彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話 作:やがみ0821
「予想の斜め上をやらかしやがったー!」
モモンガは私室で絶叫していた。
そんな彼をメリエルはけらけらと笑う。
「いいじゃないの。彼女の強い子が欲しいって願いを叶えてやったし、他のエルフも納得できる形に収まったんだし」
エルフの王国はメリエルにより、女王が統治する国となってしまった。
メリエルはエルフの女王を完全にベッド上で屈服させた後、更にダメ押しとばかりに力を見せつけた後にアレコレ彼女にお願いをした。
志願した者以外の女を孕ませるな、戦争起こすな、法国と和平を結べなどなどだ。
女王は反論することもなく、メリエルのお願いという名の要求を聞き入れた。
他のエルフ達もメリエルが女王の手綱を握るということで納得し、だらだら続いた戦争は呆気なく終わりを迎えた。
もともと女王以外は法国と戦争する気はさらさらなく、どこからも反対は出なかった。
エルフの女王を真似て、アレコレと女を囲っていたエルフの貴族達はこっそりとメリエルに自分達も女王のようにしてほしい、と頭を下げてきたので、メリエルは同好の士として、彼らの願いを叶えてやった。
とはいえ、超位魔法を使っていてはさすがにもったいないので、アイテムとしての性別転換薬を飲ませたのだが。
そして、エルフの女王はメリエルが言った自分で強い子を孕めばいい、ということにピンときてしまったらしく、メリエルの子を産むと息巻いている。
そもそも種族が違うことからそうなる可能性自体が極低確率だが、そんなことは気にしてはいない。
そういった事情に加えて、エルフ達への支援も多々ある。
最大の目玉は法国に捕まって売り飛ばされたエルフ達を取り戻すことだ。
とはいえ、いちいち商人やら何やらを通じて、買い取った連中と交渉するのも面倒くさいし、金塊は創り出せるといっても、それもまた手間がかかる。
ならば、魔法を使えばいい、ということでメリエルが指輪をはめて、ウィッシュ・アポン・ア・スターでもって、自らの意志で出ていった者やナザリックで保護している者以外のエルフを例外なく全員強制的にあらゆる傷や後遺症を完全に治癒させた上で転移せよ、と願った結果、それはその通りに叶った。
「流れ星の指輪《シューティングスター》、いいなぁ、なんでそんなに引き当てているんですか……」
「使った金額、聞きたい?」
「……聞かなかったことにします。というか、それ使えば何かあったときは全部解決できますよね」
「そういう物事に対して、願いが効くかわからないわよ」
メリエルの言葉にモモンガももっともだ、と頷く。
いくらメリエルがそれなりの数の指輪を持っているとはいえ、無駄に消費して良いものではない。
「今回のことでエルフの反応はどうでした?」
「一言で言うと、私が神に祀り上げられた。あと目撃した法国の連中も新たな神とするかどうか、ひそひそ話してた」
モモンガは大爆笑した。
しかし、すぐに精神沈静化が働いてしまった。
「宗教を作るのもいいですね。私は勘弁してほしいですが、メリエルさんはそういうの似合いそうです」
「まあ……そうね、行きすぎない程度のほどほどに狂った信者とかならいいかもしれないけど。あとさらっと自分はイヤって主張してるってどういうこと?」
「知りません、聞こえません」
両耳のあった部分を両手で押さえてみせるモモンガにメリエルは軽く溜息を吐き、話題を変える。
「これで法国とエルフはウチについた。帝国も遠からず、王国は近いうちに……ああ、それとダークエルフの集落もあるみたいだから、ついでにデミウルゴスを送っておいた。事後承諾だけど、引き入れていいわよね?」
「構いませんよ。デミウルゴスなら安心ですね。ところでそろそろいい加減、国名を決めませんか?」
「幾つか候補はあったわね……」
