彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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待たせたな!

メリエルのユグドラシルでの課金具合は某ソシャゲの石油王と同じかそれよりも上くらい。勿論、毎月です(ニッコリ

アルベドがメリエルを愛するようです。


全部メリエルってヤツが悪いんです

「やることがない……」

 

 メリエルは玉座の間にある玉座――ではなく、その前に持ってきた椅子にちょこんと座っていた。

 テーブルも置かれており、その上にはお菓子と紅茶がある。

 

 メリエルは非常に暇だった。

 王都からこっちに戻ってきて早くも2週間になる。

 

 やることがない、まるでない。

 

 ズーラーノーンとやらはモモンガが一瞬で蹴散らし――蒼の薔薇には色々見せたらしい――街を救った功績から、一気に冒険者プレートがオリハルコンとなったらしい。

 とはいえ、アダマンタイト級の実力であることは蒼の薔薇によって証言されている為、近いうちにそうなるだろうとも。

 

 商会設立もデミウルゴスが指揮をとっている為、万全にやるだろう。

 

 

 黒歴史のNPC達はたまーに顔を見せに行って、色々堪能しているので問題はない。

 黒歴史ではない、真面目にNPCを作るのもいいかもしれない、とメリエルは思う。

 幸いにも、どんどん廃人連中が引退していく中で、もはや製作する意義を見いだせなかった。

 必要なアイテムは残っており、現実化した今、製作したらどうなるのか、という好奇心はある。

 

 他にメリエルがやることといえば精々がホムンクルスの兵士を作るくらいであったのだが、それも今日はもう飽きた。

 シャルティアとコキュートスを2人まとめて相手取って模擬戦もよくやっていたが、この前、24時間ぶっ続けて戦ったら、さすがに音を上げたので、しばらくは休ませる必要があった。

  

 

 ヒルマとクレマンティーヌはそのまま屋敷に留めてある。

 護衛にはルプスレギナをそのままおいてあるので、まず安心だった。

 

 もう1人、ソリュシャンはというと、メリエルがナザリックへと呼び戻している。

 自分の給仕をさせる為だ。 

 メリエルの傍に、現に今もソリュシャンは佇んでいる。

 

 そして、当のメリエルは、ぽけーっと紅茶とお菓子を飲んで食べるだけの存在と化していた。

 

 

「……ムスペルヘイム祭りは楽しかったなぁ」

 

 勇気と知恵を振り絞った決断――といえば聞こえはいいが、手を組んでワールドエネミー化したムスペルヘイム倒さないか、という誘いがワールド・チャンピオンの1人からきた為、ムスペルヘイムをソロで倒そうとしていたメリエルは数々のアイテムと引き換えに協力した顛末がある。

 8人のワールド・チャンピオンにメリエルを加えた、9人の討伐隊だ。

 支援チームも鯖トップクラスのバッファー、デバッファー、ヒーラーが揃っていた。

 

 あのときは弾幕の嵐で――

 

 とそこまで思い出して、メリエルはふと気がついた。

 今、自分は多数の神器級武器を持っている。

 それ、一斉に撃ちだしたら最強じゃね、と。

 

 元々インベントリである無限倉庫には多数のアイテムを同時に取り出す、撃ち出す機能が備わっている。

 そもそも、ユグドラシルでは多数のアイテムをぶつけて、モンスターに対してデバフやダメージを与えるのは中級者クラスならよくあることだ。

 モンスターのレベルがだんだんと上がるに連れて、そもそもそういった投擲系に対して無敵耐性を備えていたり、回避が高すぎて当たらなかったりする為、使わなくなってくる。

 いわゆるキャラのステータスの攻撃力や命中補正等はインベントリからモンスター目掛けて撃ち出す際には補正がつかない。

 そのため、キャラの命中補正などのステータスを投擲したいアイテムに反映させるためにはインベントリから取り出して、手に持って投げるなり何なりする必要があった。

 

 メリエルは無言で、どうやって同時に撃ち出すか、考える。

 手を突っ込むだけではユグドラシル時代にはあった無限倉庫の機能は使えず、ただ目的のものを取り出せるだけだ。

 

