がっこうぐらしの中には危険人物が潜んでいるようです   作:犬LDK

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脅威がゾンビだけだと思うなよ~。
味方が一番脅威ってことも考えうるんだかんな~、な気持ちを持って書こうと思った。

昨日深夜のテンションで書き上げたものを投稿。続く気がしない。


ういてんぺん・ぜんぺん

 最初にそれを見たのは、いつだったか。

 死人が生者を襲い、生者は死人から逃げ纏う。死人は生者を襲うことで死人(どうるい)を増やし、生者は生者(なかま)だったものに襲われて死人(きょうい)へと成り果てる。

 

 その世界では死が死を増やしていく。

 そして死に堕ちたものは止まることなく覚束ない足取りで何を求めるわけでもなく歩き続ける。

 

 そこは紛れもなく地獄で、死が支配した世界だった。

 

 

 

 ――さて、一人の男子高校生について語ろう。

 

 何もかもが変わってしまうと知っていたはずの男の物語を。

 

 

***

 

 

「―――くらくん、佐倉くん?」

 

「……ん?あ、はい」

 

 顔を上げると、俺の席の前に現代文の先生が少し怒った顔でこちらを見ていることに気づく。

 やばい。おもいっきり聞いてなかった。

 先生は溜め息をつきながら俺のいる席へと歩みより、俺の開いてある教科書を一枚めくる。

 

「最近ぼーっとしていること多いよ、大丈夫?」

 

「あー、はい。すいません。大丈夫っす」

 

「気分悪いなら保健室行きなさいよ?……はい、ここ読んで」

 

 教科書の文を指差すと、また先生は教壇へと戻っていく。

 はい、と変事をした後、立ち上がって指差された箇所の行を読む。

 

 ぼーっとしていることが多い。

 自覚はしている。

 一時間目も二時間目の先生にも同じことを言われた。以前はもう少しマシだったのだが、最近になって何かに集中することすらままならなくなってきている。

 

 最初は単なる、偶然見た悪い夢だった。

 高校に入った頃、ゾンビ映画にでも影響されたのか何日か感覚で"あの夢"を見ることはあった。まぁ、同じ夢を見てしまうことなど同じ人間の脳なのだからあり得ないことではないだろう。

 しかし、高校に入って一年くらいが経つと、その頃には気がついたら全く同じ"あの夢"を何度も何度も、寝る度に見るようになった。おかげで朝起きる度に冷や汗をかいて寝間着の使い回しもできはしない。

 

 やがてその夢は少しずつエスカレートしていき、いつからだったか、日常生活の中ですらあの夢が脳裏に浮かぶようになってしまった。

 それも、時が経てば経つほど頻繁に。

 おかげで最近は、まともに授業に集中できずに先程のように注意すらされてしまう始末。

 

 誰かに相談などしようにも、たかだか夢の中の話なんて相談されたって馬鹿馬鹿しく思うだろう。俺だって自分が相談したところで馬鹿馬鹿しいと思う。

 …だが。

 最初は気にしていなかったが、最近の頻度は異常だ。覚えはないが、俺は何か思い悩んでいることでもあるのだろうか。

 自分でも気がつかない内に……。

 

「はい、お疲れ様。座っていいよ。ではまず、この段落では―――」

 

 一人が読むには長い文章を読み終えて、一息つく。

 幸い、まだ最後にノートに写した範囲もまだギリギリ残っているレベルまでしか進んでいない。

 消されたらかなわんので、急ぎ目で黒板に書かれた文字をなんの工夫もなく自分のノートに書き写す。

 

 そんな作業を、話もまともに聞けずに行い、終わらぬ内に終了を伝えるチャイムが鳴る。

 

「うげ」

 

 この教師、一つ妙な癖がある。

 本来板書を消すのはその役割を持つ生徒がいるのだが、それに気を使っているのか勝手に消してしまうのだ。

 書き取れる時間を十分とっているので良いが、俺のようにぼーっとしていると最後まで書ききれず困る、なんて人もいる。

 

 まぁ、書けなかったものは仕方がない。

 それに関しては友人のMr.真面目君にでも写させてもらうとする。

 

「……はぁぁ、帰りたい」

 

 溜め息ついでに言葉に出してみる。

 特に学校が嫌いという訳ではないし、授業も好きな訳ではないが嫌いというほどではない。

 だが、どうにも最近はこう思うことが多い。

 家でゲームでもしていたい。家で漫画でも読んでいたい。もしくは家ではなくとも友達同士でカラオケやらボーリングやらへ行くのも良い。

 

