ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 四脚好きの新作、『相反する2人のIS転生記』の連載がスタートしました。自分もある程度手伝いをしておりますので、読んでいただけると嬉しいです。


六十四話 解放

 彼ら彼女らは、いつ死ぬのかわからないという絶望の縁に立たされていた。

 誰もが誰も、泣いている。絶望している。

 彼ら彼女らは、あのお方たちが制裁と称してこれから殺す子どもたちだ。

 ある者は家で休んでいたところを、ある者は部活をやっていたところを、ある者は友達と遊んでいたところで、突然訪れたあのお方たちのしたっぱに拐われ、暗く、埃まみれの建物の中にほおりこまれた。

 悪夢かと、誰もが思った。自分は悪い夢を見ているだけで、そのうち悪い夢から覚め、またいつもの日常に戻るのだと。でも、それは違った。これは悪夢でもなんでもない。れっきとした現実(リアル)なのだ。それがわかったとたん、例え子どもであっても、漠然とした。ここまで明確な死を目の前に突きつけられて、そうならないはずがない。そして死にたくないあまり、泣き続ける。

 助けが来るはずがないことは、よくわかっている。

 ここの護衛についているのは、メガリュームクラスタ10体。子どもの目から見ても誰も自分たちを助けられないということは明らかだった。

 部屋の中には、大便と尿と汗の嫌な臭い……それから宇宙人の性液の臭いで充満していたが、死ぬかもしれない彼ら彼女らにはもはやそんなことは気にならない。神経なんてものは当の昔にその機能を停止してしまっている。部屋の隅っこでは宇宙人が人間にイタズラしているが、助けるなんて自殺行為をできる人はいないし、気にする者もいない。笑い声と泣き声だけが建物に響き渡る。ずっと聞いていると狂いそうなほど大音響で、それが永遠と続く。

 助けが来ることは絶対にない。あり得るはずがない。しかし、それでも彼ら彼女らは思う。

――誰か。誰でもいい。助けてくれ。助けてッ!!

 強く……強く願う。

 昔、テレビの中にしかいなかった正義のヒーローの助けを。

 絶対的に強く、人を守るために戦い、見返りを求めず、優しく、どんなに傷ついても諦めずに戦い続ける。そんな、フィクションの中にしか存在しない正義のヒーロー。

 そんな存在を、彼らは心の中で強く求めた。

 ずっと……ずっとずっとずっとずっとずっと! ……しかし、そんな正義のヒーローは存在しないのだ。死に行く自分たちのために命をかけて戦ってくれるヒーローなど、どこにもいないのだ。こんなに願っても、助けを求めても、現れてくれないのだから。

「おい、処刑開始だ。番号1から300は来い」

 宇宙人がそんなことを言い、ここに来た時に配られた紙に書かれた番号が1から300の人間はすぐに宇宙人に着いていき、外に出る。

 そこは今はもう使われていない採石場のようで、風が少し吹くだけで砂が高らかに持ち上げられていた。

 そして、彼ら彼女らの視線の先に、大きく口を開いてこちらをじっと見つめる怪獣の姿が見えた。彼ら彼女らは察する。これに今から食われるということを。

 これから死ぬということがわかるというのに、恐怖は訪れなかった。しかし、蛇に睨まれた蛙の如く、何も考えられなくなった。頭が真っ白になる。

 怪獣から粘液質な涎が垂れて、地面に落ちてそれが跳ねる。怪獣のニヤケ顔が見えた。

 しかし、次の瞬間、空に太陽が現れた。

(イメージBGM:Final Wars!)

 いや、太陽は別の方向にある。しかし、真逆の方向にも太陽によく似た赤い光球が現れたのだ。その姿に宇宙人を含めた全員がそれを見て動けなくなる。

 だが、すぐにメガリュームクラスタが赤い球体を迎撃する態勢をとる。その次の瞬間だった。

 赤い球体は大きく鼓動するかのように辺りを大きく光で包ませる。あまりの眩しさにみなが目を瞑る。そして、目を開けると、そこには太陽のような赤いラインの入った巨人。ウルトラマンメビウスが仁王立ちしていた。

 だが、彼ら彼女らは恐怖する。

 それもそうだ。この世代は情報操作をもろに受けたのである。ウルトラマン=悪の方程式が出来上がっている。

 でも、それも数秒で終わる。

 メビウスは迷うこそなく、怪獣に戦いを挑みに行った。

――ウルトラ……マン……。

 誰かからそんな声が漏れた。

 ウルトラマン。とても暖かい言葉。

――正義の……正義のヒーローだッ!!

