりや通達があったなんて、あの子が知ればきっと悲しんだだろう。だから、これでいいのだ。きっと。

 

 

     §

 

 

「陛下、それでは参りましょうか」

 

 いつも俺の傍で、俺を守ってくれてる人がそう言う。

 

「ああ、ピオニー皇帝は知ってる相手だから緊張とかはねーけどさ、王様になって初の公務がマルクト帝国との細かい条約締結だなんてな」

 

「わたくしもサポートいたします。しっかりして下さいな。あなた」

 

 彼女も隣にいてくれる。何も心配はない。何も。

 

「わかってるよ。それじゃ行こうか」

 

 ふと、旅に出るのはあれ以来だな、と思い出して、懐かしくなる。あいつは元気でやっているだろうか。あの子供は。きっと大きくなったら自分なんて及びもつかないような人物になるのだろうな。そんなことを思った。

 

 空は、どこまでも青く澄み渡っていた――――。

 

 

 

fin

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