オリジナルの登場人物が出ますよ。また独自設定があります。苦手な方は注意して下さい。
それは、フーブラス川を抜けてカイツールまでの平原を歩いている時だった。
「よう、お坊ちゃん達、金目のもん置いてけや」
盗賊に、襲われた。この世界に来て初めてのことだった。
………………………………………………。
「ふむ、弱いですね」
戦闘自体は簡単に終わった。ジェイドさんの譜術は強すぎる。上級譜術も使えるらしいが、今のところ中級譜術で余裕のオーバーキルだ。
「………………」
でも。
「………………ガイ、お前……」
剣を持つガイさんの攻撃とジェイドさんの譜術で、襲いかかってきた盗賊のうち二人が命を落としていた。
「ルーク、お前にとっちゃ初めての外で辛いだろうが、これがこの世界のやり方だ」
僕には後悔が残る。僕とルークさんが制圧した敵は、生きている。拳と木刀なので当然だ。ティアさんのナイトメアは鈍痛を生じさせるが、殺すほどの威力はない。
「僕がもっと強くて、敵をいっぺんに倒すことができていれば……」
呟く。それを聞きとがめたのだろう。ジェイドさんが言ってくる。
「君は今のままでも充分強いですよ。人を殺したくないという理想はわからないでもありませんが、今回は彼らが殺すつもりで襲ってきたのです。自業自得というものですよ」
僕にだってわかっている。この盗賊達が僕らを殺すつもりだったということは。それでも嫌だった。人を殺して平然としているなんて。
「俺、知らなかった。外がこんなやばいとこだなんて」
「魔物と盗賊は、倒せば報奨金が出る、こともある。街の外での人斬りは、私怨と立証されない限り罪にはならないんだ」
ガイさんの言葉に驚く。…………なんて、世界だ。
「お前…………」
「ルークさん、辛いようなら戦わない、というのも選択肢の一つですよ」
元々前線で戦うような身分の人じゃないんだ。戦闘が辛いというなら僕が肩代わりする。
「……馬鹿言うなよ。おめーみてーなガキも戦ってるのに、俺だけ戦わないなんてできるか!」
ルークさんはそう言う。だけど強がりであるのは誰の目にも明らかだった。
その日の夜、ルークさんは必死に稽古していた。僕と同じようなことを思ったのかも知れない。強くなれば、死ぬ人を減らせる、と。
§
セントビナーを出発して数週間、やっと国境の町であるカイツールに到着した。だが……。
「どうやって国境を越えますか? わたしも、ルークとネギにも旅券がありません」
ティアさんの言葉。だがそれだけじゃなかった。
「え!? 導師様達も旅券を持っていないんですか!?」
なんと、導師様、アニスさん、ジェイドさんも旅券を持っていなかったのだ。持っているのはガイさん一人だけだ。
「………………導師様、アニスさん、お二人はどうやってマルクトに入国したんですか」
「…………すみません」
「あ、あはは~」
それって……不正入国って奴じゃないか。タルタロスで僕達を取り調べておいて、自分達も不正に入国していたなんて! なんだろう……この世界の人はみんなこうなのかなぁ。いい加減というか何と言うか。ジェイドさんも和平の使者として首都を出立したなら、その時に旅券を発行してもらっておくべきじゃないか。
「ルーク!」
と、国境のところから声が。見ると、白を基調とした軍服を身に纏った壮年の男性。ティアさんと同じような色の髪を後ろでまとめている。……ってことは。
「ヴァン
ルークさんが駆け寄る。やっぱり、ヴァン・グランツさんか。と、
「…………ヴァン!」
ティアさんが脚につけているナイフを抜いたー!