 誰かが叫んだ。それを始まりとして周辺がざわめきだす。監視を命じられていた宇宙人は突如として現れたウルトラマンにパニックしてその場にちょこんと座っている。

 

 メビウスは、その場に降り立つと、すぐに大口を開けている怪獣。テレスドンに向かって走り、その体を掴むと攻撃態勢をとりつつあるメガリュームクラスタ向けて、投げる。

 テレスドンの皮膚はナパーム弾でもびくともしないほど硬い。そんな化け物並の硬さを持った怪獣が、ただの機械の塊にぶつかればどうなるのか。

 テレスドンが命中したメガリュームクラスタはその重さのあまりに後ろに倒れこみ、そしてそのまま潰されてぺちゃんこになり、紅蓮の炎とともに爆散した。そしてテレスドンも皮膚が硬いばかりで内部は柔らかいので、落ちた衝撃で内臓がぐちゃぐちゃになり、絶命した。

 残るはメガリュームクラスタ9体のみ。メビウスはメガリュームクラスタに向かって素早く走る。

 それは決して少なくない数だ。この間だって2体のメガリュームクラスタ相手に宇佐美は苦戦していた。しかし――、

「セヤッ! ハアァァァアアアッ!!」

 滑るような素早い動きで尻尾を掴むと、そのまま力いっぱい引き、そのまま勢いにのってきたらぐるんぐるんと回す。つまりジャイアントスイングだ。

「ヤアァッ!」

 ほどよいスピードに乗ってきたところでその手をパッと離した。

 遠心力によって速められたスピードは予想以上で、メガリュームクラスタは遥か遠くへと吹っ飛ぶ。あれだけの速度であの高さから落ちれば鉄屑になるのは免れないだろう。

 その時、別のメガリュームクラスタが、奴らの特徴の一つである触手をメビウスの腕に絡ませ、強い力で引く。

「――!? ……ッ! セヤァッ!」

 一瞬バランスを崩しかけたメビウスであったが、すぐに踏ん張ると、その触手を全力のチョップで叩き切った。

 その次には横からまた別のメガリュームクラスタが突っ込んでくるが、メビウスは冷静に判断し、腕に絡まれたままだった触手を乱暴に投げ捨てると、その腹に強力な蹴りをいれる。それによりメガリュームクラスタはなん歩も後退する。

 宇宙人たちは困惑する。

――この強さ。明らかに今までのメビウスの力よりも強い!

 メビウスが以前よりも強くなっていることは、誰の目から見ても明らかだった。以前とは比べ物にならないほどに強くなっている。

 まだ無傷のメガリュームクラスタ2体が同時に口から光線を放つが、メビウスはその場にしゃがんでいとも容易くそれを回避。その後、前転して2体との距離を縮めると2発のメビュームスラッシュを放ち、それはオレンジ色の光を発しながら2体に命中。たったそれだけで2体のメガリュームクラスタは壊滅的被害を受ける。

 実質的に戦闘が可能なのはもう6体しかいない。しかも1体にはもう触手がない。

 メガリュームクラスタたちはメビウスから距離をとり始める。それもそのだろう。たった一つの存在に、こんな短時間で部隊の半数近くを壊滅させられたのだ。勝ち目などあるわけない。

 そして残り6体のメガリュームクラスタは羽を羽ばたかせて空を飛翔する。

 だが、戦争において撤退する部隊をはいそうですかと逃がす軍隊がいないのと同じくメビウスも、奴らを逃がすわけない。

 メビウスは右手と左手を胸の前で地面に対して平行に交えて、そのまま数学でいう弧を空中に描きながら両手を頭上にもっていくと、メビウスの頭上には(インフィニティ)の紋章が浮かび上がる。その後、メビウスひ勢いよく両手を十字に組んだ。

「ヤアァァァァァァッ!!」

 メビウスの手から放たれた光波熱線――メビュームシュートは空中で動き回る大気を切り裂き、凄まじい勢いでメガリュームクラスタたちに迫っていく。

 彼ら(メガリュームクラスタ)は雲を抜けたところで見た。

 まっすぐと、ぶれることなくこちらに迫ってくる一筋の光を。

 直後、それを受けたメガリュームクラスタたちはなす術もなく爆散した。

 それは、10000人の人たちが、死の運命から脱した瞬間であった。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。
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