ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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四十九話 とあるバーにて

 人間なんて、もう嫌いだ。

 宇佐美は都内のバーでそう思った。

 人間なんて守る必要性ない。どうせ奴らに支配されていてものんきに生きて、のんきに犯罪をやっているような奴に守る必要はない。そんな奴は勝手に死ねばいい。第一、自分はウルトラマンの力を持っているだけでこの力をどう使おうと自分の自由だ。何を捨てようと俺の自由だ。人間はなぜ何も学ばない。学ぶ機会などいくらでもあったはずだ。だというのにいつまでも自分を正当化して、そんなんだから何も学べない。

 守っても、人間はまた争いを初めて人を殺す。今のその世界とその世界は同類ではないのか? 被害者の年齢が広がっただけで根本にある人間の汚れは何も変わらない。そんな人間をなぜ守らなければならない。俺が守ってもあいつらはいつも拒絶した。立場とかそんなこと関係ない。本当に信じてくれてるなら、本当に味方なら、そんなことしないだろ。なぜ俺は自分の身を犠牲にしてまで戦わなければならない? 意味不明だ。なんで俺だけこんなに苦しまなければならない。神というものがもしも存在するのなら、そいつは相当残酷な悪魔だ。一人のただの人間になにをしろっていうんだ。俺はウルトラマンじゃない。ただの人間だ。どうなろうと知ったこっちゃない。拒絶したのは奴らであって俺は助けようとした。鬼と言われても知らない。いつまでも人が助けの手を差しのべていると思うな。掴まないならまだしもひっぱたいたら手を引っ込めるに決まっている。

 昔、教師にこんなことを言われた。『お前らは友の死などを悲しんでいる暇はない。勉強しろ。終わりよければすべてよしって言葉があるだろう?』

 人間とはそこまで愚かだ。昨日まで先生先生、あんたを慕っていた人が生け贄に選ばれてもこれだ。これが人間の本性だ。助ける価値などどこにもない。いくら救っても、いくら奴らのこの地球から消し去れても、汚い大人がいる限りこの世界は変わらない。なぜなら法律を作るのは俺じゃない。政治家だ。

 世界が変わらないというのになぜ人間を助ける必要がある? ないだろ。俺が奴らを殺しても結局人権が人間に戻るなんてことはねぇたんだ。それなのに俺が戦うなんてバカバカしい。知ってるか? 怪獣を殺すのって罪悪感がないわけじゃないんだぞ。自分と……いや、本来は自分よりもデカイ生き物を殺すって怖いんだよ。それすらもわからないやつのためになんで俺が頑張らなくちゃならない。それに俺はもう警察官でもないから市民の安全を守る義務なんてない。なんならそこら辺にいるホームレスと同じだ。

「…………」

 仲間なんて誰一人いない。こういうときって少なくとも誰か一人くらいは寄り添ってくれるものじゃないのかよ。友でも、なんでもいい。誰か一人くらい側にいてくれよ。もう一人じゃ怖いんだ。誰もいなくて、拒絶されて、もう怖い。心が潰れそうなんだ。

 悩みを打ち明けられる人がいない。バカなことを言える人がいない。感情を本気でぶつけられる人がいない。これ以上俺に何をやれっていうんだ。これ以上俺の心を潰さないでくれ。ヒビノ。お前はどうして俺を選んだ。あの場所にはもっとたくさん死んだ人がいた。その中にはきっと俺なんかよりも強いやつがいたはずだ。俺なんかよりも、大切な人が待っている人がいたはずだ。それなのになんで俺を選んだんだ。あの時死んでれば、もっと楽だった。子どもを救ったヒーローとして、後の世代。きっと他の誰かが奴らを倒した後の時代で再現ドラマかなんかがやったかもしれない。

「教えてくれよヒビノ……俺はお前らみたいな神みたいなのじゃないんだよ……言われなきゃわかんねえバカなんだよ」

 やつが応えないことはわかっている。どういうことか知らないが、何もしゃべらないことは知っている。この卑怯者。なぜ貴様は何も言わん。それとも何も言わなければ俺がはいはいとやるとでも思っているのか。ふざけるな。どいつもこいつも、なぜ俺ばかりにこんなことをさせる。お人好しだとでも思ってるのか?