「ちょ、ちょっとティアさん! 駄目ですよ!」
「騒動はごめんだって言っただろう!」
僕とガイさんが止める。ガイさんは触れられないけど。
「ティア……刃を収めろ。お前は誤解しているのだ。頭を冷やしなさい」
ホントだよもう! というか国境の兵士さんが色めきたっているよ。武器を抜けば当然だけど。
「ティア、ここはヴァンの話を聞いてみましょう。兄妹で戦うなんて愚かなことだと思いますよ」
その導師様の言葉に、ようやくナイフをしまうティアさん。よ、よかったー。惨劇が起こるところだったよ。その後、僕らはカイツールのマルクト側にある宿泊施設に移動した。
「冷静になったか?」
「……何故兄さんは、イオン様の邪魔をするの。イオン様は戦争を回避しようとなさっているのに」
? それはつまり、ダアトで導師様の邪魔、具体的に言うなら軟禁とかに協力していたから、バチカルに行ってルークさんの屋敷で襲ったってこと? 何か筋が通らないような……わけがわからないよ。
「違うよな? 師匠。師匠はそんなことしないよな?」
「だけど六神将がイオン様を利用しようと襲撃してきたのは……」
「落ち着きなさいティア。そも、私は何故イオン様がここにいるのかすら知らんのだ。ダアトからは姿を消した、とだけしか知らされていないのだ」
……その言葉を信じるなら、ヴァンさんは大詠師派ではない?
「イオン様を連れ出したのは私です。ご説明しましょう」
そしてジェイドさんの説明が始まった。
………………………………まさか、導師様を連れ出す為に、ダアトの教会で暴動を起こしていたとは。それってまずいんじゃないの? マルクトの仕業だとわかったなら、マルクトとダアトに軋轢が……。誘拐されたと思ったから襲撃したって言われれば、タルタロスを襲撃した件もダアトに追及できないんじゃ。
「事情は把握した。六神将は私の部下であるが……彼らは大詠師派に位置する。恐らくモース殿の命令があったのだろう」
「なら総長は無関係だって言うんですか?」
アニスさんの質問。
「いや、部下の所業を止められなかったのだ、無関係ではないな。だが、私は大詠師派ではないのだ。六神将の長である為にそう思われてしまうがな」
本当ならこの人は白だ。嘘をついている可能性はあるけど。
「それよりティア、お前こそ大詠師旗下の情報部所属のはず、何故ここにいる?」
「モース様の命令であるものを捜索しているのよ」
は?
「はぁ? えっと、ヴァンさんにティアさん、何を言っているんですか?」
不思議だ。その疑問に全員が僕を見る。
「何故ここにいる、も何も、バチカルのファブレ公爵邸で擬似超振動を起こしたからマルクトに飛ばされて、戻る為にキムラスカへ向かっているからここにいるんでしょう」
だから国境を越えようと、国境の街であるカイツールにいるんじゃないか。
「それに、ティアさん、モースさんの命令であるものを捜索しているからここにいる、と答えましたよね。ルークさんと超振動を起こしてバチカルに送るからここにいるんじゃないんですか? ルークさんを送るのは建前で、マルクトの街で何かを捜索していたんですか?」
「……そうだよな。ティア、俺のことはついでだったのかよ!?」
「ち、違うわ。ただ私はその任務の途中でバチカルに寄ったから……」
「それって~任務を放り出して主席総長を襲ったって訳? 任務放棄じゃん」
アニスさんの無邪気な疑問が突き刺さる。場には静かな混乱が満ちた。ホントに訳がわからない。
「……………………ま、まあいいだろう。とにかく、私はモース殿とは関係ない。六神将にも余計な作戦行動をしないように言い聞かせよう」
言い聞かせるって。今まで勝手に動いて、マルクト国内に入り込んでマルクト船籍の艦を襲撃。乗員百名以上を殺傷しているのに? どれだけ効果があるのやら。
「ヴァン
「ファブレ公爵より預かっている。念の為持ってきた予備をあわせれば人数分になろう」
はいィ!? 何でルークさんをバチカルに戻す為の旅券をヴァンさんが預かっているの? 普通家の使用人であるガイさんが持つものじゃないの。ヴァンさんって客人でしょ? もうわけのわからない出来事のオンパレードだよ! 真面目に考えるのも疲れてきた……。
「しばらくここで休んで、後から南のカイツール軍港へ来なさい。私は先に行って船の手続きをしておこう」
そうして、話は終わった。結局ティアさんはヴァンさんが導師様の邪魔をしている“かもしれない”から殺そうとしていたって訳? 嘘でしょ。そんな疑い(確固たる証拠がない)で実の兄を殺そうとしていたなんて……。こ、こわい。怖いよティアさん。
「へへへ、やーっぱ師匠は悪くねえじゃん」
「信用できないわ」
「俺は、お前の方が信用できねえけどな。なんで仲良くできねえんだよ。実の兄妹なんだろ」
「兄はまだ何かを隠している気がするもの」
「……でも、ティアさんだって皆に隠し事がありますよね」
