聖なる焔と赤毛の子供(TOA+ネギま!)   作:月影57令

3 / 26
前書き
 この作品を書いた訳。前に書いたTOAでいい加減にストーリーを進めたので、細かく書いてみたかった。あとネギがトリップするのを思いついたのでカッとなって書いた。今は反省している。





02 エンゲーブ

 ガタゴトと心地いい振動。夜中になったので、というか元々夜だったけど、僕達は馬車の中で座りながら眠っていた。悩み事はあるけれど、この乗り物の振動には勝てない。

 

 ドカァァーーン!!!

 

 大きな振動と音に襲われ、目が覚める。

 

「ん、な、なんだぁ!?」

 

「凄い音がしましたよ」

 

 ルークさんと一緒に窓から外をうかがう。

 

「軍が盗賊を追っているみたいだな。漆黒の翼だ!」

 

 馭者台から声がした。

 

『そこの馬車! 道を空けて離れなさい! ぶつかりますよ!』

 

 続いて、拡声器を使ったような響き方で大きな声がした。そこには……。

 

「すげえ! 迫力だぜ!」

 

 大きな、数百メートルはあろうかという艦が、陸の上を滑って移動していた。

 

「驚いたな。ありゃあマルクト軍の陸上装甲艦、その中でも最新型って言われてるタルタロスだよ!」

 

 陸上装甲艦!? そんなものがあるんだ。それを感心しながら見ていると、また大きな爆発音が響いた。

 

「あ! 橋が!」

 

「あ、あー、あああ。ローテルロー橋が……」

 

 見せてもらった地図では大陸と大陸を繋ぐほどの大きな橋が、タルタロスという艦に追われていた漆黒の翼に破壊、爆破されてしまった。陸艦タルタロスはぼやっとした光の防壁を発生させたみたいで、それで爆発から艦を守った。

 

「…………ルークさん、ティアさん。橋が壊れちゃったから、もう僕達……」

 

「あ!」

 

「…………ど、どうしよう……ケセドニアに行けなくなってしまったわ」

 

 ルークさんの家があるというバチカルに行けなくなってしまった。……まあ、僕はそのバチカルに行く必要がないからいいけど、二人にとっては…………。

 

「どうすんだぁ、おい!」

 

 僕らは慌てて地図を見る。

 

「…………だ、いじょうぶよ。ほら、エンゲーブの南にカイツールという町があるわ。そこには国境もあって、南側はキムラスカよ。大陸の南端には軍港があるようだし……それで船に乗ってケセドニアに行けば…………」

 

「ティアさん…………この地図の縮尺を考えると、その経路で行くと数ヶ月はかかってしまいそうですけど……」

 

 地図の上では指呼の間でも、実際はとんでもない距離があるのだ、僕の見立てでは、北米であるアメリカから南米の南端に移動するようなものだ。かなりの日数がかかってしまう。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………ま、まあ、何とかなるだろ。ははは」

 

 ルークさんの強がりも、僕達の心配を吹き飛ばすことはできなかった。

 

 

     §

 

 

 橋を渡ってから数日。馬車はエンゲーブについた。今更だけど、馬車の引き手は動物の馬じゃなくて、飼いならされた魔物らしい。大陸を横断したというのに数日でエンゲーブについた。ちなみに水は水瓶に溜められたものを少しずつ、ご飯は馭者さんのものとティアさんが携帯していたものでまかなった。横断の途中にローテルロー橋ほどではないけれど、橋がかかっている場所があって川が流れていたので水を補給できた。出された食料は普通にご飯、白米だった。ルークさんは「握り飯かよ!」と不満を言っていたが、僕は食べられるだけでもありがたいと思った。どうやら僕の世界と完全に違う音素(フォニム)とかがあったり、逆に僕の世界と同じ食料があったりするに、魔法世界のようにちょっぴり違いがあるだけの異世界らしい。

 

「ここがエンゲーブさぁ。バチカルへ向かうなら南にあるカイツールの検問所へを通るしかないね。全く漆黒の翼のせいで……」

 

 馭者さんは橋が壊されたことをぶつぶつ言っていた。聞いた話と、地図を見る限り、人や物の移動に大きな影響がでることだろうから、仕方ないのかもしれない。あの盗賊団はかなり悪辣な人達のようだ。

 

