ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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 土日を使って広島に行ってきました。
 平和記念資料館にも行ったんですが、やはり考えさせられるものがありましたね。


六十五話 父親として

 練馬駐屯地の外、双方の自衛隊員たちがにらみ会う中、二人の男が前に進み出た。

「陸上自衛隊、東部方面隊、第32普通科連隊、連隊長、小野倉1等陸佐です」

 その男は戦闘装着セットを身につけており、その目の前に立っている神原の印象は、なかなかの切れ者だ。というものだった。一目見ただけでそう思わせるほどの雰囲気が、その男から出ていた。

 神原は、静かに敬礼する。

「陸上自衛隊、東部方面隊、第2普通科連隊、神原佑1士です」

 神原はまた静かに敬礼していた手をおろした。

「神原1士、君が本事件の首謀者だな?」

 小野倉1等陸佐は落ち着いた様子でそう言ってきた。それに対し、神原は「はい」と答えた。

「自分が本作戦の首謀者です」

「自分が何をやったのか君はわかっているのか?」

 その言葉に、神原は息が詰まった。

 自分がやらかしたことはわかっている。

 自衛隊とは本来、国を守るためにあり、自分の守りたいものを守るためにいるのではない。そして、敵兵が目の前にいるにも関わらず、撃つなと言われれば、黙って死ぬのが自衛隊だ。

「……自分は、自衛官として失格だと、わかっています。やってはいけないこそをしたことは……わかっています」

「なら、なぜ1士はこんなことをした」

 威圧的でもなく、優しくもない抑揚で小野倉は神原に尋ねる。

「日本を、世界を守るためです」

 迷うことなく、神原は言った。その目には確かな覚悟が感じられる。

「どういう意味だ?」

「自分は、あのお方たちが日本をいずれ滅ぼすと思っています。だから――」

「建前はいい。本当のことを言いたまえ」

 神原の言葉を遮ってそう言う小野倉は、どこか神原を試しているようだった。

 やはり切れ者だ。神原はそれをまじまじと実感する。この人に嘘をついたところですぐにバレるだろう。

「国は国民によってできます。しかし彼らは昔から理不尽に人を殺してきた。本当の真実を伏せて、人間にウルトラマンは悪だと決めつけた。そして自分たちは正義の味方のフリをしています。それが、ゆるせませんでした」

「君は政治家にでもなったつもりか?」

 少し笑いながら小野倉は言った。バカにされているのが嫌というほどわかった。ここまであからさまにバカにされたことは中学生のとき、X+3Xを間違えた時以来だ。神原は口の中をぐっと噛んだ。

「――だが、一理ある」

 突如聞こえたその声は、まるで幻聴か何かのように聞こえた。自分がいうのはあれだが、テロリストの言うことを少し認めたのだ。しかし、幻聴なんかではない。本当の声だ。

「本来なら1士たちは敵であり、倒さねばならぬ敵であるが……宇宙人撃退のため、力を貸してほしい神原1士」

 そう言って小野倉が右手を差し出す。

「よろこんで!」

 神原もその手を掴み返し、二人は握手をした。

 

 

「ところで神原1士。()()はウルトラマンメビウスなのか?」

「いいえ。奴は宇宙人が化けたウルトラマンの偽者です」

 その言葉に小野倉は少し考えた後、こう言う。

「その言葉を証明できるものは?」

「ありません」

 なるほど、と小野倉は頷いた。

 そんな行動を、神原は不思議に思う。

 やつがウルトラマンかどうかということはこの際どうでもいいはずである。そんなことよりいま重要なのは、宇宙人を倒すことなのだ。

「我々自衛隊は宇宙人撃滅の任務を受けていない。先ほどは自衛権によって攻撃することができたが、それも必要最低限度のみにとどめられている。このままでは我々はやつをすぐに倒すことはできない。しかし我々にはウルトラマン駆除法がある。神原1士、悪いがあれを我々はウルトラマンと判断する。そうすれば最大火力で叩くことすら可能だ。悪いが部下たちにもあれはウルトラマンと言っておく」