どっちもどっちじゃないかなぁ。盲信に近いような信頼をするルークさんも、何の証拠もなしにヴァンさんを信じている。逆に疑っているティアさんだけど、こちらも必死に隠し事をして証拠を提示しない。それで「ヴァンは殺されるに値する人間よ」と言っても誰も信じてくれないよ。きっと、ティアさんは誰も信用していないのだろう。信用しているのなら話せるはずだ。
「……………………」
それでもやはり、彼女は沈黙を貫き続けた――。
§
「こ、この旅券は! 国王陛下からすぐお通しする旨、勅命を受けております!」
「……はぁーっ。ようやくキムラスカに戻ってこれたぜ」
僕達は、旅券によって国境の門を越え、キムラスカ側に移動した。キムラスカ側にも宿泊施設がある。今日の夜はこちらで休もう。
カイツールで少し休み、水と食料を補充して、南の軍港へ向かう。今度は徒歩移動ではない。馬車移動だ。楽に移動できるし日数もかからない。たまに魔物がでるけれど、それだって大したことのない相手だ。ちなみにお金はセントビナーで都合してもらえたジェイドさんが払った。
「ティア、少しよろしいですか?」
馬車の中、ジェイドさんがティアさんを呼ぶ。なんだろう。
「フーブラス川と、貴方が普段使っている譜歌。以前からおかしいと思ってはいたのです。ユリアの譜歌というではありませんか」
「それがどーしたってんだよ」
「ユリアの譜歌ってのは特別なのさ。譜歌は旋律と譜術の詠唱部分を組み合わせた術だ。つまり、譜術ほどの力なんてないのさ」
「しかしユリアの譜歌は違います。彼女が遺した譜歌は、譜術と同等の力を持ちます」
ガイさんの説明を導師様が引き継ぐ。それにしてもそうか、つまり普通の譜歌<譜術、ユリアの譜歌=譜術って訳だね。
「ユリアの譜歌は譜と旋律だけでは意味をなさないと聞きました」
「そうなんですか? 詠う以外に何か必要な手順でも?」
ジェイドさんの言葉に反応する。
「譜にこめられた意味と象徴を正しく理解して、旋律に乗せるときに隠された英知の地図を作る」
「はぁ? 意味わかんね」
??? 英知の地図を作る? 一体どういうことだろう?
「……っていう話さ。一子相伝の技術らしい」
随分詳しいんだな、ガイさん。熱心なローレライ教徒なんだろうか?
「え、ええ……その通りよ。よく知ってるのね」
「貴方は何故ユリアの譜歌を?」
ジェイドさんが改めてティアさんに聞く。
「それは……私の一族が、ユリアの血を引いているから……だという話です。本当かどうかはわかりませんが」
「え~? それって凄いことじゃないですかー!?」
アニスさんが声を上げる。ローレライ教団の始祖がユリアなのだとしたら、ティアさんって言ってみればキ○ストの子孫みたいなものってことに……す、凄いな。二千年も血族が続いているのか。
「じゃあ、師匠もユリアの子孫かっ! すげえ、さすが俺の師匠! カッコイイぜぇ!」
ルークさんは単純だなぁ。いや、僕が父さんに憧れるようなものか。なら納得。
「お話、ありがとうございました。いずれ機会があれば『大譜歌』についてもお聞きしたいですね」
「大譜歌? なんですかそれは?」
「ユリアがローレライと契約した証ですよ。その契約した力を振るう時に使ったという譜歌のことです」
僕の疑問に導師様が答える。へぇ、それは凄い。ユリアって人は神様と契約したような人なんだな。
§
そうして、カイツール軍港に到着した。けれど……。
パチパチパチ……。炎の燃える音がする。それに人や魔物の声も……。僕達は騒ぎになっている港の方に急いだ。
「アリエッタ、一体誰の許可を得てこんなことを!」
そこにいたのはヴァンさんだ。彼は剣を抜いて少女に突きつけている。その先にいるのは、フーブラス川に置いてきたアリエッタだった。空飛ぶ魔物で先回りしたらしい。辺りには赤い軍服のキムラスカ兵士が、魔物、主にライガと一緒に倒れている。ざっと見ただけでも十数名はいるだろう。まだやられていなくて、魔物と戦闘している兵士さん達もいるけど。そして係留してある船からも黒い煙が立ち上っている。
「総長……アッシュに頼まれたの…………ごめんなさぃ……」
アッシュが? 彼が何故……ああ、導師様がバチカルに着くのを阻止する為か。アリエッタは空飛ぶ魔物に捕まって空中に浮いている。その魔物の背中には一人の人がくくりつけられていた。
「船を修理できる整備士さんは、アリエッタが連れて行きます。返して欲しければ、イオン様とルークがコーラル城へ来い……です。二人が来ないなら……この人……殺す……です」
人質をとるなんて! その言葉を残して空の向こうへ消えていくアリエッタ。
しかしルークさんも来いってどういうことだろう。ルークさんは和平については、たまたま擬似超振動で居合わせただけの、イレギュラーな要素だと思うけれど……同じ顔であることが関係しているのだろうか。ルークさんとアッシュには何らかの繋がりがある……?