アインズ・ウール・ゴウン魔導国、アインズ・ウール・ゴウン連邦、モモンガ王国などなどだ。
「かっこよくて、すごいのが良いわね」
「やはりダーク・ウォーリアー帝国というのが」
「それはない」
メリエルに一刀両断され、モモンガは悲しみを覚えたが、精神沈静化により落ち着いた。
「冷静に考えて、アインズ・ウール・ゴウン魔導国ですかね?」
「うちの体制的に魔導帝国のほうがよくない?」
「すると私は皇帝ですか……」
「皇帝陛下とか呼ばれるの?」
メリエルの問いかけに、モモンガはそう呼ばれる自分を想像して、即座に精神沈静化が働いた。
「無理です。耐えられません」
「大変ねー」
他人事なメリエルにモモンガは無言で拳を振るうが、所詮は魔法詠唱者の拳。
ひらりとメリエルは回避してしまう。
「魔導国にしてください。それなら皇帝陛下と呼ばれるのを回避できるので」
「あんまり回避できそうにない気もするわよ。絶対、なんかやばい呼び方してくるって」
「ですよねー……まあ、そこは諦めるしかないでしょう」
「じゃあ、魔導国にするってメッセージで関係各所に伝えとくわ」
「お願いします。しかし、国を持つなんて、戦略ゲーくらいでしかやったことないですよ」
「私だってないわよ。っていうか、戦略ゲーだと大抵は国を持って、ある程度の基盤ができちゃうと後は消化試合でつまんないのよね」
「どうせなら、どこまで発展できるかに楽しみを見出しますか?」
「面白そうね。高層ビルが立ち並ぶ自分の領土から一歩出たら、中世のままの街っていうのも、よく戦略ゲーであったわね。ああ、でも、リアルのように荒廃はさせたくないから、難しいところ……」
呑気な2人であった。
「……メリエル様って、あんなに強かったのね」
ヒルマは何度目になるか分からない言葉を紡いだ。
観戦気分でついていったら、世界を滅ぼせる魔王を目撃してしまった、というのがヒルマの感想だ。
既にそれなりの日数が経っているにも関わらず、ヒルマ達はこんな調子だった。
「いや、私もまさか月を落としたり、太陽を落としたりまでできるとは思わなかった。ていうか、最後にはなんかもっとヤバイのを見た」
メリエル様やべぇ、とクレマンティーヌ。
「帝国のフールーダは足元にも及びませんわ……そしてきっと、モモンガ様も同じことを……」
レイナースの言葉に頷く2人。
とはいえ、実際のところ、メリエルもモモンガも覚えている殲滅魔法系の種類は少ない。
そういった魔法が専門のワールド・ディザスターと比較すれば悲しくなるレベルだ。
だが、そんな裏事情をヒルマ達は全く知らないが為、とにかくヤバイという感想しか出てこない。
「別にだからといって何かというわけでもないのだけど」
ヒルマの続けた言葉もこれまたいつも通りだった。
要するにメリエルの強さが再確認されたところで、ヒルマ達にとっては何も問題はない。
生殺与奪権を握られているのは今更の話であるし、それで恐怖を覚えるようなウブな心はとうの昔に消えてなくなっている。
要するに、メリエルがアレコレ動き回っている為に構ってくれなくて暇で仕方がないから、お喋りしようというそんな程度なのだ。
「法国があっさりと落ちて、エルフも落ちて、ダークエルフも近いうちに落ちるみたいよ」
ヒルマの告げた、ダークエルフという単語にクレマンティーヌとレイナースは驚きを露わにする。
「どっかに隠居しているって話だったけど、そいつらとも?」
「私、ここにきて初めてダークエルフを見ましたわ。そんなにも稀少であるのに」
2人の言葉にヒルマは簡単よ、と告げる。
「要するにメリエル様がダークエルフを欲しいって思ったのでしょう。自分の欲望にとても素直だから」
デミウルゴスは非常に機嫌が良かった。
ひとえにそれはダークエルフとの交渉――先方は国家を名乗っていたが、エルフと比較するとその個体数は少なかった――が極めてスムーズに進んだからだ。
