第15話
「直りそうか?」
「まあどうにかな。腕の方がちょいと時間がかかるかもしれんが」
低軌道会戦から数時間後オレはマードックと格納庫のジンの前にいた。低軌道会戦での戦闘にてオレはイージスとブリッツを相手に戦ったのだが、それによりジンは装甲の至る所にビームの焼け跡が残り、左腕にランサーダートが貫通。スラスターは片方が使用不能という状態になってしまった。
アークエンジェルは原作と同じくザフト勢力圏内のアフリカ共同体へと降り立った。この艦に乗る前に調べた情報ではやはり砂漠の虎ことアルドリュー・バルトフェルドはこの辺りに陣取っているようで今夜にでも襲撃をかけてくる事が予想される。なのでできるだけ早く修理を完了させてほしいのだが…
「できれば早めに直してもらいたいんだが…」
「無茶いうなよ。ただでさえジンのパーツがこの艦には置いてないんだ。ここまで損傷してちゃ修理を手早く済ませるなんざでっきこないぞ」
マードックに修理ペースの短縮を催促してみるがこの調子である。自分でもわかってるんだがな……先遣隊とクルーゼ隊の戦闘の時に武器だけでなく機体自体も奪っておくべきだったか…。
「早く直したいんならちゃんと手伝ってくれよ?」
「はいよ」
まあ、仕方ないしやりますか。いざという時出れませんではマズいからな。
数時間後、マードックが休憩がてら飯を食べてこいというので夕食を採る事にした。格納庫を出て食堂へと辿り着いたが、まだ誰もいないようで食堂には誰もいなかった。
定食を注文し、一人でもくもくと食事をしていると
「よう」
食堂にムウがやってきた。ムウは自分の分のメニューを注文した後それを受け取りオレの前の位置の席へ座った。ムウは自分の分を食べながらこちらへ話しかけてきた。
「お前も休憩か」
「ああ。これを食べ終わったらまた修理の為に格納庫に戻るよ」
「結構被弾してたしな。すぐに直すのは無理っぽいか」
「敵もいつくるかわからないし、できるだけ早く万全の状態にしときたいんだがな…」
オレもムウも同意見だったようで二人同時に頷く形になった。ムウはその後溜め息混じりにこう切り出した。
「そうなんだよな…。しかし、また面倒な所に降りて来ちまったもんだな俺達」
「…アフリカに落ちる原因になったのはオレ達なんだが」
「…わかってるさ、…中尉には色々キツく言われたしな」
そう、アークエンジェルがアフリカ共同体に降り立ったのは、大気圏に突入してしまったオレ達を救助する為に予定していたルートを外れオレ達がいる付近まで近付いたのが原因だ。
そのためオレとムウは戦闘終了後主にナタルに色々と言われる羽目になった。ムウはブリッジの指示を無視した事に関して、オレは命令違反は冒していなかったので特に言われる事はなかったが向けられた視線がかなり痛かった事は言うまでもないだろう。その上あいつの事に関してオレだけでどうにかしろと言われるし……まあ、言われなくても相談には乗ってたけどな。
「……よく何の罰則もくらわずに済んだなって思うよ」
「だよなぁ。まあ中尉も意外と優しい面があるからかな」
「ん、そうか?」
「いや、俺も最初はそんな事は思ってなかったんだけどな。数日前に避難民の子供が泣いていたのを中尉があやしていたのを偶然見つけてな」
「へぇ。ホントに意外だな」
「ああ。ぎこちない様子だったけどいつもの厳しい感じとは違った印象を受けたな」
ああ、そういえば原作に似た感じの場面ってあったか。バルトフェルド隊がこの辺りのレジスタンスの住居がある町を焼き払った後位に。忘れていたってのもあるがナタルは基本的に模範的な軍人気質だからそういう面があるなんてのは想像もつかない。人っていうのは他人にはあまり見せない一面があるんだなって改めて実感したよ。
そう考えていると食堂の扉の辺りから足音が聞こえてくる。振り向くとそこにはミリアリアとトールの姿があった。
「あっ、フラガ少佐、悠凪さん」
二人はオレ達の存在に気付くと早足でこちらがいる方までやってくる。二人の様子を観察すると何やら真剣な面もちでおり、どうやら何か聞きたい事があると見え、それも余程の事らしい。特にオレを見ていた様だったので恐らくはあいつの事だなと予測がついた。
二人はオレの元へ来るとトールがまず最初にこう切り出してきた。
「あの、すいません悠凪さん。聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「何だ」