ヴァンさんに聞いたところ、船は全滅らしい。機関部の修理は専門家でないと無理で、連れ去られた整備士さんじゃなきゃ駄目だとか。訓練船が帰ってくれば整備できるとのこと。それとコーラル城というのはファブレ公爵の別荘だ。今は放棄されているらしいが。そしてコーラル城は、七年前に誘拐されたルークさんが発見されたところらしい。
「そーだったのか、俺、行けばなんか思い出すかな」
「行く必要はありませんよ」
涼やかな声がかかった。振り向くと、そこにいたのは一人の女性。髪は銀のような白髪で短い。肌も軒並み白く、キムラスカの赤い軍服に良く映えている。腰には剣を差していた。年代は四十台くらいだろうか? だけどそれほど老いを感じないすっきりとした印象を受けた。
「セリス!」
ルークさんが呼ぶ。
「皆様、初めまして、セリス・アーウェルンクスと申します」
その女性、セリスさんはそう言って一礼した。
「しかし……アリエッタは私に来るよう言っていたのです。僕が行かないと整備士の方が……」
「導師イオン、ですね。いけませんよ。コーラル城に来いと言ったのは彼女達なのです。どのような罠が仕掛けられているかわかりません。もし御身に傷の一つもつくようなことがあれば、たとえその身を奪還しても、整備士やこの軍港の責任者に罰が下るでしょう。貴方はそういう身分の方なのです」
そう言って言葉を切ると、次は僕達全員を見回した。
「この場にいるのは……導師イオンとキムラスカ王族のルーク様、ルーク様の捜索を任された護衛剣士のガイ、ローレライ教団の軍人である女性が二人、男性が一人、マルクト帝国の軍人であろう人が一人、そして……可愛らしいこちらの坊やが一人ですね」
「ミュウもいますですの!」
「あら、失礼。ローレライ教団の聖獣であるチーグルね。誰一人としてこの事件に関わる必要はありません。まず、尊き方である導師イオンとルーク様は論外、戦闘になって傷ついたらいけませんからね――。次に護衛剣士であるガイはキムラスカ人ですが軍属ではありませんし、彼の職責はルーク様の護衛です。ルーク様が行かないのであれば、残ったルーク様のお傍にいてもらいます。ローレライ教団の軍人は同じ仲間である犯人達(アリエッタ・アッシュ)に温情をかける恐れがあるので除外、マルクト軍人は無関係。坊やも民間人でしょう? コーラル上へ赴くのは軍港に配置されているキムラスカ軍人と私が連れてきた手勢で行います。以上、何かご質問は?」
セリスさんはきっぱりと言い切った。僕達は何も言葉を挟めず、言うとおりにすることとなった。
§
アリエッタの襲撃で破壊された施設の修繕や、死傷者の弔い・手当てが終わった。次に行われるのは、立て直したカイツール軍港の軍人によるアリエッタらの制圧隊を組織すること。その作業を自分の副官と、カイツール軍港の総責任者であるアルマンダイン伯爵に任せたセリスさんは、軍基地で待機させられた僕達のところへやってきた。
「お待たせしてしまって大変申し訳ありません。ルーク様、まずはご無事であらせられて安心しました。マルクトではご苦労もなさったでしょうが……」
「あーっもう! セリス、そういうめんどくせーのはいいっていつも言ってんだろ!」
名前を呼んでいたことから、ルークさんの知り合いであることはわかっていたけど、それなりに会う機会が多い人なのかな。これは後で聞いたことだけど、セリスさんはキムラスカ軍で高い地位についているとのこと。軍の元帥であるファブレ公爵(ルークさんの父親)の家を何度も訪れたことがあったので、ルークさんとは知己らしい。
「そうですね。わかりました。それでは手早く私の事情を話し、皆様方の事情をお聞きしましょうか」
そうして対話が始まった。
