器物転生ときどき憑依【チラシの裏】   作:器物転生

20 / 44
【登場人物】
人吉善吉(めだかボックス)
ネギ・スプリングフィールド(魔法先生ネギま!)
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト(Fate/zero)


能力シャッフル・ロワ 『赤龍帝・人吉善吉』

人吉善吉には、大好きな奴がいる。

生徒会会長の黒神めだかだ。幼馴染の黒神めだかだ。

その黒神めだかという女の子は、獅子目言彦の攻撃を受けて地に伏していた。

 

黒神めだかだけじゃない。

人吉善吉も、くたばっていた。

他の仲間達も、力尽きて転がっていた。

 

許せなかった。

負けられなかった。

それでも伸ばした手は届かない。

 

その瞬間で人吉善吉の命は尽きる。

次に気が付くと、まったく別の場所だった。まったく知らない場所だった。

冷たいコンクリートの上に転がって、人吉善吉は中天に昇った満月を見上げていた。

 

首に触れると、金属の輪を感じ取れる。

脳に焼き付けられた「説明」によると、これで霊体を維持しているらしい。

金属に冷たさはなく、むしろ生温かかった。なぜか熱を発していて、まるで生物のようだ。

 

( 生き返れるって言われてもな……本当に死んでるのか? 身に覚えがないって訳じゃねーけど、幽霊みたいに体が透けてる訳じゃねーし。ここが天国って言われるよりも、安心院さんの仕業って言われた方が納得できるぜ。そもそも天国にしては、プログラムが殺伐すぎんだろ……! )

 

人吉善吉は状況を理解していた。

脳に焼き付けられたプログラムの「説明」を、理解していた。

それによると、北東区の箱庭学園に『安心院なじみのお悩み相談室』があるらしい。

 

『安心院なじみのお悩み相談室』があるらしい。

 

「――って安心院さん居るじゃねーか! あの人死んだとか言って、こんな所でサボってたのか!? 安心院さんのいる場所は北東区か……えーと、俺のいる、ここは、どこだ? どこかにある学校の屋上か。うっし! まずは下に降りて、現在地を把握するぜ!」

 

人吉善吉は状況を理解していた。

脳に焼き付けられたプログラムの内容を、理解していた。

でも納得はできない。死んだと告げられても納得はできなかった。

 

頭が潰れているとか。

腹から内臓が飛び出てるとか。

そういう状態ならば、納得できただろう。

 

しかし、人吉善吉の体は傷一つなかった。

獅子目言彦に付けられた癒えない傷も、見当たらなかった。

球磨川禊の大嘘憑きで『無かったこと』にされた時のように、無かったことに成っていた。

 

( おっ、不知火と球磨川もいるのかよ。ん? いや、不知火がいるのはおかしいぜ。獅子目言彦に体を乗っ取られたはずだ。そのせいでめだかちゃんは、あと一歩って所で負けたんだからな……いや、まだ負けたと決まった訳じゃねぇ。俺が死んだ後に、めだかちゃんは不知火の体から、獅子目言彦を追い出したのかも知れないぜ? ……そうでないとしたら不知火は、まだ獅子目言彦に体を乗っ取られているのかも知れねーって事か )

 

獅子目言彦か、否か。

不知火半袖に会ってみなければ分からない。

人吉善吉は球磨川禊をスルーして、不知火半袖を先に探す事にした。

 

もしも不知火半袖が獅子目言彦ならば、

黒神めだか抜きで、不知火半袖を取り戻さなければならない。

最悪の場合、人吉善吉一人で、無敵の怪物を打倒しなければならなかった。

 

人吉善吉には荷が重い。

 

( オレに与えられた特殊能力は『神器・赤龍帝の籠手』か。力を倍加したり、倍加した力を譲渡したりもできるらしい。だが、禁手やら覇龍やらは使えば即死だ。こっちの必殺技は使わない方がいいな。命がけの必殺技を使ったのに相手は無傷なんて結果もありえる……とりあえず、『神器・赤龍帝の籠手』とやらを使ってみるか )

 

