器物転生ときどき憑依【チラシの裏】   作:器物転生

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【あらすじ】
王を選定する剣となった転生者は、
エクスカリバーに乗り換えたビッチを見捨てて、
叛逆の騎士モードレッドを新たな王として認めました。




妾を触媒として用い、英霊召喚は実行される。

その結果、召喚されたのはモードレッドではなくアーサーだった。

意外な結果だ。妾を触媒として用いるのならば、モードレッド以外にあるまい。

 

モードレッドは召喚に応じなかったのか。

聖杯戦争に求める物が無かったのかも知れぬ。

「父に認められたい」という願いも、最後はアーサーに失望していたからのぅ。

 

会えないと分かると、ちょっと残念だ。

きっと「アーサーの顔も見たくない」状態に違いない。

さて、そうなると妾は聖杯戦争に参加できぬ恐れがある。

 

「これは……カリバーン」

 

アーサーが妾に気付き、拾い上げようと試みた。

しかし、1500年前と変わらず、アーサーの手は擦り抜ける。

それを再確認したアーサーは、妾の上で苦々しい表情を浮かべた。

 

『懲りんのぅ、アーサー。

 怒りに身を任せて騎士の背後から切りかかった時から、

 御主に妾を握る資格は失われておる』

「この声は……まさかカリバーン!?」

 

「今の声は……?」

「どうしたの2人とも?」

 

アーサーが大声を上げる。

それほど驚いてくれるとは嬉しい反応だ。

召喚の際に与えられた知識のおかげで言語が通じるようになったらしい。

 

それにキリツグが反応している。

キリツグと繋がっているレイラインを、妾は感じ取った。

これは妾が触媒として召喚陣の中にいた副作用だろうか?

 

『妾は王を選定する剣、今ではカリバーンと呼ばれている。

 この偽王のマスターは御主か? 苦労を掛けるな。

 あいにくブリテンの王は聖杯に掛ける望みがないため、召喚には応じなかったようだ』

 

ギリィと歯の軋む音がする。

妾の念話を聞いたアーサーが歯を食い縛っていた。

むぅ……アーサーが怖いから、偽王と言うのは止めておこう。

 

『ところでアーサーは、なぜ召還に応じたのだ?』

「叛逆者に加担した貴様に、言うことは何もない」

『ブリテンを救いたいとでも願うつもりなのだろう?』

「だから何だと言うのだ」

『それならば御主は、その手から妾が滑り落ちた時に、王を辞めるべきだった』

「過去の事を言っても始まらない。私は聖杯にブリテンの救済を願うだけだ」

『そうか。それは良い事だな。きっと御主が王でなければ、末永く幸せが続いた事だろう」

「モードレッドは王の器ではなかった」

『それが御主の願うブリテンの救済なのだろう?』

「貴様に踊らされる国が平和なものか」

 

「ずいぶん仲が悪いのね。

 王に選んだ剣と選ばれた王なのだから、もっと仲が良いと思っていたのだけれど……」

 

『次の王を選定させないために、

 こいつは妾に土を被せた上に石を乗せて、魔術的に強固な封印を施したのだぞ。

 そのまま何年も放置された妾は、もっと怒ってもいいはずだ』

「だからモードレッドを王に選んだのか?」

『御主の息子を王に選んだ事と、妾が封印された恨みは別の話だ。

 自力で魔術師の封印を解き、妾を手にした者が、御主の息子だった。

 王に選ばれた御主の息子なのだから、妾を手にするのは必然の事だったのだろう。

 そもそもモードレッドが王の器でないと言うのならば、円卓の騎士は全員失格だ」

「私と共に戦った騎士達を侮辱するつもりか?」

『御主の中でモードレッドの評価は、どれほど低いのだ……』

 

「ねえ、2人だけで話し込むのはズルイと思うの。私も加えてくれないかしら?」

 

忘れていた。アイリスフィールに妾の声は聞こえていない。

どうりでアーサーが念話を使わず、わざわざ声に出して喋っている訳だ。

レイラインが繋がっているのはキリツグなのだが……いつの間にか姿を消していた。

 

