ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 明けましておめでとうございます。2016年もよろしくお願いいたします。


二十五話 ウルトラマンを援護せよ/decide

 神奈川横浜市上空。

 空自のパイロット、鈴山は自身が操縦するF-15Jからの横浜の景色を眺めていた。

「…………」

 そこにあるのはいつもの横浜ではない。ところどころで火事が起こっており、そこから黒い煙がもくもくと上がっている。

 そしてそんな町の中心で、まるでこの町は自分のものだ。と言ってそうな巨大な怪獣がいる。

 ガンザだ。

 上からの情報によれば腹には孵化寸前のガンザの卵があるらしい。

 そんな奴の上空を飛行する俺たち――航空自衛隊は何もしていない。攻撃をしていなければ、奴の意識をひくために低空を飛行することもない。ただ見てるだけだ。

 町が壊され、人が叫び、消えていく。

 もう別にどうとも思わない。

 少し前に命令に背いてウルトラマンを援護した奴がどうなったか知っている。一気に降格だ。これから昇格することはないだろう。俺はそんなのは嫌だ。それに航空自衛隊になったときからこうなることはわかっていた。自衛隊はもはや日本国民を守るために存在しているのではなく、日本の政府を守るためにあるのだ。国民なんて知らん……はずだ。

 鈴山はウルトラマンが嫌いだった。

 なぜか? 簡単だ。得体が知れないからだ。誰だって「私宇宙人です。仲良くしましょう」と言われても答えはNOだ。恐ろしくて仲良くなんてできない。それならいっそのこと「あなたの星の資源が欲しいので我々と同盟をくんでもらいたい。もちろん、我々もあなたたちの要望には答える」こっちの方がマシだ。

『CCPより全機。東京都上空をウルトラマンメビウスが通過。間もなくそちらに到着します。用意をしてください』

 そんな声が聞こえてくる。

 俺たちの攻撃目標は怪獣ではない。怪獣という餌に飛び付いた哀れな宇宙人だ。

 思えば、奴があの日あの時地球に来てから怪獣たちの活動が活発化した。ウルトラマンは地球人を守るとか思ってやがるんだろうが、あいつが出現してから怪獣の活動が活発化したことは紛れもない事実であり、その関連性が高い。

 今まで、現れるはずのない怪獣によっていくつの命が奪われただろうか。

 ウルトラマンが降ってきたときの戦い。バードンとの戦い。マーク2との戦い。タガールとの戦い。そしてこのガンザ。

 きっと怪獣たちはメビウスさえ地球に来なければ現れなかったはずだ。俺はそう思う。奴は結果的に地球人を殺しているだけだ。正義の使者なんかじゃない。きっとそうだ。いや、もしかしたらそれを狙っているのかもしれない。

 そして奴は現れた。

 淡いオレンジの光と共に。その姿はどこか怒っているようにも見える。

 殺す。殺さなければならないんだ……きっと。

 例え相手が誰であろうと、それが俺たちの使命だ。

「全機、攻撃開始ッ」

 メビウスをロックオンし、ミサイルの発射ボタンを押す。

 たくさんのミサイルがメビウスに向かっていき、爆発する。

 それでもこちらを少しの間、訴えかけるような目で睨んだだけで何もせずにガンザに向かって行ったメビウスを見て、胸の辺りが少しチクッとした。

 なぜ仕返しをしない。

 確かにメビウス戦で、ミサイルを発射した自衛隊や米軍に反撃しなかったという話は聞いた。しかしそれは何かしら理由があるからだと思っていた。しかしなぜだ。この状況でなぜ反撃してこない。ガンザがいるからか? いや違う。もしガンザを倒したいならまず邪魔な俺たちを落とすはずだ。しかし……それをしないということは……こいつは本当に……。

「すべての人間を守ろうとしてるのか……ッ!?」

 鈴山はいらんことに気がついてしまった。

 次のミサイルを発射しようとするその手が止まる。

「全機、攻撃中止! 繰り返す。全機攻撃中止!! 様子を見る!!」

 気がつくとそのように叫んでいた。

 クッソッ……。

 鈴山は心の内でそういった。

『CCPより、誰か攻撃を中止しろと――』

 声が変わっていた。おそらく何らかの理由で担当か変わったのだろう。

 鈴山はやかましい無線を遮断した。無線をきったのだ。

 鈴山の心は揺らいでいた。

 今まで俺はウルトラマンが悪い奴だという前提で憎んできた。しかし……。

 鈴山は頭を振った。

「全機攻撃再開……。目標はウルトラマンメビウス……」

 そう。これがきっと正しいのだ。俺たちは自衛官。常に命令に忠実でなければならない。さっきの俺は一体何を考えていたんだ。何が攻撃中止だ。そんなことをしたら自分で自分の首を締めるようなものではないか。俺は……。いや、俺たちはやる。メビウスを殺す。ウルトラマンを殺す。殺すのが俺に与えられたミッションだ。

 イーグルが次々とミサイルを発射していく。

 鈴山の手は、震えていた。

 もう片方の手で押さえても、止まらない。震える理由などない。ボタンを押すだけだ。それだけの行為に何をためらう必要がある。やれ鈴山。お前にならできる。

 そう思ってもボタンが押せない。押してしまったら何か大切なものが壊れてしまう気がする。

 なぜだ? ……なぜだなぜだなぜだなぜだッ!!