ダークエルフの女王は民族の再興を夢見ているらしく、こちらの武力を提示したところ、あっさりとナザリックの軍門に降ると承諾したのだ。
勿論、デミウルゴスは嘘は言っていない。
そもそもメリエルが彼に頼んだ内容がダークエルフをモノにしたい、繁栄させたい、なんとかして、というものだ。
物凄い大雑把な内容だが、デミウルゴスからすれば十分な命令だ。
とはいえ、そのメリエルを実際に見たい、という要望がダークエルフ側からあった為にデミウルゴスは返答を保留にし、一度、ナザリックに戻ってきた。
メリエルに進捗報告と許可をもらうためだ。
デミウルゴスはメリエルの私室を訪れると、メリエルはソファに座って何やら本を読んでいた。
不敬を承知で彼が素早くその題名を読めば、八欲王について、と書かれていた。
「読書中のところ、申し訳ありません」
「構わないわ。法国からもらったお伽噺みたいなもので、どうせ暇つぶしだもの。それで首尾は?」
「上々です。ダークエルフ側はこちらの条件を全て呑むとのこと……ただ、メリエル様に拝謁を願っておりまして」
「問題ないわ。私もダークエルフに会ってみたいから」
それで、とメリエルは続ける。
「デミウルゴス、私は次、何を欲しいと思っているか、分かるかしら?」
試すように笑みを浮かべ、メリエルは問いかけてきた。
デミウルゴスもまた、その問いに笑みを浮かべて答える。
「聖王国……ですか」
「正解。まあ、そこの聖王とやらが女って聞いたからっていうのもあるけど」
本当に欲望に素直な御方だ、とデミウルゴスは感心してしまう。
モモンガ様ももっと我欲を出していただければ、と彼は歯がゆい思いだ。
「海への出入り口を抑えることは巨万の富を得るに等しい。聖王国と王国、そして法国。無論、帝国も。これらを押さえ、富国強兵を」
デミウルゴスには瞬時に理解できる。
現状のナザリックの力だけでは不足だとメリエル様は仰られている、と。
デミウルゴスはシモベとして、力不足に絶望したくなるが、それを見透かしたようにメリエルは告げる。
「あなた達が絶望する必要はないわ。さすがに世界征服となると、純粋に人数が足りないから。重要な部分は私が作るホムンクルスを充てるとはいえ、さすがに辺境の村の役所にまで送り込むのはちょっと無理がある。といっても、ホムンクルスは燃費が悪いから大量に作るとアレコレ問題があるけど、そこはなんとかできるでしょう」
「メリエル様のホムンクルス達は大変優秀とお聞きしております」
「そうあれかし、と私が作ってるからね。それはさておき、現地住民も使う必要が出てきたわ。以前、あなたはスクロールの作成のために牧場を作ろうとしていたじゃない?」
デミウルゴスはピンときた。
「どうせ、あなたのことだから、GOサインが出ればすぐにでも取り掛かれる程度に下準備は済んでいたりするんでしょう?」
その言葉に、デミウルゴスは体が震えた。
命令が下れば即座に実行に移せることを見抜かれていたことと、牧場の使用用途だ。
無論、それに使用する人間の調達先である聖王国も調査を以前より進めていた。
「……流石はメリエル様。そこまで見抜いた上で、そのお考えですか……」
「優秀であればあるほど、分かりやすいものよ。答え合わせといきましょうか? 人間牧場を作って、そこで生まれた子供を教育して適性に合わせて行政官なり何なりに使う。どうかしら?」
「同じです。ただ私の場合はエルフなどの、人間以外の種族も考えておりました。魔導国の方針として、そちらのほうが良いかと」
「それが可能なら良いわね。ただエルフとかは同族意識が強い可能性があるから、そこが気がかりね。まあこんなことしなくても、普通に国家方針として産めよ増やせよを実行すればいいんだけどね」
メリエルの言葉にデミウルゴスは告げる。
「ご安心を。いなくなっても困らない連中を使いますので」
