聖なる焔と赤毛の子供(TOA+ネギま!)   作:月影57令

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04 タルタロス

 ライガ・クイーンは静かに去って行った。それに近場にいたのであろうライガ達も続く。怒りよりも自分の命を優先してくれたのだろう。良かった。

 

「これで、良かったのかしら」

 

 ティアさんが憂慮するようにそう言う。

 

「なんでだよ」

 

「女王は卵を抱えていたわ。ライガの仔供は人間を好んで食べるの。だから街の近くに住むライガは繁殖期前に狩り尽くすのよ」

 

 そ、そうなの!? 食人するの!? そ、それは危険だったなぁ。一つ間違えば泥沼の戦いになるところだった。でも街の傍から離れてくれたし……。んん、でもどうなんだろう。やっぱり狩るしかないのかな?

 

「でもチーグルを恨んでたけど、大人しく下がってくれたじゃねーか。大丈夫だろ。ガキだってちゃんと産めて、人間のとこにも攻めてこねーって」

 

 その見込みは少し甘いと思う。けど、確かにその通りになって全てが上手くいくといいな。と、

 

「イオン様!」

 

「探しましたよイオン様」

 

 あの護衛役の子とジェイドさんだ。導師様を追って来たのか。……遅いよ。ライガ・クイーンと戦闘になっていたら間に合わなかったよ。

 

「カーティス大佐、すみません。イオン様を危険にさらしてしまいました」

 

 ティアさんが頭を下げる。

 

「無事だったのですから構いませんよ。それと、私のことはジェイドとお呼び下さい。ファミリーネームには馴染みがないのですよ」

 

 ファミリーネームに馴染みがない? 結婚したとかかな?

 

 その後、ミュウが長老達に報告すると言ったので、大木まで戻ることになった。

 

 

     §

 

 

 道すがら魔物と戦闘になったが、主に僕とルークさんで倒した。ジェイドさんは譜術士(フォニマー)らしく、術の行使に数秒かかるのだが、僕達はその数秒で敵を倒したのでほとんど活躍らしい活躍をしてくれなかった。護衛役の、アニス・タトリンという子(階級は奏長、ティアさんより二つ上の階級らしい。最初は驚いたけど軍人になって二年というから納得だ)とティアさんは導師様を守っていた。

 

「いや~楽できていいですねぇ」

 

「ちっとは働けや!」

 

 ルークさんの罵声が飛ぶ。

 

「それよりイオン様?」

 

「話を逸らす、な!」

 

「ダアト式譜術を使いましたね。医者から止められているのに。しかも民間人を同行させ、巻き込んだ」

 

 民間人。僕とルークさんはそうだね。ティアさんもジェイドさんもアニスさんも軍人だ。軍人率高いなあ。

 

「……すみません」

 

「おい! イオンは謝ってんだろ。ネチネチ言わねえで許してやれよお・っ・さ・ん!」

 

「おやおや、巻き込まれて不平を述べると思っていましたが、意外ですね」

 

 どうもルークさんは導師様に対して優しいようだ。いや、ミュウのことも守っていたっけ。

 

 そんな会話や戦闘を挟みながら大木に着いた。

 

「みゅうみゅみゅみゅ」

 

「みゅみゅうみゅうみゅみゅ」

 

 魔物の会話を黙って聞いている。ジェイドさんは面白がっていた。

 

「……かわいい」

 

「はぁ!? こいつらがか?」

 

「な、なんでもないわ!」

 

 どうやらティアさんは可愛いもの好きらしい。

 

「話はミュウから聞いたぞい。チーグル族の為に尽力してくれたそうじゃな」

 

「貴方達の為じゃありません。導師様とエンゲーブの為です」

 

 自分で思うより冷たい声が出た。どうにもこの魔物達の思い通りに動かされた気がしてならない。知恵があるということは、それだけ狡猾なのかも知れない。

 

「そういえば導師様。大切な用事が終わったらダアトに帰るんですよね?」

 

「……? ええ、そうですけど」

 

「戻ったら教団の予算を使ってエンゲーブに損害の補填とかするんですか? エンゲーブでは食料が失われた分、被害額がかなりのものになっていると思いますが。聖獣で教団のシンボルと言うなら、(その為に事件に首を突っ込んだなら)教団でチーグルが盗んだ被害額を支払ったりするんですか?」

 

 僕のペットとなった彼も、女性の下着を盗んだりしたから僕がその分弁償をしたんだよね。うう、給料の大半を支払って賠償した日々……思い出すだけで怖くなる。請求書コワイ。それと同じで、チーグルが教団の指定する聖獣だというのなら、補償をするべきじゃないかな?

