その場所には、ひどく禍々しい何かの存在が感じられる。
それは目から入る情報であり、耳から入る情報であり、鼻から入る情報であり、肌で感じられる情報でもある。
その異様な空間に、人間の姿をした
「さて、というわけで自衛隊の一部が反乱して忌まわしきウルトラマンを匿っているわけだが……どうする? 今のところ日本政府に仲介してもらって交渉してるわけだが、彼らは本気らしい」
イギリス人のような彫りの深い顔立ちのした金髪の男が余裕そうに指を組んで、20人はいる人間の姿をした
その質問に、一人のアジア系の男が手を挙げた。照明の位置上の問題でその顔を見ることはできない。
「どうした? ザラブ」
「チャンスだと私は考えます」
意地の悪いような、とてもずる賢い印象の声が部屋にいた者たちの耳に届いた。イギリス人風の男(以下イギリス人)が首を傾げる。
「それはどうしてだい?」
「ウルトラマンメビウスは今、戦おうにも戦えない心理状況にあると私は考えています」
話が始まった時、部屋のいろいろな場所から、同時にため息を吐かれた。ザラブの話はめんどくさい上に長く、また、思い込みが激しい部分がある。そんな奴の考えることなどたかが知れてる。どうせ下らなくへたくそなことだ。
「だからいま私たちがウルトラマンメビウスを殺すのです。今しかできません」
またいろいろなところからため息が漏れる。
「一つ……質問いいかな?」
イギリス人がザラブに言う。ザラブは困惑しながらも了承するように頷く。これだからナルシストは……という声がどこかで発せられていた。
「その場合、私たちの戦闘できる手段は限られている。……一つは私たち自身が戦う。二つ目はメガリュームクラスタや我々の所有する兵器を使う。三つ目は怪獣にやらせる。しかし現状ではどれも無理だろう。なぜなら一つ目と二つ目については私たちのイメージを下げかねないからやらない。メガリュームクラスタとメビウスが戦う度に苦情の数がすごいからね。そんな喧しい奴ら殺すのが今でも大変なのにこれ以上増えたらめんどくさくなる。三つ目については時間がない。ザラブ、この場で発言をするのならもう少しそこら辺を考えてからにしてもらいたいな。今は支部長がいないからよかっさけど、本当なら殺されてたよ? ……ああそういや君は最近入ったばっかりだから支部長知らないか。あのお方の直属の部下で金髪の白人女だよ。見た目はいいけどありゃ性格に難あるよ。最近はあのお方と一緒にいるらしくて地球を離れてるけどね」
「…………」
ザラブは正論の嵐に黙りこんでしまった。しかしそれは諦めたというわけではなく、怒っているからのようだ。話が途中で変わったことはまだいい。しかし自分の考えをここまで否定したこの男は許せない。
「ならば私たちはここで何もしないのですか!? こんなチャンスを!」
ザラブのその言葉にイギリス人は表情を曇らせた。ザラブがとてつもなくめんどくさい性格だからだ。
「なら好きにしたらいい。ただし我々のイメージを下げるような真似をすれば、例え誰だろうと許さない。それを忘れないでくれ」
「わかりました。必ずメビウスを殺します」
そう言い、ザラブがその部屋からまるで光の粒子の如く消えた後に、イギリス人はこう言う。
「さて、ここからが本題だが、私から君たちへ提案する。今回の日本国自衛隊の反乱について、こういったことがまた起こらないとは限らない。……だから、私は思う。制裁を加えるべきだと。ここまでで意義を唱える人はいるかな?」
誰も何も言わない。意義なしと捉えていいようだ。
「よし。ならば今回、反乱した自衛隊を跡形もなく消し去る。そして……――」
誰かが唾を飲む音が聞こえた。それを確認して彼はにっこりと無垢に笑う。
「日本人を10000人くらい殺そうか」
それは、本当に、それをまったく残酷とも思っていない者が浮かべる。本当に子どものような笑顔だった。
宇佐美は起きてから一時間が経とうとした時、部屋の隅にあるテレビに気がついた。
今まではずっと考えていたし、横になって天井を見ていたので気づかなかったのだ。
宇佐美がリモコンを探すと、それはすぐそこ……枕の横に置いてあった。
宇佐美はとにかく何か楽しいことを考えたくて電源をつける。すると、そのチャンネルは今ニュースをやっているようだった。
『――また、あのお方たちの補食を邪魔したことからも、ウルトラマンの可能性が高いとホワイトハウスは……ニュースの途中ですがこ、ここで速報です。陸上自衛隊の一部が反乱し、ウルトラマンを匿っている事件に進展があったようです』
…………?