 なぜ俺に発射ボタンが押せない。なんで押せないんだ。

 俺の良心がこんな邪魔をしているのか? メビウスが反撃をしてこないから俺の良心が俺に攻撃することを許可していないのか?

 胸の辺りで何かもやもやする。もやもやといっても恋愛とかのもやもやではない。それはわかる。

 押さなくてはならない。しかし押したら何かが壊れてしまう。今までずっと大切にしていた何かが。これを壊したくはない。しかし攻撃しなくてはならない。どうすればいい……。俺はどうすればいい。

 戦闘機乗りは孤独だ。相談できる人など今はいない。どうしても壊したくないものが目の前にあって、でもそれを壊さなくてはならないとき、人はどうすればいい。どちらを優先させるべきなんだ。

 自分の気持ちか、上司の命令か。

 自分の気持ちを選べば自分はもちろん、部下たちも立場が危うくなるかもしれない。しかし上司の命令を選べば、自分はこれから生きていけるのかどうかわからなくなってしまうような気がする。

「…………」

 鈴山は考えた。

 と、その時だった。おそらく考えていたせいで注意力が散漫していたせいだろう。鈴山は、ガンザからの攻撃を受けていることに気がつかなかった。

 ガンザの腕からまるでロケットのように発射された、その鋏が、かなり近い場所にまで迫っていたのだ。

 鈴山の中にある血液の勢いが増したのを感じられた。

「クッソオオオオオオ!!」

 鈴山は急いで上空に急上昇。なんとかしてその鋏をふりきろうとする。しかし、鋏はついてくる。それもかなり速いスピードで。

 急上昇、急降下、急旋回。かわせない。鋏はすぐ後ろまで迫って来ている。

 死ぬ。そう考えた瞬間だった。

 ――セヤッ!!

 何かが二つの鋏を素手で地面に打ち落とし、鈴山の命を救った。

 メビウスだった。それを見て、鈴山は遂に決意し、

 そして答えを出す。

「……全機、CCPとの無線をきれ」

 なぜ? そう返ってきた。

「いいからきれ。これは命令だ。拒否権はない」

 そう言うと、何か言ってくる者はいなくなった。

「聞いてくれ。俺たちが真に守るべきものは何か? 言わなくていい。何も言わずに聞け。お前らには大切な人がいるか? だとしたら、その人が横浜に住んでいて、ガンザの襲撃に巻き込まれていたら? 現場空域に到着して何もしない俺たちを見たらその人は俺たちをどう見る? 俺たちを何だと考える? 国民を助けるために出動した救世主なんかじゃない。見ているだけのただの悪魔だ。そして、やっと助けのウルトラマンが来て……、やっと助かる。そう思ったときそのウルトラマンに攻撃している俺たちは何だ? 今、この現場にいて、ウルトラマンに攻撃することにためらいを持つのは俺だけじゃないはずだ。ならそれはなぜだ? ……壊したくないものがあるからだろう? 俺たちはその壊したくない何かを守るために自衛官になったんじゃないのか? 将来を担う子供や、大切な家族や、日本という国に住む人たち。そんな人たちを守るために俺たちは自衛官になった。しかし今の俺らはなんだ? 守りたいものを守れずに、そんな俺たちはなんだ? 今俺たちが怪獣に攻撃すればアメリカやロシア、中国……いや、世界中の国が黙っていないだろう。しかし、それをいつかやらなければならないことには誰もがわかっているはずだ。これ以上あのお方たちを黙って見ていていいのか? 俺たちが変わらなければ誰も変わらない。俺たち自衛官の本来の任務は日本国民を護ることであってウルトラマンを殺すことではない」

 そう言いきって、少しした後、言う。

「全機、ウルトラマンを援護せよ。国民を護るためにウルトラマンを援護し、ガンザを倒せ。米軍がきたらなるべく交渉して時間稼ぎをしろ」

 交渉に応じなかったら? そう聞かれた。

「俺たちは専守防衛がモットーの自衛隊だ。相手が撃ってきたなら……その時は米軍機を撃墜しろ」

 メビウスがやってきたことは、何も無駄ではなかった。彼がやってきたことが、遂に自衛隊すらも動かした瞬間だった。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。
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