人吉善吉は神器を発現させる。

すると、左腕を覆う真紅の籠手が現れた。

おっぱい大好き青年が保有していた特殊能力だ。

 

「おおっ! デビルかっけぇ! よっしゃ、気に入ったぜ! お前の名前は今日からデビルアームだ!」

 

悪魔的な意味で、間違ってはいない。

『赤龍帝の籠手』の保有者だった参加者は、人から転生した悪魔だ。

少なくとも「乳龍帝と呼ばれるよりはマシだ」と、中の人も思っているだろう。

 

人吉善吉は屋上の扉に手を掛ける。

しかし、その扉は鍵が掛かっているため開かなかった。

……まさかの初期配置トラップであるッ! 通常の方法では、屋上から脱出できない!

 

その扉は金属製だった。

窓枠は小さく、内鍵も鍵穴になっているタイプだ。

学校で自殺される事を防ぐために、内側からも開かないようになっている。

 

「このスキル……じゃなくて、特殊能力じゃなかったら閉じ込められてたぜ……よし、」『Boost!』

 

そこで人吉善吉は『赤龍帝の籠手』を使う。

神器によって倍加した力で殴り、金属製の扉を破壊した。

それによってドッシャンガッシャンと大きな音が鳴り、駒王学園周辺に響き渡る。

 

( やべぇ、やっちまった……どっちかって言うと、屋上から飛び降りた方が良かったか? いや、どの程度の高さなら、落ちても無事なのか分からねーからな。ここは安全な方を取るべきだろ? ……だが、今の音を誰かが聞いていたのかも知れねー。好戦的じゃない奴なら良いが、参加者にキリング・ドールなんて如何にもヤバイ名前の奴もいるからな……まぁ、やっちまったもんは仕方ねぇ。サクサク進むか )

 

例えば『殺人衝動』と言うスキルがある。

しかし、そのスキルの保有者は殺さない殺人鬼だ。

キリング・ドールも同じパターンで、「殺さない人形」という可能性を捨て切れない。

 

屋上は月明かりに照らされていた。

それに対して校舎の中は、暗くて見えにくい。

足を踏み外さないように、足音を立てないように、人吉善吉は階段を下りた。

 

 

しかし、しかしだ。

姿も見えず、足音も聞こえない、

しかし、人吉善吉は察知されていた。

 

校舎の1階にいる人物から、

校舎の3階にいる人吉善吉は観測されている。

観測しているのは、『式神十二神将』という特殊能力で使役されている式神だった。

 

障害物を無視して霊視できるネズミの式神だ。

それを使役している参加者は、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

聖杯戦争に参加し、衛宮切嗣に銃弾を撃ち込まれ、大怪我を負った魔術師だった。

 

撃たれた後の記憶はない。

右手に刻まれた令呪は、跡形もなくなっていた。

しかし、令呪は使い切った後も肌に跡が残り、跡形もなくなるという事はない。

 

サーヴァントと交わした契約が切れた、という以前の問題だ。

令呪の跡を治療された? 同じ見た目の肉体へ魂を移し変えられた?

ナンセンスだ。まずは情報を集めなければ、この不可解な状況を掴めない。

 

ここでケイネスは人吉善吉を殺害する事もできた。

式神の一鬼に命令すれば、暗闇の中で一方的に攻撃できる。

しかし情報収集を優先したケイネスは、人吉善吉と接触する事にした。

 

( む? 隣の校舎の中に、もう一人いるのか。それも膨大な魔力だ。とても人とは思えん……3階にいる参加者は魔力を感じ取れない。おそらく一般人だろう。さきほどの魔力の高まりは、特殊能力を用いたからか。しかし、隣の校舎にいる参加者の魔力量は異常だ。これで一般人と言うのならば詐欺だな。間違いなく魔術師だろう。これから先、障害となりえる。この参加者を、このまま見過ごすのは危険だ )

 

すぐに殺害を決断しなかったのは、デメリットとなる特殊能力もあるからだ。

『死徒』という特殊能力を取得すれば理性を失って、血肉を食らう化物となる。

しかし隣の校舎にいる参加者に不審な様子はなく、理性のある様子を見て取れた。

 

