緋弾のアリア~Gの血族となかまたち   作:エスミス

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 この小説は、緋弾のアリアという作品に私が手を加えた、いわゆる二次創作となっております。
 もし原作を知らない方々が、この手を加えられたとはいえ緋弾のアリアという作品に興味を持ってお読みなさっていただいているということについて、誠に感謝しております。
 さて、その点で一つ、私は謝罪しなければならないことがございます。
 本来ならばそのような方々に配慮して、緋弾のアリアという元の作品についてある程度の解説をしなければならないのですが、いかんせん私の文章にはそのようなものがありません。
 ですのでこの前書きにて、この緋弾のアリアという作品がどのようなものであるのかを、私なりに解説させていただきたいと思います。
 以降より、解説となります。




 武偵。武装探偵の略称であり、凶悪化する犯罪に対抗すべく新設された国家資格のこと。武偵は逮捕権を有しており警察に準ずる活動が可能だが、彼らは金と引き換えに依頼を遂行する。何でも屋みたいなもの。
 
 武偵高。武偵を育成するための教育機関。日本をはじめ、世界各国の国と地域に存在する。東京武偵高もその一つ。武偵になるため、一般の学業と併用して武偵としての技術も学ぶ。

 東京武偵高。東京湾にある南北およそ2キロ、東西500メートルのメガフロートである通称、学園島に建設されている。島にはビルや繁華街もなっており、島だけでも充分生活できる。なお生徒たちは校則により武装が義務づけられている。

 制服。本文では略しているが、正確には防弾(防刃も可)制服というもの。その名の通り、弾丸から身を守るための制服。
 
 ○○科。東京武偵高に存在する武偵育成のための専門学科。本文には探偵としての技術、知識を学ぶ探偵科。スパイなどの工作員を養成する諜報科など。
 ちなみに教務科とは、俗に言う職員室。

 武偵ランク。学科試験の結果や、民間の依頼解決の実績からランクが決められる。E~Aまでが通常のランク。Aの上にはSランクというものが存在するが、これは極限られた人物にのみ与えられる。Sランク武偵は、その道のプロであるAランク武偵が束になっても叶わないほどの実力。
 


第一弾 Gの二人は彼女と出会う

 言葉ってのは厄介な魔法だ。使い手の人格や態度、動作、さらには時と場所によっても、意味はまったく違うものに変わる。

 例えばこうだ。ある女性にこう言われたとする。

 

 『あなたとXって……どういう関係なの?』

 

 ごく普通の一般ピーポーの方々をはじめ、大多数がこの言葉を自分に対して嫉妬している、つまり使い手はこちらに対して好意的であるのだと感じると思う。

 だがこんなシチュエーションで言われたとしたらどうだろう。

 実は彼女は男の子同士の友情……ではなく、彼ら同士の恋愛が好きな人(世間一般的に言うところの腐女子)だったとしたら。自ずと、彼女が発した言葉の意味は自分に対しての嫉妬という感情ではなく、自分とXが彼女の想像する濃厚な日々を送り合うような間柄であるのかという好奇の感情ということになる。

 つまり、だ。

  

 「あたし、アイツの近くがいい」 

 

 平日の午前九時三十二分。一クラス四十人余りの教室で発言されたこの言葉は、俺をはじめ聞き手の全員にどう受け取られるだろうか。少なくとも俺はこう受け取る。

 

 「まるで意味がわからんぞ!」

 

 

 

 

 ・・・・・

 

 ・・・ 

  

 ・

 

 

 意識を取り戻して最初に感じたのは、心地いいメロディが流れているということだった。

 そこから徐々に体が覚醒していくのを感じながら、発信源であるケータイを目指して俺は手を伸ばす。たどり着いた手でケータイを握ると、次はそれを顔の前に持ってくる。心地いいメロディとは一旦さようならだ。

 アラームを止め、七割ほど目覚めている体をベッドから起き上がらせる。寝ぼけ眼で再びケータイに目をやると、青い電子的な数字が午前七時だということを教えてくれた。

 

 ピン──ポーン

 

 変に間延びしたチャイムが鳴った。相変わらず独特な鳴らし方だ。そう思いながら俺は玄関へと向かった。

 

 「あ…………おはよう、カナエくん」

 やっぱり、ドアを開くと待っていたのは彼女だった。

 