 

「――!? そ、そう、ですね。エンゲーブの民には迷惑をかけてしまいました。ダアトに戻ったら協議してみるのもいいかも知れません」

 

「エンゲーブはただ食料を盗まれただけ。しかもチーグルは謝罪すらしていない訳ですからねぇ。確かに放置してしまったらイメージの悪化は免れないかもしれません」

 

 僕の糾弾にジェイドさんも追従してくれた。エンゲーブの皆さんが少しでも報われるといいな……。今のままだと頑張って作った作物等を、ただ無遠慮に盗まれただけ、という状況だからね。

 

「確かに、我らのせいでライガにも人間にも迷惑をかけてしまった。元はと言えばミュウが招いた事態。ミュウには贖罪をしてもらう」

 

「どうするつもりだよ」

 

 長の言葉にルークさんが反応する。

 

「ミュウを我が一族から追放する」

 

「それはあんまりでは……」

 

 妥当だと思うけどなぁ。

 

「永久という訳ではない。季節が一巡りするまでじゃ。聞けばこやつはルーク殿に命を救われたとか、チーグルは恩を忘れぬ生き物。ルーク殿にお仕えさせる」

 

 一年だけなんだ……。それ追放って言わないんじゃ……。

 

「俺はペットなんかいらねえよ」

 

「連れていってあげたらどうかしら?」

 

「チーグルは教団のシンボルですから、ご自宅で歓迎されると思いますよ」

 

 渋るルークさんにティアさんと導師様のコンボ。ルークさんは頭をがしがしとかきながら、

 

「仕方ねえ。土産ってことにすっか」

 

「よろしくお願いするですの! ご主人様!」

 

 命を助けられたことでルークさんに恩義を感じているのか。ミュウはルークさんをご主人様と呼んだ。

 

「くぅ~やっぱなんかむかつく! こいつ」

 

「さて、帰りましょうか」

 

 ジェイドさんがしれっとまとめるようにそう言う。そして僕達は新たな仲間、ミュウを連れて森を抜け出したんだ。

 

 

     §

 

 

 森から南下して村に戻ってきた。早めに出発したのでまだ昼と夕方の間くらいだ。往復でそれなりにお金も溜まった。宿には何とか泊まれそうだ。

 

「お疲れ様でした。……お三方はまだエンゲーブに?」

 

「ええ、陸路でケセドニアに行けなくなってしまったので、この周辺の魔物で資金を貯め、旅装を調えてカイツールに行く予定です。それまではエンゲーブに逗留します」

 

 ジェイドさんの質問に答えるティアさん。

 

「そうですか。それでは良い旅を」

 

「ルーク、ティア、ネギ。色々とありがとうございました」

 

「れ、礼なんかいいっつうの。お前も元気でな」

 

「導師様もお元気で」

 

 そう言って僕らは別れた。

 

 宿屋で荷物などを下ろし、ベッドに寝転んで休み。

 

「あーっ疲れたーっ」

 

 どっかりとベッドに体を預けるルークさん。

 

「そうね……今はゆっくり休みたい気分だわ」

 

 腰掛けるティアさん。それに反して僕はまだ余裕がある。……あのクラスを担任すればこの程度の精神的強度は身につく。

 

「あ」

 

「ん? どうしたネギ」

 

「どうして導師様がマルクトにいるか聞きそびれてしまいました」

 

「あ」

 

 そんな会話をしていた時だった。どかどかと乱暴な音がしたと思ったら、部屋の扉が開いた。そこには先頭にジェイドさん、背後には青色の軍服が勢ぞろい。

 

「マ、マルクト軍!?」

 

 ルークさんが声を上げる。僕達三人は警戒態勢になった。

 

「ちょーっとお話を聞かせて頂きたいのですが、我が第三師団の誇る陸上装甲艦タルタロスまでご足労願えますか?」

 

 ジェイドさんが勧告する。

 

「……理由は、何ですか?」

 

 ティアさんが静かに聞く。

 