とは言っても、上位の死徒には理性がある。

「理性を失う」と書かれているのに、理性を保っている可能性もあった。

悩んだケイネスは攻撃を決める。式神を用いれば、戦闘中に逃げる事も難しくない。

 

「サンチラとアンジラに命じる。隣の校舎にいる人物を殺害せよ」

 

ケイネスは式神に、殺害を命じた。

空を飛ぶヘビの式神に、ウサギの式神を載せる。

その2鬼を隣の校舎へ向かわせ、ケイネスはネズミの式神と共に待機した。

 

ケイネスの魔力で使役できる式神は3鬼だ。

それ以上の式神を出せば、制御に失敗する恐れがある。

3鬼で攻撃に向かわせたかったものの、ネズミを残さなければ様子を探れなかった。

 

この場に自慢の魔術礼装『月霊髄液』はない。

ケイネスから取り上げられ、他の参加者に与えられた。

あの水銀ちゃんと呼ばれる水銀の塊は、今のケイネスを守ってくれない。

 

窓をパリンッと割って、式神は外へ出る。

その音を聞いて、ケイネスは思わず舌打ちした。

式神に扉を開けるという考えはない。その事に考えが及ばなかった。

 

式神はド低脳だ。

ケイネスの従えていたサーヴァントのように賢くない。

そう思ったもののケイネスは、自身のサーヴァントを思い出した。

 

サーヴァントは英霊だ。

ケイネスの従えたサーヴァントも英霊だった。

しかし命令に逆らったり、ケイネスの恋人を誘惑したりしていた。

 

最低のサーヴァントだ。

それと比べれば式神の方が、まだマシだろう。

少なくともド低脳である分、命令に逆らう事はない。

 

そんな事を考えている間に式神は、参加者の下に到着する。

標的となっている膨大な魔力を持つ参加者は、空中に光を灯していた。

蛍のような光に誘われるように近付いた式神2鬼は、窓を割って室内へ突入する。

 

 

教室の中に居た参加者はネギ・スプリングフィールドだった。

ガラスを割って飛び込んだヘビとウサギを見て、その場を飛び退く。

光を浮かべて室内を照らしていたおかげで回避に成功したものの、不利な状況だった。

 

本来ならばネギは、『闇の魔法』という強力な魔法を使える。

その魔法を用いて、地属性を統べる魔法使いのライバルに勝利した。

しかし造物主によって、ライバルごと魔法で胸を貫かれた瞬間から、ネギの記憶はない。

 

また偽りの夢を見せる、完全なる世界に囚われたのか?

そう思ってネギは解除方法を試してみたけれど、世界は何も変わらなかった。

記憶に焼き付けられた「説明」を信じるとすると、ネギは死んでいるのかも知れない。

 

『闇の魔法』は使えない。

師匠から授かった『闇の魔法』は取り上げられ、他の参加者に与えられた。

『闇の魔法』の性質から考えて、発動した瞬間に無差別殺人が始まるのは明らかだった。

 

その代わりに使えるのは、『蛍の化身』だ。

発光・幻惑・精神干渉を行えるけれど、なぜか頭から触角が生える。

記憶に焼き付けられた参加者リストによると、短命魔族の所有していた能力らしい。

 

ネギは子供の頃、悪魔に故郷を滅ぼされた事がある。

しかし今はネギも、基礎能力に「半魔族」と付くほど魔族化していた。

そんなネギに短命魔族の特殊能力が与えられたのは、偶然ではないのだろう。

 

ネギの使える能力は、『蛍の化身』だけではない。

基礎能力として「魔法使い」が登録されている通り、ネギは魔法を使える。

父親から貰った杖は無いけれど、師匠から貰った指輪は、指に付けたままだった。

 

( 魔法の射手・戒めの風矢! )

 

ネギは無詠唱で、魔法の矢を数本放つ。

それらはヘビとウサギを捕らえ、行動不能にした。

式神に止めを刺すほどネギは攻撃的ではなく、その場に放置する。

 

問題なのは、ネギを攻撃させた術者だ。

ネギは探知魔法を用いて、魔力の流れを追跡する。

窓から外に出て、隣の校舎に潜んでいるケイネスの下へ向かった。

 