「任せたわ。迅速に進めて。ただ、視察は私もちょくちょくさせてもらうわ。意味合いは簡単に理解できると思うけど」
「さすがに家畜となった雌をメリエル様にご提供するのは心が痛むのですが……」
「そこが良いのよ。まあ、よろしくね」
「畏まりました」
「ところでデミウルゴス、他にも頼みたいのだけど」
「何なりと」
「私って生殖可能なのかどうか、アルベドに聞いといて。淫魔の本能とかでたぶん分かるでしょうきっと」
デミウルゴスは石化の状態異常を食らったかのように固まった。
たっぷりと30秒くらいかけて、彼は再起動を果たして、数回、瞬きをした。
「その、ええと、はい、分かりました。生殖可能かどうか、ですね」
「ええ、それと、妻は当然として、夫もいたほうがいいか、相談してきて」
畏まりました、とデミウルゴスは答えて、メリエルの私室を出た。
デミウルゴスはメリエルの私室を出ると、すぐさまアルベドに
そして、アルベドの執務室に足早へと向かうと、彼女は緊張した面持ちでデミウルゴスを出迎えた。
「デミウルゴス、至急の要件と聞いたけれど……」
「メリエル様に尋ねられたことがあります」
デミウルゴスもまた緊張した表情で言葉を紡ぐ。
「アルベド、淫魔である貴女に問いかけます。メリエル様は生殖が可能ですか?」
問いに、アルベドは目をぱちくりとし、デミウルゴスの顔をまじまじと見た。
予想していた質問と180度ほど違うものが飛んできた為だ。
とはいえ、愛するメリエルからの質問にアルベドはしっかりと答える。
「可能よ。勿論、モモンガ様も人化のアイテムを使えば可能」
「問題点は?」
デミウルゴスの問いにアルベドは軽く息を吐いて告げる。
「デキる確率が極めて低いわ。アンデッドであるモモンガ様は当然といえば当然であるけれど」
「メリエル様はアンデッドではありませんが」
「あの御方は単体で完成されているのよ。基本的に子孫を残す必要性がない。だから、メリエル様にとって誰かを抱くことは娯楽なのよ」
「しかし、ゼロではない、と?」
「ええ、ゼロではないわ。それは間違いはない。私の淫魔としての本能がそう囁いているわ。あなたの配下の淫魔達もきっと同じことを言うわ」
なるほど、とデミウルゴスは頷きながら、次の質問を紡ぐ。
「メリエル様から、妻だけでなく、夫もいたほうが良いか、とご質問が……」
「メリエル様の貞操を男に渡すのは妻として許せませんね」
「そこもですか?」
デミウルゴスは妻として、というアルベドの発言を聞かなかったことにして、問いかけた。
「当然よ。なんなら私が生やしてもいいわ」
「だが、待ってほしいのですよ、アルベド。メリエル様のご質問の意図、それはすなわち、夫を望まれているのではないですか?」
そのときアルベドに電撃が走る。
「……た、確かに、メリエル様の嗜好には男……ただし、可愛い見た目の男の子も守備範囲に入っていたとソリュシャンから報告があったわ」
「その手の奴隷をメリエル様は王国でお買いになられていた記録があったはず……」
「もしや、メリエル様はマーレを夫にしようと……!」
それは案外良い案だな、とデミウルゴスは思う。
とはいえ、最善は別にある。
ついでとばかりに彼は尋ねてみる。
「メリエル様とアインズ様が結ばれることが、私としては良いと思うのですが」
「それは無理ね。私は以前、2人にそれとなくお聞きしたことがあるけど、どっちも絶対にイヤだ、と断固拒否されていたわ」
「なるほど……とすると、既にモモンガ様には意中のお相手が?」
「そのことだけど、メリエル様からご相談があったわ。モモンガ様の妃となる相手について……」
「お世継ぎは極論を言ってしまえば必要ないと言えますが……ですが、やはり……」
「ええ、モモンガ様にもぜひともお世継ぎを……そのことに関してはメリエル様から既に指示が出ているの。色々と私の方で手配しているわ」
「なるほど、流石はメリエル様。私にも何か、手伝えそうなことがあれば是非とも手伝わせていただきたい」
