警視庁に戻って、まず驚いたことはその惨状だった。
警視庁庁舎そのものがバリケードテープで囲まれていて、そこに誰も近づかないように制服警官たちが見張っている。何が起こったのかなど田舎にいた宇佐美にわかるはずがなかったが、実は警視庁は襲われていたのだ。
そのためだろう。入り口のガラス扉は割れているし、少し上を見れば焼けたような痕跡すら見ることができる。
宇佐美は近くにいた制服警官に自分の警察手帳を見せ、自分の身分を証明する。すると、その警察官は宇佐美に敬礼し、警視庁庁舎の中へと案内してくれた。
そして二階の適当な部屋に連れていかれると、そこにはいつかの五分刈りの男がいた。怪我をしたのか、頭部には包帯、左目の部分には眼帯をつけている。
「何があったんだ?」
宇佐美は尋ねる。
「米海兵隊だ」
その言葉に宇佐美は首を傾げた。
「やっこさんはお前が警視庁にいるという情報を知ってここに攻めてきた」
俺のせいだった。
「……被害は」
「民間人2人。警察官268人。内40がSAT隊員だ。必死にここにお前はいないと説得して、やっと帰ってもらった」
俺のせいでそんなにもたくさんの人が死んでしまった。
宇佐美はそれを聞いて下を向いてしまった。
心なしか、五分刈りの男の顔は宇佐美に対する怒りの色に染まっている。当然だ。その中にはきっと彼の部下や仲間がいたのだから。人間とは愚かなもので、いくら覚悟しな気になってもいざその時が訪れると覚悟は心から消えるのだ。そんなことは、この世界を生きてきた宇佐美にはわかっていたからもう何とも思わない。もしここでこの五分刈りの男が掴みかかってきたらそのままされるがままになるしかない。
自分には殴られて殴りかえしたりする権利などはないのだ。それが現在、世界中の人間から意味嫌われているウルトラマンとしての自分の……いわば理不尽な宿命のようなものなのだ。
予想通り五分刈りの男は宇佐美の胸ぐらに掴みかかった。荒い息が宇佐美の顔にかかる。
「俺は今まで総監の命令だから貴様を保護してきた。俺もそれが正しいと思っていた! しかし現実は違っていた! お前を保護したせいでなんの関係もない一般人まで死んだ!! お前一人を守るためだけに270人が死んだんだ!!」
理不尽すぎる。理不尽だ……しかし、仕方ないことだった。結局自分に関わった者は全員不幸な目に合うのだ。
「俺たち警察はお前みたいな奴のせいでこんな目に合っちまった!! お前がウルトラマンだったせいでこうなっちまったんだ!!」
「…………」
「なんとか言えぇ!!」
宇佐美はそう言われ、あくまでも冷静に五分刈りの男の手をはがした。そしてズボンのポケットから警察手帳を取り出し、それを五分刈りの男に渡した。
「自分は責任をとって警察官をやめます。それで気は済まないでしょうが、一つだけお願いがあります」
五分刈りの男が宇佐美に殴りかかりそうになる。しかし、それは宇佐美の、あの子はッ! という大声によって止められた。
「あの子は……楓は生きているんですか?」
その言葉に五分刈りの男は頷いた。
「それなら保護してやってください。あの子にはもう帰る家もない。それに自分ももう命を狙われている。自分にはもう彼女の面倒を見れるほどの余裕はないんです」
宇佐美下を向いたままそれだけ言うと、警視庁庁舎から出ていった。彼を止めるものは誰もいなかった。
スクランブル交差点。そこはまだ瓦礫が山のようにあった。
そんな中で宇佐美は考える。
米海兵隊が動いたということは家も監視されているはずだ。だから家に帰ることはできないし、誰か頼れる人もいないし、そもそもその頼った人にも迷惑だ。
これから先どうしようか。宇佐美には何も策がなかった。
夏の生暖かい風が宇佐美に直撃した。
辺りはもう暗く、完璧な夜の東京となっているのに、吹く風は昼とほとんど変わらない。まるで今の宇佐美の状況のようだ。