霊視能力のあるネズミを通して、この事態にケイネスは気付く。

あのヘビとウサギを撃退するとは、魔力量に劣らぬ技量を持つ魔術師に違いない。

しかしヘビとウサギを呼び戻すか、ネズミを戻さなければ、他の式神は出せなかった。

 

ヘビとウサギの通った後を、ネギは逆走している。

その事からケイネスは、相手の魔術師が魔力を追跡していると察した。

式神は参加者の意思で切り離せないため、魔力の跡を追跡されれば発見は不可避だ。

 

しかしケイネスの使える能力は、特殊能力だけではない。

魔力に余裕を持たせるため、ネズミを影に戻すと、直接戦闘の準備を整えた。

魔術回路から生成した魔力を、歴史ある魔術刻印に通し、優れた魔術を発動させる。

 

とは言ったものの、まず使ったのは人払いの魔術だ。

これによって屋上から3階まで降りた人吉善吉は、下へ進めなくなった。

特殊能力を用いない限り、魔術に抵抗する事は叶わず、階段の前を右往左往する。

 

 

( どうしても2階に進めねぇ……! まさかスキルの攻撃を受けている!? どこだ! いったい何所から!? 決まってるぜ、下だ! でも進めねぇ……! カッ! こうなったら窓から飛び降りるか? いいや、それよりも良い手があるぜ! )

 

人払いの魔術は、魔術を秘匿するための物だ。

人払いの魔術に引っ掛かっていれば、安全とも言える。

しかし、イライラしていた人吉善吉はティン!と来て、神器を発動させた。

 

(10秒……)『Boost!』

(20秒……)『Boost!』

(30秒……)『Boost!』

(40秒……)『Boost!』

(50秒……)『Burst』

 

「あっ……?」

 

説明しよう!

『赤龍帝の籠手』は10秒毎に力を倍加させる。

しかし、保持者の限界を上回るとburstして、機能を停止させるのだ!

 

(10秒……)『Boost!』

(20秒……)『Boost!』

(30秒……)『Boost!』

 

「ここだ!」『Explosion!』

 

そうと知らない人吉善吉は、とりあえず4回目で止める。

そして、窓から飛び降りるのではなく、廊下の床を打ん殴った。

腕力だけではなく魔力も倍加された人吉善吉の左腕は、足元に大きな穴を開ける、

 

大砲を撃ったようなドーンという音が、周辺に鳴り響いた。

瓦礫と共に2階へ下りた人吉善吉は動きを止め、人の気配を探る。

辺りに誰もいないと判断すると、続けて2階の床を打ち抜き、1階へ舞い降りた。

 

『Reset』

 

そこで倍加の効果が切れる。

人吉善吉の体から、急に力が抜けた。

倍加に制限時間があると知らない人吉善吉は混乱する。

 

運の悪い事に、降りた先で人の気配を感じた。

すぐにチャージを再開させ、人吉善吉は戦闘に備える。

しかし最低1回の倍加でも10秒かかるため、すぐに体を強化する事は出来なかった。

 

人吉善吉は瓦礫の頂上で、フラリと体を揺らす。

一瞬で湧いた巨大な魔力を感じ取ったネギは、その男の姿を見上げた。

目の前の男から魔力は感じない。一般人並みだ。しかし、全くない訳ではなかった。

 

『Boost!』

 

魔力は感じない。

 

『Boost!』

 

魔力は感じない。

 

『Boost!』

 

魔力は感じない。

 

『Boost!』

 

魔力は感じない。

 

『Explosion!』

 

魔力が、膨れ上がった。

 

40秒後に男の存在感は、全く別の物になっていた。

その変化にネギは目を見張る。男が輝いているような錯覚を覚えた。

男の攻撃を食らえば、無事では済まされない。そんな風にネギは感じた。

 

( 魔力が倍増するなんて……とんでもない特殊能力だ。おそらく『神器・赤龍帝の籠手』だね。「説明」によると、『Boost=10秒毎に全能力を2倍にする』だ。魔力だけじゃなくて、全体的な能力を向上させる。でも、さっきボクを襲って来たのは「変わった生物」だった。きっと、この人じゃない。もう1人、この近くにいる……! )