まず、擬似超振動をおこしてルークさんが行方不明になったことから全ては始まった。計測機器などによって、タタル渓谷付近に
そして事件の当事者であり、加害者の実の兄であるヴァンさんにも、ローレライ教団の詠師(幹部)という地位を持っている為、国境を越える許可が下りた。そこでガイさんと同じく即日カイツール軍港の方面から捜索を命じられた。そこにガイさんからの手紙を受け取ったファブレ家が、ヴァンさんに連絡を入れると同時に発行できた旅券を送り(だから何で?)、カイツールで合流しようと移動した。そして旅券を受け取ったルークさんが国境を越えてキムラスカに入国。その知らせが再びガイさんからファブレ家にもたらされた。キムラスカ国内なら、国境を越えてマルクト側へ行かないなら軍人でも派遣できる。そこで派遣されたのがこのセリスさんと手勢の軍人十名という訳だ。
? どうして派遣されたのがファブレ家の人じゃないんだろう?
「それはね、坊や」
あぅ、表情から内心を読まれた。
「ファブレ公爵家は今大変なのよ。何せたった一人の襲撃者に、屋敷に易々と侵入された件でファブレ公爵家お抱えの白光騎士団、その団員達は大半が責任をとって解雇されたの。よって今ファブレ家にいる騎士は、その事件の後に新規採用された者が多いのよ。仕事の引き継ぎは受けたけれど、まだ任務に慣れていないどころか、お屋敷に軟禁されていたルーク様の顔を知る者が一人もいないの。それに彼らには屋敷を守る任務もありますしね。そこで苦渋の決断だけれど、ファブレ家を訪問したことがあり、ルーク様と知己である者の中で、最も階級が高い軍人で自由に動ける人間が選ばれたの。それが私」
なるほど。
「えっ! 騎士団の奴ら、辞めちまったのか!?」
「ええ、多くが解雇されましたよ。さらには総責任者であった者などは、責任をとらされ厳罰に処されました」
「えっ!?」
ティアさんが驚く。……もしかして、こうなることを予想すらしていなかったのだろうか、この人。
「わ、わたしのせいで……」
「そうですよ、ティア・グランツ。ということで、貴方を捕縛させて頂きます」
その言葉と共にセリスさんの後ろについていた兵士さん達がティアさんの武器を没収し、両手を後ろに回して拘束する。
「ちょ、ちょっと待てよセリス!」
「はい? 何でしょうかルーク様」
「そ、そいつ……確かに嫌な奴だけど、マルクトに来てから俺を助けてくれたんだ。その、何とかならねえか?」
ルークさん。優しいな。普段乱暴だから気づきにくいけど。
「ルーク様のご慈悲はわかります。ですがこれは軍元帥クリムゾン・ヘアツォーク・フォン・ファブレの決定です。覆すことはできません。それに、マルクトで助けた……ですか。当然ですよ。事件を起こしてルーク様がマルクトに放り出される原因となったのは彼女なのですから」
「父上の。そんな……」
ルークさんは痛ましそうな顔をしている。ヴァンさんも顔をうつむかせて耐えるような表情だ。
「……更にまずいことがあります。それはルーク様が王命によって二十歳までお屋敷に軟禁を命じられていたことです。今回の事件で仕方のないこととはいえ、被害者とはいえルーク様はお屋敷の外に出てしまいました。王命を破ったことになったのです。もちろんルーク様に非はありません。このことでルーク様が罰せられるとか、軟禁の期間が延長されるなどということもありません。ですが、破ったことにさせた者には罰が下ります。陛下は此度の事件に大変憤慨しておられます。彼女が許されることは、考えにくいですね」
「……………………」
「……ティア……」
