聖なる焔と赤毛の子供(TOA+ネギま!)   作:月影57令

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06 セントビナー ~ フーブラス川

 タルタロスはかなりのスピードを持ってセントビナーの前に止まった。そのまま停泊する。

 

「導師様は大丈夫でしょうか?」

 

「艦内を捜索してみないことにはわかりませんね。ですがまだ敵が残っているでしょうから、セントビナーの兵士をお借りして、内部を捜索することにしましょう」

 

「できればアニスがイオン様を守ってくれているといいのですが……」

 

 僕とジェイドさん、ティアさんは導師様を心配する。と、ルークさんは……。

 

「……………………」

 

「ルークさん? 大丈夫ですか?」

 

「へ? あ、ああ……」

 

 どうやら自分と同じ顔の、六神将鮮血のアッシュ、奴のことが気になっているみたいだ。……心配だが、なんと言葉をかければいいかわからない。

 

「さて、では――」

 

 と、ジェイドさんは大きく息を吸うと、

 

死霊使い(ネクロマンサー)の名によって命じる、作戦名『骸狩り』始動せよ」

 

 ガコン!! という大きな音を立てて艦が停止した。動力機関と管制装置が停止した。制御不能、という文字がモニターに映し出される。

 

「何をしたんですか?」

 

「あらかじめ登録しておいたタルタロスの非常停止機構ですよ。復旧にはしばらく時間がかかります」

 

 なるほど、これで自分達が艦を降りても、敵に利用されないようにしたということか。僕達はその後、唯一解放されている左舷昇降口(ハッチ)へ向かった。

 

 

     §

 

 

「はーっ」

 

 僕はセントビナーの宿屋で息を吐いた。あの後セントビナーに降りると、城砦都市であるそこから、多数の兵士が詰め寄った。彼らにジェイドさんが事情を説明し、艦内の臨検を行ってもらった。すると、神託の盾(オラクル)騎士団の兵士が導師様を捕まえていたので戦闘になり、何とか奪還することに成功した。残念ながらアニスさんは魔物に突き落とされて走行中のタルタロスから落っこちてしまったらしい。彼女の生死を心配する僕とルークさんに、

 

「大丈夫ですよ。アニスですから」

 

「アニスですからね」

 

 とジェイドさんと導師様が言った。アニスさんって一体……。ま、まあ大丈夫だと言うなら心配いらないだろう。

 

 それから悪い知らせだが、捕まえていたはずのリグレットとアッシュ達は、鉄格子が獣の爪のようなもので引き裂かれており、牢屋から消えていた。逃げられてしまいましたか、とはジェイドさんの弁だ。ティアさんはどこかほっとしたような態度だった。リグレットは彼女の教官らしいから、身内のようなものなのだろう。

 

 だけど……タルタロスに乗っていたマルクト軍の兵士さん達は皆殺しにされた。ジェイドさんに聞いたところ、百四十名ほどいたらしい。その数を、助けられなかった。もし僕が魔法を使えていたら、皆助けることができたのだろうか? 失われた命を悔やむ。もしもの話をしても仕方ないけれど……。

 

 今ジェイドさんは、セントビナーの軍本部で将軍と町の代表者に事情説明を行っている。僕達は宿屋で休憩だ。

 

 すると、部屋のドアがノックして開かれた。

 

「ルーク!」

 

「ガ、ガイ!」

 

 短い金髪に全体的に黄色と茶色い服を着た、腰に剣を差した男の人が入ってきた。ルークさんの知り合いかな? その男性はしばらくルークさんと言葉を交わすと、僕達に向けて自己紹介してきた。

 

「俺はガイ・セシル。ファブレ公爵のところで世話になっている使用人さ」

 

 使用人か。それにしてはルークさんを呼び捨てだし、仕える者というより親友のような間柄らしい。ルークさんを探してマルクトに入国して、情報を集めようと宿屋の主人に聞き込みをしたら、ルークさんの名前が宿帳にあったので部屋を訪れたらしい。僕達と順番に握手するガイさんは、ティアさんの前にくると「ひっ」と言って跳びはねた。

 

「……何か?」

 

「ガイは女嫌いなんだ。触るのも駄目らしいぜ」

 

 嫌いっていうより恐怖症みたいだけど……。ティアさんは、

 

「私のことは女だと思わなくていいわ」

 

 という無茶なことを言いながらガイさんに近づいた。

 

「テ、ティアさん、無理強いするのは……」

 

「……ん、そうね。できるだけ貴方には近づかないようにするわ。これでいいかしら」

 

「あ、ああ」

 

 ……今気づいたけど、ガイさんはルークさんの屋敷の人だよね? ティアさんに敵意を向けたりしないのかな? 襲われたんでしょ?

