彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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捏造あり。


スレイン法国、ひとまず滅亡回避

「全く、あの人は……」

 

 モモンガは深く、ふかーく溜息を吐いた。

 そんな様子にナーベラルはどう声を掛けていいものやら困惑する。

 

 ソリュシャンから彼女へメッセージが届いたのはそんなときだ。

 

『ナーベラル、やっばいもの見ちゃったわ!』

『どうかしたの?』

『メリエル様の全力見ちゃった!』

 

 ナーベラルはすぐには言葉を返さず、モモンガへと顔と体を向け、深くお辞儀する。

 

「モモンガ様、周囲の警戒をしてきますので、失礼致します」

「ん? ああ、分かった」

 

 モモンガは特に気にすることもなく、そう言った。

 ナーベラルは努めて冷静に、部屋から出、そして、宿屋からも出た。

 彼女はそそくさと路地裏へと行き、防音等の幾つかの魔法を使った後に、メッセージを返す。

 

『本当!? すっごい見たいんだけど!』

『世界作るとか、世界壊すとかメリエル様マジヤバイ!』

 

 ぴょんぴょんとナーベラルは思わず飛び跳ね、きゃっはー、と黄色い声を上げる。

 普段の冷静沈着な彼女を知る者からすれば、驚愕する光景であった。

 

『スクロールで記録したわ。なんかメリエル様に録画したこと伝えたら、魔法で複製してくれたから、そっち送る!』

 

 物品転送という魔法がある。

 ソリュシャンはスクロールに記録されたその魔法を使って、ナーベラルへとメリエルの戦いが記録されたスクロールを送ってきた。

 

 ナーベラルは左右を見回し、誰もいないことを確認した上で、スクロールを再生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナーベラルがメリエルの戦闘に興奮している頃、モモンガは一人、今後について考えていた。

 ひとえにそれはメリエルが仕出かしたことにある。

 スレイン法国がどう動くか、それは全く分からないことだ。

 

『モモンガー?』

 

 声が頭に響く。

 メリエルからだ。

 

『どうかしましたか?』

『面倒くさくなったのでフライ《飛行》と完全不可知化《パーフェクトアンノウブル》で移動して、王都に今着いた。適当なホテル……ああ、宿屋のが正しいか。そこで一服しているわ』

『早いですね。流石です』

『で、詳しいこと報告してなかったけど、ブレイン・アングラウスというガゼフ・ストロノーフのライバルみたいなのを心情的にこっちに取り込んだわ。彼はナザリックだと命の危険を感じるみたいで、ガゼフの家に転がり込むみたい』

 

 モモンガは顎に手を当て、なるほど、と一人頷く。

 地味に現地の人材発掘もするとか、メリエルさんすごい、と思いながら。

 

『漆黒聖典の面々から剥ぎとった装備は神器級とワールドアイテム、クレマンティーヌが言うには傾城傾国とかいうヤツも回収した。あとこの世界の通貨が少々。アイテムとしては他にも聖遺物級があったけど、まあ、そっちは些細なものよ』

『敵にどの程度まで情報を与えましたか?』

『私の見た目とクレマンティーヌがこっちにいることくらいよ。ナザリックのことは勿論、私の名前すら名乗らなかったし、クレマンティーヌも察したのか呼ばなかった。よくできた子よ』

 

 モモンガは頭を悩ませる。

 ナザリックのことを教えていない、見た目だけが情報というのは良い。

 だが、スレイン法国側がナザリックとメリエルを結び付けられなかった場合、両者を別のものとしてナザリックにちょっかいを掛けてくる可能性がある。

 

 ニグンら陽光聖典はある程度は信頼できるだろうが、スレイン法国上層部がどう判断するかは分からない。

 ニグンらを切り捨てた場合は向こうの情報は知れず、面倒くさいことになる。

 

 実際のところ、彼らの情報は非常に役立っている。

 専属の分析班を作り、彼らからもたらされる情報の精査・分析を行い、法国における文化・生活様式等など、法国を知る為の情報の宝庫だ。

 また、ニグンからは当たり障りがない程度の機密らしき情報ももたらされており、彼によれば土の神殿爆破は相当に法国に衝撃をもたらしたことが分かっていた。

 

『あんまり心配する必要はないんじゃないの? 予防的先制攻撃という手もあるし』

『本音はどこにありますか?』

『番外席次を召し抱えたい』

『この変態』

『何を今更……で、我等がギルドマスターはどのような判断を? あなたがやれ、というなら私はやるわ』

 

 モモンガは暫し沈黙する。

 

 彼としては武力による制圧はメリットよりもデメリットが圧倒的に多いと判断する。

 

 アルベドやデミウルゴスと協議し、ナザリックがある土地近辺を割譲してもらい、国を建国するという手を検討しているが、自衛的にはともかく、積極的に他国への攻撃はしたくはない、というのがモモンガの本音だ。

