以上、作者の一人言でした。
それでは本編をどうぞ。
「…………」
今日は日曜日。神様さえ休んだ日曜日だ。そんな日、宇佐美にはまだ休みが与えられていた。なぜならメビウスが渋谷に降ってきた時、渋谷警察署もそれなりの被害をうけてただいま修理中なのだ。どうやら最初の方はそこまで気にしてなかったらしいが、そのうち、あ、これヤバいんじゃない? という話になったそうだ。
だから宇佐美は今も家にいる。
「はぁ……」
バードンとの戦いの後、楓をお持ち帰り……じゃなかった。再び家にかくまうことにした宇佐美は、相変わらず楓とはあまり話していなかった。というか楓が宇佐美を避けている。てか部屋にずっとこもってる。
そのことで宇佐美は自分が嫌われているのかと思っていて、少しショックな様子だ。
だっていまだにお巡りさんとしか呼んでくれないんだよ。宇佐美さんでも宇佐美でもなんでもいいからとにかくお巡りさんと言われるのにはまだ距離感があって嫌だ。ここは試しに「楓ぇ、俺だ~。結婚してくれぇ」とでも言ってみようか……? いや、死ぬほど恥ずかしいからやめよう。なら、楓の体にできた傷がまだ治ってないことを利用して「包帯巻いてあげるから服脱いで」とでも……。いや待て待て待て、それじゃただの変態じゃないか。何を考えてるんだ俺は。お巡りさんとしか呼ばれないから頭がおかしくなったのか?
宇佐美はそう思いながら、リビングを出て階段を一段一段上る。楓がいる部屋に向かうためだ。
そして、あの後からはテレビでかなりの情報を集めることができた。どうやら、バードンが死んだことでもう日本では生け贄は集めないらしい。そのことで一時期ネットで、バードンがあのお方たちだったのか? などということが飛び交ったが、結局真相は、自分たち一般人には謎のままだった。で、生け贄が必要なくなったことにより、自衛隊による楓の捜索は打ち切られ、政府ももう捜索しないと断言した。
つまり、
「おーい、服買いに行くぞ」
そういうことだ。
今までは宇佐美が昔着ていた服などを適当に着てもらっていたが、そろそろ彼女もかわいらしい服が欲しくなる時期のはずだ。なんてったって女の子。この作戦ならいける。
しかし返事はない。
「一緒に来てくれたら買い物に行ったついでにおいしいケーキ屋にでも寄ってこようと思うんだけどなぁ」
女の子なら服とかケーキとかそういうのには弱いはずだ。中学生ならそれはなおさらだろう。自分でもこの言い方は卑怯だと思うがこれしか思いつかないんだからしょうがない。
と、中で何か動きがあったような音がした。ごそごそ、としばらく音がした後にドアがゆっくり開かれ、顔の傷がきれいになった楓が出てきた。
「あ、あの、お誘いは嬉しいんですけど、私出かけても注目の的になっちゃいますよ。だから――」
楓が言いたいことはなんとなくわかる。なんてったって連日テレビでそのかわいい顔を世界中の人間たちにさらされたのだ。そりゃ注目の的になってみんなから見られて集中できないだろう。
しかし、そんなことは宇佐美にもわかっている。
宇佐美は自分の手に持っていた一個の帽子を楓の頭に被せる。
服も、もうあの時の服ではないし、帽子を着けてそれなりに顔を隠せる。これならおそらく大丈夫だ。
「よし。行くぞ」
宇佐美と楓は買い物に行くことにした。
そして二人は現在都内のデパートに来ているのだった。
日曜日だからだろう。人が物凄く多い。自分たちは歩きと電車で来たからいいが、車で来た人たちはおそらく駐車場で空くのを待っていることだろう(というか自分は車の免許持ってないから車運転できないだけなんだけどね)。
「じゃ、自分ここで待ってるからさっき渡した諭吉さん二枚でなんでも好きなやつ買ってきてね」
宇佐美はそう言って、店の中に入る楓を見届けると、すぐ後ろのベンチに座り、しばらく待つことにした。金は腐るほどあるとはいえ、やはり服代だけで諭吉さんが二人も消えるのはなかなかつらい。だって諭吉さんだよ。諭吉さん。学問のすゝめとかその他もろもろたくさんすごい本書いてるすごい人だよ。そんな偉い人が財布から二人も消えたんだ。