 

「ボクはネギ・スプリングフィールドです。麻帆良学園中等部で教師をしています」

「オレは人吉善吉。箱庭学園の生徒会庶務だ……です?」

 

教師と聞いて、人吉善吉は困惑する。

闇の中から聞こえる声は、子供のような声だ。

声の位置から察するに、その身長は小学生相当と察せられた。

 

子供先生だ、とでも言うのか。

しかし、自身の母親が似たような容姿である事を思い出した。

小学生のような容姿の母親がいるのだ。小学生のような教師がいても不思議ではない。

 

魔法教師も似たような物だ。

魔法を使えるとおっしゃる妄想少女よりもマシだろう。

参加者リストにも、『魔法使い(全能力の向上ランク2)』と記されているので間違いない。

 

校舎の中は真っ暗だった。

何となく感覚を用いて、人吉善吉は瓦礫から下りる。

最低最悪の過負荷と目を閉じて戦った事もあるのだ。難しい事ではなかった。

 

その様子を見てネギは、『蛍の化身』を発動させた。

頭から触角を生やし、その先から蛍のような光を作り出す。

ネギが空中に浮かべた光は、ネギと人吉善吉を照らし出した。

 

「おっ、助かるッス」

 

下手すると、それは攻撃準備に見える。

その光で人吉善吉を攻撃すると、疑われても仕方なかった。

しかし人吉善吉はネギを疑わず。足元を照らしてくれた事に対して、素直に礼を言う。

 

それよりも気になったのは、ネギの触覚だ。

『蛍の化身』を発動させると、ネギの頭から触角が生える。

アホ毛という髪の毛ではなく、外骨格で包まれた蛍の触角だった。

 

人吉善吉は「説明」を思い出す。

触角が生えると明記されている特殊能力があった。

それによって人吉善吉は、ネギに与えられた特殊能力を『蛍の化身』と察する。

 

そこで人吉善吉は気付く。

ネギの基礎能力に半魔族と記されていた。

ネギは10歳に見えるけれど、じつは100歳だったりするのかも知れない。

 

獅子目言彦に殺された安心院なじみを、人吉善吉は思い出す。

北東区の箱庭学園にいるらしい安心院なじみは、宇宙誕生以前から生きていた。

この小学生に見える少年も、見た目通りの年齢ではないのだろうと、人吉善吉は思う。

 

『Reset』

 

( 倍加した力の継続時間は今の所、約1分か。こいつは使い所が難しいぜ。チャージをしている間は素の体力だ。チャージが終わって初めて、倍加した力を適用できる。1分以内に相手を倒せなかったら、チャージのやり直しだ。さっきと同じように敵と会った瞬間に、倍加の効果が切れるかも知れねぇ )

 

神器から発せられた音声を、ネギは聞き取る。

『Reset』の音声と共に、人吉善吉の高まった魔力は霧散した。

ネギは警戒を解いてくれたのだろうと思ったけれど、時間切れになっただけだった。

 

「じつは、さっき、誰かの特殊能力らしき生物に襲われたんです」

「そいつが近くに居るって事ッスか。さっきの変な感覚も、そのせいッスか?」

 

「おそらく人払いの魔法ですね。その特殊能力で魔力が上がったから、レジストできたのでしょう」

「探すんスか? だったらオレもやるッスよ。そんな奴は放って置けねぇッス」

 

「そうですか。でしたら、ここで犯人の逃げ道を塞いでいただくと助かります」

 

人吉善吉が敵の仲間という可能性もある。

可能性は低いけれど人吉善吉が、ネギを襲った犯人という可能性もあった。

『赤龍帝の籠手』で魔力を倍増させれば、3体の式神を使役する事もできるだろう。

 

人吉善吉は信用に足りない。

だからネギは1人で、襲撃犯の下へ向かう。

時間がない事を理由に会話を切り、式神と繋がっていた魔力の跡を辿った。

 