「そうですね。場所を移しましょう。

 ……カリバーンは用事があって此処に残るそうです。

 私達は先に行きましょう」

「えーと、セイバー。それって本当よね?」

「ええ、もちろんです」

 

妾は何も言っていない。

アイリスフィールの抱いた疑惑に対し、いい笑顔でアーサーは答えた。

馴れ馴れしくアイリスフィールの手を取り、召喚に使われた大部屋から出て行く。

 

ふふふ、甘いなアーサー。

妾は数百年ほど、忘れ去られて放置された事があったのだ。

ちょっと放置された所で、妾の感覚で言えば瞬き程度の時間でしかない。

 

それに妾の感知域は広いのだ。

城の中を移動する人々や、小さな虫達も感知できる。

ふふふ、見える、見えるぞ。この部屋に近寄ってくる多数の人影が!

 

それらは人造生命体であるホムンクルスだった。

どうやら召喚後の部屋を掃除するために来たらしい。

妾はホムンクルスに回収され、アイリスフィールの下へ運ばれた。

 

『そういえばアーサー』

「セイバーと呼んでください」

 

自身の能力について説明するアーサー。

そんな妾が横から口を出すと、アーサーの口調が丁寧になっていた。

さきほどアーサーの口調が荒かったのは、我を忘れていたからなのだろう。

 

『セイバーよ、エクスカリバーの鞘は持っているのか?』

 

召喚に使われた媒体は妾だ。

エクスカリバーの鞘は回収できたのだろうか?

鞘を盗まれたため、アーサーの宝具はエクスカリバーだけのはずだ。

 

「いいえ、鞘は盗まれたままでしょう」

『そうか。惜しいな。とは言っても、妾は御主に協力する気はないのだが』

「そうでしょうね。貴方は倉庫の隅にでも転がっていてください」

『倉庫の隅に転がってばかりでは、いつまで経っても使い手は見つからぬ。

 御主と違って妾は、まだ生きているのだ。このままでは嫁ぎ遅れてしまう』

「……今さらブリテンの王など選んで、どうすると言うのです」

『とっくに死んだ御主と違って、今もブリテンの土地と民族は残っているのだ。

 妾にはブリテンの王を探す義務がある。

 できればロンドンの目立つ場所に、妾を突き立てて欲しいのだが……。

 まあ、そんな事を今の時代に行えば、また魔術師に封印されるのがオチであろう』

 

「また2人で内緒話なの?」

 

アイリスフィールが口を尖らせる。

アイリスフィールに念話が繋がらないのは不便だ。

なのでアイリスフィールに、黄金の剣である妾を持ってもらった。

 

『これで妾の念話も通じるだろう』

「あら、本当ね。初めまして、カリバーン。私はアイリスフィールよ。

 ねえ、セイバー。もしかして私って、ブリテンの王に選ばれたのかしら?」

 

『妾の運び手として選んだだけだ。

 不老の存在になったり、妾の力を引き出せるようになった訳ではない』

「あら、そうなの? せっかく聖剣の所有者になれたのかと思ったのに、残念ね」

 

ここはアインツベルンの城だ

その城にアーサーは数日ほど滞在し、アイリスフィールと仲を深める。

やがてアイリスフィールとセイバーは、聖杯戦争の行われる国へ向けて出発した。

 

アーサーのマスターであるキリツグは、妾に接触を試みていない。

アイリスフィールの持ち物と化している妾は、アーサーと同じように放置されていた。

マイナス要素と判断され、アインツベルンの城に置いて行かれるよりは良い結果だろう。

 

アイリスフィールとアーサーは街中を歩く。

すると同類であるサーヴァントの気配を感知し、夜の倉庫街へ2人は向かった。

そこで待ち受けていた者はランサーと名乗った。もちろん本名ではなく、クラス名だ。

 

ランサーは槍を持ち、白銀の鎧を着ていた。

重厚な兜に覆われているため、その顔は隠されている。

しかし、その兜の下にあるランサーの顔を、妾は感じ取れた。

 

