聖なる焔と赤毛の子供(TOA+ネギま!)   作:月影57令

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05 邂逅

 目の前で人が刺された光景に、呆然とするルークさん。僕だっていい気分じゃない。ラルゴは倒れ、傷口からだくだくと血を流している。僕も拳を打ち込んでこの状態を作り出した一人だ。気が重くなる。と、アニスさんがだだっと走って行った。導師様のところへ向かったのだろう。

 

「イオン様はアニスに任せて、我々は艦橋(ブリッジ)を奪還しましょう」

 

 ……導師様って世界トップレベルの人だよね。しかもジェイドさんの目的である和平工作にとって絶対必要な仲立ちをしてくれる相手。放っておいていいのかなぁ(アニスさんが守れるとはもはや到底思えない)。でも導師様を守れたとして、艦が占拠されてしまってもこちらは敗北する。仕方ない、か。

 

「大丈夫でしょうか」

 

「貴方の譜歌とルークの剣術、ネギの格闘術があれば奪還も可能でしょう」

 

「ルークさん、大丈夫ですか」

 

 僕は血まみれになったラルゴをうつろな目をして見ているルークさんを気遣う。記憶喪失になって、その後屋敷に軟禁されていたルークさんにとっては大変ショックな出来事だろう。ある程度慣れている僕がフォローしなくては。

 

 

     §

 

 

「な、なぁ……さっきのラルゴとかいう奴……し、死んじまったのか」

 

 震える声でルークさんが言う。

 

「殺すつもりで刺しましたよ」

 

 ……そうだよね。殺すつもりだったよね。でもとどめは刺さなかった。「とどめを刺さなくていいんですか?」とは聞かなかった。そのままにしていればラルゴの仲間が彼を助けてくれるかも知れないから。質問したり、僕が傷の手当をします、と言ったりするとやぶ蛇になり、ジェイドさんの気が変わってとどめを刺すかもしれなかったからだ。ラルゴには申し訳ないけれど放置させてもらった。助かればいいけど。

 

「な、何もよ、殺すこと、なかったんじゃないか?」

 

「おやおや?」

 

 ジェイドさんは皮肉げにルークさんを見やる。

 

「相手は私達を殺してもよくて、こちらは殺すのは駄目、というのは道理が通りませんよ」

 

「ルーク。これは軍事演習でも剣術の稽古とも違うわ。相手を気遣う余裕なんて捨てなさい」

 

「でもよ!」

 

 ルークさんは頑なに反発する。優しいこの人のことだ。当然かな。

 

「相手も殺される覚悟をして襲撃してきたのだと思いますよ。自分達が所属する組織の為、命を賭けて行動する。それが軍人です。ファブレ公爵家の方は? その覚悟なしに戦場に身を置けるようですがねぇ?」

 

 それは……間違いではないのかも知れないけれど、あまりに一方的な物言いだ!

 

「ちっ! そういうこと言ってんじゃねぇよ!」

 

「ジェイドさん! ルークさんは軍人じゃなくて民間人ですよ! 貴方の論理に適用される人じゃありません。魔物との戦闘とは訳が違います。初めて目の前で人が刺されるところを見たんです。ショックを受けるのも当然じゃないですか! 大人気ないこと言わないで下さい」

 

 というかティアさんもジェイドさんもルークさんの状態(記憶喪失後軟禁)は知っているはずじゃないか。軍人でない彼のその事情を知っているのに、今のような意地の悪い言い方をするなんて!

 

「ご、ごめんなさいルーク」

 

「……ふぅ。そうですね。少しばかり言い過ぎたようです。謝罪を」

 

 二人が謝ってくれる。自分がそう(軍人)だからって、他人(民間人)にまでそれを適用するのは違うでしょう。

 

「とにかく艦橋へ行きましょう」

 

 そして僕らは艦橋へ急いだ。階段を上って外に出る。

 

「真正面から行くほど愚かではありません。整備用のハシゴがありますからこれを使って上から向かいます」

 