 「おはよう。キンジじゃなくて悪かったな、白雪」

 図星を指され、ぶら下げている風呂敷と一緒に動揺する星伽白雪。腰のあたりにまである漆を塗ったような黒髪と同等に、大きく見開かれている黒瞳(こくどう)。これまでの食事で摂取してきた栄養素を、すべてを集中しているのではないかと疑うほどの豊満な胸。加えて、赤いスカートと白を基調としたセーラーカラー型の制服を着ているせいで、言葉は選べずとても卑猥に見えてしまう。彼女を表すとしたら、愛嬌のある日本人形といった感じが一番似合う。

 

 「そ、そんなことないよ。ただキンちゃんが出てくるのを待ってたら、カナエくんが出てきてちょっと残念って思っただけで……」

 はい、今の言葉で俺のライフは0になりました。すみません、豆腐メンタル患者は些細なことで傷つくのです。優しい言葉を心がけるようにしてください。  

 

 「……まあ、上がって待ってろよ。まだ寝てるけどもうすぐしたらあいつも──」

 「キンちゃんおはよう!!」

 意図的なのかそうでないのか。俺の声に被せながら発した白雪の声は高揚しており、表情もウキウキしていた。恐らく、玄関で待っていた間の表情はこれだろう。

 

 「その呼び方やめろって言っただろ、白雪」

 寝起きもあってか、不機嫌そうに返事をする遠山キンジ。日本人特有の黒髪以外これといった身体的特徴のない、至って普通な俺の同居人だ。

 

 「おはようキンジ。ほら喜べ、今日もお前の嫁がこうして朝飯持ってきてくれたぞ?」

 「お、お嫁さん!? そ……そんな、わた、わたたたしとキンちゃんが……キャッ」

 「誰が嫁だ、誰が。俺はまだ誰とも結婚していないし、そもそも付き合ってもいない」

 ボッ、と顔を紅潮させる白雪にキンジがつっこむ。そう、白雪はキンジが好きだ。こんなふうに、冗談を言ってみても十人中九人が気づくほどわかりやすい反応をする。 

 

 「まあ、上がれよ」

 同じセリフをキンジが言うと、白雪は今度こそ部屋に上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に戻り身支度を済ませた俺は、脱衣所の洗面台で髪をセット(セットと言っても、ただ跳ねている髪を整えるだけだが)していた。

 

 「……よし」

 左右に首を曲げて跳ねが無いかを確認すると、洗面台を後にしてリビングへと向かった。リビングは、およそ学生寮として扱うには無駄にしか思えない広さをしている。そこに簡素なソファにテレビ、机やテーブルがあり、一つの家庭的な空間を形成している。贅沢なことに俺とキンジは、この広いリビングのほんの一部分を使って今日まで生活をしてきたのだ。

 そんなリビングで同じく制服に着替えたキンジは、白雪の作ってきた弁当に舌鼓を打っていた。

 

 「お、カナエ。お前も食うか?」

 ほら、とキンジは俺に弁当を見せつけた。

 焼き魚や漬物、きんぴらなど、彩りのいい弁当──それもお重だ。だが俺はそれを断る。

 

 「いや、俺はいいや。あんま腹減ってねえし。それにそろそろバスも来るしな」

 「相変わらず早いなカナエ。八時前のやつでも充分間に合うってのに」

 「遅れるよりはいいさ。キンジも、ゆっくりするのはいいけど遅れんなよ。今日は始業式だからな、遅れでもしたら人気者間違いなしだぞ?」

 「わかってるよ」

 じゃあな、と言って俺はリビングを出て行った。

 

 「食えって言われてもなぁ……」

 赤いスニーカーの紐を結びながら呟いた。正直、あの弁当を俺が食べていいのかと問われると、すぐに答えていいのかどうかは謎だ。考えてもみろ。あの弁当は、白雪がキンジのために作ってきたのであって、俺のためには作ってきてはないのだ。つまんだところで、それ以降俺の姿を見た者はいなかったなんて状況になるとは思えないが、やはり気が引ける。

 そんな俺の苦労も知らずにあのラノベ主人公みたいな奴は…………一回その凝り固まった脳みそを頭蓋骨通り越して陥没させてやろうか? あ、ダメだ白雪にこの世に生を受けた証さえも消されてしまう。

 