デミウルゴスの言葉にアルベドは力強く頷く。
「メリエル様はプレアデスのユリ・アルファが相応しいと、そう思われているわ」
あ、なんかすごい嫌な予感がした。逃げ道を塞がれているというか、そんな感じで――
モモンガは周囲を見回してみるが、何も変わりはない。
「気のせい、か……?」
執務室には今、モモンガ以外は誰もいない。
そもそも、ナザリックの警備は万全と言っても過言ではなく、十重二十重にも張り巡らせられているシモベ達の警戒網を掻い潜って、彼の執務室に辿り着くことは不可能だ。
「疲れでも溜まっているのかなぁ」
エ・ランテルで漆黒のモモンとして活動しつつ、その合間にナザリックの支配者としてアレコレとやっている、いわゆる二足の草鞋を履いている状態だ。
もっとも、冒険者の階級としては、ちまちまやるのに面倒くさくなったので、エ・ランテル近郊に適当に現地住民では太刀打ちできないモンスターを沸かせて、ある程度被害を出したところで、モモンとして討伐するという見事なマッチポンプを行っている。
その為、つい先日、冒険者としては最高峰のアダマンタイトに昇格したが、大した感慨はない。
これまでのことを振り返れば、なんだかんだで休む暇がなかったようにモモンガは思えてきた。
こういうときは人化のアイテムでも使って、美味しいものでも食べるか、と彼は考えた。
今日の当番である一般メイドに
「シュークリーム、美味いよなぁ」
最近、ハマっているものはシュークリームだ。
メリエルに教えてもらったものだが、これが非常に美味しく、彼は天国を味わった。
「人類は意外と軽くいけそうだけど、問題は外なんだよな……」
ビーストマンは勿論、ドワーフやら竜やらと世界征服の為の問題は山積みだ。
対話ができない連中ならメリエルを投げてぶつけてやれば終わることだが、なるべく恨みは買いたくないというのがモモンガの正直なところだ。
恨みを買うと、その後の統治に影響がある。
そこをつけこまれて、反乱が祭りのように始まるというのは勘弁してほしいところだ。
大陸中央にあるという六大国――それらは亜人国家であり、情報によるとビーストマンやらミノタウロス、トロールなどで、これらは強硬的な手段でなければ無理であるという可能性が高い。
「人間の国はメリエルさんが担当しているけど、中々上手くいっているなぁ」
いくら営業職であっても、さすがに皇帝やら宗教国家の首脳陣やらとの会談や交渉、それらは極めて政治色の強い話であって、モモンガとしても全くの未経験だ。
メリエルに任せたのは正解だったと彼は思う。
「リアルでのことは詮索しないっていうのがルールだけど、やっぱり気になるよなぁ」
モモンガからすると、メリエルというのは何をやらせてもそつなくこなす、そんな印象だ。
性格的なものに目をつぶれば、だが。
そんなメリエルからはホムンクルスを使用したある計画がメリエルから聞かされた。
計画内容に、モモンガとしてもメリエルが何をやっていた人なのか、非常に気になった。
計画はンフィーレア・バレアレに関するものであるが、実行されるのは王国が魔導国に併合された後の予定だ。
「企業の偉い人って言ってたけど……わからん」
分からないものは仕方がないので、いつか本人に聞こうと思いながら、直近の課題へと思考を向ける。
「今度のリザードマンとの戦いは、コキュートスに任せてみるけど、大丈夫だよな……?」
発見したはいいものの、メリエルがアレコレと騒動を引き起こしたり、冒険者としての活動に勤しんでいた為に後回しになっていた案件の一つだ。
コキュートスへ任せるとデミウルゴスやアルベドなどの守護者には伝えてあったものの、果たしてどう転ぶかは未知数だ。
「メリエルさんが悪いんだ。あんなに騒動を次から次へ……」
まあ、そこが楽しいんですけど、とモモンガは心の中で呟く。
そのとき、扉が叩かれた。