「タタル渓谷付近で収束した第七音素(セブンスフォニム)の超振動、それは貴方達ですね?」

 

「――――」

 

 ばれた。チーグルの森からエンゲーブに帰るまで戦闘したのがいけなかったらしい。第七音素を使う治癒術、それの使い手であるティアさん。そしてルークさんも術は使えないが第七音譜術士(セブンスフォニマー)の素養があると話していた。戦闘の確認をしている時に言ってしまっていたのだ。それでばれたという訳か。迂闊だった。

 

「ジェイド、三人に乱暴はしないで下さい!」

 

 兵士達のその後ろには導師様の姿が。

 

「誰も殺そうとなどとしませんよ。彼らが暴れなければね。できれば大人しく連行されて欲しいのですがねえ」

 

「抵抗……しない方がいいですよね?」

 

 ティアさんに聞いてみる。

 

「当然よ」

 

 ティアさんは杖をからんと落とした。

 

 

     §

 

 

 タルタロスの船室で事情聴取される。僕達三人は一つのソファーに腰掛けている。…………なんでマルクト軍の事情聴取に導師様が同席しているのだろう。善意で僕達の擁護をしてくれるのかな? それはそれとして、

 

「あの、導師様もお座りになったらいかがですか? 非常に心苦しいのですが」

 

 なんで導師様を立たせているんだろう。僕のその言葉で導師様は椅子に腰掛けた。

 

「タルタロスの計器で観測した超振動は、キムラスカ・ランバルディア王国バチカル方面から発生しました。あなた方が発生源なら、不正に国境を越えたことになりますね」

 

 随分乱暴な意見だなぁ。擬似超振動は任意で発生させられないとティアさんに聞いたよ。であるならば、この世界で起きる超振動は全て偶発的なものであるはずだ……研究とかじゃない限りね。本人が意図せず飛ばされてしまった結果、国境を越えたのなら、やむを得ない事情ということになるはずだ。

 

「ルークさん、ティアさん。ここは僕が説明しますよ。加害者であるティアさんと被害者であるルークさんが説明すれば、どっちにしろ感情的になってしまうでしょうから」

 

 僭越ではあるが、そう言って僕が説明することにした。加害者と被害者、どちらが説明しても偏りが出るだろうからね。昨日聞いたことをそのまま話す。ルークさんの姓名、身分、七年前の誘拐事件と記憶喪失も含めてね。

 

 ……………………説明中……………………。

 

 ……………………まだまだ説明中……………………。

 

 …………………………………………………………説明終了。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 話終わると、ジェイドさんと導師様、アニスさんは全員厳しい目でティアさんを見た。睨んでいると表現してもいい。

 

「ティア……何故そのようなことを」

 

「すみませんイオン様。私の故郷に関わることですので、ルークやイオン様を巻き込みたくはないのです」

 

 まだそんなことを言うのか。ルークさんはもう盛大に巻き込まれているよ。そこまでして話せない内容っていったい何なんだろう。

 

「とにかく、事件が起きてティアさんは加害者、ルークさんは被害者です。そして僕は二人に関係のない場所にいましたが、“何故か”お二人の超振動に巻き込まれて、気づいたらタタル渓谷にいました。僕も旅券を持っていない入国者ですが、意図せず無理やり連れ込まれたに等しい僕とルークさんですので、そこのところは斟酌して下さい」

 

 頭を下げてお願いする。僕についてはいきなり異世界とか言っても信じてもらえない可能性が高いので、適当にごまかしたが。

 

「あーっと。とにかく俺とネギはわざと国境を越えた訳じゃねぇ。これなら罪に問われねぇんじゃねぇの? 後、ティアが起こした事件は確かに問題みてえだけど、キムラスカで起きた事件をマルクトで裁いたりはできねぇよな? だったら俺達三人は解放してくれてもいいんじゃねぇか?」

 

 ルークさんが気だるげにそう言う。

 

「ジェイド、彼らの言うとおりでしょう。敵意も感じませんし、ここは協力をお願いしてみてはどうですか?」

 

「ふむ……キムラスカ王室と姻戚関係にあるファブレ公爵家のご子息……ですか。確かに強力なカードですね」

 

 そう言うと、ジェイドさんは居住まいを正した。

 

「…………私達は、マルクト帝国皇帝ピオニー九世陛下の勅命によって、キムラスカ王国首都バチカルへ向かっています」

 