 長いハシゴを上る。そこは整備用というだけあって、柵も何もない艦の屋根だった。つるっと落っこちたら確実に死んじゃうよこれ。気をつけて歩く。と、魔物がいた。よかった。さっきの今で人、兵士と出会っていたらまた殺すの殺さないのの騒ぎになるところだった。まあ、こんな危険な場所には敵もいたくはないのだろう。魔物だけ配置しているということか。

 

 僕らは軽く戦闘を行って魔物を撃退した。ジェイドさんの放つ譜術は凄い威力で、一発で魔物を仕留めていた。前衛の僕とルークさんはジェイドさんが譜術を放つまで耐えていればよく、攻撃するまでもなかった。森の戦闘とは逆になったな。でも空を飛ぶ魔物には譜術が有効だ。

 

「ルークさん、戦闘では僕が頑張りますから、気分が悪いのであれば無理しないで下さいね」

 

「……い、や。へーきだよ! ……わりぃ、ネギ。俺も、しっかりしなくちゃ駄目だよな」

 

 逆に気を使わせてしまったような。失敗したかな。

 

 甲板の上部に着いた。

 

「ティア、譜歌を」

 

「はい」

 

 トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ……

 

 ティアさんの歌声が響く。すると見張りの兵士達は眠ってしまった。良かった。殺さずにすんだ。

 

「タルタロスを奪還します。ティア、手伝って下さい。ルークとネギは見張りをお願いします」

 

「わかりました」

 

 僕達は内と外で二人ずつに分れた。

 

「しかしよー、相変わらずすげぇ術だなぁ」

 

「ティアさんの譜歌は第七音素(セブンスフォニム)ですの」

 

 ……全ての物質には音素(フォニム)が含まれていて、音素は六属性に分れている。この音素を、星の地核にある記憶粒子(セルパーティクル)を上空の音譜帯に通して、世界中に燃料を供給する半永久機関がつくられた。これがプラネットストームだ。

 

 そしてプラネットストームは、六属性の音素と記憶粒子が突然変異を起こした。そうして生まれた七番目の音素が第七音素だ。これを用いて譜術を操るのが第七音譜術士(セブンスフォニマー)。ティアさんはこれにあたる。そしてティアさんと擬似超振動を発生させたルークさんにもその素養があるのだ。……僕はどうだろう。この世界の人間じゃないから音素は扱えなさそうだ。

 

 ちなみに、第七音譜術士は数が少ない。預言(スコア)を読む預言士(スコアラー)、それに治癒術師(ヒーラー)も第七音譜術士だ。ティアさんはローレライ教団の人間なので、両方当てはまる第七音譜術士だね。

 

 これらのことは常識として宿屋で教えてもらえた。ルークさんも興味深そうに聞いていた。

 

 と、急に上方から殺気が!

 

「この出来損ないが!」

 

「危ないルークさん!」

 

 僕はルークさんの体を思いっきり突き飛ばし、自分は全力で後ろに跳びはねた。

 

 鏡を爪で引っかくような甲高い音と共に、生成された氷の刃が上空から降ってくる――! 譜術か! だが僕とルークさんは上手くその範囲外に出ることができた。そしてすたっと僕達より上から一人の人が降りたった。

 

「え……?」

 

「……!?」

 

 僕とルークさんは驚く。だってその人物は……ルークさんと全く同じ顔をしていたからだ。思わずルークさんの方を見る。

 

「お、おまえ……」

 

 ルークさんの声が震える。そっくりさんにしても、髪や目の色、背丈まで同じだ。強いて言うならこの男の髪は血の色、紅色だった。それをオールバックにして流している、黒服の男。ルークさんと同じ顔……生き別れの兄弟とかだろうか? だが間違いなく神託の盾(オラクル)の兵士だ。今は、敵だ。僕はさっと構えた。

 

「……ふん。ガキに守られるとは出来損ない野郎にはお似合いだなっ」

 

 その人物は嘲るようにそう言った。その時艦橋の扉が開いてティアさん達が戻ってきた。

 

「何が起きたの!? ……えっ!?」

 

「――!!」

 

 ティアさんとジェイドさんも、ルークさんと同じ顔の人物に驚いている。

 

「気をつけて! 敵です!」

 

 警告を発する。

 

「はっ、てめーらなんて俺の敵じゃねえ!」

 