 さて、エンゲーブという村についた訳だけど……家畜や畑がいっぱいだ。話を聞いた限りでは、ここは完全な食料の村らしい。ここの食料は世界中に出荷されているんだとか。これなら食いっぱぐれることはなさそうだ。

 

「検問所か……私と、ルークも旅券がないから通行は……。困ったわね……」

 

 ティアさんがそう言う。旅券というのはパスポートのようなものらしい。当然ながら僕もそれは持っていない。ルークさんは家にいる時に擬似超振動という現象が起きて飛ばされたので持っていないのだ。ティアさんはダアト自治区からキムラスカ王国の首都バチカルに訪れていたが、なにやら臨時の証明書か何かで一時的に通行を認められたらしい。つまりマルクトからキムラスカへは旅券がないと駄目だと言う。僕は出身地、元いた場所を言っていないから今は考えていないのだろう。

 しかし旅券か、僕は発行なんてしてもらえないだろうから、僕がこのマルクト帝国から出国できることはなさそうだ。この国の中で元の世界に戻る算段をつけなくては。

 

「ここから伝書鳩でルークさんの家に連絡すればどうでしょう? そして旅券を発行してもらって、それを迎えの人に持ってきてもらえば……」

 

 馬車の中で説明されたが、この世界の通信手段は伝書鳩らしい。あんな機械の陸上装甲艦があるのに電話や電信といった技術がないなんて。

 

「難しい話はいいから、村を散策してみようぜ! 俺、街に出るのって初めてなんだぁ!」

 

 うきうきした様子で話すルークさん。街に出るのが初めて…………??? どんな身分の人なんだろう。馬車の中では詳しい話はしなかったけれど、ちゃんと聞いておいた方がいいのかも知れない。

 

 そうして、村にある畑やお店を見ながら歩く。そして、食材屋の前に来た時だった。リンゴが入った箱の前にしゃがんだルークさんは、

 

「おっ、うまそうなリンゴ発見」

 

 かぷりっと音を立ててリンゴにかじりついた!?

 

「ル、ルークさん!」

 

「お、おお客さん、お金!!」

 

「……? なんで俺が払うんだ?」

 

 え、ええええええーー!!!

 

「馬鹿! お店の物を勝手に取ったら駄目じゃない!」

 

 当たり前だー!

 

「だって、屋敷からまとめて支払いされるはずだろ……ってぇ、そういやここはマルクトだったな」

 

 えええぇぇぇぇぇぇえええ!!!!!

 

「マルクトだろうがキムラスカだろうが! お店で買い物をする時はお金をその場で払うのよ!」

 

 ど、どれだけ世間知らずなんだぁー! こんな基本的なことも知らないとは!!? お金なんて持っていないというルークさんに、魔物が落とした銅貨があるでしょう、とティアさん。

 

「あ、そっか。金貨じゃねーから忘れてたぜ」

 

 な、な、なぁ!? マ、マリーアントワネットみたいだ!!

 

「……はぁ。もう。なんて人……。買い物の仕方を教えるわ」

 

 ティアさんに教えられて支払いをするルークさん。それと同時に持っていた銅貨を三人で分ける。………………そうか、魔物を倒せばお金が手に入るということは、このシステムなら、僕は魔物退治をしてお金を稼げる。それで宿代や食事代をまかなおう。元の世界に戻るまでに生活しなきゃいけないんだ。傭兵になればいいんだね。それともハンターだろうか?

 

 

     §

 

 

 ドカッ!

 

 ルークさんの背中に村人の蹴りが炸裂し、ルークさんは村の代表者の家に無理やり入れられた。

 

 どうしてこうなったかというと、泊まろうとして行った宿屋の前に村人がたむろしていて、食料の盗難事件について話をしていたのだ。そこでルークさんが食料を作る人達を軽んじる言葉を吐いたところ、目をつけられてしまった。また間の悪いことに、リンゴを先に食べてしまった食材屋さんがきて、盗み食いしようとしただろ! と言ってしまったが為に盗難事件の犯人にされたのだ。僕は「誤解ですー」と言い続けたが聞いてもらえなかった。ティアさんは何故かまったくルークさんを擁護しなかった。ルークさんが犯人でないことはわかっているのに、である。ティアさんはルークさんに対して冷たい。どうしてだろう?