 その言葉に神原は迷った。

 軍事や兵器などというものへのアレルギーが凄まじい日本という国の民は、おそらくそのくらいの理由がなければ、非難の嵐を受けることになるだろう。そうなれば、今はよくとも後々めんどうなことになる。あんなのをウルトラマンと呼ぶのはしゃくにさわるが――、

「わかりました。やつはウルトラマンです」

「なら、今から作戦を説明する」

 

 とある県、とある市、とある病院。

 楓は、ぼーっ、と外の景色を眺めていた。

 そして同時に考えてもいた。

 それは、人の魂とはどこから来るのか、だった。

 ある人は、人が死んだら幽霊になると言い、ある人はまた子供になって新しい人生を送ると言う。

 しかし、どちらも矛盾が生じる。

 人の魂が幽霊になるのだとしたら、人口はどんどん減るはずだし、子供になってまた新しい人生を送るのだとしたら、人口が増えるはずがない。これらを可能にするものがあるとするのなら、どこかに魂のストックがあるということだ。

 でも、それはさすがにこじつけだと思うから、魂がどこから来て死んだ後はどうなるのかはまるでわからない。というか、考えれば考えるほどわからなくなってくる。

 その時、ふと楓はなぜ自分がこんなことを考えているのか不思議に思った。

 ()()()()()()()()()()は、こんなことを考えるような人じゃなかったはずだ。こんな哲学的なことは大嫌いでなるべく考えないようにしていた記憶がある。しかし、なぜか今の自分はまるでそれが普通かのように哲学的なことを考えていた。

 その時、病室のドアが引かれ、廊下から優しそうな顔をした男が病室に入ってくる。

「お父さん……」

 その男は楓の父、義人がいた。義人は楓の姿を見つけると、頬を上げた。

「大学、どうしたの? まさか……サボった?」

 その言葉に義人は豪快に笑う。

「いやいや、そんなことしたら怒られちゃうよ」

 そう言い、義人は「ちょっと抜け出してきただけ」と付け足した。

「それ、サボりと変わんないじゃん」

 楓はだらしない父親がおかしくなって笑う。

「それで、お父さん。今日はどうしたの?」

 楓がそう言うと、義人はちょっと引き締まった顔に変わった。どうやら真面目な話をするようである。

「楓、お前は本当に生け贄に選ばれてから入院するまでのことを覚えてないのか?」

「うん。そうだよ」

「なら……ウルトラマンメビウスが渋谷に現れたことについても何も知らないのか?」

 その言葉を聞き、楓は頭を巡らせる。

 はて、なんのことだろうか? まったくもってわからない。

「ウルトラマンってあの悪名高いウルトラマンでしょ? 私が寝てる間にそんなことがあったんだ」

 その言葉を聞いた義人の表情は、暗くなった。

 そして自分で言ったくせに、なぜだか楓も心が苦しくなった。

 この時、楓は知るよしがなかったが、義人は迷っていた。

 楓に真実を話すべきなのか、それとも黙っておくべきなのか。

 黙っていれば、楓はこれからの人生を普通に送ることができる。一度テレビで報道されたせいで全国に顔写真が出回ってしまったが、楓はまだ中学生だし、まだまだ顔は変わっていくはずだ。しかし、真実を話してしまえばそうもいかなくなるだろう。

 この地球そのものを変えてしまうかもしれないという存在と一緒にいたことが、どれほどの心の負担になるのかまるでわからない。もしかしたらノイローゼになり、精神安定剤が必要になっていくのかもしれない。

「どうしたの? お父さん?」

 義人は、目の前で心配そうにこちらをのぞきんでいる楓の顔をチラッと見て、すぐになんでもない。と言った。

――やはり、言えるわけがない。

 こんなにも素直で優しい自慢の娘に、本当のことなんて言えるわけがない。

 やろうとしていることは、人間として失格かもしれないが、父親としては合格のはずだ。きっと、そうなのだ。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。
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