「…………和平の申し込みか何かですか?」

 

 僕がそう聞くと、ジェイドさんは緊張した面持ちになった。これぐらいは推察できるよ。

 

「導師様は今日(こんにち)の平和の象徴とお聞きしています。その導師様を連れて皇帝の勅命でキムラスカの首都へ向かう……まあ普通に考えて和平工作ですよね?」

 

 僕も二つの組織間で和平の特使をしたことがあるから、簡単に予想がついた。

 

「……やれやれ。密命だったのですがねえ……」

 

 はぁーっとため息をつかれる。

 

「近年局地的な小競り合いが二国間で頻発しています。恐らく近いうちに戦争が勃発するでしょう。ホド戦争が終結し、休戦が成立してから十五年しか経っていませんし」

 

 この世界は十五年前に戦争があったのか……魔法世界に似ている。やっぱり平行世界なのかなぁ。

 

「そこでピオニー陛下は平和条約の締結を提案する親書を送ることにしました。僕は中立地帯であるダアト自治区の長として、和平の仲立ちを要請されたのです」

 

 ジェイドさんの言葉を導師様が引き継ぐ。親書かぁ。いよいよもってあの時と似たような感じになってきたな。

 

「ふーん。だけど、どうしてそれで、キムラスカに届いた連絡ではお前が行方不明ってことになってたんだ? お前を探すって言ってたんだぜ、ヴァン師匠(せんせい)は」

 

「それには教団内部の勢力争いが関係しています。僕を中心とする改革派、大詠師モースを中心とする保守派に分れ、日々派閥抗争が繰り広げられています……。モースは、彼は戦争が起こるのを切望しているのです。僕はマルクト軍の力でモースが指示した軟禁から抜け出し、マルクトにやってきました」

 

 な、なんとも生々しい事情があったものだな。

 

「導師イオン! それは間違いです! モース様は戦争なんて望まれません! モース様は預言(スコア)の成就だけを願っておられる方です!」

 

 色々と突っ込みたいところが。

 

「ティアさんは大詠師派ですか。残念ですぅ」

 

 アニスさんがぽつりと呟く。

 

「わ、私は中立よ」

 

 突っ込むことにした。ただの子供である僕が口を挟む問題ではないが、せっかく居合わせているのだ、聞いてみよう。

 

「ティアさん。二つ言いたいことが。モースさんっていう上司の方を信じているのかもしれませんけど、導師様ご自身が『軟禁されていた』と言っているのですから、それは信じられますよね?」

 

 最高指導者の言うことを信じないの? というか偉い立場だからとか関係なしに本人が申告しているんだから信じてあげましょうよ。

 

「だったら、少なくともモースさんは導師様を軟禁するような人ってことになりますよね」

 

「そんな、違う。違うわ!」

 

 よほど上司のモースさんを信頼しているらしい。中立というのは口だけっぽいな。

 

「それと、導師様は戦争が起きるのを切望している、と言い、それに対してティアさんは預言の成就だけを願っていると言いました」

 

 ちなみに預言とは、第七音譜術士だけが詠める未来予知のこと、らしい。預言を詠むと譜石と呼ばれる石が生成されるのだとか。詠んだ内容もその譜石に刻まれるらしい。このオールドラントという世界では根深く預言が浸透しているとのこと。そりゃあ未来がわかるならそれを利用しようと考える人は出てくるだろうね。

 

「え、ええ」

 

「じゃあ、預言に『戦争が起きる』と詠まれていれば、預言の成就だけを願っているモースさんは戦争を起こそうとするってことになりますよね」

 

「……………………あ。そうだ。ネギの言うとおりだな」

 

「そ、そんな!? そんなことあり得ないわ! 戦争が起きると詠まれているなら、それを回避しようとなさるはずよ!」

 

「でも、導師様は保守派がモースさんの派閥だって言っていましたよ」

 

「はい、僕の改革派とは、預言に頼りきりになるのではなく、一つの指針として見ようという派閥です。反対に、モースの保守派とは全てを預言通りにしようという派閥なんです。だから、恐らくネギの言う通り、戦争が預言に詠まれているのでしょうね。その為モースは戦争を起こそうなどと……」

 

 ティアさんは青ざめた顔で、そんな、そんなの……と繰り返している。

 