「キラの事です。あいつ、地球に降りてきてからずっと部屋に籠もったままなんです。この艦に残ってるのも驚きましたけど、あいつ見るからにとても落ち込んでて……、一体キラに何があったんですか?」
「何故オレに聞く。直接本人に聞けばいいだろうに」
「そう思って一回聞いてみたんですけど、キラ、とても辛そうな表情になったまま黙り込んで何も言ってくれなかったんです。……それで、キラが戦闘前に最後に会ったのが悠凪さんだって聞いて何か知ってるかもって思ったんです」
……戦闘後、色々忙しくて会えてなかったがまだフレイの事を引きずっていたか。まあ、そう簡単に割り切れる奴ならアスランとの事で悩んだりなどしないんだろうがな。
それにしても、あの事を二人に話すべきか否か。これを話したら学生組とフレイの亀裂は決定的なものとなるな。奴の婚約者であるサイもこの事が耳に入ればさすがにフレイとの縁は切るだろう。しかし、そうなれば奴はこちらを逆恨みしてとてつもない事を仕出かす可能性がある。幾ら何でも考え過ぎな気もするが、キラを自身の思うがままにする為だけにあんな事まで仕出かす女だ。考え過ぎて損をするという事はあるまい。それと奴を止めた理由は原作のように学生組の面々の関係を昼ドラみたいなドロドロした雰囲気にしない為にやったんだ。ここで事の顛末を話して原作と似た、いやそれ以上の関係の悪化に繋がる事はしたくない。
「確かに知っているが、それはあいつのプライバシーに関わる。オレからは話す事はできない」
「話せないって………、じゃああいつの事どうしてやったらいいんですか!」
「いや、あいつの事はオレに任せておいてもらいたい」
「えっ…」
「事情を知っている者が相談に乗った方がいいだろう。それにあいつの事はブリッジの方からも頼まれててな。まあお前達は大船に乗ったつもりでいてくれればいい」
「で、でも…」
二人の顔を見ると、何だかとても不安そうな表情になっていた。まあ、キラとの付き合いが短いオレに任せて大丈夫なのかというところか。
「大丈夫じゃないか? 坊主、悠凪とは結構話はするし、事情はよく知らないが坊主がお前らに話せないとなるとよっぽどの事なんだろうよ。だからここはこいつの言う通り事情を知ってる奴の方が適任だと思うが、どうだ?」
ムウはオレ達の会話に割って入りオレのフォローにまわってくれた。ムウの言葉を聞いて二人はどうするかを協議する為こちらに断りをいれてから少し離れた場所でこちらに聞こえない位の声で話し始めた。それなりに時間がかかそうだったので、その間食べかけだった夕食を食べていた。
少しした後どうやら答えを出したようで二人はまたこちらへやってきてトールの方が代表して口を開いた。
「あの…、キラの事よろしくお願いします」
「ああ、わかった。安心しろ、ちゃんとキラの事はどうにかしとく」
その後、二人はどうやらブリッジの当直の交代に向かう途中だったらしく慌てた様子で食堂を跡にした。
残ったオレとムウはまた食事を再開させた。そんな中ムウが余程気になったのかキラの件に関して聞いてくる。
「しかし、お前ブリッジの時もはぐらかしてたけど、坊主の学友のあいつらにも話せないような内容なのか?」
「いや、あいつらに言ったようにプライバシーの事が理由の一つでもあるが……、これを話すとまた今とは別の厄介な事を引き起こすだろうと予想したからだ」
「厄介な事?」
「ああ。まあ、話さない事で結局問題が起きるのなら本人の許可をとって話すつもりではいるがな」
「そうか。まあそういう事なら俺ができる事は何もないしお前の判断に任せるがな」
「そうしてくれ。じゃあ、ごちそうさん」
夕食を全て食べ終えたオレは立ち上がり、トレーを片付けた後食堂をでようとする。
「おう。修理もキラの事も頑張れよ」
後ろから聞こえてくるムウの激励の言葉に手を振る事で答えオレはその場を跡にした。
全く、オレにはつくづく厄介事ばかり降りかかるらしい。まあ、それでもどうにかするしかないがな。
もう日は沈み、寝始める人もいるであろう時間帯。やっとジンの修理が一段落したオレはキラの部屋へと向かっていた。
「出来ればもう休みたいところだかな…」
通路を歩きながらついそんな事を呟いてしまう。だが、何もしない訳にはいかない。自分で巻いてしまった種だ。オレ自身の手で収拾をつけねばならないだろう。