 「まあ、帰って残ってたらそれをいただくとしようか」

 さすがにお重三つだ。フードファイターではない限り、朝からすべて平らげるなんてことはないはずだ。無言の圧力のない、落ち着いた状態でおいしくいただこう。

 わざわざ朝早くから料理を持ってきた白雪を邪険(?)に思いながら、あらかじめ玄関に置いておいた黒いバックパックを背負い、俺はドアを押し外へ出る。すると、春の陽気がふわっと体を包み込んできた。暖かくて優しい陽気だ。

 春の衣を身に纏ってエレベーターに乗降し、俺は次にバスへと乗り込んだ。学生寮から武偵高までの道のりを行く専用のバスだ。

 キンジの言ったとおり早いからだろう、乗車している生徒の数も少なく空席も多い。俺は適当な席に座ると、背負っているバックパックから音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを耳に装着する。流すのは、最近ハマっているアーティストの曲だ。

 曲が始まると同時に、バスは出発した。その瞬間から、彼の意識は音楽によって支配される。獰猛なギターが、繊細なドラムが、清浄に見えてどこか汚れているボーカルが、混乱せずに混ざり合う。中毒性必至の曲だ。

 途中でニ、三度停まって生徒を数十人集客し、十五分ほど揺られるとバスは目的地の武偵高へと到着した。

 

 『──お待たせいたしました、武偵高でございます』

 イヤホン越しに、少し遠い感じのするアナウンスが聞こえた。

 プシュー、とプレス機で潰したような音を出しながらドアが開く。それを確認すると、生徒たちは定期券を片手に降りだす。その流れにのり、俺も定期券を認証機にかざしバスを降りた。

 脳内には、別のアーティストの曲が流れている。二番目から曲調の変わるのが特徴的で、これも好きな曲の一つだ。

 ド素人なりに感想を胸の中でこぼしながら、目の前に見える校舎へと俺は向かった。

 昇降口でスニーカーを上履きへと履き替える。正直上履きは格好がいいとは思えないんだが、俊敏性で言えばスリッパよりも上履きの方がいいのは確かだ。もし事件に遭遇した時にスリッパだったなら、うまく走れない上に犯人を取り逃がしてしまうなんて最悪のケースもありうるからだ。

 上履きに履き替えると、少し進んで右側の階段を登り三階へと進む。四階建ての校舎は一年生から準に一階ずつ下がっていき、一階は教務科(マスターズ)探偵科(インケスタ)諜報科(レザド)などの特別教室となっている。

 三階に着くと、何人かの生徒が廊下で談笑していた。やはりみんな、新しいクラスが気になるらしい。もちろん、俺も新しいクラスが気になって早かったというのはある。だが実際のところ、俺はキンジを独占(おたのしみ)中の白雪がいる空間に居づらかった、という理由で早くに登校しているだけである。

 白雪が来始めた当初はまだ(その当時も居づらいことに変わりはなかったが)いられた。だが昨年の九月ごろにはついに限界を迎え、自らがこうして動かざるをえない状況を作りだされてしまった。

 

 「お、カナエ!」

 声がしたと思った時には、すでに首から肩にかけて俺のものではない腕があった。奇妙な話しだが、俺はそのことに決して驚いたりはしない。なぜなら、その腕の主のことを知っているからだ。

 

 「おはよう、武藤」

 焦げた茶色の髪をしたツンツン頭の大柄な男子、武藤剛気は「おう」と笑い、白い歯を見せつけた。

 

 「キンジのやつはどうした?」

 「まだだ。最後のバスで来るって言ってたから、そろそろ寮を出るころじゃないか?」

 「ふーんそうか……っと、クラス表見たか? どうやら今年もお前らと一緒みたいだ」

 「そうなのか、ならまた活気のあるクラスになりそうだな。期待してるぜ、ムードメーカー」

 武藤はまた白い歯を見せつけて「まかせろ」と笑ってみせた。車両科(ロジ)に属する武藤は、車は当然のこと、列車や飛行機といった乗り物ならすべて乗りこなせる(定かではないが戦車にも乗れるとか)。その類まれな能力で、Aランクの実力を持つ武偵だ。本人曰く、改造車を何度も見つかり減点されてるのが原因らしい。

 武藤はすでに近い顔をさらに近づけると、

 