正体を隠すために、彼は兜を被っている。

しかし妾には、その下にある素顔を感じ取れた。

騎士王に似た可愛い顔の彼は、騎士王の息子モードレッドだ。

 

『ここに居たのか、モードレッド』

「……今なんと言った」

『モードレッドだ』

「まさか……」

 

銀で装飾の施されたケースの中に、妾は保管されている。

誰が見ても大切な物が入ってそうなケースは、アイリスフィールが持っていた。

神秘の塊である妾の保管されたケースは、「小聖杯」が入っているように見えるだろう。

 

アーサーとランサーは戦いを始めた。

言葉を交わさないまま、互いの力を確かめるように剣と槍で切り結ぶ。

エクスカリバーの刀身は不可視な状態となっていたが、ランサーは対応してみせた。

 

「……貴方はモードレッドか」

「だとすれば何だと言うのだ、アーサー」

 

「いや、そうと分かれば十分だ」

 

剣の切っ先を上げ、アーサーは足から魔力を放出する。

高密度の魔力で大地を打ち、その反動によって体を打ち出した。

一跳びでランサーに切りかかり、魔力の噴出で力を加えたエクスカリバーを叩き付ける。

 

その一撃を、槍で受け止める事などできない。

素早さを生かして避けようとすれば、魔力放出を使って食い付くだろう。

そのためランサーは、魔力で形作られていた宝具を消し、新たに剣を形作った。

 

闇夜に太陽が生まれる。

黄金の剣が、不可視の剣を受け止めた。

見間違えるはずが無い。ランサーの宝具は、ランサーが握っているのは、

 

 

王を選定する剣――カリバーン

 

 

いいや、アレは魔素もといエーテルで精密に形作られた模造品だ。

現存する妾は標的に向かって振るだけで、何度でも能力を発揮できる。

しかし、エーテルで形作られたアレは、魔力を込めなければ真の能力を発揮できない。

 

英霊を象徴する宝具は、伝承によって形作られる。

伝承に登場しない妾という意思が、あの剣に宿っているのか怪しい物だ。

あの頃、使い手と意思を交わせなかった妾は、悪霊程度に思われていたからのぅ。

 

ランサーの宝具を見て、妾は驚いた。

しかし、偽カリバーンの登場を、アーサーは予想していたようだ。

もはやランサーと言葉を交わす気はないらしく、迷うことなくエクスカリバーを振り下ろす。

 

その時、戦場に近付く者を妾は感知した。

人払いの結界を擦り抜けて、馬に乗った2人組が接近している。

マスターの証である令呪という刻印を持つ黒髪の男性と、白銀の鎧を着たサーヴァントだ。

 

「一番手はランサーか……出遅れたな」

「何やってやがりますか、お前はー!?」

 

「やかましい。貴様を一人で放置すれば、アサシンの良い的だ」

「ここに居る方が、よっぽど危険だろ!?」

 

『モードレッドが2人……!?』

 

妾は思わず、思念を発する。

アーサーとランサーも戦闘を中断し、馬上のライダーを見た。

頭部に被った兜も、白銀の鎧も、手に持つ槍も、ランサーの物と似ている。

 

「いいや、4人だ」

 

その言葉と共に、新たなサーヴァントが現れた。

倉庫街に設置された高い街灯の上に、エーテルが集う。

白銀の鎧と兜を被った3人目の騎士が、その場に出現した。

 

「HAHAHA HAHAHAHAHAHA!!!」

 

さらに4人目が現れる。

無意味に爆笑しながら現れたのも白銀の騎士だ。

どうやら狂っているらしく、クラスはバーサーカーと察せられた。

 

『この分では、まだ現れていない残りの2体もモードレッドと疑いたくなるな』

「不吉なことを言うな」

 

妾の思念に、アーサーは突っ込む。

アーサーも驚いているのだろ。誰だって驚く、妾だって驚いた。

どうして妾を召喚の媒体に使ったにも関わらず、喚ばれたのはアーサーだったのか。

 

「安心しろ、決闘は一対一だ。

 どちらが勝利するべきか、神に問わねば――」

 

「HAHAHA HAHAHAHAHAHA!!!」

 

街灯の上に立つ騎士が言う。

そのセリフを遮るように、バーサーカーがアーサーへ襲いかかった。

街灯に立つ騎士と違って、バーサーカーは横槍を入れる気満々のようだ。

 

ガァン!