 

「こーら。今マルクト軍のお偉いさんから話を聞いているんだ、大人しくおしよ!」

 

 村の代表者は五十代くらいの女性だった。ローズさんと言うらしい。その彼女に向かって食料泥棒を捕まえただとか、漆黒の翼かも知れないと言う村人の皆さん。

 

「俺は泥棒なんかじゃねーって! 食いもんに困るような生活は送ってねーつうの! いいから離しやがれ!」

 

 ちょ、挑発するようなことを言わないでルークさん!

 

「まあまあ、皆さん落ち着いて下さい」

 

 すると、青い衣服を纏った若そうに見える眼鏡をかけた男性が声をかけた。持っていたティーカップをテーブルに置く。……両目とも赤い色だ。ルークさんは緑色の目をしているけれど、この世界の人間はこういう人が多いのかな?

 

「私はマルクト軍第三師団所属のジェイド・カーティス大佐です。貴方達は?」

 

 軍人さんか。落ち着いた雰囲気の人だなぁ。だけど茶色い髪が長くて肩まである。……こっちの世界の軍人さんは髪が長くてもいいのかな? 普通短髪だと思うけど。

 

「ルークだ。ルーク・フォ」

 

「ルーク!!」

 

 ティアさんが急にルークさんの腕を掴んで引き寄せた。なんだろう? そして声を潜めながら語気荒く叱るという器用な真似をするティアさん。

 

「忘れてるの!? ここは『敵国』なのよ。貴方のお父様であるファブレ公爵。彼はマルクトにとって仇敵の一人、うかつに姓を名乗っちゃ駄目!」

 

 え、ええー! こうしゃく、だって!? もしかすると最高位の貴族じゃないか! あ、いや、それは僕の世界の順列だった。こっちの世界のこうしゃく、というのがどんな順列かはわからないよね。だけど貴族なのは確かだ。それに敵国と仇敵……ルークさんのお父さんは階級のある、軍人(指揮官)だったりするのかな?

 

「どうかされましたか?」

 

 ああ、ジェイドさんに怪しまれている。だけどこの声……。

 

「失礼しました。彼はルーク、私はティア、この子はネギ。ケセドニア方面から辻馬車に乗ってこの村まで来ました」

 

 ぽいっとルークさんを突き飛ばして、ティアさん。

 

「おや、その子供さんもお連れですか、では漆黒の翼ではないですね」

 

「僕達は盗賊じゃないですよ。というか、漆黒の翼らしき人達はローテルロー橋を渡って行きました。あのタルタロスで馬車に警告を出したのはジェイドさんですよね? 声が一緒です」

 

「ああ。なるほど、先日の馬車には貴方達が乗っていたのですね。それなら確かに漆黒の翼ではないでしょうね」

 

 その時、家の扉の前で、声がした。

 

「単なる食料泥棒ではなさそうですよ。気になった為、食料庫を調べさせて頂きました。そうしたら、こんな物を見つけましたよ」

 

 そこにいたのは、白と緑色を混ぜたような薄緑色の服を着た少年だった。僕(十歳)より年上だろうけど、ルークさん達よりは年下に見える。髪色は緑を少し暗くしたような色だった。

 

「イオン様」

 

 その彼は、ローズさんの前に歩みよると、羽のような物を差し出した。ローズさん曰く、聖獣チーグル、という生き物の抜け毛らしい。

 

「恐らく、チーグルが食料庫から盗み出したのでしょう」

 

 ……? このイオンという人(軍人のジェイドさんに敬称で呼ばれていたことから、こちらもかなりの身分を持っていると推察できる)が一人で探すだけで見つかったってことだよね? ……………………なんで村の人は気づかなかったのだろう。ちゃんと調べたの?

 

「ほーら見ろ! だーかーら泥棒なんかじゃねーって言ったんだよ!」

 

「だけど、リンゴを勝手に食べてしまったのは確かよ、疑われる行動をしたんだから反省すべきね」

 

 それは確かに。

 

「仕方ねーだろ。金を払う、なんて知らなかったんだからよー」

 

 な、なんて凄い言い訳だ。こんな言い訳をする人なんて初めて見た。それはさておき、真犯人がわかったことで、村人の皆さんは謝ってきた。冤罪はいけないよね。そうして僕達三人は家を出た。

 

「だけど、ダアトに居るはずの導師イオンが何故マルクトに……?」

 

「導師、ですか?」

 

 前の世界でも聞いたことがあるような単語だ。何だっけ? ……あ、こっちの世界で同じ意味とは限らないか。

 

「ローレライ教団の最高指導者よ。あ、ローレライ教団というのはこの世界唯一の宗教組織よ」

 

「え!?」

 

 そ、それって、法王様ってことじゃないか! しかも世界唯一!? そんなの、まさに雲の上の人だよ!?

