プロローグ/Air Self‐Defense Official
「お前らガキになにやってんだよ!!」
一緒に渋谷を巡回していたあいつは、そう言って女子小学生にわいせつな行為をしている男たちに近づいた。その声からは確かな怒りが感じられ、奴の正義感が強いことが再認識できる。
男たちが振り向いた。自分は何もできずにその光景を見守るまま。あいつを止めもしないし、男たちを止めることもない。
あいつは屈強な男たちを前にしてもなお、一切それを恐れることなく一人の男の胸ぐらを掴み、その頬を殴った。
「なにしてんだテメェ!」「ポリ公のくせに調子のってんじゃねぇぞ!!」
あいつは男たちに襲われ、そのままサンドバックのように殴られ始める。
自分の足は動かない。悔しいがまったく動かない。それが恐怖からくるものなのか、はたまた巻き込まれたくないだけなのかわからない。
殴られ、拳銃を奪われ、また殴られ、壁にぶつかり、地面に横たわる。
「死ねクソがッ!!」
その声と共に拳銃が発砲された。男たちは拳銃を持ったままその場から立ち去る。
そこでようやく自分の足が動く。あいつに駆け寄る。警官制服夏服の腹部が赤く染まっている。
女子小学生は泣いていた。
「う……さみ。その……子を保護しろ」
あいつは腹をおさえながら痛そうな表情をしてとぎれとぎれに言う。
ひどくイラついた。こいつに対してではない。自分に対してだ。自分はすべて見てみぬふりをしようとしたのに対して奴は少女を助けようとして男たちに喧嘩を売っただけでなく、殴られ、腹部を撃たれてもなお、少女を保護しろと言う。なぜ自分はこいつに協力することができなかったのか。自分が協力すればこいつが撃たれることはなかったのではないか。自分の頭は後悔だらけだった。
後日、宇佐美には犯人を取り逃がしたり、その他もろもろで何らかの処分が言い渡されるはずだった。しかしそれはなかった。それどころか、警察内部の危険分子に最後まで協力しなかったとして署長賞がおくられることになった。
イラついた。でも自分にはどうすることもできない署長賞を受け取らなければ自分も危険分子と見られることになるかも知れない。そうなればこの後出世にも影響してくる。
しかし、いざ署長賞を貰う。そんな時だった。
あの時の少女の泣き声が聞こえた気がした。あの子もおそらく自分があんな目に合うとは思っていなかったはずだ。そう思うと今の自分がとてつもなく情けなく見えた。市民の安全を守りたい。そう思って警察官になったのに、自分は少女の笑顔すら守れていなかった。それをできなくて何が警察官だ。何が町の平和を守るお巡りさんだ。
それに一番腹がたったのは署長賞が自分に与えられるということだ。見てみぬふりしかしていなかった自分が署長賞でなぜ子供を助けたあいつがまるで悪者みたいな言い方をされねばならんのだ。それに、あいつが悪者扱いされて、それならあいつに助けれられた少女はいったいなんなのだ。なんだ? 少女は犯罪に巻き込まれて普通だとでも言いたいのか?
それが悔しくて悔しくて、表彰されていたときは少し泣いていた記憶がある。
しかし、この時の自分、そして今の自分もまた、この事件の真相には気づいていなかったのだ。
バードンによって破壊された千代田区では、現在も自衛隊が瓦礫の撤去を行っている。
今回の一件で死んだのは2546人。行方不明者は6786人だった。全部自分のせい。そんな小説の主人公のようなことを言うつもりはない。だって、言ってしまったら自分がその人たちを殺したのだと思ってしまうから。それに自分にはその言葉を言うだけの度胸も、心の広さもない。心が狭い自分がその事実を受け止めてしまったら自分の精神がどうなるのかわからない。
今、宇佐美の頭上では陸自のヘリが飛んでいる。
断っておくが、ここは立ち入り禁止エリアではない。ちゃんとその外だ。人気はあまりない。
しかしここからでもあの戦いの悲劇がわかる。
今にも崩れそうなビル。ひび割れたアスファルト。倒れた信号。散乱するガラスの破片。
こんなのは自分が思っていたウルトラマンとは違っていた。
自分が思っているウルトラマンとは、どんな強い相手でも一人の犠牲者を出すことなく颯爽と怪獣を倒す。そんな神のような存在。それがウルトラマンだった。しかし、現実はそこまで甘くなかった。どんなに頑張っても一人の死者も出さないなんてこと不可能に近いのだ。
2546人もの人間の死がすでに確認されている。2546人もの人間の人生があの瞬間突如終わったのだ。たった一度の戦いで、だ。自分はこれからそんなたくさん死者がでる戦いを何度も行わなくてはいけない。最悪だ。自分はこれから、その2546人の分まで戦わなければならないのだ。後戻りなどしたらきっとその人たちに失礼なのだ。
「――ッ!!」
ふと、警察官が立って、立ち入りを禁止している場所が騒がしくなる。
宇佐美はそちらへと耳を向ける。
「退けッ! 俺の息子はまだ見つかってないんだ!! 俺が息子を捜すんだ!!」
年齢は三十代中盤程だろうか。体格のいい男だった。
「関係者以外は立ち入り禁止です」
「俺は関係者だ! 第7航空団、第305飛行隊所属の、真木舜一だ!」
「ダメだ。例え自衛官でも関係者以外をここに通すわけにはいかない。それに第305飛行隊ってことはバードン戦で出動した部隊だろ? 町に向かってミサイルぶっぱなして、そのおかげで何人犠牲者がでたと思ってるんだ?」
宇佐美はなぜだか悔しいような気持ちになった。
あの時自分を攻撃した自衛官がまさか目の前に現れるとは思っていなかった。一瞬殴ってやろうかと思った。しかしすぐに冷静になって考えると、彼も被害者なのだ。そう思うと、悔しいのだ。
かなり忙しい時間が終わり、ようやくゆっくり書けるようになりました。そして、真木舜一さんですが、ウルトラマンネクサスが来週放送のウルトラマンXに出るということで、思いきって出してみました。
※この作品では真木舜一が所属している部隊を第7航空団、第305飛行隊所属と書いていますが、原作では確か違ったと思います。
※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。
追記、二章の題名は仮のものです。