 あれこれ考えていると、突然、脳裏にユグドラシル時代と全く変わらない無限倉庫の機能画面が現れた。

 どうやら念じればいいらしい、とメリエルは気づきながら、笑みを浮かべた。

 

「ソリュシャン」

 

 名を呼べば、傍に控えていたソリュシャンはすぐさまにメリエルの前へときて、跪いて、頭を垂れた。

 

「面をあげなさいな」

 

 ゆっくりと、その端正な顔が上げられる。

 そして、メリエルはドヤ顔で告げる。

 

「我が財の一部を見ることを許す」

 

 そして、指を鳴らす。

 メリエルの背後の、何もない空間が水面のように揺らいで、それらは姿を現した。

 

 ソリュシャンはその光景に、茫然自失した。

 

 剣が、槍が、矛が、鎚が――

 数えるのも億劫な程の数多の武器がその姿を見せていた。

 

 それらに共通するものは唯一つ。

 全てが神器級のものである、ということだ。

 ソリュシャンに鑑定系スキル等はなかったが、そんな彼女であっても、それらが神器級であると判断するに足りる程、秘める力は強大であった。

 

「これを全て一斉に撃ちだしたら、どうなるかしらね」

 

 メリエルの言葉にソリュシャンはハッとした。

 

「私の敵になる者は幸運でしょう。神器級の武具にその身を串刺しにされるのだから。そこらの凡百なもので死ぬよりも良いでしょうに」

 

 そう言って、メリエルは全ての武器をインベントリに引っ込めた。

 

 ソリュシャンは何と言葉を発していいか、分からなかった。

 あまりにもそれは衝撃的過ぎた。

 神器級というのはワールドアイテムを除けば最上級のものだ。

 それをこのように、まるでそこらの店のように、大量に持っているというのは信じられないことであった。

 

「ソリュシャン、今のことは好きに広めて構わないわ。その方が面白そうだし」

 

 メリエルはそう言って笑い、椅子から立ち上がった。

 

「私はアルベドのところへ行ってくるわ」

 

 そう言って、メリエルは掻き消えるように消えた。

 

 残されたソリュシャンはゆっくりと立ち上がった。

 

「とりあえず、広めないと」

 

 広めていい、と許可をもらったのだから、早速に広める必要がソリュシャンにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「メリエル様! このようなところに!」

 

 アルベドは自らの執務室で多数の書類を処理していたところであった。

 そもそも彼女には部屋とかそういうものが設定されていなかったのだが、メリエルとモモンガはさすがにそれはちょっと、ということで私室と執務室を与えている。

 

「ああ、そのままでいいわ」

 

 慌てるアルベドにそう告げ、メリエルは虚空から椅子を一つ取り出し、それに座った。

 

「特に用はないのだけど、暇なのよ。こういうとき、モモンガが羨ましい。彼はわりと楽しんでるみたいだし」

 

 率直に告げられた言葉に、アルベドは衝撃を受ける。

 それは勿論、至高の御方を退屈させている現状に対して、だ。

 

「も、申し訳ありません、メリエル様」

 

 頭を下げるアルベドであったが、メリエルは手をひらひらさせる。

 

「いいのよ。私ってば、基本戦争以外じゃ役に立たないし……世界滅ぼすだけなら1週間で終わるんだけど」

 

 アルベドとしてはむしろ、たった1週間で世界を滅ぼせることのほうがびっくりであったが、メリエルのあの力を見れば納得であった。

 

「まあ、今はいいとして、問題は世界征服した後なのよ。その後、どうするって話。まあ、順調にいけば10年もしないうちに、終わるでしょ?」

「はい、それは勿論です。人類の勢力範囲内にはナザリックに対抗しうる勢力はございませんし、それ以外のところでも、おそらくは……」

 

 世界征服の後、という問いに対して、アルベドは明確な解答ができず、伏し目がちとなる。

 いかに頭脳明晰な彼女といえど、退屈をどうにかする、ということは極めて難しいことだった。

 そも万能に等しい――アルベドや他の守護者、シモベからすると――モモンガやメリエルが退屈というのだから、アルベド達が満足いく答えを用意できるとは思えなかった。

 