 ただ、ぼーっとしたり寝てしまうような環境にいたくなかった。

 悪夢だと分かってはいるが、こうも毎度見ていると流石に嫌にもなる。おかげでここ最近は睡眠時間も減ってきた。

 ……まぁ、受験生だから勉強から離れたいって考えもない訳ではないのだが。

 

「あの~」

 

 まだ5分程度あるし携帯でも弄っていようか。

 流石に時間が時間なのでゲームを開く気はないがツイート見る位ならいい暇潰しになるだろう。

 

「え、ごめんくださ~い?」

 

「…………」

 

「あのー?聞こえてます~?」

 

「…………」

 

「えーっと……あ、あの……」

 

 何やら近くで話し声……というか一方的に女子が誰かに話をかけているのかな。

 というかいい加減返事してあげろよ相手……。なんか聞いてる内に可哀想になってきたじゃないか。

 

「あの…佐倉君?無視しないで下さい!!!」

 

 へぇ。無視してる相手は佐倉っていうのか。やけに親近感がある名前な気がするなぁ。

 というかこのクラスに佐倉って二人いるのかぁ。あれ?いたっけ。

 

 ――あれ、ひょっとして無視してた奴って俺じゃないか?

 

 恐る恐る画面から目を離して顔を上げてみると、これまぁ明らかにこっちを真っ直ぐ涙目で見つめている人が約一名。あ、涙目可愛い。

 

「え?俺に話かけてたの?」

 

「そうです。貴方に話しかけていたんです。やっと気づいて貰えました……」

 

 やばい。あまり話さない相手だから自分じゃないと思い込んでいた。

 まぁ、話さないからといって同じクラスだから名前を知らない訳ではないのだが。

 

 確か、羽葉木(はばき)さんだったか。

 

「で、何か用か羽葉木さん」

 

「違いますよ!それは私の一つ前の人ですよ!しかも男子!私の名前は早瀬(はやせ)香織(かおり)です!」

 

 あれ。間違えた。

 おかしいな、結構自己紹介の時印象に残っていたような気がしたんだが……こんがらがったか。

 

「そいつは失礼。いい名前だな。で、俺に何か用か?」

 

「用っていうか…そのぉ~……。次、移動教室ですよね?私日直なので最後に鍵しめなきゃいけなくて……」

 

「心の底から申し訳ございませんでした!」

 

 しまった、次の化学は実験だということを忘れていた。どうやら俺がいつまでたっても出ないので彼女も鍵を閉められなくて困っていたらしい。

 気がついたら教室には誰もいない。

 おいおい、誰か声かけてくれよ。

 

「ごめん、迷惑かけちゃって」

 

「あ、いえ。まだ時間もありますし大丈夫ですよ」

 

 微笑みながら言ってくれる。ええ子や。

 初めて話して1分くらいなのに惚れそう。まぁ、すぐ冷めるんだけどな。俺の場合。

 

 ちなみに初恋は幼稚園時代の先生だった気がしなくもない。妙にその前でだけいい子ぶってたとか聞かされた。

 聞きたくなかったけどさ。

 

 まぁ、成り行きだが一緒に歩いているのだ。折角だから話のひとつでもしないと勿体ない……のだが。

 中学卒業してから女の子と話したことが必要最低限しかないので、どんな話題がいいのか検討がつかない。

 

「早瀬…さん?はどうやって通ってきてるんだ?ここに」

 

 ――結局、満足に口に出してみた話題はこんな何気ない会話。

 

「えっ?あ、そうですね…。私は電車通学です。たまにお母さんに車で送ってもらうこともありますけど」

 

「ふーん、やっぱ電車通学の人多いのなぁ」

 

「佐倉君は違うんですか?」

 

「俺は自転車で通える距離だからさ。雨降ったらバスだけど」

 

 無理矢理歩いて貰った交通費を小遣いに回している場合の方が最近は多いが。

 

 その後は特に会話もなく目的地へとたどり着いた。結局世間話一つしかできなかった。ちくせう。

 まぁ、こんなものだろう。そこまで過度な期待なんてしていないし。……してないよ。

 ……さて。

 では、またぼーっとしたりしないよう気を付けねば。実験なので大丈夫だとは思うが。

 

 はぁ、と一息ついた後、扉を開け―――足を止める。

 

 

 

 

 ――最初に目に入ったものは、真っ赤な血だまり。

 