「…………」
それにしても、デパートの中を歩く人たちの表情はいつも通りの顔に見える。安心した顔、落ち込んだ顔、犯罪者の顔、泣いている子供。これだけが事実なら一体どんなにいいことだろうか。
しかし現実問題として、世界は依然として犯罪だらけだ。女の子が路地裏に連れ込まれるのは今日もここに来る途中見たし、本当にこの世界は最悪だ。いや、世界だけではなく、それを見て見ぬふりをしている自分自身も。
結局、ウルトラマンとなった自分でもこの世界を変えることなど不可能なのだ。昔、一度だけ自分の正義感で裏路地に連れ込まれた小学生と思われる女の子を助けた男を見たことがある。その男は自分の同期の警察官で、何かと気が合う奴だった。名前は磯崎健二。階級は巡査だった。
しかし、その男は助けようとしたところを男たちに殺された。自分の目の前で、その同期の拳銃で撃たれて死んだのだ。その時に思った。この世界では正しいことをしたら殺されるのか、と。そして、目の前で人が殺された恐怖から自分は動けなくなり、結果、犯人は拳銃を持ったまま逃走。現在でもまだ捕まっていない。
あ~あ。なんでこんなこと急に思い出したんだろ。
そう思っても自分にはなぜなのかがもうわかっている。自分は今、あの同期の警察官に憧れているのだ。あんなに度胸があったらどんなにいいことか。
というかなんか犯罪とかそういうの考えていたらだんだん楓のことが心配になってきた。まだ中学生なのに一人にして大丈夫だっただろうか。もしかしていかがわしい男たちに連れ去られていないだろうか。
いてもたってもいられなくなり、宇佐美はベンチから立ち上がり、店の中に入って楓を探す。そして店の中をぐるぐるとまわったところで、宇佐美はある異変に気がつく。
「…………?」
楓がいないのだ。
気がつくと自分は早足になっていた。早足になって、なるべく最悪の状況を想像しないようにしながら再度店の中を探す。試着室のドアノックしたりするが、全員知らない人の声だった。
ヤバいヤバいヤバい。
宇佐美の表情はまさにそれとなり、額からは嫌な汗がでてくる。
どうすればいい。こんなときどう対処すればいい。
今まで見る側だった宇佐美に、こんなとき被害者側がどう対処していたかなどわかるわけがない。
と、そんな時、誰かに肩をトントンと叩かれた。
宇佐美はどうか楓でありますように、と思いながら急いで振り向く。しかしそこにいたのはただの店員だったようだ。
「お、お客様……そのぉ……警察呼びますよ?」
「え?」
そう言われて自分が今下着コーナーにいるのに気がついた。しかも女物の下着コーナー。
「あ、ああ。いやっ!……じ、自分は怪しい者ではなく――」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!! 変態よぉぉぉぉぉぉ!! 誰か警察呼んでぇぇぇぇぇぇぇ!!」
また別の客? らしき人がこちらを指差してヒステリックに叫んだ。
というか、俺が警察だし。
しかしマズイことになった。これでは楓を探すことはおろか、逆に警察に捕まってしまうような気がする。
「あ、あのぉ、兄がどうかしましたか?」
何事かと警備員がとんできたまさにその時、聞き覚えのある少女声が聞こえた。
その声は今の宇佐美には天使の声に聞こえただろう。しかし、気になるのは宇佐美に妹がいないことだ。
宇佐美は振り向き、驚いた。
「お、お兄ちゃん。いろいろたまってるのはわかってるけど、お店の物に手を出しちゃダメでしょ」
服が宇佐美のお下がりではなく、もっと中学生らしいものへと変わった楓がそう言ってた。その手には今さっき服を買ったのだろうと推測できる袋が握られている。
おい待て。なんだかさらっと周囲の人間から信用を損なわれることを言われた気がする。というか何お兄ちゃんって。なんだかすごく嬉しいからもう一回言って。
「ほら行くよ」
楓はそう言って宇佐美の腕を掴むと、ヒステリックに叫んだおばあちゃんや、店員、警備員を無視してその場から宇佐美を連れ出す。
お兄ちゃんって言ってもらえなくて残念だった。