「モースの部下であるティアのことは、今は置いておきましょう。教団の内部事情はともかく、我らは親書をキムラスカへ届ける必要があります。しかし我らは敵国の軍人です。そう簡単には国境を越えられない。そこでルーク、貴方の地位を利用させて下さい」

 

 うわぁ! ジェイドさんもティアさんと同じような人だ。ルークさんはキムラスカの要人だよ。それなのにこんな態度じゃルークさんが怒っちゃうんじゃ。

 

「おいおっさん。その言い方はねぇだろ。こういう時はそれに見合った態度ってもんがあるんじゃねーの?」

 

 ルークさん、言い方が悪いよ。でもジェイドさんの態度も悪い。もっと優しい言葉で話して欲しいな。

 

「ジェ、ジェイドさん。ルークさんはキムラスカの王族でほぼ次期国王の人ですよ! そんな態度でいたら……!」

 

「……………………そうですね。これは失礼をしました。ルーク様。どうか我々にお力を下さい」

 

 改めてくれたけど、既に言った言葉は取り消せないよ! ど、どうなるの!? ルークさんの胸一つで戦争が起きるかも。ここはこらえて……

 

「……はぁっ。ち。わーったよ。伯父上に頼めばいいんだな」

 

 ……や、やった。何とか収めてくれた。

 

「ありがとうございます。ルーク様は我々が責任をもってキムラスカ領土内へお連れしましょう。私は仕事がありますので退席しますが、ルーク様はゆっくりお休み下さい」

 

「呼び捨てでいーよ。キモいぜ」

 

 う、うわああああ。

 

「わかりました。ルーク、『様』」

 

 うわああああああああああああああ、様を強調して言ったああああああああ。も、もう嫌だ。なんで戦争が起きるかも知れないのに、国家の大事な使命の最中なのに、そんなに礼儀知らずになれるんですか。ルークさんもジェイドさんも。特にジェイドさんは大人なんだからしっかりして下さいよ!

 

 そうして、完全に無関係な異世界人である僕の胃を荒らして、話し合いは終わった。

 

 

     §

 

 

 事情聴取、尋問が終わり、この陸艦でキムラスカまで送られることになったので、僕は部屋を出て探検してみることにした。と、ジェイドさんがいた。伝声管を使って何か話している。そういえばジェイドさんは第三師団の師団長だそうだけど、この陸艦の艦長は別にいるらしい。何か連絡しているのかな。そう考えていたらルークさんとティアさん、アニスさんも部屋を出てきた。……アレ? 導師様はさっき風に当たりたいって言って出て行ったよね? なんでアニスさんはついて行かないの? ……元の世界のあるお姫様とその護衛をしていた女の子を思い出す。護衛役というなら、常に傍についていないと駄目じゃないか。まあ陸艦に乗っているから危険はないと思っているのかな? 兵士さんもたくさんいるだろうし。そう思った時、

 

 ウー! ウー! ウー!

 

 警報のような音が鳴り響いた。

 

「警報!」

 

 ティアさんが警戒態勢になる。事情聴取で取り上げられていた武器は既に手元に戻されている。

 

「ルーク様、どうしよぅ」

 

 ……あの、アニスさん。どうしてルークさんにしがみつくの? 貴方は今すぐ導師様のところへ行かなくてはいけないんじゃないの? ……中立と言っても導師様の言葉を信じなかったティアさんといい、この世界は口だけの人が多いのかな。何だか疲れてきたよ。と、それより警報だよ。

 

艦橋(ブリッジ)、何があった!?」

 

 ジェイドさんが伝声管で問いかける。

 

『前方20キロの地点上空にグリフィンの大集団であります。約十分後に接敵する模様! 師団長、主砲による砲撃の許可を願います!』

 

 魔物の集団か、しかし群れをなして襲いかかってくる? 恣意的な何かを感じる。僕の世界の式紙のように、操られているとしたら……!

 

「艦長は君だ、任せる」

 

『了解!』

 

「皆さん、船室に戻って」

 

「なんだよ。魔物が襲ってきただけだろ」

 

「グリフィンは単独行動をとる種族よ。通常と違う行動の魔物は危険だわ」

 

 やっぱり操られているようだね。しかし十分後なら余裕が……

 

 ドカァァァァアアン!!!