 個々人や表に出ない輩を相手にする分にはまだ良い。

 だが、国家と正面切って戦うというのは様々な要素が複雑に絡み合ってくる。

 

 もっとも、メリエルの言い分もよく分かる。

 こちらは個々の能力が圧倒的に卓越しているが、数は向こうの方が圧倒的だ。

 そもそもメリエルが単体で全力を出すというのはレアな話であり、基本は数に任せた軍勢で押し潰すのが彼女のスタイル。

 数の強さ、数の暴力を知るからこそ、メリエルの提案――予防的先制攻撃。

 

 質は量に勝る、というのは歴史を紐解けばそう多い話ではない。

 下手に受け身では万が一、ということはあり得ないとは言い切れない。

 

 額に手を当て、モモンガは熟考し、彼はゆっくりとメリエルへ告げる。

 

『基本、個々人はともかく、国家に対しての武力攻撃は控えていきたいと思います。デメリットが多すぎるので。無論、これは禁止というわけではなく、必要に応じてはそのような場合もありえます』

 

 モモンガはそう告げ、一拍の間をおいて更に続ける。

 

『とりあえず、今回の一件に対する反応を見ましょう。我々の目的はスレイン法国を崩壊させることではありません。穏便に世界征服です』

『了解したわ。ところで、王都がちょっと広すぎて、わりとマジで戦闘メイドとシモベをもう何人か欲しい。エイトエッジアサシンとシャドウデーモンを何体か回してくれない?』

『分かりました。戦闘メイドは誰を?』

『……必然的に限られるのよね。シズとユリはちょっと戦闘スタイルに色々問題ある。私が戦域を展開してもいいけど、さすがにそこまでするのもちょっと……エントマかルプスレギナかしらね』

『ルプスレギナの方が、見た目としてはまだ違和感ありませんから、彼女を回します』

『了解。ところで、人材発掘は継続しても?』

『我々に味方するのならば問題はありません』

『分かったわ。蒼の薔薇とかいうのがいるらしいから、接触できたらしてみる』

 

 通信終わり、とメリエルは律儀にそう言って、やり取りを終えた。

 モモンガは確かに人間に対しては虫程度の感覚であるが、何も積極的に人間を嫌悪したり、滅ぼしたいとかそういう気持ちは全く無い。

 故に、自分達の役に立つなら、積極的に利用しようとそういう思いであった。

 

 

 モモンガは一息つき、あることを思い出す。

 

「そういえばナーベラルはどこまで警戒に行ったんだ?」

 

 既に彼女が退室してから、結構な時間が経っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのナーベラルは何度も何度もスクロールを見返していた。

 路地裏でハァハァと荒い息をしながら、映像を見るその様はまさに変質者。

 しかし、魔法で色々遮断しているので、誰にもバレてはいない。

 勿論、ソリュシャンとやり取りしながらだ。

 

『ところでナーベラル? 時間は大丈夫なの?』

『……そろそろ戻ります』

 

 ソリュシャンの言葉にナーベラルは深く息を吐き出して、気持ちを落ち着ける。

 まったく良い物を手に入れたものだ、と頬が緩んでしまうが、そこは仕方がない。

 

 ウキウキ気分でナーベラルが宿屋にあるモモンガの部屋へと戻ると、モモンガは何やら難しい顔だった。

 

「モモンガ様、どうかされましたか?」

 

 ウキウキ気分は一瞬で消え去り、至高の御方を悩ませるモノへの憎悪がナーベラルに湧き上がってくる。

 

「……いやな、大した問題というわけでもないんだが、ナーベラル。ソリュシャンからメリエルさんの戦闘に関して、聞いているか?」

 

 ナーベラルはぎくり、と体を震わせる。

 何故、バレているんだという焦りと流石は至高の御方、という尊敬の思い。

 それらが混ざり合い、ナーベラルは言葉に詰まってしまう。

 

 その様子を見て、モモンガは軽く手を振る。

 

「ああいや、別に怒ったりとかそういう話じゃないんだ。メリエルさんの性格からして、ソリュシャン辺りに自分の戦闘をスクロールで記録させることくらいはしそうで……メリエルさんは軍勢を出したのかと気になってな」

「いえ、ソリュシャンによればそのようなことは無かったと既に聞き及んでおります」

「そうか。あれは中々壮観で良いぞ。私もメリエルさんと出会ってから、似たようなものを作ってみたが、どうにもうまくいかなくてな」

 

 もっとも、ここでは無敵だろうが、とモモンガはそう付け加える。

 

「まあいい。今日一日でエ・ランテルのあちこちをおつかいで駆けずり回って、地形も把握できた。明日朝一番で、適当なモンスター討伐任務でも受けようと思う」

 

 地形の把握の為に、わざわざあんなことを、とナーベラルはわなわなと震える。

 モモンガとしては地形の把握も兼ねた、本当に観光目的であったのだが、至高の補正がかかっているナーベラルはそこまで気づかず、ただただモモンガの株がうなぎ上りするだけだ。

 