「お兄ちゃ……じゃなくてお巡りさん。いくらなんでもあれはやめてください。恥ずかしいです」
店から出て数分、ひたすら腕を引っ張り続けて本屋の前まできた楓は、こちらをじっと見つめて少し顔を赤くしながらそう言ってきた。しかし怖いとは思わない。逆にかわいい。
というか今お兄ちゃんって言おうとしたよねぇ? ねぇ? などということは思うだけで口に出したりはしない。
「はい。これお釣です」
楓はそう言ってたった数百円の小銭を渡してくる。
おい、野口さんはどうした。と、一瞬思うが、まぁ女の子だし仕方ないか。と、しぶしぶその小銭を受け取り、小さなため息を吐いた後、財布の中にしまった。
どうやらそのため息のせいで楓には宇佐美が思ってることがバレたようだ。
「し、仕方ないないじゃないですか。服は最低三着は欲しいですし、靴とか靴下とか――」
「――!?」
その時、何かの視線を感じて宇佐美は楓の話を無視して振り向いた。しかし、そこには相変わらずいろいろな表情をした人たちが歩いているだけで誰一人としてこちらを見てはいない。どうやら勘違いだったようだ。
「あの、聞いてますかお巡りさん?」
「あ、ああ……悪い。聞いてなかった」
その時の違和感が気のせいではなかったことなど、今の宇佐美には気づくすべがなかった。
時が変わり、場所も変わり、昼のフードコート。
宇佐美はざるうどんをずるするとすすっていて、楓は女の子らしくちょぼちょぼとハンバーガーを食べていた。
「あの、お巡りさん」
楓が食べかけのハンバーガーを机の上に置き、話しかけてきた。宇佐美は「ん?」と言ってうどんを食べるのを中断する。
「どうした?」
「お巡りさんは、あの時……というより、いろいろ私を助けてくれました」
確かにそうだ。今までこっちは楓をいろいろ助けている。命懸けで助けたり、自衛隊を敵にまわしたり、その他もろもろ。
「でも、なんで私を助けるんですか?」
その言葉に宇佐美は思わず「えっ?」と言った。
「今の時代、女子供は見捨てられるのが普通です。だから町でも……そ、その、ご、ごう……かんとかされてる人も毎日見ますし、普通のお巡りさんは助けてくれないですし」
ごうかん、という部分を声を潜めて楓は言う。やはり恥ずかしいのだろう。
しかし、宇佐美は困った。そんなこと言われても自分でもなぜだかわからないからだ。人を助けたいから? いや違う。それならここに来る途中で絡まれていた女の子を助けていたはずだ。
「う~ん……」と、宇佐美はしばらく考え込む。そして、結論を出す。
「なんか一回助けた後に助けた人が死ぬといやだからかな」
「そうですか……」
楓はがっかりしたようにそう言った。
「後、気に入ってるから」
「え?」
「話変わるんだけど、別にお巡りさんっていう呼び方もいいんだけどさ、お兄ちゃんって言ってくれても――」
「言いません」
楓はピシャリと言った。世の中の男子諸君よ、これが勇気を出して何かをした結果だ。ああ、お兄ちゃんって言われたかった。
しかし、宇佐美は気づいていなかったが、ピシャリと言った楓の顔は、少し機嫌がいいように見えた。
「野村警部。要監視の一人に元生け贄と接触している男がいました」
警視庁公安部。薄暗い部屋で、一人の若い男が三十代後半から四十代前半に見える中年の男に今日の結果を報告していた。
「それは誰だ?」
「渋谷署の宇佐美翔夢巡査です」
「宇佐美……? どこかで聞いたことがあるな」
「ウルトラマンが渋谷に降ってきた時に、生け贄の少女を救った奴です」
「ああ、あれか。なるほど、そうなると奴がウルトラマンである可能性が高いな」
中年の男は少しにやけた後、話を続ける。
「それでは、引き続き監視を頼むよ。
そう言われた若い男……磯崎巡査部長はくるりと振り向き、また監視の任務に向かった。果たして、彼が宇佐美の知っている磯崎巡査なのかどうかは、今のところ謎である。
初めて日常話? をかいたので結構不安なんですが、いかがでしょうか?
それではまた更新した時に。
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