がっこうぐらしの中には危険人物が潜んでいるようです 作:犬LDK
そしてここからが本題だ。
私はプロローグからこの前の話まで会話の多い話をまだ書いていなかった。要するにまぁ、遅くなった理由ですが……主人公のキャラを見失って迷走していたんです。ごめんなさい
犬、好きなのね。
いつだったか、そんな会話を振られたことがあった。
確かに犬は好きではある。だが、別に犬という存在自体を好んでいる、など、そんなことは決してない。そして更に勘違いしないで貰いたいのは、自ら進んで歩み寄って撫でたり、進んで飼いたいと思うほど好きではないということだ。
あくまで、その好きとは犬猫好きなのはどちらだ、と聞かれて犬の方がマシ、と答える程度のものだ。
しかもその好きも、ある程度に限定される。
散歩に行く際、すれ違った犬に向かって狂ったように吠えたりする馬鹿犬、電車が来た際に無意味でありながら何を思うのか吠える馬鹿犬。そちらはむしろ良い、愚か者は見ていて実に愉快だ。
飼い主の目を盗んでテーブルの上に乗っている人間様の食事を後先考えずに盗み食う犬、いくら叱られても全く改善されることのない愚行を繰り返す犬、それも可愛い気がある。
だが、人に媚びる犬、わざとらしく可愛げをアピールするように見せつける犬、人間の近くに常にすり寄って来る犬、そういう賢いというかなんというのか、そういう犬は駄目だ。あれは見ていて寒気がする。
そして、犬が好きなのね、と振られたあの会話のきっかけ。それは僕にすり寄ってきた、寒気のする方の犬がきっかけとなっていた。故にその犬を基準に考えられただけで吐き気がした。
あの時はどう答えたんだったか。昔のこと過ぎて既に記憶にない。
まぁ、ともかくだ。
あの時もそうだったのだろうが、僕はむしろ馬鹿みたいにじゃれつく馬鹿犬よりも、人に媚びる犬に好かれやすい、といった体質がある。嘗めているのか。
では、この犬はどちらに該当するものだろう。
先程から寝起きの僕の顔を馬鹿みたいに舐めてくる柴犬。そこだけ見ればただの可愛げある馬鹿犬だ。
だが、どうやらこの犬、付けられた
正直、首輪抜けのできる犬は何度か話には聞いたことがあるが、いざ見てみると流石に驚いた。賢い犬もいたものだ。
「ワン!ワン!」
だが、鬱陶しい。
こいつが僕の好む方のタイプであれ、嫌いなタイプであれ、どちらにせよ鬱陶しい。
やめろ、今は痛みで腕を動かしたくないんだ。尻尾を振るな、腕が痒い。ふざけるな、貴様が今舐めている場所は目だ、眼球に貴様の舌が入るなど御免だ。
「―――このクソい」
「あっ」
ぬがぁ!といい加減、痛いにせよ首根っこでも掴んで黙らせてやろうと思った矢先、僕とこの犬以外の人間の声が聞こえた。おい、やめろ。折れている左足に乗るんじゃないクソ犬。
「おっ、起きたんだね。体の調子はどう、かな?」
「犬に乗られても悲鳴を我慢できる程度には良いのではないか?現在進行形でこの犬のおかげで何もかもが悪化しそうだが」
布団の上で上半身を起こしている僕を見下ろす形で見ているどこぞの高校の制服であろう服を着た女は、僕の上に乗っている犬に気づくと慌てて僕の左足に乗っている柴犬を抱き上げた。
心配する位なら先にして欲しかった行為ではあるが、何をまぁ犬に対して嫌味ったらしくしているんだか僕は。
「だ、駄目だよ太郎丸!その人は怪我人なんだから乗っちゃ駄目!」
「ワン♪」
何がわんだ何が。
「……その犬、お前の飼い犬か何かか?」
「えっ?」
「ん?」
何気無く問いを放ってみたら変な顔をされた。
あらかじめ先に訂正しておこう、変な顔とは決して奇妙な顔だとか見ていて面白かったりおかしかったり、また気持ち悪い表情だとかそういうことではない。僕の話に何か妙な点でも見つけたような、そんな顔だ。
……何か僕は変なことを言ったのか?