 

「へえ、ルークも相当ややこしいことに巻き込まれたんだなあ」

 

 僕達の事情を説明したルークさんにそう言うガイさん。

 

「そういやルーク、俺だけじゃなくグランツ閣下も捜索してくれているんだぜ。カイツールの南から移動してくるだろうから、南下するならどこかで出会えるかもな」

 

「ヴァン師匠(せんせい)も来てるのか! やったぜ!」

 

 随分嬉しそうだなぁ。そんなに慕っているんだ。しかし「閣下」か。タルタロスでリグレットもそう言っていたような? もしかしてその人も大詠師派? ……それはそうとして、王族、王様の甥がいなくなったのに捜索に来ているのは二人だけなんだ……ルークさんて大切にされているのかいないのかよくわからないな。

 

「兄さん……」

 

「ん? 兄さん?」

 

 疑問に思ったガイさんに妹だと説明するルークさん。

 

「……ふぅん。グランツ閣下の妹ねえ。だけど、あの時みたいに物騒な騒ぎはやめてくれよ」

 

「…………わかったわ」

 

 いい加減その殺そうとする理由を明かして欲しいところだけど。言っても無駄なんだろうなぁ。

 

「ただいま戻りました……おや? 客人ですか?」

 

 ジェイドさんが戻った。やれやれ、また挨拶と事情説明だ。

 

 

     §

 

 

 セントビナーで一泊した後、僕達は町を出立することにした。どうもタルタロスはしばらく使えないようで、移動した方が早いとのこと。更に悪いことに、南にある橋が洪水で流されて使えなくなっているとか。そのせいでアクゼリュスという鉱山都市がある方、南東方向にはいけないらしい。

 

 出立に当たってはジェイドさんとセントビナーの代表者の方により、旅装を都合してもらえた。水に食料、カイツールに到着するまでの分なので大量になったそれを皆で担ぐ。その際武器や防具の提供もあったので、僕は剣などの刃つきの武器に対する備えとして、手甲と足甲を貰った。これを更に気で強化すれば、剣なども受け止められるだろう。そしてルークさんは……。

 

「ルーク、剣を貰わなくていいのか?」

 

「…………木刀でいーよ」

 

 剣を持つのを断っていた。ガイさんは真剣を持っているのに、である。多分ラルゴを目の前で刺したジェイドさんのことが引っかかっているのだろう。剣を持ったら、人と戦う時に殺すことになるかもしれない。それが嫌なんだろうな。

 

 さて、それじゃ出立……する直前でアニスさんがセントビナーに到着した。

 

「アニス!」

 

 導師様が喜色満面で迎える。

 

「イオン様ぁ!」

 

 感動の再会を果たした主従。

 

「もう出立するところだったから、ここで出会えて良かったですね」

 

「落っこちたって聞いたけど、ホントに大丈夫だったんだな……」

 

 どこか呆れたようにアニスさんをみるルークさん。するとパンパンと手を叩いてジェイドさんが、

 

「さあさあ、再会を祝すのはそれぐらいにして、いい加減出発しましょう」

 

「あ、大佐~。心配してくれました?」

 

「ええ、もう少しで心配するところでしたよ」

 

「ぶう~。ちゃんと心配してくださーい」

 

 話しながら歩き出す。今回は徒歩移動だ。

 

「歩いて移動かよ……かったりぃなあ。早く帰りてぇぜ」

 

「まあまあ、ルークよ。せっかくの外なんだし、楽しもうぜ」

 

「何を楽しめってんだよ。ああ、もう色んなことがめんどくせー」

 

 僕も馬車でなく徒歩移動なのが気になったが、途中川を越えることを考えると馬車が通れないから仕方ないらしい。けれど……。

 

