少女は目の前に起きたことに頭が着いていかなかった。
お巡りさんに道の聞いたはずが、いつの間にかすごい力で吹き飛ばされて……でもお巡りさんが抱き締めていてくれたおかげで怪我はなくて……それで何が起こったのか知ろうと目を開けようとしたらお巡りさんに押されて、そのまま転んだ。それでお巡りさんがいたはずの場所を見てみたらそこにはコンクリートの山ができてるだけで……
「お、お巡りさん……?」
少女は呼んでみる。しかし当然反応はない。あるわけがないのだ。
少女はそこでようやくハッとした。お巡りさんは自分を守るために自分を突き飛ばしてくれて、だけど今はここに埋まっていて早く出さないと危ないと思ったのだ。
細すぎもしない、太すぎもしない絶妙な太さのきれいな手で瓦礫を次々と退かしていく。しかし、大きな物は両手が必死に引っ張っても、非力な少女の力では重すぎて持ち上がらない。
「――ひぃっ!!」
少女は周りを向き、手をメガホンの形にして協力してくれる人に呼び掛けようとするが、突然恐怖に怯えたような声を出す。少女に見えたのは何か切れ味の悪い刃物で切られたような人間の破片だけだ。それ以外にはちょんぎれた人間の頭部や横倒しになって炎上している大小様々な車。そこに自分以外の生きている人は見えない。
少女はその光景を見てすっかり怯えてしまい、体中を震わせたままぺたんとその場にお尻をつける。
自分が今日この場所になんて来なければ自分がこんな目に合うこともなかった。少女は自分がここに来たことを後悔しだした。自分がここに来なければお巡りさんも自分を助けてコンクリートに潰されることはなかった。
しかしそこで疑問が生まれる。それはなぜお巡りさんが自分を助けたのか、だ。お巡りさんも「あ……っ」て声を出したし自分が奴らの生け贄になるということには気がついていたはずだ。
『というかさ、後少しの人生でも大事にしない?』
先ほどの何気ない会話の中でお巡りさんが言ったことを少女は思い出す。その言葉を聞いた時は自分の人生なんだからそんなの自分の勝手だ。と思っていたが、お巡りさんは生け贄の自分の心配をしてくれていたのだ。生け贄となってから自分に優しくしてくれた人などいなかった。実の親でさえ自分が生け贄になってからは気味が悪いというふうな目で見るだけだった。そんな自分をこのお巡りさんは心配してくれて、更には命を助けてくれた。
そのことがわかると、嬉しくて、気がついたら頬に涙が流れていた。
なんで、今日ほんの少し話した人に助けられたくらいで涙を流しているのか自分でも理解がつかない。理解がつかないが、涙を止めることができない。めちゃくちゃになった町で、少女は嗚咽を出しながら泣いた。
それしか、少女にはできなかった。
メビウスは高度数千万フィートから地上に衝突した痛みを堪えながら、衝突の衝撃で自分の体の上にのった瓦礫を地上に落としながら立ち上がる。
それが自分がやってはいけないことだったと気がついた時にはもう遅かった。
自分の体から落ちた瓦礫はまっすぐ道路に落ちていく。そしてそこには二人の人間がいたことがメビウスは瓦礫が落ちていく時に見えてしまったのだ。しかしそこでメビウスを驚かせた出来事があった。警察官とおぼしき人間が、少女のことを思いっきり押し出したのだ。それにより少女は助かり、警察官だけが瓦礫に潰された。あれだけの大きさの瓦礫が地面にぶつかった瞬間に小さな瓦礫となり、警察官の体を埋め尽くした。
メビウスは自分を責めた。
人間を救うべき自分が、一人の……いや、大勢の人間を殺してしまったのだ。自分を責めずにはいられなかった。
しかし、今はそんなことをぐずぐずと考えている場合ではないことをメビウスは思い出す。
ほどなくして奴は上空から降ってきた。そいつは地上にメビウスを墜落させた張本人だ。
――機械怪獣メガリュームクラスタ。
右手に大きな鎌。左手に機械の触手を着け、背中には機械の翼を持ち、二本足をしたドラゴン型の怪獣は、奴らが作った侵略兵器だ。25年前もこの機械怪獣の大群によりメビウスを含めるウルトラ兄弟は苦しめられたという苦い経験があった。
既にメビウスのカラータイマーの点滅は早くなっており、このまま戦ったところで勝ち目がないことは誰の目からしても明らかだった。
「セヤッ!」
しかし、メビウスは残った使命感を武器にメガリュームクラスタに向かって構える。
戦いの舞台はめちゃくちゃになった渋谷の町。
メビウスはメガリュームクラスタに向かって走り、全力で殴りかかる。
「ヘァッ! セァッ!」
腹や胸を何発も殴るがメガリュームクラスタの頑丈な体に、その攻撃はほぼ無意味と言って良かった。
やしてメガリュームクラスタとて黙ってみているわけではない。
「ヘァッ!?」
メビウスの攻撃を受けながらもメガリュームクラスタは、機械とは思えないようななめらかな動きで自身の右手である鎌を降り下ろし、メビウスを左肩から斜め下に斬る。
その衝撃でメビウスの体に火花が散り、メビウスは何歩か後退する。しかし、それだけでは終わらなかった。
左手である触手をメビウスの首に絡ませると、触手を引き、またメビウスが自身の鎌の攻撃範囲内に来たところで再び鎌を降り下ろす。
メビウスのカラータイマーの点滅はもはや早いを通り越し、ピコン……ピコンピコンと、まるで死にかけているかのように聞こえる。しかし、そんなメビウスに容赦なく追撃を仕掛ける者がいた。
「セァッ……!?」
航空自衛隊の戦闘機、F-15J。通称、イーグルだ。近くの基地から増援が来たのか、雲の上にいたときよりも数が増えていた。
発射された無数のミサイルがメビウスに命中する。さきほどはただの対空ミサイルだったが、今回のはさっきのソレとは威力が違った。おそらくは増援が対ウルトラマン用のミサイルを装備していたのだろう。
体力を消耗しかているせいで、メガリュームクラスタだけでも勝てるわけのないメビウスに更に空自の追撃、メビウスにとってこれほど絶望的な状況はなかった。
突然、メガリュームクラスタが鎌による攻撃を止めた。何があったのかと驚いたメビウスがメガリュームクラスタを見ると、大きく口を開けて、光がそこに集まっていく。何かをチャージしているようだった。
そんな状況でメビウスが考えることは大切な兄弟たちのこと。それから今日まで生きた何万年分かの記憶。
触手で逃げられなく、後数秒すればメガリュームクラスタの口からはビームが発射され、自分は死ぬ。メビウスは死を覚悟したのだ。
もう何も考えず、ただその瞬間を待つ。
――バカヤロー!