やっと頼れるものができて、やっとこれから始められる。そう思ってきたところなのに、結局ダメだった。これでは初めてウルトラマンになったときから何も状況が変わっていない。
その時、国民保護サイレンがなり始めた。どうやら怪獣が出たらしい。
宇佐美は反射的にメビウスに変身しようとする。しかし、その時だ。
「宇佐美」
誰かにぶっきらぼうに名前を呼ばれた。
見ると、磯崎だった。
「お前は自衛隊が敵だと身をもって知ったはずだ。お前が変身すれば、また自衛隊や米軍はお前を殺しにかかってくる。お前はそれでも戦うのか? お前一人が戦ったところで何も変わりはしない」
「…………」
磯崎の言う通りで、変わらない……ものなのかもしれない。
宇佐美は変身しようと構えかけた左腕を下げた。
これからも、何もかも変わらないのかもしれない。
これからもウルトラマンは嫌われ続けて、俺の身はいつか滅びるのかもしれない。人間を守るために人間に殺される。想像しただけで笑いが込み上げてくる。
宇佐美は口元を手で押さえて必死に笑いを堪えようとする。
「何がおかしい」
磯崎はそんな宇佐美を見てさすがに気味が悪いと思ったのか、若干引いたような表情になった。
宇佐美は磯崎の言葉を無視して考え続ける。
結局俺は両方から攻撃されるのだ。仲間なんていない。そんなものはいらない。いらない……はずだ。
そんな状況になるとわかっていながらメビウスは自分を選んだのなら、こいつは相当なワルに違いない。
「おい、聞いてるのか」
子供の時、世界はもっと輝いているものだと思っていた。
紛争なんてない。話せば人はわかりあえて、みんなが幸せ。殺人なんて起きないもの。子供のときはそう思っていたのだ。
人間とは知的な生命体で見ているだけで心が暖まる。そういうものだと思っていた。しかし、大人になるとわかった。人間とはそこまできれいではない。誰もが汚れていて、誰もが愚かな存在。
俺はこれからそれを守るのか? 馬鹿馬鹿しい。そんなことは嫌だ。誰か他の人がやってくれ。俺はやりたくない。もう傷つきたくない。普通の生活に戻りたい。いつものようにこのスクランブル交差点を眺めていたい。一人の哀れな警察官として。
宇佐美は拳をギュッと握った。
それが一番だ。
「何も変わらない? 確かにそうだ。こんなことをやったって人間変わりはしない。でもな、俺以外に誰かこの役をできる奴がいるのか? 俺以外の誰かがやってくれるのか? 誰もやってくれないだろ? なら俺がやるしかねえじゃねえか。哀れな人間を守る馬鹿馬鹿しいウルトラマンとして……。俺がやるしかねぇじゃねぇかッ!!」
この身が滅びようと朽ち果てようと。それが俺の唯一の生きる意味だ。何の取り柄もなく、今まですべてを見てみぬふりをしていた俺にできる唯一の罪滅ぼし、そして生きる上での宿命だ。
「……俺はもう逃げたくねぇ。今のありのままの現状を見て、自分が正しいと思ったことをやりたい。後の時代を生きる人たちにこんな世界を住んでほしくないんだ……ッ!!」
「お前は戦うことで何かを失うことが怖くないのか?」
家族は何年も前に死んだ。警察はもう俺の敵と考えていい。少なくとも味方ではない。俺には失うものなんてもう何もない。それならもう何も怖くない。やってやる。奴らをぶっ殺して、この世界を変えてやる。
「そんなもん……もうどこにもねえんだよッ!!」
宇佐美は叫ぶように言うと、左腕にメビウスブレスを出現される。右手でクリスタルサークルを回転させ、そのまま左手を天に掲げる
「うおおおおおおおお!!」
雄叫びのような叫びと共にメビウスへと姿を変える。
この世界への不満を怒りに変えた彼に、迷いなどもうなかった。
彼の怒りは今ピークに達していたのだ。
書きたいことは書けましたが、なんだかそこにもっていくまでが雑すぎたなぁ。という感じです。
※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。