 「ちなみに、お前らと俺のクラスは2-Aなんだが──峰さんも一緒だぜ」

 「っ!? おまっ──」

 「あっははははっ!! お前わかりやすいな!」

 ポンポン、と武藤に頭を触られおちょくられる。もし、今どんな顔をしているのかと問われれば、体の内側から感じる奇妙な熱と背中に感じる清潔感のない汗だけですぐに答えられる。

それこそ鏡なんて必要ないほどに、俺の顔面は不自然な赤色をしている。

 くそっ、この野郎……。

 

 「いいじゃねえかカナエ! この際さくっと峰さんに──」

 武藤が次の言葉はなかった。その代わりに、峰理子が言葉を発した。

 

 「んー? りこりんがどうかしたのかなー?」

 ぬるっと、俺たちの背後から彼女は現れた。タイミングを見計らって登場したとしか思えない、それほどの不自然さだった。もしかすると本当にそうなのかもしれない。

 咄嗟に振り返る武藤と俺。襟と裾、それにスカートにまで白いフリルが施された改造制服に身を包み、黄金色(こがねいろ)の頭髪をツーサイドアップに結んだ容姿の峰理子。急な彼女の登場にバクバクと音を鳴らす心臓を実感した状態で、先に冷静さを取り戻し始めたのは武藤だ。

 裏声の混じった声で、武藤は理子に挨拶(あいさつ)する。

 

 「や、やあっ峰さんおはよう! いい天気だねそうだよね!」

 「おはよー、むっきーにカナやん! うん、今日もいい天気だね」

 「うんとってもいい天気だ! あー…………そ、その峰さんは、どの組だった!?」

 「りこりんはねえ、んーとぉ……あ、りこりんはA組!」

 「お、おおっAか! 実は俺とカナエも一緒なんだ! な、なあカナエ!?」

 これ以上はお役御免だ、と目には見えないセリフと一緒に武藤は俺にパスを決めてくる。だがそれでも、前半でのミスを帳消しにできるだけの働きは確かなものだ。

 おかげで、ある程度の冷静さを取り戻すことに成功した。武藤から与えられた絶妙なパスを受け取ると、俺はゴールを目指し想い人との会話を展開しようとするのだが……。

 

 「そ、そうなんだ理子。俺も武藤も、あとキンジもAだ。だ、だから…………その……こ、今年もよろしく……というやつだ」

 ゴールはおろかシュートすらも打てずに、会話は俺の一方通行となってしまった。それでも理子は笑いながら「よろしくカナやん!」と言うと、その場を後にした。

 武藤は理子の姿が見えなくなると、普段よりも倍近くの息を吐き出し緊張を解いた。

 

 「……ったく、朝から心臓に悪いぜ峰さん」

 武藤の言葉に俺は無言で(うなず)いた。

 

 (本当に……心臓に悪いぜ、理子)

 俺は心臓に手を当ててみる。心臓の高鳴りは未だ収まることを知らず、猛スピードで血液を全身に流し込んでいる。会話が終わった今でも、膝は意味なく震え、唇は季節を無視して乾いたままだ。俺にとって、峰理子という存在がどれほどのものなのかがよくわかる。

 俺は本気で、峰理子という女性が好きなのだ。

 

 「……にしても。あいも変わらずチキンだな、お前」

 武藤は鼻で俺を嗤った。 

 

 「うっせーよ。お前なんか、白雪に会話以前にあんまり相手にされねえだろうが」

 「でも相手にはされるんだ。チャンスはゼロじゃあない。そうだろ?」

 たしかに、と言うべきなんだろう。決して武藤の理屈は間違っていない。間違ってはいないが……星伽白雪という女性がキンジ以外の生物を好きになる、なんてことは天文学的数字に等しいということを知っている俺は、それを否定せざるを得ない。

 笑えない事実だ。自分が恋い焦がれている相手は、今後とも永遠に手の届かない位置に居座っているのだから。

 気が向くことも迷うこともなく、ただ『友達』として彼女に認識され、いずれかは忘れられてしまう。それはチャンスなんて一つも何もない、仕組まれたレース。表彰台に上がる選手は、はじめからたった一人と決められているのだ。

 それでも、俺はそのことを否定したくはなかった。

 それは武藤が友達で、仲間だからというのもある。けど何より。

 何よりも同じように想い人を想う気持ちに嘘はないということを、俺は知っているから。

 

 「……そうだな」

 不安が四割ほど混じった、しかし六割ほど混じった期待で作られた笑顔で答えた。

 もしかしたらあるかもしれない。不可能を可能に、出来レースを凌ぐ大番狂わせが。

 