「それで、アルベド。モモンガも色々と精神的に疲れが溜まると思うのよ。アンデッドだけど」

 

 アルベドは即座にその言葉の意味を把握する。

 

「モモンガ様を癒やすのと、メリエル様の娯楽は繋がっているとそういうわけですね」

「そういうことよ。あなたやデミウルゴスとの会話はとても楽でいいわ。まあ、娯楽なんだけど、例えば私と彼が2人で気ままに冒険の旅に出るとかかしらね。支配者というのはある意味、籠の中の鳥に等しい」

 

 メリエルの発言に、アルベドは大きな衝撃を受けた。

 そして、同時にそれが現状がメリエルの言葉通りであると、アルベドは優秀であったが故に理解した。

 

 思いすぎるあまり、至高の方々の行動をむしろ我々は阻害していたのではないか?

 

 御二方の行動を阻害するなど、ナザリックに所属する全ての者にとっては重罪だ。

 

「まあ、問題はないわ。ある程度、認めてくれれば」

「勿論でございます!」

 

 悲鳴に近い叫びであった。

 アルベドはそう答え、床に両膝をつき、頭を垂れた。

 まるで許しを乞う罪人のような姿だ。

 

「ですから、どうか、どうか……我らを見捨てないでください……」

 

 泣きそうな声だった。

 それほどまでに思われている、となるとさすがのメリエルもちょっとは色々と悩む。

 主に自分の作った黒歴史なNPC達の扱いだ。

 

 もうちょっと会う頻度をあげようと思いつつ、メリエルはゆっくりとアルベドへと手を伸ばす。

 アルベドは少しその身を固くする。

 

 メリエルはアルベドのその頬に手を当てて、優しく撫でる。

 アルベドは半ば無意識的に顔を上げた。

 その美しい瞳には涙が僅かに残り、また頬には涙が伝った跡があった。

 

 

「安心なさいな。私は永遠に、あなた達と共に在るわ」

 

 メリエルの言葉はアルベドにとっては甘い猛毒に等しかった。

 そのようなことを言われては、より御二方を愛さずにはいられない。

 他の至高の方々は勿論、愛している。

 だけど、今ここに留まっていらっしゃる御二人を、より深くもっともっと愛さねばならない――

 

 

「それにアルベド、私やモモンガの身を案じてくれるのはとても嬉しいのだけど、そうね……私の武勇伝の一つなんだけども」

「はい、メリエル様」

「昔、1ヶ月で私は単独で272柱の神と241体の魔王を滅殺した」

「……はい?」

 

 さすがのアルベドもちょっと理解が追いつかなかった。

 確かに彼女はメリエルの力を知っている。

 スクロール上でとはいえ、かつてのワールドチャンピオンの連合軍と引き分けた戦いを見た。

 そして、ソリュシャンが撮影した、世界灼き尽くす崩壊の一撃《ワールドコラプス》を見た。

 

 ああ、何という至高なる御力。至高の41人の御方々の中で最も強大な御方だとアルベドは無論、全てのナザリックのシモベ達は理解した。

 

 しかし、なんだろうか、その神と魔王を単独で滅殺したという記録は。

 

「私のレーヴァテインは知ってるわね?」

「はい。存じております」

「実は限界まで鍛えられた武器を上限を超えて鍛えるアイテムがあってね、そのアイテムを作る為にアイテムを複数集める必要があったんだけど、その為に必要だったから、つい」

 

 てへぺろ、と小さく舌を出してみせるメリエル。

 

 アルベドにとってその行為は即死級のシロモノであった。

 守護者統括として、無様な姿を見せるわけにはいかない。

 

 その為に、アルベドは堪え、そして問いかける。

 

「ええっと、つまりはその、気に障るとか戦争を仕掛けてきたとかそういう理由ではなく、ただ素材として必要であったから、滅ぼしたと?」

「うん。いや、あのときは精神的に死ぬかと思った」

 

 それは1ヶ月間限定のイベントであったからだ。

 イベント時に出現した神々や魔王はレイドボスであったのだが、ユグドラシル運営の憎たらしいところはソロで討伐するとドロップアイテムが良くなるところだ。

 故に、廃人連中はこぞってソロ狩りに拘り、神話になぞらえてラグナロク祭りと呼ばれたものだ。

 