 

 

 

 血、血、血、血、血。

 開けた化学室の中、壁が、机が、椅子が、窓ガラスが、実験道具のある棚が、全て真っ赤な血で汚れていた。

 その中には、36人……?クラスのみんなの姿。だが、その全員の姿も血で濡れていて。そして、口から涎をたらし、力無い姿勢で立っていて――――

 

 知っている。この光景は夢で見たものと同じで。

 だけど違うのは自分は自分としてここにいて。アイツ等は、俺に向かって力無い足取りで迫ってきていて。

 

「あ、あの……どうかしましたか?佐倉君?」

 

 後ろから聞こえるのは、さっき話ながら一緒に歩いていた早瀬さん。

 ちょっと待て。

 お前も見えている筈だろう。この光景を。

 なのになんでそんな平然としていられる?

 

 あれ?

 もしかしてこれを見ているのは俺だけ?俺だけがこの光景を見ている?

 ならばこれは俺の妄想か?

 なのに、震えは止まらない。何度も見た光景とは違う、実際に自分がそこに立っている。

 

 早瀬さんは、これを見えていない……?

 

 彼女の様子を確認しようと後ろを向く。

 そして、ぞっと背中に冷たいものが走る。さっきまで歩いていた廊下すら、この化学室と同じ光景、血で汚れていて、壁に傷がついて。

 

 そして、そこにいる早瀬さんもまた、あれらと同じ血塗れになってて、こちらに手を伸ばしていて……。

 

 ――そこで、視界にノイズのようなものが走る。急激な目眩に襲われる。

 あまりの歪みにバランスをとっていられなくなり、そのまま俺は――――

 

 

 

 

 

「――――精神科行ったほうがいいかこれ……?」

 

 保健室で目が覚めて、俺の第一声はそれだった。

 だが仕方ない。

 夢で見たり、ぼーっとしたりしている最中に妄想するくらいならまだ良い。

 だが、日常にまでそれを反映して見てしまうというのは明らかにおかしい。駄目だ。

 さっきのは妄想、もしくは幻覚、なんてことは分かっている。だが、それなのに体の震えが止まらない。冷たい感覚が止まらない。

 

 なんだ、これは。

 俺はおかしくなっているのか。

 そして、何より不安なのは。またあの光景を日常生活の中で見てしまったら俺はどうなるのか。

 あり得なくはない。

 あの夢だって、最初はそこまで頻繁ではなかった。時間が経つにつれて毎日のように見るようにまでなった。

 ならば、これも同じように酷くなるのではないか。

 

「佐倉」

 

 ――と、考えている最中に気づく。

 自分の寝ているベッドの横でいつの間にやら座っている友人の姿。

 

「あ、心咲。俺の見舞いか?珍しいな」

 

 心咲(みさき) 有陽(ゆうひ)

 クラスの中では『真面目』『優等生』『面白みのない奴』『友達甲斐のない奴』という認識を持たれている男子生徒。

 俺は何気に、こいつと幼馴染みだったりするのだが。

 どうせなら幼馴染みは女の子が良かったが。

 

「機会がなかっただけだ。顔見知りが倒れたなどということが起こることなど滅多にないだろう」

 

「へー、じゃあ心配してくれたんだ」

 

「心配?ああしてるとも。して治るほどお前の馬鹿は容易いものではないのだろうが」

 

「バカって…。倒れただけだよな?俺」

 

「そうだな。自分の体調すらまともに把握できず挙げ句倒れて迷惑をかけた大馬鹿だな」

 

「………………」

 

 言い返せない。

 いい奴、ではあるのだ。心配だってこんなんでもしてはくれている……はずだ。

 無表情だから全然分からないけど。

 

「まあいい。お前が目覚めたと伝えてこよう。ちなみにこれはお前の友人という立場としてのアドバイスだが、治ったとしても次の六時間目に出るのはやめておけ。馬鹿が伝染る。早退して誰にも迷惑をかけぬように布団被って何もせず無駄な時間を過ごすがいいさ」

 

「……もう少し言い方ってもんはないのか」

 

「なんだ、優しく『無理しないで。僕は君が苦しむ姿なんて見たくないよ』とでも言ってほしいか?自分で言うのもどうかとは思うが気持ち悪いぞ」

 

「……わるかった」

 

 確かにこんな奴がいきなりそんな優しそうな声色でそんな台詞を吐いたら気持ち悪い。

 俺の返答を聞くと、無言で保健室から去っていく。

 そして、そのすぐ後にチャイムがなる。

 