「式神と繋がっている」のではない。

さきほどまで「式神と繋がっていた」魔力の跡だ。

ネギは走りながら「あれ?」と思い、その変化に気付いた。

 

「いませんっ!」

「逃げられたか……まずいッスよ。他の参加者も襲われるかも知れねぇッス」

 

校内にケイネスは居なかった。

足を止めたネギと、吉善吉が組んだ事を察して逃げている。

式神であるネギとウサギの拘束も、ネギと人吉善吉が見つめ合っている間に解けていた。

 

「善吉さん、情報を交換しましょう。何が起こっているのか、僕達は知る必要があります」

「そうッスね。誰だか知らねーが、俺の頭に「説明」なんて物を突っ込んだ奴の正体を知る必要はあるッス」

 

 

ネギと人吉善吉は階段の踊り場へ移動する。

教室や廊下でないのは狙撃を防ぎ、侵入者の立てる音を察するためだ。

2人は互いに与えられた「説明」を話し合い、与えられた情報に差がない事を確かめた。

 

「俺の知っている奴は、不知火半袖と球磨川禊ッス。でも、2人とも性格に難があるッス。根は悪い奴等じゃないッスけど……俺という親友が狼に襲われる様子を安全圏から眺めていたり、イカサマ勝負で負けた女生徒に裸エプロンを着せようとしたりするッス……全裸で。あいつらが気に障るような事を言い出しても、広い心で受け止めてやってほしいッス」

 

「僕の知っている人は、神楽坂明日菜さんです。明日菜さんは僕の生徒でもあります。ナギ・スプリングフィールド(造物主)は、おそらく敵でしょう。この状況なので相手が、どう動くのか分かりません。一つだけ確かなのは、敵対されると桁違いに危険な相手だという事です」

 

ネギと家名が同じだ。

その点にネギは触れず、敵と言い切った。

他人に言い難い事情があるのだろうと、人吉善吉は思う。

 

「ええ、ナギ・スプリングフィールド(造物主)は27人の中で2人しか居ない全能力ランク6ッス。こいつらに暴走すると全能力プラス4される『闇の魔法』や、理性を失って全能力プラス5される『死徒』が配布されてたら、手が付けられなくなるッスよ」

「なんだか、すみません……」

 

『闇の魔法』はネギの特殊能力だった。

それが他人に迷惑を掛けるとなると、ネギは申し訳なく思う。

できれば能力を回収したいけれど、それは能力保持者の殺害に繋がる事だった。

 

ちなみに「説明」によって、ネギは酷いネタバレをされている。

ネギの父であるナギ・スプリングフィールドは(造物主)であると明記されていた。

しかし、その可能性を考えた事もあったので、ネギは大きなショックは受けなかった。

 

それよりもネギは不思議に思う。

「説明」を信じるとすれば、神楽坂明日菜と造物主も死んでいる。

いったい何時、2人は死んだのか。生きている人々の「今」は、何時なのだろうか?

 

要するに、ネギが死んでから何年経っている?

1年か、10年か、100年か、神楽坂明日菜に聞かなければ分からない。

人吉善吉は10年ほど先の年代から来たらしいけれど、異なる世界の出身だった。

 

( 参加者リストを信用するとすれば、ここには明日菜さんもいる。まずは明日菜さんを探さなくちゃ。南区にある麻帆良学園都市の女子寮に行けば、明日菜さんと合流できる可能性は高い。その後は、どうにかして、このプログラムから脱出しよう。「説明」によると、生き残れるのは一人だけだ……僕か明日菜さんの片方を切り捨てる道なんて、僕は選べない )

 

世界を救おうとしていた魔法使いがいた。

そのために神楽坂明日菜は囚われ、世界の礎(いしずえ)にされる。

その神楽坂明日菜を助けるためにネギは、造物主の従える組織と敵対した。

 

神楽坂明日菜を助ければ、いずれ世界は崩壊する。

神楽坂明日菜を助けるという事は、世界を切り捨てるという事だ。

その結果を防ぐためにネギは代案を用意し、神楽坂明日菜の救出へ向かった。

 

