ウルトラマンが、降ってきた   作:凱旋門

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七十四話 勝者の迷い

 紫色の空、無機質な岩しかないその空間は、いるだけでエネルギーが吸いとられてしまっている。

「ここはどこだ?」

 ゼロは不安感から答えが返ってこないとわかっていることをわざわざ口に出した。

 そしてやはりその声は空間に吸い込まれていっただけで誰も答えを返してはくれなかった。しかし、ここが危険だということはわかっている。おそらくここは光の戦士にとって危険な場所だ。

「…………ッ!?」

 だが、ゼロはその時バッと振り返る。自分以外誰もいないはずの空間。それなのにゼロは確かに何者かの気配を感じていたのだ。

 金髪で少しパーマがかかり、そしてメガネを着用しているイギリス人風の男。来ている服は半袖ワイシャツにネクタイ。そして下はスラックスを履いている。

「まったく、今に面倒なのがニホンに来られたら困るんだよね」

 そいつが、今この地球を代理で治めている者だということを、ゼロは知らないが、その体からあふれでる禍々しいオーラからそいつが危険だと判断したゼロは、身構える。

「上からも君を殺すように指示がでてる。ホントならしたっぱがやる仕事だけど――」

 そこまで言いイギリス人風の男は満面の笑みを浮かべる。

「君らウルトラ族に敬意を表して、私が相手をしてあげよう」

 イギリス人風の男はそう言うと、まるで黒い筒のような物をどこからか取り出し、空に掲げた。そう。その光景はまるで絆の戦士が変身するときのように。

 まがまがしい紫色の光が、その空間を包みこむ。

 ただでさえ強かった闇の力が、さらに、そして急速に強まっていく。そしてその闇が、紫色の光へと集まっていき、その巨大な姿が形成されていく。そして一瞬その光が強くなったかと思うと、その姿が完璧に構成されていた。

「お、お前は……ッ!!」

 ゼロはその姿に驚愕するしかなかった。

 なぜなら、その姿はまるで……

 

――まるで、ウルトラマンだった。

 

 真っ黒で、赤い目をもち、全身には血管を思わせる赤いラインが通っていて、胸にはYを思わせるエナジーコアがある。

 かつて、M80さそり座球状星団の異星人「来訪者」と呼ばれる者たちが、スペースビーストと呼ばれる化け物と戦うため、かつて母星をビーストから救った光の巨人「ウルトラマンノア」を模して作り上げた最強の最終兵器「ウルティノイド・ザギ」

 今、今の段階のゼロが絶対に戦ってはいけない闇の巨人が、そこにいた。

 

 日本海。

 艦隊の艦艇らはもはや発射ボタンすら押さなくともミサイルなどを発射できる全自動射撃モードを使ってあのお方たちの航空勢力を壊滅状態まで追い込んでいた。

 一時はあのお方たちの航空機の接近を許し、ファランクスでを使用するといったひやひやする場面もあったが、どうにか被害はほぼなしでここまでこれた。

 そしてここまで来れば誰もが同じことを思っていた。

「弱すぎじゃ……ないですか?」

 しかし、その言葉にはかすかに緊張が含まれている。

 25年前。圧倒的な力を見せつけ、地球を征服したあのお方たちにしては弱すぎる。だから、誰もがこれで終わりではないはずだと判断し、緊張していたのだ。今こそは勝てたが、今度はこっちが全滅に追い込まれる。

 しかし、それも案外いいのかもしれない。そもそも自分たちは政府の命令を無視してこの戦闘を行った。帰ったところで待っているのは……

 どっちにしろ死か、それに近いものが待っているのだ。だとしたら軍人らしく戦場で死んだ方がかっこうがつくだろう。

 自衛隊は軍隊ではない。という声が我々が守るべき日本の主張だ。しかし、それは違う。我々は軍隊なのだ。事実、外国のほとんどの人たちは自衛隊を軍隊と捉えている。なぜなら、彼らの知っている中に自衛隊などというややこしいものは存在しないからだ。