「ジェイドさん。本来はタルタロスで陸と水上を移動するつもりだったんですよね? でしたら予定が変わって徒歩移動になったんです。キムラスカに知らせている予定の到着日がずれてしまうんじゃないですか?」

 

 キムラスカでは使者の受け入れ準備をしていることだろう。それが到達する日が変わるのだ。混乱が起きて迷惑をかけないだろうか。

 

「大丈夫ですよ。キムラスカに先触れは出していませんから」

 

 はぁあ!? 知らせていない? 両国の和平という大問題なのに? それって、いきなり行って(相手からは来られて)「和平して下さい」と言うってこと? そ、そんなんで上手くいくの? いくら中世のような世界観だからってさぁ。しかも通信手段がないなら仕方ないかも知れないけど、伝書鳩っていう普通に使われている連絡方法があるんでしょう!? なんで伝えてないの?

 

 

     §

 

 

 一週間が経過して、僕達はフーブラス川というところに差し掛かっていた。ルークさんは慣れない旅にくたびれている。

 

「ご主人様! 元気だすですの」

 

「おめーはうぜぇから喋んなっつーの!」

 

 ルークさんがミュウを踏みつけている。

 

「ル、ルークさん。それは酷いですよ。やめて下さい」

 

 僕はミュウをかばう。

 

「さて、恒例となったルークのわがままも終わりましたし、先に進みましょうか」

 

「わがままってなんだよ! …………無視すんなー!」

 

 わめくルークさんを置いて歩き出す僕達。そして川を渡ることになったのだが……ここにいる魔物は平原にいたものより強かったり数が多かったりした。まあルークさんとティアさんの三人だった時に比べたら、前衛にガイさん、後衛にジェイドさんとアニスさん(第六音素(シックスフォニム)、光の譜術が使える)を加わったので、それほど苦労することはなかった。それと、ここでジェイドさんが音素(フォニム)の実践的な使い方を教えたくれた。知らなかった僕とルークさんはそれを教えてもらって戦闘に幅ができた。やっぱり世界が違うと色々あるんだな。

 

「ああもうびしょびしょだぜ……川だけでもうぜえのに、そこで戦闘とかなんつう苦行だよ。……それにしても、橋が流されたって割りには、大した川じゃねーな」

 

「もうだいぶ水が引いたみたいですね」

 

「だけど川や海、とにかく水だな、それを舐めるなよ」

 

 ガイさんが注意する。

 

「お前それをよく言うよな。海は怖いとかさ」

 

 そんな会話を交わしながら歩いていた時だ。前方に獣型の魔物……って、

 

「ライガ!」

 

 え、なんで森の魔物がここに……と思ったら、後ろからも誰か来た。振り向いた先にいたのは、小さな女の子だった。見た目アニスさんと同じくらいに見える。ピンクの長い髪に人形のようなものを両手で抱えている。肩が露出した神託の盾騎士団っぽい黒い軍服を着ている。黒い軍服はラルゴ、アッシュ、リグレットと同じなので、この子も幹部なのかな? しかし神託の盾騎士団では肩を出すのがスタンダードなのかな。不思議だ。髪も長い人ばっかりだし。彼女の傍にはライガと空飛ぶ魔物がいる。

 

「アリエッタ!」

 

 アニスさんが叫ぶ。

 

「神託の盾六神将『妖獣のアリエッタ』か」

 

 どうやら六神将というのはかなり有名らしい。魔弾のリグレット、黒獅子ラルゴ、死神ディスト、烈風のシンク、妖獣のアリエッタ、鮮血のアッシュ、という連中だ。

 

「逃がしません……!」

 

「アリエッタ、見逃して下さい」

 

 導師様が歩み出てアリエッタに声をかける。

 

「そこにいるチーグル! アリエッタの敵!」

 

 え? ミュウ?

 

「アリエッタのママはお家を燃やされて、住んでいたところを追われて……それも全部そいつのせい! チーグルの主人も許さない!」

 

「みゅみゅぅぅ」

 

「まさか、ライガ・クイーンのことですか?」

 

 もしかしてこの子……。

 

「彼女はホド戦争で家族を失い、魔物に育てられました。それゆえ魔物と会話できるのです」

 

 狼少女の魔物版って訳だ。驚きだぁ。まあそれじゃミュウを恨むのは仕方ないかな。でも今の主人であるルークさんは関係ないよ。

 

 彼女の敵意が膨らみ、いよいよ交戦するとなった時だった。

 

 グラグラと突然大きな揺れが!!!!!