 メリエルはアルベドを真っ直ぐに見据える。

 

「アルベド、あなたや他の全てのナザリックのシモベはそのような存在に仕えているのよ。あなた方の常識で推し量ろうというのはできないから、そこのところよろしく」

 

 アルベドは感極まったかのように、恍惚とした表情となり、ゆっくりと頷いた。

 先ほどあった悲痛な表情はもはやない。

 

 一方のメリエルは単に自慢話を聞かせたわけではない。

 そう、これでメリエルとモモンガがどのような会話をしようとも、守護者達が理解しようと努力することを諦めさせる為だ。

 

 自分達の常識では推し量れない、崇高なことを話されているとそういう風に勝手に思ってくれるために。

 

 つまりは、どんなバカ話をしても問題はない。

 

「そうね、泣かしてしまったから、アルベド、あなたには良いものをあげましょう」

 

 メリエルは虚空に手を突っ込んで、一つの首飾りを取り出した。

 銀色の鎖に小さな青色の丸い粒が多数くっついている不思議で、特徴的なものだ。 

 

 アルベドは即座にそれが神器級アイテムであることを見抜き、驚愕した顔でメリエルを見る。

 

「昔、私が使ってたものよ。星々の首飾りというもので、ブリージンガメンよりは劣るけど、ステータスや耐性を大きく上昇させるわ」

「よ、よろしいのですか……? このような高価なものを……」

 

 わなわなと震えながら、アルベドは問いかけた。

 メリエルは笑顔で頷き、先ほどソリュシャンにしたように、自らが持つものを披露する。

 

 メリエルの背後の空間が水面のように揺らめいで、数多の武器がその姿を見せる。

 その光景に、アルベドは目を見開いた。

 

「私の愛剣は確かにレーヴァテインだけど、職業の特性上、何でも扱えるわ。技量的には超一流には劣るけどね」

 

 戦士であるアルベドだからこそ、彼女は理解した。

 メリエルが相手によってもっとも適した武具を選び、どんな相手にも最高の装備を整えられることを。

 武器だけというわけではないだろう。

 防具も、アクセサリーも、それ以外の様々な消費アイテムも、おそらくは最高のものを膨大に所持していることは想像に難くはない。

 

 モモンガがそうであったが、メリエルもそうであったことをアルベドは改めて実感する。

 決して油断も、慢心もしない圧倒的なる超越者。

 これほどの存在は後にも先にも御二方以外には存在しえないと確信する。

 

「アルベド、あなたに私のお下がりを与えたのは、それだけあなたには期待しているわ。無論、あなた以外にも、デミウルゴス達にも期待している。機を見て、彼らにも何かしらを渡すつもり」

 

 アルベドは深く、深く頭を下げる。

 その慈悲深さと期待をされることに対してだ。

 

「それじゃ、私はちょっとモモンガのところに行ってくるから」

 

 手をひらひらさせて、メリエルは転移門《ゲート》を開いて、そこに入っていった。

 入る前、完全不可知化《パーフェクトアンノウアブル》を唱えているのがアルベドには見えた、あれなら騒ぎになることもないだろう。

 

「……メリエル様」

 

 アルベドはそっと呟き、渡された首飾りを身に付けてみる。

 身体が軽くなり、全身に力が漲るのを彼女は感じた。

 

「くふ、くふふふふふふふ」

 

 嬉しさやら何やらの、感情が一気に吹き上げてきた。

 アルベドは首飾りを何度も両手ですりすりと擦り、そしてしまいには頬ずりを始めた。

 

 色々台無しだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけなのよ」

「なんてことだ」

 

 メリエルが事の顛末を話すと、モモンガは頭を抱えた。

 彼とナーベラルはエ・ランテルで先のアンデッド事件による復興の手伝いをしていた。

 そこへメリエルが急遽話したいことがあるとやってきた為に、宿屋に戻った。

 ナーベラルを部屋の外におき、さらには部屋に入るまで完全不可知化を解かないという徹底さに、モモンガは重大な話だ、と思っていたのだが……

 