皆を助けなければならない。

誰かを犠牲にするような方法は選べない。

だからネギは神楽坂明日菜だけではなく、参加者全員を脱出させる道を選んだ。

 

問題は「首輪を外せばいい」という話ではない点だ。

「説明」によると、首輪を外せば霊体を維持できなくなり、霧散するという。

実際に確かめなければ分らないものの、首輪を外せば即死する恐れもあった。

 

首輪は参加者の生命線だ。

 

話し合いを終えると、ネギと人吉善吉は外へ出る。

真夜中なので辺りは暗いものの、なぜか街灯は灯っていた。

2人は案内板を見て、現在の位置を知る。ここは「北区 駒王学園」だった。

 

「ところでネギ先生、「説明」の、

 ~2010年代の代表~とか、

 ~2000年代の代表~とか、

 ~1990年代の代表~って、やっぱり死んだ時の西暦ッスか?」

「そうだと思います。僕が2000年代の分類で、僕は2003年に魔法世界で死亡しました」

 

「じゃあ、この『魔法先生ネギま!』ってーのは……」

「ノーコメントです」

 

人吉善吉と話している間に、

ネギの抱いていた疑念は解ける。

ネギは人吉善吉を信用し、同行を決めた。

 

2人は目的地を決める。

まずは人吉善吉の目的地である、「北東区 箱庭学園」へ向かう。

次にネギの目的地である、「南区 麻帆良学園の女子寮」へ向かう事になった。

 

その前に、この北区には「支給品 神器・聖母の微笑」が眠っている。

ネギの特殊能力で室内を照らし、探してみたものの、発見する事はできなかった。

駒王学園の存在していた世界に属する参加者でなければ、場所の見当すら付かない。

 

しかし、収穫がなかった訳ではない。

校内から「ペン・紙・ハサミ・コップ・ライター・消毒薬・包帯・タオル」を入手する。

それらを教室に置かれていたスクールバッグに入れて、道具を持ち運ぶ事にした。

 

外へ出るとネギが魔法を用いて、駐輪されていた自転車の鍵を外す。

その自転車に人吉善吉が乗り、ネギはホウキに魔法を掛けて空を飛んだ。

魔法による飛行は魔力を消費するものの、子供用の自転車は見つからなかった。

 

自転車を盗むのは犯罪行為だ。

しかし緊急事態という事で、ネギは割り切った。

そもそも「説明」によると此処は、参加者の世界の一部を再現した場所らしい。

 

人はいないけれど、電灯は灯っている。

その電力は何所から来ているのだろうと、ネギは思った。

盗んだ自転車と、盗んだホウキに乗り、2人は並んで走り出す。

 

デイバックなんて物は無いので、全て現地調達だった。

 

 

 

一方その頃。

式神を回収したケイネスは、使役しているヘビに乗っていた。

高速で移動できるウシは足音が大きいため、移動に空飛ぶヘビを用いている。

 

( おそらく抗魔力のない参加者は今頃、あの魔術師に洗脳されているだろう。惜しい事をしたな……ここは北へ向かって「土地の端」を確かめるよりも、南へ向かって手駒を集めるべきか。それに南の中央区には、衛宮矩賢の魔術工房がある。同じ家名の衛宮切嗣と繋がりがあるに違いない。衛宮切嗣は、そこに立ち寄るはずだ )

 

魔術を用いて一般人を洗脳する。

サーヴァントのように反抗的な手駒は必要ない。

それに洗脳すれば、魔術に関わる神秘の秘匿も容易だ。

 

本人の意思?

そんな物は些細な事だ。

要するに、神秘を秘匿できれば問題ない。

 

ケイネスは中央区 衛宮矩賢の魔術工房へ向かう。

その横に記された「支給品 完成版の死徒化薬」に、興味がないと言えば嘘になる。

ケイネスが「完成版の死徒化薬」を解析すれば、得られる成果は計り知れないだろう。

 

「ここは魔術師の探求する魔術の根源では?」とか。

「自身と契約したサーヴァントは、今頃どうしているのか?」とか。

そんな事は全く考えておらず、成果を挙げて婚約者に尊敬される光景を思い描き、

 