当初オレはここまで事態を悪化させるつもりはなかった。今更言い訳じみているだろうがオレは先遣隊を、しいて言えばジョージ・アルスターを死なせずにフレイ・アルスターごと地球に帰ってもらうつもりだった。先遣隊の任務が終わればジョージ・アルスターは地球に帰る予定であり、それにフレイも嬉々として同行していただろう。
キラはフレイ・アルスターに食堂の一件で奴の本音を洗いざらいぶちまけさせればフレイの事は諦め、もう少し付き合う女子をちゃんと選ぶようになるんじゃないかなどと期待していたのだが、結果は今の状況。
キラは控え室でのフレイへの態度からして多分まだ奴への恋心を持っていたと思われる。そして今も。フレイの方はジョージ・アルスターが原作と同じく死んでしまったのでやはり復讐心からキラを自分の思い通りにしようと行動した。
それ自体はそうなる寸前で止める事に成功したが、キラは深い傷を心に負ってしまった。放っておくという選択肢もあった。しかし、それをしてしまうと昼ドラ展開に直行が確定する。あんな胸糞悪い状況に陥ってしまうとわかっていてそれを放っておく事はできなかった。
そんな事を考えながら歩いているとキラの部屋の前へと辿り着いた。オレは扉の横に設置されているインターホンから中に呼びかけを行う。
「キラ、いるか?」
だが、インターホンには何の返事も返ってこなかった。しかし、この程度で諦める事はできない。許可はとっていないが部屋へと入る事にした。
「…入るぞ」
扉を開け部屋に押し入ると中は明かりがつけられておらず真っ暗闇の中顔を伏せた状態でベッドに座っているキラを発見した。
暗いままというのも話をするのにはどうかと思うので部屋の電気をつける。蛍光灯が部屋の中を照らし出しベッドにいるキラの姿もはっきりとわかるようになった。そのキラの状況はというとついさっきまで泣いていたのか目は赤く腫れていた。
「入っていいのか返事位は欲しかったんだが…」
こんな状態にしてしまったのはオレに非があるとはわかっているが、まずは話を切り出さない事には何も始まらないのでオレがこの場で一番自然な流れで会話に持っていけると思える言葉を使う事にした。
「…すいません」
「……いや、まあ別にいいけどよ。それはそれとして悪かったなあの時は」
「えっ?」
「昨日の控え室での件さ。お前が部屋に閉じこもってるって聞いて余計な事したかなって思ってな」
「………」
キラは何も答えない。オレは何も言わず壁にもたれ掛かりながら返事を待つ。少しした後キラは口を開き始めたが、それは聞き捨てならない内容だった。
「…そんな事ないです。ただ…」
「?」
「……フレイがああなったのは、僕があの時フレイのお父さんを助ける事が出来なかったからなんだろうなって…」
「何?」
キラは一旦言葉を切ってから、ポツポツと自身の思いを口にしていく。
「僕はあの戦いの前にフレイに言ったんです。僕もいくからフレイのお父さんは大丈夫だって。それなのに、フレイのお父さんはあの戦闘で死んでしまって…僕はその時何もできなくて…」
「……」
「だから、僕はフレイに恨まれても仕方ないんです。約束したのに、絶対に大丈夫だって言ったのに、助ける事が出来なかったから……」
…こいつ、あの件を自分のせいだと思ってるのか? いくら約束したとはいえそれはない。そりゃあオレもあの時何もできなかったのは責任を感じているし後悔の念も未だにある。が、あの戦闘で先遣隊を助ける事ができなかったのは誰か特定の一人のせいなんかではない。それだけは断固として言える。
「言っておくがそれは違うぞ」
「違うって…どういう……」
「言葉通りの意味だ。先遣隊を助ける事が出来なかったのはオレやお前も含めあの戦闘に関わったアークエンジェルのクルー全員の責任だ」
「全員の…責任」
「そうだ。お前はイージスと戦っていてジョージ・アルスターの乗っている艦を守っている余裕などなかった。お前が悪いっていうならあの艦と比較的近い位置にいたオレの方がよっぽど責任があるさ」
「………」
キラはそんな事思いもしなかったのだろう。こちらを見たまま目を丸くして開いた口が塞がらない状態だ。
「あの戦闘はお前以外にもオレやフラガ少佐、アークエンジェルだっていたんだ。何か戦況に大きく作用する程の重大なミスを冒したんならまだしも、お前は必死にイージスと戦ってただけだ。それでお前だけが悪いなんて言う奴はいないさ。いるとしたらそいつの方が間違ってる」