 ――あいつ、遅刻とかそういうの嫌いだったよな。

 

「う~ん、いい奴、なんだよなぁ……。友達甲斐は確かにないけど」

 

 

 その後、担任の茂木先生がやってきて、その先生からも早退を進められた。

 その時聞いた話だと、心咲は五時間目の茂木先生の授業をサボっていたらしい。あらまぁこれまた珍しい。

 

 

***

 

 

 ――何度、その光景を見ただろう。

 

 血に濡れた町、血に濡れた死体、あちこち割れているガラス、立ち上がる死体、死に行く人間、覚束ない足取りで歩く死体。

 一体何度、その光景を見たんだったか。

 一体いつからその光景を見続けたんだったか。

 

 それは夢だって知っているはずなのに。

 のろのらと歩く死体達の放つ呻き声が、まるで言葉のようになって俺の耳に届くのだ。

 

 ―――夢じゃないぞ、って。

 

 いつもは、そこで終わり。

 だけど何故だろう。ぼんやりとだが、その後に何かを見た気がする。

 そっちはいつもの夢のようにはっきりとは覚えておらず。

 本当の夢のように……じゃない。()()()夢のようにぼんやりとしていて、起きたらすぐに忘れてしまいそうな。

 

 だけど、心の何処かで何かが叫んでいる。

 その光景だけは忘れてはいけないと。

 

 だから、焼き付けなくては。脳に焼き付けなくては。

 

 ―――何処だったか。見たことのある学校の中。

 

 ―――外には沢山、よろよろと動く死人がいて。

 

 ―――だけどその中で、どこか辛そうながらも楽しそうに過ごしている、四人の女の子の姿――――――

 

 

***

 

 

 教室に入ってウンザリした。

 思えば予想できることだった。昨日倒れてそのまま姿を現さず早退した人がいれば、それはこうなる。

 何度「もう大丈夫なのか?」「昨日はどうしたんだ?」な類いの話をされただろう。もう頼むから、返答が面倒だから今日はそっとしておいてくれないだろうか。

 いや、人気者に憧れたことはあったが、こんな風な人気は望んでないんだよ。むしろなんか無駄に気を使われてなんか気持ち悪い。

 

 もう本当、心配とかされたって鬱陶しいだけだから―――

 

「あの、もう大丈夫なんですか?佐倉君」

 

「もう大丈夫だ。心配してくれてありがとう。迷惑かけちゃってごめん、早瀬さん」

 

 ―――普通に嬉しかったです。

 

 我ながらなんとまぁ単純なことだ。心配してくれる人が変わるだけで一瞬で心が変わるとは。

 女の子とそりゃ高校に入ってからほぼ話していないとはいえチョロすぎるだろう、俺。

 あー、駄目だ。

 なんか新しい自分を知ってむしろ悲しくなった。

 

「昨日いきなり倒れたから吃驚しましたよ~。でも元気そうで良かったです!」

 

 正確には貴女と話してから元気になりました。

 

「あ、そうです!えーっと、心咲君にお礼言った方がいいと思います。佐倉君を保健室までいち早く運んで行ったのはあの人だったので」

 

 私は何もできませんでしたが、と申し訳なさそうに言う彼女。

 いやいや、わたくしは貴女に元気を頂きました。それだけで十分でございます。

 ……なんか、自分の心が暴走している気が……。

 

 それにしても、また心咲か。

 いち早く運んでいった…か。昨日の見舞いの件も含めて、確かにお礼くらいした方がいいかもしれない。

 

「そうだな。ちょっと行ってくるよ」

 

「はい」

 

 手を振ると、満面の笑みで返してくれる早瀬さん。ええ子や。

 

 それにしても、お礼かぁ。毒吐かれそうだなぁ。

 

 

 

「昨日のこと?それなら礼など求めてはいない。お前のようなど阿呆に礼など言われたところで一文の足しにもなりはしないのでな。それに、本来ならお前は礼などするよりも己の失態を謝る方が先だろうに。そもそもあんな失態がなければお前が礼を言う、などという無駄な時間を過ごす必要すら無かった。礼やら謝罪やらするつもりがあるのなら態度で示せ大馬鹿者。二度目はないぞ。しっかり寝ろ、しっかり食え、体調管理をしっかりして二度とあのような失態を犯すな馬鹿」

 

「…………」

 

