東方孤狼録   作:Mochi屋

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転生

俺が最期に見た光景は眩い光だった。

その日、しがないサラリーマンである俺はいつものように上司と先輩に嫌みを言われながら退社した。

外は横殴りの大雨が降っており、遠くでは雷鳴が聞こえている。

 

「ったく、ついてねぇわ」

 

散々な一日に対する愚痴をこぼしながら、駅へと向かう。

駅には多くのサラリーマンやOLがごった返しており、満員電車になることが容易に想像できた。

満員電車に揺られることおよそ30分。

社員寮のある駅に俺は降り立つ。

雨は先程に比べ強くなっており、雷もかなり近い。

 

「ほんと、ついてねぇわ」

 

本日二度目の恨み節をこぼしながら、雷雨降りしきる中を小走りで社員寮に向けて走る。

駅から社員寮までは少し離れているため、一旦公園の大きな木の下で雨宿りすることにした。

俺は木の下で雨宿りをしながら、空を見上げる。

雷音とともに、眩い閃光が俺の網膜を襲う。

...そういえば、雷が鳴ってるときに木の下にいるとやばいんだっけか。

俺はふと思い出して、社員寮までの最後の行程を踏破するために飛び出そうとする。

その時、今までとは比べようもないくらいの眩い閃光と雷鳴があたりの空気を引き裂く。

それと同時に俺の身体に今まで感じたことのない違和感が襲う。

雷が落ちたのだ。俺の身体に。

 

「...全く、ついてねぇわ」

 

薄れゆく意識の中で再三の恨み節を呟いて、絶命した。

 

 

それから自分の亡骸がどうなったか分からない。大方、次の日の朝に散歩している近所のおじさんかおばちゃんにでも発見されるだろう。

さて、普通に日常を過ごす人であれば誰しも死んだ後のことなど考えていない。それは俺も同じだ。

今はただただなされるがまま、何もない真っ暗な空間を漂い続けている。

しかし、怖いという感覚は一切なく、むしろ心地良く感じる。

 

どれくらいの時が経ったであろうか。

もう真っ暗な空間にこのまま溶けてしまうのではないかと思ったときに変化は訪れた。

距離は分からない。だが目の前に一筋の光が見えた。

俺は導かれるようにその光の方向へ向かう。

そして光がだんだんと強さを増していき、全てが白へと変わる。

 

気が付くと俺はまた暗い空間にいた。

ただ先程の真っ暗な空間とは違い、ところどころ光が差し込んでいる。

俺がそこは洞窟であると認識するまでには時間は掛からなかった。

 

(ここは...?)

 

地面が異様に近かったからおそらく寝そべっていたであろう。周囲を確認するために立ち上がったとき一つの違和感が湧き上がる。

視線が異様に低いのだ。自惚れではないが、慎重については日本人男性の平均くらいあると自覚していたのでおかしいと気付いたのだ。

自分自身の身体に視線を向けたところでようやくその理由が分かった。

 

(なんだこの毛むくじゃらの身体は!?)

 

深々と降り積もる冬の新雪を思わせるような真っ白な毛が視野一杯に飛び込んできた。

事態が上手く飲み込めない俺は、さらなる情報を集めるために洞窟の中にこだまする水音の方向へと歩みを進める。

自分自身が思うほど身体が言うことを聞かないので多少驚きつつも、一歩一歩進む。

水が少し溜まっているところまで辿り着き、水面に自身の姿を確認する。

あどけなさが残る小さな犬のような動物が映り込んでいた。いや、顔立ちからするとオオカミだ。そして特徴的なこととして雪のような柔毛に加え、深い緋に染まった二つの双眸であった。

 

(オオカミの子どもか...。しかもいわゆるアルビノっていう変異種)

 

自分自身の姿を確認して俺が何者であるかを明確に出来たはいいものも、何故俺はオオカミになったのか皆目検討が付かない。

しかも、何故こんな洞窟にいるのか。辺りを見回していると、先程横たわっていたであろう場所の近くに動物の死骸が数体置かれているのが見えた。

大小様々だが、どれも食い散らかされたような感じではない。

その光景を見て、俺の直感が働く。

 

(なるほど捨てられたのか...。あの動物の死体はせめてもの餞別というわけか)

 

野生においてアルビノというのは様々な面でデメリットが多く、個としては勿論のこと群れで生活するオオカミにとっては目障りな存在となるだろう。捨てて当然と言えよう。

まだおぼつかない足取りで動物の死骸の近くまで移動する。

 

(とはいえ、そのまま坐して死ぬつもりはない。形は異なれどまた生を与えられたのだから精一杯生きてやる!まずは身体を大きくしなければ)

 

動物の死骸を食べるというのは人間の時であれば決して考えられなかったが、今は何としても生き残るという意識もあってか、ウサギのような小動物に食らいつく。

 

それから幾許かの時間が過ぎる。

アルビノという特性上、陽の光は身体にとって決して良いものではないので主に夕方から夜の間が中心になり、また極力他のオオカミに接触しないよう心掛けた。他のオオカミの縄張りは"直感"で入ったら面倒ということが分かったために上手く避けて生活することが出来た。

そんな隠居生活を経て早20年。成体になってから19年の刻が経過している。

俺はオオカミの寿命が分からないが、近親種である犬の寿命から見ると既に大往生というべき年齢に来ている。

 

(俺もそろそろ寿命かな...?)

 

そんなことは思うものの、一向に身体が衰えていくような感覚は一切ない。

寧ろ何か分からない力がどんどん湧き上がってくるようだ。

それからまた5年の刻が経過する。あいも変わらず身体は衰えていない。完全にオオカミとは違う別の何かになっている気がしたが、それが何なのかは今現時点では分からない。

25年という時間を一人で過ごして来たが、そろそろ飽きが出てきた。

 

(今更他のオオカミと交流を持つなんてのは考えられんしな)

 

他のオオカミから逃げるように生きてきた俺にとってはその選択肢は無きに等しい。

そこで俺は以前人間であったことをふと思い出す。

 

(変な期待は持たない方が良いが、興味はあるな)

 

オオカミに生まれ変わってからというものの、色々と山を歩き廻ったが一切人間には遭遇したことがなかった。

 

(25年間暮らしたこの場所を離れるのは少々名残惜しいが、旅に出るとするかね)

 

思い立ったら吉日。俺はその日の夜、人間たちの住む場所を見つけるために旅立った。

 

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