ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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六十三話

 そいつは、突如として練馬駐屯地近くに出現した。

 淡い橙色の光と共に現れたそれは、まるでウルトラマンメビウス。しかし、よ~く見るとどこかメビウスと違う。いわゆる偽ウルトラマンメビウスだ。

 突然現れたそれに、自衛隊員たちは何もできない。

「ジェアッ!」

 偽メビウスは右手を左腕に着いているメビウスブレスに添えたかと思うと、そのまま右手を前につきだし、メビュームスラッシュを放つ。それを受けた紅白色の電波塔は木っ端微塵に破壊される。

 そしてその偽メビウスはなぜか自衛隊を攻撃しようとしなかった。ただ、逃げ惑う人たちを殺す。

 家を蹴っ飛ばし、その瓦礫の下敷きとなって人が死ぬ。その中にはカメラを構えたテレビ番組を社員たちがいた。偽メビウス――いや、ザラブ星人は知っているのだ。この国で、この姿で誰を殺せば最も国民の感情を煽ることができるのか。それは自衛隊員でも、無垢な一般市民でもない。テレビ局の社員だ。

 社員が死ねばテレビ局は怒り、それに対して大きく報道する。そうすれば日本人はそれがとてつもなくヤバいことなのだと感じざるをえなくなり、国民感情は煽られる。

「ジェアッ! ジェアッ! ジェアッ! ジェアッ! ジェアッ!」

 紫色の光弾が次々と発射され、そしてその数だけ建物が壊れていく。町は炎に包まれ、その中でザラブ星人はにやりと笑う。

 そして少ししてから自衛隊が偽メビウスに攻撃を始める。110mm個人携帯対戦車弾(LAM)や155mm榴弾砲、03式中距離地対空誘導弾が攻撃を始める。

 偽メビウスはそれを受けると一瞬怯むが、自衛隊の方には見向きもしない。

 町を破壊し、人を殺す。

 そして上空を飛び回っていたマスコミのヘリコプターを落とす。生放送でその映像を取っていたために、落ちる直前までの映像は全国に放送された。

 それは本物のメビウスではないのだが、しかしよ~く見てみないとその違いはわからないために、マスコミはウルトラマンメビウスが町を破壊していると発表する。

 すべてザラブ星人の思惑通りだ。こうすればもはやウルトラマンに味方する者は半永久的にでなくなる。社会的に抹殺されるということは、例えいつの時代、その対象がどんなにどんなに強くても痛いのだ。

 見る人が見れば、これを卑怯な手と言うのだろう。

 真っ向から向かって相手を倒すのではなく、楽に町を壊し、人を少しばかり殺すだけでウルトラマンを殺したも同然になる。

 しかし、この作戦は穴だらけと言っても過言ではない。

 先ず、この作戦はメビウスが戦わないことを前提に行っている。つまり、メビウスが変身してザラブ星人と戦うことになれば、数週間くらいの混乱はあるかもしれないが、結局あれはたちの悪い宇宙人の作戦だったということがバレてしまうのだ。

「……お前はどうするんだ。メビウス」

 人々の悲鳴の中で呟かれたその言葉は、昔、沈み行くある島を守れなかった……そして今は何もできない男の独り言だった。

 

 宇佐美は、黙々と準備をしていた。

 だらしなく、ボロボロになった服を、神原が持ってきてくれた半袖ワイシャツと新しいズボンに着替え、出口近くにある水道で顔を洗い、頬をぱしぱしッと叩く。やる気満々である。

 誰かに見させられたあの映像には、宇佐美に闘志を宿らせるだけのものがあった。思い出せることがあった。

 まだ曖昧ではあるが、おそらく、守りたかった。それがウルトラマンになった理由だ。この腐った世界を変えるため、もう誰にも悲しい思いをさせたくないから、ウルトラマンになったんだ。

 戦いはいやだ。戦いたくない。だって怖いし、痛い。ウルトラマンが降ってきたあの日、普通に楓を見捨てて、その後を普通に生きるという選択肢があった。できればそっちのほうがよかった。でも、もう仕方ない。あのときにはもう戻れない。一度やってしまったことが消え去ることなんてない。例え自分が忘れても、変わることなんてありゃしない。

――背負っていくしかないんだ。自分のやったことすべてを。

 それが、責任というやつなのだ。人生を一瞬によって決めるもの。あの時の自分にはそれがわかっていなかった。真に戦うという意味を。戦いというのは時として泥沼に突入するということも。何も理解していなかった。

