超能力犯罪捜査係   作:凱旋門

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 うーん。


一話

 その日、とある男が東京都内の少女誘拐事件で誘拐犯が立て込もっていたアパートのすぐ近くまで来ていた。周りはごくごく普通の住宅地で、時間が時間だからだろう。人っ子一人いない夜の住宅地は少し不気味な感じがした。

 その男は黒のカジュアルスーツを着ており、顔立ちと、髪型は世に言う爽やか系男子特有のもので、年齢は20代前半に見える。そしてその顔には疲れきった表情が浮かべられている。

 アパートを見上げる男の耳には遠くで車が走る微かな音しか届いていない。かつてSITによる強行突入からの犯人射殺などという大活劇が繰り広げられたなんて、この静けさからは到底想像がつかなかった。

 事件から早くも四ヶ月が経ち、十二月。あの日太陽が出ていて蒸し暑かった現場の空も現在では無数の星が弱々しく輝いているだけで、寒い位になっていた。

 男はできればもっと早い時間にここに来たかったのだが、実家からわざわざ来たお節介な親にしたくもないお見合いをやらされ、結局この時間までこのアパートに来ることはおろか、家から出るのにも親の許しがないとダメだという理不尽な状況に追い込まれていたのだ。

 確かに結婚をしない自分もいけないとは思う。しかし自分にも自分の考えがあるわけだ。第一、お付き合いをするとか結婚をするとかを決めるのは自分であって親ではない。それなのに本人の意思を無視して家に監禁して四十過ぎたババアとお見合いをするなんていうのは地獄以外のなんでもない。何が、後はお二人でごゆっくり~だ。こっちはゆっくりなどしたくはない。三秒で帰りたいのだ。それでも毎度毎度四十過ぎたババアお見合いをさせるのは新しい嫌がらせなのか? それとも奴らの目には四十越えたババアが美人に見えるのだろうか。まったくもって意味がわからない。付き合ったり結婚したりするなら若いければ若いほうがいいだろ普通。

「はぁ……」

 男はここにはいない自分の両親にため息を黙ってアパートに近づくと、冬の寒さの影響でこれでもか、というほど冷たくなっている赤く錆びた手すりを掴みながら階段を上る。そうして二階部分に着き、問題の部屋の前まで行くと、そこにはもうバリケードテープ(黄色いテープ)はなく、鍵さえあればいつでも入れそうな状況だった。男はドアノブを捻ってみるが、もちろん鍵がかかっている。

 男の名は本多拓也、現在24歳。埼玉県I警察署刑事課強行犯係に所属している警察官である。昨日までは県内で起きた殺人事件の捜査をしていたが、今日は有給休暇を取ってまでここに来ていた。

 そして、有給休暇をとってまで埼玉県の警察官の彼がこの現場に来たのは、この事件に不可解なことが多すぎたからだ。

 本多はドアに背を向け、階段の手すりと同じように赤く錆びた手すりを掴む。

 この事件には奇妙な点が多すぎる。まず第一に犯人たちが少女を誘拐したのがなぜかわからない。これは東京都内の所轄署に勤める同期の警察官に聞いた話だが、犯人は強盗目的で被害者宅に侵入し、そこにいた人間を殺した。しかし少女だけは殺さずに誘拐した。そしてその後巡回中のPC(パトカーのこと)の職務質問に応じ、そこで誘拐した少女が車の後部座席にいるのが警察官に見つかって、犯人だとバレてしまった。

 わかるだろうか。犯人たちは人を容赦なく銃で撃ち殺すような人間でありながら、たった一人の少女を誘拐したことが原因で警察に見つかっているのだ。まぁ確かに人を殺して興奮している状態で突如少女に対して性的な感情が表れて勢いで誘拐してしまったのかもしれない。しかしそれはあまりにも強引なような気もする。それにおかしいことはまだある。それは、たかが普通の民家への強盗ごときでMP5系のサブマシンガンを使ったということだ。強盗目的ならナイフや普通の拳銃でも十分なはずだ。それなのにわざわざサブマシンガンを使って民間に侵入するだろうか……いや、自分なら迷わず金をたくさん持っていそうな家とか、銀行とかを狙う。監視カメラがあっても顔を隠せばどうにかなることだと考えてそういう所に強盗に入るのが一般的ではないだろうか。それに一番気になる点が他にある。それは……、

「……ん?」

 そんなことを考えながら景色を眺めていると、ふと何かが目に留まった。いや、こちらをじっと見ているのが目にとまった。

 人通りがない道路でこちらを見ているのは、きれいな白い髪を腰位まで伸ばした小学校低学年に見える少女だ。服装はこの季節によくありがちなマフラーとコート、それから膝くらいまでのスカートというものだった。

 夜に一人でこんな場所にいて、こちらを悲しい……とは少し違った、何か意味がありそうな視線で見つめ続ける少女。それを見て本多は職業的に声をかけたくなり、そこを動こうとするが、直後少女はこちらに向けていた目を反らして駅の方向にとことこ歩いていってしまった。目で少女の姿を追いつつ、本多は思考を前へと進める。

 そして、一番気になる点のことだが、それは少女や、殺された親族に関する情報すべてが何もないのだ。事件の発端である強盗殺人が起きた家、少女の年齢、名前。すべてに関する情報がない。つまりそれは警察が知られてはいけない何かを隠すためにしている可能性が大きい。

 この事件には裏がある……。

 警察という組織が隠したいもの。何かの隠蔽、それとも上からの圧力、まだなんなのかは検討もつかないが、きっとこの事件の裏には何かあるはずだ。本多の刑事としての勘がそう言っていた。

 ふと腕時計を見ると、時刻はすでに十時を回っていた。ババアにふりまいた慣れない愛想笑いのせいか、いつもより疲れている気がする。いったん自宅に戻ろうと踏み出した鉄の階段は、錆びているせいで踏みしめるごとにきしきしと音を立てた。

 そして、街灯がうっすらと照らすアスファルトの道路を歩き、アパートを背に最寄りの駅へと急いだ。そして、

「……あ」

 石のブロック塀に寄りかかって、両手に白い息を吹き掛けている少女を見て、思わず声に出した。

 その少女は先ほどこちらのことをジッと見つめていたあの少女だったのだ。

 少女はまるで自分がここに来るのを待っていたかのように、息を吹き掛けて暖めていた手を慌ただしく太ももの横に置いて、礼儀正しく、しかしどこか年相応の雰囲気を出しながら黙ってぺこりとお辞儀をした。それにつられて本多もお辞儀で返す。

 いや、まったく何が起こっているのかわからない。いきなり少女にお辞儀をされた。意味不明。理解不能。というかそろそろ頭上げてもいいのに。さすがに小学生、しかも低学年に見える子に深々と長くお辞儀をされて喜ぶ趣味はない。

「お、お父……さん……」

 少女はしばらくして頭を上げた後、恥ずかしそうに言った。

 本多の頭の中に無数のはてなマークが浮かんだのは言うまでもないことだろう。




 うーん……
 お気に入りもなければUAも……
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