 「ん、そろそろか」

 武藤は教室から出てくる生徒たちを見て言った。教室から出てきた生徒たちは、廊下にいる生徒たちも含めて次々とある場所に向けて足を進めていく。

 

 「ああ、始業式か」

 めんどくさい。その一言に限る、教育機関ならではの恒例行事だ。会話のほとんどが「であるからして」によって構成される校長先生主催の、校長先生による、校長先生のための式と言っても過言ではない。正直時間の無駄なのではなかろうか。仮に俺が教育委員会だったらすぐに廃止運動にでるね、うん。

 そんなことを考えながら、俺と武藤も流れに乗って体育館へと向かった。

 

  

 

 

 

 

 

 

 始業式は時間の無駄だと言ったな、あれは嘘だ。始業式必要、とっても必要。ジ○ングの脚以上に必要なものでした。

 だって転校生だぞ転校生! それも女子だ! むさいうざいくさいの三点セットがないピザ野郎じゃなくて、女子だぞ女子! 朝から見せつけられてブルーだったテンションも上がるってもんよ!

 

 「お前、峰さんのことはいいのかよ?」

 「それはそれ、これはこれだ」

 たしかに理子のことは好きだ、超好きだ。デートとかしたことないし、したいと思っても誘えないけど好きだよ、めっちゃ付き合いたいと思ってるよ。

 でもさ、それと女子を見て性的とかじゃない興奮、なんていうか「うっわ女子すげええええ!!」みたいなのあるじゃん。それとは違うと思うのだよ。例えるなら、行きつけのラーメン屋が一番だけどたまには別のラーメン屋でつまみ食いしたいみたいな感じだ。

 

 「……にしても、キンジの奴結局来なかったみてーだな」

 そう言えば、キンジは始業式に姿を見せなかった。おいおい、わざわざ釘刺しといたのに何だよあいつ。…………まさかついに白雪相手に朝からハッスルした、なんてことは無いだろうな。

 いや、それはそれで俺はいいんだ。ただそうだとしたら武藤が……。

 

 「うーん…………とりあえず今日の晩飯は赤飯だな」

 「なんだ、誰か結婚でもすんのか?」

 かもな。もしかしたら来年の夏ごろに新しい誕生祝いをすることになるかもしれん。

 なんてことを考えていると、教室の前側の扉(スライド式)が開いた。

 「おはようございます」と言いながら、にこやかに高天原ゆとり先生は入ってくる。教壇の前に立つと、ウェーブのかかった長いカーキ色の髪を揺らして一礼。顔を上げ、丸眼鏡の奥にある黒い瞳で俺たちを見る。

 

 「みんなよろしく、A組の担任の高天原ゆとりです。さっきの式でも言ってたけど、この東京武偵高に転校生が来てます。一人はこのクラスということで、みんな仲良くしてくださいね。じゃあ神埼さん、お願いしまーす」

 先生に呼ばれ、開いた扉の向こう側から小さな女子が入ってくる。綿飴のようにキラキラとした桃色の長いツインテールは、後ろから二番目の席からでも充分に異彩を放っていた。

 そんな女子は教壇の前まで来ると、ピタリ。足を止めて、淡い赤紫色をしたカメリアの瞳で一点を集中する──というか俺を見ていた。

 なんだろう、そう思いはじめた刹那。彼女は右の第二指で俺を指し、そして。

 

 

 「あたし、アイツの近くがいい」

 

 

 …………待て、落ち着けカナエ。冷静になれ、れれれ冷静になれカナエ。オーケー、多分今はあれだ、鏡○水月による完全催眠に陥ってしまっているに違いない。そのうち愛○が『一体いつから、鏡○水月を使っていないと錯覚していた?』とか言って現れるはず────

 

 「まるで意味がわからんぞ!」

 バンッ、と机を叩き立ち上がる俺。

 なんだよなんだよ何なんですか!? この見た目は小学生頭脳は大人的な要素を持った女子高生は! 当たってないのに「イテー(棒)」なんて言う当たり屋よりもたちの悪い、新手の詐欺か何かですか!?