 

バーサーカーが弾き飛ばされる。

バーサーカーの兜を、一本の矢が弾き飛ばした。

それを放ったのは街灯に立った騎士だ。すでに次の矢を持ち、弓に番えている。

 

おそらく、クラスはアーチャーだろう。

だから、わざわざ高い街灯の上に立っていたのか。

矢による一撃を受けたバーサーカーは、アーチャーへ向かって走り出した。

 

「決闘の邪魔をする気がサーヴァントになくとも、マスターは分からんか」

 

アーチャーが呟き、矢を放ちつつ後方へ跳ぶ。

さきほどの矢によって、バーサーカーの兜は剥がされていた。

バーサーカーである4体目のモードレッドは、涙を垂らしながら笑い続けている。

 

哀れな有り様だ。

それを見て、他のモードレッド達は苦い顔をする。

そのままアーチャーはバーサーカーを引き付け、遠くへ退いて行った。

 

「さあ、続きをやろうぜ」

「ああ、いいだろう」

 

偽カリバーンをアーサーに向けるランサー。

再び戦い始めた2人を、馬に乗ったライダーが見守る。

やがてランサーは、エクスカリバーに斬られて腕に傷を負った。

 

「ランサーよ、退け」

「言うなよ。仕方ねーな」

 

どこからかマスターの声が聞こる。

その命令に応じて、ランサーの姿は消えた。

休む間もなくアーサーは、ライダーに切っ先を向ける。

 

「どこからアサシンが狙っているか分からねーからな。オレも撤退させてもらう」

 

馬に乗ったライダーとマスターは駆け去る。

後に残された人物は、アーサーとアイリスフィールだけだ。

その後、キャスターやアサシンと会うことも無く、アーサー達は拠点へ戻る。

 

そういえばモードレッドの兜には、正体を隠す効果があった。

正体を暴かれないない限り、正体に繋がる情報を思い出せなくなるのだ。

しかし妾が正体を暴露してしまったので、意味のない物になってしまった。

 

次の日、聖杯戦争を管理する教会によって、マスターが召集された。

それによってキャスターを除いた6人のマスター、その使い魔が教会を訪れる。

同じ英霊が複数体サーヴァントとして喚ばれたため、さすがに変だと思ったのだろう。

 

「この度の聖杯戦争では同一の英霊が、最低でも2体以上召喚されている。

 聖杯戦争の運営に関わる者による不正の疑いがあったため、我等は調査を行った」

 

聖杯戦争の運営に関わる者。

つまり、疑われているのはアインツベルンに属するセイバー達だ。

もしかすると、教会と繋がりのある他のマスターから、調査を請求されたのかも知れない。

 

「アインツベルンの不正は目に見えて明らかな事だ。

 よって懲罰として、アインツベルンのマスターとサーヴァントを討伐対象に指定する。

 アインツベルンのマスターとサーヴァントを討伐した者には、追加の令呪を寄贈しよう。

 なお、アインツベルンのマスターとサーヴァントを討伐するまで、

 他のマスターに対する戦闘行動は控えてもらいたい」

 

話を聞く限り、強引な方法だ。

アーチャーとライダーは正体を隠していた。

ランサーとバーサーカーの存在だけで、アインツベルンを非難するのは気が早すぎる。

 

切っ掛けとなったのは教会と繋がりのあるマスターか。

おそらく、そのマスターが召喚したサーヴァントもモードレッドだったのだろう。

わざとらしくアーチャーが漏らした「3人目」は、あの神父のサーヴァントに違いない。

 

そんな訳で、セイバー組は狙われている。

とりあえず、拠点である城で敵を迎え撃つ事になった。

すると、巨大な城と広大な敷地を覆う結界に、侵入者の反応が現れる。

 