メビウスはその言葉が聞こえた気がしてハッとする。地球で初めて戦い、怪獣を倒すのにかっこよさだけを求めて戦って町をめちゃくちゃにしたとき時に言われた言葉。
その言葉を言った彼が今どうしているのか、自分にはわからないが、今、頭に浮かんだその言葉は自分にお前はまだ何もやってないんだから死ぬな。人間を助けたいんだろ。そう言っているように聞こえた。
自分がコンクリートの下敷きにしてしまったあの警察官。彼の正義感はウルトラ兄弟に通じる何かが感じられた。そう、自分が殺してしまった彼は死んでいい人間ではない。それに今のエネルギーのない自分はどのみち人間の体を借りなくてはならない。そう考えてからのメビウスの行動は早かった。
「セヤァッ!!」
一瞬の内にメビウスは左腕に着いているメビウスブレスからメビュームブレードと呼ばれる光の剣を出現させると、首に巻き付いた触手を切断する。そしてチャージ中のメガリュームクラスタはやはり知能のない機械の塊だということだろう。触手を切られたというのにチャージを続けたまま微動だにしない。それに、空自のF-15Jは突然のことに一瞬反応が遅れた。
そのおかげだった。メビウスはここぞと言わんばかりにメビウスブレスの着いている左手を、警察官が埋もれているコンクリートの山に手を向けた。
すると、黄色とオレンジ色の中間ほどの優しい光がメビウスの手から放たれて、コンクリートの瓦礫を山を包み込んだ。
宇佐美は橙色がベースの、落ち着いた優しい色の不思議な世界で目を覚ました。地面もなければ、天井も見当たらない。
その空間からは火の生命力というか、なんだかとても言い表すのが難しいのだが、ただ一つとして、その空間からはこの時代、この地球上にはない暖かさが感じられた。
宇佐美はそんな空間を、特に警戒することもなくキョロキョロ辺りを見回している。
自分は死んだはずなのになんで生きてるんだ? というかこの空間どうなってるんだ? この男はどうせそんなことを考えているのだろう。
そんな宇佐美に、彼は足音もなく近寄る。そして宇佐美の目の前に来たところで足を止める。
「すみませんでしたッ」
二十代前半に見えるその好青年風の男は急に腰を折り曲げて、宇佐美に深々と頭を下げて謝罪した。
「僕の不注意であなたに死んでもおかしくないほどの怪我をさせてしまいました」
彼は頭を上げてから本当に申し訳なさそうにそう言う。そんな彼に宇佐美が発した言葉は、
「君、誰?」
まぁ、当然と言えば当然だろう。急に変な空間にいて、急に変な青年に深々と頭を下げて謝罪されたのだ。何のことなのかわからない宇佐美は頭で思ったことをついついそのまま口に出してしまった。
「僕はヒビノミライです」
その名前をどこかで聞いたことがある気がして、宇佐美は自分の記憶をたどる。
「宇佐美翔夢さん。お願いがあります」
しかし思い出さない内にヒビノは話を続ける。
なぜ自分の名前を知っているんだ? と、宇佐美は思ったが、ヒビノは構わず続ける。
「無理を承知でお願いします。ウルトラマンになってください」
「……ん? ウルトラマン?」
宇佐美はヒビノが言っている言葉がいまいち理解できずに聞き返した。
「お願いします! 時間がないんです!」
ヒビノは必死になって頼んでくる。
このヒビノとかいう男は自分にウルトラマンになってくれ。と言った。その言葉の意味がどういうことなのかは宇佐美にも理解できる。つまり現在の地球人の敵であるウルトラマンになれということだ。
ん? 待てよ。そういえばヒビノミライって……なるほどそういうことか。
「わかった。でもいいのか? 俺はただの地球人で強くもなんともないぞ?」
宇佐美はヒビノが言っていた言葉をようやく理解してそう言った。
宇佐美のその言葉にヒビノミライは黙って頷いた。
そして次の瞬間、宇佐美は暖かな光に包まれる感覚がした。
前回、次回は本気出す。とか言ってたのにこんなんで申し訳ありません。話が強引ですよね。
そして今回出したオリジナルの怪獣、メガリュームクラスタですが、その内絵をあげるかもしれません(あくまでも可能性の話なのであまり期待はしないでください)。
お気に入り7件、感想二件、ありがとうございます。感想欄では冷静に振るまっていましたが、現実では嬉しすぎて心臓バクバクでした。
この先、より良い話を書けるよう努力をするので、これからもお願いします。
※この話はフィクションであり、実在の人物、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。