 そんなことを考えながら、宇佐美はグラスに入った酒を喉に押し込んだ。常人では耐えられない量かもしれないが、ウルトラマンの今の宇佐美には関係ない。酒を呑まなきゃやってけない。

「お客さんどうしました? もしかして失恋ですか?」

 へへっ、と笑いながら店主らしき男は言ったが、宇佐美はガン無視する。この男にはどうせわかるまい。こっちがどんな気持ちなのか。

 それにしてもイラつく。こんなことを考えてると自意識過剰だとか思い上がりだとか思うやつが絶対にいる。こっちは真剣なのにごちゃごちゃごちゃごちゃめんどくせえ。

 と、隣に座っていた客が新聞をカウンターの上に置いた。どうやら内閣不信任案が可決されたようだ。それも当然だろうな。自衛隊を総動員して奴らに反逆しようとしたんだから。それに噂によれば特殊作戦群も奴らの基地に突入寸前だったらしい。そして、宇佐美の目にはもうひとつの小見出しが目に入った。それはとても小さなもので、ちゃんと読まなければほとんど見つからないようなほど小さな見出しだ。

『政府 “ウルトラマン„にメッセージ公開 専門家「政府はイカれている」』

「まったく政府は何を考えてんだかね。ウルトラマンなんてあのうざったらしい奴にメッセージなんて必要ないからさっさと殺せと思いますよ。生け贄制度だって廃止しちゃったし。まったく、あのお方たちは心が広いからいいけど」

 店の店主がそう言った。

「……本当にそうですか」

 宇佐美は耐えられなくてそう言っていた。店主が驚いた……というか明らかに非難するような目で見てきた。

「そりゃ、どういう意味で?」

「生け贄に選ばれた子どもがどうなったか、あんた知ってんのか? 生きたくても生きられない。昨日まで当然に思って生きてきた日常がたかが政府からの電話と手紙だけで決まって……あんたにその気持ちがわかるのか?」

「光栄に思っているに決まってるだろう」

 付け足すように、店主はこれだから最近の若者は。と言った。

「選ばれた後、誰からも拒絶されて……誰も助けないんだ。親も親友も教師も警察も」

「助ける必要なんてないじゃないか。誇らしいことなんだから」

 バカなことを言う男だ。と店主がせせら笑った。

「あんたに何がわかんだッ!!」

 宇佐美はグラスを店の床に叩きつけた。派手な音がクラシックがかかっていた店内に響き、中の酒が床を濡らし、店主が驚いた表情をして見ている。

「どうしたんだいお客さん。ああそうか、最近女の子とやれてないのかい? 田舎でさらってきた子どもが店の奥にいるけど。……一発やってくかい?」

 そこから先は、もはや脊髄反射の行動だった。宇佐美はカウンター越しに店主の胸ぐらを掴む。

「な、なんですかお客さん!? 離してくださいよ!!」

 問答無用で宇佐美は店主の顔をぶん殴った。

 店主は壁の棚に当たり、それで酒の入ったグラスがいくつか割れる。

「なんでテメェらはみんなそうなんだよ!! お前ら大人はいつもそうやって……なぜ人を傷つけ続ける!? 何も考えず、なぜお前らは……ッ! 俺がお前らみたいな奴をなんで守んなくちゃいけないんだよ!! ……殺されたくなかったら子どもをさっさと解放しろ!!」

 やっぱり人間はクズばっかりだ。この世界に希望はない。愛はない。未来はない。これまでも、これからも永遠にそれはない。人間が愚かだからだ。お前らはせいぜい奴らに尻でも拭かれていればいい。




 今さらだけどこの話ホントにクズがほとんどだよなぁ。
 本編の補足をすると、この世界では誘拐などはしょっちゅう起こっていて、警察も手におえないほどになっています(行方不明届の数が今の3倍以上はでてる)。ようは暴行など以外にも、この世界の治安はめちゃくちゃ悪いです。弱者が被害にあい、やる側が損をすることがない。25年の間にこの世界はそこまでになっています。

 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。
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