「貴方の犬じゃないの?」
「何故そんな認識になっているか知らんが犬なんぞ何年生きても確実に飼わないな。飼い犬なんぞに手間をかける暇があったら自分探しでもした方が遥かにマシだ」
「でも知らないってことはないよね…?この子は貴方が探してた犬なんでしょ?」
「そんな記憶はないな。そもそも犬なんぞにここ最近遭遇した記憶はない。少なくとも"この一件"が始まってからはな」
……いや、遭遇はしていないが遠吠えは聞いた覚えはあるかもしれない。正直既に意識も朦朧だったので詳しく記憶できている訳もないが、それを聞いて何かを思考した気がした。
まぁ、僕の思考するようなことだ。どうせ犬も"奴等"に噛まれて
犬が"奴等"のようになるのなら、間違いなく厄介者になるだろう。……だからと言って特に問題はないか。
難易度は高ければ高いほど■■い。
「えー…おかしいなぁ。確かに貴方が言ったって聞いたのに……」
「どうでもいいが、現状自分が立たされている…というよりは寝かされている状況に関して確認する自由は与えられないのか?今の所僕が理解し得ている事はゼロに等しいのだがな」
「えーっと、それって質問したいってことなの?それなら私に聞くよりリーダーに聞いた方が詳しいと思うけど」
「そうか、ならばその"リーダー"とやらに詳しいことは聞くとしよう。だが"此処は何処だ"という単純明快な問いに位はできるだろう?」
「まあ、それくらいならね。此処はリバーシティ・トロンの五階で今は……」
「把握した」
「えっ!?」
リバーシティ・トロン。
そんなショッピングモールが確か巡ヶ丘の駅近辺にあるとよく聞く。僕自身は機会も特にないので遊びに行くなどということもしないのだが。
だが、つまりそれは僕は少なくとも駅近辺までは近づけていたということだ。目的地までまだもう少し距離があるとはいえ、よくもまぁこの足でそこまで歩けたものだな、僕は。
まぁ、故にか足はとてつもなく痛いがな。
そして此処は五階。
状況と見える風景から察するに、ショッピングモールにいた者が此処に逃げ込んだといったところだろう。そのままこの場所が避難所となった、と思っておこう。
正直内部事情などどうでもいい。
そして忌々しいが僕は此処にいる人間の誰かにいつの間にやら気絶でもしてしまった所を拾われたのだろう。実に忌々しい。あの程度の疲労で倒れるとはなんという貧弱さだろう。此処まで僕が弱かったとは、ああなんという腹立たしさだ。
人の手を借りなければ死んでいた。
その事実が何よりも忌々しい。
「あのー」
「何だ?僕からはもう何もないのだが。む、そうか、お前からも色々と問いたいことはあるのか?気が聞かなくて失礼した。一度思考に浸ると抜け出せなくなるタチでな。どうもこの癖だけは何年生きていてもとれんな」
「そ、そう……?じゃ、じゃあさ、貴方の名前は何て言うの?見たところ、高校生なんだよね?」
「む、そうだな。自己紹介か、しまった。そうか、そういえば人と関わる際にまず最初にすべきことだったか。」
たかが数日他人と関わっていないだけでこの程度の常識すら忘れるようになるのか。人間とは末恐ろしい。
否、この場合は僕の脳が腐ってしまった、という方が正しいのかもしれないが。
ともかく、聞かれたのなら答えなくては。
コミュニケーションをとる際、こういったやり取りは重要だと確か教えられた。
そして、僕は自分の名前を言う。
自分の名を言おうと口を開き――――閉じた。
―――まいった。本当に僕の脳はいつの間にやら腐りきっていたようだ。
「すまない、どうやら名乗ることはできないらしい」
「え、どうして?」
「いやな、そんな深い理由はない。とてつもなく馬鹿馬鹿しくて単純だ。どうやら僕は
小学生、もしくはそれ以下の者のやり取りで、こんなやり取りを何度か見たことがある。
「ばーか」と片方の子供が口にするともう一方の子供は「あー!馬鹿って言ったら自分が馬鹿なんだぞ!」と言う。そんな下らない理屈も屁理屈もない餓鬼臭いやり取り。
しかし、馬鹿馬鹿しいと思っていたあのやり取りだが、案外それも馬鹿にできなかったようだ。
僕は他者を「愚か」とよく口にすることがあった。
今となると腹を抱えて笑いたくなるほど滑稽だ。自分の名を忘れるほどの愚か者が他者を愚かと口にする。それこそまさにそのやり取りが当てはまる。
「愚かと言った奴もまた愚か」。
「おろかといったらじぶんがおろかなんだよ」。
ああ、全く。
なんとまぁ救いようのない愚か者だ。馬鹿に付ける薬はないと言うのなら、僕につける薬もまたないのだろう。
さて、そういうわけで僕は僕の名を忘れてしまった。残念!ハイ、終了だ。
その程度で僕の名に対する執着は消えた。更に言うならばどうでも良い。どうやら僕は僕が思ったよりも自分の名に執着はなかったらしい。
まぁ、気にならないのなら仕方がない。
気にしなければいい。
実際として、僕が自分の名を忘れたことが発覚した際に一番深刻な顔となっていたのは僕を見下ろして話していた女……確か名前は
特に自分が自分の名を忘れた訳でもないだろうに、何故そんな深刻な表情を浮かべるのか理解に苦しむが。
「ワン!ワン!」
「……ふむ、僕もお前のように名前のついた首輪でもあれば思い出せたのかもしれんな」