モモンガが許可をすると、そこにはメリエルがいた。
噂をすれば何とやら、という絶妙なタイミングでやってきた彼女に、騒動が楽しいと口に出さなくてよかった、と彼は安堵する。
それを聞かれでもしたら、モモンガの平穏は次元の彼方にすっ飛んでしまう。
そんなモモンガの心境とは裏腹に、何やらメリエルは真剣な面持ちだ。
「どうしたんですか?」
「いや、竜と敵対したら、まずいかなって」
「えぇ……?」
モモンガは困惑した。
しかし、彼もメリエルとは長い付き合いだ。
どういった経緯でそうなったのか、理由を尋ねてみた。
「それで、何の理由で?」
「法国からもらった情報、八欲王でちょっと引っかかってね……あのとき、ログインはしていなかったから、連中ではないと思うけど」
「……ワールドチャンピオンですか? たっちさんを除いた8人」
「そうよ。まあ大丈夫だと思うけど」
「確か、元々この世界にあった始原魔法というものを使えた竜王達が八欲王を1人倒すのに最低10体は倒されたと聞いていますが……」
「その始原魔法が超位魔法クラスを連発できるようなものならちょっとヤバイのよね。竜王の強さが分からない以上、仮定に仮定を重ねてしまう話だけども。あるいは何か、ユグドラシルによくいたボスみたいに、こっちの防御を無視してダメージを与えてくるとかありえるし」
いつになく真剣にそう話すメリエルにモモンガもまた、その可能性がありえると判断する。
「常に最悪を想定しろ、現実はその斜め上をいく、とはぷにっと萌えさんの言葉でしたっけ」
「そうなのよ。もし最悪に最悪を想定すると……ヤバイわ」
「なるべく対話をしましょう。ただ、本当に、敵対するしかなくなってしまったときは……」
「短期決戦ね。向こうが油断してくれれば一気に隙きを突けると思うけど、もし油断しなかったら……」
「長期戦を挑んで勝算はありますか?」
「個体数にもよるけど、ユグドラシルのボスと同程度と想定すると、長期戦は微妙なところね。ただゲームとは違うから、敵が食事や睡眠など、そういったものを必要とするなら長期戦の方が勝率はあるかも」
モモンガは頷き、告げる。
「デミウルゴスとアルベドを呼び、知恵を借りましょう」
「ええ、そうしましょう」
モモンガがデミウルゴスとアルベドに重大案件だと伝え、すぐに執務室まで来るようにと伝えると、それから5分と経たずに彼らはやってきた。
2人は平伏したところで、モモンガは口を開く。
「アルベド、デミウルゴス、よく来てくれた。前置きは抜きにし、率直に結論だけ言わせてもらおう。竜王達は私やメリエルさんでも手を焼く可能性がある」
思わずに平伏していた2人は顔を上げた。
その表情は滅多に見られるものではなく、驚きに満ちたものだ。
かなりレアな顔だな、とモモンガは思いつつ、メリエルへと視線を向ける。
視線を受け、メリエルは告げる。
「さっきデミウルゴスが来たときに読んでた本だけど、これ、法国から貰ってきた八欲王について書かれたものでね。最悪の予想だと八欲王がワールドチャンピオンの8人で、最低でも竜王10匹がワールドチャンピオン1人に匹敵すると仮定して欲しい。戦いに参加した竜王は滅んだとは聞いているけど、逆に言えば、戦いに参加しなかった連中が生き残っている可能性が高い」
メリエルはそこで一度言葉を切り、少しの間をおいて更に言葉を紡ぐ。
「以前、私はアルベドと話をしたときに、人類の勢力圏外にも我々に匹敵する者はいないと判断したけど、今は状況が変わった。もしかしたら、より強力な者が存在する可能性があると想定しておいてほしい」
「恐れながらメリエル様。八欲王については数百年も前のことであり、法国が持っていた情報については精度が疑わしい可能性もあります」
デミウルゴスの言葉にメリエルは頷いて肯定する。
「だからこそよ、デミウルゴスにアルベド。もう理解できているとは思うけど」
え――?