言葉を一度切ってキラの様子を見てみる。キラはオレに言われた事に何か思う部分があるのか少し考える素振りを見せた後唐突にこんな事を言い出した。
「悠凪さん」
「ん?」
「…あの戦闘の後、フレイに言われたんです。相手が同じコーディネイターだから本気で戦ってなかったんだろうって」
「あいつ……」
やはりあの戦闘の後キラに対してそんな事を言ってやがったか。詰めが甘かった、こんな事になるんならもっと介入しておくべきだった………
キラの発言を聞いてフレイへの怒りがますますこみ上げてきたがキラの発言はこれで終わりではないようなので一旦それは置いておく事にした。
「でも……多分それは間違ってなかったと思うんです」
「……」
「僕は、……イージスと戦っている時、心のどこかでイージスと戦うのを躊躇していたんじゃないかって思えて」
「何故そう思う」
「………それは」
キラはその続きを口にするのを躊躇っているようだ。まあこちらとしてはその理由はわかっているから無理に追及するつもりはないがな。
言わなくても構わないと言おうとするが、その前にキラは決心がついたらしくその先を言い始めた。
「イージスのパイロットは僕の、……昔の友達なんです」
「…!」
「小さい頃月で暮らしていた事があって、その時仲が良かった子がいたんです」
「…そいつがイージスのパイロットか」
「はい…、名前はアスラン・ザラ。彼がプラントに行ってからこの戦争が始まって、連絡も取れなくなりました。アスランは戦争を嫌っていたからザフトには入らないと思ってたんです。なのに…」
「戦場で再開する事になったという事か」
キラは首を縦に振る事で肯定の意を示す。しかし、何故オレなんぞに話す気になったのやら。これってキラにとってかなり重い問題だった筈だよな…?
「だが、仮にお前があの戦闘でイージスと戦うのを全く躊躇していなかったとして果たして結果が変わったのか?相手は正規の訓練を受けた軍人で、片やお前はストライクを動かせたから戦闘に参加させられている一般人だっただろう。心の持ちようだけで結果が変わる程イージスのパイロット、アスラン・ザラは弱い相手じゃないだろうに」
「それは…そうですけど……」
「それにな、フレイ・アルスターの言った事は完全なる八つ当たりだ。奴が本来恨むべきは先遣隊を襲ったザフトだけで、味方であるお前に恨みをぶつけていい道理はない。お前を復讐の為の道具にする事もな」
「………」
「まあ、それでも自分の事が許せないってんならオレから言える事はもうない。ただ、お前何でオレにそのアスランって奴の事話してくれたんだ?」
「それは…よく、わかりません」
「わからない?」
わからないって、何故だ? 友人達にも秘密にしてきた程の事だ。オレなんかに話したからにはそれなりの理由があるものだと思ったんだが……
「ただ何となく、悠凪さんには打ち明けてもいいんじゃないかなって思ったんです。何でそんな風に思えたのかは自分でもわかっていないんですけど……」
本人がわからないってどうなんだろうか…。もしかして信頼してくれてるとかは………無いな、うん。
「……まあいい。ちょっと不思議に思って聞いただけだしな。それよりもお前はこれからどうするんだ?」
「どうするって……」
「お前はあのシャトルに乗らずにここに残った、その時点で民間人として艦を降りるという選択肢を捨てたのと同義だ。つまりお前は軍人として扱われる」
「…それって、戦わなきゃいけないって事ですか」
「少なくとも副長達はそうさせたいみたいだな。ストライクという戦力を格納庫で寝かせておく訳にもいかない状況だからな」
「そう…ですよね」
キラも今の状況はある程度わかっているようだ。だが、未だに戦う決心はついていないようでその表情は暗い。
…やはりオレは余計な事をしてしまったのだろうか。
「別に強制という訳じゃない。戦いたくないというんなら整備班を手伝うとかそういう仕事もある」
「僕は…」
「…まあいいさ。答えを急がせることはしないが、これは避けては通れない選択肢だ。そして後戻りもできない。それを踏まえた上でよく考えておくといい」
「…はい」
ふと時計を見やるといつの間にかかなり時間が経っていたようだった。次の戦闘の為にも少しは睡眠をとっておくべきか。
「時間が時間だからな、オレはこれで失礼させてもらうよ」
こうしてキラの部屋を退室し、オレは自分の部屋に戻っていった。
ヴー!ヴー!ヴー!