 蓋を開けてみれば、ナザリックのシモベ達の前でも馬鹿話できるようになった、とただそれだけのことだった。

 

 いや、確かにモモンガとしてはそれはかなり有りがたく、また一番過保護なアルベドに対して、モモンガとメリエルの自由を要求し、認めさせたなどかなり良いことだ。

 

 正直、メッセージでもいいですよね、とモモンガは言いたかった。

 

「で、何で私がわざわざ会いに来たかというと」

「え、まだ何かあるんですか?」

 

 問いに、メリエルはすっごく良い笑みを浮かべた。

 しかし、モモンガにとってはそれは悪魔の笑みに等しいものを感じた。

 

「どうかしら? そろそろ嫁でも見つけたら?」

 

 メリエルの言葉をモモンガはたっぷりと30秒近くかけて理解した。

 そして、精神が強制的に安定化させられた。

 

「いや、どういうことですか?」

「私はヒルマにクレマンティーヌ、その他諸々結構いるけど、モモンガはいないでしょ? いやまあ、嫁というにはヒルマもクレマンティーヌもその他の子も、ちょっっっと物足りないけど……ともあれ、アルベドなりシャルティアなり、と言いたいところだけど、友人達の子供達は保護の対象」

 

 ズバリとモモンガの心情を言い当てるメリエルに、彼はわずかに身じろぎする。

 

「し、仕方ないじゃないですか。この身体ですよ? アンデッドですよ? モノがないんですよ!」

 

 最後のほうはわりと切実な叫びだった。

 ナーベラルには重要な話をするから、入ってくるなと言っておいてよかった、とモモンガは心の底から思った。

 

「ウィッシュ・アポン・ア・スターがあるじゃないの。私は指輪、幾つかもってるし、ここは悩めるギルドマスターの為に一肌脱いであげようかと」

「勘弁してください。いやホント。この身体じゃないと色々マズイんですよ。アルベドもシャルティアも色仕掛けしてくるし……メイド達だってヤバイし……」

「私は?」

 

 自分を指差すメリエルに、モモンガは告げる。

 

「あ、そういう気はないんで……メリエルさん、男ですし」

「こんな可愛い子が男の子だと思う? っていうテンプレネタはいいとして、正直なところ、私もどーも引っ張られているというか、もう完全に女の子しているというか」

「え、そうなんですか? 素だと思ってました」

「黙れ骨野郎、浄化するぞ」

「羽根を毟るぞ、外道天使」

 

 ひとしきり罵ったところで、モモンガが告げる。

 

「改めてですけど、引っ張られていますよね。精神が」

「そうね。私個人としては別に問題はない。むしろ、良い」

 

 うむ、と鷹揚に頷くメリエルにモモンガは苦笑しながら、口を開く。

 

「まあ、私も良いか悪いかでいえば、総合的には良いでしょうね。っていうか、結構人間捨てるってアイデンティティとかそういう意味で崩壊したりとか危ういものがありそうなんですが」

「いやまあ、人間辞めてたようなものだしね……ネトゲ廃人的意味で」

「……私は廃人じゃないですよ。準廃人だから、セーフです」

「いやいやご冗談を。課金額は確かに準廃くらいだけど、それ以外は廃人でしょうに」

「メリエルさんみたいに、豊富にお金突っ込めませんからね……家が建つくらい突っ込んだでしょ」

「まあ、そうなるかしらね。リアルでもゲームでも経済力こそが最強の武器の一つなのよ」

 

 ドヤ顔でそう告げ、メリエルは更に言葉を紡ぐ。

 

「で、ちょっと面白いことやってみました。インベントリの機能を使って……」

「はい?」

 

 モモンガが首を傾げた、次の瞬間――

 

 メリエルが指を鳴らすと、彼女の背後の空間が水面のように波打ち、そこからゆっくりと顔を覗かせる数多の武具。

 

「あー、神器級、買い漁ってましたよね」

「ユグドラシル廃人達の忘れ形見、私がきっちり使わせてもらうわ。あ、なんか欲しいのある?」

「対価が怖いのでやめておきます」

「あら、ほんのちょっと72時間くらいぶっ続けでPvPしようっていうくらいよ」

「何ですかそのガチの戦争」

「ちなみに、シャルティアとコキュートスにこの前、72時間やってもらったんだけど、ダウンしてた」

 