ケイネスはニヤリと笑った。




【氏名】人吉善吉 『めだかボックス』
【状態】異常なし
【位置】北区 駒王学園→北東区 箱庭学園
【基礎能力】なし
【特殊能力】神器・赤龍帝の籠手
 神器・赤龍帝の籠手(Boost=10秒毎に全能力を2倍にする。Transfer=倍加した能力を他人に譲渡する)
 禁手・赤龍帝の鎧(Welsh Dragon Over Booster=全能力を連続で倍加する。ただし片腕が龍化し、基礎能力が低い場合は反動によって1時間で死に至る)
 覇龍(Juggernaut Drive=神器に封じられた力を解放する。この能力の保持者は死ぬ) 
【所持品】スクールバッグ(ペン・紙・ハサミ・コップ・ライター・消毒薬・包帯・タオル)
【思考】
1、不知火半袖は獅子目言彦なのか?
2、安心院なじみと会うために北東区 箱庭学園へ向かう
3、オレは本当に死んでるのか?
4、ネギと同行しよう
--------------------
【氏名】ネギ・スプリングフィールド 『魔法先生ネギま!』
【状態】異常なし
【位置】北区 駒王学園→北東区 箱庭学園
【基礎能力】
 半魔族(全能力の向上ランク1)
 魔法使い(全能力の向上ランク2)
 ※全能力の向上ランク3
【特殊能力】蛍の化身
 蛍の化身(発光・幻惑・精神干渉を行える。ただし、頭から触角が生える)
【所持品】スクールバッグ(ペン・紙・ハサミ・コップ・ライター・消毒薬・包帯・タオル)
【思考】
1、僕は本当に死んでいるのかも知れない
2、参加者と力を合わせて、全員をプログラムから脱出させよう
3、僕が死んだ後、世界はどうなったのだろう?
4、人吉善吉と同行し、北東区 箱庭学園へ向かう
5、神楽坂明日菜と合流するために、南区 麻帆良学園の女子寮へ向かう
--------------------
【氏名】ケイネス・エルメロイ・アーチボルト 『Fate/zero』
【状態】異常なし
【位置】北区 駒王学園→中央区 衛宮矩賢の魔術工房
【基礎能力】
 魔術刻印(全能力の向上ランク2)
【特殊能力】式神十二神将
 式神十二神将(待機時は能力保持者の影に潜む、十二体の式神を使役する。式神を倒されると、能力保持者もショックを受ける。精神が不安定になると暴走する)
 クビラ(子。霊視)
 バサラ(丑。吸引)
 メキラ(寅。短距離の瞬間移動)
 アンチラ(卯。素早く、鋭い耳で切り裂く)
 アジラ(辰。口から火を吹き、石化ビームを放つ)
 サンチラ(巳。電撃を放ち、飛行用の乗り物として利用できる。敵を絞め殺す)
 インダラ(牛。最高時速300キロメートルで走行し、地上用の乗り物として利用できる)
 ハイラ(未。複数人と共に、他人の夢へ侵入できる。毛針を飛ばす)
 マコラ(申。変身能力を持ち、放って置くと他人に変身して行方不明になる)
 シンダラ(酉。亜音速で飛行する)
 ショウトラ(戌。舌で舐めて病気や怪我を治療する)
 ビカラ(亥。戦車並みの怪力)
 ※霊力(魔力)のランクによって、同時に使役できる式神の限度数は異なる。
  ランク0 1体
  ランク1 2体
  ランク2 3体
  ランク3 5体
  ランク4 7体
  ランク5 9体
  ランク6 12体
【所持品】なし
【思考】
1、成果を挙げ、婚約者に良い所を見せる
2、情報を収集せねばなるまい
3、私以外の魔術師は、殺害しなければ危険だ
4、衛宮切嗣に懲罰を下さねばならない
5、このプログラムの実行犯は万死に値する
6、中央区 衛宮矩賢の魔術工房へ向かい、「完成版の死徒化薬」を入手し、衛宮切嗣を待ち受ける
7、抗魔力のない参加者を魔術で洗脳し、手駒を集めるべきだ
8、式神に下す命令は、細かく指定せねばなるまい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告