モモンガはメリエルの横顔をまじまじと見た。
「あー、メリエルさん。一応、念の為に確認として口頭で教えてほしいんですけど。もしかしたら、すれ違いが発生するかもしれませんし」
「簡単よ。両面作戦」
いや分かりません、とモモンガは内心、メリエルに抗議した。
その間にデミウルゴスが口を開く。
「情報の精査及びさらなる情報収集・分析をしつつ、ナザリックの戦力の拡充及び強化ですね?」
あー、なるほど、確かに両面作戦だとモモンガは納得した。
「そういうことよ。情報関連についてはデミウルゴスに、ナザリックの戦力の拡充と強化に関してはアルベドに任せたいと思う。無論、各々が必要とする人員や装備、アイテムなどその他一切は最優先で回したい。不足する場合は私が出す。モモンガ、どうかしら?」
「ええ、それでいきましょう。ただ、戦力の強化については各階層守護者達のより高度で柔軟な連携も含めましょう」
「つまり、チームプレイ?」
「そうです。おそらく、守護者達は1体の敵に協力して連携し、戦うことができません」
そんなことは、とアルベドが言いかけるが、モモンガは即座に問いかける。
お前達に、メリエルさんと戦った世界連合軍のような連携行動ができるか、と。
アルベドもデミウルゴスも押し黙った。
2人とも、かつてのメリエルが世界と戦った際の映像は何回も繰り返しに見ている。
それ故に、彼らの頭脳は瞬時に結論が出てしまう。
あれほどに強固な連携は現時点では不可能だと。
「まあ、敵にはたっち・みーとかウルベルトとかいたし、さらっとモモンガも交じってたし、ぷにっと萌えとか他にも何人かいたんだけどね。私としても、守護者達や他の意思疎通できるシモベ達には、あれくらいの連携を求めたい」
とてつもない要求にデミウルゴスとアルベドは恐ろしくなった。
その要求を達成できるかどうか、分からないからだ。
モモンガはメリエルの要求はさすがにやりすぎだ、と思い、口を開く。
「お前達はまだ成長途上だ。可能性は無限にある。私もメリエルさんもお前達がどこまで成長するか、とても楽しみだ。そうだな、もっと単刀直入に言えば私達にとってお前達は必要不可欠の存在だ。だから、失敗を恐れず挑戦し、頑張ってほしい」
「そういうことよ。今は大いに失敗しなさい。世界を吹っ飛ばせるような連中と戦うまでに仕上げておけばいいのよ」
メリエルとモモンガにそう言われ、デミウルゴスとアルベドは神妙な顔で頷いた。
デミウルゴスもアルベドも喜びや悔しさで感情がごちゃまぜだった。
モモンガの執務室を出て既に10分は経とうかというのに、感情は全く収まらない。
成長を期待している、必要不可欠と言われたことへの喜び。
連携行動を取れないこと、ナザリックの戦力不足に対する悔しさ。
だが、2人に立ち止まっている暇はない。
「私はこの後、聖王国に向かいます。同時に、先程の件の情報収集を効率的に行う組織の構築を始めます」
「私は、ナザリックにおける戦力の拡充と発展を行うわ。手の空いている守護者達に連携を……」
「おそらく、モモンガ様もメリエル様も、だからこそ、今の今まで、あえてリザードマンへの行動を遅らせていた可能性があります」
コキュートスを指揮官とし、リザードマンへの軍事行動を行う。
単身で乗り込むというのは不可だが、それ以外ならば全てコキュートスに一任する、というのがモモンガから伝えられていたことであったが、それは連携を見る為であったからではないかと。
コキュートスが軍勢を率いてリザードマンを攻略すれば良し、もしコキュートスが他の守護者に助力を願った場合、それもまた守護者同士の連携を見ることができるために問題はない。
つまり、コキュートスがどう動こうとも最終的には確実に成功する上、ナザリックの利益に繋がるという道しかない。
「流石はモモンガ様、メリエル様……そのような方々が我々を必要不可欠と仰られたわ」
全身で歓喜を表現し、黒い羽根がバタバタと忙しなく動くアルベド。
「だからこそ、我らはそのご期待に応えねばなりません。迅速に、抜かりなく進めましょう」