 可哀想に、とモモンガはメリエルに見せつけるように両手を合わせる。

 

「で、話を戻すけど、どうよ? 嫁とか。愛でるものがあるといいわよ。私のおすすめはユリかな。真面目だし、良識あるし、家事できるし」

「……ユリですか」

 

 モモンガは顎に手を当てる。

 確かにナザリックの中で、というならばユリは全く問題はない。

 メリエルが挙げたように、ユリはとても良い子だ。

 だが、ユリもまた友人の娘みたいなものだ。

 

 いや確かに迫られたら、非常にマズイのだが――

 

「ま、まあ、そうですね、おいおいと……考えていきましょうか。伴侶とかそーゆーのも支配者とかそういうの的には必要かもしれないですし……」

「そういうこと言ってると、私とデミウルゴスとアルベドで外堀埋めちゃうわよ?」

「あんた何しようとしてんの!」

 

 メリエルの頭にモモンガは手刀を振り下ろした。

 同じ100レベル同士であるので、一応はダメージが通り、メリエルは可愛いらしく小さな悲鳴をあげる。

 

 しかし、モモンガには分かった。

 それは演技だと。

 

「カワイイでしょ?」

「あざとい。あざと過ぎる」

 

 ドヤ顔のメリエルにモモンガは冷静な評価を告げる。

 

「私よりもメリエルさんはどうなんですか? ヒルマやクレマンティーヌは物足りないとか言ってましたけど」

「私はアルベドかな」

 

 モモンガは「あー……」となんとも言えない声を出す。

 

 控えめに言ってかなり重そうな愛があるアルベド。

 モモンガに対して結構に貞操の危機を彼が感じる程には積極的にアピールをしてきている。

 女性に対する免疫があんまりない彼でも理解できた。

 

 アルベドはヤバイ、と。

 

「ああいう重いところがイイのよ。重い愛を受け止めて、兆倍に膨らませて投げ返すとか良くない?」

「うわぁ……」

 

 にこにこ笑顔で語るメリエルに、モモンガはドン引きした。

 

「ヤンデレって良いわよねー、やっぱり普通の子もいいけど、どこかしらネジ飛んでた方が良い」

 

 モモンガは決意する。

 アルベドはメリエルとくっついてもらおう。主に自分の安寧の為に。

 

 ――そういや今でも、あの設定って改変できるのかな、できるならギルメンの部分をメリエルって変えておこう――

 

 タブラさんごめんなさい、全部メリエルってヤツが悪いんです――

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガとメリエルがそんな会話をしている頃、王都ではメリエルの屋敷に来客が訪れていた。

 

 

「申し訳ありませんが、御主人様はご不在です」

 

 応対したのは最近、ナザリックの図書館にあった誰が持ち込んだか、完全で瀟洒なメイドの本を読んだルプスレギナ・ベータ。

 彼女はいつもの口調を控え、万全に瀟洒なメイドを演じていた。

 

 これで私の株も鰻登りの鯉のぼりっす~

 メリエル様見てて欲しいっす~

 

 とか何とか内心思いながら。

 

 しかし、とルプスレギナは思う。

 昨日来た法国とやらの連中といい、今、目の前にいる帝国とやらの連中といい、随分弱っちい、と。

 

 そんな弱っちい連中がこぞって至高の御方々の中でもっとも強大であるメリエル様にお会いしようなどと不届き千万。

 確かにメリエル様は至高の美しさも兼ね備えている為に拝謁の栄に浴したいという気持ちは分からないでもないが、それでも相応の資格は必要だ。

 

 明らかにその資格が法国も帝国も足りていない。

 

 ここは一つ、完全で瀟洒な従者として門前払いしなければならない、と。

 ルプスレギナは妙な使命感を抱いていた。

 

 

 帝国の連中が帰ったのを見て、ルプスレギナはぐっとガッツポーズ。

 そして、そんな彼女を見るヒルマとクレマンティーヌ。

 

「……あれ、いいのかしらね」

「いいんじゃないの? まさか何も考えなしに追い返しているとか、そんなバカなことはしないでしょ」

 

 それもそうね、とヒルマは姿見へと視線を映す。

 そこには若返った自分の姿がある。

 おまけに不老不死でもある。

 

 10代後半の瑞々しい肌に、メリエル様は喜んでくれるかしら――?