 でも、知らなかったじゃすまされないのが、この世界なんだ。

 その時、誰かが鉄製の扉を開けて入ってくる。迷彩柄の戦闘服を着た神原だった。神原は言う。お前の偽者が現れた。戦ってくれ、と。しかし宇佐美は首を縦に振らなかった。

「身勝手だってことはわかってる。奴を見過ごしちゃいけないこともわかってる。でも、俺には別に行かなきゃいけないところがある……」

 宇佐美だって、目の前に出現し、今も人を殺す偽者を許すことはできない。しかし、自分にはもう一つやるべきことがあるのだ。10000人を守るという。それは急がなければマズイことになる。それが正義の味方のやることかと言われれば、宇佐美は違うと言うのだろう。だって、これは一方を見捨ててもう一方を助けるという、正義の味方は絶対にやらない行為だからだ。でも、現実を見ると、両方を助けるのは到底不可能だ。奴らはメビウスを見た瞬間に見せしめとして処刑を開始するだろう。そうすれば10000人は確実に死ぬ。しかし目の前のそれは、自衛隊が戦えばある程度は被害を抑えられる。

「頼む神原……奴は、偽者はお前らに任せたい」

 神原は迷った。

 奴の性格からいったいどこに行こうとしているのかは見当がつく。それに、覇気が戻ったその目は、戦う覚悟が戻っている目だ。しかし、自衛隊だけでやつと戦うことができるだろうか。海上自衛隊や航空自衛隊の支援があれば話は別だが、現状としてはわからない。そしてあの偽者はおそらくあのお方たち(神原たちは偽者の正体がザラブ星人。つまりあのお方たちの仲間と知らないため、まだ推測の段階である)だろう。しかし、果たしてやつがあのお方たちだとして、わざわざ死ぬようなことをするのか? そんな命を捨てるような行為までをしてウルトラマンのイメージを下げたいのか? 今でさえ地下にあるウルトラマンのイメージを?

 それはないだろう。つまり偽者は適当なところで引き上げるはずなのだ。ならば、戦うのは少し楽になる。防衛だけに力を回す。それでいい。でも、これは何かがおかしいのだ。バカな計画だ。ウルトラマンの姿をしていれば集中攻撃を受けることが目に見えているというのに、この行為はメリットよりもデメリットの方が多い。全く持って幼稚な作戦と言わざるを得ない。

 だがそれだとしても今メビウスの協力を得られないのはつらい。

 相手はそれでも宇宙人だ。油断するわけにはいかない。それに今の俺の判断には部下の自衛隊員の命もかかっている。しかし――、

「行ってこい。宇佐美。ただ――」

 神原は宇佐美の表情を見直す。凛々しいその表情ならば、今は何の心配もないだろう。

「ヒーローになれ」

 宇佐美は少し考えた後、静かに頷き、こちらに背を向けた。そして左腕にメビウスブレスを出現させる。

「メビウースッ!」

 宇佐美が左腕をコンクリートの天井につき出した瞬間、部屋を淡い……そして太陽の生命力のように強く、優しい光が包み込み、その光の強さに神原は思わず目を瞑り、更にそれを腕で隠した。

 そして、光が消え去った後、神原は目を開けるが、当然そこには自分以外誰もいない。そんな空間で彼は呟く。

「戦ってくれメビウス。ヒーローになってくれ。人を守るために」

 その声はきっと誰にも聞こえていなかった。でも、神原はそれで構わなかった。それは、自分の個人的な願いだったから。

 

 少女はその空間で、宇佐美の決意を感じていた。

 狐の面をかけたその下の表情は、誰にもわかることはない。しかし、微かに……ほんのちょっぴり、嬉しそうだった。

 少女は人間ではない。『星の声』と呼ばれる、地球そのものの一族だ。その姿、最初こそ凛々しいものであったが、しかし時代の変化とともに星の声のあり方も変わり、代を重ねるにつれどんどん人間に近い姿となっていき、先代の星の声が役目を終えたために今はこの少女こそが星の声となっている。地球そのものということがあり、人間の干渉を受けやすいのだ。こんな姿になったのは……おそらく日本人のオタク文化のせいだ。

 今まではいきなり可愛くなった自分の姿に困惑した。明らかにロリだし……日本人を恨んだものだ。しかし、それがこの間になって始めて役にたった。やはり大人に頼むのは同じ大人よりも子どもの方がいい。おかげでウルトラマンの闘志を再び甦らせることができた。

 悪いことをしたとは思っている。これ以上、身も心もボロボロな彼に戦わせるなんて残酷以外の何でもない。でも、今はもうなりふりかまってられない。

 許して。宇佐美。

 少女が胸の内で言った言葉は誰にも聞こえるはずがなかった。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。
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