あいかわらず、妾はケースの中だ。

護衛付きのアイリスフィールに運ばれて城を脱出し、森の中を歩く。

アーサーはランサーの迎撃に向かい、キリツグは敵マスターに対応していた。

 

アーサーとランサー、キリツグと水銀を操る男。

それらの戦いを感知していると、妾は新たな敵を感知した。

気配を遮断できるアサシンとマスターが、アイリスフィール達の進行方向にいる。

 

『アサシンとマスターらしき男が、アイリスフィールの進行方向にいるぞ』

「結界を通して、私も感知できたわ」

「どうなされました、マダム?」

 

「言峰綺礼と……たぶん、そのサーヴァントが待ち伏せしているようなの」

「キリツグにも伝わっていますね……ならば迂回しましょう」

 

一方、城の方では勝敗が決着した。

キリツグによって水銀を操っていた男は銃殺される。

それによって魔力供給が行われなくなり、ランサーは聖杯戦争から脱落した。

 

キリツグは城を脱出する。

アーサーと合流しないまま、アサシン組から逃走を始めた。

合流しなかったのは、キリツグがマスターという事を知られたくないからだろう。

 

そこへ馬に乗ったライダーが現れ、アーサーへ戦いを挑む。

アーサーは足止めを受け、アサシン組はキリツグへ迫っていた。

サーヴァントであるアサシンに対して、魔術師でしかないキリツグは無力だ。

 

アーサーを喚べば、切り抜けられるか。

マスターの持つ令呪を使えば、瞬間移動が出来る。

その代償として、キリツグがマスターであると暴かれるだろう。

 

しかし、問題ない。

その事を、すでにアサシン組は察しているはずだ。

その程度の秘密を守るために、キリツグが死んでは意味がないだろう。

 

妾は、そう思っていた。

ところがキリツグは令呪を使わなかった。

怪し気なスイッチを取り出し、そのスイッチを切り替えたのだ。

 

ドーン!

 

森の彼方此方で爆発が起きる。

妾の感知によると、格子のように森へ火線が走っていた。

追跡を妨害するため森を火の海にするとは、派手な事をする。

 

これによってキリツグの追跡は難しくなったようだ。

諦めることなくアサシン達は後を追うものの、キリツグとの距離は開いていく。

その間にアーサーはライダーを撃退し、馬に乗ったライダーは森の外へ走り去った。

 

その後、新たな拠点へ移動する。

そこでキリツグ達とアイリスフィール達は再会した。

残るサーヴァントはライダー、アサシン、アーチャー、バーサーカー、そしてキャスターだ。

 

キリツグと助手は、再び外出する。

教会による討伐指定があるため、アーサーとアイリスフィールは拠点に残った。

アーサーと戦って魔力が減っていると思われるライダーのマスターを、キリツグ達は探す。

 

しかし、見つからない。

ライダー達は自身の拠点へ戻っていなかったのだ。

結局ライダー達を発見できないまま、太陽は地平線へ沈む。

 

夜になると、アーサーと助手が入れ替わる。

そして、バーサーカーのマスターの拠点もとい実家へ攻め込んだ。

科学や魔術による罠をアーサーが強引に突破し、キリツグは姿を隠しつつ後を追う。

 

結果から言うと、バーサーカー組は聖杯戦争から脱落した。

バーサーカーは強かったものの、先にマスターの魔力が尽きたらしい。

動けなくなったバーサーカーのマスター、その頭部にキリツグは銃弾をプレゼントした。

 

それと共にアイリスフィールは体を壊し、自力で立ち上がれなくなる。

アイリスフィールの中にある小聖杯に、サーヴァントの魂が溜まったからだ。

残るサーヴァントはライダー、アサシン、アーチャー、そしてキャスターとなった。

 

バーサーカーのマスターは、魔術師の拠点に押し入られて死んだ。

その事に危機感を覚えたのか、アーチャーのマスターは拠点の防御を高める。

アサシンのマスターもアーチャーのマスターに従い、拠点に引き篭もってしまったようだ。

 

ライダーのマスターは外来の魔術師だ。

そのため、他のマスターと違い、この地に強固な拠点を持っていない。

そんなライダーのマスターが死んでから、残りのマスターは動くつもりなのだろう。

 