 

 最近のヒルマの心配事は若返った自分にメリエルが満足してくれるかどうか、その一点だけであった。

 

 一方のクレマンティーヌは平穏であった。

 ルプスレギナが屋敷内の清掃その他諸々のメイドの本来の仕事をソリュシャンがいなくなった分もやっている為、彼女による特訓という名の地獄を見ずに済んでいる為だ。

 

 そういや私には若返り薬とかくれなかったなー

 

 クレマンティーヌはちょっとだけヒルマに嫉妬する。

 そのため、メリエルに今度オネダリすることを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「緊急の案件ということで来ましたが、いったいどうしましたか、アルベド」

 

 デミウルゴスはナザリックはアルベドの執務室にいた。

 アルベドが緊急事態とデミウルゴスに助けを求めたが故だ。

 

 彼が執務室を訪れると、アルベドは苦悶の表情を浮かべながら、見慣れぬ首飾りを頬ずりしていた。

 

 さすがの聡明な彼もちょっと何が何だか理解が及ばない。

 

「デミウルゴス……私はモモンガ様とメリエル様を愛しているわ」

「はぁ……?」

 

 首を傾げるデミウルゴス。

 

「でも、でもなのよ! こんな素敵なプレゼントを貰ったのよ! メリエル様から! 泣いた私を優しく慰めてくれたのよ! メリエル様の方を少しだけ深く愛するようになっちゃったのよ!」

「仕事に戻ります」

 

 くるっと踵を返すデミウルゴス。

 待って、とアルベドは素早く彼の前に回りこんだ。

 

 デミウルゴスは深く、深く溜息を吐いた。

 

「で?」

「その、どうすればいいかしら……」

 

 照れた顔のアルベド。

 両の人指し指をつんつんと顔の前でしている。

 

 ひどく面倒だった。

 とはいえ、彼は仲間思いであった。

 だからこそ、首を突っ込みたくない、全力で逃げたい状況でも引かなかった。

 

「モモンガ様は我ら全体の指導者たる御方。我らが等しく敬愛する御方。こう言っては不敬でありますが、メリエル様はあくまで至高の御方々の御1人であるので、あなたが個人的に深く愛しても問題はないかと……それならあなたの思いが矛盾することもないでしょう」

 

 他の守護者やシモベは知りませんが、とデミウルゴスは心の中で呟く。

 モモンガとメリエル、どっちが良いかとナザリックの全ての者にアンケートを取ったならば、メリエルの方がやや優勢だとデミウルゴスは読む。

 やはり単純な強さというインパクトは大きい。

 

 デミウルゴスとしては本当に悩みに悩むところであるが、彼は個人的にはモモンガを推したい。

 単純な力では推し量れぬ、モモンガの叡智がデミウルゴスがモモンガを選ぶ理由だ。

 デミウルゴス自身が頭脳派というところにも起因する。

 

「そう、そうよね……モモンガ様を敬愛するのは当然だから、メリエル様を深く、そう女として愛しても問題ない……ええ、そうよ。あんな人間の女共はメリエル様には相応しくないですからね」

「あー、アルベド? 一応彼女らはメリエル様のペットだからね?」

「心配ないわ、デミウルゴス。ただ、見せつけるだけよ。私がメリエル様の正妻であると!」

 

 デミウルゴスは軽く溜息を吐く。

 とはいえ、これは喜ばしいことだ。

 お世継ぎは支配体制の盤石化に繋がる。

 モモンガ様やメリエル様に万が一がありえないということが考えられないわけではない。

 

「さあ、早速メリエル様の為に色々とお作りしないと……」

 

 いそいそと何事か、用意し始めるアルベド。

 

「……ほどほどにしてくださいね」

 

 そう声を掛け、デミウルゴスはそそくさと退室したのだった。


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