深夜、日付も変わりあと数時間で日の出を迎える時間帯。突如アークエンジェル全域にアラームが鳴り響いた。
予め敵襲がある事を知っていたので睡眠は少しだけに留めあとは起きて待機していたのだが、敵の方もこんな夜遅くにご苦労なことだ。
部屋を出て控え室へと急ぐ。控え室へはそこまで時間を掛けずに辿り着く事ができ、すぐさまパイロットスーツに着替え今度は格納庫へ向かう。
「装備はどうするんだ。悠凪の兄ちゃん!」
格納庫へ到着したオレの元にスパナを持ったマードックがやって来る。装備に関して聞いてきたが今回は敵の土俵である上に数でこちらが劣っている。いや、数ではどちらにしろ終始こちらが劣っているがそれはさておき、そんな状況下で火力のないジンが勝つにはできる限り素早く敵を討つしかないな。
「通常の装備で構わない。身軽にいきたいからな」
「了解。坊主はもう乗り込んでるぜ」
「何?!」
キラがストライクに乗り込んでるっていう事はあいつ戦う気になったという事か?
気になったオレは詳細を確かめる為すぐにジンに乗り込みストライクへ通信を繋いだ。
「ちょっといいか」
『何ですか?』
モニター越しで見たキラの様子は部屋で見た時とは違って不安定な感じは全くなく問題ないように見えた。だがまだだ。安心するのはまだ早い。
「キラ、お前…いいのか?」
『…はい、僕も戦います』
「…あの時も言ったが、もう後戻りはできないぞ。構わないのか」
そうキラに訪ねる。これからの戦いは熾烈を極める。今回のように何かある度に落ち込んでいてはとてもじゃないがやっていけないだろうからな。
『あの後考えてみたんです、この艦に残った理由を。…僕はただトールやミリアリア、皆を守りたくてあの艦に残ったんだって』
『……フレイの事で一回逃げてしまったけど、あの時の自分の気持ちを嘘にしたくありませんから』
そう語ったキラの顔は迷いの類は見られず決意に満ちた表情だった。
…一瞬、こいつ性格こんなだっけ?と思ってしまったがこれならもう大丈夫だろう。
「決意は固まったみたいだな、ならもう言う事はない。…頼むぞ」
「はい!」
キラとの通信を切った直後、激しい揺れが格納庫内を襲う。敵の攻撃を迎撃してその内のいくつかが被弾した衝撃だろう。早く出撃する為直接ブリッジに許可をもらう事にした。
「ブリッジ、今すぐ出撃許可をもらいたい!」
この通信に出たのはミリアリアだった。オレの通信を聞くやいなやミリアリアはすぐにマリューにこの事を伝え始めたが、何やらあったらしく慌ただしい事になっているようだった。
「何があった?」
『あ、いえ。キラが出撃するとブリッジに通信を…』
なる程、キラも許可をもらう為に通信を入れたか。そりゃ今までショックの余り部屋に籠もってたのにいきなり戦う気になったのは驚くだろうよ。
「キラなら心配はいらない。決意も固まってるみたいだし、もう大丈夫だ」
『はい。あの…』
「ん?」
『キラの事、ありがとうございました』
いや、原因がオレにもあったからなんだけどな。あいつの相談にのったのは。
その後ブリッジでの話はまとまったようでミリアリアからその旨が伝えられる。
『出撃許可が出ました。リニアカタパルトまで移動させます』
「了解」
ジンはリニアカタパルトに固定され、いつでも出撃可能な状態になった。さて、久しぶりの地上戦だ。あちらはこちらの事を地上戦を経験した事がないだろうと思っているだろうが、例外がいる事を教えてやろう。
「ジン、悠凪・グライフ出るぞ!」