ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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六十六話 アパッチ

 炎に包まれた町の中、ザラブは耳障りな音を捉えてその方向を向いた。まるでヘリのローター音のようなそれを、ザラブは報道ヘリの類いだと思い、少し喜びながらのことだった。

 だが、そこにいたのは、報道ヘリなんて生易しい物なんかではない。

 2機のスラリとしたその姿は、まさしく空飛ぶトカゲという感じだろう。

 しかし、それはトカゲなんてやわな生き物とは比べものにならないほどに強い。

『1番機、2番機。武器システムフルオープン』

 無線機から聞こえる声がいつもより遠く感じる。

 初めての実戦の興奮とは、こういうものなのか。

 陸上自衛隊の隊員であり、このヘリ、AH-64Dアパッチの攻撃系統のものを扱う射撃手(ガンナー)三枝木(さえき)1尉はそう思い、ニヤリと無理した笑顔をつくる。

「了解。武器システムフルオープン」

 こちらを見るウルトラマンは、どこか戸惑っているように見える。

 間抜けな表情してやがる。まるでこのアパッチが現れることを想像していなかったかのように。だが、もしそうだとしたらこいつは相当のバカだ。ウルトラマン駆除法くらい普通知っているはずだ。

『1番機、2番機。いつでも撃て』

「了解」

 自分で言ったその声が聞こえ、M230 チェーンガンをウルトラマンに撃つべくボタンに指をかけたところで、三枝木の脳裏には1人の少女の顔が浮かんだ。

 ウルトラマンが降ってきたあの日、瓦礫の下敷きとなって今も意識不明の状態にある三枝木の娘だ。

 まだ16歳だ。女房と渋谷に行ったばっかりに、まだ16という年だというのに、もう何ヵ月も意識が戻っていない。こんな理不尽なことがあるか?

 病院で目を覚ました女房は泣きじゃくっていた。自分のせいだと自分を責めて、今では精神安定剤と睡眠薬なしでは生活できないほどになってしまった。

 全部目の前のこいつのせいだ。こいつのせいで俺の娘と女房はああなった。

 アパッチが偽メビウスの姿を完璧にロックオンする。

――その命をもって、娘と女房に謝りやがれッ!!

 三枝木の目に映るウルトラマンが待ってくれと言わんばかりに戸惑って、両手を前につき出した瞬間、アパッチ二機のM230機関砲からマズルフラッシュとともに毎分650発の速さで死の弾丸が発射される。

 それはウルトラマンの皮膚を容赦なく抉っていき、そしてまた、ウルトラマンがわずかに動いて外れた弾丸は、地上にある家を跡形もなく粉砕していく。

 ウルトラマンの体からはバケツをひっくり返したようなおびただしい量の血が町に降り注ぐ。それはそれはとてもぐろい場面で常人ならいともたやすく失神するだろう。しかし三枝木は違った。

 彼はまるでその光景を見ることが悲願だったかのように狂った笑みを浮かべている。

『……ばんき……1番機、攻撃やめ!! 聞こえないのかッ! 攻撃やめ!!』

『三枝木1尉! 撃つバカッ!!』

 司令部からの声と、後ろの座席に座るパイロットの声が聞こえて三枝木はハッとしてトリガーから手を放した。

『何があった! 状況を報告せよ』

『聞こえてませんでした』

 三枝木がそう言うと、無線からはうるさい声が聞こえてきたが、三枝木は眼科に広がる光景を見てそれどころではなくなっていた。

『……どうした? 1番機、2番機オクレ』

 突然こちらの声が聞こえなくなったのをおかしく思ったのだろう。そんなことを聞いてくる。

 だが、三枝木たちはそれどころではない。なぜなら、眼科に横たわるその死体は――、

「ウルトラマンじゃ……ない?」

 そこにあった死骸は、ウルトラマンメビウスにはなかった黄土色っぽい皮膚をもった宇宙人のものだった。

 

 真っ暗な空間。会議室ほどの大きさ。

 あのお方たちは集まっていた。

「さて、ザラブは身勝手に動き、意味不明な作戦をして、自爆したようなものだったけど……。まぁなんだい? あれは傑作だったねぇ」

 今、代理で地球支部を治めているイギリス人風の男がそう言って、ザラブのバカっぷりにクスクスと笑う。それに釣られて会議室の中の者たちは全員笑い、その場は異様な雰囲気に包み込まれる。

「まぁ、私たちあのお方たちとしては、いくら味方が身勝手に暴れたからといって、謝罪したり、あるいは何もしなかったりしたらメンツが潰れちゃうなけなんだ。だから、我々のメンツのためにも、ザラブを倒してくれ……じゃなかったね。倒した自衛隊はもともとだけど、日本国をさらに追加して、この2つを完璧かつ徹底的に潰さなきゃなんない。ここまでで、意義がある者は?」

 誰も手をあげることはない。これは全員賛成と受け取っていいだろう。

「なら、続けるよ。今回はメガリュームクラスタを使わない。使うのは戦闘機だ。メガリュームクラスタを使えば簡単に潰せるけど、最初から全力でやったら非難されかねないからね。まぁできるなら戦闘機だけで制圧したいところだけど。それから、在日米軍は攻撃しないよ。あの国は自分の国の国民が死ぬとめんどくさいからね。とまぁこんな感じだよ。反対は?」

 誰も、何も言わない。

 無垢な笑みをイギリス人は浮かべた。

「なら、決まりだね」

 そして、イギリス人はすぐに困ったような顔をする。

「で、そちらのお客様は誰かな?」

 イギリス人の視界の先には、1人の黒人の男がいる。だが、その男は問題ではない。そいつは幹部の1人だ。問題はその男の横にいるニホン人だ。我々には強すぎる光りを持っているくせに、それよりも深い闇を持っている。

「俺は磯崎健二。またの名を、ウルトラマンヒカリ。今日は悪魔に魂を売りにきた」

 おもしろいことになってきた。

 イギリス人はただ1人、にやけるのだった。




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。
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