 うわぁ~おマシンガントーク。こいつのことに慣れてなかったら嫌な奴だなーって思うわ。

 

「なんだ?不満か?言われたくないのならそもそも倒れたりなどしなければ良い。もう一度同じことを言われたくないのなら努めろ、阿呆」

 

 うわーい、みさきのおもいがつたわってきてなきそーだー。

 

「りょーかい。次からは気を付けるさ」

 

「……ふん、ならいい」

 

 それだけ言うと、心咲は手元の本に視線を移したままこちらに見向きもしなくなった。

 ……やれやれ。どんな時でも相変わらずだ。

 

 俺がそこを去ろうとした――時だった。

 

「そうだ言い忘れた。お前、あの女に少なからずでも気があるならやめておくといい。友人という立場としてのアドバイスだが、ああいう女はメッキが剥がれればただのクズだ。まぁ、だからと言ってお前がどんな答えを出そうが僕には全く関係のない話ではあるが」

 

「……え?」

 

 なに?今心咲は何を言った?

 あの女…ってひょっとして早瀬さん…のことか?

 理由なくそんなことを言った訳では…ない?と思うが、知る限りではあの子は普通に親切でいい子な印象しかない。クラスでも男子女子誰とでも仲良さそうに話しているところをよく見る。

 ……だが、考えてみればそれだけだ。

 俺は彼女に関してはそれくらいしか知らない。まともに話したのも昨日が初めてだし……って言うか。そんなもの考えてみればどうでもいい話だ。

 別に俺は彼女に惚れているわけではない。

 なら、どうだっていい。心咲の言うようなものだったとしても、所詮学校の間の間柄なら別にどうだっていいことだ。

 ……だよ、なぁ?

 

 ――どうだっていい、とかいいながら。

 俺という人間は本当に仕様がない。何故って、あれから数日間、早瀬 香織という人間を観察していたのだから。

 別にストーカーみたいなことをしているわけではない。

 あくまで教室にいる間とか、休み時間に見かけた時とか、そんな程度の時に意識する程度。

 

 だがそれでも、俺の彼女への印象は変わらず。

 むしろ、観察している限りでも早瀬 香織という少女はとにかく"いい人"だった。

 うちのクラスだけではなく、三年間の人脈か、他のクラスの人間とも男性女性関係無く親しく接していて。

 どうやらあまり関心はなかったので、そういう話は話半分に聞いていたが、俺の友達たちとの会話でも、そういえば時折話題に出てきていて。

 どうやら早瀬 香織という人間は随分な人気者だったらしい。意外と俺は世間知らずだったようだ。

 

 そういう俺も、その数日間、何度か彼女と話すようになった。何気ない会話ばかりだが、早瀬さんと話していた間、俺は間違いなく楽しかった。

 そんなことに夢中になっている、そんなうちに、いつの間にやら俺は彼女を好ましく思うようになったらしい。

 

 友人に"やめておけ"と忠告されてから意識する。順序が逆じゃないか。

 

 ―――俺はこの数日間、彼女を意識するあまりか、世にも珍しいレベルである友人である心咲 有陽の"ほくそ笑んだ顔"を見ることができなかったのだが、まぁこれは完全なる余談だろう。

 

 この数日間、俺は驚くほど充実していたかもしれない。早瀬 香織と関わりはじめてから、俺は前よりも幸福感の強い日々が遅れるようになった。

 

 

 

 

 

 

 ―――そんなわけがあるかっ!

 

 一つ、謝らなければならない。

 俺は自分の心に謝らなければならないことがある。早瀬 香織に直接的にも間接的にも迷惑をかけたわけではないが、謝らなければならないことがある。

 彼女に抱いた恋愛感情といってもいい感情。

 

 そんなもの、ただの今の自分の現状を誤魔化すためにでっち上げた充実、でっち上げた日常だ。

 

 白状しよう。

 俺はもう()()()()()()()

 

 いい加減現状逃避するのはやめよう。

 俺は早瀬 香織という存在と関わっていない時は、"あの光景"がずっと頭の中に浮かんでくるのだ。否、早瀬 香織が関わっている最中も同じだ。ただ、それをでっち上げた日常で緩和しているだけ。

 聞こえる。

 

『夢じゃないぞ』

 

『もう手遅れだ』

 

『もうすぐそこだ』

 

 奴等の呻き声が形となったようなそんな言葉がずっと頭の中を巡る。耳を塞いでも収まらない。

 

『こ れ は 現 実 だ』

 

 何かがこちらへ来ている。何かがもうすぐ到達してしまう。

 錯覚なのか。

 それともあるいは、これは――――

 

 

 

 

 そして、夢の中ではまたあの光景。

 地獄の中で懸命に"生きる四人の少女"の姿。

 

 

 

 

 違う。違う。違う。

 そんなわけがない。そんなわけがない。そんなわけがない。

 あり得ない。あり得ない。あり得てたまるか。

 

 こんなものが現実であってたまるか!!!