数日後、食料を買うために現れたライダーが発見された。

馬に乗って逃げるライダーを、バイクに乗ったアーサーが追う。

しかし、ライダーの偽カリバーン発動によって、アーサーのバイクは破壊されてしまった。

 

偽カリバーンは妾に劣るものの、

「距離を無視できる能力」は備わっているようだ。

しかし、問答無用でアーサーを真っ二つにする事はできないらしい。

 

あのような紛い物を、妾の代わりとして宝具にしようとは……。

アーサーを仮の使い手として働かせ、モードレッド達に罰を与えようか?

しかし、もはやアーサーは使い手では無いのだ。それとアーサーに妾を使われたくない。

 

土の下に埋められた恨みは忘れていないぞ、アーサー。

まあ、埋めたのはアーサーに助言を行っていた魔術師だったが。

あそこに妾が埋まっていると知って、放置していたのだから同じことだ。

 

さて、ライダーは逃げ足が速い。

マスターが何所に居るのかなんて、さっぱり分からない。

そんな訳で聖杯戦争は、小競り合いが起きるだけで、進展のない状態に陥ってしまった。

 

これを受けてキリツグは、敵の拠点を破壊できる兵器を使った。

液体火薬を積み、爆発するように細工したタンクローリーを突っ込ませたのだ。

それは液体火薬の総額に相応しい威力を発揮し、一瞬で広範囲を火の海へ変えた。

 

その結果、アーチャーとアサシンのマスターは死亡する。

しかし、単独行動スキルを持っていたアーチャーによって、助手が殺される。

その後、マスターを失ったアーチャーは、魔力切れによって聖杯戦争から姿を消した。

 

後はライダー、そしてキャスターだ。

ライダーのマスターは凶悪な爆弾に怯えて、サーヴァントを自殺させた。

アーサーと戦いたいライダーと、戦闘を回避したいマスターは、意見が合わなかったのか。

 

ライダーが脱落すると共に、アイリスフィールの肉体が砕け散る。

そしてアイリスフィールを見守っていたアーサーの前に、黄金の杯が現れた。

それこそ聖杯だ。ただし、その中身は真っ黒に染まり、淀んだ何かで満たされていた。

 

そう言えば、すでにキャスターは脱落していたらしい。

マスターは殺人鬼のはずだから、おそらく喚び出した瞬間に殺されたのだろう。

アーサーに憧れ、高潔な騎士であろうと努力したモードレッドなら、そんな奴は許すまい。

 

その事をキリツグは知らなかったのだろうか?

現場に召喚陣があったから、教会によって事件は隠されたのかも知れない。

しかし、キリツグならば知っていたけど黙っていても不思議ではない。まあ、今さらな事だ。

 

『キリツグ、聖杯が現れました……しかし、様子がおかしい。急いで戻ってきてください!』

『何があった?』

 

『聖杯が、汚染されています!』

『無色の魔力では無いという事か……御三家の仕業かな』

 

『聖杯から黒い物が……! 退避します! 』

 

聖杯の黒い淀み。

そこから手の形をした黒い泥が飛び出す。

接触を危険と感じたのか、アーサーは屋外へ飛び出した。

 

黒い物は瞬く間に、拠点を飲み込む。

さらにアーサーを狙って、黒い手を伸ばした。

アーサーは剣に纏っていた風を解放し、黒い手を弾き飛ばす。

 

『キリツグ! 聖杯を破壊します!』

『……』

 

キリツグは言葉を返さなかった。

それでもアーサーは宝具に魔力を込め始める。

黒い泥に埋もれた聖杯の位置を、必死に探り当てようと試みていた。

 

『こちらも視認した。

 衛宮切嗣の名の下に、令呪を以てセイバーに命ず。

 宝具にて、聖杯を破壊せよ!』

 

『エクス――』

 

令呪の力がアーサーに加勢する。

直感スキルが一時的に上昇し、聖杯の位置を感じ取った。

エクスカリバーは黄金の輝きを放ち、魔力の流れが暴風を巻き起こす。

 