先程脱した首輪に再び繋がれた柴犬に手を触れる。正確には柴犬の名であろう"太郎丸"という名が掘られている首輪を。
柴犬はさほど気にした様子もなく、何の悩みも無さそうなのほほんとした態度で尻尾を振っている。先程までは随分とじゃれついて来ていたのだが、今は落ち着いたものだ。随分と気まぐれで羨ましい限りだ。
犬には"退屈"を感じることはないのだろうか、と考えたことがある。飼い犬の生活を仮に人間がトレースしたとするならば、それはもはや常に退屈の地獄となるだろう。
そんな生活で満足できているとするのならば、羨ましい限りだ。ああ、まったく、何故こんなにも人間の日常には"退屈"が染み付いてしまったのだろう。こんな感覚が無ければ、もう少し僕もマシな人間であっただろうか。
「…ぐ、むしろ適度に動かさんと痛みが増すな……」
いや、まぁそれは慣れている、ということになるのは理解しているが。
「それは感覚が麻痺してるだけだと思うんだけどな」
「理解はしている」
「ならやめてくれ。見てるこっちが痛くなってくるからさ」
「なら見なければ良いだろう。なんだ?貴様はそれとも他人が苦しむ様を見て愉しむサディストか、もしくは他人の苦しみを自己投影して悶え喜ぶマゾヒストなのか?」
「どっちでもないよ。君を保護した立場としては安静にして置いて欲しいだけなんだが」
「ふむ、どうでもいいな。で、お前は誰だ」
「ああ、結局聞くんだな。聞かれないと思ってたよ」
いつの間にか独り言が会話となっていたようだ。そいつは苦笑しながら呆れたような表情を作っている。
正直こいつの正体なんぞどうでもいいことだったか、と聞いて直ぐに後悔したが。
「ま、俺のことは此処にいる生存者達のリーダー、と覚えておけばいいよ」
「名乗らんのか?」
「君は自分の名前、忘れたんだろ?君が名前を思い出した時に改めて名乗るとするよ」
こいつの第一印象は"変な奴"で格付けされた。
まぁ、その理解できないような拘りというのか、そう言ったものは嫌いではないが。
「そうか、ならばリーダーとでも呼ぶとしよう。では、リーダー。僕が此処に来た際の状況を問いたいのだが、構わないな?」
「構わない、けどそこは俺も良く分かっている訳ではなくてね。君を直接見つけた人から話で聞いた程度だよ」
ま、その犬見つけたのは俺なんだけどさ、と続け、男――リーダーは少し笑う。
「君が運ばれてきたのは今日の早朝の話だ。まだ一部の人しか起きていないくらいの時間帯だったな。最初に見た時は君を"彼ら"と見間違えた位に驚いたよ」
「そうか、あんな腐った奴等と同様に見られてしまったことは解せんな。そこまで死人顔をしていた訳でもあるまい」
「いや、顔色は死んだように悪かったかな。多分怪我に加えて重い貧血にもなってたからだろうけど 」
貧血か。
だとすると僕は記念すべき人生で初めての
「まぁ、いい。見つかった時間帯が理解できたのならばそれでいい。詳しい過程なんぞ聞くだけ無駄だな。で、これからか本題なんだが」
「ん?これが本題じゃなかったのか?」
「ああ、それより遥かに重要だな。ナイフを返してくれ」
暫くずっとナイフを握っていたからか何もないと手に違和感が出てきた。故にポケットを探ってみたらナイフが無かった――当然だ。何処の奴とも知らん奴に危険物を持たせる方がおかしい。
故に僕からナイフを取り上げたのはこいつらだろう。
「んー、信用していない訳ではないんだが」
「そうだな、むしろ此処で肯定されていたら問題だ。だがね、あれは一応僕が今まで護身道具としていたものでね。あれがないとどうにも落ち着かんのだ。ついでに手入れもしたいのでね。何の安心もない孤立した人間がとる行動は計り知れんと思うが?」
「……ナイフ持ちながら暴れるなよ?」
「メリットがないな」
そう言うと、リーダーはわかった、とだけ口にして僕の持っていたナイフを取りに行くのだろう。その場を離れていった。
……さて。
僕にはまだ奴の声が頭に残っている。ならば僕はとっとと此処を出るべきか。だが、此処という避難所があるのならそう急ぐ必要もないのではないか?
一体、その言葉には何の意図があるんだ。
僕はそれほどその言葉に意味を感じたのだろうか。
―――お前は誰だ。幾度となく頭に響くその声、お前は誰だった?
『巡ヶ丘高校へ行け!そこに行けばきっと――――』
サイレンのように、響く。
頭の中でエンドレステープのようにその言葉が繰り返される。お前は誰だ。それに何の意味がある?その言葉の先には何がある?
「……どうしたものか」
僕のその呟きに答えたのは、意思がある声なのかも分からぬ柴犬の鳴き声だけだった。
会話って思ったより難しいですねぇ。何よりリアルでコミュ症な作者なもので更に。
今回は予定としては動きのない、ただ運ばれた後の話を書きたかった+会話の練習といったところで。
原作でも出番超少ないキャラとアニメで出番あったけどやっぱり少なめなキャラなので難しいなぁ…。逆に言うならむしろレギュラーキャラはキャラが確立しているから更に書くのが難しくなるのかもしれませんがね。
考えている話を実際に書くのは難しい!既に幾度となく予定と変更点があるというのに!
……次はなるべく早めにします。すみませんでしたm(_ _)m