ニュースキャスターの言ったことに宇佐美は首を傾げた。
言っている意味がわからない。ウルトラマンを匿っている? どういうことだ? まさかヒカリのことなのか?
意味がまるでわかっていない宇佐美を知らないニュースキャスターはそのまま続ける。
映像が切り替わり、そこはどこかの自衛隊基地を少し離れたところから、ドローンかヘリコプターで撮影したものらしかった。
『えー、いま映っている映像は、えー、ウルトラマンメビウスが匿われている……練馬駐屯地の映像です』
今テレビでやっている事件がよほど……それこそ日本の一大事ということはニュースキャスターの慌てようを見ればわかる。原稿を持つ手が震えているからだ。
『反乱した練馬駐屯地の情報によりますと……えー、現在、練馬駐屯地のすべての部隊……そして陸上自衛隊の特殊部隊、特殊作戦群の一部が……練馬駐屯地の隷下に入っているとのことです。これに対し政府は重大な反乱行為と見なし、陸上自衛隊の全部隊。そして、えー海上自衛隊、航空自衛隊の一部に、防衛出動命令を……えー、発令しました。また、このことについてあのお方たちは、全日本人に……制裁を加えることを……決めました』
そしてまた映像が切り替わる。
そこはどこかの採石場のような場所だった。そこに蟻のようにいる無数の人々がいる。その表情はどれも暗く、まるで希望をなくしたようだった。
『えー、10000人の人たちがこれから、制裁をうけるとのことです。えー、あのお方たちは制裁を受ける人たちを解放する条件としてあのお方たちは、ウルトラマンメビウス、ウルトラセブン、そして反乱に加担した自衛隊員全員の身柄引き渡しを要求しています』
その映像に映っている人は、子どもが八割ほどを占めていた。おそらくこれは奴らからのメッセージなのだろう。
奴らは知っているはずだ。宇佐美が子どもを見捨てられないということを。そしてセブンもそれは同様。
外道がッ!
心の中で怒り宇佐美は歯ぎしりをした。
こんなこと、まともな奴らのやることじゃない。それを改めて認識させられる。
――もう一度思い出して。
頭の中にあの少女の声が木霊する。
どうやって思い出せばいい。俺はどうすればいい?
その時、頭に強い衝撃がくる。割れるように頭が痛くなり、宇佐美はベッドから転げ落ちる。
その末に、脳に何かが映った。
子どもが泣いていた。
自分の運命に抗う術をもたぬ子どもが、号泣していた。
宇佐美は悟った。ああ、これは今、奴らに殺されようとしている子どもたちだと。
「いやあぁぁあぁあぁぁぁあぁ!!」
泣き叫んでいる。
涙を流し、泣き叫んでいる。そんな子どもの周りで異形の者たちが高らかに笑っている。
「だずげでぇぇえええぇぇぇ!!」
泣いていた。
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」
狂ったように中学生がひたすら呟いていた。
「神様ぁ……」
静かに泣きながら、消えてしまいそうな声で少女が祈っていた。
宇佐美にはそれが今、奴らに殺されようとしている子どもたちの声だとわかった。
そして宇佐美は目の前で起こる光景に戦慄した。そして、情けない自分に怒り、涙を流すことしかできなかった。あまりに自分は愚かだった。
※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。