電車を使用するだけの金も節約したかった宇佐美は、仕方なしに歩いて首相官邸まで向かっている。自分が情けなく思えるが、仕方がないことだ。
東京のおかしなぐらいに多い人の数も、警察官をやっていたからか、もう慣れてしまった。
宇佐美はゆったりと、地面を踏みしめるように歩いた。そして人混みの中で、誰かと目が合った。
宇佐美は思わず足を止め、その誰かを凝視する。
制服からして私立小学校の女の子。その姿はどこかで見たことがあるものだ。
どこで見たことがあるんだ? 宇佐美はそう思い記憶を辿る。
見た感じは小学四年生……だろうか? その少女はこちらをじっと見つめて、驚いた顔をしている。人混みの多い場所で大人と女子小学生の両者が見つめ合ったまま微動だにしない。というおかしな空間が数十秒続いたのち、少女が突然に宇佐美に駆け寄ってきた。
「あ、あの」
少女が少し緊張した様子でそう言っても、宇佐美はその子が誰なのかわからなかった。記憶がまるでヘドロに埋まってしまっているかのように、思い出せない。
「う、ウルトラマンさん……ですよね?」
少女は不安げにそう言う。確認するように、どうかそうでありますように、と、願いをこめるかのように、少女は言った。
しかし、どう答えればいいのだろうか? こんな人の多いところで、自分が「はいそうです。自分がウルトラマンです」なんて言ったら人はたちまちパニックになることだろう。しかし違うと言うのは、なんだか嫌だった。
すると、こちらが戸惑っていることに気づいたのか、それとも何か他の原因があるのか、少女はハッとした表情をした。そしてその後に急に笑顔になった。
「あの時は助けてくれて本当にありがとうございました」
それだけ言うと、少女は一礼して駆けだしていく。しかし何を思ったのかこちらに慌てて戻ってきて、そして何かを押し付けると、くるりと向きを変えて逃げるように去っていった。そこでようやく宇佐美は少女が誰なのかを思い出す。
そうだった。確かウルトラマン駆除法を知ったその日に路地裏で助けた女の子だった。
そして遅れて宇佐美の胸はジーンとした。自分のしたことを覚えてくれていて、それに感謝をしてくれた。こんな町中で、あの弱気そうな少女には大変だったはずなのに。
宇佐美は押し付けられた物を見る。それはかなりの年月使われたような古いお守りだった。
まだ終わりじゃない。まだ俺はやれる。ウルトラマンを信じる人はまだいるのだ。その人たちの意思を裏切らないために、やれることをやろう。
宇佐美は確かな覚悟と溢れんばかりのやる気とともに、首相官邸へと急いだ。
ブライアン中佐は今日は休日で、近くの公園へと訪れていた。
別に自分が走り回ったりするわけではない。ただ、青い芝生の上で寝ると、最高に気持ちがいいのだ。そして、聞こえるのだ。
子どもが幸せそうに笑う声、カップルがたのしそうにしている声、何気ない親子の会話、それが最高に好きだ。なんだか、幸せを分けてもらっているみたいで、微笑ましくなる。
その時、唐突にブライアンのスマホが音を鳴らした。着信だ。
「もしもし」
『ブライアン中佐、たたちに基地にへ帰投せよ』
「何かあったんですか?」
『それは言えない。しかし、これは大統領命令だ』
何もわからぬままに言われたその言葉は、ブライアンを動かすのには十分だった。
※この話はフィクションであり、実在の人物、団体、国家などとは何の関係もありません。そして、もしも誤字などがありましたらご報告をお願いいたします。感想お待ちしています。