 

「んん!? ちょっと待て、イオンて奴は行方不明だって話だぞ。そのせいでヴァン師匠(せんせい)帰国しちまうって言ってた。和平の象徴だから探すんだって」

 

 行方不明?

 

「初耳ね。誘拐されているという感じでもないし、一体どういうことかしら」

 

 ルークさんは事情を聞こうと家に戻ろうとした。それをティアさんが止める。大事な話の最中だから、と言って。

 

「ちぇっ、なーんかむかつくぜ……」

 

「まあまあ」

 

 ルークさんをなだめながら元いた宿屋に戻る。

 

「……そういや、あのジェイドって軍人野郎、なんかいけ好かなかったなぁ」

 

「そうですか? 礼儀正しい人に見えましたけど」

 

「マルクト軍のジェイド大佐。聞き覚えがあるような……」

 

 聞き覚え? 有名な人なのかな?

 

「そっか? まあ俺は軍人なんて家の白光騎士団しか知らねぇし、よくわかんねぇや。俺は軍人なんて興味ねえし、知りたけりゃ勝手に調べろよ」

 

 ルークさん、言い方!

 

「貴方って本当に、自分勝手ね。その性格は直さないと後で後悔するわよ」

 

「ほっとけよ! 一々癇に障る奴だなぁ!」

 

「ま、まあまあ、二人とも落ち着いてくださいー」

 

 確かに今のルークさんの言い方は良くなかったけど、「言い方が悪い」と注意するならともかく、「自分勝手」というのは何か違う気がする。ルークさんもルークさんだけど、ティアさんも態度がきついと思う。

 

「私の連れなんですけど、見かけませんでしたかぁ!? 私より少し背が高くて、ちょっとだけぽやっとした男の子なんですけど。…………むぅ、イオン様ったら、どこ行っちゃったのよー」

 

「? 導師様なら代表者のローズさん家にいましたよ」

 

 ピンク色の、ティアさんと似た形状の服を着た(やっぱり肩口が開いている……)小さな女の子が宿屋のカウンター前にいた。僕よりちょっと年上、かな。黒髪を短くツインテールにしている。………………みんな、元気にしているかなぁ。僕が突然世界からいなくなって、混乱していないだろうか?

 

「おいあんた、なんで導師がマルクトにいんだよ。行方不明だって話を聞いたぞ」

 

「はぅあ! そーんなことになっているとは、すぐ知らせなきゃ!」

 

 女の子はそう言って駆け出して行ってしまった。

 

「彼女は軍服から見て導師守護役(フォンマスターガーディアン)ね。……ということは、ローレライ教団も公認の旅ということかしら」

 

「導師守護役? ですか?」

 

「イオン様、導師の親衛隊よ。ご公務には必ず同行することになっているわ。神託の盾(オラクル)騎士団…………ローレライ教団の軍事組織ね、の特殊部隊よ」

 

「え? 宗教組織が軍隊を保有しているんですか!?」

 

「ええ、そうよ」

 

 なんてことのないように言われたけれど、実際はもの凄いことだよ。世界で唯一の巨大な宗教組織が軍事力も持っているなんて。だとしたら文民であろう導師様はまさに世界の頂点ってことにならないか? ………………え? だったら、あの護衛役の女の子が離れていたのってもの凄くまずいことじゃないか? 導師様、一人だったよ。目を離した隙にいなくなっていたとか、そんな言い訳とかが許される相手じゃないよ。

 

 

     §

 

 

 ラッキーだ。何かというと、宿代がタダになったのだ。宿屋の主人が先ほどの騒ぎでルークさんを泥棒扱いした一人で、さっきのお詫びに、と一泊だけ無料にしてくれた。

 

 今僕らは宿屋の一室にいた。僕とティアさんはベッドに腰掛けて休んでいる。ルークさんは備え付けの机でバチカルに宛てた手紙を書いている最中だ。

 