 

「地震!」

 

「おい、地割れが!!」

 

 地震で地面が引き裂かれていく……!! すると、割れた地面から紫色の蒸気のようなものが噴き出した。

 

「いけません! 障気です!!」

 

 ジェイドさんが叫ぶが、障気って何!? あ、アリエッタが蒸気に当てられて倒れた!

 

「す、吸い込んだら死んじまうのか!?」

 

 ルークさんが地震から導師様を守るように掴んでいる。

 

「長時間大量に吸わなければ大丈夫よ。とにかく逃げましょう……!」

 

 だけど地割れは周辺を取り囲むように起こり、逃げ場がない。

 

「畜生、やばいぞこりゃあ」

 

「ちょっと動くのは無理~」

 

 僕が虚空瞬動で全員を抱えて移動させるか!?

 

 その時、ティアさんが譜歌を詠った。

 

「これは……ユリアの譜歌!」

 

 導師様が驚く、いっぺんに色んなことが起きて頭の処理が追いつかないよ。とにかく、ティアさんの譜歌だろう効果で、白く透明な壁がドームのように僕達を覆った。

 

「障気っていうのが消えましたよ!?」

 

「一時的な防護壁です。長くは持ちません」

 

「なら、さっさと逃げようよ~」

 

「ええ……そうですね」

 

 アニスさんの言葉に頷き、しゃき、と槍を虚空から取り出すジェイドさん!? ま、まさか!

 

「や、やめろよ! なんでそいつを殺そうとするんだ!」

 

「生かしておけば、また命を狙われますよ。禍根は断った方がいい」

 

「だけど! 気絶してるじゃねえか!」

 

「そ、そうです。無抵抗な相手を殺すなんて駄目ですよ!」

 

 止めるように呼びかける。

 

「……本当に、甘いのね」

 

 ティアさんがそう言うが、軍人でない僕達にはそんな覚悟なんてない。

 

「るせぇ! 冷血女!」

 

「見逃して、下さい。アリエッタは元々導師守護役(フォンマスターガーディアン)だったんです。僕にとっては……」

 

 導師様の知り合いなのか。導師様のその言葉で、ジェイドさんは肩をすくめ槍をしまった。

 

「障気に当たらないとこに移動させよう。いいだろう、旦那?」

 

「見逃す以上、とやかくは言えませんね。しかしガイ、貴方が運ぶのですか?」

 

「い、いや、俺は……」

 

「僕が運びます」

 

 気で体を強化し、アリエッタと魔物を分けて運ぶ。障気から離れて、かつ魔物にも教われないよう高台に……と。

 

「……行きましょう」

 

 導師様がまとめるようにそう言って、僕らはフーブラス川を後にしたのだった。







後書き
 武器が木刀で固定されたルークです。では何故トリップする人物をネギにしたかネタばらしといきましょう。
 
 まず、原作においては主人公であるルークが一番のもの知らずとして扱われていました。なので、異世界人をトリップさせればある意味ルークよりものを知らないので、複雑な造語が蔓延する特殊な設定を、読者の皆様に自然と説明できると思ったのです。

 次に、ルークの殺人に対する覚悟について。できるならばルークに人殺しはさせたくありませんでした。そこで複数の案が生まれます。

① 全く戦闘できない一般人をトリップさせる。
 → 原作イオンのように戦闘になったら下がっているしかない。主人公にならないし、ルークが原作と同じく人を殺す決意を固めてしまう。却下だ却下。
② 完全に戦闘慣れして殺人も平気な人物をトリップさせる。
 → ジェイドやティアのように殺人が平気な人物が一人増えるだけだ。ルークが(ry 却下。
③ 戦闘には慣れているが人を殺したことがない人物をトリップさせる。
 → ルークと同じく人を殺すことを忌避し、ルークに殺人を強要するジェイドとティアを牽制できる。採用。

 という訳で作者の知っている中で条件を満たしたネギが採用されたのでした。しかもルークより年下の子供ですからね。ある程度責任感も芽生えます。ガキを戦わせて自分だけ安穏としてる訳にはいかねぇ、と。
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