 だから、我々は軍隊なのだ。先制攻撃を封じられ、犠牲がでて初めて必要最低限の防衛が許される最弱の軍隊。いくら性能がよくたって、いくら使命感があったって使いこなせなければ意味がない。他人を思いやる気持ち? 笑わせるな。戦場でそれを考えたらところで真っ先に死ぬだけだ。

 だから我々がした行為は軍人としてはよくても自衛隊員としては失格だということは我々が一番よくわかっている。だが、果たして奴らに我々の常識は適用されるだろうか? 我々は降りかかる火の粉を払った。しかし、そもそも奴らは人間ではない。宇宙人だ。その同じ宇宙人であるウルトラマンには先制攻撃はおろか駆除さえ認められている。

 なら、殺してしまえ。奴らは人間ではない。化け物だ。世界がやらない。政府がやらない。誰もがやらない。ならば我々軍隊が独断でやる他にないだろう。戦えるのは我々だけなのだ。

 世の中には、暴力での解決は悪と決めつけている人もいる。しかし、本当にそうだろうか? 事実として、長きに渡り植民地となっていた国々はまだ発展途上で、アメリカなど戦争で勝ったことがある国は裕福になっている。つまり、我々は暴力によってこの地位と平和を勝ち取ってきたのだ。目の前の現実から目を反らし、理想ばかりを追い求めていては、バカになるだけだ。だから、我々のしたことは正しいのだ。

「目標、全機撃墜」

 しかしなぜなのだろう。

 正しいことをしたはずなのに、戦闘とはなぜこんなにも……こんなにもむなしいものなのか。

 

 渋谷。

 俺はきっと悪くない。

 再びぼろぼろとなった渋谷の町で宇佐美は自分に言い訳をしていた。

 俺は悪くない。

 人間を殺してしまったという恐怖から、宇佐美は自分にそう言い聞かせていた。

 心臓の鼓動は速まり、体は寒気がするのに、頬を触ってみるといつもよりも断然暑い。そして頭は既に考えることを放棄しようとしているのか、うまく働こうとしない。

 心臓が鼓動をする度に体が震えて、鬱陶しかった。止めてしまいたいと思った。

 俺は、弱い。

 殺る前までは人間を殺すことなんてなんともないと思っていた。仕方ないことだと割りきれると思っていた。しかし、現実は違った。俺は弱い。大丈夫だと思っていたのに……思っていたというのに……こんなにも強い罪悪感が残っている。倒すべき敵が宇宙人から人間に変わっただけだというのに、苦しいのだ。

 誓ったはずなんだ。ヒーローになると。俺はウルトラマンなのだと。正義を行ったはずなのに、なぜこんなにも苦しいんだ? どうして自分はこんなにも……。

「くそおおおおおおおおおおお!!」

 気がつけば、叫びながら自分を殴り付けていた。

 わかっている。本当はわかっているのだ。あの時ですら、まだ自分は磯崎を友として、仲間として見ていたことを。その気持ちを強引にねじ伏せて、俺はヤツを殺したのだ。

 あいつはやり方こそ間違っていたが、根っこは間違っていなかった。理想に頼るしかない俺なんかよりもずっと立派だった。わかっていながら……俺は、それが気にくわなかった。誰かが死んで作られる未来は……もう誰かが死ぬのはたくさんだった。みんなで作れる未来を――叶うことがないとわかりながらもその未来を――夢見ていたのだ。

 誰か俺に教えて欲しい。俺のやったことは間違っていたのか? それとも正解だったのか? 間違っていたなら俺はどうすればいい。殺した命は元には戻らない。

 人間は勝手だ。人はこの行為をきっと正義と称するのだ。大量殺人をした宇宙人を倒した正義の行為だったと。こっちの気持ちもしらないで、奴らはそう言う。教えてくれ。俺は正しかったのか?




 ※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。
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