 

 「お、おいカナエ! 何か知らんが、お前にも春が来たみたいだぞ! 峰さんじゃないのは残念だが……ここで一つ青春しとけコノヤロー! せんせぇ! 俺、転校生さんと席代わりますよ!」

 後ろの対角線上にいた武藤が立ち上がって言った。

 待て武藤! たしかに女子とは付き合いたいし青春したい! 仮に美人のグラマー女子から告られたなら揺らいじゃうよ! でもさあ……これはその、グラマーじゃねえ(美人ではあるが)じゃん。それになんだよ、あの氷山の一角だと思ったらてっぺんだけ削られて本当に氷山の一角でした、みたいな膨らみは。俺を誘惑するならソフトボール並のものを用意して出直してきな!

 ……なんてことは言えず、話は着々と進んでいく。武藤の提案にこの部隊(クラス)の指揮権を持っている高天原先生は「じゃあ武藤くん、神埼さんと変わってあげてね」と、許可を出した。許可、しちゃうんですね先生。

 奇襲を許してしまったA組は混乱しており、事の発端(?)である俺は、顔も名前も知らない生徒たち(何人かは知っているが)から質問攻めだ。

 いつからそんな関係に、とか。なぜお前がモテるんだ、とか。キンジというものがありながら、とか。……おい最後の質問者誰だ。

 そんな戦場の中を起因となる爆弾を投下したロリっ子こと神埼は、触覚にも似たツインテールを揺らしながら俺に一歩、また一歩と近づいてくる。手に持っているのは……ベルト?

 神埼は俺の前にたどり着くと、

 

 「──キンジ(・・・)これ。さっきのベルト」

 「…………」

 「……? 何よ、ほら受け取りなさい」

 「……なるほどなあ」

 ぼそりと呟き、俺は右手で頭を抱えた。

 すべてわかった。神埼が俺をずっと見ていたのも、わざわざ名指ししてきたのも。つまりはあの野郎、白雪よりも先にこいつに貫通弾ぶち込んでやがったってことか。夜中抜けだしてどっかで一戦交えて部屋に帰宅。あたかも最初から寝ていたのを装ったってわけか。そんでもって今朝は白雪と交戦、と。…………女嫌いだったキンジが、よくここまで堕落(しんぽ)したもんだな。

 

 「オーケオーケ、そういうことなら大歓迎だ。これからもあいつを頼むぜ、神埼」

 「はあ?」と、神崎は怪訝な表情で俺を見てくる。

 

 「だから、あんたさっきからいったい何言ってんのよ? あたしよあたし、神埼・H・アリアよ」

 短期記憶障害、と神崎が続けようとしたところで。後ろ側のドアが開き、気だるそうに遠山キンジ(・・・・・・)は教室に入ってきた。教室を一瞥(いちべつ)しようとして、彼は教室に流れる不穏な空気を感じたようだった。

 キンジは俺を、正確には神埼を見つけると、口をあんぐりと開けて硬直した。

 

 「よお、キンジ。あれほど遅れるなって言ったのに見事に遅れやがって。昨夜と今朝はお楽しみでしたかな?」

 「な……か、カナエ。これは一体……どういう状況なん、だ?」

 「そんなことは俺が一番知りたいわアホ!! とりあえずお前のベルトだ」

 ほれ、と神埼からベルトを奪いキンジへと投げ渡す。

 その様子を見ていた神崎は、訳がわからないといった表情で俺に再び声をかける。

 

 「な、なんであんた──キンジと同じ顔なの!?」

 「なんでって……そりゃあ双子の兄弟(・・・・・)だったら、顔ぐらい似てるだろ」

 太陽が空に昇るように、月が光り輝くように。

 当然のように俺──遠山金衛(・・・・)は神埼に向けて言い放った。 




主人公の簡単なプロフィール

名前・遠山カナエ。(漢字表記だと金衛)

性別・男

血液型・A型

誕生日・7月

年齢・17

趣味・マンガ、テレビゲーム、筋トレ、音楽鑑賞など

容姿・クセのあるマッシュヘアで、色は黒。キンジと似た顔だが、よく見るとカナエの方が垂れ目となっている。

身長・174

体重・68

体格・少しばかり大胸筋に厚みのある細マッチョ。着痩せするタイプ。

性格・世話焼きで、困っている人は基本助けようとするスタンス。自分より他人優先で、他人の幸福は自分の幸福。かといってロボットではなく、きちんと自分の欲求も幸福も求める。キンジと違い、女性に関する知識は豊富。
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