 

 大きな衝撃が艦を襲った、地震のように揺れる。

 

『グリフィンからライガが降下しました! 艦体に張り付いて攻撃を……っ! うわぁあぁ!』

 

 え? さっきの報告、前方20キロとか十分後とかは一体なんだったの。見込みが甘かったの!? それとも別方向から来たのを見逃していたの!?

 

「艦橋! 応答せよ艦橋!」

 

 ジェイドさんが呼びかけるが、声が返ってくることはなかった。……いけない。

 

「ライガはチーグルの森で見かけた獣型の魔物ですよね!? 艦内に入り込んでいるなら危険です!」

 

「じょ、冗談じゃねーよ! あんな魔物がうじゃうじゃ来たら危ねえ! こんな陸艦に乗っていられるか! 俺は降りるからな!」

 

「ちょ、ちょちょっと! 降りるって、走っているんだから降りられませんよルークさん。それに一人で先に行くのも危ないです。入り込んでいるんですよ」

 

 僕は急いでルークさんの後を追う。

 

「その通りだな」

 

 ガシャン!! と音を立てたのは通路の先、階段から降りてきた人物だ。全身を、黒を基調としたオレンジの線が入った鎧に包んだ、ジェイドさんより背が高くガタイがよい巨躯。ライオンみたいに逆立てた黒髪に顎下まで伸びた髭。手に持つは大降りの鎌。……危ないっ! 僕はルークさんの腕を掴んで引っ張った。

 

 シュオオオオ!!

 

 すると通路の後ろからジェイドさんの譜術が撃ち出された。まっすぐ進んで巨躯の相手とその後ろにいる兵士二人に当たる――――!

 

 兵士二人は余波を食らって吹き飛んだ。だが巨躯の持ち主は気による譜術防御(マジックガード)で耐えた。と思ったら鎌を振るって紫色に光る紫電の気を撃ってきた。矢のようなそれをかわす為、慌ててルークさんと共に横の壁に張り付く。紫電の気はジェイドさんが「虚空から取り出した」槍によって払われた。

 

!? 今の、まるでアーティファクトみたいに「出現」したよ! どんなものなの!?

 

「さすがと言うべきか。だがこの先は大人しくしてもらおう、死霊使い(ネクロマンサー)ジェイド!」

 

 死霊使い? ゾンビやグールでも使役するだろうか、ジェイドさんは。

 

「死霊使いジェイド! 貴方が……!」

 

 ティアさんには心当たりがあるのか。いや、でも、ティアさん。「死霊使いジェイド」という名称で覚えていたなら、ジェイドという名前を聞いた時に思い出そうよ。

 

「貴方の話も聞いていますよ。神託の盾(オラクル)騎士団六神将『黒獅子ラルゴ』」

 

「ふん……いずれ手合わせしてみたいと思っていたが、今はイオン様を取り返すのが先だ」

 

 目的は導師様か。しかし彼が神託の盾騎士団(ローレライ教団)というなら、取り返すというのは道理に合っている。……軟禁されていた導師様はマルクト軍の力で脱出したと言っていた。なら、襲撃してきているのは軟禁していた側、大詠師派か。

 

 僕はジェイドさんに目線だけを動かしてアイコンタクトをした。少しばかりだけどジェイドさんとは共に戦った仲だ。僕の力についても知っている。子供だと思って油断しているラルゴの虚をつける!

 

「ミュウ! 天井に第五音素(フィフスフォニム)を! 早く!」

 

 その言葉にミュウが素早く反応して第五音素である炎を吐いた。炎は天井にあった譜石にあたり、譜石は爆発した。背の高いラルゴは自分の目の近くで起きた発光に目をやられた。よし!

 

「はぁああ!!」

 

 瞬動術からの崩拳、鎌に気をつけながら拳をみぞおちにぶち当てた!

 

「ぐふぅっ!」

 

 そこに紫色の光――第一音素(ファーストフォニム)、ティアさんのナイトメアだろう――がまとわりつく、鈍痛と眠気が彼を襲う。そして――

 

 ザシュッ!!

 

 高速で間合いを詰めたジェイドさんの槍が、ラルゴの胸を貫いた。

 

「さ、刺した……」

 

 ルークさんの呆然としたような声が、通路に響き渡った。

 







後書き
1話に一つ以上は原作と違う展開を差し挟みたい……しかし今話はネギの心情以外に目立った変化なし……精進します。
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