導師様がティアさんの名を呼ぶ。導師様ならティアさんを救いたいと思うだろうな。だけどこれだけのことをしでかしてしまったのだ。もうどうにもできはしない。僕も何かしたいけど、この世界の人間ではなく、身分も権力もないから強く言えない。
「ルーク様、できることなら一刻も早くバチカルまでご帰還して頂きたいところですが、申し訳ありません。整備士を取り戻すか、訓練船が帰還するまでもう少々お待ち下さい。この度は、キムラスカの軍人がふがいない為にご迷惑をおかけします」
「い、いーよ。そんなの。悪いっつうなら俺もそうだし。アリエッタを、一度見逃しちまったし」
そうだ、フーブラス川で僕とルークさんはアリエッタを殺すことに反対した。だけど、そのせいで今回の襲撃事件が起きた。あそこでアリエッタを殺していれば、軍港の軍人さん達は負傷したり死んだりせずにすんだのだ。僕の、せい……
「いや、そいつは違うと思うぜ、ルーク、様」
ガイさんが声を上げた。
「アリエッタはアッシュに頼まれて今回の事件を起こしたって言っていました。つまり、あそこでアリエッタを殺していたら、その場合今回の事件を起こすのがアッシュ本人と奴の部下達になっていただけでしょう。ルーク様のせいじゃありませんよ」
「……それは…………」
そう、か。アッシュが事件を指示したなら、確かにアリエッタを殺していても、襲撃するのがアッシュになっていただけで、事件が起こること自体は変わらないのか。
「……ふむ、よくわかりませんが、ルーク様が気に病むことはありませんよ。誰が悪いと言えば、事件を起こした者が悪いのです。バチカルの事件しかり、軍港の事件しかり」
そう言って、セリスさんはルークさんをなだめた。僕も、少しだけ気が楽になった。
「それでは、大体の話は終わりましたので、これから部下を率いてコーラル城のアリエッタを討伐に行ってまいります。ルーク様、導師イオン、マルクトの使者様はゆっくりとお休み下さい」
そう言って、セリスさんは二十人ほどの兵士を引き連れてコーラル城へ出発して行った。
§
その後の顛末を簡単に語ろう。コーラル城は何故か六神将のアジトと化しており、譜術人形などの魔物や仕掛けがほどこされていたそうだ。また、城の奥にはよくわからない音機関(機械みたいなもの)があったらしい。城にいたアリエッタは戦闘の末捕縛することに成功した。それと城には死神ディストと烈風のシンクの姿もあったが、こちらは取り逃がしてしまった。ただしシンクから
後書き
オリジナルの登場人物:セリス・アーウェルンクス
コンセプトはネギとは正反対の人物。
・女性。
・歳上、年長。
・戦闘能力ほぼなし(指揮官の為)。
・ただし譜術は使える(第七音譜術士)。
・身分は貴族、侯爵。(厳密に言うとネギは元の世界で身分を持っているけど、オールドラントでは身分なしなので)
・軍では師団長を勤める。
名前はとあるゲームの女性から。姓がアーウェルンクスなのはせっかくネギま! とのクロスなんだからやってやれ、という遊び心。当然ネギま! 世界の彼らとは何の関係もない。ネギが反応しないのは平行世界なら同じ名字の人くらいいるよね、という適当さ。
最初はむさいおっさんにしようかと思ったけれど、ネギと対比する為と、ゲーム中に登場するキムラスカ軍人や大臣がみな男性なので女性にしました。さらに私がゲーム中に足りないと感じた要素として年長者にする為、四十代のおばさんにしました。
精神性についてはさすがに正反対にはできませんでした。精神まで反対にすると、悪辣で預言信者で差別的な人物になってしまいますし。なので基本的には善良で、預言を信じておらず、分け隔てのない人物にしました。
独自設定:ファブレ家の白光騎士団が総入れ替え。原作ゲームでは団員が処罰されて解雇されるなどということはありません。全員そのままです。