 

 

 

 

 

 

「あの、雅人君」

 

「ん?なに?早瀬さん」

 

「前に妹について相談に乗ってもらった事だけど…」

 

 ふと、名前を呼ばれた。

 名前を呼ばれて気づく。はて、いつから俺は彼女から名前を呼ばれる関係となったのか。

 覚えがない。

 いや、何かあったような気もするが、よく覚えていない。

 

 そもそも、俺と彼女の初対面はいつからだったか。

 いつから話し始めたか。どのような過程でこんな感情を抱くようになったのか。

 全く覚えがない。

 いや、忘れているのかもしれない。

 

「――って学校らしいんだけど、こんなところであの子やっていけるのかなぁって…」

 

「んー、まぁ、設備は良さそうだよ。こんな色々と揃っている学校も珍しいな」

 

 っと、()()()()()()()()()()()()。何かパンフレットを出して、俺と早瀬さんが何かを話して……

 なんだ?このパンフレット。学校、高校のパンフレット…

 

 そこには私立巡ヶ丘学院高等学校、と書かれていた。

 そこに映る学校の写真を見て、息が止まる。

 

 ―――それは、幾度となく夢に出てきた"四人の女の子"が居座っていた学校だった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 もう、俺は手遅れかもしれない。

 授業を放棄してまでこんなところへ来て、しかもここに来るまでのことを何も覚えていない。

 夢遊病ならまだいい方だ。

 

 何故俺は『巡ヶ丘学院高等学校』なんてところに来ているのか。

 そもそもどうやって来た?

 うちの高校とこの高校は意外と距離があるはずだ。

 

 ――駄目だ。

 本当に、これはまずい。

 

 いや、俺の精神の話ではない。俺の精神は既に"手遅れ"でもう完結している。

 そうではない。

 そういうことではない。

 

 なんというか、予感がする。

 ここにいたら、もう()()()()ことができなくなる。

 なのに足は勝手に、校門へと歩を進めようとする。

 

「何やってんだ?お前。他校の生徒だよな?」

 

 だから、呼び止められた時は心の何処かで安堵した。

 その安堵は、一瞬のものでしかなかったが。

 

「っと、ごめんなさい。知り合いを待っていただけなんです……お気になさら……ず…」

 

 ああ、なんで俺はその顔を見てしまったのだろう。

 いや、ここに来た時点でアウトだったのかもしれないけれども。

 

「ん、そっか。それならいいんだけどさ。悪かったな」

 

 体操服こそ着ているが、幾度となく見た。

 外を走ってきたのだろう。陸上部か何かか。

 初対面であるが、その姿はもう脳裏に焼き付けた。その少女はあるものを持っていなかったが、それでも見間違いなんかではなく。

 そのツインテールの少女は、いつも夢の最後に出てくる夢の少女の一人にそっくりで―――

 

 俺の頭がおかしいだけなら最高だ。

 何かの間違いであるなら最高だ。

 でも、今自分の中で何かが完成してしまった。自分の心は何かを確信してしまった。

 

 

***

 

 

 久しぶりに気持ちの良い目覚めだった。

 悪い夢は見なかった。

 ぐっすり眠れた。

 清々しい朝だった。

 ああ、なんとなく分かってしまった。もう、この当たり前も長くはないと――――

 

 

***

 

 

 




んー、モブキャラとか使い捨てだしねぇ~。無駄に個性付けとかしなくてええんやないかな(言い訳)
んー、話の流れねぇ~。細かく書くと何日かかるか分からないんだもん(言い訳)
視点主のキャラが定まってなくねって~?1話目だから大目に見てくれ~(言い訳)
メインキャラが出てない~?駄目だこれ以上言い訳できない。

すまぬ、深夜のテンションで書いた結果がこれだよ…。大目にみてくれぇ…。
書いてみて思った。これいつ終わるか分からないです。もちろん作者があぼんする意味でですが。

……ところで、佐倉ってどっかで聞いた苗字だナー
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