 すると、同じく上から白い鎧と兜、軍服を纏った標準的な神託の盾兵士が一人。黒い色の軍服(こちらは肩から腕まで露出している。何故この世界の軍人は肩を露出するのだろう? 狙って下さいと言っているようなものじゃないか)に身を包んだ、拳銃を持った金髪の女性が一人やってきた。察するに、黒い軍服の二人はラルゴと同じ幹部かな。

 

「アッシュ! 閣下のご命令を忘れたのか? それとも我がままを通すつもりか?」

 

「…………ちっ」

 

 閣下? それが敵の親玉か。話に聞くモースさんだろうか。

 

「リグレット教官!」

 

 ティアさんが声を上げた。

 

「ティア・グランツか――殺すなよ、アッシュ」

 

 その言葉で、戦闘が始まった。ルークさんにアッシュと呼ばれた男が迫る。アッシュは右手に剣を抜いている。ルークさんの木刀は鉄芯が入っているのでやりあうことも可能だろう。ジェイドさんとティアさんは後衛だ。僕は敵の数を減らすべく、一兵卒の兵士に突撃し拳を見舞った。

 

「おおおおっ!」

 

 僕の瞬動術を使った最速の突進に対応しきれなかった兵士は、鎧のみぞおち部分をべっこりへこませて倒れた。

 

「!?」

 

「何!?」

 

 敵二人が驚く。僕はすぐさま金髪の女性、リグレットという人に近づいた。

 

「舐めるな!」

 

 ガガン、ガンガガン!

 

 リグレットは両手に銃を持っていた(後で聞いたが、譜力を利用した譜銃らしい)。僕は四肢を丸め素早く跳びはねた。どうやら射程距離は短いらしく、3mほど離れた場所に着弾した。と、

 

「炸裂する力よ――エナジーブラスト!」

 

 真っ白な光弾がリグレットのいる場所で爆発した。リグレットは後ろに吹き飛んで艦の壁に体を打ちつけた。よし! 僕はルークさんと切り結んでいるアッシュに後ろから攻撃を放つ。

 

「ぐうっ! て、めえ……」

 

「お、おおっ!」

 

 ルークさんが木刀を跳ね上げてアッシュの剣を払った。剣は奴の手を離れて空を舞う。僕はアッシュの背中に拳を押し当てた。

 

「降参して下さい。そうすれば命まではとりません」

 

「……っ! ふざ、けるな。俺は……」

 

 身動きしようとしたので、僕は寸剄を見舞った。ワンインチパンチとも言う。全身の力を一点に集めて振りかぶらずに拳を打ち出す拳法の奥義だ。

 

「ぎっ………………」

 

 アッシュはうめき声を出してその場に倒れた。

 

 戦闘は、終わった。

 

 

     §

 

 

 あの後、戦闘の音でナイトメアから目覚めた見張りを再度昏倒させるなどがあったりした。今はタルタロスの艦橋にいる。この艦を動かすには、数人でもOKらしい。僕とルークさんもジェイドさんに操作説明を受けて手伝った。もちろん最低限度の航行しかできないらしいが。あの後、三人の敵は武器を奪ってタルタロスの牢屋に入れた。僕達は何とか機能を取り返した艦橋で一息ついていた。しかし、まだ艦内には敵兵士や魔物がいるだろう。艦橋に入り込んでこないか警戒していなくては。

 

 ルークさんは何やら頭痛がするそうだ。宿で聞いたけど、誘拐されてから頭痛持ちになったとのこと。そのいつもの頭痛だろう。心配だが魔法を使えない僕にはどうしようもない。

 

「ここから一番近いのはセントビナーという町です。とりあえずそこに行きます」

 

「セントビナー……」

 

 僕は突然の襲撃に恐れおののきながら、暗澹とした気持ちでいた。

 






後書き
 ね? 鼻くそみたいな戦闘描写だったでしょう? いや、これを戦闘描写と呼ぶのは戦闘描写に失礼ですね。

 独自設定:ルークの木刀には鉄芯が入っている。原作にそんな設定はない。ただイベントシーンで木刀にしていると、木刀で人を刺したり、刃つきの普通の剣と打ち合ったりしているので、そこまで逸脱した設定とは思わない。
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