『――カリバー!』

 

光の斬撃が飛んだ。

黒い泥を真っ二つに切り裂き、弾き飛ばした。

黄金の杯はパキンッと砕け、聖杯を形作っていた魔力は崩れていく。

 

ちなみに妾は、部屋の隅に放置されていた。

エクスカリバーの斬撃による衝撃で、ケースは吹き飛び粉々になる。

しかし衝撃波も破片も、妾を擦り抜けて当たることは無く、地面にサクッと着地した。

 

聖杯から出た黒い泥は消える。

誰の望みも叶える事は無く、聖杯は消え去った。

黒い泥が出た後、すぐに破壊したため、周囲に大きな被害はない。

 

「……」

「……」

 

被害があるとすれば、今にも死にそうな顔の2人だ。

聖杯で自身の願いを叶えるために、キリツグとアーサーは戦ってきた。

しかし、それを自分達の手で破壊してしまったため、大きなショックを受けているのだろう。

 

「セイバー、体の調子はどうだ?」

「え? ええ、問題ありません」

 

キリツグが自発的に話しかけた事に、アーサーは驚く。

しかもアーサーの体調を気に掛けているのだ。それは驚くだろう。

そんな事には構わず、キリツグは考え込み、そして大変な事に気付いた。

 

「しまった……まだ終わっていない! 汚染されているのは大聖杯だ!」

 

キリツグが大声を上げる。

どうやら気付いてなかったらしい。

だから此の場で、呑気に落ち込んでいたのか。

 

大聖杯からの魔力供給。

それが行われなくなれば、アーサーは形を保てなくなる。

アーサーの姿が薄くなっていないという事は、魔力供給が行われているという事だ。

 

「セイバー! 大聖杯の下へ向かうぞ!」

「待ってください、キリツグ。聖杯は2つあるのですか?」

 

「似たような物だ! とにかく急ぐぞ!」

「はい!」

 

聖杯があると聞いて、元気になるアーサー。

苦手なキリツグを抱いて走り去るほど、テンションが上がっているようだ。

大聖杯は使用方法が限定されているので、望みが叶うことは無いのだけれど。

 

わざと言わなかったな、キリツグめ。

何事もなく、寺の地下にある大聖杯を破壊できれば良いのだが。

具体的に言うと、ちゃんと黒い泥を回避して、大聖杯へ辿り着ければ良いのだが。

 

ちなみに妾は置いて行かれた。

残念なことに2人は、妾の感知域から出て行く。

……本当に酷いな彼奴等。泥に埋もれて溺死するがいい。

 

その後、レイラインは消える。

キリツグやアーサーに思念を送れなくなった。

大聖杯を破壊したので、繋がりが消えたのだろう。

 

一週間後、警察が訪れた。

吹き飛んだ家屋を調査する際、妾に触れようと試みたので拒否する。

すると、神父っぽい人が来て、清潔な布で妾を包んだので運ばれてやった。

 

運ばれた先は教会だ。

そこから空路で海外の教会へ送られる。

しかし、何者かの襲撃によって飛行機は墜落し、妾は海の底へ沈んだ。

 

……これで終わりか。

海の底に落ちれば拾う者は存在しない。

と思っていたら、妾は大きな魚に食われた。

 

……まだ終わらんよ!

妾は魚を傷付けぬよう、刀身を透かし、柄を内臓に引っ掛ける。

その魚は網に引っ掛かり、漁師によって漁獲され、ついに妾は地上へ舞い戻った。

 

 

「キリツグさーん、大きなお魚持ってきたよー。獲れたてだよー」

「ありがとう、タイガちゃん。さっそく捌いてみようか」

 

「おい、じいさんがやると危ねーって! オレに任せておけよ」

「心配だなぁ。大丈夫かい、シロウ? かなり大きいよ」

 

「じいさんの震える手でやるよりマシだろ……ん? やけに固いな……なんだこれ?」

 

「じいさん! 魚から刃物が出てきた!」

「ははは、それは危ないなぁ。どれどれ……」

 

 

( ゚д゚ )


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