 解読の指輪持ってきてよかった。文字が読めなかったからな……

 

 モモンガはモモンガで、念の為に、と持ってきたアイテムに安堵していた。

 

「ナーベラル、私は一度、ナザリックへ帰還する。明朝には戻る」

 

 とりあえずは今回の一件を交えながら、デミウルゴスやアルベドと協議しなければ。

 反応を見るとはいったものの、不安なモモンガだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガが帰還すると、ナザリックはメリエルの戦闘で持ち切りだった。 

 どうやらソリュシャンがスクロールをナザリックへ送付したらしく、上は守護者、下はメイドに至るまで、誰も彼もがメリエルのことを話していた。

 

 モモンガはその気持ちが痛いほどに分かった。

 彼とて、初めてアレを見たときは度肝を抜かれたものだし、ワールドチャンピオン達の次元断切《ワールドブレイク》とメリエルのアレがぶつかり合った光景は今でも鮮明に脳裏に思い描ける。

 とはいえ、メリエルの凄いというかヤバイ点はそれだけではない。

 

 

 メリエルさんは他にもヤバイ点はいっぱいあるぞ、とモモンガは吹聴して回りたかったが、彼の立場がそれを許さなかった。

 

「忙しい中、集まってもらって感謝する」

 

 モモンガはアルベドとデミウルゴスにまずそう告げた。

 

「もったいなき御言葉です、モモンガ様。今回、我々を集めたのは……法国の反応に関してですね?」

 

 アルベドの断定的な問いにモモンガは苦笑しながら肯定する。

 

「さすがはアルベドにデミウルゴス。既にお見通しか。私としては先方の反応を見た方が良いと思うが、どうだろうか?」

「法国をどうするか、にもよります。叩き潰すならば先制攻撃を加えた方が良いかと」

 

 アルベドの言葉は一見マトモであるが、節々から物騒な感情が垣間見られた。

 彼女の気持ちとしてはメリエルに全力を出させた、手を煩わせた、という点が非常に不快であった。

 故に、感情面からはスレイン法国を即刻この世から消し飛ばしたいという程度の憎悪である。

 とはいえ、彼女も守護者統括。

 その頭脳でもって、感情面から切り離した上での先制攻撃案だ。

 

「スレイン法国は近隣諸国では最強クラスの存在を抱え込んでおります。早期に潰すことで、人類団結を阻むことができるかと」

 

 アルベドの案になるほど、とモモンガは頷く。

 そこへデミウルゴスが口を開く。

 

「メリットとデメリットでは先制攻撃はデメリットが大きいと愚考致します。メリエル様の御言葉のように、分断するのが上策。スレイン法国をむやみに潰しては如何に弱敵とはいえ、敵を団結させかねません。ここは様子を見るのが良いかと思われます」

 

 デミウルゴスとしても、メリエルの手を煩わせたという点からすればスレイン法国は非常に不快。

 しかし、そこは冷徹なる頭脳でもって、それを抑えこむ。

 

 真っ二つに割れた意見に、モモンガは思わず笑いがこみ上げてくる。

 突然に笑い出したモモンガに2人は一瞬、呆気に取られる。

 彼らの優秀な頭脳がモモンガの笑いの意味を予想する前に、モモンガは嬉しそうな声色で告げる。

 

「お前達は……しっかりと生きているのだな。ああ、それがとても嬉しい」

 

 ただ自分やメリエルの言うがままに従うわけではなく、相談すればしっかりと自分の意見をぶつけてくる。

 確かにNPCであった。

 しかし、彼らは現にこうして生きているではないか。

 

 改めて、モモンガはそう認識し、嬉しくなったのだ。

 

 対して、アルベドとデミウルゴスは一瞬で色々な考えが吹っ飛んだ。

 2人とも天にも昇る心地に包まれ、歓喜の感情に染まる。

 

「も、もったいなき御言葉でございます」

 

 デミウルゴスが辛うじてそう口に出すのが精一杯であり、アルベドは至福の表情で「くふふふふ」と笑っている。

 

「ああ、これからもよろしく頼む。何分、お前達には迷惑を掛けると思う」

「め、滅相もございません! 至高の御方々にお仕えすることこそ、我等が使命であり、存在意義でございます!」

「モモンガ様、メリエル様はただひたすらに、私達を使ってくだされば……それこそが我等の願いであります」

 

 さすがにモモンガの言葉に、恐縮するデミウルゴスと微笑みを浮かべて、そう告げるアルベド。

 対照的な2人であった。

 

「とりあえず、スレイン法国に対しては様子を見るということにする。ところで話は変わるが、どの程度までの金や銀を放出しても王国の経済は崩れないか、分かるか? そろそろメリエルさんが情報収集用に工作費くれとか言ってきそうなんだが」

 

 

 モモンガのその予想は10分後に当たることになる。

 未来を予知していたかのようなモモンガに、デミウルゴスやアルベドはモモンガに対する敬意を更に高めたのは言うまでもなかった。

 

 

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