「はー。終わった終わった! ………………なあ、ティア、チーグルって知ってっか? 聖獣とか何とか言われてたやつ」

 

「東ルグニカ平野の森に生息している草食獣ね。始祖ユリア・ジュエと並んでローレライ教団のシンボルになっているわ」

 

 また知らない単語が出てきた。それはそれとして…………草食、獣? ならなんで人間の食料庫を荒らしたんだろう。

 

「明日になったら森へ行くぞ!」

 

 ルークさんがいきなり言い出した。なんでも泥棒扱いされたのが我慢ならなかったらしい。ティアさんは難色を示したが、そもそも僕達の所持金では南のカイツールに行く旅装を調えることができない。僕は最初から魔物狩りをするつもりだったので、ルークさんに賛同した。手紙がバチカルに届いて迎えの人が来ないとカイツールの国境を越えられないだろうから、資金を調達する為にも森に行くのはいいんじゃないですか? と言って。それに、食料盗難事件も気にかかる。エンゲーブの人が迷惑しているなら、村の人を助ける為にもチーグルの森に行きたい。困っている人を助けるんだ。最終的にティアさんは折れてくれた。

 

 

     §

 

 

 その夜。僕達はお互いの状況を話し合った。順番に話そう。

 

 まず、ルークさん。ルークさんのファブレ家はやはり貴族最上級の公爵だったらしく、ルークさんの母親は王様の妹だ。つまりルークさんは国王の甥。そこまで聞いたところで、僕は今までの非礼を詫びてルーク様と呼んだが、本人が本気で嫌がったのでこれまでのようにルークさんと呼ぶこととなった。更にルークさんは国王の娘、王女であるナタリア様の婚約者らしい。…………つまり、ルークさんは実質的に次の王様という訳だ。なんて身分の人なんだ。キムラスカは王制で、身分制度が厳しいらしい。手討ちにされたりとかないよね? こ、怖い。

 

 そしてやたらに世間知らずだったことだけど、ルークさんは十歳の時(七年前)に誘拐されたことがあるそうだ。犯人はマルクトらしいが、証拠は何もないとのこと。その誘拐事件の際に、よほどショックなことがあったのか、全健忘の記憶喪失になったんだって。親の名前、自分の名前すら忘れ、歩き方や喋り方まで忘れて、完全に赤ん坊のような状態になった。

 

「それってつまり、ルークさんは実質七歳相当ってことじゃないですか!」

 

 元の世界で読んだ本にそんな人いたよ!?

 

「あ、あー。そうなんのかなぁ……言っとくがガキ扱いすんじゃねーぞ」

 

 どおりで物知らずで精神が幼いはずだ。僕より年下の精神なのだ。リンゴを食べちゃったのも、親に躾けられていない小学生の行動とすれば、そこまでおかしいことじゃないと思える。この事実にはティアさんも相当驚いたらしく、今まで意地の悪いことばかりを言って申し訳ない、と謝っていた。

 

 更に驚いたことに、誘拐されたことを警戒して、ルークさんは王命によって一つの屋敷に軟禁されていたらしい。「街に出るのって初めてなんだぁ!」とは誇張でもなんでもなかったという訳だ。…………記憶喪失になってから七年間軟禁されていた。それはつまり意識が芽生えてから七年、屋敷の中しか知らないということだ。これは世間知らずでもしょうがない。なんというか、すさまじいまでの不幸なお人だったんだ。同情するのは侮辱かも知れないが、僕は素直に可哀相と思った。

 

 次に、ティアさん。彼女は本名ティア・グランツと言うらしい。神託の盾騎士団モース大詠師旗下情報部第一小隊所属の響長。それが彼女の身分だ。軍人さんだったのか。まああの導師守護役という子と同じ形状の服ということで予想はついていたけど。それにしては微妙に知識が足りてないことがあったような?

 

「グランツ……って、師匠の名字じゃねーか! どういう関係だよ!」

 

「ヴァンは……私の兄よ」

 

 ヴァン・グランツとはルークさんの剣術の師匠らしい。そして同時に神託の盾騎士団主席総長だって。

 

「お前が師匠のいもうとぉ!? じゃあ、あの殺すとかいうのはどういうことだよ!!」

 

「殺す……?」

 

 それから二人が超振動を起こした経緯が知らされた。なんとティアさんはルークさんのお屋敷(公爵家)に勝手に上がりこみ、ナイトメア(ダメージのある催眠譜歌)で警備の騎士団や使用人などを全員眠らせて、客人であったヴァンさんを暗殺しようと刃を向けたらしい……って。

 

「は、犯罪じゃないですか…………」

 

「……………………」

 

 こちらの世界の法律などは知らないけれど、僕の世界でそんなことをやったら数年の禁固刑になってもおかしくはない。むしろ王制で身分制度の厳しい国でそれをやったというなら冗談抜きで手討ちにされても文句は言えないだろう。しかも二人が擬似超振動を発生させたのは、ルークさんの木刀とティアさんの杖(刃つき)が接触した為、らしい。それじゃあもう駄目じゃないか………………。というかその出会いでよくこれまでルークさんと対等に接してこられたなぁ。僕だったらとても申し訳なくてひざまずかずにはいられないよ。

 

「お前さ、なんで屋敷に来たとか、なんでヴァン師匠を殺そうとしたのか、話さねぇのか?」

 

「貴方に話しても仕方のないことよ」

 

「ちょ、ティアさん!」

 

 ぶ、無礼にもほどがある。この話で僕はティアさんに対する見方がかなり変わった。恐ろしい人だ。

 そして、ティアさんは理由を頑なに話そうとしなかった。結局ルークさんが諦める形で折れて、話は終わった。…………でも、二人はキムラスカに向かうんでしょう? ティアさん、バチカルについたら、というかキムラスカに入国した時点で捕まると思うけれど。

 

「覚悟の上よ」

 

 はあ、そうですか。もう何を言っても無駄な気がしてきた。

 

 最後に、僕の事情を話した。信じられないことを覚悟して。

 

「はぁ!? 異世界だぁ!?」

 

「はい」

 

 二人には隠していても仕方ないと思ったし、二人の助けや知識も僕にとっては必要だから、素直に話した。自分のいた世界は三桁の数に国が分かれている世界だと。そこには魔法があり、魔法世界と呼ぶ別の位相の世界も存在したと。なので、自分としては異世界に来たことはそこまで驚きではない。あの魔法の構築式をいじっていたら、たまたまこの世界にアクセスしてしまったのだろう。

 

「…………信じらんねー」

 

「……………………」

 

 信じられないと言ったルークさんはともかく、ティアさんはそれほど驚きもしなかった。これはかなり後に知ることになるのだが、元々ティアさんはこのオールドラントという世界にも、二つの世界があることを知っていた。というか今いるのとは別の世界で育った人間だった。だから異世界というものも認められた、ということらしい。

 

「だから、僕は今正直困っています。お二人が擬似超振動を発生させた後の、再構成された地点にいたということ。また元の世界で魔法をいじっていたら来てしまったということを合わせて考えると、この世界から元の世界に戻る為にも、魔法と擬似超振動が必要になるのではないかと」

 

 今考えているのは、もう一度二人に擬似超振動を起こしてもらうことだ。それで自分が世界を飛べないか試す。だがこちらに来た魔法というファクターが存在しないので、無駄に終わるかも知れない。そもそも、擬似超振動も充分危険な現象だ。あらゆる物質を分解し再構成する現象ということらしいから、失敗すれば分解されて死んでしまう。二人、と僕がタタル渓谷で再構成されたのは幸運だった。

 

「なので、僕としては当面の生活をなんとかしつつ、擬似超振動が研究されていれば、その研究者の人達に会いたいです。僕を研究してもらいたいですね」

 

「……………………んー。確か父上の領地がそういう研究都市だった気がするけど」

 

「ホントですかっ!」

 

 それなら、ルークさんについて行けば研究してもらえる。おまけにルークさんとティアさんは世界間移動にとって重要な人達だ。

 

「それなら、僕はこれからもお二人と一緒にいたいです。……構わないでしょうか?」

 

「水くせぇこと言うなよネギ。別に構わねーって」

 

「私も、問題はないわ」

 

「……良かったぁ」

 

 そうして、僕達は夜を徹して色んな話をしたのだった。

 





後書き
 元の世界で読んだ本:マインドア○シンという漫画です。初めてアビスをプレイした時、この漫画にでてくる十八歳だけど十歳の時に完全に記憶を消された人物を思い出しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。